Eternal Providence ~死と眠りの神々の異世界珍道中~ 作:とんこつラーメン
この世界の歴史の闇の中に潜んでいた『亡霊』を無事に葬ることに成功したタナトスとヒュプノス。
人知れず世界…と言うよりは、IS学園の安寧を更に盤石にした彼女達は、何事も無かったかのように今日も普通に教室にて女子生徒達の喧騒を眺めていた。
「おやおや。今日の皆の話題の中心は、どうやらISスーツみたいだねぇ~」
「専用機は流石に不可能だけど、自分用のISスーツは普通に注文できるものね。それとは別に学園指定の物もあるけど」
「あー…あの、モロにスク水なアレねー」
ISを纏う際に体に着用する専用のスーツ。
防弾機能があるだけでなく、ISの動きをよりダイレクトにする効果もある。
だが、見た目は殆ど一昔前まで様々な学校で使用されていたスクール水着そのものな事が当初から話題を呼んでいた。
どれだけ色や装飾を施しても、根本的なデザインだけは全く変化しないので、結局は無駄にカラフルなスク水になってしまうのだ。
勿論、学園指定のISスーツならば、ちゃんとタナトスとヒュプノスも所有している。
ヤルダバオトとビレフォールを使用する際は、そのISスーツを使っていた。
「どうせなら、オレ達も何か特注のISスーツでも注文とかするー?」
「別にいいわよ。興味ないし。普通に学園指定のでいいでしょ?」
神である云々関係無しに、ヒュプノスはお洒落には余り興味が無い。
そんな事をしている暇があるなら少しでも仕事をする…という、神らしからぬ社畜精神の持ち主なのだ。
逆にタナトスは、仕事をするにしても楽しまなくちゃ損という考えなので、お洒落にも決して気を抜かない。
双子なのに、本当に色んな部分で真逆な二人なのだ。
「そんなの勿体無いですわ!」
「「へ?」」
そこへ、いきなり割り込んでくるセシリア。
彼女にしては珍しく拳を握りしめている。
「ヒュプノスさんはとても素晴らしいスタイルの持ち主なのに、それを活かそうとしないなんて世界の損失ですわ!」
「なによそれ…」
真剣な顔で力説してくるセシリアにドン引きしているヒュプノス。
その隣では、双子の姉がセシリアの意見に賛同するかのように何度も頷いていた。
「そーだよねー。そーだよねー。勿体無いよねー。分かってるじゃーん」
「えぇ! 勿論ですとも!」
「アンタ達…いつの間に、そんなにも仲良くなってんのよ…」
知らない間に姉とクラスメイトが仲良くなっていた件。
友情を否定したり馬鹿にしたりするわけではないが、いきなり急接近し過ぎな二人に少しだけ引く。
「えー? ヒュプノスだって、鈴ちゃんと仲良いじゃーん」
「それは…なんつーか…妙に気が合うって言うか…」
「「ふーん…?」」
「何よ。その目は」
似た者同士なのか、本人達も知らぬ間に会話が弾んでしまうヒュプノスと鈴。
ヒュプノスが姉に対する愚痴を言ったかと思えば、鈴はそれに共感しつつも自分の体験談を話して二人で微笑を浮かべる。
そして、その光景を傍から見ている女子達は百合の花に興奮しつつ夏コミへ向けての薄い本のプロットを脳内で作成していく。
「あ。山田先生が入ってきた」
「何か話してるねー」
「どうやら、ISスーツの説明みたいですわね」
まだ授業では微妙に習わない部分を懇切丁寧に説明してくれているが、周囲の女子達はそんな山田先生をからかって遊んでいる。
完全にクラスのマスコット扱いだ。
「そういや、今日がISスーツの申し込み開始日だったわね。だからISスーツの話題で盛り上がってたのか」
「女の子だからねー。せめてISスーツぐらいはー…的な考えがあるんだろうねー」
「そう言えば、タナトスさんはどうなさるおつもりなんですの?」
「ISスーツ? んー…どうしようかなー」
いざとなれば、自分好みのISスーツを一から作ればいいが、それではいつもの通りになってしまう。
ここは企業が作ったスーツを使ってみるのも悪くは無いかもしれない。
タナトスの考えはISスーツを注文する方に傾きかけていた。
「なんて言ってたら、今度は織斑先生が入ってきたねー」
「朝のHRが始まるってことでしょ。アンタもそろそろ自分の席に戻りなさいな」
「分かりましたわ。では、また後で」
また後も何も、同じクラスなんだからいつでも会えるだろうが。
そんな風にツッコみたかったが、流石にそれは野暮な気がしたので、そのまま飲み込んだヒュプノスだった。
「では、これより朝のHRを始める」
千冬の号令により全員が屹立して挨拶をし、席に座る。
そこから今日の予定についての説明がなされた。
(そう言えば、今日って第一期原作ヒロイン最後の二人が転入してくる日じゃない?)
(そうだね。さてはて…原作に沿ってちゃんと二人とも来るのか。それとも、織斑一夏がIS学園にいない影響が明確な形として現れるのか)
(ある意味、ここが最大の分かれ目ね。どうなるのかしら)
(神のみぞ知るってよく言うけど、実際には神だってよくは知らないんだよね)
(人間達が勝手に『神=万能』って決めつけてるだけだもんね。実際には、私達神々だって人間達と同じように成功と失敗を繰り返しながら成長しているのよ)
(そーゆーこと。あ、話が終わるっポイ。次かな)
(急にドキドキしてきたわね…)
(実はオレも)
ホームルームのバトンが千冬から真耶に渡され、遂にその瞬間がやって来た。
「えーっとですね…今日は何と皆さんに転入生を紹介します! では、どうぞ!」
真耶の言葉を聞き、双子は即座に反応する。
(…聞いた?)
