鉄の霞と技術者   作:石和

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 こんな妄想の産物に恐れ多い…流石だ、ご友人…


英雄もどきと叶わぬ夢

 

 紳士協定ならぬ停戦期間が終わり、情勢がきな臭くなってきた。早速、ベイラムの歩く地獄ことミシガン総長の死が伝わってくる。彼を殺したのは、スパイ男だという。

 

 …それがきっかけか、私の仕事も進展した。

 

 オルトゥスの形ができてきたのだ。ファーロンからの技術供与を受けて、エルカノが製造に入ると連絡をしてきたので、私はいよいよシュナイダーの支部もとい解放戦線拠点ガレージから動けなくなる。

 

 また、解放戦線の戦力増強に、エルカノからACがいくつかパーツで送られてきている。流石に、シュナイダーのガレージでエルカノ製ACを組むことはできないこともあり、最近は殆どシュナイダー社員として労働していることが無い。

 

「メカさーん」

「何」

「ヴェスパー隊のイケメン?第四隊長?からアタック受けてるって本当~?」

「は?」

 

 ヴェスパー隊を排除して帰ってきたTSUBASAのメンテをしている中、くだらないことを言ってきた後輩を睨みつける。どんな顔をしていたのか、割と恐れ知らずなタイプの後輩が震えた。

 

「馬鹿なことを言わない」

「え~。でも、メカさんって基本的に人間よりACとかマシンを眺めがちだし…」

 

 云々と言葉は続くが、そう言えば解放戦線にしか出入りしていない、かつフラットウェルの指揮系統にはいないこの後輩は、私がスパイ男の専属メカニックをしていることを知らないのだ。そこに思い至ったので、なんて跳ねのけるかを考える。

 

「いや、所属的には敵だよね」

 

 考えた結果がこれである。スパイに致命的に向かない誤魔化し力の無さ。呆れてしまう。

 

「んー。でも、メカさんの色仕掛けでこっちに寝返ったら面白くない?」

「スパイ業務は帥叔がやってるよ」

「そっかー。そうかー」

「そうだよ」

 

 教養不足だが地頭は悪くないこの後輩は、謎の納得を見せて撤退した。まあなんだかんだ、解放戦線所属のメカニックはやることが多すぎて忙しいのだ。後輩も、まだ死んでいないパイロットのACを何機も修繕したり調整したりでタスクが山積みのはず。

 

――――あれが息抜きって言うのなら、まあ許してやるさ。

 

 徐に取り出した端末の画面の中で、新機体の3Dモデリングがくるりと回った。

 

「………へへ、楽しみ」

 

 あと数日で、内装パーツは揃うから、あとは君が来てくれるだけだ。

 

 

 

 

 あれから少し経ち、エルカノからオルトゥスのパーツが届く。いよいよ本気で忙しくなり、シュナイダーには休職届を出して、ACを組み始めた。組む自体はすぐ終わるが、スパイ男のデータに合わせて微調整をかけていく。このパーツはレスポンスを一寸遅らせて、あっちのパーツは稼働を広めに。

 

 封鎖機構の撤退のニュースに解放戦線が沸いている間も、私はガレージにこもってひたすら作業を続ける。

 

「メカー!ごちそう出てるよー!」

「いらない」

 

 吉報ではない。むしろ、この機体の完成を早めないといけない予感すらした。寝食をする暇も惜しんで――――とはいえ無理があるので時々休憩は取って――――スティールヘイズ・オルトゥスの完成を急ぐ。

 

 そんな予感は、すぐに現実に成る。

 

『メカ』

「!」

 

 雑音入り混じる連絡を受け、私はほぼ完成間近となったオルトゥスを放り出して、表へ向かう。

 

 目的地にたどり着いて最初に見たのは、ボロボロで部位も欠損したひどい状態のスティールヘイズ。

 

「やあ、メカ」

「………これは、どういう」

 

 搭乗者――――スパイ男は案外元気そうだった。…いや、腹の底は読めないが、少なくとも折れてはいない。

 

「アーキバスは突出した傭兵を消したい。スネイルはついでに俺を消したい。だから戦友と戦わされて、こうなった」

「ひどい説明」

 

 だが、私にはそれで十分と思えてしまうのが笑えてしまう。

 

 私には企業がどうとか全く興味がないから。

 

「オルトゥスは動くか?」

 

 彼の瞳がこちらを射抜く。

 

「最終調整をするよ」

 

 私は自分の予感が当たったことを悟る。ただまあ、今すぐというわけでもないはず。

 

「ただ、先にパイロットが休息をとることが条件」

「…ああ、そうさせてもらう」

 

 そう言葉を返すのが限界だったらしい。電池切れの如く気を失った彼が頽れるのを支えるかと迷ってやめる。冷静に考えると、腕力的にサービス対象外だ。

 

 痛そうな音を立ててスパイ男が倒れたが、起きる気配はなくスヤスヤと眠っている。これだから強化人間は。

 

「誰かコイツを運んで。あと、スティールヘイズも後追いで良いからガレージへ輸送してくれる?」

 

