鉄の霞と技術者   作:石和

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 短編2本立てです。こちらに載せるつもりはあんまりなかった……んですけれど、本編進まねえしやっぱ載せちゃお~!というあまりにも雑な気軽さで投稿することにしました。
 申し訳程度に、文章を整えただけです。切腹の準備をします。

 楽しいお話ではなく、「な、何なのよッ!」という後味の悪いものしかない気がします。

 前半は《罪と夢》、なんだか誰かに似ている名前が出るような、出ていないような幻覚です。
 後半は《遺書》、メカの書いたものです。

 読後の胸糞悪さを保証しますので、元気な時にお読みください。
 では、私はハイクでも詠み、切腹して参ります。さらばだ……チャキン




《罪と夢》《遺書》

《罪と夢》

 

 

 

 私の名前は、マイコ。カトウ・マイコ。18歳です。

 

 ×××第一助手さんのご厚意で、実験に参加させていただくことになりました。コーラルを利用した、強化人間を生み出す実験だそうです。彼には悪いのですが……強化人間になること自体へ興味はありません。そうなることで得られる「都合よく起床させる」「都合よく休眠させる」機能に興味があります。それでもいいとおっしゃって下さったので、今こうして実験前の、対象者記録用カメラの前にいます。

 

 

 少し、私の話を聞いてほしいです。

 

 

 私は幼いころ、とても元気な子供でした。朝から晩まではしゃいで、どろんこになって帰るような。そんななので夜はぐっすり眠るし、朝はちゃんと起きて、普通に活動していました。

 

 でも、ある時からだんだん、私は起きている時間が短くなり始めました。誰よりも早くに眠って、誰よりも遅くに起きるようになりました。身体は元気そのものなのに、起きていられないんです。初めの内は無理をすれば起きていられましたが、翌日は絶対に起きていられないような状態。それもいつの間にかできなくなって、無理しても起きていられなくなり、一日の半分以上を寝て過ごす日がほとんどになりました。

 

 皆が起きて活動し、何かを得ていく時間を、私は眠って過ごしました。人よりも起きていられる時間が短いからと、たくさんの物事を効率よく学んだり、たくさんの本を素早く読んで知らない世界を覗いたりもしました。でも、やっぱり、毎日の積み重ねは大きいですね。皆が遊び、友を作り、教室で学び、経験を積み重ねていくのに対して、私には何もない。年齢相応の学力は身につけられても、年齢相応の経験は得られない。皆との差は広がる一方で、狭まることが無い。皆歳を重ねていくのに、私だけが、ずっと幼いままになる。今は見た目がすべての年齢なので良いでしょうが、近い将来――――見た目ではなく、中身の年齢を問われるようになったとき、私はどうしたらいいのでしょう。

 

 

 恐ろしくて、恐ろしくて。眠りたくないのに、また今日も眠ってしまう。

 

 

 皆が進んでいくのに、私はここで、ずっと。

 

 

 どうしようもなくなってしまった私に、この実験は救いのように思えました。

 

 成功する確率は低いと聞いています。できたばかりの技術には、往々にしてあることだと思います。私がこれを受けてどうなるのかはわかりません。でも、私がこれを受けたことで技術が発展していってくれたら嬉しいです。私のような苦しみを抱える人が、楽しい未来を手に入れられるようになったら、とても嬉しいです。皆がこれでよりよく生きていけるようになったら、もっと嬉しいです。

 

 だから、私はこの実験に参加しようと思います。そして、できることなら――――みんなといっしょに、あそびにいけたらうれしいな――――

 

 

 

 

「――――」

 

 ラスティは、再生機器からチップを引き抜くと、それを踏みつぶした。足をどければ、粉々になったそれが見える。粉砕される前のそれに「第一世代被検体No.」「女」「失敗」「廃棄処分」と書かれていたことは、生きている人間のうち彼だけが覚えている。

 壁の向こうから、穏やかなアルトボイスが通った。

 

「ラスティ、何か見つかったー?」

「……いいや、何もないよ。次にいこうか」

 

 ラスティは部屋を出た。今の情報を、彼女が知る必要などない。

 

 罪も夢も、そこでくたばってしまえ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

《遺書》

 

 

 

 

 拝啓 ラスティ様

 

 

 メカです。突然のお手紙、失礼いたします。

 

 本当に突然、こんな手紙を書き始めたのは、上長の命によるものです。

 

 先日、"壁"が陥落するという事態がありました。それについては、あなたもアーキバス側で関与していた通りですが、その後に強烈な事件が発生したことはご存じでしょうか。コーラルの爆発事件です。解放戦線の拠点1つがまるっと、突然消えてしまいました。

 

