マジシャンズ / 奪われたロストロギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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あけましておめでとうございます(遅い)


第十二話「砂船は砂丘を征く」

 

 

 

リニアという街は、ヘンリー・ヴァンダーにおいて交易の拠点だというのに非常に不便な場所にあった。

 

街の南北は荒野、東西は広大な砂漠と、地平線と砂丘が広がる「荒地」のど真ん中に交易の拠点が位置している。

 

外世界との交易が始まって間もない頃は、水源や資源を採取しやすい場所に拠点があったのだが、ある理由でその拠点で交易が困難になってしまい、リニアの土地が交易の中心部として利用されるようになったわけだ。

 

なぜ、わざわざ荒野と砂漠に挟まれたこの地を交易拠点として選んだのか?これにはちゃんとした理由があって、グランデリニア帝国時代の帝都であった頃の住居遺跡がかなり綺麗な状態で残っていた点もあるが、それよりも大きな理由は、その土地の地盤の硬さだった。

 

ヘンリー・ヴァンダーにおいて、盆地で地盤の硬い土地はリニア以外にない。

 

いや、あるにはあるが、それら全てが深い森に覆われていたり、湿地帯だったり、永久凍土に覆われていたりと、交易拠点にするにはかなり難のある場所ばかりだ。しかも、そう言った土地には危険な原生生物が跋扈しているため、土地整備と称して足を踏み入れれば、どれほどの犠牲者が出るかもわからないものになっている。

 

滅び去ったグランデリニア帝国がこの地に帝都を築いたのも、強く揺るぎのない地盤に着目したのかもしれない。

 

さて、そんな僻地にあるリニアだが主な資源獲得がすべて交易に頼っているわけではない。荒野の地下には鉱石が眠っているし、砂漠には特産品となる原生生物が生息している。なので、交易施設で働く者たち以外にも、鉱石を採掘する鉱夫や、パワーストーンを加工する職人、鉱夫向けの道具を作る職人、そして砂漠へ漁に向かう漁夫と様々な職業があったりする。

 

鉱夫たちの職場は、リニアからそれほど離れていないことからオフロード対応のモーター・クルーザー(MC)で向かうことができるのだが、砂漁には専用の舟を使うことになる。

 

それが砂船だ。別名、サンドシップとも呼ばれるそれの作りはとても簡単。

 

きめこやかな砂粒の上を滑るように設計された木製の船体。風を受けて進むための帆。そして無風状態の際に使うバイオ燃料で稼働する剥き出しのジェットエンジン。

 

以上のそれらが組み合わさって作られている陸上船であった。

 

 

「どうだい!!嬢ちゃんたち!!砂船の乗り心地は!!」

 

「え!?なんだって!?」

 

 

ジェットエンジンの轟音と砂を滑る際に発生する摩擦音は凄まじいもので、この船の操船をするキャプテンの声など簡単にかき消していく。さっきの声も誰の声だったのか判別もできないほど、砂船と呼ばれる乗り物は騒がしく、激しかった。

 

 

「音うるさ……」

 

「砂の上を走る船ですから、単純に進んでるだけでもかなりうるさいですよね!!」

 

 

それに今日は風がない日だったこともあり、船後部に取り付けられた年代物のジェットエンジンが軽快な音を上げて機体をグングンと前へと押し出していっている。計測器上では毎時80キロくらいなのだが、野晒しの甲板にいるなのはたちにとっては体感100キロくらいの猛スピードに感じられた。

 

それにクロフォードの言う通り、単純に砂の上を進むだけでもかなり大変だ。海と違って隆起もあるので上がり下がりのインパクトがそのまま乗船している者たちにも響いてくる。つまり何が言いたいかと言うと、砂船の乗り心地は最悪であると言うことだ。

 

 

「音と揺れとで酔いそう……」

 

「砂船は初めてらしいからな!!今日はあまり揺れない初心者コースを選んだぜ!!」

 

「しょ、初心者コースでこれ……うっぷ」

 

 

まず最初に根を上げたのはクロフォードだった。続いてはやて、クラリスという順で、高速で空中戦などをするなのはやフェイトたちにとってはなんて事はなかったが、それに慣れていない者たちからすると地獄と言っても過言ではない乗り心地である。

 

 

「あまり快適なもんじゃねぇのはわかりきってたが……」

 

 