 これからすぐにガレージへ戻る。次に目覚めたら、場所が変わっているぐらいのサプライズはくれてやろう。

 

 

 

 

 それからすぐに、情勢は動いた。

 

「緊急!アーレア海に、デカい船が浮いてる!」

 

 調整に使う端末のキーボード操作が一瞬止まる。どうやら、『オーバーシアー』が動き出したらしい。デカい船と聞いてアーキバスや封鎖機構と言わないあたり、皆の知らない組織が運用していそうというところから導き出したものは、一つの記憶と結びつく。

 

――――技研の洋上都市、ザイレムかな…

 

 記憶が朧げだが、確か、入植船か何かだったと思う。詳しくは知らないが、まあぶつけるにはいいサイズだろうし、コーラルもよく燃えるだろう。知らないけれど。

 

 さて、『オーバーシアー』がバスキュラープラントへの衝突を目指し始めたなら、アーキバスが動くはずだ。せっかく集めたコーラルを燃やされては、彼らは大損だから。

 

 そんな思考の中、通信が不意に雑音で切り替わる。

 

『灼けた空の上で レイヴンが戦っている』

 

「………」

 

 これは驚いた。…スパイ男の戦友は飼い主を捨て、こちらに付いたのか。

 

「メカ」

 

 ガレージに声が響く。横を見れば、休息をとっていたはずのスパイ男が立っていた。

 

「動かせるか」

「勿論」

 

 起動キーを投げ渡し、オルトゥスのコアを指させば、疲労が取れたのかやる気に満ちすぎているのか、スパイ男は素早くマシンへ乗り込む。

 

「こちらの指示に従って。調整する」

『すぐ終わるか?』

「素直に従え」

 

 一秒も惜しいと、指示を飛ばして動作の最終確認を行う。私が分析したデータは正解を見事当て、彼にとって文句のない稼働を実現したらしい。

 

『ありがとう、メカ』

 

 ガレージの搬出入口が開く。吹雪とブースターの暴風に晒されながら、返事をする。

 

「戦闘データをよろしく」

『お前は本当に、そればかりだな』

 

 スティールヘイズが飛び立ったあの日のように、スティールヘイズ・オルトゥスが飛び立っていく。その機体に載せられたエンブレムは、口輪を外した狼。

 

『スティールヘイズ・オルトゥス、ラスティ。出撃する』

 

 空に飛び立つその姿は、間違いなく『ラスティ』なのだろう。嘘偽りのないそれに、私の口の端が緩む。

 

「メカ!技研都市を落とすのにエルカノ製を全部出せって!」

 

 背後から、同僚の声がする。

 

「準備はできてる」

 

 振り向いて、返事をした。私の仕事の成果が、皆の力になってくれたらいい。

 

 

***

 

 

 戦闘が終了した、と報告が入った。たくさんの機体が沈み、私が仕込んだ『泣きの一回』も発動したと端末に通知が入っている。

 

「メカ?」

「白い布借りるよ」

 

 同僚の追いかける声も無視して大判の白い布を担ぎ、ガレージへ向かう。その布を、ガレージに残っている機体の左手に握らせる。ACパーツを動かすときの機材を使って、指に結び付けるよう回しつけた。これで程よく靡くだろう。

 

 支度が済んだので、生身のまま機体へ乗り込む。本当は専用のスーツを着たいが、生憎メカニックの私は持っていない。

 

 預かっていた起動キーを使い、マシンに息を吹き込む。

 

「やあ、スティールヘイズ」

 

 右腕は損傷し、ずいぶんとダメージの蓄積した状態ではあるが、応急措置とリペアで何とか動かすことはできる。武装は全部パージ。私に戦闘能力はない。何なら、この機体の最速を出してやることもできないだろう。こちらの肉体が壊れる。

 

 それでもこんな真似をするのは、私にACを開発するという楽しい時間を提供してくれた礼だ。

 

 ガレージの搬出入口を開けた。吹雪く風が吹き込む。音声入力で指示を飛ばす。

 

「システムは通常モードを維持。操作入力を端末操作メインへ変更――――端末接続、情報をモニタに展開。緊急ビーコンの座標を登録。範囲限定通信で、白旗も上げておこうかな」

 

 素直に言うことを聞いてくれる機体に向けて、私は告げる。

 

「お前のご主人を迎えに行くから、少々頼むよ」

 

 脆いシュナイダーの機体だが、それくらいは何とかできるだろう。

 

 

 

 

 それなりに長い旅路を経て、海氷の上に残骸を発見する。

 

 緊急ビーコンの発信源をそれと認め、端末操作に任せていた操縦をコックピットのレバー操作で介入し、海氷へ着地する。

 

「やあ、『英雄もどき』」

『――――メカ、』

 

 声をかければ、かろうじて生きている男の声。

 

「また会えるとはね」

『死んだと思ったが、"仕込み"のお陰で生きてる』

 

 スティールヘイズに右ひざをつかせ、コックピットのハッチを解放。ずいぶんと寒いが、短時間の行動に支障はない。

 

「まさか、ここで役割が終わっただなんて思ってないでしょうね」

 

