マジシャンズ / 奪われたロストロギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第十三話「大地の王者」

 

 

 

縦に、横に、斜めに、前に、後ろに。

 

まさに縦横無尽に砂船は動き、揺れ、荒れ狂う。サンドワームを相手にするということは、そういうことだった。

 

すぐそこ、それなりに大きい個体が地中に潜り、一気に地表に向かって飛び出してくる。巨体は砂を離れ、しばらく宙に身を踊らせると再び身体を砂へと叩きつけて再び砂漠を泳ぎ始める。

 

その衝撃は貧相な砂船を簡単に揺さぶり、破壊しかねない砂の波を発生させ、襲いかかってくる。その波を躱し、時には反動を利用して加速するのが、砂船を操る船長の腕の見せ所だった。巻き上がった砂の波間を縫い、砂船はその船体をよじるようにして絶体絶命の中にある針の穴のような道筋を進んでいた。

 

「ぺっぺっ!砂が口に!」

 

「服のあちこちに入ってくるぅ!?」

 

当然、船にはなのはやフェイト、はやて。そしてこの世界へ足を踏み入れるきっかけになったファーンや彼女の教え子らが乗り込んでいて、魔法が使えない環境下であることから浮遊もできず、彼女らは何をしているかというと死に物狂いで荒れ狂う砂船の船体にしがみついていた。

 

冷静に船に捕まるファーンは、「物資調達」のためにタイサと一緒にリニアに残ったレイカの判断は正しかったと心底感じる。その横では、砂の雨を浴びて「うわー」と声を上げる教え子たちが顔で不快感を露わにしていた。巻き上がった細かな砂の粒子が服や靴、果てはインナーにまで侵入してきて、堪らずに悲鳴のような声をあげる。

 

「ああやって〝跳ぶ〟ので、空路もこの地は避けるように飛ぶんですよ。呑まれたら終わりですからね」

 

元気に船の周りを跳び回るサンドワームの群れを眺めながら言うクロフォードも船にしがみつく内の一人だ。なのはたちのように悲鳴は上げてないものの、その顔は揺れ動く船の影響であまり良くはない。規格外のモンスターが周りにいるため、吐き気が引っ込んでくれたことが不幸中の幸いであった。

 

サンドワームは見ての通り、地中から宙へと跳躍できるため、空を飛んでいた輸送機が地中に潜んでいたサンドワームに下から丸呑みにされる……なんていう事故もあるため、サンドワームの縄張りであるこの地一帯の上空は飛行禁止区域に指定されているのだ。

 

そう悠長に話すクロフォードの背後、一体のサンドワームが船を横っ腹から押し潰さん勢いで、吸い込んだ砂をエラからジェット噴射のように吹き、撒き散らしながら向かってくるのが見えた。

 

「うわわ、クロフォードさん!?後ろ後ろ!!」

 

思わずなのはが声を上げ、クロフォードも背後から迫り来る圧を感じていた。しかし、彼の顔に焦りはない。トン、と甲板に着地する音と共に一つの影が迫り来るサンドワーム目掛けて跳躍する。

 

「どっせぇええい!!」

 

ジェイク・ハドラードは両手に握りしめた手戦斧を真横から振り、船を潰そうとしていたサンドワームを吹き飛ばす。

 

硬い外骨格を持つサンドワームには表面を切り裂く斬撃より、内部の柔らかな肉にインパクトを与える打撃のほうが有効だ。サガミやジャンから教えてもらったことを、得意とする自身の怪力で実行に移したジェイクは、鈍い音を立てて倒れるサンドワームの上に着地する。

 

「ジェイクさん、見かけによらずパワフルなんですね」

 

「そりゃそうでしょう、あの二人の後輩ですから」

 

一部始終を見ていたファーンはそんな感想をクロフォードに投げた。

 

サガミとジャン。彼がいうあの二人も、なかなかに規格外だ。

 

サガミの戦闘能力は「襲撃者」との戦いを見ていたのである程度は知っていたが、彼と肩を並べるソリオ・ジャン・ハムナマもかなりの使い手。手に持った二対のショートソードを巧みに使い、暴れ回るサンドワームの動きを止めているのが見える。大きく、力のある個体は殺し、それ以下の個体は気絶や斬撃、衝撃を与えることで怯ませて後退させている。

 

その行動にファーンが首を傾げていると、青い顔をしたクロフォードがその疑問に答えてくれた。

 

