マジシャンズ / 奪われたロストロギア 作:紅乃 晴@小説アカ
新暦0069年。
春も終わりを告げ、夏がそろそろ始まるかなという時期。
私、八神はやてには悩みがあった。
事故で怪我を負いながらもリハビリをして現場復帰を果たした高町なのは。
執務官となり日々凶悪事件と向き合う仕事をこなすフェイト・T・ハラオウン。
そんな親友たちに負けないようにと自分も所属している時空管理局の人事部へと進路を向けた。
二人が現場で頑張るなら、こっちは色々と無茶しがちな二人をサポートできるよう権力を持てるよう、いわゆる出世組、キャリア組へ入るための手段を取った。
もちろん、楽な道じゃない。
自分の過去が楽などさせてくれない。
何をどう言い訳しても、私は闇の書の〝当事者〟だ。過去に深々と傷がついた経歴は、私がキャリアを積む上で大きな障害となっていた。ありがたいことに後押しや後ろ盾になってくれる人もいるけれど、それでも白い目で見てくる者たちもいる。
そんな過去の経緯から人事部へと転属してからは苦労の連続だった。腫れ物を扱うような対応をしてくる者。お前は「前科者」だろ?明らかに態度に出してくる者。その対応は本当にさまざま。
そんな中で、私はがむしゃらに仕事をこなしていった。その中で人脈を作り、成果を出す。会食に挨拶回り、エトセトラエトセトラ……キャリア組でも力を持とうとするなら、何はともあれ人脈と実績と成果が必要になってくる。もう何振りかまっていられない。
どんな組織でも力を持つ者こそが絶対的な存在だ。
それを目指す以上、求められるものも変わってくる。目まぐるしい日々の中を私は懸命に仕事に打ち込んだ。
そして、今……。
『はやて!反応が遅いよ!ソニックスピア!』
『全体攻撃をするなら場をちゃんと見極めないと!パレットシューター!』
私が支えようと考えてきた親友二人が、私を倒そうと迫り来ていた。レイジングハートとバルディッシュという見慣れた組み合わせは、味方に圧倒的な安心感を与えるのだが、相手にするとその話は全く変わってくる。
「あわわ!ジュバルべフリーゲン!」
降り注ぐ桜色と黄色の波状攻撃を、出現させた魔力スフィアで迎撃する。得意とする高域魔法のおかげで二方向から自由軌道で向かってくる攻撃は防ぐことができたが、凄まじい機動性で迫り来る二人相手に私の背中には冷や汗が流れっぱなしだ。
この模擬前、私の悩みを解消するために始めたことなのだが、制空権を抑えた状態というハンデを二人からもらってスタートしたというのに、開始わずか5分でこちらの有利性が完全に消え去っていた。
ええい、二人とも守りなんて一切考えてないやん!?攻撃こそ最大の防御みたいなノリで最終防衛網を突破してくる二人に向け、大急ぎで高域魔法を展開するが、すでに事態は決していた。
『間合いが甘い!』
囮役として目立つような立ち回りをするなのはの攻撃に合わせて、本命のフェイトが繰り出したザンバーに背後から貫かれる形で決着を迎えた3度目の模擬戦。
そう、これで私の三連敗め。……いや、普通に勝てるわけがないんだが?
「デスクワークで身体が鈍ってるよね、はやてちゃん」
「そうだね、かなり技の精度も落ちてるし」
最近の私の悩み。それは人事部に移動してからと言うもの、実戦的な模擬訓練などを全く行えていない事だった。知識は蓄えられても、実戦経験に勝るものはない。
最近の訓練不足でなまりつつある魔法への感覚をどうにかするために、久々に休暇が重なった親友二人に、どうにか体を動かす場を設けてもらえないかとお願いしたのだが……だからと言って、二人して鈍った自分を虐めるのはいかがなものかと思うんだけれど!
