鉄の霞と技術者 作:石和
へへ…書いちまったぜ…俺は寝るからよ…あとは任せた…
※二本投稿しています。こちらからお読みください。
連絡を入れたら、それは驚かれたものだった。
「対面するのは初めてだな、メカ。RaDのチャティ・スティックだ」
たどり着いた拠点で出迎えてくれたのは、AC・サーカス搭乗者もといシンダー・カーラの生んだ対話型AIだった。小さな体でパワフルな動きを可能としている彼は、左手で私のトランクを持ち上げ、右手は私の左手を引いて、目的地へ案内してくれる。
拠点の中は慌ただしい。オーバーシアー構成員ハンドラー・ウォルターの生死が不明となり、その猟犬もアーキバスが技研都市に作った再教育センターで拘束されているという。
そんな話をしている彼らの中でも、私の顔に見覚えがある人は、こちらを見て両親の名前を呟く。私は、両親によく似ているらしい。
「この個室が、メカの部屋だ」
トランクを置いたら、次はボスの研究室もとい執務室へ。そこへの移動の間も、チャティは手を離さない。監視・拘束、そっち系を考えたが、どうもそうではないらしい。
「ボスが、『悲しんでいる人には、寄り添うことが大切だ』と言っていた」
「………」
目的地へたどり着く。彼のボスの前へ案内され、そこでようやく、チャティの手が離される。そして、そのまま部屋を出ていった。
先日と同じような二人きりの状況で、カーラさんが私の頭に片手を置く。
「あんたは選んだ。偉いよ。こちらだろうと、あちらだろうと、何かを切り捨てるのは、心がしんどいことだからね」
彼女が空いている方の手で、私の頬に触れる。そうして初めて、私は泣いているのだと気付いた。
「今日だけは、捨てたものを思って泣けばいい。明日から、きっちり働いてもらうよ」
堰を切ったように、涙が止まらない。
泣きじゃくる私が泣き止むまで、彼女は私の傍にいた。
数日と経たず、私は早速ミッションにアサインされた。と言っても、今までやっていた仕事とは全く毛色の違う仕事に、かなり緊張していて冷や汗が止まらない。
それでも、私が望んだ仕事だ。
「あんたたち特務チームには、『技研都市』に潜入して、ビジターの脱出用ACを組んできてもらうよ」
カーラさんの説明に合わせて、チャティが資料を表示する。
「現状、アーキバスが占領して死地そのものになってるんだが…ウォルターがビジターの生存に賭けてるからね。なんとしても組んでもらう」
選抜されたメンバーは、『技研都市』の構造を知る最後の世代ともいえる60代から、力技で物事を解決できそうな30代まで、幅広い年齢層で構成されている。私はおまけで追加された要員で、20代なので当然最年少だった。本来なら、私はこの任務には参加しない。
だけど、見てみたかったのだ。
私の、我が家の呪いと化した『技研都市』――――その姿を。
「アーキバスに潜入している仲間の手引きで、現地入りまでは確実に出来るだろう。そこからは、適宜ジャンクパーツを拾ってきて、周囲から隠れるように作業をしてもらうことになるよ」
ジャンクACの設置場所、緊急ビーコン設置予定地などなど、情報は全て頭に詰めていく。端末は仲間内での必要最低限の連絡にしか使えず、RaD本拠地との連絡は任務を終え、生きて地上へ出るまでは不可能に近い。
「メカ。あんたは『技研都市』についてどれだけ知ってる?」
「RaDのサーバーにある情報で、地理関係は全部読みました。『技研』の兵器についてもそれなりに」
「そうか。技術面は心配してないけれど、迷子にだけは気をつけるんだよ」
頷く。チームメイトの皆、人生の先輩たちの言うことをよく聞いて、ジャンク品をなんとか動くところまで持っていけるよう務めねばならない。
チームメイトでも最年長、『技研都市』で幼少期を過ごしたというおじさまが、ガハハと笑いかけてくれる。
