マジシャンズ / 奪われたロストロギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第五話「内と外の世界の傍で」

 

 

 

「メリーよ、強くありなさい。お前の父や母と同じように」

 

幼い頃から、メリー・ダグマイアは叔父であるアーガス・ダグマイアからそう言われて育ってきた。

 

母は幼い頃に事故で。父はその後、メリーを叔父のアーガスに預けてどこかへと消えた。叔父は父を恨んではいなかった。どこか悲しげな顔をして、いつも父は悪くないと言っていたが……メリーからすれば母の死と共に、自分からも逃げた卑怯者であった。

 

ミッドチルダ。現代魔法の中心部にあるその地には、優れた魔法資質を持つ者を輩出する名家と呼ばれる一族が少なからず存在する。古代ベルカの血を引くダールグリュン家や、稀少な魔法変換資質を持つ者を輩出したブレイザー家。そんな一族の血が連綿と続いたり、衰退したりしている。

 

ダグマイア家も、その名家の一つだった。管理局設立の黎明期から数多くの優秀な魔導師を輩出した一族であったが、今の時代になって、それは最早過去のものとなっていた。

 

かく言う、メリー自身も過去の優秀なダグマイア家の魔導師と比較すれば凡才もいいところだった。人並み以上に飲み込みも早く、技術を身につけるのも人より優れていたが、それだけ。

 

並外れた魔力もなく、優れた才もない。

 

自分よりも遥かに若く、恵まれない環境で産まれながらも、ロストロギアと対峙し、ある種の伝説的な存在となった魔法少女たち目にして、惨めに見えるほど嫉妬した。ダグマイアという過去から連なる名家の名がひどく重く感じたことは数えきれない。

 

それでも、名家の人間であれと気丈に振る舞ってきた。叔父に対しても。そして死んだ母に対しても。

 

名前の情けなんて受けない。そう息巻いて必死にやってきた。人の何倍も努力をしたし、親しい人が遊びに行っている間も訓練と勉強に浸っていた。名前の力ではなく、自分の力で何かを手にしたかった。けれど……。

 

『次席、メリー・ダグマイア』

 

才能には届かない。優れた魔法資質がものをいう世界だということはとうの昔に知っている。けれど、それは決して慣れる物じゃない。悔しいし、何度も惨めさを味わって、醜いほど嫉妬する。

 

その連続だった。

 

首席の座を取った同期に握手を望まれるたびに、嫉妬心を隠して、笑顔を作って手を取る。次こそはと心に決めて。

 

そんな日々の中、実地訓練と名を打った実戦を経験できる機会に恵まれた。

 

訓練学校の学長であるファーン・コラード直々のお声がけで、メリーは久しく感じてなかった満足感を味わった。認められたんだと心が高鳴った。

 

メンバーの中には、首席の座を取ったエリッサ・ハートライナーや、彼女の妹であるクラリス・ハートライナーの名もあったが、それでも構わない。むしろ望むところだった。素質で優れる彼女らよりも、優れた結果を出せばいい。簡単なことだ。その時のメリーは、機会に恵まれたことに幸運を感じていた。

 

だが、現実はそんな甘いものじゃなかった。

 

激しく揺れる船。墜落間際でパニック寸前になる船の中で、メリーは何もできなかった。いや、あの瞬間に何かを出来るかと自問すれば、無茶だっただろうが……それでも、ただ墜落の恐怖に怯えることしかできなかったのが、情けないと思える。

 

地面が近くなり、急ブレーキがかかったところまではおぼえていたが……そこから先の記憶がなかった。

 

カラカラと風で揺れる何かの音で目を覚ましたメリーは、一人ベッドから体を起こす。鈍い痛みが頭に残っている。気を失っていたのだろうか……。

 

微睡の中で昔のことを思い出しながら、メリーはぼんやりと部屋を見渡す。内装はミッドチルダで見てきたそれとは違い、木造の、かなり古い作りの部屋だった。奥のベットには、自分と同じく墜落した際に気を失ったのか、エリッサとクラリスのハートライナー姉妹がベッドに横になっているのが見えた。

 

「ここは……どこなんだろう」

 