「いや、ゼー、あの、ハー、私、どちらかというと、ハァッハァッ、後ろで二人を支援するために……ハヒィ」
「指揮官も現場に出ること、普通にあるよ?」
「そうそう、被害状況から末端じゃ判断できないこともあるしね」
現に私もしてるし、と執務官のフェイトがシレッと語り、なのはがウンウンと頷く。たしかに!執務官はその権限から政治的な判断をしなきゃならない職種ではあるけれど!人事部のそれとはまた違うねん……!
「というわけで、とりあえず私たちの動きが止められるように頑張ろう?はやて」
「ちょ……ちょお……待って……ハーッハーッ……脇腹が痛くて……休憩……」
「大丈夫、あと半日くらいやれば勘は取り戻せるよ!」
半日もこんな模擬戦やったら死ぬわ!だ、誰か!誰か!もう少し穏やかなフィットネスみたいな感覚を二人に教えてあげてぇええ!
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はやての運動不足を解消するために始まった模擬戦は、管理局のシミュレーションルームで行われていた。最近になって稼動し始めたこのシミュレーションルームは、ヴォルケンリッターのシャマル全面協力で考案されたものであり、扉自体が転送ポートとして機能することから、指定した無人世界や訓練内容に合わせて場所を選択できるようになっている。
初めてみた時は「まるでどこでもドアみたい」という感想が出たほどだったが、実際のところは複数登録されたゲートを開いたり閉じたりしているだけだし、その登録にも上限が存在する。
それに加え、この転送ポートはめちゃくちゃコストが掛かるのだ。ベルカ式の術式で構成されていて、ミッド式のものと比べるとかなり小型化されたわけだが、術式を組み込むシステムを組み込むのもベルカ式を扱えるシャマルしかできないし、なにより素材には「希少鉱石」が必要で、それがなければ莫大な魔力が必要となる転送ポートを維持することができないのだ。
ミッドチルダの地上本部で運用されるシュミレーションルームも、この一基しかないことから、日々の魔導師たちの訓練には向かず、次元本部、地上本部それぞれに所属する魔導師たちの合同訓練などに使われることが多い。
なので、はやての相談を受けてからこのシミュレーションルームを押さえることはそれほど難しくはなかった。
「書類仕事が大変なのも分からけど、たまには身体を動かさないとダメだよ?」
「わかってはいるんやけどなぁ〜……デスクワークって思ってたより脳のスタミナなくなるから……」
あれから2度の模擬戦をこなしてたはやてがギブアップを宣言。様子を見にきていたはやての守護騎士たちの進言もあってか、なのはアンドフェイトで行われていたブートキャンプは一旦の休息を取ることになった。
と言っても、はやてが休憩に入っただけで、なのはとフェイトによるタイマン模擬戦へと移行しただけなのだが。シグナムやヴィータも模擬戦に混ざったりと、さっきまで残っていたはずの模擬建造物が跡形もなく消えているところから、いかに激しい戦いが繰り広げられていたかよく分かる。
一般魔導師が裸足で逃げ出すような激闘を繰り広げた当人たちはというと、「いい汗をかいた」くらいの感覚なため、つくづく自分の友人や家族はとんでもない実力を持っているのだと痛感させられる。
ちなみになのはやフェイトは最近は高出力の魔法に頼らない省エネをテーマとした戦い方を研究している。なんでも、ミッドチルダような魔法が一般化した世界ならいいが、故郷である地球のような魔法が特殊なものと見られている世界では、膨大な魔法攻撃を使った戦闘は控える傾向が強いらしい。
もちろん、結界等で現地人から隠す術もあるのだが、乱用すれば悪影響を与えるのは必至。そのため、極力バカみたいな魔法は控え、省エネモードで戦うことを念頭に置くようにしているとか。
