マジシャンズ / 奪われたロストロギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第二十話「敵である理由」

 

 

 

陽が落ち、夜更けとなったリニアの街は変わらずに交易拠点として賑わっていて、訪れる交易船の乗組員目当てに街の至る所で屋台や屋外飲食店が店を開いている。

 

賑わう街の外れにある桟橋にたどり着いた砂船から降りたなのはたちを迎えたのは、クロフォードがあらかじめ通信機で連絡を取っていたスイーパー・ギルドの面々だった。

 

「まずは負傷者の運び出しだ!」

 

「サンドワームの巣に行ったのは知ってたけど、よく無事に戻って来れたもんだ」

 

そんなことを口にするギルドのメンバーやスタッフたちは、手際よく怪我を負ったファーンを担架に乗せたり、砂船に積まれた荷物などを運び出ひていく。ドタバタと慌ただしい状況でなのは達が邪魔にならないよう退いていると、1人管理局のメンバーの中でスイーパー・ギルドに残っていたレイカ・ヴァーンが、なのは達の元にやってきた。

 

「やっと戻ってきたわね。大変だったらしいじゃない」

 

担架に乗せられているファーンとすれ違ったレイカはクタクタになっているなのはやメリー達を労わる。彼女はファーン達が乗船していた次元航行艦「エンデュランス」の専属メカニックであり、同時に次元外縁調査隊のメンバーでもあった。

 

なのはたちのように戦う術を持たないがため、レイカはスイーパー・ギルドに残る選択をしたわけだが、彼女は怪我を負ったファーンの様子や、疲れ切っているなのは達の様子を見て、思った様な結果が得られなかったことを察する。

 

「……話はタイサから聞いていたわ。とりあえず、無駄骨にならなくてよかったわ」

 

無駄骨にならなかった?そう言うレイカは、なのはたちについてきてと告げる。彼女が向かった先はスイーパー・ギルドの裏手にある輸送機の発着場であった。

 

「これって……輸送機?」

 

なのはたちの視界に入ってきたのは、停留場所に鎮座する輸送機の残骸だった。

 

至る所に防風用のシートが貼られてはいるものの、なんとか原型を留めているその残骸を、レイカはそっと撫でる。

 

「墜落したランダー号を引き上げてきたのよ。あのままにしておくわけにもいかなかったみたいだし」

 

F506ティラー級 ストライクヴェクター輸送艇「ランダー号」。エンデュランスから脱出し、この世界へファーン達を連れてきた船が、まさにこのランダー号であった。

 

しかし残念ながら墜落の影響で通信機器や補助ユニット、エンジンもダメになってしまっているので、輸送機としての能力は皆無となっている。

 

ただ、荒野地帯のど真ん中に放置されていると原生生物の生態系に悪影響を及ぼす危険もあったため、なのはたちが旧拠点に向かっている間にタイサをリーダーにして墜落したランダー号を回収しに行っていたのだった。

 

「だからレイカさんは残っていたんですね」

 

「まぁ回収だけが目的じゃなかったわけだし」

 

首を傾げるなのはたちへ、レイカは再び手招きをして場所を変える様に歩き出した。

 

次に案内されたのはスイーパー・ギルドの建物内にある一つの部屋だ。ここは元空き部屋だったのだが、今後のことも考えてレイカがタイサに交渉し、その部屋を借り受けることができた部屋であり、レイカの後に続いて入ったなのはたちは部屋の内装を見て目を疑った。

 

西部開拓時代のような内装だった廊下から打って変わり、部屋には至る所に電子機材が置かれていて、中には管理局の技術本部にもあるようなデバイス調整用の機材も置かれていた。

 

この全てはランダー号に積まれており、レイカは引き上げた残骸から無事だった機材を運び出し、この部屋に運び込んだのだった。

 

幸い、ランダー号の発電機は無事だったため、急拵えであるが動力源をヘンリー・ヴァンダーで主流なバイオ燃料に換えたことで、この部屋にある機材の電源は確保することができていた。

 

部屋にかけられている白衣を肩にかけ、レイカは呆然と部屋を見渡しているなのはたちへ手を差し出す。

 

「とりあえず、全員のデバイスを出してちょうだい」

 

そういうとレイカに、なのはたちは困惑しつつも、自分のもの、フェイト、はやて、メリーにエリッサ、クラリスのデバイスをレイカへと渡す。全て受け取ってから、「また呼ぶから待ってなさい」となのはたちを部屋から退出させ、レイカはそのまま部屋に引きこもってしまった。

 