 予兆はありませんでした。コーラルは突如噴出し、何かの拍子に――――運悪く銃火器の引鉄にでも触れてしまったのでしょうか――――火がついて、そのまま。想定はできても、いつ起こるとも知れない事態に私たちはかなり混乱し、分析班は発狂寸前までこき使われ、それでも解明できない状況です。実質自然現象のようなものですし、災害であることに変わりはないでしょう。

 

 これにはさすがの上長もどうにもできないと匙を投げました。そんな中であろうと、少しでも何かを遺すべきだという彼の考えは、何故か直掩の部下に手紙を書かせるという行為に化けています。それがこの手紙を書いている今現在です。情報漏洩が不安ですね。

 

 わざわざ紙を指定したため、姐さんが物資面でブチ切れていますが、明確な反対は示していません。上長の命令は、「家族に言葉を遺せ」という内容でした。この命令におとなしく従う皆が、家族に何かを遺すことの大切さを知っている故に、反対しないのでしょう。私も……あなたに詳しく話したことはありませんが、父や母から手紙をもらって、祖父や祖母から言葉をもらって、それを胸にずっと生きてきました。なので、彼の言い分はよく分かるつもりです。

 

 ただ、私には家族なんてもう誰一人としていません。故に、書く相手がいません。正直かなり困りました。整備班の面々にはだいたい、生き残った血縁がいます。すでに自らの配偶者や、子供から遺書を受け取った経験のある者もいます。そんな彼らに、赤の他人である私の遺書を差し出すという真似は到底考えられません。これ以上彼らが傷つくことも、何かを背負わされることも、何かを背負おうと思うことも、してほしくはありませんでした。

 

 しかし、それでは命令をこなせません。困りました。素直に上長へ相談したところ、あなたに書くようにと言われました。ロマンチックな理由は何ひとつありませんが、ロマンスに欠けることのないあなたであれば大した問題ではないでしょう。

 

 結構適当に……スティールヘイズの整備情報でもなんでも、口伝でやっている部分を書いておいてやってくれと頼まれました。それについては、ちゃんとマニュアルに記しておきますが、流石に人生で最後かもしれない手紙にこれは、あまりにも残念だと思います。

 なので、あなたは全く興味が無いと思いますが――――私の話を書いておきます。

 

 

 ところで、これは遺書に当たります。私はちゃんと死んでいるのでしょうか。あなたの情報網で、しがないメカニックの消息どころか遺体も見事に木っ端みじんになったでしょうか。それとも、明確に死体として処理されたでしょうか。

 

 まだ生きていそうならば、もう少し読むのをとどまってほしいです。流石に私にも恥というものがあります。勝手に殺されるのもちょっと嫌な気分です。

 

 

 私は、メカは、ちゃんと死んでいますか?もしそうであれば、次の便箋へ。

 

 

 *

 

 

 おお、どうやら私は、本当に死んでしまったらしい――――すみません、実感が無いので。当たり前ですけれど。

 

 大して親しいあなたではないでしょうが、それでも私が手ずから整備する機体に乗る男です。ちょっぴり特別扱いをしてやるのも、人生最後ならいいものかもしれません。これから記す内容は、読んですぐに忘れてもらって大丈夫です。灰皿で燃やすなり何なり。覚えていてほしいと言うと、真面目なあなたは人生最後の日まで背負い通してしまいそう。

 

 

 さて、私はこれから、私のルーツに関わる文化の話をしようと思います。先祖から聞いた話ではありますが、すべてが正しいかは謎です。答え合わせの術がありましたら、思念でも何でもいいので教えてください。

 

 

 私の名前は、【大津明佳】。こう書いて、オオツ・メイカと読みます。ルビコン共用語基準だと、メイカ・オーツ。苗字の発音はよく“麦”と勘違いされます。正しくは遠い昔の地球、日本という島国にあった地名なのだそうです。この地名を冠する土地には、大きな湖があったとか。

 

 名前の方は、明るいという意味、佳いという意味が当てられています。名前負けしている気もしますが、誤読でメカと発音されるとしっくりくるので、この文字列が名前で良かったなあと両親祖父母に感謝しています。

 

 日本という国の人間は、黒髪や黒い瞳が多かったそうです。ルビコンや宇宙では珍しいこの黒は、私のルーツそのものを示す色というわけです。まだ誰からも指摘されたことはありませんが……(六文銭には、ベイラムのG3と同じ中華系だと勘違いされています。面倒なのでそのまま放置しています)。

 

 あなたの持つ錆色や緑色のように、自分にない色へ憧れを持つことは多々ありましたが、私は結局、脱色からの染髪も、カラーコンタクトとやらもやったことがありませんでした。黒い色を、自分なりに愛していたのだと思います。両親や祖父母と同じような色だったからというところもあるかもしれませんね。