まぁ省エネモードで、今のシュミレーションルームの惨状が生み出されているのだから、どっちもどっちな気もしないでも無いのだけど。
「さっきツヴァイが嘆いてたよ?最近全然ユニゾンしてないって」
「ぐふっ」
演習領域から少し離れた場所で、模擬戦を終えたみんなで作ってきたお弁当を囲んでいると、ふとなのはがそんなことを言い出した。思わず食べていた卵焼きが変に喉に引っかかってしまい、はやての顔色が少し青くなった。
「夜天の主の名が泣いちゃうねぇ」
「ごふっ」
「あと、最近脇腹にお肉が……」
「ちょい待ち!それはまだ誰にも!?」
「誰にも〜?」
ニヤニヤと覗き込むなのはの仕草に、カマをかけられたと理解したはやては、ふんっと頬を膨らませて不機嫌顔で箸を手に取った。
「〜〜っ!もう怒った!なんも知らん!」
デスクワークの宿命なんや!と開き直って唐揚げを一口で頬張るはやてに、なのはたちもおかしそうに笑う。
「けどさ〜。久々の休日なのに、はやての運動不足を考えて模擬戦って相変わらずだよなぁ」
「その割にみんな楽しんでたよね?」
はやて手製のハンバーグを頬張りながら言うヴィータだが、そういう彼女も模擬戦ではかなりハッスルしていた。どれほどかと言うと、省エネで肉弾戦が多くなるなのはとタイマンを張って、グラーフアイゼンで挑みかかった結果、20階建てのビルの残骸が10階建てになるほどである。
「それになのははリハビリでよくシグナムと模擬戦やってたから」
それ、リハビリって言うんかな?そんな疑問が喉から出そうになるが、なんとか飲み込んだはやて。
リハビリ期間中はシグナムがやけに上機嫌でツヤツヤしていたのは、それもあってのことだったのだろう。なのはの怪我から数年は経ったが、あの怪我の後遺症はかなり後まで続いた。
一時は空を飛ぶのは諦めることになるかもしれないと危惧されてはいたが、そんな診断なんてなんのその。なのはは見るもの全員が心配するような鬼のリハビリメニューを全てこなしていき、主治医であるシャマルや、医療センターの医師の予想よりも随分早く回復し、現在では次元航行部隊の一員として現場の第一線で活躍するほどの躍進を話のだった。
まぁ無茶に無茶を重ねるようなリハビリを断行したおかげで、なのはの怪我の現場に居合わせたヴィータは随分と心配していて、結果的に第一線で元気に飛ぶ彼女の横に立ち続けることになってしまったのだが。
フェイトもフェイトで執務官になってからというもの、数々の難事件を担当することになり、凄まじい勢いで経験を重ねている。現場判断の素早さや、頭の回転、勘という感性の鋭さでいえば、なのはよりも上をいっているのではないのだろうか?さきほどの模擬戦でも先読みでは説明できない直感めいた判断で攻撃を避ける場面が幾つもあった。戦闘的なセンスと経験に基づく推測、予想の精度がかなり上がっているのかもしれない。
そんな二人を見て、焦らないというほうがおかしいのかもしれない。シグナムから見て、夜天の主人であるはやてもまた、どこか思い詰めた様子で日々を駆け抜けている印象があった。
第一線で戦う二人とは、また違う感覚で道を進んでいくはやて。なのはとフェイトがエースという手札なら、はやてはそれを切り出すプレイヤーと言ったところだろう。彼女もまた、組織を率いる素質を高めつつあるのだが、本人はそれをまだ自覚できていない。
けれど、その自覚はまだ後でいいというのが、シグナムやシャマル、ザフィーラの見解だった。はやては間違いなく主人として躍進する。
けれど、まだそれは先。
今はこうやって、心を許せる友たちとの穏やかな時間こそが大切なのだ。
「そういえば聞いた?ジュエルシードの話」
昼食も食べ終わり、小休憩を挟んでから午後の模擬戦を始めようかという話をしている中、はやては思い出したようにその話題を切り出した。
「うん、ユーノくんから話は聞いたよ」
