鉄の霞と技術者 作:石和
書いちゃった…2周目…
すべてはトロコンしたせいだから…ッ!アキババルテウスSランクに狂喜したせいだから…ッ!
スティールヘイズとメカニック【Alt】
ここは星外企業「アーキバスグループ」の系列企業「シュナイダー」が管理する、ルビコンに多々存在するガレージの一つ――――のフリをした、解放戦線の拠点。
鉄や油のにおいが充満するそこで、TSUBASAの肩に胡坐をかいて座る女が一人。漆黒の前下がりボブの隙間から、スパナをかたどったイヤリングが見える。それを揺らしながら、彼女は膝上に乗せた端末を操作し、コードでつながった頭部パーツ内の電装系のメンテナンス作業を進めていく。
せわしなく手を動かす彼女のはるか下、TUBASAの脚部パーツ付近から声が響く。
「メカ、お呼びだぞ」
「…はあ」
メカ、と呼ばれた女は作業の手を止める。黒色の瞳が、端末画面から逸れていく。
「帥叔が待ってるんでしょ」
「そうだ。よく分かったな」
彼女はACに接続していた端末を外し、移動を開始した。
「待たせました」
「悪いな、メカ」
帥叔に呼び出された先は、シュナイダー本部。アーキバス傘下で、帥叔のせいで気付いたら獅子身中の虫と化したルビコン解放戦線の協力企業だ。
――――デジャヴ…
メカは一人、眉間にしわを寄せる。
笑ってほしいのだが、時々前世の記憶でもあるかのような、初めて見るはずの景色に覚えがあるなんてことがあるのだ。だから、シュナイダーに就職するのも、帥叔に首根っこ掴まれて解放戦線入りするのも、なんならこの呼び出しも、初めてではない気がする。
帥叔にカードキーを渡された。当面はここで働くことになるらしい。…初めて受け取ったはずのそれも、やたら馴染むのはなぜだろう。
「作業区域を一つ貸し切った。修繕工事名目故に、点検作業員として名前を載せたのは数名で、あとは機械ばかりがある」
「実際に修繕工事をする必要はありますか」
「ない。お前にはやってもらうことがある」
こっちだ、と帥叔の案内で作業場へ向かう。そう時間もかからず到着した私の職場には、先客がいた。
帥叔はその先客――――どこからどう見てもイケメンとやらに分類されるであろう男の前に、私を引っ張り出す。
「やあ、メカ。俺はラスティ。シュナイダー経由でアーキバスに属する予定だ」
握手をしながら、思わず顔をしかめた。こいつ、私を知っている。
「おや、知っていたか」
「シュナイダーでも有名なメカニックだからな」
そう言って、彼はウインクすらして見せる。
「………」
クソッタレ。
私の前世とやらがあるなら、相当な悪行をこなしたに違いない。
「機体を組んでもらうといい。――――頼むぞ、メカ」
帥叔が立ち去ってから、スパイ男の言う通りACを組んだ。
注文はやはり、軽量二脚――――シュナイダーの
なんというか、呆れてしまう。
中指を堂々と立てながら敵地へ侵入するスパイがどこにいるというのだ。ここか。
「………」
「なあ、メカ」
その様子を見てか、はたまた最初から言うつもりだったのか、彼は楽しそうに言う。
「覚えているんだろう?――――『前の周回』のこと」
「…前世の記憶とかそういうんじゃなくて?」
「存外、ロマンチストだな」
くつくつ笑う姿は、スパイの取り繕ったものではなく、完全に普通の男だ。
「悪いけれど、私そこまで覚えてないんだ。…その場に居合わせて、初めてよみがえってくるというか」
「俺もそうさ。正直、メカのことくらいしかわからない。未来で素晴らしい友人を得た気がするが、それが誰だったのかは全く思い出せないあたり、トリガー式なのかもしれないな」
そうなのか。なら、私の本名は忘れてくれていると嬉しいのだが。
「メカの本名が、メイカ・オーツなのは覚えているぞ。日本という地球の島国がルーツだな」
「なんで」
「さっき顔を見たときに、つらつらと思い出せた」
