鉄の霞と技術者 作:石和
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構想のストックはあっても、次の話の文字数が1文字もないんですよね。すべてはAC6が楽しすぎるのがいけないんだ!!!
アーキバスの前線基地で、私は頭を下げる。
「彼女がスティールヘイズのメカニックだ。メカと呼んでやってほしい」
「メカです」
「RaDのシンダー・カーラだ。顔が見たい」
その言葉に従い、頭を上げて彼女の顔を真っすぐ見る。初対面のはずなのに覚えがあり、奇妙な感覚を味わいながらも、目をそらさない。彼女には、私の質問に答えてもらいたいから。
「ほう、いいね」
こちらの要望に感づいたらしい彼女は、不敵な笑みを浮かべた。
『前世の記憶』に似たような形で、仕事は済んだ。
普段と違う場所、普段と違うチームメイト、普段と違う指揮系統。
何もかもが違うこの場所で、私はかなり楽しい思いをさせてもらった。
しかし、仕事が済んだ。ならば、私は目的を果たさねばならない。
「カーラさん」
スパイ男も、他の社員もいない機会を見計らって、私は彼女に声をかける。
「…何だい、『灰かぶり』の子孫」
話は早かった。
「改めて、自己紹介をします。私はメイカ・オーツ。『技研』では、祖父が助教として、祖母は研究員として働いていたと聞いています。……あなたに、聞きたいこと…質問があります」
「答えられることなら、答えよう」
「………何故、」
答えてくれなかったらどうしよう。柄にもない不安で両手に力がこもる。
「何故、『技研』は、アイビスの火を起こす必要があったのでしょうか」
カーラさんが目を見張った。しばらくの時間を沈黙で過ごし、息を吐き、深呼吸をしてから、彼女は言う。
「…それは、仕組みってわけじゃあないね?」
「何故起こったか、その仕組みはきっちり教わりました。…でも、何故起こしたのかは、全くわかりません」
アイビスの火が起こるだけのコーラル増殖を起こした人間がいるはずなのだ。そして、それを管理しきれなくなって燃やしたことは理解できても、何故燃やすという判断に至ったのかが分からない。増やしたかった人間がいるのに、何故。
扱いきれないと判断した?…でも、酸素だって、もともとは有毒物質だったのだ。しかし、生物は進化して、適応した結果、こうして生きている。コーラルにも、同じことができたのではないか?
「コーラルが宙にあることで、何の問題が起きるのでしょうか。それが分からない」
幼い日の私も、それが分からなかった。だから、私の狂った夢は生まれた。
白状すれば、アストヒクのコーラルジェネレータを見たとき、私は思ってしまったのだ。
――――これをすべてのACに積めば、コーラルがある限りは無限に宙を飛べる。私の夢が、少しだけ、現実になる。
しかし、解放戦線の思想的指導者である帥父ですら、『ルビコンの内にあれ』『賽は投げるべからず』と否定するのだ。何か重大な思い違いや、知らされていない要素がある。
――――それを理解してようやく、『解放戦線』か『オーバーシアー』かについて、判断を下せるのではないだろうか。
たくさん話して、口が乾く。
「………」
「メイカ」
静かになった私に、カーラさんは答えを示す。
「コーラルには、特異な波形が存在する。その波形は、死んだ人間の意志を取り込む可能性があるって言ったら、どうする?」
絶句する。
「……そんなの、が、本当なら」
それは、コーラルが、私たちにとって代わるということだ。
人類は生死のサイクルを繰り返す。コーラルには増殖という選択肢しかない。個体数として比較するなら、人類はもうすでに敗北している可能性すらある。
そして、コーラルを積んだ機械は、C兵器よろしく、破損するまで自律して動くことができる。
「コーラルは、人類のコピーとなり、機械の体で新人類に君臨する…」
いろいろ、納得がいった。『コーラルは焼くもの』という言葉は、『敵を殺せ』と同義だったのだ。
『賽』は、私たちが私たちを捨て、コーラルが新たな人類になることだというのか。そして、帥父は、その賽を投げることはしなかった。彼は、人類の敵にはなれなかった。
「メイカ。あんたは、どうしたい」
――――………、わたし、は…
「人類を選ぶか、コーラルを選ぶかだよ」
連絡を待っている。そう言って、カーラさんは立ち去った。
最近、メカの様子がおかしい。
アイスワーム撃破前にシュナイダーへ迎えに行ったときは、目の下に隈を作っているような睡眠不足に陥っていた。アイスワーム撃破後に、RaDでのパーティ会場で会った時は、目の下の隈こそ薄くなったが、ずっと何かを迷っているように見えた。
そして、定期メンテナンスでシュナイダーに帰った今。
「メイカ」
声をかければ、彼女が振り返った。
「本名はやめろ」
「はは」
眉間にしわを寄せて返事をする様はいつも通りに見えるが、何かを決めたのか、ブレが無くなっている。
「最近、気分がよさそうだが、何かあったのか?」
「…仕事で行き詰まってた部分が、漸く解決したというか、判断がついた」
「そうか」
詳しく聞くことはしない。…それは、彼女が嫌がることだ。
俺の仕事に、彼女をスパイすることは入っていない。『前の周回』の俺は、随分と彼女のことを嗅ぎまわったようだが、今の俺はその必要が無いと判断した。
それは彼女が離れていくことが無いという傲慢なのか、『前の周回』で彼女に夢を諦めさせた罪悪感なのか。どちらにせよ。