 コックピットから左手に乗り、端末操作で左手を降ろして海氷へ到達すると、オルトゥスのコアに備え付けられている外部装置を使って、オルトゥスのコックピットを強制的に開ける。

 

 頭から足の先まで血塗れのぐちゃぐちゃだが、男は生きている。

 

「これからルビコンは、コーラルという資源を手に入れる。膨大な資源だ、欲しがる奴はたくさんいる」

「それは、っ…!」

 

 喋ろうとして痛みに口を閉ざした男をなんとか引き抜いて、スティールヘイズの左手に何とか乗せると、再度端末で左手をコックピットの位置へ上昇させる。

 

「乗って」

 

 先にコックピットへ入ってから彼に手を伸ばし、引き込む。血塗れの彼は、素直に、しかし相当無理をして言うことを聞いた。

 

「輸出するにせよ何にせよ、横取りされないための防衛戦力は、たくさん必要」

 

 オルトゥスの現段階における回収は諦める。『泣きの一回』は骨を守ったが、肉はどうしようもできなかったらしい。

 

「V.Ⅳラスティはもうおしまいかもしれないけれど、ラスティはこれから、死に物狂いで働いてこの星を守るんだ」

「はは、手厳しい」

「それは、『戦友』とやらにもやってもらわないといけない」

「………そうだな。そうだ」

 

 彼をコックピットへ座らせ、ハッチを閉鎖。そしてスティールヘイズに積んである緊急用物資から、止血剤を取り出す。とりあえず人体上重要そうな部分から、止血をした。基地まではなんとかなりそうだ。

 

「スティールヘイズ、目標地点を拠点ガレージへ設定」

 

 狭いコックピット内で、端末を操作する。状況を読む余裕があったのか、彼は当たり前のように私を横抱きにするよう膝へ座らせた。…一張羅が血に汚れるが、まあ許そう。

 

「大丈夫だよ、ラスティ」

 

 端末経由で、スティールヘイズを動かす。

 

「ルビコニアンと、あなたの戦友が守ったこの星は、きっと美しい」

 

 それを聞いた男は言う。

 

「メカの与太話は、叶いそうにない」

 

――――………。

 

「いいよ、別に」

 

 所詮は与太話だ。それに、描いた夢ではあったが、執着する事柄ではない。だから、この男がそんな声を出す必要はない。

 

「ハナから叶える夢じゃない。叶わぬ夢だった」

 

 そんなことよりさ、と指をさす。

 

「夜明けだよ」

 

 モニタ越しに広がる、ルビコンの大空。

 

「――――ああ、美しいものだ」

 

 その声は、取り繕った部分など何一つない、彼の本音の表れだった。

 

 






 これで本編は終了です。お付き合いいただきありがとうございました~!
 以下はおまけです。


<おまけ:うかれ男ととんちき女>

 すべての敵を追い出して訪れた、つかの間の休息。

「メカ、これは戦友と獲ってきたルビコニアンふつうワームのお吸い物だ」
「メカ、昼食に『おべんとう』を持ってきた」
「メカ、夕食は――――」
「長期休暇中だろ!職場に来るな!」

 『ラスティ立ち入り禁止』の札を出入り口に掛けられたガレージで、メカは溜息を吐く。同僚が水の入ったボトルを投げて寄越した。

「最近、ラスティさんがよく顔出しますけど、メカさん何やったんですか?」
「………休暇、暇だってうるさくて、冗談で『ご飯でも作ればいい』って言ったら、」

『成程!メイカのご飯を作るのはアリだな!』

 本名部分は伏せて、彼の発言を真似る。そうすれば、同僚は腹を抱えて笑い出す。

「暇すぎるんでしょう。スティールヘイズもオルトゥスも、早いとこ直してやらないとですねえ」
「本当に」

 っていうか、なんであいつ私の本名知ってるんだよ。スパイだからか。まあ、工夫を凝らして美味しいご飯を作ろうとするところは、悪くないかな…。

――――ダメだ。なんかダメな気がする。私が。

「腹立つからデカールでぶりっ子スティールヘイズにしてやろう」
「そういうことすると付け込まれますよ~」

 なお、忠告を無視してぶりっ子スティールヘイズで返却したら、「愛の巣か?」とこれまたイカレた返事が帰ってきた。そしてこちらを向いた彼の目が、声が。

「明日は非番?」
「ん?うん」
「そうか。しょうもないことをしたね、メイカ・オーツ」
「………?!」

 あまりの危機感に逃げ出す私を強化人間特有の強い力でさらっと捕まえて米俵のごとく担ぐと、部屋へ連れ込んで鍵を閉める。当然のように私の部屋なのが解せない。

 しかも待ち構えていたのは、ホラー映画のサブスク画面。すでに何本かピックアップしてあるように見えるのは幻覚だと思わせてほしい。

「やだ!お化けやだ!」
「罰だ」
「やだー!!!」
「再教育じゃないだけマシだろ」
「どっちもホラーだよ!!!!!」

 なんでこうなる!という叫びも虚しく、最近入荷するようになったドリトスとナチョスを持たされた。

 こうして私の穏やかな非番は消えてなくなった。

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