また呼ぶと言われてもどれだけの時間を待てばいいのだろう、なんていう質問を受け付ける間もなく部屋の扉は閉ざされてしまい、デバイスを渡したなのはたちは、ただ部屋の前で立ち尽くすことしかできなかった。

 

「ん?どうしたんだ?お前たち。廊下に集まって」

 

そこに偶然通りかかったサガミ。文字通り出待ち無沙汰となってしまったなのはたちの状況を見て、なら外に出るかとサガミは賑わう夜のリニアの街へなのはたちを連れ出すのだった。

 

 

リニアの街は、昼と夜でその顔色は180度変わる。昼間は鉱山作業者や砂船などの職人たちが仕事に従事し、夜は訪れた交易船の乗組員たちが飲み食いを楽しむ歓楽街となるのだ。

 

サガミと合流したなのはたちは、その後、ジャンやジェイク、ひと段落したクロフォードも誘う形で屋台で賑わうリニアの街へ繰り出していた。

 

「サガミさん!いらっしゃい!ヴァンダー焼きでも買ってってよ!」

 

「悪いな、女将さん。また今度」

 

「よぉ!サガミ!そんな大所帯なのは珍しいな!」

 

「旅の観光客を案内してるんだよ」

 

「サガミさーん!いっぱい飲んでいきませんか!?」

 

「今日はお客さんがいるから、また今度寄らせてもらうよ」

 

リニアの街でも1番賑わう大通りを通ると、屋台を開く者、店を構える者、呼び込みをしている若い女性と、様々な人から声をかけられるサガミ。ジャンやジェイク、クロフォードも声をかけられているのを見て、なのはたちはキョロキョロと街並みにある店々を眺めていた。

 

「スイーパー・ギルドは街の厄介ごとも請け負うので、こうやって色々な人と繋がりがあるんですよ」

 

クロフォードが言うとおり、ギルドには様々な問題ごとが降りかかってくる。飲み代の踏み倒しや、近隣住民間のトラブル、痴情のもつれ、街のインフラ整備などなど……。そう言った困り事やトラブルを解決するのも、スイーパーの仕事の一側面であった。

 

「中でもサガミが人気だよなぁ。俺も結構色々やってるのに」

 

「先輩は小さな厄介ごとを大きな厄介ごとにすることが多いから……」

 

「ジャンは疫病神みたいなもんだからな」

 

「なんだとぉ!?」

 

バッサリと酷評するジェイクとサガミに抗議するジャンであるが、砂船の件や、旧拠点での活躍を見たなのはたちは、ソリオ・ジャン・ハムナマに対する評価についてサガミやジェイクに概ね同意していた。クロフォードいわく、バケモノ退治には特効薬なんだが、いかんせん事務作業や対人トラブルに対しては能力過剰なのだとか。

 

「オヤジ。特製スープを……えーと、10個くれ」

 

「よぉ、サガミ!今日はやけに大所帯だな。お前さんたち、観光かい?」

 

サガミ行きつけの屋台に辿り着くと、恰幅のいい親父はいつもよりも多い人数に驚きつつも、昼間に準備を済ませていたスープを手際よく器へと注いでいく。

 

香草や薬草を煎じ、そこに深みのあるガラスープを加えて煮込んだそれは、サガミのお気に入りの味だった。さらにそこへ別皿に用意していた肉団子や具材を手際よく投入していく。最後に粗く引いた香辛料を振りかけてスープは完成する。

 

「こんな辺鄙な場所に来たんだ。嬢ちゃんたちにはサービスしてやる」

 

そう言って店主はなのはたちの器にナイフで一口サイズに切った塩漬けの肉を入れていく。その塩漬け肉はリニアではポピュラーな食べ物であり、スープに浸すことで塩味と肉の旨みが出ることから裏メニューとして人気な食べ方でもあった。

 

「おやっさん!俺は?俺俺!」

 

「ジャン、テメェは塩漬けの肉をそのまま食うだろ。そのうち死ぬぞ」

 

ちなみに塩漬け肉は保存食であるため、基本的に湯煎して塩分を落としてから食するのが普通なのだが、ハムナマの戦士は生を丸かじりで解決する。その塩分は人が一日に摂取していい量ではないのだが、ハムナマの戦士は栄養になるのなら気にしないのだ。

 

器をそれぞれ受け取ってから、近くにある長机と長椅子に座るなのはたち。さっそくスープを食べ始めるサガミたちに習って、なのはたちもスープを口にしていく。

 

「あ、これ美味しい」

 

