鉄の霞と技術者   作:石和

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悩みの多い専属整備士

 

 

 

 

 スパイ男がヴェスパー隊へ移籍し、私は少々暇を得た。

 

「………AIか、コンピュータか、実在する人間か…」

 

 そんなことを呟きながら、傭兵支援システム『オールマインド』のカタログを読む。何でこんなものを読んでいるのかといえば、帥叔が『独立傭兵 レイヴン』に対して興味を持ったからである。

 

「彼は、ガリア多重ダムにおいて、ベイラムを裏切ってこちらに味方した。…将来、場合によっては味方になりうる傭兵だろう」

「…でも、傭兵ですよね」

 

 金を積めば味方にはなるだろうが、最後の最後まで味方でいるかは分からない。帥叔の言葉で言うなら、そう。

 

「『戦友』になるかどうかは、彼の決断次第なのでは?先日の壁陥落だって、彼とスパイ男が関わっているわけですし」

「それは、そうだな…」

 

 考え始めた帥叔を放置して、カタログの方に思考を沈めていく。

 

 オールマインドには、「ログハント」というシステムがあるらしく、条件を満たせばオールマインド製のパーツが手に入るのだという。

 

 …パーツを開発する協力者がいるのか?いったいどこが?

 

「帥叔、アーキバスがオールマインドに武器を出荷しているとか、技術を流しているとか、そういう形跡はあったりしますか?」

「それはないな。傘下企業が流している可能性は否定できないが、そうだとしたらベイラムも同じことをするだろう。宣伝になるからな」

「んー成程」

 

 ポチポチ、と六文銭に連絡を入れれば、彼が閲覧できる範囲で入手したオールマインド製装備の説明書やら解説が送られてくる。仕方が無いので、ライブラリの中国古典ピックアップを送ってやった。

 

 送ったものが日本古典ではない理由としては、彼が芝居に使うセリフが、大抵中国古典を引用したものであるからだ。誰も気づかないので、その事実を教えてやるつもりはない。

 

「…ほほうほう」

 

 彼も結構ログハントやってるんだなあ、と思いつつ、中身を読む。文章を読む限り、なかなかトンチキな発想をしていらっしゃる。

 

――――これ、多分企業は関わってないんじゃあなかろうか…

 

 おそらくそうであろう。なんというか、皆にはうまく説明できないが、オールマインドに『こちら側』の気配を感じる。

 

「………」

 

 『こちら側』の人間は、もうほとんどいない。その少ない『灰かぶり』は全員『オーバーシアー』に属しているはずだし、私の知る限り、その子孫で技術畑にいる人間も『オーバーシアー』だ。…自分が例外であることは否定しない。

 

 さらに考える。

 

 ルビコンの各地に残る『技研都市』の作品。それらを解析するだけの力が、アイビスの火以降のルビコニアンには無い。そして、星外からやってきた企業達にそれをこなすだけのスキルはなく、封鎖機構も…多分十分なものは持っていない。『技研』製の兵器が解放戦線の拠点を焼き払っていないので、誰もが思いのままに操れないことは容易に想像がついた。

 

――――となると、オールマインドはコンピュータ、AIの可能性がある…?

 

 現場側に人間はいるだろうが、封鎖機構と同じように頭部分はAIやコンピュータである可能性が濃厚だ。人間にできないことも、AIならやれる。そして、「やたら試行錯誤が多い」開発コメントの様相から、このAIは相当優れている。封鎖機構のシステムと比べ物にならないレベルだ。あれは失敗を途中で修正できない。

 

 ここまで優れたAIを開発できるとしたら、それは『技研』以外にないのではないだろうか。そこまで考えて、オールマインドがルビコンのどこかにあるであろう『技研都市』に拠点を置いている可能性すら見えてきた。…はずれだと言ってほしい。

 

 閑話休題。

 

 では、AIやらコンピュータだとして、オールマインドの目的は何だろう。

 

「わからん」

 

 先日、里帰りをしてきたスパイ男に渡された小袋からべっこう飴を取り出し、口に含む。勿論、帥叔にもおすそ分けをした。

 