「サンドワームは見た通り群れを作るのですが、リーダーや強い個体の代替わりが遅いのです。なので放っておけばコロニーがどんどん大きくなり、リーダーを含む体の大きな個体がより強い力を持つようになります」

 

サンドワームはヘンリー・ヴァンダーの中でも生態系トップクラスに位置する原生生物。元はグランデリニア帝国が生み出した拠点制圧用生物兵器だったのだが、長きにわたる年月を経た結果、我が物顔でこの星を蹂躙跋扈する原生生物へ生まれ変わったのだ。

 

そしてサンドワームの厄介な点は群れが代替わりしないこと。

 

代替わりするなら、群れやコロニーの規模も一定に保たれがちなのだが、強い個体は強いままで数を増やされていくと群れもコロニーも際限なく広がっていく。

 

「なので、定期的に間引いてあげる必要があるんです。昔に比べてサンドワームの繁殖能力も向上しているので、対処が大変なんですよ」

 

原生生物になる前は生殖能力も乏しく、数も少なかったのだが、この星に適合する過程で生殖能力も進歩したようで、最近では年に二回ほどサンドワームの幼体が生まれる時期があるほどである。なお、サンドワームの幼体は非常に栄養価があり、リニアや他の土地から見ても重要な食料資源でもあった。

 

ミッドチルダや他の管理世界と全く異なる生態系や食文化に感心するファーンだが、他の者たちからするとそれどころじゃなかった。

 

「先生!?それより驚くことがあるでしょう!?」

 

轟音と共に体長10メートルはあろうサンドワームを真下からカチ上げる剛腕に目を見張るメリーの言い分も確かである。とくに見せ場も作れていないエリッサとクラリスのハートライナー姉妹はポカンと口を開けて巨大なバケモノを蹴散らす三人の姿に声も上げられなかった。

 

「身体強化の魔法などがこの世界にはあるのですか?」

 

「身体強化?いやいや、あれはもっと純粋でシンプルなものです」

 

特に驚く様子もなく揺れる船に捕まりながらそう問いかけるファーンに、クロフォードは至極当然のようにそう答えた。つまり、あの三人は純粋な身体能力のみで跳躍したり、10メートル級のバケモノを吹き飛ばしたりしているのである。

 

しかしそれになちゃんとした理由があった。

 

「……話を戻しますが、この世界の魔力素の濃度が影響してきます。特定の原生生物の肉などには豊富に魔力素が蓄えられているのです。それこそ、外世界の食材とは雲泥の差です。まぁ、それが要因かと言われれば真偽は確かではないですが、少なからず彼らの身体能力に何らかの影響は与えているのでしょうね」

 

そう言われて、なのはたちはこの船に乗る前に食べたシチューの具材となっていた肉類のことを思い出していた。もしや、超人に至る食事を摂ってしまったのだろうかと不安になる彼女たちに、「食べたからと言ってすぐに影響があるものではありません。食してああなるわけではないので、ご安心ください」とクロフォードは慌てて釈明する。

 

そう言ってる側で、船に横並びで近づこうとしてきたサンドワームをジェイクが横一閃の一撃で怯ませてみせる。それをみて、メリーたち管理局サイドの人間は冷や汗をかいた。

 

いくら食事の影響と言っても……あの身体能力は異常だ。どうみても異常なのである。

 

「やるなぁ!ジェイク!なら、こっちも……」

 

後輩の頑張りに感化されたのか、大型の個体を仕留めたジャンが意気揚々と脳天に突き刺していたショートソードを引き抜いて、群れを率いるボスサンドワームへ視線を向け、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「本気でいこうかぁあぁぁあ!?」

 

一足で飛び上がった影は、そのまま咆哮を上げ、重い体を振ろうとするボスへと剣を向ける。その巨体から繰り出されるものは全てが必死の一撃。壁が迫り来るような理不尽と言える一打を、ジャンは剣で受け、その反動を利用して大きく後退。砂船の直上まで舞い戻ってくる。

 

だが、彼からするとそれが〝最適解〟であった。

 

「受けてみろ!大地の主よ!」

 

そのまま甲板に着地するジャンは、その着地したインパクトを利用し、二対の内の一つを目の前にいるサンドワームへと投擲。

 

さらに後方に飛び、なのはたちの前に立った彼は、残ったもう一刀の剣を避け逆手持ちへ、そして肩口に構えたまま、全身のエネルギーを構える手へと集約していく。

 

ギチギチと引き絞る指、手、腕、肩の筋肉が音を奏で、黄金の眼光が迫り来る敵の急所に狙いを定めた。

 

