Eternal Providence ~死と眠りの神々の異世界珍道中~ 作:とんこつラーメン
CHAPTER Ⅰ 『幸せ』とは
IS学園と藍越学園の合同受験会場。
大勢の学生たちが次々と会場に入って行く様子が伺える。
そんな希望に満ちた若者たちの姿を双子神はこっそりと物陰で眺めていた。
仕事用の『人形』の姿で。
「ねぇちょっとタナトス」
「ん~? どったの~?」
「どうしてISの世界で仕事をするにあたって、こんな場所に来る必要があるのよ? IS学園に直接行けばいいじゃないの」
「ちっちっちっ~。分かってないなぁ~ヒュプノスは」
「あ?」
タナトスの『情報持ってます』マウントにブチ切れ、ヒュプノスは怒りに任せてタナトスの頭に愛用のカッターナイフをぶっ刺した。
「うわ~ん! まだ本格的に仕事も始めてないのに、早くもお気に入りの身体にイロをつけられたぁ~! オレはお姉ちゃんなのに~!」
「アンタがムカつく事を言うからでしょうが…!」
昔はもっと沸点が高かったのだが、何度も何度も何度も何度もタナトスに振り回されまくった結果、今ではタナトスでさえも本気でドン引きするレベルで沸点が低くなってしまった。
ある意味ではタナトスの自業自得なのだが。
「良いから、とっとと説明しなさいよ。今回、私達はこの『ISの世界』で一体何をすればいいのよ」
「分かったよ~。今からちゃんと説明をしてあげ…ん?」
「どうしたのよ」
「あそこ。この物語の『主人公君』が歩いて来てる」
タナトスが頭に突き刺さったカッターを使って器用に指すと、そこには中学の制服を着た一人の少年が歩いて来ていた。
「あれが『織斑一夏』ね」
「そ。『正史』における最重要人物の一人だね」
一夏は真っ直ぐに受験会場に辿り着き、そのまま中へと入って行く。
「確か、ここで彼は間違えてIS学園の受験会場に迷い込んでしまって、そこで置いてあるISに触れて動かしてしまった事で、IS学園に行くことになるのよね」
「よく分かってるじゃ~ん。エライエライ」
「そりゃね…あんだけ原作単行本を読まされたらね…」
今回の仕事に行くに当たって、実はヒュプノスは資料と称してタナトスからISの単行本を熟読させられていて、そのお蔭で原作知識だけは持ってしまっていた。
「そう…『本来』ならそうなるのが正しい。けど…」
「けど? なんなのよ?」
「彼の様子をよーく見てご覧よ」
「ん~?」
タナトスに言われるがままに会場に入った一夏の事を見てみる。
すると、彼は何やら案内板の所で数秒間ほど停止し、その後に『正史』の通りに間違えてIS学園の受験会場に迷い込もうとした…ところで足が止まった。
「急に立ち止まって…どうしたのかしら…?」
何かをジッと見ている一夏。
それを見てハッとなり、すぐに踵を返して本来受ける予定である藍越学園の受験会場へと戻って行った。
「あ…あれ? 彼…IS学園の会場に行かなかったわよ!? どうなってるのよッ!?」
「別に大したことじゃないよ。単に、あそこの道に『立ち入り禁止』って書かれた立札が置かれてあっただけだから」
「そ…そんなの原作にあったかしら…」
「無いよ?」
「じゃあ何であるのよッ!?」
「オレがさっき置いて来たから」
「アンタの仕業かい!!」
タナトスの頭に突き刺さっていたカッターを抜いてから、そのまま今度は首をぶった切る。
人形なのでダメージは皆無だが、タナトス的にはお気に入りの人形が早くもスクラップ同然になってしまったので精神的ダメージは大きかった。
「うぅ…また首が取れちゃった…」
「なんつーことをしてくれてんのよ! 原作主人公が原作の舞台に行かなかったら物語自体が始まらないじゃないのよ!」
「いやいや…何言ってんだよヒュプノス」
急に冷静になって妹を諭すタナトス。
ちゃんと首の部分は糸で縫合してある。
「別に彼がIS学園に行かなくてもIS学園は普通に今年度も始まるよ?」
「それはそうだけど…そうじゃなくて!」
「そもそも」
指をピンと立ててヒュプノスを黙らせる。
「織斑一夏的には、IS学園に行くこと自体が完全なイレギュラーなんだよ? そこの所、ちゃんと分かってる?」
「そりゃまぁ…でも!」
彼女達の役割はあくまで『手助け』である。
『手助け』をする対象がいなくては仕事のしようがない。
…と、考えていたのだが、それはタナトスの言葉ですぐに論破された。
「よーく考えてみてよ。確かに、IS学園に行けば、彼にはハーレム学園ラブコメが待っている。けどそれは、彼の本来求めた『平穏』と『将来』を犠牲にして得られる環境だ。ぶっちゃけて言うと、単なる『結果論』にしか過ぎない」
「それは…そうかもだけど…」
「しかも、ISを動かしてしまえば、その時点から彼の人生は常に『誰かに狙われ続ける』と言うバッドステータスが付与されてしまう。それで彼は本当に『幸せ』になれるのかな?」
「うぅぅ…」
いつもはふざけているタナトスが稀に言う正論。
ヒュプノスも姉の言っている事が間違っていないと分かっているから、何かを言いたくても黙るしかなくなる。
「逆に、彼の本来の希望通りに藍越学園に入学した場合はどうなるか。ヒロイン達とのハーレムラブコメが無くなる代わりに、今まで通りのどこにでもいるごく普通の一般人の少年としての生活が待っている。誰にも狙われる事も無い。誰に迷惑を掛ける事も無い平穏な人生がね」
