マジシャンズ / 奪われたロストロギア 作:紅乃 晴@小説アカ
この世界は力こそが全て。
強さとは文字通り、強者たるものの絶対条件である。
一昔前のように、誰もが武器を手に取って戦っていた時代から大きく変わり、今では武器や暴力を持った主張や主義は嫌厭されているのだが、それは強さ……否、暴力という一側面でしかない。
世界の強者と呼ばれる者たちはそんな小手先の強さや暴力を持っていたから、強者と呼ばれているわけではない。
では強さとは何か?
人種、性別、生まれ、容姿の優劣……そんなものに関係なく、人種の生存競争に勝ち、如何なる環境、如何なる窮地を前にしても生き残り、生存する。
そのために必要なものが強さだ。知略を巡らせ、コミュニティを増やし、味方を増やし、邪魔な相手を蹴落とす……あるいは、優れた才能を引き延ばし、どんな逆向すらも斬り伏せられる力を持つ。
強さとは実に多彩で、自由だ。
フィジカルやギフテッド、蓄えた知識、コネやネットワーク。その全てを使い、人を従え、登り詰める。人を利用すること、人を踏み潰すこと、他人の人生を無駄に消耗させ、自身の人生を豊かにできる残虐さを持ちつつ、それに罪悪感や嫌悪感を抱かない心を持つこと。
それこそが、強者が強者たる理由。
人を支配し、世界に君臨するべき人の素養である。
家を数軒ぶち抜いて吹き飛ばされたアルネストは残骸の中に埋もれながらも、笑みを浮かべていた。
長年、研鑽を積んできた自分の意表をつき、吹き飛ばしてさえみせた。あの若さで、自分をその強さを見せつけた才能の原石を前に笑わずにいられるだろうか?
無理だ。笑みを我慢する必要などない。
良い。やはり、実に良い。
強さとは心地よいものだ。淘汰された者も相手の強さをはっきりと理解していれば心晴れやかに自身の敗北と実力不足故に敗れたことも、その先をゆく強者へ賞賛を贈ることもできるのだろう。
ただ、一つ残念なことがある。それを思うとさっきまでの笑みは消え、悲しげな顔をして呟く。
「やはり、殺す気はありませんでしたか」
そっと指で自身の胸部にある騎士甲冑に手を触れる。魔石を鉄と混ぜ合わせた「ミラウーツ鋼」は魔法攻撃に圧倒的な防護能力を持つのだが、物理防護の面に関しては一般的なものの域を出ない。だから、物理で強化されて殴られれば凹むし、傷もつく。
しかし、先ほどサガミが放った三連撃の最後に放たれた一閃は吹き飛ばす力は強かったものの、鎧を壊し、肉を裂き、骨をも砕くような力強さはなかった。あくまで相手を殺さず吹き飛ばすのみに収めているのだ。
そこまで制限した上で自分を打倒したのだから感服する。その気があればあそこで終わっていた。故に、残念でもある。
……純粋な〝人殺しの剣〟な癖に、何を加減しているのか。
「だらしがないぞ、アルネスト」
そう思考を巡らせていると、倒れた自分を見下ろす同僚が視界に入ってきた。その顔を見てアルネストは小さく笑みを浮かべて瓦礫の中から起き上がる。
「いえいえ、骨のある生徒ほど可愛いと言うじゃないですか。……矯正のしがいがあります」
これまで多くの「素質」があるものを見つけては育ててきたが、アルネストの満足する強者は産まれていない。限りなく合格ラインと言える者もいないのだ。強さとは腕っ節だけではなく、戦略や戦術、相手の腕を見極める観察眼といった知識や経験からくる勘も必要になる。
引き際をわきまえる……というべきだろうか。そう言った状況判断を即座に行えるのも、強者として必要なファクターである。
「まぁ、上級騎士(グランクロワ)を呼ぶ理由はわかった。なかなか骨があるぞ。まぁ、管理局の奴らは知らんがな」
そう言って大槍状の魔剣……魔槍というべきか。それを肩に担ぐ同僚のすぐ後ろ。廃墟の建物へ轟音と共に穴が穿たれる。飛んできたのは彼が連れてきた下級騎士(シュバリエ)の一人だ。アルネストは倒れてピクリとも動かないソレを見て哀れな目をしていた。
まったく、汚名挽回と言ってついてきたくせに、早々にやられてしまうとは……まだまだ修練と教育が足りないらしい。
