Eternal Providence ~死と眠りの神々の異世界珍道中~ 作:とんこつラーメン
そこは『虚無』なる『空間』。
『天上』も『天下』も無い。
そんな場所に『彼ら』は存在していた。
「おい…ヒュプノス」
声が響く。
男のような、女のような。
そんな声が。
「なんだタナトス」
別の声も聞こえる。
さっきの声とは別の声。
こちらも声だけでは性別の判別は出来ない。
すると突然、二つの淡い光の玉が出現した。
一つは黄金の輝きを放ち、もう一つは白銀の輝きを放つ。
二つの光玉は、まるで意志を持つかのように動き回る。
「ハーデス様から仕事の命令だ」
「そうか。今回はどんな仕事だ?」
「それは今から説明する。だが…」
「だが? どうした?」
「その前に『準備』だ」
「『準備』…と言う事は、つまり『アッチ系』の仕事と言う事か」
「そういう事だ。先に行っているぞ」
「了解した」
白銀の光が消え、黄金の光だけが残される。
「こうして呼び出されたという事は、また『ペア』での仕事…か。いい加減一人で仕事がしたいものだが…」
愚痴のようなものを呟いてから、黄金の光も消え去った。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
場面は打って変わって、まるで日本の都内にあるアパートの一室のような空間。
窓からは日が差し込み、お洒落なテーブルを初めとした家具が綺麗に並べられていて、パッと見は若い女性が一人暮らしをしているような部屋だった。
「お待たせ…って、何よここは?」
「ん~? 最近のオレのマイブーム。中々にシャレオツな
「シャレオツって…いつの言葉よ」
半ば呆れた顔をしながら入ってきたのは、金色の長髪と金色の瞳を持ち、その額には六芒星の紋章を持つ美女。何故か全裸。
そんな彼女を迎え入れた部屋の主は、真逆に銀色の長髪に銀色の瞳を持ち、その額には五芒星の紋章を持つ美女。こっちも何故か全裸。
髪の色と瞳の色、額の紋章以外は何から何まで同じパーツで構成されていて、誰から見ても立派な『双子』だった。
「つーか、毎回毎回思うけど、ヒュプノスって『その姿』の時っていっつも『女口調』になってるよなー。なんで?」
「なんでって言われても…癖みたいなもんよ。『仕事』の時は殆どが『コレ』を元にしたボディを使っているせいか、『この格好』になると自然と口調がこうなっちゃうの」
「肉体に精神が引っ張られつつあるってこと? それってヤバくない?」
「別に平気よ。私の自我はそんなに軟じゃないから。っていうか、そういうタナトスだって、その『姿』の時は随分と口調が穏和になってるじゃない」
「そう?」
「そうよ。『真の肉体』の時は、あんなにも乱暴丸出しだったのに」
「いやー…あの時は調子に乗ってしまうと言いますか…。エリシオンじゃ普通にオレ達の天下だし…」
「頂点に君臨してるのはハーデス様だけどね」
「それは言わないお約束」
ヘラヘラとしながらタナトスが立ち上がり、棚からインスタントコーヒーの入った瓶を取り出し、それを二人分のカップに入れてからポットでお湯を入れる。
いつの間にか、タナトスもヒュプノスも格好が全裸から真っ白なワンピースに変わっていた。
「ほい。タナトスお姉ちゃん特製コーヒー」
「なーにが『お姉ちゃん』か。私達に性別なんて無いでしょうが」
「まぁね。『男神』とか『女神』とかって言われて区別されてるけど、そんなのは人間達が勝手にイメージをして後付設定してるだけだしねー。実際には全ての神々が『男』でもあるし『女』でもある。ほい。角砂糖」
「ん…ありがと。でも、そのイメージの力は決して侮れないわ。実際、人間達の『信仰』のせいで変質してしまった神がいない訳じゃないし」
「だからこそ、オレたちは人間の事を馬鹿には出来ても、無下には出来ないんだよなー」
ズズズ…とコーヒーを飲んでいくタナトス。
因みに彼女はブラックで飲んでいた。
「って、そんなのはどうでもいいのよ。それよりも『仕事』の話。わざわざ『こんな場所』まで呼び出したって事は、今度の『仕事』は重要なんでしょう?」
「重要ってよりは…大変?」
「大変って…何よその不穏な言葉は」
その一言で猛烈に嫌な予感がしたヒュプノス。
