最悪の会合
『……あぁ、あのクソ共め……』
アビドス自治区の砂漠地帯を暴言を吐き捨てながら歩む一人の男がいた。その男は最近キヴォトスの外からきた話題の「シャーレ」の先生とは一切の関係はない。男が歩んでいた道を見ればそこにはPMCの小隊が至る個所を抉られた状態で横たわっていた。見渡す限り何もないこの地で男による蹂躙劇が行われていた。
『今の私に…
男は彼らに目もくれず歩みを続ける。
『ならば……現段階の目的は、ここに埋まっているあの「船」を見つけ出すことだ』
『あぁ、そういえば、この地にはあの女がいたか。計画には一切の関係はないが暇つぶしに一目見ていくことにしよう』
男は目的地をアビドス高等学校に変更し、踵を返す。
ある者は男を「理解できぬ存在」と断言した。またあるモノは「勇者」と讃えた。ある者は「優しい人」と微笑んだ。ある者は「愚者」と蔑んだ。しかし今やそのいずれも当てはまらない。
今の男を見かけたものは皆口をそろえて「狂人」のようであったと語る。
「はあ……」
「イオリ、大丈夫ですか?」
「ショットガンで至近距離の連射をされた上に、がっつりお腹に銃床喰らって、あちこちに吹っ飛ばされて……アコちゃんに怒られるし委員長には睨まれるし……今日はついてない」
「……そうですね」
「あのさ……その可哀そうな犬でも見るような目、やめてくれないか?」
「お互い様ですよ、イオリ」
「……そうか」
かなり落ち込んだ表情をしながら帰っていく二人を筆頭に帰っていく風紀委員の生徒たちをみてほっと一息をつく先生。そんな彼はゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナに声をかけられ話をする中でとある情報を耳にし思考をめぐらせていた。皆各々のやるべきことすべきことに頭を使い注意が散漫になっていた。
「じゃあまた、せんs「ヒナ委員長!!!!」アコ?謹慎していなさいと言ったはずだけど?」
「イオリやチナツ、各小隊からの連絡が途絶えました!!」
「何かご存じではありませんか!!」
アコからの緊急通信によって場がどよめき始める中空崎ヒナと小鳥遊ホシノは武器をすぐさま構え警戒を始める。
『……ああ、すまんな。邪魔だった故に少し吹っ飛ばしてしまった』
「「「「「「「!!??」」」」」」」
その声が聞こえるまで誰一人としてその存在に気付けていなかった。ゲヘナ最高戦力である空崎ヒナも、アビドス最高戦力である小鳥遊ホシノでさえも気付くことができなかった。その男から放たれる重圧に緊張が走る。ここにいる生徒の誰もが言葉を発することができない状況の中先生が男に声をかける。
【あなたはいったい誰なのかな?】
『私がどこの誰なのかなどうでもいいことだろう。俺はアンタと交友を深めるつもりはないのだから』
【交友を深めることがなくても私はあなたのことを知っておかなければいけないんだ。なにせあなたは私の生徒に怪我を負わせたのだから】
『……今日初めて顔を合わせたのにか?』
【私は“先生”だからね】
緊迫した状況の中『シャーレの先生』と『謎の男』の二人の『大人』が会話を交わし続ける。先生は生徒に怪我を負わせた男の情報を得るために、生徒たちに落ち着く時間を与えるために。対する男は聞かれたことに一応答えるために。シャーレの先生は男の情報を聞き出すことは不可能であると判断し話題を男の目的は何なのかへと切り替える。
【あなたはここへ何をしに来たのかな。差し支えがなければ教えて欲しいな】
『……ふむ、“ここへ何をしに来たのか”か。別に大した目的などないが、あえて言うのであれば思い出したものを一目見ようと思っただけだ』
【……思い出したもの?】
『ああ、数年前にここに訪れたときに俺が一方的に認識しているだけで直接的な面識はないがな』
【生徒たちにこれ以上手出しさせない】
『話をよく聞け愚者め。言っただろう?一目見ていくだけだと』
【初めて会ったのに信用しろと?】
『……言うじゃないか』
男の発言に背筋を伸ばす空崎ヒナと対策委員会たち。そもそも人型の男性が珍しいキヴォトスで先生以外の男性を見たことなど全員無い。得体の知れない恐ろしさに身を震わせながらなんとか顔だけでもそらさないように踏ん張り続ける。男が口を開くまでのたった数秒が無限のように感じていた。
『私が一目見に来たのは“小鳥遊ホシノ”だ』
「うへぇ!?私!?」
「ホシノ先輩あいつの事知ってるの!?」
「セリカ、あいつは面識がないって言ってた」
【ホシノに?】
『ああ、そうだが?』
自身が指名されたことに驚くホシノと身内が指名されて驚く対策委員会を横目に空崎ヒナは先ほどアコに送った緊急通信コードが受理されたのを確認する。怪我を負った後輩たちはもう大丈夫であろうと判断し脳内にあの男の情報がないか思い出し続けるが、一向に出てこないことに冷や汗をかいてしまう。小鳥遊ホシノの方を見ると彼女もまた冷や汗をかいているのが見えた。
【どうしてホシノに?】
『現代のキヴォトス人にしては歴代最高位に匹敵するほどの神秘を有していたのでな、この数年でどれほど成長したのか気になったのだが……』
『正直言って失望した。ここまで腑抜けた輩になっているとはな』
「あいつホシノ先輩の事何にも知らないくせに!!」
「ん、むかつく」
「ちょ、ちょっとみんな落ち着いてよ~!?おじさん大丈夫だからさ~!!」
【ホシノのことを知らないあなたが彼女を貶す資格はない…!!】
『なに、俺の勝手な感想故にそう怒るなよ』
『……しかし、お前と共にいたあの女はどうした?ここから出て行くような奴には見えなかったのだが』
「ッ!?お前!!」
「ホシノ先輩落ち着いて!!どうしちゃったの!?」
『……ああ、そういうことか』
こうして男との対面は最悪な空気が流れはじめたのだった。