 

 

 私の両親、祖父母は皆、地球であれば日本人に区分けされる人々です。ルビコンのとある地域で、細々と日本の血を継いできたと言っていました。血が濃くなりすぎないよう、または自分で望んだ相手と結婚できるよう、「絶対に黒髪黒目の相手と結婚しなくてはならない規則」は設けなかったそうですが、気付くと日本人ばかりが家系図に載ったそうです。やはり、似た者同士は寄り集まるのでしょうか。

 

 そんな家系に生まれた私は、物心つくころに限界集落最後の子供となってしまいました。ルビコンの火ですべてを焼かれ、生き残りもほとんどおらず、近しい人間でギリギリ生活をするだけの集落です。話を聞けば、ルビコンから脱出した者たちもいるが、自分たちはルビコンから離れるための資金もリソースも不足していたそう。……その割には、手ずから写した専門書や、どう考えても高学歴な先人たちが集っている変な環境でしたけれど。

 

 兎に角、限界集落の割にはよい教育を受けられたと思います。日本人は勤勉で有名だったそうなので、おそらくその性質がいい方向に働いた結果なのかもしれません。お陰で、私は今シュナイダーでメカニックとして職にありつけています。

 

 

 話題を服飾文化に変えますね。好きなので。

 

 日本には、【和服】を着る習慣があったそうです。【着物】ともいいます。緩やかなワンピースのうち、前開き服の衣服で、帯を結ぶことによって着付けます。反物から直線で切り取ったパーツを縫い合わせて作る、平面の服……と言えばいいでしょうか。兎に角、普段目にしない特殊な衣類のうち、説明に当てはまるものを【和服】、私たちが着ているジャケットやシャツ、ズボンのことを【洋服】といいます。

 

 もしも姉御が私の部屋を漁る機会があれば、部屋着を確認してくださいと伝えると見ることができるでしょう。自分で作った和服を時々部屋着としているので、不幸な事故がなければ残っているはずです。

 

 私は女性ものしか作ったことが無いのですが、男性ものもちゃんとあります。アーカイブを漁ると、出てくるかもしれません。【和服】【着物】というキーワードを知ったあなたなら、型紙だとか設計図だとかにたどり着ける可能性はかなりあると思います。少なくとも、六文銭よりはあります。興味が沸いたら、ぜひ作って着てみてください。直線で縫えばいいだけですから。

 

 

 食べ物の話はしません。あなたは、食に人一倍気を遣っていると思うので。

 

 

 長々と書いてきましたが、私が遺せる言葉などこんなものです。あなたの役には全く立たず、解放戦線やルビコンの為にもならない、どうしようもない言葉です。でも、これを読んでいる一瞬、あなたがスパイからただのラスティとして興味を持ってくれていたら、こんなくだらない手紙も書いた甲斐があったというもの……かもしれませんね。

 

 もし、本当に負担でも何でもなく、ただの興味として、日本という国の文化を覚えていてくれたら。あなたの人生に彩りを与えられたら、とても良いことだと思います。

 

 あなたの任務が終わって、全てが自由になったなら――――ぜひ、日本へ遊びに行ってくださいね。

 

 

 これで手紙はおしまいです。燃やして、すっかり忘れてしまって構いません。私のことなど特に覚えないでほしいです。くたばれ。

 

 

 では、さようなら。

 

 

 敬具 大津明佳

 

 

 追伸・ふと思い立ったので、ベッコウ飴のレシピを書き記しておきます。あなたが入手していたのは既製品でしたが、自分で作るのも楽しいですよ。

 

 





 以下切腹直前のハイクもとい怪文書


《罪と夢》
 第一助手の研究は狂っていたでしょうが、そこから生まれた知見が残っているのは、間違いなくそれに価値を見出した他人がいたからだと思います。きっと、強化人間になりたいわけではないけれど、その技術自体には興味があったとか、救いを見出したとか、未来を見たとか。

 オマちゃんの偽名(?)に似せた名前(似ているかは諸説)なのは、きっと参照元がいたんじゃないかと思ったからです。参照元は、第一助手に与した人間だろうな、とも思いました。なお、オマちゃんのことは「半世紀前に生まれた癖にあまりにも思考が雑魚(※暴言)なので、第一助手あたりが生み出したAIの赤ちゃんがまともな調教を受けずに育ったもの」と勝手に考えています。だってカーラが生み出していたら半世紀しごかれまくって成長したチャティの姉だったかもしれないじゃないですかァ!



《遺書》
 今のところ、ラスティが見る予定のない手紙です。

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