Eternal Providence ~死と眠りの神々の異世界珍道中~ 作:とんこつラーメン
ドイツの代表候補生にして原作ヒロインの一人でもある『ラウラ・ボーデヴィッヒ』が転入して来た日の夜。
タナトスとヒュプノスは寮にある自分の部屋で、気になっていたフランスの内情を調査していた。
「思ったよりも今日は静かな一日だったねー」
「そうね。原作じゃ初日から問題行動のオンパレードの問題児だったのに、凄く大人しかったわよね。ちゃんと真面目に授業も聞いてたし」
「現役の軍人だから、近寄りがたい雰囲気は出してたけど、それも時間と共に緩和されていきそうだしねー」
少なくとも、この世界線のラウラに悪印象は全く無い。
精々が、稀に千冬の事を『先生』ではなく『教官』と呼び間違えそうになるぐらいだ。
それぐらいなら普通に軽い笑い話で済まされる。
「それよりも、今は現状最大の不確定要素であるシャルロット・デュノアに着いて調べるわよ」
「はーい」
それから室内は沈黙が流れる。
珍しくタナトスも作業に集中しているようで、いつものような余計な雑談が全く無い。
「お? これは…」
「何か分かったのタナトス?」
「うん。いやはや…なんとも予想外と言いますか…」
大半の事じゃ驚かないタナトスが、目を丸くして驚愕している。
その様子が気になって、ヒュプノスも作業を中断してタナトスの近くまで行った。
「ほら。これ見てよ」
「んー? なになに…?」
タナトスが見せてきた投影型ディスプレイに表示された映像と文章を一字一句漏らさずに呼んで確かめていく。
その途中からヒュプノスも同じように目を丸くして驚き、その表情のまま最後まで読み終えた。
「何よこれ…フランスでクーデター紛いの事が発生しちゃってるじゃない…!」
「しかも、相手はこの世界で幅を利かせている例の『女性権利団体』の皆さん。どうやら、フランスじゃ他の国以上に好き勝手やってたみたいだね。それで遂に普通の感性の人達の堪忍袋の緒が切れて…」
「大爆発した…ってわけね」
権利団体自体は昔から存在したらしいが、ISが台頭してから一気に勢力を拡大し、今では国や政治などの裏で暗躍できる程の力を持つまでに至り、それと同時に世間に潜在的に隠れていた『女尊男卑』思想の者達までもが好き勝手し出すようになり、結果として世間は悪い意味でカオスな状態となっていた。
無論、今ヒュプノス達がいる日本でも権利団体たちの横暴染みた行動が堂々と目撃されてはいるが、それと同じぐらいに常識的な感性を持つ者も多いので、辛うじてギリギリの所で最悪の事態にはならずに済んでいる。
「でも、重要なのはそこじゃなくて…ここ見て」
「ここ…? あっ!?」
タナトスが指さした一枚の写真。
そこには、権利団体のIS操縦者を一蹴している、ISに搭乗したシャルロット・デュノアの姿が映し出されていた。
「これ…どういうこと…?」
「どうやら、このクーデターの中心になっているのはデュノア社の社長にして、あのシャルロット・デュノアの実父でもある『アルベール・デュノア』みたいだね」
「それって…シャルロットに男装をさせてから日本に送り込んだって言う…?」
「原作じゃね。でも、この世界線じゃ全く違うみたい」
記事を読んでいくと、驚くべき事実が書かれてあり、思わずヒュプノスの口をあんぐりとさせた。
「う…嘘でしょ…?」
「どうやら、デュノア社は前々から権利団体から酷い脅しを受けていたみたいだけど、社長はそれを悉く拒否していた。それを知った権利団体は子供みたいな嫌がらせをし続け、その結果…」
「社長の逆鱗に触れた…ってことね」
「どうやら、娘のシャルロットや、妻すらも人質にしようとしたみたいだね」
「そりゃ怒るわ…。って、あの継母とシャルロットって仲が悪かったんじゃ?」
「こっちじゃ普通に仲がいいみたいだよ? それどころか、お互いがお互いを庇い合ってたみたい」
「血の繋がりだけが家族の絆じゃないって事の典型的な例ね。自分の子供を平気な顔で虐待する馬鹿な連中に見せてやりたいわ」
「意味が無いとは思うけどねー」
今までに色んな場所で色んな仕事をしてきた双子だから知っている。
世の中には、どうしようもない程の下種で外道が実在していると言う事を。
「つまり、シャルロット・デュノアは日本に来ないんじゃなくて、来たくても来れないってことなのね」
「そーゆーことになるねー。前にオレがしたシミュレーションとは全く違う結果になったなー」
「所詮、シミュレーションはシミュレーションだったってことでしょ?」
「だねー。にしても…」
頬杖を付きながら、傍に置いてあるコーヒーカップを持ち上げつつタナトスがポツリと呟いた。
「『織斑一夏がIS学園に入学しない』って事象が発生しないだけで、ここまで状況が劇的に変化するとは思わなかったよ」
「それは私も同感。なんつーかさ…あの『
「早めにどうにかしておいて大正解だったね。じゃないと、あいつのやった事の後処理に追われて大変なことになってたかも」
「もし本当にそうなってたら、私マジであの女を『永遠の眠り』につかせてたわ」