(聞いた、聞いた。この耳でバッチリ聞いた)
(山田先生…今、確かに『転入生を紹介します』って言ったわよね)
(うん。言ったね)
(そこに『二人の』という言葉は付いてなかった。ってことはつまり…)
(転入生は一人だけってことになる。そうなると、必然的にやって来る可能性が高いのは…)
(『彼女』の方ね)
教室の扉が開かれ、そこから入って来たのは…。
「失礼する」
銀髪眼帯の、制服を軍服風に改造した少女だった。
((やっぱりか…))
予想通りの結果に、自然と安堵の吐息が漏れる。
それとは別に気になることもあるが、今は目の前の事に集中することに。
「そ…それじゃあ、自己紹介をお願いできますか?」
「了解した」
意外過ぎる反応に双子は思わず目を見開く。
(あれ? あの子って、もっとこう…唯我独尊で傲岸不遜な感じじゃなかったっけ? 妙に素直になってない?)
(だね…。これもまた、ある種の『バタフライ・エフェクト』なのかもしれないね)
(登場人物の性格にまで影響を与えてるってこと? そんなまさか…)
(とは一概には言い切れないんじゃない? オレ達も実際に『その一例』には遭遇してるんだしさ)
(…それもそうね)
彼女達と親交が深いセシリア・オルコットと凰鈴音もまた、原作よりは落ち着きがある性格になっていた。
セシリアは他のクラスメイトとも仲良くしているし、鈴は思慮深くリーダー気質な部分が垣間見られた。
もしかしたら、これこそが彼女達の本来の姿なのかもしれない。
「ドイツから来た『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だ。一応、代表候補生も務めさせて貰っている」
「「「「おぉー…」」」」
セシリアに引き続き、二人目の代表候補生がクラスに来たとなれば、必然的に声も出てしまう。
(パッと見た感じは、特に問題がありそうな子には見えないけど…)
(油断は禁物だよ。今はまだ…って可能性もあるんだし)
(分かってるわよ。アンタじゃないんだから、そんな事で油断なんてしないッつーの)
(ひどー。オレってば、そんなに油断をするようなタイプに見えるっけー?)
(見えるから言ってんのよ。実際、アホみたいに油断と慢心をしたせいで、あの時…)
(わー! わー! それだけはお願いだから言わないでー! あの時の事はオレの中じゃ完全にトラウマ&黒歴史になってるんだからさー!)
(言われたくなかったら、もう二度と同じような事はしないことね)
(はーい…お姉ちゃん…反省しまーす…)
(よろしい)
二人が念話で話をしている間に、ラウラは開いた席に座るように促され、そこへと向かっていた。
「む?」
「「ん?」」
その途中、何故かタナトスと目が合い、その近くにいたヒュプノスとも目が合った。
「お前は…」
「え?」
いきなり意味深な事を言われて本気で困惑する。
(な…なに? オレ、何かした?)
(さぁ? 単に同じ銀髪って事で気になっただけじゃない? 知らないけど)
(でも、ヒュプノスとも目が合ってたよね?)
(それは単純に席が近くだったからってだけでしょ?)
(んー…そうなのかなー…?)
タナトスの中に妙な胸騒ぎが走る。
これは嘗て、鈴やセシリアと知り合った時にも感じたものだ。
(…まさか…ね)
そんな立て続けに同じような事が起きるとは流石に考えられない。
ちょっと神経質になり過ぎていると思い頭を振った。
「では、本日の一時間目はISの各種部品や部位についての授業だ。ちゃんと参考書を出しておけよ。では、これで朝のHRを終了する」
起立。気を付け。礼。
この三つを終え、教室内は一時間目の授業までの間の僅かな空き時間となり、担任と副担任は一旦、教室を出た。
(…あれ? 今日の一時間目って、二組との合同の実習じゃなかったっけ?)
(原作じゃそうだね。でも、ここには本来いる筈の人間が二人もいないから…)
(授業の内容すらも変化したってこと? んなアホな)
(そうとも言えないよ。どんなに細かく些細なことでも、これが『影響』であることには違いないから)
(…それもそっか)
授業の内容が変わったからと言って、致命的な事態が発生する訳じゃない。
少なくとも、全体的に見ればどうでもいい事だった。
(それよりも気になるのは、転入してこなかった『シャルロット・デュノア』の事よ。やっぱり、織斑一夏がいない以上、彼女が来日する理由は無い…ってことなのかしら)
(多分ね。ラウラ・ボーデヴィッヒの場合は『織斑千冬』という理由が存在しているから、転入してきても別に違和感は無い)
(でも、それだと『全ヒロインを救って生存させる』って目的は難しくなるんじゃない? 流石に今からフランスに行くのは現実的じゃないわよ?)
(まぁね。彼女に関しては後で…夜にでも調べてみようよ。まずは、この世界線での彼女がどんな状況なのかを知らない事には何も始まらないし)
(確かにね。ラウラ・ボーデヴィッヒの方はどうする?)
(一先ずは様子見で良いと思う。流石に転入初日から暴れるような事はしないと思うし)
(それもそうね。んじゃ、今はまず一時間目の授業の準備でもしますか)
(だねー。因みに、今日はオレ達の列が当てられるかもだから、心の準備はしておいた方が良いよー)
(私を、そこらの女子高生と一緒にするなッつーの!)
気になることは多々あるものの、取り敢えずはいつも通りの日常を送る双子神であった。