マジシャンズ / 奪われたロストロギア 作:紅乃 晴@小説アカ
第十一話「賑わう街への路」
「まずこの世界の成り立ちから説明する」
バイオ燃料をエネルギー源としたジェットエンジンを元気に吹かして飛ぶリトルウイング号が安定高度に達したところで、サガミは操縦系統を自動操縦に切り替え、後ろの搭乗員用座席に座るなのはたちの方へと振り返った。
起きてきたレイカやファーン、そしてメリーたちにも説明してはいるが、あとから追加でやってきたなのはたち、そして目が覚めてなかったエリッサやクラリスもいるので、ここで改めてサガミはこの世界の「ルール」を説明することにした。
「まず、このヘンリー・ヴァンダーには古代に栄えたグランデリニア帝国が存在したんだ」
古代ベルカより遥か昔。この世界で栄えたグランデリニア帝国は、ヘンリー・ヴァンダーという世界の全てを手中に収め、栄華を極めていた。だが、その国は帝国制の腐敗と内部分裂によって滅びの道を歩んだ。血で血を洗う同族の潰し合いの結果、数多くの質量兵器や、生物兵器が投入され、この世界はぐちゃぐちゃになった。
「何が理由でそうなったのかは誰にもわからない。ただ一つ言えるのは、この世界を汚しに汚しきってグラデリニア帝国は滅んだ」
質量兵器、生物兵器による内部闘争の爪痕は、この世界を人が住めない場所にまで陥れた。それから長い長い年月が経った。自然の力とはまさに偉大であり、汚れきった大地はその毒を中和していき、生物兵器たちは独自の生態系を形成し、それぞれが星の命に従うように循環していった。
いつ頃から人が住めるまで自然が回復したのかは定かでは無い。噂ではこの地に最初に住み着いたのは古代ベルカの争いから逃れた異世界人であるとも言われている。
ただ、過去の出来事が残した傷が全て消えたわけじゃ無い。毒の中和と独自の生態系を築いた原生生物や植物の影響によって、この世界の魔力素が大きく作り替えられたのだ。
「……つまり、この世界において管理世界における一般的な魔法技術は使えないってことですか?」
おずおずと手を挙げてそういったはやてに、サガミは頷く。
「まぁ平たく言えばそうなるな。詳しい原理は知らないが」
この世界にも魔法の素となる魔力素は存在しているが、その濃度が他の管理世界と比べて濃いのだ。過去に管理局が調査したデータでは濃度は二倍以上。他の管理世界や管理外世界でも見られない破格の魔力素の濃度を誇っている。
そんな魔力素をデバイスが取り込んだ場合、戦闘時にレイジングハートやバルディッシュが見せたように、過剰な魔力素濃度によるオーバーロードやオーバーヒート状態になりやすくなるのだ。
ちなみにこれはデバイスだけに限らず、魔力素をエネルギー源とする動力源全てに類が及ぶため、船や車、管理局が用意する探査用のアイテム全てが機能不全に陥ることになった。
「やっぱりそれが原因で私の船は落ちたってわけね。はぁーあ、わかってはいるけど割とショックだわ」
だから、この世界を発見した管理局は積極的に世界の調査や介入をしなかったんだ、とサガミは項垂れるレイカの言葉の後にそう続けた。
ヘンリー・ヴァンダーを調査するために、バイオ燃料をエネルギー源とする機構を開発する費用を出し惜しんだわけだ。
「あ、あの。あまり気を落とさずに……」
「数年のカスタム費が全部パァよ」
ファーンが励ますものの、レイカは青い顔のままガックリと項垂れる。彼女の手がけたランダー号は、眼下を過ぎ去ってゆく荒野のどこかで船体の前方部を埋没させて沈黙している。
魔力を動力源としているエンジンは破損しているし、外装部品もダメ、そして通信機器や位置情報システムも沈黙しているので、船としての機能はほぼ全て使えなくなっている。
