鉄の霞と技術者   作:石和

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 ネタ:なんかコーラルの云々でトンチキした結果、少年少女になっちゃったぞ☆


 解放√後、いつにもまして謎時空
 フラットウェルが小さい頃のラスティの面倒見てたらいいなという幻覚から始まってしまった何か




夢見る紙飛行機

 

 

 ルビコンをあらゆる敵対勢力から解放し、ルビコニアンが自由を得てからしばらく。解放戦線ナンバー2、ミドル・フラットウェルの執務室にて、その部屋の主は頭を抱えていた。

 

「…ラスティ」

「なんだよ、クソジジイ」

「言葉遣い」

「…なんですか、フラットウェル」

「はあ…」

 

 前略、コーラルの云々がなんとやらで、二人の青年が幼児化した。

 

 一人はラスティ。10歳、クソガキやんちゃだったころの典型的ルビコニアンキッズの姿になっている。コーラルの云々は都合よく、短髪ヘアスタイルや服装まで当時の再現をしてくれた。半袖Tシャツ、ぶかぶかのズボン、ズボンの裾を突っ込んでいるブーツ。首元に巻かれたストールまで記憶にあるものと同じで、これについてはフラットウェルのお下がりだ。

 

「………」

 

 その隣で、緊張でガチガチになって沈黙している、背中まであるだろう長い黒髪をルーズサイドテールに結わえた少女は、メカ(推定)。見た目は小柄で6歳くらいに見える。何せ、一言も喋ってくれないために自己申告が無ければ得られない情報が何もない。彼女の子供時代は人のいない環境だったことが理解できるが、それだけだ。

 

 名前すら名乗ってくれない中で彼女が「メカ」だろうと推測したのは、ひとえに彼女の身に着けている白いワンピースの裾、ぐるりとまわるように青の糸で刺繍された大柄のモチーフがスパナであったからに他ならない。よく見れば、髪を結わえている髪留めのモチーフもスパナらしき形が見える。いびつで不格好なのは、もしかしたら幼い彼女の自作だからかもしれない。

 

「メカ」

 

 細くて小さい体が揺れる。根気強く――――その間、待つのに飽きたラスティにいたずらをされようとも反応せずに――――静かに返事を待てば、やっとの思いで発せられたらしい、か細い声が聞こえた。

 

「は、はい…」

「君は、いくつだ」

「…8、歳…です…」

 

 絶句した。いや、同じ現象を同時に受けたらしいということは報告で聞いていたので、ラスティと同じだけ若返ったと考えていいと推測はしていたが、だが、8歳というにはあまりにも…あまりにも小さく、人見知りがすさまじい。いや、ラスティの方がガタイが良く、人見知りをしない社交的な性格だったせいで感覚が狂っているのだろうか。普通の子供とはこんなものだっただろうか。分からない、分からない…ッ!

 

「ラスティ、お前の将来の夢は?」

「AC乗り!」

「実現したか?」

「何言ってんだよ、まだ子供だぞ」

「そうだな」

 

 ラスティの威勢のいいクソガキ反応から、身体に引っ張られて記憶も幼児化しているのだと判明した。この現象を調べさせられた――――そして何も分からなかったドクターから、運が良ければ翌朝には戻るのではないかと言われているが、何せ今現在がまだ今日という日の朝なのである。つまり、1日彼らの子守を、順繰りでもなんでもして行わねばならない。

 

 フラットウェルが仮に暇だったとして、1日付き添えるのは同性のラスティだけだ。メカはあくまでも女性であり、夜は女性であるドクターに面倒を見てもらうしかないだろう。なお、残念ながらフラットウェルもドクターも暇はない。夜は何とかみられるだろうが、夜までは誰かに任せなければならない。というか、もう夜もドクター任せで良いだろうか。医務室で寝てくれ。

 

 話がそれた。最大の問題は、その任せる相手が、誰一人としていないことだ。

 

――――レイヴンを『技研都市』へ送ったのは拙かった…!