そんな下級騎士を圧倒した相手が崩れ落ちた壁の穴から出てきて、ジロリとこちらを鋭い目つきで睨みつけてきたのが見えた。
「サガミィ!こいつらが言ってた騎士団ってやつか!」
「そうだ。どうやら保護したファーンたちが持ってるモノが目当てらしい」
ソリオ・ジャン・ハムナマと、サガミ・バルディオ。
外で下級騎士と戦うもう一人のスイーパー見習いも油断ならない相手であるが……事前調査の上で、最も警戒しなければならない相手はこの二人だということは、騎士団内での共通認識でもあった。
二対のショートソードを持つジャンと、魔剣に匹敵するポテンシャルを秘めた直剣、ドワーズを持つサガミが、ギラギラとした闘志に漲る目をしたまま、アルネストたちの前に悠然と歩み寄ってくる。
「まったく、厄介ごとってのはまとめて降りかかってくるもんだ」
「そう思うならさっさと見捨てて我々に厄介者を押し付ければいいものを」
思わず口を出してしまった魔槍を持つ上級騎士に対してジャンは愉快そうに笑ってショートソードの片割れを肩に預けた。
「ハッハッハ!かもしれんな!だがな、俺には許せないことが三つある」
隣にいるサガミは「はじまったよ」と言いたげな目を向けていたが、ジャンは構わずに三本指を立てて言葉を続けた。
「ひとつは食物を粗末にすること、ふたつ目は相手に敬意を払わないこと。三つ目は、一度助けると決めたやつを見捨てることだ!」
この間は目玉焼きをめんどくさがってスクランブルエッグにすることだと言っていたのに、毎回コロコロと変わる内容ではあるが、その言葉には全面同意だ。ショートソードを構えるジャンに続いて、サガミも剣を構える。
「騎士と名乗るなら、それらしくハムナマの戦士と戦って勝つ事だな!」
「その意気やヨシ!魔石騎士団、上級騎士……魔槍のストラッカー・マンクス。推して参る!」
「ハムナマの戦士、ソリオ・ジャン・ハムナマ!受けて立ーつッ!かかってこいやぁ!」
雄叫びを上げるジャンへ、魔石を宿した槍、「エクサランス」を構える騎士、ストラッカー・マンクスが地を踏み砕くほどの勢いで一気にジャンへと襲いかかった。轟音を響かせて残っていた家々を吹き飛ばして遠くへと去っていくソレを見て、サガミは小さくため息をついた。
だから、戦っている場所を少しは考えろと声を大にして言いたかったが、ああなってしまうとジャンを止めるならぶん殴って止めるしかない。無駄な労力すぎてやる気が起きない。
「……サガミくんも良いですが、彼もまた良さそうですねぇ」
そんなサガミと対するアルネストは、パワーファイターなストラッカーと対等に殴り合うジャンを見て、新たな業者の原石の出現に心を躍らせている様子だった。
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自分とは少し離れた場所で好き勝手に飛び回る王とその従者。そして剣戟を交わし合う部下たちを見つめ、騎士団の団長であるリリアナ・ハイデルヴァインは小さく息を吐く。
気性難な王が単独で動くのは予想していたが、連れてきた上級騎士たちも好き勝手に戦い始めるのは予想外もいいところだった。
「騎士アルネスト。そうやって良いと思った相手を片っ端から生徒にしようとする癖、良くないわよ」
《失礼、性分なモノで》
一応、通信でそう説いてはみるが肝心の副団長はどこ吹く風で彼の気に入っている相手との戦いに没頭している。
治す気の無さそうなアルネストの性分であるが、リリアナにとっては今の状況は都合は良かった。
建物の影で息を潜める彼女の前には、瓦礫と化した旧拠点の前でデバイスを展開したファーンやエリッサたち……おそらく、相手の中で1番ジュエルシードを持っているであろうターゲットがいた。
ファーン・コラード。
エリッサ・ハートライナー。
クラリス・ハートライナー。
彼女たちの乗っていたL-U級外縁次元探査艦「エンデュランス号」を占拠した騎士団は、その船のデータベースから彼女たちの情報を全て調べ上げていた。
