マジシャンズ / 奪われたロストロギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第十七話「地獄の上でステップを踏んで(Ⅲ)」

 

 

クロフォード・マックランの人生は産まれながらにして悲劇だった。

 

特殊な固有能力である希少技能(レアスキル)。とくにクロフォードが生まれ持って得たそれは、各次元世界でも報告例の少なく、半ば伝承と化していた「生き霊付き(リビング・ガーディアン)」であった。

 

古代ベルカ以前の時代に残された文献では、生き霊付きは文字通り「生者の霊魂によって模られた守護霊」であるの記されていて、その霊魂は生き霊付きを発現した使役者の魂を基にしていると考えられているのだが、詳しい能力や発生起因などは全く未知のものとなっていた。

 

俗説では、魔法が台頭する以前に世界を統治していたとも言われており、文献で登場する旧世界の王達の多くが生き霊付きであったという論文を提出する歴史学者もいるほど。もし、クロフォードが管理局が統治する管理世界で生を受けていたら、彼の過去は大きく変わっていたはずだ。

 

だが、世界はそれほど優しくは無い。

 

彼が生まれたのは管理局の統治が及ばない管理外世界で、なおかつ力で全てを支配し、力で全てを手に入れられる暴力が当たり前の世界だった。

 

幼少期に発言した生き霊付きは、両親の教育とクロフォードの努力によって隠され、守られていたが、彼の住む街が賊に襲われた際に能力がバレ、クロフォードはその希少技能故に奴隷オークションにかけられた。

 

暴力によって富を得た者たちにとって、珍しい存在は自分を着飾るステータスだ。クロフォードは抵抗もできぬまま、転々と有力者たちの奴隷として買われ、そして売られた。

 

商品と化して、自分の存在価値も見出せなくなった中、その時買われた有力者の気まぐれで旅行に連れ出され……そして訪れたのがヘンリー・ヴァンダーだった。

 

何も知らない世界で、自分の権威が認められた世界と同じ振る舞いをする有力者が辿る末路は、どの世界でも同じだ。誰からも相手にされず、そのまま死地に足を踏み入れ、自身の力など及ばない圧倒的な暴力に蹂躙され、その哀れな人生の幕を下ろすのが相場として決まっている。

 

当時のクロフォードを飼っていた主人もそんな哀れな権力者たちと同じく、不用意に出た荒野で群れで狩りをする原生生物に襲われたのだ。

 

泣き叫びながら四肢を食いちぎられる主人や従者たちを呆然と見つめるクロフォードには、もはや生き延びたいという気力などなかった。

 

両親と引き離され、見世物としての生だけを強いられ、着飾る物として扱われてきたことに疲れ切っていた。ここで生き延びても、またそんな運命が待っているというなら、いっそこのまま名も知らない猛獣に食い殺されるほうがマシじゃ無いかと……。

 

当人の意思が弱ければ、生き霊付きも強さを発揮しない。無抵抗のまま、襲いかかってくる猛獣の牙を受け入れようと思った。

 

だが、その牙は幼いクロフォードに届くことはなかった。

 

『無事か?坊主』

 

一刀の大剣を持ち、襲いくる猛獣を斬り捨てた存在。捨てようとしていたクロフォードの運命を拾い上げたのは、当時のスイーパー・ギルドを率いていたキャンロイ・タイサだった。腕利きのスイーパーでもあったタイサは、当初は秩序を乱しかねない外世界の権力者一行を見殺しにするつもりだった。現に権力者とその従者はすでに果てていて、生き残ったのはクロフォードただ一人だった。

 

『貴方も……俺の力を手にするために生かしたんですか……?』

 

荒野の中、スイーパーを表す肩章を風にはためかせるタイサに、クロフォードは絞り出すような声でそう言った。すると、タイサは何でも無いような声で答えた。

 

『ウチには若手がいなくてな。お前さんくらいの年頃の働き手が欲しかったのさ』

 

『……はい?』

 

