マジシャンズ / 奪われたロストロギア 作:紅乃 晴@小説アカ
色々と疑問はあった。
なぜ、襲いかかってきた襲撃者が王と崇める存在が、その従者が、自分たちと似たような姿をしているのか。
なぜ、魔力素の濃度が濃いこの世界で制限なく魔法を使えているのか。
そもそも、なぜ襲撃者……「アスレニア騎士団」は、管理局が護送するロストロギア、ジュエルシードを欲しがるのか。
様々な疑問がある。だけど、今はそれよりも優先させることが、なのはたちにはあった。
「うわっ!?うわわわ……!?」
入り組んだ旧拠点の建物の間を、なのはは懸命に走っていた。魔法の力を使わず、自身の身体能力と元気な足で。このときばかりは、日々疲れる朝の走り込みをしておいて良かったと、なのはは日頃の習慣と化したトレーニングのありがたみを噛み締めていた。
「ちょこまかと悪あがきをしないでください」
そう声がするのははるか上空。地を走るなのはと違い、空を飛んで追ってくるのは朱色と黒を基調とした騎士甲冑を身にまとう従者の一人だった。
ファーンが持つジュエルシードを守るために、あらかじめ用意していたダミーの箱をもって分散する班と、足止めをする近接戦特化の班に分かれるところまでは良かったが、追ってくる相手は今なのはが喉から手が出るほど求めている魔法の力を使っているのだ。
見るかぎり砲撃魔法に特化した杖から放たれる一撃が頭上から降り注ぎ、思わず頭を守るなのは。彼女の横にある建物に軽々と風穴を空けたのを見て、嫌な汗が背中を伝った。
「それはできない相談かなぁ!?うわぁ!?ちょっとそれはナシ!タンマぁ!?」
即座に進行方向を切り返して、なのはは右へ左へと迷路のような建物の間を切り抜けていくが、空を飛んでいる相手は容赦なく魔力によって外殻を形成したスフィアを打ち込んでくる。
その炸裂音や爆撃のような音が響く方向に足止めをする班を任されていたフェイトが目を向ける。
「なのは!?くぅ……!」
一瞬の隙をつくように振るわれた剣戟をギリギリのところで逸らす。その技量を見て、水色の髪をふたつに束ねた……自分と瓜二つの姿をした相手はニヤリと口角を上げた。
「へぇー、僕の攻撃を捌くなんて……君、やるねぇ。強い奴は嫌いじゃないよ!」
そう言って振るわれた斬撃は先ほどよりもかなり早くなっていた。魔力光刃が展開できないことから戦斧形態となっているバルディッシュで受けるものの、その攻撃速度には似合わない斬撃の重さにフェイトは歯を食いしばって耐える。
「貴方達は……何者なの!?」
火花を散らしつつも鍔迫り合うフェイトに、相手は当然と言わんばかりの顔つきで答えた。
「もちろん、王様の従者だよ。僕も……シュテルも!」
シュテル……?そう問い返そうとした瞬間、相手の持つ武器に足を払われ、崩れた姿勢に痛烈な一打を浴びた。肺の中の酸素が全部出てしまったような衝撃に襲われたフェイトは受け身を取ることもできずに吹っ飛び、砂埃を上げながら地面に倒れた。
「あちゃあ、良いの入っちゃったか。もう少し楽しめそうだったんだけど」
これだから手加減を覚えろって王様に言われるんだよなぁ、とぼやく。その背後。潜り込んだ姿勢のまま斜め下から振り上げられる一撃が迫る。
「〝見えてるよ〟」
その死角からの奇襲を、ノールックで武器をあげて受け止める。散った火花の向こうでは仕掛けた奇襲が失敗したことに顔を顰めるメリーの姿があった。
「思いの外、ちゃんと見てるのね」
「君、データで見てないね。ということは……あの船から逃げてきたメンバーの一人ってことで良いかな?」
「答える必要があると思う?」
その言葉と共に振るわれたのはメリーからの追撃だった。ファーン・コラードの教え子であるメリー・ダグマイアは専用のアームドデバイス「ディアネイル」を有している。ディアネイルは薙刀型であり、刀剣とは違いバルディッシュや相手の持つ大型武器と似た間合いを有していた。
