マジシャンズ / 奪われたロストロギア 作:紅乃 晴@小説アカ
デバイス。
それは管理局に属する魔導師と呼ばれる者たちが総じて有する代物であり、世界において魔法補助のために作られた杖や武器などの機械類の総称だ。
一から十までを全て説明すればとてつもなく長いため、超簡単に説明するといわゆる「魔法の杖」となるのだが、その技術的アプローチの根幹は科学技術を根としている。
もちろん、オカルト染みた魔法使いのような者も存在するが、科学的な魔法技術を使う者たちと比較するとその数はごく少数なのである。
このデバイスと呼ばれる機械類だが、その本質は術者の魔法特性に合わせた様々な魔法プロセスを保存する記憶媒体だ。そもそも魔法の杖というのは複雑な魔法技術の工程をある程度省略するためのアイテムにすぎない。たとえば、魔法呪文の高速詠唱プロセスの補助、魔力の循環効率化などなど、杖なしでも実行可能ではあるが、その手間暇を解消することを目的に作り出されたのが「魔法の杖」なのである。
なので、杖=魔法が使えるではない。あくまで魔法使いの補助機械であることが前提だ。
さて、そんな代物に科学技術が合体すればどうなるか。呪文を肩代わりしたり発動を高速化してくれたり、補助をしてくれているおかげで、魔導師たちはいろんな魔法をすばやく展開できるようになったわけであり、その技術体系が「ソフトウェア」として横へ展開できるようになったのである。
一子相伝、一族の秘術、ごく限られたものにしか伝承されない代物であったソレをわかりやすい形へと昇華し、量産したわけだ。
そのため、管理局のデバイスの機能は洗練されている。携帯しやすいようカード型やアクセサリー型などになる待機形態、魔法の発動媒体として使用する稼動形態、任務や状況に合わせて様々なシチュエーションに対応することもできる。
そんな便利なデバイスであるが、ただ一つ、大きな課題がある。
それはメンテナンス性とコスト、高い技術力が要求されることだ。天然自然の素材で作られるような魔法の杖とは違い、デバイスはいわばメカトロニクスの集合体のようなものだ。雑に扱えば壊れやすいし、定期的なメンテナンスも必要になる。
資材や環境も劣悪な場所で運用するとなれば、本来の性能どころか満足なメンテナンスもできない。
そのはずだった。
「新しいパッケージを追加したわ。といっても急増品だけどね」
サンドワームに襲われ、その幼体のバーベキューに舌鼓をうち、帰ってきて屋台飯を食べていたら敵組織のナンバー2に仲間にならないかと勧誘され、怒涛の1日を過ごしたなのはたちがスイーパー・ギルドの客室で泥のような眠りに落ちてから半日。
ファーンの容態も安定し、片松葉杖で歩けるほどに回復した頃になって、借り切っていた半ばラボ化している部屋から出てきたレイカ・ヴァーンは広間へなのはたちを集めるよう指示を出し、そして集まった彼女らへ開口一番にそう告げたのだった。
レイカかは返却された待機状態のデバイスだが、若干の変化があることに渡された全員がすぐに気付いた。なのははすぐにレイジングハートの仕様が書かれた光学モニターを開き、その変化点を目にする。
「C.C.O装備……?」
見たことのない後付けの仕様に首を傾げる。隣にいるフェイトやはやてのデバイスにも同じ名前のオプションが追加されていて、それはメリーたちもにもだった。
ボサボサになった黒髪を雑に後ろで縛っているレイカは追加したオプションの資料を見ながら、不思議がるなのはたちへ説明を始める。
「C.C.O。クローズ・コンバット・オプション。装備の略名ね。超簡単に言えば、白兵戦装備ってこと」
「とりあえず展開してみなさいな」というレイカに従い、なのはたちは待機状態のデバイスを展開して、そしてすぐに変わった点に気付いた。
「魔力出力が安定してる!」