ぶっちゃけ、同情や哀れみなどタイサには無かった。ただ直感が告げていたのだ。コイツは人生に飽き飽きしていて、何もかもがつまらない。いっそのこと捨ててしまいたいと考えていると。

 

『捨てても良いものだろう?なら、俺の下で存分に働いて死ぬが良い』

 

今思えば、血も涙もない言葉であったが……クロフォードのこれまでの人生は「生き霊付き」という希少技能でしか価値を見出されていなかった。それ以外を認められ、求められたということが無かった彼にとって、タイサの裏表のない本心の言葉のどこかで……救われたような気がした。

 

それに、実際にスイーパーギルドで働き始めると思っていたほど酷くは無かったのもある。もちろん、荒事や辛いこともあったのだが、それを上回る新しいことへのチャレンジ、発見、そしてタイサやスイーパー・ギルドに属する面々からの感謝の言葉。荒事に揉まれながらも、クロフォードは確かにここで、失っていた人間らしさを取り戻すことができたのだった。

 

生き霊付きという希少技能だけで見てこない。色眼鏡を使わない彼らと共に過ごした日々は、クロフォードにとってかけがえのない思い出となっていた。

 

そして、恩人であるタイサから、このスイーパー・ギルドを託された。そのギルドが管理局という勢力に協力するというなら、それを拒む理由などない。

 

自分は、この世界とこのギルドに救われた。だから、恩を返すために、クロフォードはその身を尽くす。

 

希少技能をただ有する存在ではなく……ギルド・マスター、クロフォード・マックランとして。

 

 

 

 

 

「その能力を持っているとは……予想外も良いところよ!」

 

クロフォードと対峙したリリアナはこの世界の破天荒さと、スイーパー・ギルドという強敵の出現に思わずそんな言葉を声に出してしまう。

 

「外縁世界は驚きと恐怖で溢れていますからね」

 

そんなリリアナにクロフォードはゆったりとした口調でそう答え、まるでオーケストラを指揮する者のように手を振るうと、翡翠色の剣がリリアナに振るわれる。

 

生き霊付き。

 

古代ベルカ以前から言い伝えられてきた希少技能の中で、現代ではトップクラスで存在確認がされておらず、創作物や御伽噺といった創造物ではないかとまで言われてきた存在だ。

 

騎士団を率いるリリアナも枕物語や童話でそう言った者が出てくる話は聞いたことがあるが、現実に存在しているなど想定外もいいところだった。

 

半透明の人を模った守護者は、まさに創作物で語られているままであり、手に持っている翡翠色の剣は、見るだけでその異常性を理解できるものであった。

 

御伽噺で語られる生き霊付きの能力。それは、魔と人の隔離。ソレに認められた者は魔を与えられ、拒絶された者は魔と隔絶される。だから、御伽噺で出てくる生き霊付きは物語の結末を決めるファクターとしての役割を担うことが多かった。

 

主人公に魔法を与え、悪役からは魔法を奪う。

 

そして、拒絶した者は隔絶し、認めた者は通す。

 

それが本当だとするなら……先ほど放った魔剣抜刀による指向性の放出魔法を平然と受け切ったことも頷ける。拒絶した者を隔絶する……推察ではあるが、それは魔法に対して絶対的な防御力を誇るということだろう。

 

そんなもの魔法を使う者からすると天敵以外の何者でもないではないか。

 

「相性最悪じゃない……!」

 

「それが分かったなら諦めてもらえませんか?」

 

そう言って生き霊……クロフォードが「アルベド」と呼ぶ者を操る。アルベドは彼の魂の一部を切り分けて実体化させている存在だ。そして、その強さは使役者の精神力によって左右される。

 

ならばと、リリアナはクロフォードから距離をとって魔剣ラフトクランズを構える。

 

「なら根比に負けたら考えるとしましょう」

 

魔剣抜刀。

 

その言葉と共に再び刀刃が極光を放つ。当然のやうにアルベドはその光を剣で阻み、飛散させる。攻撃として指向性の放出魔法は無駄ではあるが、それでも積み重ねれば消耗させることはできる。

