鉄の霞と技術者   作:石和

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意志

 

 

 中央氷原―エンゲブレト坑道。先日コーラル逆流が発生し、廃棄される運びとなったそこへ、トリーゴは向かう。

 

『ルビコン開発中期から存在する、古い歴史を持つ坑道』

 

 ライブラリでその存在を知った時、ここに行けば様々な時代の痕跡が残っているのではないかと思ったのだ。

 

【お散歩?】

 

 隣人たちの声を聞きながら、坑道の入口へと立つ。コーラル逆流でボロボロになった人工物を眺めながら、特に警戒することもなく中へと進む。

 

 コーラル濃度が高めのそこは、隣人たちの声が良く響く。

 

【仲間】

【おともだちだ】

 

 ふわふわと最奥まで下降しながらスキャンを行っても、めぼしいものは何も反応しない。仕方が無いので隅から隅まで覗いて回れば、機体の残骸がところどころに落ちている。どうやら封鎖機構の機体の残骸で、データは生きているので抜き取れそうな様子。

 

 試しに接続してみれば、データを回収できてしまった。

 

――――SG機体の設計図面、執行機体の設計仕様、執行部隊の編制…

 

 トリーゴにとっては不要の産物だったが、得られたものはとりあえず保管することを選択。ふらふらと徘徊して、壊れた機械の裏まで覗いて、やっと欲しかった情報が見つかる。

 

「『技研』のAC…!」

 

 2機も見つけた。機体は私が乗っているコアと似たような設計デザインをされていて、なんというか、曲線が美しい。

 

【データ回収~!】

【古いね】

【なんか、しってるひとみたい】

【知っている】

 

 モニタにデータを開く。すると、どちらも『ナガイ教授の口述筆記』というタイトルがつけられている。

 

――――祖父の知人。

 

 何故だろう、私には祖父がいて、その知人がナガイ教授なのだという。

 

 自分の知らない自分が哀愁を感じているのを不思議に思いながら、口述筆記のログを読む。

 

――――強化人間の走りとなった男の話、アイビスの火の二日前の話…

 

 初めて読んだのに、初めて知った内容ではないと思うのは、過去の私が知っている内容だったということだろうか。

 

 そんなことを思った時、脳裏に過ぎるものがある。

 

『コーラルは焼くものだと教わった』

『コーラルは、宙にあるべきだと思う』

『人が自由でいるために、コーラルが世界に広がればいい』

 

 何かの機体のコックピット、抱えた膝が見える。

 

「………!」

 

 たしか私はこれを、××××という男に話した。記憶があいまいなのが口惜しい。

 

――――もっと知りたい。

 

 『技研』や『コーラル』は、それをきっかけに生まれた狂気はきっと、過去の私にとって重要な要素なのだ。欠けた部分も埋められるのではなかろうか。

 

「………確か、紺色の機体だった…か?」

 

 自分の機体に塗装された理由が今の今まで分からなかった色の謎が解けた。その搭乗者は、名前も思い出せない件の男だろう。

 

 謎の自信を胸に、エンゲブレト坑道から抜け出した。

 

 

 

 以来トリーゴは、ルビコン各地をこれまで以上に回り始める。撃破された『技研』の遺産を見て回り、古い地下施設はくまなく探索。時々封鎖機構が追いかけて来たり、アーキバスが捕まえようとしたり、ベイラムにガトリングを散々撃たれたりしたが、そんなものはすべて無視した。

 

 紺色のACはアーキバス所属らしいと途中から気づき始めたが、生憎遭遇する機会が無かったのですべて逃走している。時間を大切にしたいので、無駄な戦闘はしたくない。

 

――――ここはもうないな…。

 

 情報を集め終えて、外へ出る。何かがスキャンに引っかかった。

 

『ほう、スネイルの言っていた機体だ』

 

 上を見上げれば、暗い青色をした機体。私の探す男の機体カラーと似ているような。

 

【誰?】

【アリーナにいたよね】

【えっとー】

 

――――V.Ⅰ フロイト、ロックスミス…

 

 何故、こんなところにいるのか。ここは一応、アーキバスの管轄ではないはずなのだが。

 

