鉄の霞と技術者 作:石和
先日はバレンタインデーでしたね…(今更)
いつも見てくださっている皆さんが期待しているかはさておいて、それらしいブツは登場させました。ほんまか?
【例の薬を渡されたメイカさん】
目の前に、小さな小瓶がある。瓶はクリアカラー。中身は、半透明で、ピンク。揺らすと内容物がとろりとしているのが分かる。
中身はどう考えても、そういうものらしい。というか、最初見つけたときに全く分からなくて、見かねた後輩にこっそり耳打ちされて理解したレベル。そして、「もったいないから」とそれを持ち帰らされて、とりあえずシャワーを浴びて、洗面所でこれを眺めているところ。
「………」
綺麗ではある。だが。
(………そもそも強化人間に、というかあの男にこんなもの要らねえな?)
ぽい、とゴミ箱に小瓶丸っとそのまま捨てる。分別がなっていないが、中身を開封して問題になっても困るので、すべからく焼き尽くしてもらおう。
洗面所を出る。ベッドに腰かけて端末を眺めている、私にとっては唯一無二の男がいた。
(まあ、それに)
つかつかと近づいて、端末を回収する。
「?!――――メ、メカ…メイカさん?!」
(大抵、私が本気出すとこの男は乗ってくる。例外を除けば、むしろ本気出すか否かであっちも調整している感じすらあるし)
えい、と男を押し倒す。質は良くないが機能は果たすベッドがふわりと揺れる。
「あの、ちょ、」
(…いや、むしろ私が飲むべきなのか?)
「メカ、メカ…!」
(…ただ、あれが毒薬かもわからんし、この男は『英雄もどき』だし)
回収した端末が邪魔だ。電源を切り、手ごろな台へすすっと置く。
(死なれると困るし、悲しいし、辛いし、寂しいから)
彼の傍へ身体を寄せる。
(変なものは飲まない、飲まさない、飲ませないに限る)
「どうしたメイカ?!急に!」
「本気出そうと思って」
「今?!」
「…だめ?」
「――――喜んで…!」
背中に腕が回される。私はふ、と笑うと、顔を近づける。
そして、唯一無二の愛しい男へ口づけた。
【例の薬を渡されたラスティくん】
目の前に、小さな小瓶がある。瓶はクリアカラー。中身は、半透明で、ブルー。揺らすと内容物がとろりとしているのが分かる。
(………この薬)
ひょんなことから入手したこれ。中身はどう考えても、そういうものらしい。
(『どっち』も飲んだらいけないやつだろう…ッ!)
洗面所で、外出着から着替えもせずにラスティは頭を抱えた。
メイカはリビングでアニメを見ているらしい。聞き覚えのある曲のイントロと、それを早送りする様が分かった。確か、このアニメはエンディングがいいと言っていた。毎週欠かさず聞いている……いや、今はそんなことを気にしている場合ではなくて。
(メイカは俺が求める限り応えてくるし、逆にメイカが本気出すとこっちが根こそぎ食われる)
先日の『本気モード』を思い出す。後で話を聞いたら、これと同じような薬を受け取ったが、ゴミ箱にポイして自分で誘惑する方向に舵を切ったと話していた。実際誘惑に乗ったし堕ちた。最高だった。
また思考がそれた。目の前にある小瓶へ意識を戻す。
しかし、これを使うという選択肢はやはり無いように思う。
(メイカの身体が最初に壊れそうだ)
結局、ラスティも彼女と同じように、小瓶をゴミ箱へ捨てる。勿論開封して何かが起きては困るので、そのまま。すべからく燃えてもらう。
(……精神力が強すぎて、かろうじてといえども最後まで意識は保ってるから本当に恐ろしいよな…)
洗面所を出る。これは余談なのだが、彼女のパジャマ姿はいわゆる『寝巻』と『寝間着』の二種類で、今日は『寝巻』の方だ。解放戦線で、いやおそらくルビコニアンで、このスタイルのパジャマを平時から採用している人間は他にいないだろう。
「メカ」
「?」
アニメを楽しんでいるメカの横に座る。
「理性が飛ぶ時ってのは、メイカにはないのか」
彼女がこちらを見た。唐突な質問に何度か瞬きを繰り返してから、返答が来る。
「………わりと、君にがっつかれてる時は、ぐずぐずだと思う」
マジか。
「メイカ~!」
「今いいところだから待って」
「ハイ」
アニメへと視線を戻してしまった彼女は、こちらを見ずに付け加えた。
「…あと10分で終わるから」
「支度して待っている!」
再度洗面所へ戻った。今度は外出着を脱いで、シャワーを浴びに浴室へ入る。
「……待って、支度って何の話?ラスティ、ちょっと!ラスティ!!」
メイカの悲鳴が聞こえるが、そんなことは鼻歌を歌うほどの上機嫌においては些末なことであった。