「まあリラックスしていこうや、嬢ちゃん。『ふるさと』は、そう悪いところじゃなかったんだぜ」
「そうだぞ~。まあ、今は廃墟そのもので、C兵器が転がってたり自律兵器が云々かもしれねえけどな!」
なんだか物騒な話が聞こえたが、まあ大丈夫だろう。…大丈夫じゃなくても、私は『技研都市』の姿が見たい。
――――ついでにコーラルを焼ける手助けとなるんだから、合理的。
そのために命を天秤にかけるが、それはもう解放戦線を裏切った時点で近い将来になくなるものだ。惜しむものではなくなった。
「さ、行っておいで!」
カーラさんの号令で、私たちは出発する。
最終的に、『コーラルを焼く』という目的を達成する糧となるために。
「――――信じられない」
手筈通りに潜入した『技研都市』は、それは立派な廃墟だった。すべてが焼き払われた地上とは全く違う、人工物と岩土が広がる光景。何より、氷が無い。
「『技研都市』へようこそ、若造ども」
最年長のおじさまに連れられて道を進む。
高層ビルが連なり、適宜整備された道は、どう見ても地下世界にあるとは思えないほどの大都会だった。しかも、かなり複雑な構造をしていて、『技研』の資料が無ければ侵入ができなかった場所がかなり多い。結果として、そこが私たちの秘密基地となる訳だが。
人工的に昼と夜が再現されるこの地下で、最初の1か月はアーキバス部隊の警邏サイクルを徹底的に分析した。ついでに、ジャンク品の山から使用するパーツをピックアップして、『技研』管理品だったらしいMTのような作業用マシンの復旧作業も行う。もちろん私は作業マシン担当。
「嬢ちゃん、筋がいいな」
「メカって愛称に納得するレベル」
「ありがとうございます」
アーキバスに潜入している仲間の下準備のお陰で、レーションやエネルギーには困らない。私たちは敵地にありながら、相当落ち着いて仕事をしている。どこからやってきたのか、アーキバスの廃材置き場から回収したDELIVERY BOYの残骸を改造して緊急ビーコンだって作り上げた。それの設置も済み、任務の進行状況としては悪くない。
「当時最新だったBASHOパーツも、今じゃ廃材かあ」
そうぼやきながら仕事をするおじさまに苦笑したり、『技研』特有のトラップに悲鳴をあげながら解除したり、アーキバスの監視に見つかりそうになって『技研』の遺産こと未発見の通路に世話になったりしながら、私の修繕した作業マシンと、チームメイトの力でJAILBREAKはその形を完成させていく。
「そろそろ搬入だな」
「組み立てまで一気に行って、そのまま脱出を考えておかねえといけねえ」
「搬入は『技研』の裏通路で行うか」
年長者たちが計画を立てる。私はその横で、パーツ編成前に済ませられる調整を全て済ませるべく、必死に手を入れていく。
「『技研』正統派って感じの腕前してんな」
「本当は、搭乗者の戦闘データが欲しい」
「無駄だぜ?『レイヴン』って奴は、毎度そのデータを越えてくるからな」
「そっか」
歌うとスパイ男に合わせた調整が復活してしまいそうになるので、私は集中して作業を進める。…まあ、歌う必要もないし、アーキバスに所在を感知されても困ってしまうので、余計なことはしない。
「鴉かあ…」
ハンドラー・ウォルターの猟犬、『第4世代の621』の番号を与えられた独立傭兵。解放戦線でも、アーキバスでも、おそらくベイラムでも――――そして、オーバーシアーでも話題に上る存在。
私たちの仕事が、彼の選択が、最終目的を同じにしてくれているといいのだが。
――――金払いの良さと、『戦友』の存在に傾かれると、私たちの努力がパアになっちゃうね…
まあ、そうなったらそうなったで、カーラさんはレイヴンを殺すだろう。そうしなければ、私たちの目的は達成できない。
それでも、これだけ頑張ったので、できればレイヴンにはこちら側へついてもらいたいと思ってしまうことくらい、許してくれないだろうか。