『匿名のリークがあった。謎の機体が、ここに出現すると』

 

 狙われる。

 

『お前の戦い方は気持ち悪いが、強い弱いへの興味は別だ』

 

 反射で銃を構えた。

 

『さあ、やろう』

 

 初手からアサルトライフルを撃たれたので、クイックブーストで回避して、兵装のチャージを始める。

 

『今のは機械の動きだな。――――おっと、このタイミングの奇妙さは人間臭い』

 

 トリガーを離して発射すれば、それは見事に回避された。でも、知るスピードとは違う。

 

『この動きは…人間のようだが、さっきと違うな』

『レーザードローンは苦手らしい』

 

 ふわふわ動きがちなこの機体とドローンの相性は良くない。少なくとも、自分の持つ操作技術では、よく被弾するから腹立たしい。

 

 射撃も、チャージをしているものは避けられがちだ。

 

『当てるためにチャージをやめたのか』

『キックの多用、弾のストックは多くないらしい』

『ブレードは使わないのか?』

 

 随分と煩い。常に喋っていないと満足できないのだろうか。

 

 半ば苛立ちでやけくそになりながら攻撃を続ける。アサルトアーマーをブチ当て、追撃で蹴りを入れてライフルをぶっ放した。ゴリゴリ削るも、リペアを使われて回復されるから、猛烈に機嫌が悪い。

 

 ひたすら攻撃を当て続け、リペアキットも使い切らせたところで、決定的な一言を言われる。

 

『面白いのはこれからだろう――――本気出せよ』

「は?」

 

 こいつ、戦いを面白いと言ったのか?本気を出せと?

 

「殺し合いを、遊びだと?」

 

 私の探す男は、そんな感覚で戦いに挑んでいたわけではない。

 

「違う」

 

 この男じゃない、そう思った瞬間。

 

【じゃあ斬るか】

「?!」

 

 勝手に手が動いた――――

 

 

 

 

 ブレードで両手両足を切り離された機体が地面へ落ちる。

 

『まだだ、まだ、』

 

 切り落とさなかった頭部パーツを踏んで潰す。

 

 相手を黙らせ、勝利を確定させてなお脱兎のごとく、トリーゴは地平の果てへと飛び立った。

 

 

***

 

 

 輸送機で拠点へ戻る途中に緊急通信を受けた。パイロットに命じて拠点への直行から寄り道をするよう変更してもらい、スティールヘイズを起動する。

 

「………首席隊長殿、何でこんなところに?」

 

 V.Ⅳ ラスティはあきれ顔で輸送機から降下。ビーコンに従い、目的の人物の機体があるであろう場所へ落ちてゆく。

 

『その声は第四隊長か』

 

 ここに例の機体がいると聞いて、飛んで来た。あっけらかんと言い放たれたそれに頭痛がする。

 

 しかしそれ以上に、氷原に到着して見えた、ロックスミスの状態に目を奪われた。

 

「これは…」

『負けた』

「――――」

 

 絶句する。

 

 現状のルビコンにおいてV.Ⅰを倒すだけのAC乗りなど、戦友くらいのものだろう。しかし、薬莢が散乱し、氷原に開けられた穴の数々といった戦闘の形跡がある現場で、よりにもよって両腕両足を切り落とされた状態まで落とせるものだろうか?

 

『戦闘が始まって、最初は動きが無人機の量産型だったんだがな』

 

 動きが突然人間に戻ったと思ったら、しかも怒らせたと気付いた瞬間には、両腕を切り落とされていた。

 

「あのブレードに?」

『そうだ』

「人間の動きなら、あなたが負けるとは思えない」

『…あれはAC乗りとして鍛えた人間の乗り方じゃない』

 

 あらゆる物事にも、プロフェッショナルっているだろう?

 

『あれは剣術の動きだった。まぎれもなく、ACを人間の身体にして動かしている』

 

 ACを、人間の身体に。…それは、この世界にいる人類の誰一人として実現できていない域の操作技術ではないか?