自分たちを指揮していたファーン・コラード、そして船を墜落させないように奮闘していたレイカ・S・ヴァーンの姿も見えない。徐々に心を侵食してくる不安感と焦りは、軋んだ扉の音でびくりとメリーの肩を震わせた。

 

「あぁ、よかった。目が覚めたようだな」

 

扉を開けて現れたのは、メリーの知らぬ青年だった。

 

深い青い髪色で、長く伸びたそれを後頭部で乱雑に結っている。整った顔立ちとシルエットで、一瞬女性のように思えたが、背丈や骨格、こえいろから相手が男性であることがすぐにわかった。

 

「あ、貴方は……」

 

「俺はサガミ・バルディオ。スイーパーをしている」

 

「スイーパー……?」

 

そういったサガミの右肩には、肩章がかけられている。まぁ詳しい話は後だ。そう言ってサガミは戸惑うメリーにマグカップを渡した。中には透き通った水が満たされていて、顔を伺うと飲むように促される。一口飲み、喉の渇きを思い出したようにメリーは一気に水を煽った。

 

「色々と状況が飲み込めないだろうが、まずは自己紹介だ」

 

空になったマグカップを受け取るサガミに促されるまま、メリーも自身の名前を相模に伝える。それと同時に、朦朧としていた感覚がはっきりと覚醒した。

 

「……先生……コラード先生はどこ!?」

 

まぁ、そうだよな。とサガミは呟くと「ついてきてくれ」と短く言って部屋を後にする。まだ動きが鈍い体をベッドからおろしてメリーも後に続くように木製の扉から部屋の外へと出る。

 

吹き抜けの大きな部屋。ぐるりと外を回るように設置された廊下と階段を降りた先には、すでに起きていたファーン・コラードと、レイカ・S・ヴァーンが大きなダイニングテーブルの椅子に腰掛けていた。

 

「よかった、目が覚めたのですね」

 

安堵するようにそう言うファーンに、メリーも一瞬安心した様子になるが、彼女の利き腕を見てすぐに表情が暗くなる。

 

「先生……その腕」

 

ファーンの右腕。船内では何事もなかったはずなのに、今は添木と包帯が巻かれていて、首から吊り下げるように固定されている状態となっていた。応急処置しかできなくてな、とサガミが言うがファーンは充分ですと柔らかな笑顔を向けて応える。

 

「無事着時にどうやら痛めてしまったようです。不甲斐ない限りですよ」

 

「まぁアンタをふくめて、他の二人も気を失ってはいるけど無傷。船はダメだったけど結果としては御の字じゃないからしら」

 

そう言い足すレイカに、ファーンも頷く。不時着で命を落としてもおかしくはなかった。この程度の被害で済んだのは、奇跡と言ってもよかった。

 

「まずここはどこから……だったな?ここはヘンリー・ヴァンダー。リニアから100キロ近く離れた場所にあるスイーパー・ギルドの拠点の一つだ」

 

ファーンに座るよう促され、メリーも席に着くと、改めてサガミが状況を整理し始めた。

 

「スイーパー・ギルド?」

 

「まぁ、この世界における厄介ごと担当だとでも思っていてくれ。とくに、外から急に降りてきたアンタ達みたいな者を対応する役目もその一つだ」

 

「あー、やっぱり私たち厄介者?」

 

自らの役目を話したサガミに、レイカが顔を顰めながらそう問いかける。まぁ客観的に見れば、自分たちはそう言う存在なのだろう。ファーンの側にある〝ケース〟が、その火種になりかねないのだから。

 

「……まだなんとも。状況も聞き取れていないからな。そもそも、なんでこんな次元世界の端に来た?何かの調査ってわけではなさそうだが」

 

これでもヘンリー・ヴァンダーは管理局に監視されている次元世界の一つだ。年に1〜2回ほど、調査……と言うよりも視察で、この世界にやってくることある。といってもあくまで衛生軌道上からの監視だけで、この世界に降りてくるなんてことはなかったわけだが。

 

それにあの船の様子や、少人数でやってきていること。メリーが起きてくる前に、ファーンが外部との連絡手段を聞いてきている段階で、監視や調査という目的とは違うということくらい、察しはつく。

 

