鉄の霞と技術者   作:石和

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 ほ、ホワイトデーってものがあったよな!!!!
 現世のイベントには疎い というか参加してないからわからない
 つーかルビコンにもあるのか?こんなものが


 まああれだろ?イベントってのはコーラルキメてパチパチしてナンボだもんな!
 あとついでだから予約投稿しておくぜ!!楽しみにしていてくれよな!


 以上怪文書

 以下も怪文書





嘘をつくには丁度よい非日常

 

 

 それは、ひと月ほど前のことだった。

 

「………?」

 

 自室に帰るとやけにいい匂いが広がっていた。香ばしい匂い…だけでなく、甘い匂いもある。

 

「メイカ」

 

 キッチンから、やたら上機嫌な、どう見ても料理をしていたことが分かる、腕まくり姿のラスティがいた。

 

「夕食を作ったから食べよう」

「わかった」

 

 作業着の上に羽織っていたブルゾンを脱いでハンガーにかけると、浴室へ向かう。仕事終わりのルーティンだ。流石に油まみれホコリまみれでは部屋を汚してしまうから。

 

 シャワーを浴びてからリビングへ向かう。本日非番だった男は、部屋着姿で席についている。

 

 その席のテーブルに並べられた料理は、ルビコニアンにとって文化とも言える、ミールワームを使ったもの。私にとっても慣れたものであり、物資が豊かになったルビコンでは相変わらず高頻度で食べられている。

 

 まあ、何が言いたいかと言うと。

 

「ラスティのごはん…!」

 

 頬が緩むのが分かる。そそくさと席につき、手を合わせた。

 

「いただきます!」

「ああ、召し上がれ」

 

 フォークとナイフで食事を始める私に上機嫌な返事をしながら、ラスティもルビコンでメジャーな形の祈りを捧げてから食事を始める。勿論、私のやり方はマイナーだが、それを咎める人間はここにいない。

 

「おいひい!おいひい!」

「おかわりもあるぞ」

「適量を盛り付けておいて何を言う」

「ハイから正常に戻るまでが早すぎる」

 

 ラスティの盛り付けは基本的に私の食事量をつぶさに観察したとしか思えないほどの適量でなされる。恐ろしいがもう慣れた。好きにしてくれ。

 

 そんなこんなで美味しいご飯を食べ、のんびりと夜を過ごし、ラスティより先に寝落ちて――――次の日に思い知る。

 

「………?」

 

 ガレージでブルゾンのポケットへ手を突っ込んだ時、ガサリと音がした。手に当たるものを掴んで引っ張り出してみれば、花巾着のような紺色の小袋。

 

 袋の口を開け、中身を見て、沈黙する。

 

――――………。

 

 袋の裏地は緑色の布地に、デフォルメした狼の白い模様。そして、小さなスパナ型の、どう見ても手作りしたと思しきべっこう飴の粒達。

 

 そういえば、昨日は部屋の中、甘い匂いがしたんだっけ。その日付は、2月14日。

 

「『食物飛び交うイベントデー』…ッ!」

 

 私は頭を抱えた。

 

 

***

 

 

 あれから2週間。

 

「あ、姉御…」

「どうしたんだい、死にそうな顔して」

 

 ラスティを出禁にし、自室に整備班の姉御を引き入れて酒宴を始めた。酒がなければ私がやっていられない。

 

「どうしよ、バレンタインに飴ちゃんもらっちゃって」

「…隊長に?」

「そう」

「あの、手作りの品は片っ端から捨てて、既製品は部下や関係者に横流しするラスティって男に?」

「そう…」

 

 姉御がヤケクソ気味に酒へ口をつけた。彼女もやってられないと思ったらしい。

 

「…料理は、普段から作ってくれてるし、作ってもいるんだけど、やっぱりその、作っている様を意図的に見せるようにはしているんだよね」

 

 じゃないと、警戒しちゃう職業だし。今も、いろいろ大変そうだし。知らぬうちに準備された手淹れっぽいお茶なんて、私の分まで捨てるし。謎の小瓶も捨てるし。私も捨てたけれどさあ。

 

「あんたたちも難儀だねえ」

「帥叔が施した教育の賜物ォ…」

 

 つーか後輩が言ってたあの小瓶捨てたん。うん。

 

 姉御は苦笑した。

 

「あんた、飴の意味は調べたかい」

「な、長持ち…」

「間違ってはいないがロマンに欠けた返事だよ」

 

 うーうー唸りながら「どうしよう」と頭を抱えるメカを眺めつつ、姉御は思考する。

 

 食べ物を渡すのは至難の業。それは隊長の生態だけでなく、メカの料理スキルが彼女の文化圏方向に突き抜けているために材料が揃わないという理由も含めてだ。西洋系が多い拠点なので、東洋系の食料品が安定して出回るようになるのはもう少し先の未来だろう。典型的ルビコン料理はラスティに軍配が上がるので、メカが不満に思うだろう…自分をね。