 

魔石を有した魔剣の放出魔法に際限はない。上級騎士に与えられる魔剣の錬鉄で使用される魔石は、最高クラスの純度を持つ魔石だ。そのクラスになると一握りある魔石に含まれるエネルギーは、管理世界一年分の消費エネルギー量を余裕でまかなえるほどだ。たかだか一撃の放出魔法など、その総量から見れば砂粒にもならないほどの消費だろう。

 

対して、あちらは魂を実体化させているのだ。

 

「生き霊付きは言わば精神力の具現化……それが尽きれば、流れはこちらに来る!」

 

魔剣抜刀。間隔を空けず、放出魔法の連打。バカの一つ覚え。まさに魔力にものを合わせた戦術であるが、それは確かにクロフォードへの負荷を着実に増やしていく。

 

(長期戦を狙っている……まずいですね)

 

それをわからないほどクロフォードは愚かではない。構わずにあれほどの威力の攻撃を連続して放ってくるあたり、どうやらエネルギーの残量に余程の自身があるのだろう。顔には出さないようにしているが受けるたびに確実に疲労感は増している。

 

アルベドを動かせれば、多少はやりようはあるのだろうが……今は自分の後ろには守るべき者たちがいる。なので、この位置を変えるわけにはいかない。

 

「クロフォードさん!」

 

「下がっていてください!ここでは貴方達は……」

 

心配から声をかけるファーンに振り返りながらそう言うクロフォードだが、同時に自分やファーンたちがいる場所の後方。木造の家屋をぶち抜き、土煙と共に現れる相手が視界に入る。

 

背後を取られたことに気付いたのは、その敵の出現と同時だった。

 

「隙を見せたな!エクサランス、魔剣抜刀ォ!」

 

「良いタイミングです、騎士ストラッカー。ならば私も、魔剣抜刀!」

 

ジャンとの殴り合いを脱してリリアナに加勢しにきたストラッカー・マンクスは、上級騎士の中でも戦士の気質が高い。特に彼の扱う魔槍はその見た目と同じく大容量の放出魔法を得意としている。可視化された魔石の魔力がまるで旋風のように槍を多い始め、魔剣抜刀の声と共に極光となって打ち出された。

 

(逆方向からの攻撃!?一方向からしか防げない!)

 

前から迫るリリアナの一閃と、背後から迫るストラッカーの一閃。いくらアルベドが対魔力にアドバンテージがあるとはいえ、防げるのは片側だけだ。このままでは、ファーンやエリッサたちが危険に晒されてしまう。

 

エリッサたちを飲み込まんと迫る光。その間に一つの影が降り立った。

 

「ガラ空きだなぁ!背中がぁ!」

 

「ジャン!?」

 

現れたのは頭から血を流しているジャンであった。彼は手に持った二対のショートソードを交差させるように構え、迫り来る魔力の濁流と向き合ったのだ。魔力を持たない人間からすれば自殺行為に他ならない。

 

だが、そんなものは関係ない。

 

なぜなら、ソリオ・ジャン・ハムナマは、ハムナマの戦士なのだから。

 

「エネルギー集中……スゥぅー……ハムナマァアアッ!」

 

体を通して出る力というべきか。雄叫びを上げたジャンの腕から現れたのは文字通り、エネルギーそのもの。それが彼の持つ剣を覆ったと同時に溢れんばかりの光がジャンを覆い尽くした。

 

そのまま光に飲まれ、その後ろにいる仲間ごと葬り去るはずだったのだが、なんとその光は剣を交差させるジャンの立つ位置で停滞していた。

 

「バカな、魔剣抜刀を受け止めるだと!?」

 

「うおおぉおお!踏ん張れぇ、俺の中のハムナマァア!」

 

圧倒的な熱量を持つ閃光を真っ向から受け止めるジャン。交差させている刀刃は熱で赤く染まり始め、踏ん張る足も地面にめり込み始める。それでも、エネルギーの放流は後ろに漏れることはない。