水筒から注いだお茶を手にしたまま、なのはは答えた。自身の親友で、この世界へ足を踏み入れるきっかけを作ってくれた相手であるユーノからその話を聞いた時は、少し胸が掴まれるような……押し付けられるような何かを感じた。あのロストロギアはなのはにとって思い入れが強すぎる。
それに隣に座るフェイトにも。横目でちらりと見ると、フェイトもどこか思うのか複雑な表情をしていた。
「……今まさに移送中なんだよね?」
「まぁ保管施設の使用期限もあったからなぁ。より安全なところに再封印するんやって」
ロストロギアの封印。簡単には言うものの、その古代遺失物の数や種類はまさに無限だ。強大な魔力を有したもの、物理的に危険なもの、精神や何かに影響を及ぼすもの、大きくジャンル分けはできるものの、全く同一というものは存在しない。そのため、それを封印、保管する施設も膨大な資産とエネルギーを要する。中には冷凍封印、真空内での封印などもあるので、施設は徹底した管理をされていてもすぐに劣化していくのだ。
ジュエルシードは内包された膨大な魔力量が危険視されているロストロギアなので、保管される際は外部からの刺激を与えないよう対魔力素材で作られた金属の壁、扉で密閉された施設に補完されている。保管して数年はそれで持っていたのだが、ジュエルシードから流れ出る魔力量が想定を上回っており、施設の耐久性が低下しつつあったことから、はやてが言うようにより安全かつ、無心の世界で、誰にも発掘されないよう地中深くに再封印されることが、管理局上層部で決定されたのだった。
「フェイトちゃん?」
「……ん?なに?なのは?」
「大丈夫?」
さっきから黙ってどこかを見つめているフェイトに、なのはが心配そうな顔で声をかける。複雑そうな表情はそのままではあったが、フェイトは心配してくれる親友を安心させるように小さく笑みを向けた。
「……うん、大丈夫だよ。ちょっと思い出してただけ」
「ジュエルシードはフェイトちゃんと関わりが深いもんなぁ」
「それ言うならなのはもでしょ?」
「あはは、あの頃は無茶したよねぇ、二人とも」
うん、本当に無茶したなぁ、とフェイトはしみじみと振り返る。母のために集めたジュエルシード。それを巡るなのはとの戦い。そして、傷つく日々。
プレシア・テスタロッサとの一件は、フェイトの中ではある程度の折り合いが付けれるようにはなったものの、それよりも強烈だったのがなのはから受けた砲撃魔法だった。
当時での最大防壁を持ってしても、それを食い破る威力を有していたスターライトブレイカーのダメージは今でも身体に刻み込まれていて、たまに演習でなのはのそれを見ると少し身震いするほどだ。第三者から見ると、それはしっかりトラウマ認定なのだが、第三者であるはやてたちは優しいので、その話題は彼女たちの間では禁句に似た何かになっていたりする。
「けど、大丈夫かな」
「ん、何がだ?」
フェイトの呟きにシグナムが言葉を返す。複雑な表情をしていたフェイトの心中には、自分と関わりの深いジュエルシードとは別に、ある不安が渦巻いていた。
「……ここ最近、ロストロギアを狙う謎の武装集団がいるの」
「それは、また豪胆な」
シグナムの呆れたような言葉にフェイトも頷く。ロストロギアを狙うなんて命知らずにも程がある。それは管理局を狙うからではない。ロストロギアは本当に危険なものだ。過去にソレを狙った海賊行為や密輸行為などもあったが、そのことごとくが悲惨な末路を辿っている。その過去の事件や事故を知っているから、魔法犯罪者と呼ばれるならず者たちも、ロストロギアを狙うというタブーは行わない。
そんな暗黙の了解がある中で、ロストロギアを専門に狙う者たちが現れたのだ。
「上でもその話は出てるわ。まだ大きな話にはなってないけど」
「うん、襲われてる規模もそんなに大きくはないし、組織的な動きはしてない」