臭みもなく、飲みやすいあっさりしたスープ。肉団子はジューシーさがありながらもスープの邪魔を全くしない。またサービスで入れてもらった塩漬け肉がいい仕事をしている。肉の旨みと程よい塩気が疲れた体に染み渡っていくのがわかった。

 

「気に入ってもらってよかった。あそこはおすすめの店なんだ」

 

口に運んで舌鼓を打つなのはたちを見て、サガミは安心したようにそう言った。

 

すると、サガミの隣に誰かが座った。屋台の席は基本的に誰でも座れる場所。相席なんて日常茶飯事だ。特に気にすることなくサガミは隣に座った人を横目でチラリと見た。

 

「あぁ、サガミくん。隣失礼しますよ。ふむふむ……これも悪くはないですね」

 

仲間で団欒してる中、一人端っこでなのは達が美味しいと言っていた屋台飯のスープを飲みながらホワホワと笑う人物。

 

サガミは思わず顔を引き攣らせた。

 

その人物は、ここ最近の中で最も濃く、記憶に残る男だったからだ。

 

「みなさん、こんばんわ。同席してすいませんが、改めまして……魔石騎士団の副団長を務めさせていただいているアルネスト・エッセと申します。」

 

気がついた瞬間、全員がばっと身を後ろに下げた。

 

アルネスト・エッセ。

 

サガミとファーストコンタクトをした魔石騎士団の上級騎士の1人で、騎士団の副団長を務める男だ。ただ、戦いの中で身につけていた騎士甲冑は脱いでおり、服装もリニアの街にいる他の一般人と同じような目立たないものとなっている。それに、騎士の証でもある魔剣も今は帯刀していない。

 

しかし、だからと言って受け入れるのも警戒を解くこともサガミたちはしなかった。

 

そんな張り詰めたような空気感の中、サガミたちと同じく屋台飯を味わうアルネストは木製のスプーンを器に戻してあっけらかんと言葉を放った。

 

「別に取って食おうとはしませんよ。私も人ですし、腹も減ります」

 

それにリニアに入ってはいけないとか、なにかしらルールも決めていないでしょう?と言葉を続けるアルネスト。たしかに、リニアはスイーパー・ギルドの監視下にあるが、それは街中で騒ぎやトラブルがあったときだけ。基本的に外世界からくる交易船で賑わう街だ。人の出入りも激しいし、街に入る者たちを監視するほどインフラや監視システムなんてものは発展していない。

 

つまり、魔石騎士団であろうが管理局であろうが街に入ることに特に制約などは存在しないのだ。

 

「……ここに何をしに来た?ジュエルシードを奪いに来たのか?」

 

「まさか。そんなモノに私は興味なんてありませんよ。あれは単なるモノ。でも、我々が何を目的にしてアレを狙うのか。知らないとそちらも不気味でしょう?」

 

あくまでここに来たのは個人的な価値観と意思です、とはっきり言うアルネストに、サガミたちは一旦立った席に腰を下ろす。ただ警戒心は解いていない。張り詰めた顔をする面々を見てアルネストは降参と言わんばかり両手を軽く上げた。

 

「心配しないでください。私、不意打ちは嫌いなんです。まぁ……そちらが戦いで応じるというなら抵抗はさせていただきますが」

 

「あの、具体的にはどんな抵抗を?」

 

おそるおそる聞くはやてに、アルネストは少し考えてから答えた。

 

「とりあえずこの街一体を壊滅させて、火をつけて混乱を招いている間に闇にでも消えますかねぇ」

 

「よぉし、お話とやらをしようじゃあねぇか」

 

そう言ってサガミはすぐにアルネストの提案に乗ることにした。なのはたちもすぐにサガミに同意する。アルネストはおおらかな表情でそうは言っていたものの、目が全く笑ってなかった。おそらく、アルネストは「やると言ったらやる男」だ。

戦いの最中にサガミを騎士団へスカウトしてきた精神を持つことから、そういった嫌な面でサガミはアルネストを信用していた。

 

「良いですねぇ、話が早いのは嫌いじゃないです。では、私たち騎士団がなぜジュエルシードや、そちらが危険遺失物(ロストロギア)と呼ぶものを狙うのか、その理由についてお話ししましょう」

 

そう言って、アルネストはサガミやなのはたちを見渡してから、まるで御伽噺でもするかのようにゆったりとした口調で話を始めた。

 

「私たちがジュエルシードを狙う理由。それは単純な話、アレの元の所有権が我々にあるからです」

 

「……ジュエルシードの所有権?」

 

思わずフェイトがそう声を上げると、アルネストは静かに頷く。

 