そして、それらと明確に違う点もある。
「おっ、ふっ、よっと!手数が、早い、ね!?」
それは武器そのものの軽さとスピードだ。
魔力光刃が発生させられないが、ディアネイルはアームドデバイス。ちょっとやそっとで壊れるほどヤワな構造はしていない。それに魔力光刃は切れ味を上げるためのモノなので、純粋な打撃武器としてもディアネイルは優秀だった。
そして何より軽さがある。
作りがシンプル故に強度を保ったまま徹底した軽量化が図られたことで本体重量が従来のアームドデバイスの中でもトップクラスで軽いのだ。
「魔法が使えないからって……甘く見ないで欲しい」
軽い故に圧倒的なパワーを発揮するような戦いは苦手ではあるが、手数の多さで負けることはない。現に相手の顔にさっきまであった余裕さは見事に消え去っている。
「ダグマイアさん!」
「ハラオウン執務官。フォローをお願いします!」
「はい!」
起き上がったフェイトもメリーの援護に入った。バルディッシュとディアネイルの追撃に、手数の不利がさらに深刻化したことに、相手の有利さをどんどん奪っていく。
魔法が使えないなら使えないでいい。
使う暇を与えないほど攻撃を重ねればいい。
フィジカル勝負なら、幼い頃から近接戦の訓練を重ねてきたメリーもは負ける気がしなかった。
振り下ろされた一閃を絡めとるように受け流し、そのまま一回転。受けた時のインパクト、速度、踏み込んだ重心移動の反動を剣戟に乗せ、放つ。跳ね上がられた一撃は、ジンっと握っていた手を痺れさせるほど冴えに満ちていた。
「つぁー……確かにこりゃ強いや。でも、忘れてるよね」
ニヤリと笑みを浮かべると同時、青白い稲妻が両者の合間に着弾する。
メリーとフェイトは武具の遠心力を利用して後方へ宙返りして稲妻の放流を躱すが、戦況は一気に相手に流れ込んでゆく。
「強いね。君たち。だから特別に教えてあげるよ」
稲妻が降り注ぐ中、暴力的な笑みを浮かべ、魔石を使った武器、「バルニフィカス」を数回転させ、石突で地面を突き、メリーとフェイトの前に立ち塞がる。
「僕の名はレヴィ。レヴィ・ザ・スラッシャー。ディアーチェ・フォン・アスレニアの従者であり……王の障害を取り除く断罪者だ」
そう宣言する王の従者、レヴィの放つ闘気と強者としての気概に、フェイトとメリーは冷や汗を流しながらも、己の獲物を握りしめるのだった。
▼
敵を分散する役目と近接戦を挑む役目に分かれた者たちとは別。
アスレニア騎士団の上級騎士(グランクロワ)を相手取るスイーパーたちがいる旧拠点は、王であるディアーチェ・フォン・アルメニアの放つ魔力の砲撃に晒されていた。
「ひゃあー!?」
「情けない声を出すな。それでも我と同じ顔をした者か?塵芥め」
最初は拠点への籠城をしていたが、その防備はあまりにも非力。王の放つ魔力砲撃の前に壁は一瞬で吹き飛ばされ、わずかに残った瓦礫に身を潜めながら、はやては気の抜ける悲鳴をあげていた。
「すっごいわけわからない相手に理不尽なことを言われてる!」
「不敬な奴だ。マイナス印象に加点だぞ」
クロフォードやファーンは吹き飛ばされた余波で旧拠点の2階から放り出されており、サガミやジャンたちは襲いくる騎士たちの相手で手一杯。指を向けて魔力の塊を宙に作り出すディアーチェが狙うのは、瓦礫の中にいるはやてだった。
バリアジャケットは展開しているものの、リィンフォース・ツヴァイとのユニゾンもできないし、夜天の書による魔法行使も、この世界の特性で満足にできない。
せめてもの足掻きで防御魔法を展開しようとしたはやてだったが、漆黒の魔力を漲らせるディアーチェへ放り投げられた〝手戦斧〟が命中する。
「ふんぬぅ!」
「ジェイクさん!?」
