マジシャンズ / 奪われたロストロギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第十話「戦いの後、偉大なる脅威」

 

 

 

高町なのはにとって、ミッドチルダや地球といった慣れ親しんだ地と離れた世界の調査は、初めてではなかった。

 

闇の書事件後、危険なロストロギアの調査や封印、危険な原生生物との戦いなども繰り広げてきたし、〝自分が墜落してから〟は、リハビリを終え、主治医であるシャマルからも完治した太鼓判をもらってからは、再び次元航行部隊で別の世界での任務にも参加していた。

 

そのため、今回のジュエルシードに関する外縁世界での任務に対しても、緊張だとか、特段気を張るような……心を強ばらせるような感覚はなかった。決して油断をしていたわけではない。場慣れというべきだろうか?そういった環境に慣れていたことも確かにあった。

 

ただ、今回の任務……とくにこの世界の異常さにすぐ気づくことになった。

 

次元跳躍(ディメンション・ジャンパー)という管理局でも前代未聞な移動方法でたどり着いたこの世界でまず目にしたのは、現地民と、おそらくジュエルシードを狙う敵組織の人間の戦いだった。

 

ポイント・エイトに存在する第六外縁世界「ヘンリー・ヴァンダー」への突入前。

 

コントロールを担っていたはやてとリインフォース・ツヴァイから、おそらく自分たちは戦闘中の現地に飛び込むことになるとは聞かされていたが、まさか本当に激闘のど真ん中に降りるとは予想外も良いところだった。

 

しかも、問題はそれだけじゃない。

 

現地に到着してから判明したが、この世界でレイジングハートや、フェイトのバルディッシュ、はやての夜天の書を行使しようとすると大きな制限が掛かることが判明したのだ。

 

デバイスの展開や、近接戦は問題ないのだが、砲撃魔法や魔力スフィアを生成しようとした途端に魔力出力が安定しなくなる。

 

砲撃魔法についてはチャージなしであれば発射可能。しかし、そのあと多少のクールダウンをさせないと、オーバーロード状態になることも確認している。

 

現地民の活躍で敵は撤退したのだが……なのはやフェイトは、何もできなかった現実に多少なりともショックを受けていた。

 

これまで多くの困難をなんとかしてきた。ジュエルシードに闇の書。目覚める直前となったロストロギアを封印したことも幾度とあった。しかし、そんな経験があっても、魔法が使えなければこうも太刀打ちできないものなのか。

 

現地民に助けられるどころか、その戦う姿を見ていることしかできないことになるとは、ここに辿り着くまで思いもしていなかった。

 

しかし現実は、打ちのめされるようなショックに浸る時間も与えてくれない。

 

「アンタたち、管理局の人間を探してるんだろう?……敵対しないっていうなら、案内してやる」

 

敵を撃退した現地民の案内で、すぐ近くにあった建物へと案内された三人は、そこで自分たちが探していた相手と再会を果たすことになった。

 

「改めて、時空管理局のファーン・コラードです」

 

「救援に来ました八神はやてです」

 

屋根の一部がごっそりになくなった施設の中で、今回のジュエルシード輸送の指揮を任されていたファーンは、三人の中で最も立場が上のはやてとそう挨拶を交わし握手する。

 

組織的にはやては二人の指揮官としての役割も持っていて、こうやって指揮官から挨拶を受ける場合は基本的にはやてが、次点で執務官であるフェイトが窓口となっていた。

 

簡単に挨拶を交わすと、ファーンは久々に会うなのはとフェイトに向いて小さく頭を下げた。

 

「お久しぶりですね、お二人とも」

 

ファーン・コラード。

 

彼女は時空管理局の第四訓練校学長であり、階級は一佐だ。

 

実は、なのはやフェイトも訓練校時代にファーンからの指導を受けていて、彼女自身も本局の戦技教導隊に所属していた経験があった。二人が指導を受けていた時点で、魔導師ランクはAAだったのだが、指導期間に行われた模擬戦でなのはたちは彼女に勝利したことはなかった。

 

それどころか、なのはとフェイトの二人がかりを一人で倒したこともある。その戦い方は魔法資質に頼ったものではなく、経験と戦術に重きを置いたもので、二人は幾度となくファーンの立てた戦闘スタイルの前に敗北を喫したのだ。

 

その経験もあったから、彼女がジュエルシード輸送の指揮官に任命されたと聞いて、不安感などはなかったのだが……彼女の怪我を見て、それが甘い考えだったとすぐに自覚することになった。

 

「はい、コラード教官も……」

 

