マジシャンズ / 奪われたロストロギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第十二話「スイーパー・ギルド」

 

 

スイーパー・ギルドと呼ばれる建物は、木造の二階建てだった。

 

なのはたちの故郷である地球……少し昔のウェスタン映画とかで出て来そうな古びたその建物中は、警戒心を最大限に高めた彼女たちの予想を裏切る形で、まさに外観通りの作りとなっていた。

 

歩けば軋むきりっぱりの廊下を、コツコツと硬いブーツが足音を奏でる。

 

綺麗に舗装された通路や、磨き上げられた近未来的な施設とは程遠いその場所を案内するギルド長に連れられてやって来たのは、綺麗に片付けられたギルドの大広間だった。

 

テーブルの奥にはすでに一人座っていて、おのずとなのはたちの視線は座する人物に集まった。歳を重ねた肌と白髪。そして隻腕。だが、戦いを経験してきたなのはたちは、その人物から流れてくる戦士としての貫禄を素早く察知していた。

 

固まる彼女たちを他所に、その歳を重ねた男性の横に腰掛けたギルド長は、なのはたちに席に座るよう促した。従って席に座ると、すぐに給仕人がやってきて、なのはたちの前に氷の入った水と暖かな食事を配膳していく。

 

「疲れたでしょう。この程度のもてなししかできませんが、この店のシチューは絶品ですよ」

 

「あ、あの……マックランさん」

 

「クロフォードで構いませんよ。隣にいるのは私の補佐役のキャンロイ・タイサです。と言っても、彼が元ギルド長で、私が最近跡を継いだばかりですので、色々と教えてもらっているのです」

 

流れるような所作で食事の場となった。

 

木の器には湯気立つ白いクリームシチューが入っていて、その匂いがなのはたち……とくに、船から脱出したわ、墜落したわ、気絶して目が覚めるという怒涛の展開を味わったメリーやファーン、エリッサたちの空腹感を刺激する。可愛らしいお腹の音が響き、なのはたち全員が顔を赤らめて当たりを見渡す。これは全員、相応に腹が空いていると見える。

 

「……色々と聞きたいことがあるでしょう。我々も貴女たちに聞きたいことがたくさんあります。なので食事でもしながら話しましょう。我々の間に剣は不要ですので」

 

微笑みながらクロフォードはそう言って運ばれて来たシチューに手をつけた。隣にいるタイサも片手で器用にパンをちぎり、シチューに浸して味わう。それをみて、なのはたちも遠慮がちにシチューを木製のスプーンですくい、一口。

 

「美味しい……!」

 

思わず、と言った様子ではやてが声を上げた。料理に一家言あるはやてが唸るほどの美味さである。

 

カブタイモを丁寧に裏ごししたスープはガラだしとスパイス、そして燻製にした肉の旨みがギュッと凝縮されているし、一緒に入っている根菜たちもスプーンを通すだけで崩せるほどよく煮込まれている。ミルクも使われているだろうが獣臭さやえぐみもない。食べていてとても心が安らぐ味であった。

 

「今年のカブタイモは当たり年だな。クロフォード何かしたのか?」

 

しばらく黙ってシチューを食べていた老人、キャンロイ・タイサは隣でシチューを頬張るクロフォードを横目で見て、まるで確信しているように呟いた。

 

「なんで僕が疑われるんですかね……。まぁ少し農法を変えましたが」

 

カブタイモを始め、根菜類は大地の栄養が必要不可欠だ。同じ場所で連続して育てればもちろん土地の栄養分がなくなり、連作障害を起こしたりする。なので、クロフォードは農夫ギルドと協力して農法を変えたのだ。といっても、指定の土地で育てる野菜のサイクルを年単位で統一しただけなのだが。

 

カブタイモの出来の良さは認めるが、去年から今年にかけて生産量が倍増しているわけで、市場ではカブタイモの値崩れが起こり始めている始末だ。幸い、収穫祭や行事関係、交易船への規制緩和など、大ごとになる前に色々と手を回したのだが、渦中の原因を作り出したクロフォードのやつはどこ吹く風である。

 

「お前さんは頭がキレるが、たまにキレ過ぎる時があるからな。そうなる前に相談しろよ?補佐役の意味がないからな」

 

「はは……肝に銘じておきます」

 

本当にわかってるのか?こいつ、と疑いの眼差しを向けるタイサにゴホンと咳払いで誤魔化すクロフォードは、まさに上司から叱責を受ける部下のような構図で、なのはたちが感じていたタイサの強者としての気配は幾分か和らいだような気がした。

 

「クロフォードさん。このスイーパー・ギルドというのは何なんですか?」

 

