鉄の霞と技術者   作:石和

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※二本投稿しています。こちらは二本目なので、一つ前の話から読んでください。


見えぬ夜明けと終わった夢

 

 

 先日まで地下にいたのに、今は大空の上で、流れる雲を視界の端に収めているのだから、人生とは不思議なものだ。

 

「………恒星間入植船、ねえ」

 

 新しい、そして人生最後の拠点となった『洋上都市ザイレム』――――私の墓標。

 

 立派な都市に見えて、その実迎撃設備や戦闘用に工夫が随所に凝らされているそれは、今や火薬庫となったバスキュラープラントへ突っ込めば、盛大に爆発してくれるだろう。それはもう。

 

「花火どころじゃなさそう」

 

 アーキバスが溜め込んだコーラルの量を見るに、ルビコン3どころか星系を吹っ飛ばす試算が出た。それを聞いたオーバーシアーの技術者たちは、より目的を達成できるように、戦闘用装備の整備にやる気を出している。

 

 かくいう私も本人に許可を得て、レイヴンの機体へ手を入れている最中だ。レイヴンは休息中のため、私一人で機体を弄っている。興味を持ったらしいカーラさんが、通信回線越しに私へ問いかけた。

 

『何に備えているんだい?』

「…ラスティに」

 

 あの男はきっと来る。『戦友』を殺し、ザイレムを落とし、誰よりも速く、高く飛ぶために。

 

 そう言えば、カーラさんが目を伏せる。

 

『成程ね』

 

 何を考えたのか、少しの沈黙を挟んで、私の端末がデータを受信する。

 

「…広域通信?」

『あんたに必要になりそうだからね。接続する権利をあげるよ』

 

 カーラさんに言われては、頷くしかない。…私の端末に、連絡を入れてくる奴などいないと思うが。

 

『位置情報の探査はできないようにした。発信は…どうせしないだろう?』

「しませんよ」

『だろうねえ』

 

 呆れたように言うのは何故なのか。いやだって、所在とかばらされたら困るでしょうし、何より私、別に誰にも連絡取ろうっていう気ないし。

 

『まあ、着信があったとして。――――出る出ないは、あんたの好きにしな』

「はーい」

 

 通信が切れる。私は仕事に戻る。

 

「レイヴンに、WショットガンとWワーム砲を提案して良いかな…良いよね…?」

 

 きっとヴェスパーの生き残りが勢ぞろいするだろう。特にスネイルにワーム砲撃たれて捕まった、ってレイヴンが言っていたので、意趣返しに撃ち返してやればいいんだ。

 

――――………スパイ男の周りも、誰も残らないな。

 

 憐れなものだ。…私も、きっとそう。

 

 

***

 

 

 戦闘が開始された。アーキバスが、ザイレムを落とすべく攻撃をしてきたのだ。

 

 封鎖機構から奪ったあらゆる物資を再利用し、V.Ⅰまで投入する本気っぷり。スネイルのガチギレ顔が脳裏に浮かんだので、頭を横に振って霧散させる。

 

 私はというと、艦橋ビルの上層でザイレムの制御に駆り出されている。戦闘能力が無いのと、『技研』正統派の技術者故に、システム制御担当に振り分けられた――――のは建前で、人員が足りないのだ。

 

 …たくさん死んだ。今も死に続けている。

 

 カーラさんから通信が入った。

 

『メカ、システムの防衛状況は?』

「ハッキング攻撃が弾幕厚めでやってくる感じなので、全部叩き落してます」

『その調子で頼むよ』

 

 艦橋となるビルも、現実の攻撃で揺れている。それでも船の制御は破損もせず、奪われてもいないため、ザイレムは目的地へ進み続ける。

 

 どれだけの時間、私は端末で防衛戦争をしていただろう。

 

『ビジターがV.Ⅰを落とした』

 

 その報告に、周囲が沸き立つ。ACさえ落とせば、後は清掃作業だけだ。実際、現実世界の攻撃量は減り始め、システム攻撃量も目に見えて減っていく。

 

 先輩がこちらを見る。

 

「メカ、こっちはいい。レイヴンの機体整備に行ってやってくれ」

「はい」

 

 ビルのエレベータで階下へ降り、移動用のマシンに飛び乗ってガレージへ急ぐ。現場へたどり着けば、レイヴンと他のメカニックたちが、補給を始めていた。

 