なのはとフェイトが、ファーンの片腕を見て悲しげに顔を曇らせる。指導を受けていたとき、彼女が怪我をしている姿など見たことがなかったし、確かな強さを持っていたと思っていた。そんな彼女が怪我負う。

 

魔法が満足に使えない。

 

それに加えて、ファーン・コラードが怪我を負っているという現実が、二人の心に重くのしかかった。しかしファーンは大丈夫と笑みを見せた。

 

「情けない話ですが、でも命に別状はありませんよ。貴女達が来てくれて正直安心もしています」

 

そんなファーンとのやりとりをこっそりと見ている三人。彼女たちはファーン・コラードが指導する訓練生たちの中でも選りすぐりの人材だった。

 

エリッサ・ハートライナーとクラリス・ハートライナーは、その魔力資質と〝姉妹である〟という点から素晴らしいコンビネーションを持ち味にして、学園内でも上位の成績を収めており、エリッサに関しては先日、学年首席という地位を手にしたばかりだった。

 

そんな二人であるが、実のところ現状をよく把握できていない。それもそのはずで、エリッサとクラリスはついさっきまでこの拠点の寝室で眠っていたのだ。

 

いち早く目覚めた他のメンバーたちと違い、先ほどの戦闘の余波で屋根が吹き飛んだ時の衝撃音で叩き起こされていて、状況もレイカやメリーから聞いただけ……ということもあり、いまいち緊迫感に欠けていた。

 

「ねぇ、お姉ちゃん。あの三人って」

 

「高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやて。今の管理局で1番有名な魔法少女達と言っても過言じゃないわね」

 

物珍しげにファーンと話すなのはたちを見ていたクラリスは、姉であるエリッサの言葉になるほどと頷く。

 

なのは達は訓練学校でも大いに有名だ。

 

特に高町なのはは、まだ魔法に触れてわずかな期間だというのに、ジュエルシードと闇の書という二つのロストロギアの事件解決に貢献している点から、天賦の才を持つものとして神聖視する者もいるほどだった。

 

「まさかこんなことになって、本物に会えるとは思わなかったね、お姉ちゃん」

 

「私から見れば、完全に厄介ごとに巻き込んでしまって申し訳なさすらあるんだけど?」

 

はしゃぐ妹と頭を抱える姉。そんな様子を横目で見つつ、メリー・ダグマイアはなのはたちへ視線を移す。この任務で結果を出して、評価を受けるというメリーの目論見は、完全に水の泡となった。横にいる楽観視姉妹とは違い、メリーは現状の不味さをよく理解していた。

 

デバイス……つまり、魔法が使えない環境下でやれることなど限られる。そんな中で自分達に何ができるのか?そんな不安がメリーの中には渦巻いていたし、何よりも自分達が無事にここから脱出できるかすらも不透明だ。

 

「紹介するわね、私の教え子で今回の輸送任務で護衛役を務めている子達よ」

 

そんなら不安をよそに、ファーンがなのはたちを連れてエリッサ達の元へとやってきた。三人が頭を下げて挨拶をすると、先に前に出たのはエリッサだった。

 

「エリッサ・ハートライナーです。それと……」

 

「妹のクラリス・ハートライナーです」

 

ハートライナー姉妹の名は、なのはたちも聞いてはいる。訓練学校でも有名な姉妹だ。攻める姉とサポートする妹。うまく帳尻が取れているといった形で、成績も優秀。とくに姉は、S2Uの発展型である杖型のストレージデバイス、MZ03 ライズロッドを扱うことに長けていた。

 

メリー・ダグマイアは専用の薙刀状のアームドデバイス、ディアネイルを所持している。

 

このディアネイルの形状は、彼女の生家である歴代ダグマイア家の魔導師が扱ってきたものであり、通常時は片手に収まるほどの長さであるが、その柄は約30〜180cm、時にはそれ以上に伸縮させることができるため、近距離、中距離における格闘術で破格の性能を発揮することができた。

 

そのため、近接格闘術においてはエリッサやクラリスよりもメリーが優れているものの、そのほかの魔法資質の部分での僅差で、彼女は次席という立ち位置となっていて、それがメリーの内心にくすぶる焦りにも繋がっていた。

 

「……メリー・ダグマイアです。よろしくお願いします」

 

「高町なのはです。よろしくお願いします!」

 

複雑な表情をしているメリーに人懐っこい笑みを向けて言葉を交わすなのは。その距離のつめ方にメリーやエリアたちもたじたじになっている。それを眺めつつ、それぞれの状況が確認できたところで、部外者であるサガミが声かけた。