「…美味いな」

「むふー」

 

 とりあえず、現時点で考えられるのはここまでだろう。

 

 だが、個人的に注視する必要がある。

 

――――スパイ男が感づかないといいなあ…

 

 それについては自信が全くなかった。

 

「……飴おいしい」

 

 メカは考えることを辞めた。

 

 

***

 

 

 『独立傭兵 レイヴン』の助力を得て、捕虜になっていた我らが帥父ドルマヤンが帰ってきた。

 

 何故六文銭たちを使わず、外部委託する形で救出してきたかについて、深く考えてはいけない。そういうことなのだ。

 

 その割には沸き立つ解放戦線――――おそらく、ツィイーの帰投が大きい――――の拠点の隅っこで、TUBASAのメンテナンスに精を出していた私は、突然の呼び出しを受ける。

 

 行き先は、今までに立ち入ったことが1回あるかないかというレベルで行くことのない場所。

 

 ノックをするまでもなく、扉が開かれる。入れ替わりで、誰か知らないが男が外へ出ていった。

 

「入れ」

「はい」

 

 彼の待つ部屋へ立ち入る。扉を閉めて、一応上司に当たるので、敬意を表しておく。

 

「同志ドルマヤン」

「…メイカ・オーツ」

 

 この惑星で、年老いたものは皆『生き残り』だ。特に彼は、ルビコンで一番有名な『生き残り』。…私には気が触れた爺さんにしか見えないが。

 

「ジェネレータの様子を見てほしい」

「………担当の整備士が、いたはずですが」

「あれにも、ジェネレータ部分は触らせたことはない」

 

 待って、待ってくれ。

 

 何故この男は私にそんな依頼をするのだ。というか、私は今までアストヒクの内部資料など見せてもらったこともないのに。

 

「見るだけでいい」

「………はい」

 

 立ち上がった彼についていくように、アストヒクの格納されているガレージへ立ち入る。…剥げた赤い塗装のBASHOシリーズ。ジェネレータ出力補正が最悪なこの機体で、よく今まで生き残ってきたと感心してしまうのは、私が新世代だからだろうか。

 

 許可を得て高台へ上り、アストヒクのジェネレータ部分を開く。

 

「――――?!」

 

 見たことのないパーツだった。この色も、形も、全く知らない。そして何より、

 

「コーラルを、燃やしている…?!」

 

パーツの中を蠢く、赤い色に目が行った。

 

 戸惑う私に、帥父は一言。

 

「高出力・圧倒的な復元性能を持つ」

「……成程」

 

 それだけの説明で理解できてしまった自分に苦い顔をする。パーツをよくよく見れば、今は無い実家で隠されるように、しかし確実に残されていた企業系エンブレムがあった。

 

 RI――――ルビコン調査技研(Rubicon Ⅲ Research Institute)。

 

 何でこんなところで、こんなタイミングで、『技研』の遺産と向き合わねばならぬのだ。

 

 コーラルのエネルギー量は膨大である。そして、空っぽにすれば勝手に増殖する。BASHOシリーズのジェネレータ出力補正が最悪でも、それを補って余りある強引な性能。

 

 動揺しながらも、何とか口を開く。

 

「…これ、は。その、…最初は、コーラルを充填していたのですか?」

「そうだ。そして、その一度きり以来、このジェネレータは動き続けている」

「………」

 

 壊れない限りの永遠稼働。コーラルが存在するルビコンでこそ運用することのできる、『技研都市』特有の設計思想で作られたこれを、何故この男は持っている?