「レイヴン、調整はどうだった」

 

 良好だったのか、親指が立てられる。ならば、と先ほどまでと同じ調整をかける形で機体を修繕し、すべての作業を終えるころには赤い空になっていた。カーマンライン到達だ。

 

「整備終了しました!」

「レイヴンを出撃させろ!次は強襲艦の撃墜だ!」

 

 作業が終わるまでの間に仮眠を済ませたレイヴンが、コックピットへ戻っていく。機体の様子を確認し、『問題ない。感謝』というチャットが端末へ送られてきたので、私の仕事は完了だ。

 

 爆風と共に出撃するレイヴンを見送った。次は艦橋へ戻って防衛システムの制御を手伝うべく、再度移動用のマシンに乗る。

 

 エンジンをかけ、いざアクセルと思った時、端末が震える。

 

「………」

 

 ポケットからイヤホンを取り出し、端末に繋ぐ。そして、アクセルを踏みながら、端末に表示された通話ボタンを押した。

 

 

 

 

『……やあ、スパイ男。…違うね、今は、ラスティか』

 

 久々に聞いたその声は、記憶と変わらぬ声だった。違うと言えば、呼称が名前になったところか。

 

「…繋がったということは、君はザイレムにいるのか」

『さあね』

 

 笑うような返答。分かっているだろう、と言わんばかりのそれは、まさしくずっと世話になったメカニックのものだった。

 

『単刀直入に聞こう。何故、ルビコンを焼く?』

 

 そう問いかける自分の声は、随分と平坦だった。怒るでもなく、悲しむでもなく、ただ問いかけている。

 

 そして、返事をする彼女の声も、やはり平坦だった。

 

『コーラルよ ルビコンと共にあれ

 

 コーラルよ ルビコンの内にあれ

 

 その賽は 投げるべからず』

 

――――………?

 

 突然読み上げられる解放戦線の警句。今は一文目だけが繰り返し唱えられるそれが、一体なんだというのか。

 

『ルビコンの灼けた空を飛び、まだ見ぬ自由をつかみ取る。…でも、その自由の先に人類の終わりが待つのなら、結局私の夢は叶わない』

 

 私、『技研都市』に行ってきたんだ。

 

『たくさんの人の営みの跡を見た。あれだけのものを捨ててまで、私の先祖はコーラルを焼いた。そうまでしないと、人類を守れなかったから』

 

 おそらく、意図的に言葉を省いているのだろう。彼女は過程の説明こそすれど、過程に対する理解を求めるつもりが無いのだ。

 

『私は、人が人である方がいい。その思いは、先祖と同じ。そして、私の狂った夢は、どうやら人を人でなくすものらしい』

 

 だからね、ラスティ。

 

『私はコーラルを焼くよ。狂った夢の、終わりを迎えるために』

 

 そう言って、彼女は黙る。言いたいことは全部言ったらしい。

 

「………そうか」

 

 目を閉じる。

 

――――ならば、仕方がない。

 

 彼女は覚えているか分からないが、俺は『前の周回』で、彼女に夢を諦めさせているのだ。そうである以上、彼女が決めたことを尊重しない理由は、今の俺には無かった。

 

 何より、彼女は依頼した仕事を完璧にこなして義理を果たした。今度は俺の番だ。

 

「お互い、最善を尽くすべきだな」

 

 これから殺し合いになる敵陣営所属の相手の背中を押す。変な話だが、それでいいのだと思う。

 

 そして、それは伝わった。

 

『ありがとう、ラスティ』

 

 じゃあね、と通信が切れる。最後まで、彼女は彼女のままだ。

 

――――依頼した仕事の、フィードバックくらいはしてやろう。

 

 端末を操作する。必要手順を踏んで準備を終えると、戦場へ降り立つ。

 

「…来たか、戦友」

 

 赤い空を飛んでザイレムへ戻ってきた来たACに向け、声を放った。

 

「やはり君は…ルビコンを脅かす、危険因子だったようだ」

 

 狼と鴉、背負ったものを賭けた殺し合いが始まる。

 

 

***

 

 

 目を開ける。うっすらと光が差す視界には、砂ぼこりと、地面と、瓦礫の山と、自分の右腕と、その手に握られた端末が見える。

 