 

「さて、それぞれの自己紹介と立ち位置はわかったようだから口を挟むが……アンタたち、これからどうするんだ?」

 

スイーパーであるサガミは愛剣のドワーズを背に掛けたまま腕を組んで新たにやってきたなのはたちや、自分が救助したファーンやメリーたちを見渡す。

 

「私達は、ジュエルシードを管理局の管轄区域まで護衛するために派遣されました。なので、すみやかにこの世界から離脱し、撤退しようと考えています」

 

「まぁ、当然の対応だな。だが、問題は多いぞ?」

 

「問題?」

 

応じたフェイトは首を傾げる。目的のものはファーンが持つ専用ケースに入れられたジュエルシードだ。もとはこのヘンリー・ヴァンダーを拠点として、行方不明となった彼女らを捜索するという計画だったのが、到着と同時に捜索対象だったファーンたちを見つけることができたのが幸運だった。

 

あとは長距離連絡なりをして、このヘンリー・ヴァンダーに転送用ポータルを敷設すれば、帰りのルートは確保できる。特段トラブルもなく任務を終えて帰れると思っていたなのはたちは、サガミの言葉に首を傾げる。

 

どう説明したもんかとサガミは顔を上げる。吹き飛んだ屋根からは青白くなった空が見えていた。

 

「ここじゃあゆっくり話はできそうにないな。屋根が吹っ飛んじまった」

 

『サガミ。スイーパー・ギルドからだ。急なレスキュー要請で叩き起こされたクロフォードがカンカンだぞ』

 

「わかってる。船の手配を頼む」

 

『もうやってる』

 

背中にいる愛剣からの人口声帯から発せられる言葉にそう返しつつ、サガミは「場所を変えよう」となのはたち全員を連れて半壊した拠点から出た。

 

「バルディオさん。どこへ向かうのですか?」

 

「続きは船の中で話す。それと、ひとまずアンタたちをギルドに連れて行く」

 

ここまで事が大きくなったし、拠点の屋根は吹き飛んでしまったし、あの「騎士団」たちのこともある。事情を聞いて、はいそうですかとなのはたちを野放しにできるほど、ギルドの管理体制は甘くはない。なので今回の事情も含め、一度なのはたちをスイーパー・ギルドに連れて行く必要があったのだ。

 

まぁ、サガミの立ち位置やギルドについても全く情報がないなのはたちからすれば、若干の困惑と不安はあっただろうが、それを考慮していると時間がいくらあっても足りなかった。

 

施設から出て、さきほどまでアルネストたちと戦いを繰り広げていた荒野へと出る。

 

すると後方から、一つの影が迫ってきた。

 

振り返るサガミは急ブレーキと旋回を織り交ぜたような機動で着陸しようとする愛機を見て思わず文句を垂れる。

 

「ドワーズ、そうビュンビュン飛ばすな」

 

『着陸する』

 

ジェットエンジンによって巻き上がった熱風が荒野を走り、なのはたたの顔を撫でる。ランディングアームを展開して垂直着陸をした船を見て、後ろにいたレイカが思わずと言った様子で声を上げた。

 

「これって……ストライクヴェクター輸送艇じゃない!」

 

あぁ、後期型だ、とサガミは興奮するレイカにそう答えた。

 

船の名は「リトルウイング号」。

 

レイカたちがこのヘンリー・ヴァンダーへやってくるために使ったランダー号も、サガミの乗るリトルウイング号と同じく、ストライクヴェクター輸送艇だった。もっと、レイカの船は前期型と呼ばれる型式で、サガミの船は後期型……いわゆる市場の声に応じて作られたマイナーチェンジモデルとなっていた。

 

「この世界じゃ飛行艇が必要不可欠でな。中古で買ったが性能は折り紙付きだ。あと色々カスタムもしている」

 

とりあえず乗ってくれと後部ハッチを開けて告げるサガミに、全員が従ってリトルウイング号へと乗り込む。貨物エリアを抜けると機体左右に並べられた搭乗員用のシートが並んでいた。全員がその席に座るのをパイロットシートから見ていたサガミは、前を向いてメインエンジンを点火する。

 

「全員シートベルトはつけたな?じゃあいくぞ。頼む、ドワーズ」

 

『リトルウイング号、発進』

 

コクピットモジュールに接続したドワーズの補助を受けて、リトルウイング号はジェットエンジンを吹かしてフワリと船体を浮き上がらせると、そのまま速度を上げて旋回し、遠く離れたリニアへとその舵を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