 

 しかし、先日の映像を見る限り、そこまでの操作技術があったとは思えない。奇妙だ。

 

 暫く黙っていたフロイトが、おもむろに口を開く。

 

『…そうだな、二人乗っているみたいだ。もしかしたら、もっといる』

 

 その言葉の意味が理解できない。何が言いたいのだ。

 

『旧世代型強化人間には、コーラル焼き付きの影響で後遺症が残ると聞いた。それには幻聴や多重人格も含まれるらしいが、もしその人格が、技術を伴うものだったらどうなるんだろうな』

 

 とりあえず、早く回収してくれないか?

 

 フロイトに言われて、ラスティはロックスミスの胴体を回収する。一応切断部分を調べると、やはりコーラル反応が検出された。

 

『とりあえず、三人。枠を含めて頭数は四人…いや、やっぱり三人か?』

「枠…?」

 

 引き連れてきた輸送機にロックスミスを搬入する。固定され、コックピットが開いたところで、血塗れになったフロイトが姿を現す。

 

『一人は剣術ができる奴。もう一人は、強化人間として無人機の動きを脳に焼かれた奴。最後の一人…は枠と同一人物かもしれない奴で――――ああ、枠ってのは、身体を奪われたか、貸し出したかしてる奴がいるかもしれないっていう予感だ。おそらくそいつがパイロットだな。怒りの感情を見せたのも、そいつかもしれない。もしかしたら、本人は自分の中に複数いるとは気付いてないかもしれないが』

 

 ここがスティールヘイズのコックピット内で良かったと心底思う。まともな表情を取り繕える自信が無い。

 

『あの機体、碌でもないぞ』

 

 人を犠牲に動く機体。強化人間を作り上げる罪なぞには遠く及ばない、それ以上に罪深い何か。

 

『でも、あれを鹵獲して量産出来たら、複数人の技能を活用できるパイロットが生まれるかもな』

 

 そうしたら、俺はもっと強い相手と戦える。

 

 応急手当を受けながら、狂人は微笑む。

 

「――――っ、」

 

 通信用のマイクを切断して、ラスティは叫ぶ。

 

「そんなことがあってたまるか!!!」

 

 戦友には『君の大切な人(メイカ・オーツ)が、ACに乗って空を飛んでいるらしい』と教えられ。

 

 ACはよりにもよってコーラル漬けの『無人機から転用された』機体で。

 

 果てはフロイトによる『身体を使われている』などという推測。

 

「………」

 

 朧げになりつつある、彼女の黒い瞳が細められる様が、脳裏を過ぎった。

 

 彼女には『技研』の技術がある。ほとんどの人間が知らないことを、彼女は知っている。…それは、あの未知の機体を動かすことができる知識があるということと同義だ。

 

 彼女のメカニックとしての腕前は、脳に溜め込んだ知識も大きいが、何より、彼女の身体が覚えた経験によって生み出されていた。その肉体を使われ、精神も奪われているとしたら。

 

「それは、人ならざるものじゃあないのか」

 

 人としては、もう死んでいる。しかも、無残に殺される形で。

 

 このルビコンにおいて、死人は余燼の如く消えてゆくしかない。

 

 

「なら、俺が消す」

 

 

 彼女は誇りあるルビコンの民だ。どちらの周回でも、彼女は最後まで己の意志で戦い抜いて見せた。

 

 それを踏みにじるような真似をさせられている彼女を、死んだまま動かされている彼女を、止めてやらねばならない。誰の手でもない、自分の手で。

 

 1周目も2周目も、彼女は最後の舞台にいた。ならば3周目は、あの機体で最後の舞台にやってくるだろうから、迎えてやらなければ。

 

――――オルトゥスの完成を、急がせよう。

 

 






 アリーナのロックスミスも、企業勢力迎撃のフロイトも転がしてきました…
 普段は重量四脚両手重ショに両肩歌鳥のベイラムよろしく実弾信奉者しているので、このチャージ式ふわふわ機体、超キツイですねえ!

 まさかアリーナロックスミスは瞬殺したのに、企業勢力迎撃をこの機体でクリアするのに苦労して投稿が遅れたとかそんなことは!!!あります(Bが限界でした)

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