「………」
「好物は…べっこう飴」
なんて都合のいい記憶なんだ。私なんて、この男がラスティという名前であることくらいしかまともに思い出せないというのに。思い出せないというか、知らないというか。ややこしいが、とにかく、都合が私に対して悪すぎだ。
でも、その記憶があるなら。
「もしかして、私たちに有利になるように、戦況に介入できる?」
「それはどうだろうな…」
思い出したところで、介入できるかは別である。また、どんなに未来が分かっても、自分たちは一介の兵士であり、権力者ではない。
「…私たちの記憶通りに未来が進む保証もない、か」
「その通り」
頭が痛くなってきた。こういう、パラレルワールドのような話は得意ではない。恐らく、スパイ男の方が得意だ。ならば、任せてしまった方がいいだろう。
「とりあえず、だ。『これからも、スティールヘイズを頼む』」
「わかった」
記憶が差し込まれる。
それは、スティールヘイズの中、私とスパイ男二人でした、私のルーツの話。
「………」
今のスパイ男は、私が『技研都市』出身者の孫であることを、私の狂気の夢のことを、覚えているのだろうか。
記憶通りに未来が進む保証が無いのなら、私が解放戦線に骨を埋めるルートだけでなく、オーバーシアーに転属するルートだってあるかもしれない。少なくとも、前世は解放戦線に尽くしたから、この男はこうも砕けた対応をしてきているのだ。
――――ま、触れないに越したことはないね…
あらゆる意味で未来を狭めないために、今世も口は重たくなりそうだった。
前世の記憶があろうとなかろうと、AC漬けの日々は幸せだ。
【夏も近づく 八十八夜】
歌いながら、ヴェスパー隊への入隊が決まったスティールヘイズの細部調整を行っていく。戦闘データはスパイ男がシミュレータで蓄積させたものを分析しているから、私は存分にACを弄繰り回すことができる。
「メカ、分析の教本借りていいか?」
その声に反応して、空いている左手で教本の場所を指し示す。歌っている最中は、作業を止められないから、その手はすぐに引っ込んだ。それでも、スパイ男には十分な時間だったのだろう。教本を収納場所から引っ張り出す音がした。
「………」
前世もこうして歌っているのを知らないらしいスパイ男は、教本を掴むという目的を果たして余裕ができたのか、興味深そうにこっちを見ている。これはやっちまったらしい。
――――ま、いつかはバレるもんだし…
意味は分からないが、祖母が教えてくれた日本語の『仕事歌』は、動揺する私の作業ペースを保つ役割を果たしてくれている。作業だけは順調だ。
【摘まにゃ日本の茶にならぬ】
最後の音を歌い上げ、作業の手を止める。この曲で仕上げられる部分は、すべてきっちりこなせた。後でスパイ男に確認させよう。
「メカ、さっきの歌はなんという」
「…【茶摘】」
「チャツミ…?」
「えっと…お茶の葉を収穫するときの歌」
「へえ」
スパイ男がボトル詰めされた水を投げて寄越す。それを素直に受け取ると、中身に口を付けた。
「不思議な調べだな」
「………」
「日本語が分かれば、俺も歌えそうだ」
言外に教えろ、と言われたので首を横に振る。
「私は、祖母が歌っていたものしかわからない」
「作業しながら歌うよう英才教育した御仁…『技研』特有なのか?」
――――うわ。
やっぱり私の出身も覚えてるのかもしれない。変なことは一切しないでおこう、と誓いながら、スパイ男に説明をする。
「私の作業が未熟な頃に、これでタイミングを合わせて、サイクルでこなせるようになりなさい…って、仕込まれた」
「己も機械にしろ、ということだな」
「技術者の基礎はだいたいそうだよ」
君らパイロットもそうだろう、と言えば、スパイ男は腑に落ちたように頷く。そろそろ話題を変えないと私が詰む。
「それより、エンブレムのデータは?」
「ああ、今送る」