ヘンリー・ヴァンダー。

衛星軌道上。不可視領域内。

 

外部からのレーダー網から完全に消える事ができるその領域内に浮かぶのは、L-U級外縁次元探査艦「エンデュランス号」だ。元はファーンが指揮をとっていた艦であるが、現在は「アスレニア騎士団」によって、その指揮系統は奪われている。

 

すぐに退艦指示を出したこともあってエンデュランス号には致命的なダメージが与えられることはなかったものの、コントロールや艦の管制システムの全てが敵の手に落ちており、ジュエルシードを狙う騎士団にとってはまさに動く城でもあった。

 

「そうか、ジュエルシード……我らの魔石の奪還には失敗したか。アルネスト・エッセともあろう男が」

 

「はっ、申し訳ございません」

 

艦橋の艦長席を、まるで玉座とするようにその席に座る〝王〟は、後ろに騎士団長と側近二人を控えさせたまま、首を垂れるアルネスト・エッセより、ヘンリー・ヴァンダーで起こった事の顛末を聞いていた。

 

謝罪するアルネストに、王は気に止むことはないと言葉をかける。

 

「我は純粋に上級騎士(グランクロワ)と対等に打ち合った相手に驚いただけだ」

 

上級騎士(グランクロワ)は、アスレニア騎士団の中でもトップクラスの実力を有する騎士に与えやれる称号だ。魔石を宿す魔剣を振るい、敵を討つその力はまさに一騎当千。

 

下級騎士(シュバリエ)とは一線を画する実力を持つその騎士を……ましてや、〝副団長〟という地位に立つアルネストを退けられたことは、王にとっては完全に誤算であった。

 

「王様ー?どうするの?」

 

「スムーズな奪還はできなくはなったが、それでも奴らをこの世界に閉じ込めることはできた。あとはどうにでもなろう」

 

二つに結い上げた特徴的な青い髪を揺らす側近からの言葉に王は淡々とそう答える。すると、側近二人の間に立つ騎士団長、リリアナ・ハイデルヴァインが、そっと王へ進言する。

 

「では、計画通りに?」

 

「あぁ、リリアナ。我々の目的は変わらぬ。魔石の保護と管理。それが、我がアスレニア公国の役割であり、魔石騎士団の責務なのだからな」

 

亡国、アスレニア公国は古代ベルカの戦乱期に、その地でしか産出しない魔石を狙う大国の手によって滅ぼされた小さな国だった。民を、国を、世界を失っても流浪するその騎士団の拠り所は、もはや魔石という国の繁栄と滅びの象徴にしかない。

 

禁忌兵器の動力源,ロストロギアの素材ともなる天然自然の魔力素を豊富に含んだ魔石。それを適切に管理し、守護する事が、この騎士団の生まれた理由であり、存在意義でもあったのだから。

 

「部隊を再編し、再度襲撃を行いましょう。上級騎士はアルネストを隊長とし、スペイドとアイシスをつけます。問題ありませんね」

 

「待ってください!我らも同行を!」

 

団長の采配に不満の声を上げたのは、サガミにいいように倒された下級騎士(シュバリエ)たちだった。上級騎士に劣り、与えられた魔剣も低ランクのものであるが、彼らも魔剣を持つ騎士だ。片手間で倒されることになった事実が認められないこともわかる。だが、それが彼らを起用する理由にはならなかった。

 

「下級騎士(シュバリエ)では太刀打ちできない相手だったのだ。お前たちを連れて行っても役には立たん」

 

冷酷に告げた王の言葉に、下級騎士たちはグッと何かを堪える顔をして屈辱を晴らそうと意気込み、猛っていた心と言葉を飲んだ。王の言葉は絶対だ。下級騎士程度が意見していいものじゃない。推し黙った騎士たちを見て、王は「それに」と笑みを浮かべて言葉をこぼす。

 

「それに、上級騎士と立ち会った戦士に興味がある。シュテル、レヴィ、我に着いてきてくれるか?」

 

「もちろん!」

 

「どこにでも」

 

立ち上がった王は、魔石を宿す「エルシニアクロイツ」を手に取る。その後ろにいた側近、豪炎のシュテルと、雷光のレヴィもそれぞれに魔石を有した武具を手に取り、王へ敬意を払うよう掲げた。その言葉に頷き、王はエルシニアクロイツを掲げ、高らかに宣言する。

 

「では、次の奪還作戦、このディアーチェ・フォン・アスレニアも出陣する!」

 

 

 

 

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