「そのまま、察していただけると非常に助かるのですが……」

 

「機密事項ってわけか?随分なことだな。何も情報がない以上、助けようがないのはわかるだろ?」

 

言いづらそうなファーンに、サガミは遠慮なくそう告げるが、メリーはその言いようが気に食わないのか鋭い目つきでサガミを睨みつけた。

 

「助けてほしいなら事情を話せ……ということ?」

 

まるで横暴だとでも言いたそうな顔だな。サガミは内心でそんなことを思いながらも、なるべく相手を刺激しないような言葉を選んで、スイーパーとしての事情を話す。

 

「中に何が入っているか分からない箱ほど怖いものはないのさ。開けて宝石箱なら守ればよし。ただ爆弾なら街に入れることは無理だ。……悪いが、俺にも守るべきものがある」

 

そこでメリーがハッとした顔をする。外世界である以上、向こうにも文化と世界がある、と。管理局側の事情を押し付けて、何も知らせないままそれを受け入れろと言うのが酷なのだ。その点を考えれば、メリーやファーンたちは運がよかった。

普通なら、そんな爆弾を抱えているような相手など助けようとする者はいない。

外世界において管理局という存在は、多くの場合が孤軍奮闘の立場を強いられるのだから。

 

「……わかりました。事情を話します」

 

ファーンが静かにそう告げる。そんな先生の顔を不安げに見つめるメリーに、隣にどっかりと座るレイカが仕方ないわよ、とファーンの判断を肯定した。

 

「状況が状況よ、訓練生。私たちは単にこの世界に降りてきたわけじゃない」

 

「だろうな、それに加えて頼みの足はあの有様だ」

 

サガミの言う言葉に思い出す自分が手間暇かけて作り上げた船の無惨な姿。その修理……いや、そもそもそんな事を言ってられるのか分からない状況に気分を重くしながら、レイカはずっと気になっていることをサガミに問いかける。

 

「ねぇ、その前に教えて欲しいんだけど何で船のエンジンがダウンしたの?何か原因を知っているわよね?」

 

「あぁ、それはこの世界の特性で……」

 

『サガミ、話は一度切り上げだ』

 

レイカの疑問の答えを告げる前に、待ったをかける声がサガミの背中から響いた。彼の背中には一振りの直剣が鞘に収まっていて、その鞘は右から左脇腹にかけられたベルトでしっかりと彼の背中に固定されている様子だった。

 

「それは……アームドデバイスですか?」

 

ファーンもその武器を気にかけていたのか、恐る恐ると声が聞こえた理由について問いかけたが、サガミは首を横に振って否定した。

 

「いや、そんな高価なもんじゃないさ。御伽話にはよくあるだろう?喋る剣とか、命を持った魔法の絨毯とか」

 

そんなもんだと思っておいてくれ。実は俺もよくわかってないんだと答えたサガミに、ファーンやメリーたちは思わず顔を見合わせる。彼女たちの困惑をよそに、サガミの背中に背負われた剣、「ドワーズ」は声をかけた理由を重ねてサガミに告げる。

 

『やはり厄介ごとかもしれんな』

 

その言葉に、サガミの気配も変わる。視線は拠点施設の外に向けられていて、その視線は先ほどとは打って変わって鋭いものになっていた。

 

「……アンタたち、他に仲間は?」

 

「いえ、私たち以外は全員管理世界に向けて脱出を」

 

「じゃあ追われる理由は?」

 

「それは……」

 

思わずメリーの視線がファーンの側にあるケースに向けられる。それを見て、サガミもドワーズの言うように「厄介ごと」であることを確信した。

 

「……なるほどな」

 

短くそれだけ伝え、サガミは席を立つとそのまま建物の外に繋がる扉まで歩いていき、ドアノブに手をかけてファーンたちの方へと振り返った。

 

「アンタたちはここから出るなよ?……面倒見きれないからな」

 

彼女らがいうデバイス。そして乗ってきた船から見る限り、魔法……または魔力素に依存する戦い方をするのならば、足手纏い以下になる可能性が高い。

 

ここは、そう言った世界だ。

 

スルリと外へと出ていくサガミを、ファーンたちは何も言えないまま、ただ見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

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