「よぉし!若造ども!計画を発表するぞ!」
私たちの命運をかける作戦が決まったらしい。うまくいくといいのだが。
結論から言うと、作戦は成功した。
「追え!逃がすな!」
「奴らどこから侵入した…!」
JAILBREAKを設置し、『技研都市』から脱出。そこまでは良かったのだが、地下から地上へ出るための『技研都市』御用達エレベータに到着するまでの間で、センサーか何かに引っかかってしまったらしい。つまり、このままだとMIA待ったなし。
「――――っ、…はあ、はあっ…」
幸運なことに、もしくは私たちのルーツが功を奏して、ACやMTが通れるような区画ではなく、人専用の通路を使って逃亡しているため、追跡者も人間となる。アーキバス側はやはりこの通路の存在は知らなかったようで、ところどころ仕掛けられた『技研』のトラップで頭数を少しずつ減らしている。
しかし、人は脆い。
もうすでに、特務チームは潜入した時の半分の人数にまで減った。撃ち殺された者、負傷して動けなくなった者、体力面で追いつけなくなった者を置いてきたから。
私はというと、最年少かつ小柄が幸いして、一番早足で逃げることができている。通路も把握しているため、走るのに必死になっている先輩たちの誘導を買って出た。
「あと3回曲がったらエレベータ…!」
「すっげえガバガバな案内ありがとう!!!」
荒い息、張り詰める緊張感の中、私たちは必死に走る。『技研』のトラップは私たちにも牙をむくが、地下に潜っている間に作った『解除キー』が反応して、私たちを殺す前に一時停止するため、その間に駆け抜けている。その解除キーは私のイヤリングのネジバネに新しくつけられた装飾部分へ仕込まれているため、体力を理由にドロップアウトすることなど許されない。
「嬢ちゃんは元気だなあ!」
最年長なのに体力オバケなおじさまは、最後尾ながらもちゃんとついてきている。彼の手には、可能な限り回収してきた仲間の装備品――――指輪や、ドックタグなど、身元の分かる品が握られていた。
目的地に着き、エレベーターホールでセキュリティの解除を始める。これが済めば、私たちはエレベータで一気に地上へ向かえるのだ。
「私が操作します、みんな先に乗って」
随分と少なくなった頭数でエレベーターに乗り込む。脱落した彼らを思う暇はない。生き残っている彼らを、なんとしてもRaDに帰さねばならなかった。
何より、私より技術面も、覚悟も、何もかも数段上を行く彼らを優先するべき――――そんな思考で、作業を進める。
「まだか?!」
「ブービートラップが…!」
『技研』の奴らは、脱出する際にブービートラップを仕掛けていくような頭のおかしい奴らだったらしい。必死に端末を操作してそれを止め、ロックを解除していく。
後ろで炸裂音と銃声が聞こえた。アーキバスの奴らが、トラップを破壊したらしい。
「嬢ちゃん」
「解けた、けど、」
言葉に詰まる。誰かが残らないと、起動できない。
画面を見た最年長のおじさまは、私をエレベータへ押し込む。そして、私の手に先ほどまで握っていた遺品たちを握らせる。
「まって、」
「じゃあな、若造ども」
その声と共に扉が閉じ、エレベータが動く。
「――――………っ!」
手に握らされた血塗れの遺品たちを握りしめた。
それから数日もせず、私たちの血の結晶ともいえるJAILBREAKを使って、レイヴンは『技研都市』を脱出した。
その彼が『こちら』についたと聞いて、私は泣いた。
……自分で選んだ道のりなのに、泣いてばかりだ。
「それでも、」
裏切ったもの、選び取ったもの、託されたもの、それらを考えれば、ただひたすらに進むしかない。
髪を束ねる。
仕事をしよう。
私たちの目的を果たすために。そして、私の夢を諦めるために。
脱獄マシンを組んだ人たち、覚悟ガンギマリだったんだろうなって…