――――そういえば、通信を切ったら、攻撃を受けて、天井が落ちて、それで…

 

 左腕が痛いこと、頭がぐらぐらすること、右手に握った端末が震えたことは分かるが、それ以外は何もわからない。もしかしたら、下半身は死んだかもしれない。動く気がしない。

 

「………」

 

 おそらくダメだろう。自分の身体に見切りをつけ、残り僅かであろう時間を潰すために、先ほど振動した端末を操作する。

 

 メールを受信していたらしい。差出人はラスティ。リンクだけ張り付けられた、簡素というには内容が無さ過ぎるメールだ。

 

 そのリンクを押せば、生配信と思しき画面が開く。ギョッとして画面を凝視すれば、ちゃんと概要欄に『リンク限定公開』と書かれていて安心した。

 

【やあ、オルトゥスのメカニック】

 

 配信画面には、先ほどから文字と数字がずらずらと流れている。…ああ、これは。

 

【君に組んでもらった、スティールヘイズ・オルトゥスの戦闘データを送る】

【分析する時間が無いから、生データを映像で直送という形になってしまうが、君ならきっと何とでもなるだろう?】

 

 思わず笑う。笑い声は出なかったが、吐き出された息が砂塵を少し舞わせた。

 

【期待通りで満足しているよ。でも、きっと君ならもっと速いACを組めるはず】

【だから、このデータをもとに、また新しいACを組んでくれ。君の新作、待っているよ――――メイカ・オーツ】

 

 流れ続ける文字列を眺めながら、無音となった動画の配信主と、その機体の様子を分析する。

 

 ああ、かなり苦戦している。相手は、おそらく『戦友』なのだろう。彼が取っ捕まる奴は一人しかいないって言っていたから、多分正解だ。さっき出撃の様子も見たしね。

 

 短期決戦型のオルトゥスは、恐らく『戦友』の機体と相性は良くない。私がレイヴンに対して、弱点を突くための入れ知恵だって仕込んでいる。だが、自称第八世代の強化人間であること、そして彼本人のAC操作スキルで、お互い削り合う死闘となっているように見える。

 

 でも、やっぱり相手は強いようで。

 

――――そうだよな、企業たちとルビコニアンを敵に回す奴だもの…

 

 思った以上に戦闘が長い。手から力が抜け、端末が音を立てて落ちて倒れる。

 

「…っ、………!」

 

 力の限り手を伸ばし、端末を掴んで、瓦礫に立てかける。霞む視界で再度画面を捉えたとき、スティールヘイズ・オルトゥスの戦闘データが途切れる。

 

「『泣きの一回』」

 

 自分がこっそり仕込んだブラックボックスの起動テキストが流れる。

 

 頬が緩むのが分かる。

 

「すぐ死ねるほど、私の組んだ機体は安くない」

 

 パイロットはまだ生きているらしい、オルトゥスの戦闘データはオートパイロットではなく、ちゃんとマニュアルで動いている数値を流す。

 

 ふと、祖父母や両親、地下で死んだ仲間たちを思い出した。本当に突然思い出したあたり、これが走馬灯という奴だろうか?

 

 …つまり。短い期間だったけれど、走馬灯を見るに値する程度には、頑張れた。

 

――――なあ、わたしだって、やれる限りやったんだ。だから。

 

「お前も役目を全うし、栄えあるルビコンの空で死ね」

 

 再度、オルトゥスの戦闘データが途切れる。次の瞬間、配信は中断され、復帰することなくエラーを吐き続けるようになって。

 

 間違いなく、『こちら』が勝った。

 

「なら、あとは突っ込むだけかあ」

 

 目を閉じる。瞼が重たい。

 

 私の願いは、きっと叶っただろう。

 

 

 






 2周目、これにて完走であります!
 完走した感想ですが、「そら、みんな死ぬよね~!…辛い」です。

 3周目のミッション「失踪」後のラスティって何してたんだろうね…そういえばフロイトもいないね…などと考えております。
 まあみんな、肉体は確実に消えちゃったからね!何も解決してねえもんな!何なら人類種の敗北ともいえよう終わり方してますし。

 まあなんか上手く書きます。上手くないかもしれないですけど。

 それでは3周目でお会いしましょう!
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