マジシャンズ / 奪われたロストロギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第二十三話「窓と遺失物と」

 

 

 

ピースフルエリアの激闘は大変だった。

 

スイーパーvs魔導師と分けて戦えれば収まりが良かったのだが、チーム戦となると人数の関係上、模擬戦はスイーパーも魔導師もごちゃ混ぜとなる混成チームとなることは避けられなかった。

 

午前は個人戦だったが、昼以降のチーム戦は酷かったとサガミは改めて思う。

 

今の彼はギルドの広間でだらしなく体を椅子に預けていて、他の面々も同じようにそれぞれ楽な姿勢でダラダラと広間で過ごしていた。個人戦で感覚を掴んだ魔導師たちがそれぞれ出せる全力を振るうようになってからというもの、自重していたジャンが理性をかなぐり捨てて、そこからは坂を転がり落ちるように情け無用容赦なしのデスマッチが繰り広げられた。

 

数あるグランデリニア帝国時代の遺跡の中でも数多くの原生生物の生態系に侵されながらも倒れずにそびえ立っていた塔が、なのはの後先考えないバスターで完膚なきまでに吹き飛ばされ、フェイトの手によって遺跡は輪切りにされ、トドメと展開されたはやての攻撃に大地は割れた。

 

無茶苦茶をした三人にオーディエンスは大盛り上がりしたのだが、やられたこちらとしては溜まったものじゃない。無傷で生還できたことを褒め称えたい気分だ。

 

そんなやらかしをした三人だが、戻ってから見たことない笑顔をしているファーンからキツい叱責を受け、技術班として「無茶するな」と散々きつく言っていたレイカに叱られ、仲間であるメリーたちからは白い目で見られると言うお灸をすえられたらしく、戻ってきた頃にはずいぶんと小さくなっているように見えた。

 

ピースフルエリアは文字通り廃墟と化したのだが、場所を取り切っていたクロフォード曰く、イベントの収益としては過去最高らしく、許されるなら毎日でもしてほしいと言っていたほど。まぁその利益があったとしても、もう2度と魔導師との模擬戦なんてやりたくはない。

 

「……で、戦えることはわかった。よかったよかったなわけだが、散らばったジュエルシードと奪われたやつはどうするんだ?」

 

そう口火を切ったのは2人がけのソファにぐったりと寝転んでいたジャンである。戦力として魔導師たちの力は申し分ないことはわかったのだが、ジュエルシードが奪われたこと、散らばったことに関して、現状は一切好転していない。

 

よっこいしょ、と声をあげてサガミも椅子に預けていた体を起こす。

 

「手持ちにあるのは5つ。これを奪われないように立ち回るのは多分問題ないだろうが、それじゃあダメだっていうのが辛いところだよなぁ」

 

「いっそ残りを囮にして騎士団全員纏めて叩くっていうのは?」

 

そう提案したのは机に頭を乗せてぐったりしているエリッサである。彼女の妹であるクラリスも隣で今にも寝落ちてしまいそうになっているが、エリッサが脇を小突いてなんとか意識を繋ぎ止めていた。

 

「清々しいほどの蛮族スタイルだが、相手も頭を使うだろう。そう簡単に済ませてくれるとは考えにくい」

 

エリッサの言うとおり、今手持ちにあるジュエルシードを有効活用することもアリなのだろう。だが、逆の立場から見ればその方法は背水の陣とも言えるものだった。

 

「逆にリニアに籠城すれば、やつらは組織的にこの街を孤立させるぞ。所謂、兵站責めってやつだな」

 

残されたジュエルシードを餌にこちらのテリトリーで戦う以上、外溝を埋められて攻め立てられることも考慮しなければならない。そして、リニアを含め、ヘンリー・ヴァンダーにおける都市部の防衛網はあまりにも貧弱。

 

ジャンの指摘は当然で、補給船が何らかの形で絶たれた途端、深刻な物資不足と資材不足で大混乱待った無しなのである。

 

「リニアの無関係な人々にも被害が出るからそれは無しで」

 

スイーパー・ギルドとしても、このリニアに住む者としても、無関係な人々をこちらの都合に巻き込むことはできない。それにはなのはやメリーたちも頷いていた。

 

「じゃあ、こっちから行くしかあるまいて」

 

「ただ、何の手掛かりも無しにヘンリー・ヴァンダーを彷徨うわけにもいかないからな」

 

ヘンリー・ヴァンダーはリニアを中心にしているものの、都市部は少なく、星のほとんどは天然自然のテリトリーとなっている。リニア以外で人が定住しているのは森林地帯が広がる「ヴィヴィアン・ガーデン」くらいで、ほかの土地は人が住むには過酷すぎるし、なによりサンドワームのような危険な原生生物たちが我が物顔で闊歩している。

 

なんの情報も無しにそんな危険地帯を探索するなんて命がいくつあっても足りないだろう。

 

「とりあえず襲ってきたやつを引っ捕まえるか?」

 

「行動が後手になるし、捕まえるのにもすげー疲れそうだから却下で」

 

とにかく今は情報がほしい。このまま座して待つにもリスクは高すぎる。魔石騎士団のメンバーを捕えるのも方法のひとつだろうが、頭をよぎるのは先日、何食わぬ顔でリニアにやってきていたアルネストだ。あんな一癖も二癖もある騎士を捕まえるなんて並大抵のことじゃない上に、仮に捕えたとしても情報を入手できる確約もない。