「あれの素体に、「魔石」が使われているのですよ。もちろん、そうでないモノも存在しますが、ジュエルシードをはじめ、古代ベルカ後の混迷期に作られた古代遺失物の大半は、魔石が使われている傾向が高い」

 

魔石。初めてその言葉を聞いたなのはたちは、顔を見合わせた。ふむ、まずはそこからですね、とアルネストも改めて魔石騎士団の根幹である魔石について話を続けた。

 

古代ベルカに存在したその小さな国から産出された高密度の魔力結晶体。天然自然が生み出したそれを、人々は魔石と呼び、時には豊かさを、時には強大すぎる力を求め、奪い合った。古代ベルカの絶望的な戦乱と終焉には、その魔石が使われ、多くの犠牲と共に兵器や武器として使われた魔石はベルカが滅んでから、数多の次元世界中に散らばることになった。

 

「我々魔石騎士団は、外勢力がその魔石を悪用することを防ぐために結成された騎士団です。ジュエルシードを知っている貴方達なら理解できるでしょう?魔石の持つ強大な力と危険性を」

 

「騎士団なら、魔石由来の遺失物を適切に管理できると?」

 

「正確にはできていました。時空管理局のような組織が台頭するまでの間、我々のような存在が多くいて、この次元世界の秩序と平和を守ってきた」

 

新暦になってまだ半世紀。時空管理局が台頭した時代とはいえ、ヘンリー・ヴァンダーのような次元世界の端にあるような場所や、未開拓な世界では旧世界のルールや規律が重んじられていることは管理局も承知しているはずだ。

 

そして、そんな旧世界の治安を統治してきたのが各次元世界を牛耳る豪族や貴族、そして魔石騎士団のような組織でもあった。

 

時空管理局という世界を管理、監視をする巨大な組織が台頭し、存在意味を失いつつある今では、そう言った過去の遺物たちも体制に組み込まれたり、または弱体化したり、自然に消滅したりと、さまざまな道を進んでいる。

 

「より強大な主義によって小さな主義は淘汰される。そうやって歴史や人理は進んでいきます。それは仕方のないことです。ただ……貴方達では、魔石は身に余る」

 

ベルカにおける最終戦争。その悲惨さは騎士団の中でも語り継がれている。地は死に、空は赤く染まり、海も川も湖も枯れ果てた。あの時代からまだ立ち直れていない深い傷を負った世界などいくつも存在する。それでも時は進んでいて、今ではあの時代の絶望も知らない者たちが世界を管理、監視しようと言うのだ。

 

あの地獄を生き、今も受け継がれている騎士団から見れば管理局という組織はあまりにも脆弱に見えた。

 

「……だから、奪ってでも管理をするということかしら?それこそ、貴方達が秩序や平和を乱しているのではないの?」

 

そう反論をしたのはなのはたちではなくメリーだった。彼女もまた、ダグマイア家という歴史を持つ一族の出身だ。ベルカの戦乱の世も知ってはいるものの、それでも騎士団のいう所持の権利はあまりにも横暴のように思える。

 

その反論にアルネストは、わずかに視線を鋭くさせた。

 

「秩序、平和。面白いことを言う。……それは管理局とやらが、そのどちらかでも維持できて初めて言える言葉ですよ」

 

冷たい言葉だった。管理局が次元世界を管理し始めてから、その二つのうちのどちらがこの次元世界にもたらされたというのか。

 

「それは……!」

 

「最近の貴方達はどうです?デバイスとやらの開発競争によって増え続ける魔法犯罪。魔法という力に頼った結果、慢性的な人材不足に陥ってる。そんな状況で弱者に降りかかる不幸を防ぎ、彼らを救うことができてると言えますか?」

 

追い打ちをかけるようにいうアルネストの言葉に、メリーは何も言い返すことができなかった。反論したい気持ちはあるが、それに足る言葉が浮かんでこない。

 

それはなのはたちも同じで、とくにフェイト、はやてには突き刺さる言葉だった。アルネストの言う通り、個人向けのデバイス開発が加速してからと言うもの、ミッドチルダや管理世界の各地で魔法犯罪の増加が顕在化しているし、慢性的な人手不足も解消の目処が立っていない。

 

被害に遭って悲しむ者を見ているフェイト、それを数字とした認識させられるはやてにとって、アルネストの言葉に反論する余地はなかった。

 

「……その沈黙が、何よりの証拠ですな。豊かさと権力を求めて破滅へと笑って突き進む。悲劇的な末路を辿ったあの時と、何も変わらないじゃないですか」

 