帆を畳んだマストの上にある物見台で周辺を警戒するサガミがグロッキーなメンバーを見て小さく息をついた。とくにギルドマスターのクロフォード。空輸艇に乗るだけで気分が悪くなるのに……砂船に乗ってこうなることは火を見るよりも明らかだった。

 

喉から迫り上がってくるものに顔を顰めながらも、それでもクロフォードは「ギルドマスター」としての責務を果たそうとしている姿勢は認めるのだが、少しは自分たちに任せてくれてもいいのではないだろうか。

 

 

「なんだなんだ、異邦人にゃコイツは過激すぎたか?まぁ無理はないわな!とりあえず酔い止めのコイツを飲んどけ!」

 

 

そんなことをサガミが考えていると、反対側のマストで周辺警戒していた同僚がスルスルとマストを降りて、船の縁に捕まって吐き気に耐えるはやてにガラス瓶に入ったドリンクを差し出した。

 

薄い黄緑色のドリンクで、はやては少し異世界の飲み物に口をつけることに躊躇いを見せたが、全身を襲う倦怠感と吐き気が治まるならと彼からドリンクを受け取る。

 

 

「あ、ありがとうございます……あ、結構爽やかな味……」

 

「メコマッピロゲの果汁だ!!すぐに元気になるぞ〜!!」

 

 

思わずはやては口に含んだ酔い止めを吹き出しそうになった。

 

そんなリアクションに「はっはっは!」と笑い声を上げるのは、サガミの同僚で同じくスイーパーである「ソリオ・ジャン・ハムナマ」である。

 

スイーパーを示す肩章を腰に付けている彼は、ギルドの中で遊撃手的な役目を受け持っていた。

 

事務処理や仲裁、警邏などオールランダーのような役目を持つサガミや、交易船間のトラブル対応などを受け持つ他のスイーパーとは違い、ジャンはパトロールや危険生物の討伐を専門としたスイーパー・ギルドの中でトップクラスの戦闘要員である。

 

危険な原生生物が跋扈するこの地で純粋でシンプルな強さと言うものはとても魅力的であり、スイーパーと呼ばれる者には絶対に必要なものになるのだが、ジャンはそれに加えて対人戦でも他を圧倒する力を持っていた。

 

なぜ彼は他のスイーパーとは異なる立ち位置なのか?それは彼の出身に関係があった。

 

ジャンの出自は外縁世界にある一つの世界。その世界では極少数の戦闘民族が暮らしており、ジャンはその戦士の中の一人だった。幼い頃から施された「戦い」の英才教育によって、彼は他を寄せ付けない強さを身につけたのだ。

 

だが、残念ながら他のものを置き去りにしていることから、事務処理という仕事が壊滅的で、サガミが言った通り、彼らの後輩であるジェイクが彼の関わった事件の事務などを一気に引き受けたりしていたりする。

 

 

「皆さん、すいませんね……砂漠越えは空路でも行けるのですが、砂船の方が安全なので……うっぷ」

 

「クロフォードさん!あまり喋らないほうが……」

 

 

見るからに顔色の悪いクロフォード背中をさするジェイク・ハドラード。

 

サガミとジャンの後輩というだけあって、戦闘面での腕は非常に優秀で、こういう風に気遣いもできる点から、何かとブレーキが壊れやすい二人の良きストッパーにもなっている。

 

 

「砂船苦手なんですから無理しなくても良かったのに」

 

「旧拠点を詳しく知ってるのは私とタイサだけですから……同行しないわけにはいきません……」

 

 

こういうところが生真面目だといつか倒れますよ?というジェイクに大丈夫と手を上げて本来の仕事である周辺警戒の仕事へと戻ってもらう。すると、一連の流れを見ていたファーンがクロフォードに問いかけた。

 

 

「空路よりこの砂船の方が安全ってどう言うことですか?」

 

「空路では〝逃げる〟ことしかできないので」

 

 

そう答えるクロフォードに、ファーンの後ろにいるメリーやエリッサたちの顔には疑問がありありと浮かんでいた。空路で逃げることしかできないとはどういう意味なのだろうか。さっぱりわからない説明ではあったが、その理由はすぐにわかることになった。

 

 

「……それってどういう」

 

「来るぞ来るぞ来るぞぉおォーーーッ!!準備しろ!!スイーパーども!!」

 

 