どれだけの費用をあの船に注ぎ込んだのかは定かではないが、一般的に考えて宇宙空間や大気圏内でも飛行可能な輸送機の金額は破格だ。それがスクラップ一歩手前になったのだから気を落とすのも仕方ないと言えた。
「……とりあえず目下の問題だが、まずこの世界において転送用のポータルを設けるのは相応の施設を設けないと無理だ。理由は言うまでもないだろ?」
先ほどサガミから聞いたように、この世界の魔力素は非常に不安定だ。濃い上に濃度も安定していない。魔力で構築された光刃が安定せずに揺らめくような現象を起こしていることが何よりの証拠だった。
そして転送装置は莫大な魔力を必要とする。安定していない魔力素を使うことも可能だろうが、それには魔力を安定させるための設備や機材が絶対的に必要になってくる。
「それに、たぶん、設置できたとしても座標が安定しないし、起動できる保証もないからなぁ」
「話を聞く限り、行きもかなり無茶苦茶なことしてるしな」
次元跳躍(ディメンション・ジャンパー)といったか……。指定した座標に人を文字通り〝跳ばす〟のだから、技術的に考えるとトンデモナイのだろうが、安全性をガン無視したその方法を聞いた時は、ファーンやメリーたちもなんとも言えない表情をしていた。
ちなみに、なのはたちの話では後発で追加人員が来るはずだったのだが、いくら待っても追加人員が送られてくる気配がなかった。次元跳躍の装置不具合か、それともこの世界の別のどこかに行ったのかは定かでは無いが……どうやら彼女ら以外の追加人員は期待できそうになかった。
それにたどり着いたとしても魔法が使えないので非常に困難な状況になるのは明白なわけだが。
「となると1番現実的な案は、なんとかこの星を脱出して、敵の手に落ちたエンデュランスを奪還して帰還するわけだけど……」
まさに完璧な案である。まぁ実現可能だった場合だが。言っておいて、そう発言したメリーが顔をしかめている。たしかに宇宙空間にさえ出てしまえばヘンリー・ヴァンダーの環境下という制約から解放されるので魔法が自由に扱えるようになるわけだが、その前に大きな問題があった。
「基本的に星を離脱できる性能を持った船は無いぞ」
「あるじゃない。私たちが今乗ってる船が」
そう言って自分たちが乗るサガミの船、リトルウイング号を指差すレイカだったが、サガミは首を横に振って言葉を続けた。
「こいつは大気圏内専用船だ。離脱するにしても外付けオプションがあるわけじゃない」
「この船も中古で買ったのよね?ならショップに行けばワンチャンあるんじゃない?」
「ショップは半年に一度くる交易船が開くんだよ。こんな僻地に常駐するメリットもないからな」
「ち、ちなみに次の販売時期は」
「まぁ早くて二ヶ月後ってところだな」
「に、二ヶ月……」
そう小さく言葉を繰り返して絶望したように顔を覆うはやて。
ヘンリー・ヴァンダーの移動手段は主に飛行艇での移動となるので、修理屋も存在してはいるが、あくまでその店で扱うのは大気圏用に調整された船ばかりだ。
レイカの言う通り、中古機を販売するショップが来れば、大気圏離脱用のオプションも手に入るかもしらないが、向こうも商売だ。利益が見込めないことには本気で動こうとはしないだろう。それに売りにくると言っても船の準備や積み込み、積み下ろし、その他諸々の準備も必要になってくる。
「サガミさん、ほんとになんともなりませんか?」
「無理なもんは無理だ。ショップの奴に連絡は取ってはみるが、相手も転々としてるからな。最低でもそれくらいはかかる」
「ですよね……」
二ヶ月は足止めが確定されているし、なにより敵もその期間をのんびり待ってくれるはずもなく。ジュエルシードを守りつつ、部品が揃うのを待つしか無い状況は、あまりにもコチラに分が悪い。
「アンタたちが守ろうとしてるものを奴らが狙っているのはわかるが……とにもかくにもスイーパー・ギルドにいってからだ。一応、そう言った決まりもあるからさ」