話題転換に乗ってくれたスパイ男が、自分の端末を操作した。次の瞬間には、データを受信した私の端末が震える。内容を確認すれば、中心に配置された狼に、覚えのある口輪。
「…相変わらず人選ミスを感じることのできるデザインしてるね」
「そうだろ?」
デカール選択の画面を開き、ギターピックのような形をしたそれをインストールした。
――――実は、前世でも今世でも、歌わないと調整が狂うレベルでスネイルの下で働くのが嫌すぎたこと、歌いまくってたら『ああいう手合いは再教育を施すと機能しなくなるから』ってシュナイダーに返品されたことについては、黙っておこうかな…
私が歌うことを知らなかったこの男は、前世の私にとっては居心地の良い環境を提供する上司だったのだろう。今だって、私をヴェスパー行きに帯同させるとは一言も言わず、自分でデータ分析をできるように練習しているのだ。悪い奴ではない。
…そういうところが、やはりスパイ男なのだ。
なんとなく知っているというだけで油断しそうになるあたり、前世の私は相当この男に気を許していたらしい。…今回もそうなるとは限らないのだから、ちゃんと初期の警戒感は忘れないでいきたいものだ。
まあ、気を付けたところでボロを出すのが私だし、相手は帥叔以上のスパイだ。きっと、すぐに負ける。
なのでとりあえず、この男には早いとこヴェスパーに行ってもらおう。
「メイカ、『オルトゥス』の制作も任せる」
「分かった」
「図面の記憶はあるか?」
「残念ながらエルカノ製ってこと以外は皆無だね」
「そうか。俺もだ。戦闘データは、また『ラブレター』にして送るから確認してくれ」
「はいはい」
…前世の私は、『ラブレター』を受け取っていたらしい。そんな記憶はない。あるとすれば、帥叔宛の情報の一部分に、私の求める戦闘データが暗号化されて添付されていただけだ。
なあ、マジで、何だったんだろうかこの男。
あと、私よりたくさん知ってるのはずるいから、このシステムを作った存在には訴訟を起こそう。記憶を与えるなら平等にしろ!
そんな内心の葛藤を知らないスパイ男は、教本をめくってペンを走らせている。何だかんだ真面目なのも、付け込まれる要因の一つに見えてきてもう嫌だ。
「早くヴェスパーに行っちまえ」
「つれないなあ」
思わず零れた本音に対し、苦笑しながらの返答。そして付け加えられた衝撃の言葉。
「寝るならちゃんと寝床で寝るように。明日の朝食はルビコニアンふつうワームのお吸い物だ」
「怖い」
私がキャパオーバーで寝ようとしていたことすら看破されているのだとしたら、もう隠し事などできないのではなかろうか。
もしかしてこの男だけ周回システムで引き継ぎでもしているのだろうか、という疑念を抱く。そして、それが真実だったら恐ろしい、と震えながら、私はガレージを後にした。
女が立ち去ったガレージで、男は一人ぼやく。
「…実は、大半が『メイカ』に関わることしか覚えてないと言ったら、どんな顔をするかな」
今世の彼女は、前世と同じように解放戦線を選んでくれるだろうか。それとも、あの与太話に近い夢を捨てて、解放戦線を出て行ってしまうだろうか。まさか、あの夢を捨てずに解放戦線を出ていくということは、あるのだろうか?
「…出ていく先がどこか見当がつかないあたり、記憶ってものは都合よく消されているものだよ」
今の自分はおそらく2回目だ。俺は彼女が『歌う』ことを初めて知ったが、もしも3回目があったら、彼女が『歌う』ことを覚えていられるだろうか。
――――………嫌なものだ。
自分の記憶なのに、何かに操作されているこの気持ち悪さは、如何ともしがたい。
そして、もしもすべてを覚えている存在がいるとしたら。
それは何としても倒すべき相手のように思えた。
一応本編(1周目)は完結済みなので小説情報は完結済みのままにしています。
そう、ここからはOVAだ!(違う)