「ヒュプノスが言うと洒落にならないからなー。しかも、本当に眠らせるし」
タナトスとは違い、ヒュプノスは無用な殺生を極端に嫌う。
『死は全てを破壊するけど、眠りは何も破壊しない』を座右の銘にしている程。
「…シャルロット・デュノアに関しては、私達は何もしなくても大丈夫そうね」
「だね。これを見る限りじゃ、クーデター派が圧倒的優勢みたいだし、フランスから女性権利団体が消滅するのも時間の問題でしょ。家族同士の関係に関しては、それこそ順風満帆っぽいし。このまま放置しておいても勝手に幸せになるよ」
大きな手間の一つが難なく片付いたのは二人からしても非常に大きい。
その分の手間を別の所に注げるから。
「これで目下の問題は、あのラウラ・ボーデヴィッヒだけになったんだけど…」
「どしたのヒュプノス?」
「いやね。これを調べながら少し思ったのよ。例のVTシステムの件について」
「なになにー? お姉ちゃんに話してみー?」
ニコニコしながらヒュプノスの背中から抱き着くタナトス。
パッと見は仲睦まじい姉妹の一ページに見えるが、良く見たらヒュプノスの眉間には物凄く深い皺が出来ていた。
「あのさ…あれって、深夜のあの子が寝ている間とかに、いつもの人形の姿になった状態でこっそりと部屋に忍び込んで、その隙にシステムだけを排除するってのはダメなの?」
「…………あ」
ヒュプノスに指摘されて初めて思い付く。
ここまで原作が破綻しまくっているのに、どうしてVTシステムを発動させてからの救出に拘っていたのだろうと。
「割とマジでその考えに至らなかったわー…。もしかして、オレもこの世界に浸食されてる?」
「もしそうだったとしたら、ハーデス様に『
「それもそっか。じゃ、これは単純にオレが…」
「タナトスが脳筋だったってことでしょ」
「うわーん! 自分を慰めようと、頑張って別の言い方を模索してたのにぃ~!」
「どんな言い方をしても結果は変わらないわよ。ってことで早速今夜、あの子の部屋に侵入するわよ。いいわね?」
「はーい。今から彼女の部屋の場所を探しておかないとねー」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
深夜。
久し振りにいつもの仕事着ならぬ仕事姿である人形モードになってから、何事も無くラウラの部屋に侵入することに成功した。
「この姿だと動くのが楽でいいねー」
「そうね。地に足の着いた生活ってのも悪くは無いけど、偶にはこうして『コッチの姿』になっておかないと感覚を忘れそうだわ」
フワフワと浮かびながらラウラの寝ているベッドに真っ直ぐ向かって行く。
流石にいきなりの転入と言う事もあってか、彼女のルームメイトはいないようで、限定的ではあるが一人部屋となっていた。
「一人なのは都合が良いわね」
「ま、それも時間の問題だろうけどね。もう少ししたら部屋割りを再編して、彼女もルームメイトを持つようになるよ。勿論、オレ達には全く影響がない様にしてあるけどね」
「そうじゃないと困るわよ。って、いたわ」
シーツを首まで被ってから静かに眠っている。
こうして見ていると、どこにでもる普通の子供にしか見えない。
「…色々と思う所はあるけど、まずは仕事を済ませましょう」
「賛成。シーツ越しでも大丈夫……だね。よし、始めますか」
いつものように投影型ディスプレイを表示させ作業を始める。
普通なら、かなり目立ちそうではあるが、人形状態となっている彼女達は普通の人間には決して視認できず、やっている事も全く把握出来ないので問題は無い。
「早くもはっけーん。うっわ…なにこれ。すっごいザルな付け方してるし」
「ホントだわ。もう少し巧妙に隠そうとか思わないのかしらね。仕事の雑さが目に見えるようだわ」
「コレを付けた連中からすれば、この子は所詮、単なる捨て駒だからね。どんな風に着けて、どんな目に遭っても何も問題は無いのさ。仮に生き延びても、全ての関与を否定した挙句『全てはこいつがやりました』的な事を言えば本気でどうにかなると思ってるんじゃない?」
「清々しいぐらいに下種な考えですこと。もしヒロインズの救済が仕事じゃなかったら、迷わずドイツに行って皆殺しにしてるわよ」
「うわー。可愛い妹が怖いこと言ってるー」
「それを毎日のように迅速実行してる奴にだけは言われたくないわよ」
「だーってオレは死を司る神だもーん」
「はいはい」
適当に話ながらも作業の手だけは止めない。
数分後、ヒュプノスが最後の一押しをすると、熟睡しているラウラの足元付近のシーツの裏側が僅かに光って消えた。
「はい。お仕事完了ーっと。これでVTシステムは完全に消滅したね」
「えぇ。システムだけをピンポイントで取り除いて、そのまま虚数空間へとポイしたからね。これでももう大丈夫でしょ。私達も早く戻りましょ」
「明日も早いからねー。これでまたIS学園が静かになるね」
そうして、双子神は真っ直ぐと自分の部屋に戻り、再び人間姿に戻ってから就寝した。
因みに、当のラウラ本人は自分のISに何が施され、その後に何をされたのかを全く知らないまま学園生活を過ごしていった。