「決まり?」
「スイーパーの前身であった組織は、元はこの世界を調査しに来た管理局が関わっている。だからギルド規定の中に管理局との協力規定も設けられているみたいだな」
まぁ基本的に俺たちに丸投げではあったが、とサガミは付け加える。すると、コクピットから『そろそろ目的地だ』ドワーズの音声が響いた。
「見えてきた。あれがリニアだ」
シートベルトを付けてくれと言ってパイロットシートに戻るサガミを見送り、なのはたちは窓を覗いた。そこにはいくつもの建物が立ち並ぶ街並みが見える。その建物全てが古代に栄えたグランデリニアの遺跡群であり、当時の街並みをそのまま利用してリニアの街は形成されていた。
オートパイロット機能をオフにしたリトルウイング号は、そのままリニアの街の上を飛び去り、街外れにある離着陸場へと着陸する。接地用ランディングギアを展開して着陸すると、離着陸場の端で待ってましたと言わんばかりに偉丈夫が後部ハッチを開いたリトルウイング号へ近づいてきた。
「サガミィ!厄介ごとを持ってきたようだな!」
「嬉しそうに言うんじゃねぇよ」
ハッチから降りてきたサガミへそう返され、まぁ普段は俺が持ってくるからな!ガハハハ!と快活に笑う男の第一印象は粗暴と言っていいだろう。後から続いて降りてきたなのはたちは、その出立にギョッとする。
筋肉質な体つきを隠さない、ラインの出るノースリーブのトップスに、ゆとりのあるニッカーボッカーズ、装甲のついたブーツを履いたその男性は、金属音の足音を響かせながら、 困惑するなのはたちへと近づく。
「よく来たな、異邦人たち!俺の名はソリオ・ジャン・ハムナマだ!気軽にジャンと呼んでくれ!コイツと同じくスイーパーをしている!よく知らないが、まぁ大変だったみたいだな!」
はぁどうも、と目を若干泳がせながら挨拶を交わす面々だが、ファーンだけは「では、よろしくお願いしますね、ジャンさん」と笑顔で握手を交わしていて、教育者ってすごいと全員が感じた瞬間だった。
「先輩ー!急に飛び出していかないでくださいよー!」
すると、建物の方からドタバタという擬音が似合う様子で駆けてくる人影がひとつ。その後ろにはサガミからの連絡を受けていたのか、スイーパー・ギルドに属する面々が次々とリトルウイングへ向けてやってくるのが見えた。
先頭を走ってやってきたのは16歳を迎えたなのはたちよりも少し年下くらいの少年で、粗暴なジャンとは違いキッチリと頭を下げてなのはたちへと挨拶の言葉をかける。
「初めまして。僕はジェイク・ハドラードと言います。先輩たちと同じくスイーパー……と、言いたいところですが」
「こいつはまだ見習いな」
「ついでに言うとジャンの世話係でもある」
「んだとぉ!?」
牙を剥きて威嚇するかの如くサガミに喰ってかかるジャンを見て、なのはたちは「あんまり仲が良くないのか」と不安げな顔をするが、ジェイクは「いつものことですよ」と呆れたような顔をし、肩をすくめた。
「はいはい、そこまで!全くもう……ほっとくとすぐ喧嘩始めようとするんだから」
睨み合うサガミとジャンだったが、そんな二人の間を割るように手を入れて引き剥がしたのは、黒髪で線の細い……見るからに戦いに向いてなさそうな人物だった。
「改めて、ご挨拶をさせていただきます。このギルドの長をさせていただいています。クロフォード・マックランと申します。以後、よろしくお願いします」
スイーパーと呼ばれるサガミ、そして見るからに粗暴そうなジャン、ほかにもクセの強そうな面々を率いるのが、その中で1番優しげな空気感と闘いの気配を感じさせない人物であったのだ。
困惑しっぱなしのなのはたちに微笑みかけると、クロフォードは、さぁ、どうぞと離着陸場から離れ、ギルドが構える拠点の中へと案内していくのだった。