二対のうちの一つを投擲したジェイクは、瓦礫を踏み締めて一気に跳躍。空中に停滞するディアーチェへ残った手戦斧を振り下ろしたが、それは王に届く前に魔力による障壁に阻まれることになった。
「我の攻撃を妨げるとは、恥を知れ!」
怒りのままディアーチェは手のひらに魔力を迸らせ、魔力の壁に阻まれるジェイクの腹へとその手を押し付け、圧していた魔力をそのまま放出する。
「ああああそれは無理ぃァーッ!」
魔力の放流に当てられたジェイクはなす術なく吹き飛び、地面へと叩きつけられ、そのまま何度か地面をバウンドして土煙を上げて瓦礫へと突っ込んでいく。
「あれどこからどう見ても魔法だよね?私の目が狂ってないよね!?」
パラパラと辺りに降る瓦礫の雨を手で防ぎながら、はやてと同じくバリアジャケットを展開して身を隠していたエリッサは涙目になって圧倒的不利な現状を嘆いた。
「狂ってない!狂ってないから、お姉ちゃんしっかりして!」
「こんなところで襲ってくるとは連中もイカれてんなぁ!」
「ジャン!嬉しそうに言うんじゃないよぉ!」
涙目な姉を宥めるクラリスの横で防衛のために剣を振るうジャンに、一度下がったサガミはうんざりした様子で声を荒げた。辺りにあった建物は次々とボロボロにされて向こう側では轟音と共に煙が上がっているのが見える。
連中も味方も、ここがどこなのか忘れてるんじゃないだろうか。そんなことを思いながらも突っ込んでくる相手の相手はしなければならない。
嬉々として剣を振り翳してくるアルネストに、サガミもドワーズで迎え撃つ。
「こんなところまで攻めてくるってことは、どうやら本気で管理局の持ってるやつが欲しいんだな、お前たち!」
いち、に、さん。振るってくる剣戟に合わせてサガミもそれを受け、逸らし、切り返す。掠め取られるような受けにアルネストは笑みを絶やさないまま更に攻撃を重ねていく。
「だから最初から言っているだろう?私と共にこないかと!」
「話を聞けってんだ!」
下から斜めに切り上げる逆袈裟斬りを放ちアルネストの剣を大きく逸らしたサガミは、そのままドワーズを肩に預けるように構える。その構えを見て、アルネストは確信する。次に来る必殺の一閃を。
「ゼァッッ!!」
肩に剣を預けた姿勢から、腕、肩、腰を落とすという動作を全て連動させ、全身の重心移動と深く落とした足運びと共に放つ斬撃。逆袈裟斬りの切り上げから、上から斜めに振り下ろす袈裟斬りは、まるで下顎と上顎で相手を噛み殺す猛獣のような連撃であった。
しかし、その振り下ろしをアルネストは寸前のところで受け切る。構えからして自分たちの使う騎士剣術と似た技術だ。だからこそ、アルネストは想像できた。
「なかなか良い連撃です。しかしそれは予想して……」
そしてそこで慢心した。振り下ろした袈裟斬りを受けられたと同時、サガミは即座に次の動作に写っていた。
防御された反動をそのまま受け、ドワーズを切先を後ろへ、剣の持ち手にあるボンメル(柄頭)を前に向け、そのままアルネストの胸部を突き刺す。下段からの逆袈裟斬り、上段からの袈裟斬り、そして柄頭を使った突き技。
飛燕三連閃。
本来なら突きから始動する技ではあるが、明確なルールがないのが実戦だ。その上で、この三連撃は非常に汎用性のある技として昇華されている。
始動の一撃が決まった時点で連撃が始まる事から使い勝手がいいし、同時にこの技は飛燕式の中ではボクシングでいう「ジャブ、ジャブ、ストレート」のような扱いで、飛燕の剣士にとっては基礎のコンビネーションとなっていた。
柄頭の突きによって吹き飛ばされたアルネストはまだ健在だった建物を二棟ほど突き破り、サガミの視界から姿を消す。
「お前の勧誘に付き合う暇はない。だから手加減抜きだ」
それだけ言うと、サガミは苦戦を強いられているなのはやフェイトたちの援護に向かうためにその場を離れるのだった。