「悲劇的な末路……?」

 

おっと、そこまでは話すべきではないですねと、思わず口に出た言葉を飲み込むと、アルネストは鋭い目つきを解き、明るい口調で言葉を続けた。

 

「それ以上はまた次の機会に。我々がジュエルシードを狙う理由についてはしっかりと話させて頂きました。そこで、私からの提案なのですが……貴方達、我々騎士団の仲間になりませんか?」

 

思わず、なのはやフェイト、はやて、メリーもエリッサもクラリスも顔を顰めた。もちろん、サガミもだ。そんな当事者たちの様子など気にすることもなくアルネストは勧誘を続ける。

 

「貴方達は実にいい。特にサガミくんとジャンくんは格別だ。あぁ、他の方々も良いですよ?この世界の特性を理解した上で工夫して戦えるよう努力した。それだけでも、実に優れていると言えます」

 

「古びた主義を淘汰するため、より良き物のために新たな主義に加担しろと?」

 

「いえいえ、そこまで大言壮語は吐きません。しかし、私の主義は強さこそが絶対。強者こそが絶対者であるべきと考えています」

 

それはアルネストの理念だった。強さこそが絶対という歪んだ理念ではあるものの、それがアルネストの意思を形作っている。

 

「何かを変える。誰かと対峙する。争う、競う、奪い合う。それをする以上、強さが求められる。力であれ、精神面であれ、強さとは権力へのチケットです」

 

相応のポストもお約束しますよ、と付け加えるように言うアルネスト。全員の答えは決まっていたが、真っ先に声を上げたのは黙って話を聞いてきた戦士だった。

 

「断る」

 

はっきりと誘いを切って落とすジャンに、アルネストは肩をすくめた。

 

「理由を聞かせてもらっても?」

 

「話が長い。そして考え方がせこい」

 

これまたバッサリである。思わず隣にいたサガミが吹き出した。不満そうに眉を上げるアルネストに、ジャンは腕を組んだままため息をついた。

 

「あのな。強いってことが全てか?いいや違うね。俺は強い!なんたってハムナマの戦士だからな!」

 

「出たよ、ハムナマ節」

 

「だが、それだけだ。俺は書類処理なんて出来ねぇし、考えるよりも前に手がでちまう。冷静な奴がいなけりゃ目の前が崖だろうが突っ走る自信がある!」

 

それってただの考えなしなのでは?と思ってしまったなのはたちはさておき、ジャンはのんびりと座っているクロフォードを指差して話を続ける。

 

「とくにクロフォードは弱い!小鳥に襲われれば負ける!薄っぺらい紙すら満足に破けねぇ!」

 

「いや、そこまで貧弱じゃないですよ!?」

 

「だが、コイツがいないと俺たちは纏まらねぇ。弱者だが、俺たちを束ねる強さがある」

 

堂々と言い切ったジャンに、その場いる全員が押し黙った。アルネストは面白そうに顔に笑みを浮かべる。

 

「料理がうまいやつ。知識が豊富なやつ。手先が器用なやつ。そいつらが弱いなんて俺は思ったことはねぇ」

 

強さは腕っ節だの、喧嘩が強いだの、腕力があるだの、そんなものだけじゃない。強さとは実に多彩。腕っぷしだけの強さじゃなにもできない。

 

強いは絶対者じゃない。

 

強いってことは自由なんだ。

 

「いいですね。ほんとうに……貴方たちは実にいい。ますます気に入りました」

 

ジャンの言葉に、アルネストは心底嬉しそうにそう言った。その精神、その考え、思考、思想。全てが合格点だ。間違いなく、ジャンもサガミと強者といえる。

 

「是非、騎士団に迎えたいところですが……残念ですね。もし違う形で会えていたらと悔やむばかりですよ」

 

そう言って、アルネストは空になったスープの器を持ち席を立つ。思わず全員が警戒するが、彼は何のこともなくそのまま食器を屋台へ返し、なのはたちへ頭を下げた。

 

「大変有意義な食事でした。我々の目的も伝えられました。……次に出会う時は、我々は全力でジュエルシードを奪わさせていただく」

 

それでは、ご機嫌よう。

 

別れの言葉を残し、アルネストはリニアの喧騒の中へと消えていく。

 

サガミはすぐにでも捕らえたい気分であったが、街には人が多すぎる。こんなところで剣を抜くわけにはいかなかった。なのはたちもデバイスを持ち合わせていないため、できることはなにもない。

 

そうして、騎士団のナンバー2は、悠々とリニアの街から姿を消したのだった。

 

 

 

 

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