シチューを食べ進め、空いたお腹もひと段落したあたりで、バターを添えられたパンに塗っていたクロフォードは、はやてから投げかけられた言葉にバター用のナイフを置いて言葉を考える。

 

「ヘンリー・ヴァンダーにおける保安機構……と言ってもいまいちピンと来ないでしょう」

 

この場に案内してくれたスイーパー、サガミ・バルディオ。彼の出立ちや、ファーンたちを狙った敵を撃退した強さをみて、彼が言うように「スイーパー」が単なる保安官のような役目をもつ組織というだけで納得できるほど、なのはたちは楽観視はしていなかった。

 

クロフォードは改めて、スイーパーという存在。そしてスイーパー・ギルドが発足する始まりについて話を進めた。

 

「我々の組織の沿革は元は管理局が雇用した現地調査スタッフにあります」

 

「外縁世界といっても危険が付き纏いますからね」というクロフォードの言葉は真実で、実際に現地の地政や文化を知らずに触れれば大事になる。なので、管理局は外縁世界でも一定レベルの文明が発達している場合、現調査のためにスタッフを雇うことが多い。

 

この場でもっとも心当たりがあるのはなのはやフェイト、そしてはやてだろう。とくになのはは現地の協力者、嘱託職員として管理局で働いた経歴がある。

 

そう言った風にやり方はさまざまであるが、ギルドの誕生にも管理局の働きかけが少なからず関係していた。

 

「そして、管理局が去った跡、我々組織の前身だった現地調査隊が開拓もこなしていき、いつしかヘンリー・ヴァンダーにおける顔役となったわけです」

 

外縁世界であるヘンリー・ヴァンダーであるが、この場に管理局の支部を作るメリットはほとんどない。ミッドチルダを含む主要な管理世界からは遠く、立地も不便。なにより通信関係が壊滅的なのだ。支部を作ろうにも、この地の特色が強すぎる。調査も満足に行えない以上、物資が限られる管理局が引き上げるのも必然だった。

 

スイーパー・ギルドの前身は、そう言った色々な都合で離れた管理局の残した置き土産であり、無法地帯であったこの地に、最低限の法と秩序を司る存在を生み出したのだった。

 

サガミが言っていた「管理局の人間に協力する」というも、設立に管理局が絡んでいたからこそ盛り込まれた事項だったのだろう。

 

「それにこの世界には危険が多い。特に原生生物がヤバい。ヤバすぎます。この地に点在していた居住地域にとっては天災と言ってもいいほどです」

 

遭遇したら一流スイーパーでも危機感を覚える「ワードラゴン」。群れで行動し狩りをする「ローデックス」。大型肉食竜の「ゲールズドラゴ」。この地で迂闊な行動を取れば、命がいくつあっても足りない。

 

「我々も座して食われるのを待っているわけじゃない。その中で腕利きのスイーパー(掃除屋)が生まれ、原生生物の狩猟で生計を立てていった。その換金や取引を代行したのが当時の調査隊で、そのままスイーパーたちの所属が移っていったことから、いつしかスイーパー・ギルドと呼ばれるようになったわけだな」

 

タイサの補足にクロフォードがうんうんと深く頷いた。その様子になのはたちも顔を見合わせる。彼女らも様々な外世界で原生生物を見ている。中には山のように大きな存在もいたし、超危険と呼ばれる存在もいた。

 

「原生生物といっても所詮はその程度なんでしょう、とか思ってます?」

 

クロフォードの射抜くような目に、思わず声を詰まらせる。その様子に隣いるタイサが「まぁ気持ちはわかるが」と前置きをして、言葉を紡ぐ。

 

「お嬢さん方、この世界のルールはサガミから聞いたか?もしくは体感もしてるか?」

 

この世界の魔力素特性。そしてリンカーコアを通して使うポピュラーな魔法技術のほとんどが、その魔力素特性の影響を受けて使用が制限されていること。その影響は、なのはたち、ファーンたちも全員が体感していた。なによりその影響で乗っていた船が墜落したのだ。

 

「つまり、そういうことだ。そっちじゃあ上手くできていたこともあるだろうが、こっちでは簡単に命を落とす危険がある。履き違えないことだな」

 

「タイサ。そうビビらせても仕方ないですよ。ただ……そうですね。この世界の危険は他の世界での感覚とは異なります。なので、くれぐれも無理な行動はしないでください。命の保証もできませんからね」

 

ヘンリー・ヴァンダーにおいて、魔法技術に関しては常識が通用しない。それだけは現時点ではっきりしていることだった。

 

「さて、我々の話は終わりました。次は貴女たちの話を聞かせてもらいましょうか」

 