 

 かと言って、工作させるようなものもダメ。メカが帰ってこなくなり、隊長の機嫌が損なわれる。『白いスティヘ』事件も大変だった。正気を保った外面の中身がずいぶん狂っていたことくらい、メカ以外の整備班メンツは把握済み。何なら、「ラスティがいつ出禁のガレージに忍び込むか」を整備班で賭けてた。全員が「(メカに嫌われたくないから)やらない」に賭けた。よく見たら隊長も「やらない」に賭けている致命的なナニカ。メカだけが知らない賭博は不成立。

 

 しかし、メカは全く努力のいらない、既成の品での返礼は好まないだろう。周囲と被るし、何より「その程度」ではないクソデカ感情を抱えているのは彼女とて同じ。自分の最善を尽くしたがるから、こうして酒宴に呼ばれているわけで。

 

 ふと、彼女の文化圏外で、妙案を思いつく。

 

「ワルツは踊れる?」

「三拍子の曲のことじゃないの?」

 

 この子は変なところで知識不足だ。だがまあ、今回はちょうどいい。

 

「メカ。隊長を誘って、ワルツを踊りなよ」

 

 黒い瞳が見開かれて固まる。面白くなりそうだった。

 

 

 

 そうと決まれば話は早い。夜のうちに整備班全員に連絡が行き渡り、翌日の休憩時間、ガレージ内の休憩室ではラジカセとちょっとしたスペースが確保され、

 

「ぱ、パンプス…ッ!」

 

作業着の足元、慣れぬパンプスを履かされたメカと、指南役の姉御。男性陣がメカの相手を務めると隊長がブチギレるので、ちゃんと女性をあてがった。これで問題は起こるまい。

 

「よーしいいぞー。姉御、男性パート覚えてんのか?」

「微妙だから間違っていたら教えてくれよ」

「ワルツなんてひっさびさだ」

「親が踊ってるところしか見たことねえな」

 

 そんなこんなでみっちり2週間、メカはワルツの教育を受ける。

 

 毎日のようにワルツを踊り、靴擦れに涙し、ぼろぼろになった足はすぐにラスティに見抜かれ処置まできっちりされたが、理由は問われない不思議な時間を過ごす。

 

――――これはバレてるな…いや、あっちも仕込んでるのか…?

 

 踊っている間に余計なことを考えれば一瞬でバランスを崩して姉御に引っ張り上げられる。足を捻挫するのが先か、私がワルツを踊れるようになるのが先かわかったもんじゃない。

 

 それでもだんだんと踊れる時間は伸び、動きが滑らかに、足元も慣れが滲み出る。

 

 なんとか、様にはなりそうだった。

 

 

***

 

 

 そうして迎えた、ホワイトデー当日の昼休み。

 

「様になったね」

 

 そう言って、姉御は私の肩をポンと叩く。連日の練習につきあわされたメンツも、なんだか満足げだ。

 

「ありがとう、みんな。…あとは、頑張って誘うよ」

「頑張らなくても一瞬だろうけどねえ」

 

 さて、今日は14時から休みをとった。小会議室をメカの名前で借り、今日は早出の15時上がり予定なラスティに、そこへ寄るようお願いをしている。昼食を食べ、ちょびっと支度をしていればすぐだろう。

 

 昼食を食べて、少し働いてから退勤の処理をしてからガレージを出て、小会議室へ向かう。机をどかし、椅子を仕舞ってスペースを作り、窓は外から見えないようにカーテンを閉めた。

 

 持ち込んだ楽曲もちゃんと鳴ることを確認してから、ささっと着替えを遂行。

 

「………」

 

 紺色で総レースのフォーマルドレスと、ベージュのパンプス。髪は後ろで束ねただけ、イヤリングはいつものスパナだが、薄くとも化粧をすれば、まあまあ見てくれはマシになる。なってくれ。

 

 端末から通知音がする。確認すれば、ラスティは時間通りに来てくれるという話だった。あと5分とない。

 

「………っ、度胸だぞ!メイカ!」

 

 むん、と気合を入れて、男の到着を待つ。それから――――

 

 

 

 

 小会議室の扉が開く。

 

「待たせた、な………」

 

 半端に途切れた言葉を聞きながら振り向けば、ラスティは静かに、目を見開いて、こちらを見ていた。思わず笑ってしまうが、彼に近づいて、彼の右手をとって部屋へと招き入れる。扉が閉まった。

 

「いつかのガレージとは反対の立場になったね」

 

 彼が覚えているかはわからないが、私がガレージ前で足を止めていた周回のことを指し示しながら、彼を部屋の真ん中へ引き連れていくと、引いていた右手を離す。

 

 意を決して、彼の顔を見上げる。

 

「…私と、」

「待ってくれ」

 

 遮られた。そして、今度は私の右手が持ち上げられる。

 

「『私』の方こそ、一緒に踊ってほしい」

 