 

どうしたものかと全員がぐったりする中、ドタバタと廊下が騒がしくなる。その足音は広間に繋がる扉まで伝っていき、大きな音を立てて扉が開いた。

 

「みなさん!朗報ですよ!」

 

興奮した様子で入ってきたのは大きな箱を抱えたギルド長であるクロフォードだった。後ろにはゆったりとした足取りで入ってくるレイカの姿もある。

 

何事?と全員が入ってきた2人に視線を向けると、クロフォードは大きなテーブルの上に抱えていた箱を置いた。

 

「奪われたものは仕方ないですが、散らばったジュエルシードならどうにかなるかもしれません」

 

その言葉に全員が反応した。なのはたちも顔を見合わせて座っていた体を立ち上がらせて、クロフォードの元へと集まる。クロフォードは置いた箱の中に手を突っ込みながら言葉を続けた。

 

「ヘンリー・ヴァンダーは魔力素が濃いという話は周知の事実ですが、その影響はデバイスや魔法技術機材への影響だけじゃないんです」

 

これを見てください。そう言って見せてきたのは旧世代にあるコンパスのような道具だ。中には最低限の地表データと、何かの反応を示す光が明滅を繰り返していた。

 

「クロフォードさん、これはいったい?」

 

「簡易的ではありますが、魔力濃度を計測するレーダーです」

 

問いかけてきたはやてに、クロフォードは細かい機構は省きますがと言って答える。

 

「この世界は魔力素が濃い。魔力が濃いということは不安定なんですよ」

 

「世界そのものが……ですか」

 

その通り、とクロフォードはメリーの推察にお見事と言ったようなリアクションを打った。

 

次元跳躍や、次元航行、ジュエルシードの暴走によってもたらされる次元震も、その中心には魔力素がある。

 

重要なファクターである魔力素が濃いということは、次元空間との均衡も不安定なものになる、とクロフォードは言った。「空間湾曲現象」と、あくまで仮説でそう呼んでいるものの、現にヘンリー・ヴァンダーでは、そう言った不安定な力場を持つ場所も確認されている。

 

次にクロフォードが広げた地図にはリニアとヴィヴィアン・ガーデンを結ぶ空路の簡易図が載っていて、空路の途中にはいくつかの赤マルが書き込まれていた。

 

飛行禁止区域であるそれは、近づいたらいけない原生生物の縄張りを示しているものもあるが……中には音信不通になる、機影が消える、レーダーが一切使えない、機体そのものが消える……そう言った不安定な場所も存在している。

 

そう言った不安定な力場を持つ場所はヘンリー・ヴァンダーでは「窓」と呼ばれていて、現地民は誰も近づかない危険な場所として認識されていた。

 

「この機械は、そういった不安定な箇所を特定するレーダーのようなものです」

 

そう言った危険な「窓」と「空間湾曲現象」を調査するのもスイーパー・ギルドの役目だった。その際に使っていたレーダーは古い作りではあるものの、「窓」を特定するには充分な機能を持っていた。

 

レイカが呼ばれたのは、そのレーダーの波長を調整するためだった。クロフォードから渡されたソレを手際よく解析、調整するレイカを横に、言葉を続ける。

 

「現在の波長は不安定化した空間湾曲現象に合わせていますが、その波長をジュエルシードの持つ特定波長に合わせれば、それに限定したレーダーになります」

 

「さしずめジュエルシード・レーダーっていったところだな!……なんだよ?」

 

「いや、なんか既視感というか……なんというか」

 

思わずジャンが口にした名前に、どこか不安感を覚えるなのはたち。とにかく、とサガミは変な空気になった場を切り替えるように声を上げた。

 

「ひとまず、このレーダーを応用すれば散らばったジュエルシードを追うことができるわけだな」

 

「もちろん、騎士団も何らかの捜索を行っているはずです。動かなければ良いようにやられるようになります」

 

こちらと同じか……または全く別のやり方でジュエルシードを調べるのか。最悪の場合、敵の手にはファーンたちが乗ってきた次元航行艦「エンデュランス」がある。騎士団がこの星を自由に離脱でき、かつエンデュランス号の機能を使えるのならジュエルシードの捜索は向こうが有利だ。

 

ここから先は競争と、言ったところなのかもしれない。だからこそ、なのはたちとしてもすぐに動く必要があった。

 

「波長の調整、完了したわよ」

 

「はやっ」

 

あっという間に解析と調整を終えたレイカの手際の良さに驚きつつも、受け取ったクロフォードはすぐさま計測をかける。

 

「じゃあ、1番近くのものからだな。クロフォード、どこかわかるか?」

 

「まってください。……見つけました。1番近くにあるジュエルシードの所在は……」

 

レーダーが捉えたのはリニアから西側へ飛んだ場所。

 

そこは、この世界における最大の大きさを誇る海洋区域であり、沈んだ遺跡や、いまだに海上に浮遊する廃墟などが点在しており、もちろん、危険な原生生物も住み着いている。

 

その名の海の名は、ヘンリーオーシャン。

 

別名、魔の最果てと呼ばれる……ヘンリー・ヴァンダーでもトップクラスの危険地帯だった。

 

 

 

 




第一章、完結!
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