発生している事件や奪取は、散発的に行われているし、人数も小規模だ。奪われたロストロギアの大半も「疑惑」の範囲を脱していない品物であり、護衛している者たちもロストロギアの暴走を恐れて下手な抵抗をせずに引き渡すと言う対応が徹底されていることから、管理局側の被害者や負傷者は極端に少ない。
故に、管理局上層部や調査部も「突発的な略奪行為」とみなして、輸送部隊に注意喚起と遭遇時の対応を徹底させるという対応に留まっていた。
「……けど、規則性はあるの」
規則性?首を傾げるはやてやなのはたちに、フェイトは空中に光学式モニターを展開する。そこには次元航行船の輸送ルートの概略図と、自身が調べ上げた略奪事件の発生箇所が記されていた。
「襲撃事件の場所、時間をマッピングして、データベースに照合をかけたの。どれも散発的で、規則性なんて無いように見えたけど……ひとつだけ、該当するデータがあった」
発生日時や人数、ロストロギアの種類や規模。そう言った不要なデータを除いていき、純粋に発生した箇所をそれぞれ並べた結果、あるものが浮かび上がってきた。
「これは……今輸送しているジュエルシードの輸送船の航路と同じ?」
略奪行為が発生していない空白の場所を見つめて、はやては素早くそれが何を意味するか把握した。
「その通り。本来は安全な交易ルートを通るんだけど、その行く先々で武装集団による襲撃事件が起きている。偶然……といえばそれまでだけど、管理局側からすると無視できない情報でもある」
「だから、襲撃があったポイントは自然と避けるようになる。その結果、航路はいくつかのルートはあるけど、だいぶ限られることになったと」
輸送部隊には伝えたの?と聞くなのはに、フェイトは首を横に振る。この事実が発覚したのはつい先日だ。執務官を介して上層部へ報告は完了しているのだが、輸送部隊が出発したのは三ヶ月前だ。安全を考慮し、通信インフラが全く整備されていない外縁部を航行するルートに入っている船に通信が届かせるには一週間ほどの時間が掛かる。
もちろん、その輸送ルートは管理局内でも機密扱いだ。船を指揮する者が、略奪者の狙いに気付いているなら、航路をあえて変更すると言う対策もできるが、それこそ略奪者が張り巡らせた罠が張られている可能性も捨てきれない。その点を見ると、非常に判断が難しいものと言えた。
「その武装集団は何が目的でロストロギアを狙ってるんや?」
「わからない……でも、遭遇した人の証言では「本来管理すべきものを取り返すだけ」と言っていたみたい」
本人にフェイトが話を聞いたのだから間違いない。輸送部の護衛部隊に所属していた魔導師であった被害者は、どこか怯えたような様子ではあったものの、話に応じてくれた。
彼らは自分たちのデバイスやバリアジャケットとは全く異なるものを身につけていた。その風体は「騎士」のようなものを思わせる印象であり、そして態度も略奪者らしくなく、毅然とした態度をしていたと言う。
その話を聞いて、はやては顎先に指を添えながら思考を巡らせる。
散発的かつ、短慮な思考でロストロギアを奪いに来ているなら、もっと被害者も増えるだろうし、話してくれた被害者の言うような毅然とした態度や風体をしているとは考えずらい。
歯車が噛み合わない。それが話を聞いたはやてやフェイトの印象だった。
「なんかきな臭いな……輸送艇は今どこにいるんや?」
「たしか、外縁部のポイント・エイトにさしかかったところだと思うけど」
その場所を概略図から表示しようとした瞬間、光学モニターに外部からのコールを示す表示が現れる。それは執務官の中で非常事態を意味する通知であり、緊急性を要するものだった。
「こちらフェイト・T・ハラオウン執務官です。何があったんですか?」
すぐに応じたフェイト。その通信相手は別件で別世界にいる義兄、クロノからであった。
「フェイト、緊急事態だ。ジュエルシードを乗せた輸送船のシグナルが途絶えた。場所はポイント・エイト……外縁世界、【ヘンリー・ヴァンダー】だ」
波乱が、すぐそこに迫っていた。