まずバリアジャケットが問題なく展開され、なのはたちの姿を一新した。戦闘形態となったデバイスの見た目も様々な変化点があるのだが、なにより驚いたのはあれだけ不安定だった魔力が安定しているのだ。
炎のようにユラユラと揺らめいていた感覚はなくなり、安定したエネルギーが供給されている。フェイトが試しにバルディッシュを構えるが、しっかりと手に馴染むし、不安定さは一切感じられなかった。
「でも、どうやって?この世界の魔力素の影響は受けないようになったんですか?」
「安定というより内部循環に近いわね。言うなれば超節約モードってところ」
そう言ってレイカは今回施した改造の内容について説明を始めた。まず最初に取り掛かったのは魔力の封入措置だ。魔力素が特段に濃いこの外界からリンカーコアを通して魔力を供給すれば、デバイスは即座にオーバーフローする。そこで、必要な魔力を調達したら外界からの摂取をやめ、内部循環をさせる方式へと替えたのだ。
そんな大胆な改造を何もない次元世界の僻地でよくできたものだとなのはたちが思っていると、そこはあくまでソフトだけの問題だったから対して難しくなかったわ、とレイカは平然と答える。
レイカ・ヴァーンは外縁部調査隊に配属される前は本部の技術部隊で手腕を振るっていて、様々な新技術を開発した経歴を持つスペシャリストである。
その分、才能を持つ者たちばかりに負担を増やしていく本部のやり方とソリが合わず、後輩であるマリエル・アテンザと壮絶な言い争いをし、技術本部を辞め、外縁部調査隊への配属を希望した異色の経歴を持つ人物でもあった。
(まったく。相変わらずいい仕事をするわ。……腹が立つくらいに)
本人はあまり表には出さないが、後輩であるマリエルが、なのはたちやメリーたちの持つデバイスの改造や開発に関わっていることはすぐにわかった。ソフトの組み方の基礎が自分が面倒を見ていた頃から変わっていなかったから。おかげでスムーズに改造することができた。
「魔力刀身が差し替えられてますね」
バルディッシュをハルバード形態からザンバーへと切り替えると、魔力光刃で形成されていた部分が完全な質量材へ変更されていることにフェイトは声を上げる。
「けど、重さは感じないでしょう?その素材、強度は高く、軽量。しなやかさを持ちつつも粘りのある点が特徴よ」
レイカの言う通り、軽く振ってみるが魔力光刃との重さの違いはごく僅かのように思えた。ハルバード形態に戻すと、展開されていた実体剣は量子化して記憶スロットへと格納される。
なのはのレイジングハートや、はやてのシュバルトクロイツ、メリーのディアネイルや、エリッサとクラリスの持つS2Uの発展量産型のストレージデバイス「MZ03 ライズロッド」にも同様の材質で作られた装甲や実体剣が備わっていた。
「あの、レイカさん。この素材はどこから入手したんですか?」
「墜落したランダー号から部品取りして作ったのよ」
「……えっ」
何食わぬ顔で言ってのけるレイカに同席していたファーンが思わず声を上げた。
「レイカさん、いいのですか?あの船は貴女の……」
「わがまま言ってる場合じゃないでしょ。現地にあるものは何でも使わないと」
ランダー号はレイカが技術本部から移動する際に半ば強奪した船であり、調査隊に移ってからと言うもの、給料の大半をつぎ込んで改造に改造を重ねてきた船である。
なのはたちのデバイスに使われている材質は、そんなランダー号の船底部に使われていた素材を切り出した再加工した代物だ。
よく再利用することを決断したものだと誰もが感心する中、同じくストライクヴェクター級の「リトルウイング号」を有するサガミがジトっとした目でレイカに問いかけた。
「で、本音は?」
「任務協力の一環で船体を提供したら損害保険が降りやすくなるから」
(めちゃくちゃ打算的だった……)
さすがは技術屋である。
転んでもタダでは起きない。