 

 下手な人員に二人を任せるわけにはいかなかった。片や解放戦線のエースであり兎に角モテまくる罪深い男ラスティ、もう片方はルビコンでも指折りのメカニックであり癖の強い性格のメカ。ラスティはその罪深さから何をして、何をされるか分からず、メカは性格はともかく、沈黙の緊張しいが増えたのでコミュニケーションを行えるかが分からない。

 

 うんうんと悩み頭を抱えるフラットウェル。せめて何とか、ラスティがメカとのコミュニケーションを果たしてくれればいいのだが…。

 

「その模様、スパナだよな。好きなの?」

「…!すき」

「髪留めも、スパナ?」

「ぃ、あ、えっと、うん」

「上手だな!」

「…!」

 

 顔を上げる。クソガキはニコニコとメカ(推定)へ話しかけ、メカ(推定)は戸惑いの色が濃く、口は重たいものの何とかコミュニケーションを果たしているように見える。

 

「俺、ラスティ!あんたは?」

「………メイカ」

「フラットウェル!遊びに行ってきて良いか?」

 

 ………。

 

「…遊んでいい」

「やった!行こうぜ、メカ!あ、メカって呼んでいい?」

「…ん」

 

 メカ(確定)はクソガキに手を取られる形で手を繋いで、ラスティに半ば引きずられる形で部屋を出ていく。…最初から、クソガキに任せておけばよかったらしい。

 

――――いや待て、クソガキはともかく、メカのあの薄着は寒いだろう?!

 

 慌てて廊下へ飛び出して呼び止める。

 

「ラスティ!待て!彼女に上着を着せろ!」

 

 

***

 

 

 結局、子供用の――――特にメカに着せる防寒着が足りないからと、外で遊ぶのは止められてしまった。

 

 代わりといって案内されたのは、会議室。勝手はわかるので、暖房のスイッチを入れ、ホワイトボードの電源も入れる。暖房を入れるという気を利かせられたのは、フラットウェルに言われたからだが。

 

「これ、なに?」

「ホワイトボード。このペンで、何度も書いては消せるんだ」

「………電子黒板?」

「たぶんそう」

 

 実際にペンを滑らせて、自分の名前を書いて見せる。メカにもペンを手渡せば、彼女は見たこともない文字を書いた。

 

「なんて読むんだ?」

「…『めいか』。わたしの、名前」

「へえ、不思議な形」

 

 しばらく落書きをしながら過ごしていくうちに、彼女は話すことが上手くないだけで、頭の中ではたくさんのことをぐるぐると考えていることが分かった。むしろ、8歳…周りにいる同じ年の奴らと比較すると、結構、いや大分頭がいいんじゃないかと思う。身体が小さくて、相手…フラットウェルなんかはそれに見合った態度をとりがちだが、多分間違ってる。

 

「な、メカ。AC好きか?」

「ん」

「お!だよな!戦ってる姿がかっこいい!」

「…わたし、は」

 

 沈黙が広がる。言葉を選んでいるのだろう。彼女が考えているのを待ちながら、ホワイトボードにACを描く。楽しい。

 

「わたし、自由に宙を飛びたいの」

「…?」

 

 ペンを動かす手を止め、彼女を見る。――――黒い瞳が、キラキラと輝く。

 

「戦うのもいいけれど、ずっと、自由に、ふわふわ、お空を飛べたら、きっと…きっと、楽しいって思う」

 

 紙はある?と聞かれ、A4用紙の束を見つけて渡す。彼女はそれを受け取ると、1枚は自分に、もう1枚を俺に渡した。

 

「折り紙」

「…折り紙?ああ、紙飛行機を作るのか?」

「一緒につくろ」

 

 彼女の指示に従い、紙を折っていく。丁寧に、真っすぐ折られていく彼女の紙飛行機は、今までに見たことのない形をしている。

 

「ヒコーキって、こう、三角形みたいな感じだと思ってたんだけど、これなんというか、四角いな」

「ん。でも、ふわふわ舞うの」

 

 暖房から離れた場所に位置して、二人で並べた椅子の上に立つ。す、と手から紙飛行機を離せば、それはふわりふわり、宙を舞う。

 

――――速いってのも、悪くはないが。

 

「人間もこんな風に宙を飛べたら…空が美しく見えそうだな」

 

 そう言って、椅子を降りる。隣でぴょん、と派手に椅子を飛び降りた彼女は、長い黒髪を揺らしながら笑う。

 

「高いところにも、きっと行けるよ」

 

 目を見開いて固まる。背後から扉が開く音がして、フラットウェルの呼ぶ声が聞こえた。

 