馬鹿みたいに大きな音を響かせるエンジン音の中など物ともしない大声で叫んだのは、砂船を操舵するキャプテンであった。すぐさま物見台にいたサガミやジャン、ジェイクが甲板に立って船が進む進路の先を見つめる。なのはたちも何事かと揺れる船の中を歩いてサガミたちの後ろから遥か先の砂漠の稜線を見た。

 

 

「ランドルのおやっさんだけですよ、僕らのこと〝ども〟っていうの」

 

「初心者コースだから〝アレ〟もいないんじゃなかったか?」

 

「関係ねぇな!!なにせ縄張りに入ろうってんだからな!!」

 

 

丘を登り切って緩やかに降り出すと、進路上に凄まじい砂煙を上げる「何か」がいるのが見えた。単なる砂煙かとなのはとフェイトは目を凝らしたが、その煙の中で何かが蠢いている影の輪郭がはっきりと映し出され、腹の底、船すらも揺らす重低音の唸り声のような音も聞こえる。一瞬だけ映ったその影の大きさは、自分たちの船より遥かに巨大だ。

 

酔い止めが効いてきたのか、それとも本能的に感じた恐怖から堪らずはやてが今船が「突入」しようとする進路の先にいるものに対して声を上げた。

 

 

「な、なにがいるんですかぁ!?」

 

 

その瞬間、船の真横が轟音を響かせて爆ぜる。巻き上がった砂をかき分ける形で白い体躯が地面から飛びまして空を泳ぐ。圧倒的な巨大さ、スケールに轟音が響いた方に顔を向けたなのはたちは言葉を失っていた。

 

スローモーションのようにも思えるその跳躍は、重力に引かれて地面へと落ちてくることで終わりを迎える。固形の砂があたりに飛散して、液状化したそれらが波のように乗り込んでいる船を横に揺らした。

 

 

「きたぞぉ!!サンドワームだぁああ!!」

 

「ぎゃあー!?なんなんですかこの化け物!?」

 

「コイツは前よりかなりデカくなってないか!?」

 

「たぶん、コイツが今の群れのボスだ!!」

 

「群れって……ひぃ!?」

 

 

誰の悲鳴か、声がわからない中、1番大きな体躯のサンドワームの跳躍を引き金に、大小さまざまのサンドワームが地面から体を出して船と並走しているのが見えた。

 

 

「旧拠点が使えなくなった理由がこれです。砂漠地帯に生息するサンドワームの群れに狙われて、拠点周辺が奴らの縄張りなってしまったんですよ」

 

「え、つまりそれって……」

 

「目的のものがあるのは奴らの縄張りど真ん中ってことですねぇ」

 

 

再び爆音を響かせて体を宙に泳がせるサンドワーム。初見であるなのはたちから見てもわかるほど、その行動は威嚇や、久々にきた獲物を逃がさないように立ち回っているような、そんな気配を感じた。だからこそ、船の進む進路になのはたちはただただ恐怖心しかなかった。

 

 

「あんなのの中を突っ切るんですかぁ!?」

 

「おうよ!話聞いた時は俺でも思ったね!お前ら頭がイカれてるな!」

 

 

死人すら起きてきそうな轟音と共にサンドワームが地上に飛び上がったと同時に吹き飛ばされた巨岩が船の横に着弾し、その衝撃波は船に乗るなのはたちの体を一瞬浮かせるほどだった。

 

 

「ど、どうやって対処するんですか!?」

 

「かすっただけで船が沈んじゃいますよ!」

 

「だから俺たちがいるんだろ?」

 

 

目の前から迫り来るサンドワームの姿に悲鳴をあげるなのはたちに対して、世界の調査をしてるんだろ?これくらい慣れっこだろ、と言わんばかりに冷静そのものだったサガミたちが、それぞれの武器を手に取る。

 

サガミは愛剣である直剣、ドワーズを。

 

ジャンは部族で授けられた二振りのショートソードを。

 

そしてジェイクは二つの手戦斧を。

 

スイーパーになれるものは、こういった危険な原生生物を単独で討伐せしめる力を要求されるのだ。

 

 

「正面突破だぁ!!いくぞぉお!」

 

 

ジャンの雄叫びと共に三人は船から跳躍し、船を飲み込まんとしていたサンドワームを真正面から叩き、横へと吹き飛ばしたのだった。

 

 

 

 

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