この世界の特性上、あの三人は満足にデバイスを使うことはできないし、ファーンは部隊の指揮官。その腕に持つケースの中にジュエルシードがある可能性は高い。それに仮にハズレであっても人質にしてしまえばどうにでもできる。
そう考えていると彼女たちへ一人の男性が合流するのが見えた。
「クロフォードさん!」
「みなさん、大丈夫ですか!?」
「な、なんとか……」
クロフォード・マックラン。このヘンリー・ヴァンダーでスイーパー・ギルドを率いるギルドマスターであるが……リリアナから見ても、その男からは今上級騎士としのぎを削るサガミやジャンのような強者たる覇気は感じられなかった。
「みなさん、デバイスはどうですか?」
「デバイスは実体化できるからまだ良いけど、魔法攻撃はダメ。出力が安定しないと言うか……過剰供給ですぐにオーバーロードしちゃう」
「なら、とにかく近接格闘で対処できる自信がある人は防衛を。それとコラードさん。あれは魔力による攻撃なんですね?」
「え?え、えぇ、そうです。この世界の特性でどうやってあれだけの魔力量を行使しているのかは疑問ですが……」
「とにかく皆さんは私の近くに!離れないように……」
防備を固めようと動くクロフォードだが、もう遅い。魔法がろくに使えない魔導師など、脅威にもならない。それに、こういうふうに「今から何かをしよう」とする初動のタイミングで仕掛けるのが、一番相手の意表を突ける。
「私は手早く本命を落とさせてもらおうかしら」
そう呟き、リリアナは自身の騎士甲冑を翻して飛び上がった。潜んでいた猛獣が獲物に飛び掛かるかの如く、魔剣を構えて姿を現したリリアナに、ファーンやエリッサたちは息を飲んだ。
「上から来たぁ!?」
すぐさまデバイスを使い防御を固めようとしたが、出力が安定しない。魔力素の濃さという影響を受ける以上、守る手段は物理的な防御だけだ。
〝魔剣抜刀〟
そんな希望をリリアナは毟り取る。魔石を宿す魔剣は彼女の意思に従い、その膨大で純粋な魔力を刀刃へ迸らせる。
「撃ち貫け、ラフトクランズ……!」
細身の刀身を模すリリアナの魔剣、ラストクランズを切先から相手に向けて突き出すと、一条の光が刀身から放たれた。アルネストが過去に放った魔剣抜刀のような膨大なエネルギーではないが、その分威力と貫通性を有した指向性の魔力放出。
ヤワな物理防御など簡単に打ち破るそれを前にしてファーンたちは声を上げることもできなかった。
だめだ。間に合わな……。
「クロフォードさん!?」
「こい、〝アルベド〟!」
ファーンたちの前へと躍り出たクロフォードが迫り来る光へ手をかざし、そう叫んだと同時だった。まっすぐファーンたちの元へと向かっていた光は、まるで何かに妨げられるように裂け、幾つもの光に分かれて四方へ散った。
魔剣を持って着地したリリアナは、その光景を見て予想外の誤算に顔を顰める。
「……驚いた。この世界で、そんなものをお目にかかれるなんて」
散り、行き場を無くしたエネルギーによって巻き上げられた土煙の中から姿を見せたのは、先ほど「覇気を感じられない」と判断したクロフォードと、彼の前に立つ半透明の存在だった。
翡翠色の剣のようなものを持ち、悠然とこちらの攻撃を阻んだその存在に、後ろにいたファーンたちは驚愕の表情を浮かべる。
「クロフォードさん……それは……いったい」
その問いかけにクロフォードは答えず。ただ前に降り立ったリリアナをまっすぐ見据えている。
「私が……サガミやジャンたちのように戦う力を持たない私が、なぜギルドマスターなんて役に収まることになったのか」
そう指を構えると、それに従うよう翡翠色の剣を持つ「アルベド」がリリアナに向けて剣を構えた。
「その理由、とくと教えてやろう」
「希少能力(レアスキル)……「生き霊付き」!」
冗談ではない!そう叫びたくなる衝動をぐっと抑える。
リリアナは、今眼前にいる男こそが、この場にいる誰よりも厄介な相手であるとすぐに理解することになったのだった。