「呼んでる」

 

 先ほどまでとは全く逆。彼女に手を取られて、小さな背中を追いかける。

 

――――白いワンピースに、黒い髪。

 

 漠然と、夢の終わりを惜しむ気持ちになったのは、何故だろう。

 

 

***

 

 

 目を開く。見慣れない天井だと思ったが、身体を起こしてみれば、何だかんだよく知る医務室だった。

 

「おはよう、ラスティ」

 

 声をかけてきたのはドクターだった。ルビコンでも少ない医者の内、さらにレアな女医である。

 

「体に異常は?」

「…?ないが」

「…あんた、昨日のこと覚えてないのかい」

「仕事をしていた以外全く記憶が無い」

 

 ドクターがカルテに何かを書き込んでいる。昨日…昨日は、確か、『技研都市』で発見されたものをメカと一緒に確認していて…それで、何だったか。

 

「まあ先に起きたメカもそんな感じだったからね。ほら、元気なら部屋に帰りな」

「メカは?」

「あんたそれ以外に言うことないのかい」

 

 部屋に戻ってるよ、とあきれ顔で言われるのをそのままに医務室を出る。いつもより少し足早に歩を進めているのは、何かが自分を突き動かしているからだ。

 

 彼女の部屋へ着く。いつものように鍵を開けて、中へと立ち入る。キッチンを抜け、居間へ立ち入れば、深緑のロングニットを着た女が立っていた。彼女の髪は黒く、前下がりボブで、髪の隙間から現物に忠実な形をした小さなスパナが揺れている。

 

「あ、おはよ」

「おはよう…」

 

 彼女の手元にあるのは、覚えがあるような、無いような、四角い紙飛行機。

 

「それは、紙飛行機か」

「うん。夢に見た気がして、久々に作ろうと思ったの」

 

 子供のころからよく作ってたけれど、シュナイダーのメカニックとなった今では微調整ですら格段にレベルアップしているはず…!と彼女が胸を張る。

 

「会議室…じゃ足りない。廊下。廊下借りよう。もうそれは長い廊下を」

「どれだけ滞空させるつもりだ」

「29秒」

「空力狂いだなあ」

「レイヴンも呼ぼうか。シフト通りなら、昨日の夜には戻って休暇のはずだからね」

 

 ほらほら、と外へ出ようとする彼女に手を引かれるが、逆に引っ張って止める。

 

「先に朝食を食べるぞ、メイカ」

「うっ、――――はい…」

 

 動きを止め、しおしおと落ち込む彼女を逆にキッチンへと引き連れていく。先ほどまでの、何かに突き動かされていたような感覚はすっかり抜けてしまった。とりあえず、食事をするところから今日を始めよう。

 

 平和になりかけた、穏やかなルビコンの一日…

 

『ラスティ、メカ』

 

は、突如展開された映像通信がぶった切る。眉間にしわを寄せた帥叔の姿が見えるが、何故そんなにも今日は疲弊しているのか。

 

「なんでしょう、フラットウェル」

『昨日仕事をしてないから、今日は代わりに出勤してもらうぞ』

「嫌ですが」

『おいクソガキ』

 

 久々の呼称だ。珍しいこともあるものだ…と思っていると、もっと珍しい光景が次にやってきて。

 

「………紙飛行機飛ばしたいから、やだ」

『クソガキのせいで空力狂いが発動するのも勘弁してくれ』

 

 メカの珍しい出勤拒否、もしくはシュナイダー社員として正しい反応に、映像越しのミドル・フラットウェルは頭を抱えた。

 

 思わず笑ってしまった俺は、何も悪くない。

 

 






☆ちみメイカちゃん
 8歳。人馴れしていない。実年齢-2歳に見えてしまうのは、(おそらく多国籍で人種の壁を失いつつある)ルビコニアンに対して(比較的日本人の血を濃く受け継いできた)オーツ一族が小さすぎるからである。シュナイダーに入社する狂人の片鱗が見える。


★ちみラスティくん
 10歳。典型的ルビコニアンキッズの姿(幻覚)。とりあえずフラットウェルに言われずとも(年下への面倒見の良さから)手は繋ぐクソガキやんちゃボーイ。シュナイダーに入社する狂人の片鱗が見える。

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