 

「メイカ・オーツ――――ルビコン調査技研に、オーツ助教という人物がいたことは知っている」

「!」

 

 息を呑む。

 

「コーラルよ ルビコンと共にあれ

 コーラルよ ルビコンの内にあれ

 その賽は 投げるべからず」

 

 動けない。

 

「『技研都市』出身の血筋を持つ、ルビコンの子。コーラルがどんなに優れた資源に見えたとしても、それが引き起こす悲惨を考えぬことは許されない」

 

 なんで、わたしのことをしっているの。

 

「人間の欲望でコーラルを爆発させた『技研』の罪を、忘れるな」

 

 話はそれだけだ。そう言って帥父は去っていく。

 

――――殺されはしないのか、そうか………

 

 私はアストヒクのジェネレータ開口部を閉じると機体から離れ、ガレージを逃げるように飛び出して自室へ向かう。部屋に入って鍵を閉めたところで、膝から力が抜けてへたり込む。

 

「………、なんで」

 

 わからない。私は誰にもその話はしていない。…例外としてスパイ男がいるが、彼が共有したとも思えない。帥叔は、スパイ男が言っていたら知っているだろうが、少なくとも彼からこの話題を出されたことはない。

 

 這うように移動して、ベッドにもぐりこむ。

 

――――誰かが、何かが、私の知らないところで私の話を、帥父にリークしたとでも?

 

 わからない…わからない。

 

 パニックになった頭を落ち着けるには、眠るしかなかった。

 

 

***

 

 

「ひどい顔をしているな」

「………」

 

 ここはスティールヘイズのコックピット内。

 

 急な呼び出し、搭乗スーツ、スパイ男の膝上――――アイスワームの破壊任務。全部覚えがあるのは、『前世の記憶』とやらがあるせいだろう。コックピット後方の緊急用物資を積むエリアに座ろうとしたら、流れるように彼の膝上に座らされたし、素直にそこへ収まる自分にも戦慄するしかなかった。スパイ男が満足げなのが、また腹立たしい。

 

 彼はオートパイロットにした故に手持ち無沙汰になったらしい。こちらの顔を覗き込み、心配の声色で言う。

 

「眠れていないのか?」

「…別に。いろいろ考えてたら、日付が変わるだけ」

「そうか」

 

 あまり時間はないが、寝ておくといい。そう言われておとなしく目を閉じるが、眠れるはずもなく。

 

――――帥父によって大混乱を引き起こされて以来、私は仕事の合間を縫って『技研』の資料を漁るようになった。

 

『コーラルよ ルビコンと共にあれ

 コーラルよ ルビコンの内にあれ

 その賽は 投げるべからず』

 

 解放戦線の警句。今は一文目しか使われていないが、本来はこれでセットだったという。帥叔にも確認したので、間違いない。

 

 『ルビコンの内にあれ』とは、恐らく『持ち出すな』『増やすな』ということだろう。帥父は、ジェネレータの件も含め、おそらくコーラルの特性をよく知っている。コーラルの増殖がアイビスの火のきっかけとなった以上、真空で爆発的に増やすことがないように、ルビコンに留めておけと言いたい…と私は解釈した。

 

――――『賽』って、何だろうな…

 

 調べ物の中心は、主に疑問の解決を目指すものになった。最初は、賽の指し示すものがアイビスの火だと思ったのだが、調べていくうちに、一つの違和感が支配するようになる。

 

 そもそも何故、アイビスの火を起こすような真似を『技研』はしたのか?

 

 実家で学んだものは、『コーラルを焼け』ということだけだった。なぜそうなるのか、仕組みとしての説明はきっちり受けたが、そもそも何でそんなことになったのかは、教わってこなかった。…教えたくなかったのだろう。

 

 何故、教えたくなかった?

 

 原因となった発想自体を、封じ込めたいと願ったのだろうか?

 

「メカ、そろそろ着くぞ」

「う?」

 

 思考を現実に引き戻される。目を開けると、モニタ越しに、待ち人の姿を認めた。

 

「彼女がシンダー・カーラだ。――――メカに、かなり期待している」

「そう」

 

 こちらを見る彼女の姿に、心が高揚する。

 

 正直、私もこの任務で呼び出されるのを待っていた。

 

「楽しみ」

 

 彼女はおそらく、私の疑問に答えを出してくれるだろうから。

 

 







 自分でも信じられないんですけれど、3周目の用意があります(書けるかは知らない)
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