――――スパイ失格だな。
それは最初からだったかもしれない。それでも何とかやってきた。
しかし、最近の情勢や、スネイルの当たりがキツイことから、もう時間はほとんど残されていないだろうと推測できる。単独でミシガン総長を消せと命令されたのも、使い捨ての駒故の無茶な命令だったと思う。任務を達成し、生きて帰ったが。
おそらく、『スティールヘイズ』専属整備士としてスネイルに認識されているであろうメカも、あまり積極的にはシュナイダーへ出勤していない。それが示すのは、身の危険を感じているということ。
つくづく、ヴェスパーに彼女を引き連れていかずによかったと思う。事の発端は彼女のスネイル嫌いであったが、それでも。
「………ん?」
スティールヘイズのコックピット内で調整を行う彼女の動きに合わせて、スパナ型のイヤリングが揺れる。その様子がよく見えるのは、彼女が髪を束ねるようになったからだ。
「髪、伸ばすのか」
「たまにはね」
彼女の真っ黒な髪は、ルビコンでも珍しい部類。黒に近い色をした髪を持つ者は多くいるが、彼女ほど闇に溶け込む色を持つ者はほとんどいない。加えて、瞳の色も黒ときた。それらは、とても綺麗だ。
作業を終えたのか、メカがコックピットから降りてくる。手を伸ばせば、素直に手を取ってくれた。
「…何?」
「ちょっと踊るか?」
「気でも狂ったか」
冗談だ。そう言って手を離す。
「『オルトゥス』の開発はどうだ?」
「…もうちょっと」
メカが端末を渡してくる。開かれている画面には、機体完成予想図と武装一覧。
「シュナイダーの機体をリバースエンジニアリングして得た技術は、全部つぎ込んだ。あと、ファーロンから受けてる技術供与で、機体の方は完成のめどがついた。でも、火力がまだ足りない」
「…このニードルガンというのはどういうものかな」
「エルカノに頼み込んで作ってもらった、鉄杭を打ち込むタイプの装備。爆発はしないけれど弾速が早くて、攻撃力と衝撃力は稼げると思う。腕の射撃補正を高めたのは、これのため」
あなたの射撃能力を疑うわけではないけれど、保険は多い方がいいから。そう言われれば、頷くしかない。
彼女は、こちらの戦闘スタイルから『より近距離戦』『一対一特化』『短期決戦』に重きを置く、スティールヘイズよりもピーキーさに磨きをかけた機体を作り上げるそうだ。
「ニードルミサイルも同様。…左肩に、ベイラムの実弾オービットを載せたいって言ったら、怒る?」
「………」
「あの、載せるつもりのやつ、BO-044 HUXLEYなんだけど、その、制御部分はアーキバス系の技術が入ってて、結構よくて…スライサー振ってる間も勝手に攻撃してくれるし……実弾だし…ENのコスパも良くって…えっと…その…意趣返しにも良いかなーなんて思ったり…はい…」
彼女が珍しく歯切れの悪い言葉を並べている。ベイラム製FCSを載せると告げたときの強気はどこへ行ったのか。
「いやだって、FCSは内装だからパイロット以外には分かりにくいけれど、武装は敵もはっきり目にするものだから、嫌かなって」
それを聞いて、思わず笑ってしまった。こちらの要望をどこまでも叶えようとするこのメカニックは、本当によくやってくれる。
「それでいい。…その制御部品、まさかメカが作ったとかじゃないよな?」
「………ノーコメント」
目的のためなら危ない橋も渡ってみせるメカニックなど、この世界にはなかなかいない。彼女がどういう伝手でそれを実行したのかは分からないが、技術者には技術者なりにネットワークがあるのだろう。
兎に角。そこまでやってくれたのなら、使わない理由はない。
「他は何かあるか?」
「大丈夫。………うん」
端末を眺めながら、彼女が頷く。
「メカ」
愛称を呼べば、彼女は黒色の瞳をこちらへまっすぐ向ける。
「『オルトゥス』のことも、よろしく頼む」
彼女の瞳は揺らがない。
「わかった」
そこから読み取れるものは、何もなかった。
数日後、メカはエルカノのガレージに立っていた。
急な要望にも関わらず、快くガレージやら何やらを一式貸し出してくれたエルカノ側の社員が、声をかけてくる。
「いいんですか?あっちで組まないで」
「…急いで仕上げたいと思って。完成したら、輸送するか、パイロットに来させるか、上手くやってください」
メカにだって、随分とわがままを言っている自覚はある。内装パーツも、エルカノに送るよう急遽依頼したものだから、関係先には本当に迷惑をかけたと思う。
しかし、もう時間は無いのだ。
「『オルトゥス』を仕上げます。――――パイロットが逃げ帰ってくる前に」
髪を束ねて、仕事を始めた。
それからしばらくもせず、『スティールヘイズ』は解放戦線へ帰還する。
しかし、彼を出迎えるメカニックの姿はなく。
「メカは?」
「……それが、」
応急処置だけ受けて包帯だらけのパイロットは、新しく組みあがったACの前へ案内される。
コックピットへ近づくと、今日日珍しい紙の手紙が、封筒に入れられて起動キーと共に置かれていた。封まできっちりされたそれを開けて、丁寧な字で書かれた中身を読む。
『ラスティ
仕事は果たしました。私は、私の夢を、諦めに行きます。
メイカ』
「………メカ」
静かな怒りと悲しみを孕む声が、静かなガレージに響いた。
【手紙の意訳】
やることはやっといたからな!あとよろしく!
じゃあな!
責任感だけはちゃんとある彼女。なんたって、プロですからね