 ……この一人称なのに、触れる手が熱いのは、果たしていいんだろうか。

 

 

 

 

 三拍子、穏やかな曲調に合わせて、付け焼刃のワルツを踊る。それでも、ラスティのリードにおとなしく従うだけでそれなりに踊れてしまうのだから、やはりこの男はハニトラも散々かましてきたに違いない。

 

「驚いた」

 

 スパイ男の目が細められる。

 

「メカがワルツを練習する旨は聞いていた。でも、まさか、ドレスを着てくるとは思わなかった」

「いつもの作業服だと思った?」

「日頃の私服だと思ったんだ」

 

 そう言う男の服装はいつもと変わらぬパイロットスーツと待機中に羽織ることが多いブルゾン。ブーツの踵は殆どないため、私がパンプスで底上げした分、いつもより顔が近くに見える。…しっかし造形の整った男だ。

 

「メイカ」

 

 形が美しい顔を眺めているうちに曲も終わり、スパイ男が声をかけてくる。

 

「よく似合っている。美しい」

 

 よく見れば、頬が赤い。…赤い?!

 

「…あ、ありがと」

「なあ、部屋に戻る時はちゃんと作業着に着替えてからにしてくれないか?誰にも見せたくない」

 

 誰かに見せたか?なんて聞いてくるので、見せていないと答える。

 

「余程のことがない限り見せたくない。男どもなんてもっての外だ。女性陣は…多分、もっと手を入れたがるんだろうが、俺は今のその格好がいい。メカが、自分の意志で、自分の手で整えたその姿だからいい」

「なんかめっちゃ喋る…」

「当たり前だろう」

 

 嫌な予感がする。――――止めねばならぬ気がする、そう思った時には、もう遅い。

 

「私の為に着飾った姿だ。…私のものだ」

「…や」

「『やだ』も『やっぱなし』も全部ダメ」

「………」

「これは、今の『すがた』については、私のものだ」

 

 誰にもくれてやらない。共有なんぞさせやしない。

 

「ドレスは自前か?」

「買ったよ」

「パンプスも?」

「うん」

 

 髪を束ねたゴムが解かれる。黒い髪がストンと落ちてきて、スパイ男が一房をすくい上げると口づけた。

 

 一歩後ずさろうとしたところを、抱き寄せられる形で阻まれる。

 

「誰も知らない。誰も知らせない。だからこの非日常くらい、私のものにさせてくれ」

 

 …これは、夢のようなものだという。彼の右手が、私の頬に添えられた。

 

「メイカ、」

 

 スパイ男は、非日常となった私の耳元で、嘘にまみれた決定的な言葉を口にする。

 

「     」

 

「………嘘つきね」

「…ああ、そうだよ」

 

 名残惜しいけれど、本音を言いたいから早く日常に戻ってくれないか。

 

 そう言ってスパイ男は、私が零した涙を拭った。

 

 

***

 

 

 いつも通りの私と、いつも通りのラスティに戻って、私の部屋へと戻る。

 

「メカ」

「何?」

 

 ラスティはワルツ会場から引き上げてきた荷物の内、紺色のフォーマルドレスを撫でながら言う。

 

「来年からは、部屋でやろう」

「え」

「今度は、もう少しいい恰好をしてくるよ。――――嘘つきらしく、ね」

 

 ………。

 

「……お互い生きていて、かつスパイ男が私に飽きていなかったら、是非」

 

 返事だけして、洗面所に立てこもる。両手で、顔を包む。…顔が、熱い。

 

――――ふ、ふふ。

 

 彼に『私との来年』があることがうれしかったなんて、絶対に教えてやらない。

 

 

 







 ネタ:バレンタインとホワイトデー

・ラスティ
 記念日を始め、よく覚えている。しかし実行するには身分とメカのやる気が問題となるので、一人でルンルンするメカに美味い料理をご馳走している。なお、メカはラスティの料理を好き好んで食べる。

 基本的にハニトラ経験豊富で優秀なスパイなのでもらいたくない、もらわない。手作りの品は捨て、既製品は横流しする。しかしあげることに抵抗はないので、VDはスパナ型で固めた飴をあげた。西洋文化圏の男。多分。


・メカ
 記念日とかは覚えている。しかし実行するには周囲とかいろいろ面倒なので、一人でルンルンするだけ。

 相手がスパイであることを理解しているのでバレンタインは何もしない。そしたらラスティからもらってしまったのでWDのお返しに悩みまくる羽目になってしまった。飴は毎日少しずつ食べている。結局ワルツは年1回1曲、スパイ男とだけこっそり踊ることになったのでお披露目の機会はない。


・整備班
 あいつらうまくやってるかな~?キャッキャ(隊長と優秀なメカニック以外で催される内輪の楽しい酒宴)

 姉御は既婚者だった。他の面子は既婚者か交際相手持ちか既婚者だった人たち。なおルビコンだから離婚は少なさそうだよね(重要ポイント)


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