「もう!私情はどうでもいいでしょ?それより武装の説明よ」
私情を挟みつつあるものの、それでもなのはたちにとってプラスになるのだから気にするのも野暮というものだ。それに、こんな僻地とも言えるヘンリー・ヴァンダーでそれだけの改造を行うことができた彼女の技術力を賞賛するべきだろう。
レイカの手にある携帯端末から表示されている光学モニターを拡大化すると、初めてみる文明の利器にジャンやジェイクが「おぉ」と驚いたような声を上げた。
「C.C.Oは文字通り白兵戦用のオプション装備よ」
魔力を内部循環させることで安定化した分、中遠距離の攻撃手段は全て捨てた超近距離線特化タイプ。それがこのオプションの真髄である。馬鹿みたいに濃い魔力素濃度で魔力が安定、維持できない環境ゆえの装備だ。
「さっき金髪のお嬢ちゃんがやったみたいに、量子変換もかけられるからスムーズな展開が可能だけど、魔力刀身とは発生タイミングも異なるし、軽量素材とは言え質量も存在するから使い勝手がかなり違うと思う。だからなるべく訓練をして体を慣らして」
まず大きな変化点から。魔力を内部循環方式に変えたことから無駄遣いができない。それ故に空を飛ぶことはできない。その分、地表スレスレを滑走するホバー機能を追加しているので、水上や荒野でも問題なく移動はできるようになっている。
ただ、無理に高く飛べば魔力消費が激しくなる。
「それだったらまたリンカーコアを通して魔力を補充すれば……」
「それがスムーズにできないからホバーっていう誤魔化しをしてるのよねぇ」
必要分だけを確保すればいい。いうのは簡単だが実施するとなると話は違う。必要な魔力量を常時監視しなければならないし、供給過多になればオーバーフロー待った無し。なので魔力の補給には時間がかかってしまうのだ。
「けど、現地改修でここまで出来るなんて……」
更新されたファイルを見て、思わずエリッサは口にする。エリッサ・ハートライナーは妹であるクラリスと違い技術的な面でもデバイス知識に精通している。それ故か、レイカが施した改造がいかにぶっ飛んでいるのかはよく理解することができた。
そんな中、レイジングハートの調子を確かめていたなのはが、おずおずと手を上げる。
「レイカさん、やっぱりその……砲撃魔法は?」
「もちろん撃てるわ!……と、言いたいところだけど現実的にかなり無理がある。データを見たけど、アンタの腕で砲撃魔法を撃っちゃえば、数秒でオーバーロード待ったなしね」
「で、ですよね」
「だから強制冷却機構をつけたわ」
貸してちょうだいとレイカはレイジングハートを受け取ると、引き金がついてるグリップを握り、そのまま横に傾けて胸元へ一気に引っ張った。すると、グリップはそのまま後ろへとスライドし、レイジングハートの先端に取り付けられていた装甲材が「バキン」と音を立てて切り離される。
金属の塊が地面に落ちて、キンキンと甲高い音を部屋中に響かせる。切り離された後の姿は、なのはが使っているいつものレイジングハートの姿でもあったが、すぐさま量子空間から新たな装甲材が呼び出され、同じく先端へと組み付けられた。
「急拵えだけど、装甲材そのものを冷媒にするシステムを用意したわ。搭載数はそれぞれ違う。メリーやフェイトの近接特化型のデバイスには一つ。そのほか、支援型、万能型、遠距離型には二つ搭載できるようにしているわ」
落ちた装甲材を拾い上げてなのはに渡すレイカ。受け取ったそれを量子空間へと格納しつつも困惑するなのはたちに、レイカは説明を続けた。
「この装甲材は大気圏の摩擦熱にも耐えられる材質。だから高濃度の魔力素によるオーバーロードを起こした場合は、フローした魔力素と排気熱を装甲材そのものに封入して分離するのよ」
名付けて逆カードリッジシステム。
余剰となった魔力と排気熱を一気に装甲材に押し込め、封入することでオーバーフロー後の機能不全を防ぐことが目的だった。