 

「嘘……」

 

反対側でリリアナの一撃を防ぐクロフォードも、そんな二人に守られるファーン、エリッサ、クラリスは信じられないものを見るような目で、徐々に弱まり消え去る放出魔法の全てを受け切ったジャンの後ろ姿を見つめていた。

 

全身から煙をあげ、剣は焦げ付き、服もあちこちがチリチリと熱でやられているジャンは、立ったまま気を失っていた。それほどの苛烈なエネルギーを体一つで受け切ったことに、ソレを放ったストラッカーは純粋に賞賛の眼差しを向ける。

 

「見事だ、ハムナマの戦士よ。だが、無謀と無策で切り抜けられるほど……」

 

そう言って気絶するジャンへトドメを刺そうとするストラッカーだったが、真横から振るわれた直剣の殴打によって意表を突かれ、瓦礫へと吹っ飛んでいく。

 

「上出来だ、ジャン」

 

左肩にかけた肩章をはためかせながら、ジャンの前に立ったのは、サガミだった。彼からの言葉に立ったまま微動だにしなかったジャンが再起動を果たす。

 

「はっ!少し飛んでた!?どうなった!?アーっ!俺の獲物がぁ!?」

 

ボロボロな体より最初に気にするところはそこか。焦げてしまい、刃も潰れたショートソードの有り様に愕然とするジャンだが、敵もおとなしくはしてくれていない。

 

吹き飛ばしたストラッカーは早々に立ち上がり、さらにサガミがさっきまで相手にしていたアルネストも敵に合流を果たした。

 

「本当に、厄介ですねぇ。大人しくソレ渡してもらえません?」

 

「渡してもロクなことにしかならないだろ……」

 

片方はジュエルシードを持つ者たちを守るため、片方はそのジュエルシードを奪うため。お互いに睨み合いながら剣を構える。一切介入できない管理局側ではあったが、その均衡は以外な形で破られることになった。

 

睨み合うサガミたちとは別の場所。

 

王の従者であるレヴィと切り結んでいたフェイトとメリーだったが、突如としてフェイトの腰にあるケースから光が溢れ出したのだ。

 

「な、なんで!?」

 

目を向けるまでもなく、光を放っているのはファーンから託されていたジュエルシードからだ。

 

狙ってくる相手を欺くため、そしてフェイトにとっては亡き母の形見でもあることから、ファーンは彼女にジュエルシードを託していたのだが、まさかそんな形でバレてしまうなんて考えましていなかった。

 

「そっちが持ってたの!?じゃあ僕に渡し……うぅ!?」

 

そう言って手を伸ばし、フェイトからジュエルシードを奪おうとするレヴィだったが、その手は体ごと拒絶され、後方へと吹き飛ばされる。咄嗟にバルニフィカスで受け身を取り瓦礫に叩きつけられるようなことは回避できたが、耐えきれない反発力で吹き飛ばされたことにレヴィは驚愕の表情を浮かべる。

 

そして、その現象はレヴィに限らず、持っている当人にも生じていた。同じく反発する力によって吹っ飛ぶフェイトは、そのまま近くにいたなのはの前に倒れ伏せた。

 

「フェイトちゃん!?」

 

「何だ!?」

 

ケースはひとりでに浮き上がり、溢れ出る光はさらに強まっているように感じられた。おまけにケースには大きなヒビが入り、さらに広がっているのが見えた。

 

「ジュエルシードが……起きようとしてる!?」

 

「おいおいおい、待て待て待て!?保護ケースは完璧だったんだろ!?」

 

「えぇ、そのように設計されています!耐久試験もしっかりと……」

 

「魔力素が濃いことも考慮した?」

 

「……あー……」

 

明確な回答が得られない中、ついにケースは弾け飛び、空中には目覚めかけているジュエルシードが円陣を組むように浮かんでいたのだった。

 

 

 

 

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