だが、どれだけ嫌な予感がしても仕事の拒否は出来ない。
「具体的に言いなさいよね。具体的に」
「りょーかい」
コーヒーを一気に飲み干すと、タナトスは目の前の空間に指を翳す。
すると突然、指の先に投影型ディスプレイのような物が出現した。
「つまり、今回のは長期に渡る仕事が立て続けにあるってこと」
「長期って…どれぐらい?」
「それは仕事にもよるかな。最長で約三年ぐらい。短くても一年は掛かるんじゃないかな」
「年単位の仕事を連続って…」
「別にいいじゃん。オレ達からしたら、一年二年なんて一瞬に等しいんだしさ」
「そりゃ…神話の時代からに比べたらそうかもだけど…」
神の常識と人間の常識は全く違う。
常識が違うと言う事は、感性も違うと言う事。
人間にとっては大変なことでも、神にとっては取るに足らない出来事だったりするのは往々にしてよくあることだ。
「いつも通り、基本的には『人形』を使うんでしょ?」
「うん。場合によっては、そこら辺にある『死体』や手持ちの『素体』を好きに使っても良いみたい。今回、全部の仕事で共通して、その辺の制限は全く無い」
「ハーデス様からのお墨付きってこと? いつもは小うるさいぐらいに厳しいのに…」
「逆を言うと、オレたちの『正体』さえバレなければ、手段を問わずにやれるって事だわな」
「それでも限度ぐらいはあるでしょうが。何事も『やり過ぎ』は禁物なのよ。特にアンタの場合は」
「えー? オレってば何がやったかなー?」
目を細めながらとぼけるように煙草を吹かす。
器用に煙の輪っかを作っているが、それを自分の息で破壊した。
「色々とやらかしまくってるでしょーが! 町一つを被爆させたり! やり過ぎたから続編に続いたとか抜かしたり! 死にかけの女の子とペットの猫を融合させたり! 同じ『太郎』って名前ってだけの理由で浦島太郎に桃太郎の真似事をさせようとしたり! 言い出したらキリが無いわよ!!」
「うーわー。今までの仕事の事を全て覚えてるんだー。フツーに引くー」
「覚えてるんだー…じゃなくて、忘れられないのよ! それに関してはアンタも同じでしょうが!! 何を他人事みたいに言ってるのよ!!」
「言われちった。テヘペロ♡」
「誰に対してのアピールよ」
「画面の向こうの読者?」
「第一話から平気で第四の壁をぶち抜こうとするな」
この一連の流れでお分かりいただけたかと思うが、基本的にタナトスがボケで、ヒュプノスがツッコみ役である。
因みに、タナトスが
その威厳は微塵も無いが。
「とまぁ…茶番はこれぐらいにして」
「アンタが茶番にしてるんでしょうが」
「兎に角、今回はマジで大変な仕事ではある。暫くは『エリシオン』に帰って来れないかもしれない」
「もうそれ殆ど長期出張みたいなもんじゃないの…はぁ…」
「長期出張…なんだかちょっといい響き」
「そんな事を言えるのはアンタだけよ」
長期出張と聞いてテンションが上がるのは、ある意味『神』ならではかも知れない。
少なくとも、人間の身で聞けばまず間違いなくげんなりするだろう。
「色んな『場所』に行くことになるから、マジで準備は怠らないようにしないとな~」
「『場所』…ねぇ。『世界』の間違いじゃないの?」
「あー。折角、オレがワザと濁して言ったのにー」
「意味合い的には同じなんだから濁す意味が無いでしょうが。っていうか、今回もまた仕事の情報はタナトスしか知らされてないワケ?」
「それが『規則』だからな」
「どーしてなのかしらね…。考えれば考えるほどに非効率としか思えないんだけど…」
「双子であるオレ達が最初から同じ情報を所持していたら、同じ結論の出る確率が高くなるからじゃないか? 知らないけど」
「ふーん…そんなもんかしらね」
「そんなもんさ」
未だに疑問が拭いきれないヒュプノスと、簡単に割り切るタナトス。
双子と言っても、中身は驚くほどに似ていない。
「…で? 最初はどの世界でどんな仕事をするの?」
「仕事の内容は現地に行ってから教えるよ。その方が説明しやすいし」
「じゃあせめて、どこに行くのかぐらいは教えてよ」
「いいよー。我等が双子神の記念すべき長期出張最初の仕事場所はー…」
「記念言うな」
「『インフィニット・ストラトス』の世界さ」