バルディッシュ、ディアネイルなら刃そのものを。レイジングハート、ライズロッドなら射出口に追加したアタッチメントを分離、交換すれば即時戦線に復帰できる。
ただし、とレイカは忠告した。
「装甲材は文字通りランダー号のものを使っているから数には限りがある。だからリロードしたからって装甲材を使い捨てるのは御法度。ちゃんと回収して持って帰ってくること。わかった?」
「わかりました」
「あと、冷媒に封入できる値を超えた場合、強制射出して最低稼働モードに切り替わるわ」
「最低稼働モード?」
「オーバーロードでどうにもできない状態だと、どうすることもできないわけでしょ?だから最低限〝逃げる〟ための機能は生かす。だから、冷媒が強制排出されたらすぐに撤退して」
そう言うレイカに全員が頷いて答える。追加された機能はこれで全て。なのはは受けっとったレイジングハートを握りしめる。
「これで、まだまだ頑張れるね」
《Exactly》
愛機であるレイジングハートの声もどこか満足げだった。新たな翼は手にした。次は、あんな無様なことはしない。なのは、そしてフェイトも騎士団との戦いに心を奮い立たせていく。
「よかったな。これで戦えるぞ」
「あんた達の分はこっち」
なのはたちに祝いの言葉を投げるサガミを他所に、レイカは次と言わんばかりにジャンとジェイクの前に夜なべして作った代物を並べた。
「剣?」
「ストームクルーガー二式。ライズロッドと同じく量産に向けて作られたアームドデバイスよ」
並べられたのは片刃の刀のような武器。烈火の将、シグナムの持つ「レヴァンティン」をベースモデルとし、耐久性と物理攻撃に特化したアームドデバイスである。汎用性に重きを置いたストレージデバイスであるライズロッドと同じで、訓練生用に用意されたものを内部循環方式に仕様変更したものだった。
「戦斧とかは無理だけど、ブレード型のものなら用意ができたわ」
「たしかに歪みや潰れがあったもんな」
「んぐぁっ」
先の騎士団との戦いでジャンの持っていたショートソードは計4本ダメになっている。うち2本はサンドワーム相手にぶん投げて行方不明になっていることサガミが思い出していると、当事者であるジャンは変な声を上げて潰れたカエルのように広間の床に倒れた。
「……サガミ。聞いてくれるか」
「ぶっ倒れながら何話すってんだ」
「俺には許せないことが三つある。ひとつは食物を粗末にすること、ふたつ目は相手に敬意を払わないこと。三つ目は武具を潰すことだ。武具の傷は未熟な戦士の証だ」
「武器をぶん投げて紛失する奴がなんか言ってるぞオイ」
呆れ返るサガミに対して、ジャンは勢いよく反動をつけて起き上がるって、あれはハムナマの伝統だからヨシ!と意味不明な言葉で答えた。
伝統と言って武器をぶん投げるやつのフォローをしなきゃならないこちらの気持ちについては考えたことはあるのか?と、サガミは言いたくなったが、ハムナマと言われるのがわかっていたので諦めた。
だが、それを許さない人物が1人いた。小さな手をジャンの肩に置くレイカは優しい笑顔でジャンに言葉を放つ。
「ソリオ・ジャン・ハムナマ。ちなみにそれ、無くしたらどうなるかわかってるわね?」
「いや、しかしあれは部族の掟というか慣わしというか……」
「わかってるわよね?」
ギリギリと肩に指が食い込む。想像絶する力だ。思わずジャンがレイカの顔を見る。口は笑顔であったが……目は、笑ってなかった。
「……っすぅー……ワカリマシタ」
「無くしたらアンタのハムナマを引っこ抜くからね」
「それだけはご勘弁を!?」
平伏するジャンに仁王立ちのレイカ。その様子に困惑する一行。ふと、なのはがサガミに聞いた。
「ハムナマって何だろうね」
「ハムナマはハムナマだ。深く考えるなよ?いいな、絶対だぞ」
世の中には理論や知識で説明できないこともあるのだ。