「我がハムナマの名に伝わる.……必死の一撃!その名は、クォッカ・コダ・ノンッ!」

 

空気が破裂したような音を響かせ、ジャンの手から閃光が射出された。

 

放たれたそれは空を割き、先に投擲された一投目の刃にすぐに追いつく。寸分違わずに描かれた奇跡は一投目の柄頭を捉え、そのインパクトの一切を無駄にせずに伝え、加速させる。

 

閃光のような一撃に後押しされる形で加速した一投目は、そのまま空気の膜を突破し、大地の主であるボスサンドワームへと到達し……その身を食い破った。

 

クォッカ・コダ・ノン。

 

ジャンの故郷「ハムナマ」の戦士に伝わる真なる一撃。

 

完成された戦士が投擲するだけで巨大な獣を一撃で仕留めることができると言われており、古代のハムナマ戦士の中には命を賭してこの一撃を放ったことで空の神を堕としたという逸話が残るほどであった。

 

その分、この技は反動も凄まじく、投げる時にしっかり地面に足を付ける強靭さが一人前の証とされたわけだが、ジャンは二つ投げることができた。この世界で生活をしているからか、それともサンドワームのような化け物と常日頃から戦っているからかは定かではないが、一投でも充分な威力が発揮できるのに、なぜ二回目も投げるのか。

 

ジャン曰く、二つ投げたら威力も二倍だからとのこと。そして、そう自信満々にやり切った顔をする反面、この技には大きなデメリットがあった。

 

「ジャン!お前またやったな!?」

 

群れのボスであるサンドワームは仕留めたものの、その結果もたらされるのはサンドワームのパニックである。ジャンの隣に着地するサガミは額に青筋を浮かべながらジャンに問い詰めるが、彼はどこ吹く風である。

 

「おう!この群れのボスは仕留めたぞ!あとは奴らの跡目争いで大混乱だ!」

 

「そうじゃねえんだわ、馬鹿!また武器ぶん投げたな!?」

 

「予備があるから問題ない!」

 

「その予備引っ張り出す間のフォローを考えてから自信満々に言ってくれねぇかなぁ!?」

 

ジャンの放った大投擲は、文字通り手持ちのショートソードをぶん投げることになる。つまり、一時的に彼は手持ちの武器を失うことになるのだ。今回はあらかじめジェイクが予備を用意しているが、それがない場合は一気に戦力外になる。その上、もし外していたら目も当てられない。

 

【喋ってる暇もないぞ、サガミ。右側から来てる】

 

「今やってるよ!」

 

握りしめるドワーズの言葉と共に向かいくるサンドワームをぶった斬ったサガミは、のそのそと船の倉庫にある予備の剣を撮りに行こうとするジャンの尻を思いっきり蹴り上げてやりたかった。

 

「なのは!私たちも……」

 

荒れ狂うサンドワームを見て、なのはやフェイトも自身のデバイスを実体化させて応戦しようとしたが、それにクロフォードが待ったをかけた。

 

「ダメですよ。ここでは魔法は満足に使えないのです」

 

「じゃあ物理攻撃で……」

 

そうフェイトが言いかけたが、すぐに爆砕音があたりに響く。サンドワームによって粉砕され、この船と同等のサイズに分割された岩の破片があたりに落ちていくが、砂船は右へ左へと舵を切り、それを鮮やかに躱していった。

 

「魔法なしの物理攻撃でなんとかできます?アレ」

 

口に含んだ砂をジェット推進に利用するサンドワームを死んだ目で見るクロフォードの言葉に、レイジングハートとバルディッシュを構えていたなのはとフェイトは何も言わずに座った。

 

「つまりそういうことです」

 

それからすぐ、あちこちから聞こえていた爆発音や、巨体を動かす際に起こる軋むような音がピタリと止む。蛇行運転を続けていた砂船の進路も安定しはじめ、船体にしがみついていたはやてはゆっくりと頭を上げて辺りを見渡した。

 

「攻撃が止んだ?」

 

「どうやら縄張りの警戒ラインを超えたようだな」

 

船に戻ったサガミたちも武器をそれぞれの鞘に仕舞う。周辺には砂丘などは見えず、妙に平坦な砂漠が砂船の進路場に広がっていて、その先には蜃気楼のように揺らめく街並みが見えた。

 

「この先にあるのは我々の旧交易拠点であり、サンドワームの根城……奴らの巣穴です」

 

 

 

 

 

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