そう促すクロフォードに、ファーンはメリーやエリッサへ視線で合図を送ると、彼女らが管理していた黒い特別性の箱が長いテーブルの上に置かれた。

 

「これは、古代遺失物のジュエルシードを封印しているものです。私たちがこの世界に来たのも、これを狙う者から逃れるためでした」

 

古代遺失物……通常、ロストロギア。見つけ次第、封印措置が施されるそれを見て、クロフォードはタイサへ視線を送る。

 

「似たような話はよく聞くな。禁忌物、呪具、穢れ……そのどれも同じような話だ。強大なエネルギーを宿した存在で、世界を破滅へと導く……」

 

「それは!たしかに……危険ではありますが……でも……」

 

思わず立ち上がって声を上げるフェイトを、ファーンは静かに手を上げて制した。ファーン自身も、今後のことについてはある程度予測を立てていた。魔法が使えないこの世界において、管理局に属する自分たちの立場はあまりにも弱い。

 

「個人的な事情は抜きにしましょう。ファーン・コラードさん。貴女はこの存在がどれほど危険なものか認識はしていますか?」

 

「はい、認識しています」

 

「では、人の多い居住区に簡単に入れられないことも?」

 

クロフォードの鋭い声色に動じず、ファーンは頷く。そんな危険なものを、魔法を使えない自分たちに預ける理由はない。だから……。

 

「わかりました。では、それは貴女たちが責任を持って管理をしてください」

 

そう言って食後のお茶を飲むクロフォードに、ファーンは「えっ」と思わず変な声を上げてしまった。場の空気が固まる。タイサは「やったな」と呆れたように息を吐き、クロフォードはなんですかと言わんばかりにファーンを見つめていた。

 

「てっきり、その……そちらに取り上げられるかと……」

 

「はぁ!?何を言ってるんです!?そんなもの、ウチで管理できませんよ!?この建物のどこにそんな設備があると想像が付くのですが!?」

 

「そこはオメェ、地下に巨大な超高度科学技術の研究所があるとか嘘をだな」

 

「タイサ、我々が彼女らを騙して何になるんですか?それに困ってるから助けるのが我々ギルドの役目でしょう?」

 

「だから俺は腹芸を覚えろっていつも言ってるんだがなぁ」

 

そこさえ何とかなれば、もう少しマシになるだろうにとタイサは愚痴をこぼす。対するクロフォードは聞き捨てならないと言わんばかりに堂々とタイサに言い放った。

 

「だからぁ、俺に交渉とかは無理ですって。だって全部話しちゃうんだから。口が軽いのはタイサも知ってますよね?」

 

「あぁ、だから酒を飲んで翌朝に帰ってから嫁にこっぴどく怒られたんだかな」

 

禁酒を言い渡されているのにお酒を飲むタイサが悪いんですよ、というクロフォード。そこは、もう少し情けというか……と、言い合いをする二人をみて、思わずなのはたちにも笑顔が生まれた。

 

「あぁ、すいません……お見苦しいものを」

 

「いえ、貴方達は信頼するに値する人物だと、私たちは認識できました」

 

不思議な人たちだ、とも思う。ただ、状況は変わらない。襲撃してきた相手を前に、この世界において自分たちは不利に立たされている。まずはどうにか状況を打開する必要があった。

 

「さて、では本題に入りましょう。貴女たちは管理局の本部に連絡したいので長距離通信装置が使いたいということでよろしいですね?」

 

クロフォードの問いに頷くなのはたち。

 

「残念ながら、この施設に長期連絡通信装置はないです。我々から管理局にアプローチすることはまず少ないですから」

 

「じゃあ,長距離連絡装置はないのですか?」

 

ないわけではないんですけど、口籠るクロフォード。そして二人の表情はあまり良くなかった。

 

「長距離通信用の施設はあるのはある。ここから砂漠を越えた場所にな。もともと、その地が交易の拠点だったが……まぁ色々と事情があって場所を変えたわけだ」

 

「その施設にはどうしたら行けるのですか?」

 

この世界から脱出するにも、増援を呼ぶにしても、まずは外部との連絡を取る必要がある。フェイトの言葉にクロフォードとタイサは口を揃えて答えた。

 

「いくとしたら砂船ですね」

 

「まぁ、砂船以外ないな」

 

とりあえず連絡をしてくる。そう言い残して出ていったクロフォードとタイサ。それと入れ違うように大広間に入って来たサガミは、何とも言えない空気となっているなのはたちを見え目を瞬かせた。

 

「あの……砂船ってなんですかね?」

 

「あー……まぁ、知らない方がいいかもな」

 

その言葉に、その場にいる全員が「あ、碌でもないことになりそう」と思うのだった。

 

 

 

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