右手と左手で人差し指を立てて、それをヒュプノスに見せつけながらタナトスは決定的な質問をした。
「ではここで質問だ。IS学園に入学して世界の特異点となって生きるか、それとも藍越学園に入学して今まで通りの日常を謳歌するか。果たしてどっちが彼にとっての『真の幸せ』だろうね?」
「そ…んなの…」
選ぶまでも無い。
誰が悲しくて自ら狙われるような人生を選ぶだろうか。
そんなのは自己主張が激しくて後先の事を全く考えていないハレーム願望しかない馬鹿なオリ主だけだ。
「そんなの…決まってるじゃない!」
「でしょ? じゃあ、オレが文句を言われる謂れは無いと思わない?」
「あーあー! 私が悪かったわよ! ごめんなさいねー!」
「よろしい。オレはお姉ちゃんなので寛大な心で可愛い妹ちゃんを許してあげようじゃないか」
「…覚えときなさいよ」
「……ハイ」
ちょっとだけやり過ぎたかなと反省。
後でターンXみたいに全身バラバラにされるぐらいの覚悟はしておいた方が良いかもしれない。
「でも、それじゃあどうするのよ? あたし達の仕事は織斑一夏の事をサポートすることなんじゃないの?」
「全然違うけど? つーか、オレってばそんな事を一言でも言ったっけか?」
「言ってないから聞いてるんでしょうが!」
「そーでした」
これは普通にタナトスが悪かった。反省。
「ここからちゃんと説明するけど…その前に一つだけ補足」
「何よ」
「実はー…オレの方で『もしも織斑一夏がIS学園に行かなかった場合、原作のイベントはどうなるのか』ってのを軽くシミュレーションしてみたんだよ」
「ふーん…どうだったの?」
「結論から言うと…ヒロイン全滅してます」
「マジでっ!?」
「マジで。いやー…主人公の偉大さってのがよーく分かったよ」
腕を組みながらウンウンと感心するタナトス。
一方のヒュプノスは、どんな事が起きたらヒロイン全滅なんて大惨事になるのかドキドキしていた。
「まずー…無人機介入事件の時点で篠ノ之箒と凰鈴音が死ぬ」
「最初から二人もッ!?」
「そんでもって、VTS暴走事件で憑代となったラウラ・ボーデヴィッヒが死ぬ」
「シャルロット・デュノアは? 巻き込まれたの?」
「うんにゃ? 織斑一夏がいない時点で日本に来る理由が無いから、そのままフランスで自殺してる」
「余計に質が悪いじゃないのよ!!」
「そして、福音暴走事件でセシリア・オルコットと更識簪の二人が死ぬ」
「ちょっと待って。どうしてそこで更識簪が出てくるのよ」
「だって、彼がいないって事は専用機の開発も中止されないし」
「あ…そっか」
「でも、たった二人じゃ暴走した軍用機の相手は分が悪すぎたと言いますか…」
「でしょうね。因みにだけど、姉の更識楯無は?」
「その後に起きた亡国機業との戦闘で普通に死ぬ」
「冗談でしょ…」
なんて救いが無いシナリオ。
たった一人いないだけで、ここまで激変してしまうのか。
「どーすんのよもう…これじゃあどうしようも…」
「そ。このままなら本気でヤバい。だから……」
「私達でなんとか…って、まさか…!?」
「その『まさか』が今回のオレ達の仕事」
嫌な予感大的中。
「『織斑一夏に平穏無事な人生を送らせつつ、その上でIS学園で起こり得るトラブルからヒロイン全員を救って生存させる』…それが今回のオレ達のお仕事なのです」
「…………」
ヒュプノス。遂にフリーズ。
動かなくなってしまった。
「それ…本気で大丈夫なの…? 原作改変とか、そんなレベルじゃ済まされないと思うんだけど…」
「そーだね。確かにこれが『正史』だったら大問題だ」
「その言い方だと、まるでこの『世界』が『正史』じゃないみたいじゃない」
「みたい…じゃなくて、この『世界』は『正史』じゃないよ」
「じゃあ、ここはどこなのよ」
「並行世界…別の言い方をすれば『二次創作の世界』って奴かな」
「二次創作って…またメタな発言を…」
「だって事実なんだもーん。オレは何も間違った事を言ってないもーん」
「もーんって…」
子供じみた言動をする姉に頭を抱える妹。
人形だから痛みなんて無い筈なのに、何故か頭が痛い。
「そもそも、ISの二次創作なんてマジで腐るほどあるんだから、これぐらいの事はまだ可愛い方だって」
「可愛い方って…」
まるで他の二次創作の世界を見て来たかのような台詞。
タナトスの事だから本当にプライベートで見に行っている可能性が高い。
「でも…ちょっとだけ納得したわ。織斑一夏をIS学園から遠ざけたのは、彼をIS関連のトラブルに関わらせない為なのね」
「そーゆーこと。あの子がIS学園にいるのといないとじゃ仕事の達成難易度が天と地ほどの差があるからね」
「彼を守りながら他のヒロインを守りつつ、事件の解決まで全部私達が影で…ってのは確かに大変よね…」
想像しただけで過労死しそうになる。
本当は死なないんだけど。
「さて…と。お仕事の内容も分かった所で、オレたちも準備に取り掛かろうか」
「準備って?」
「こーゆーこと!」
タナトスが徐にその場でクルリと一回転すると、そこにはどこぞの中学の制服を着て鞄を持つ銀髪の少女が立っていた。
「こんな時の為の用意しておいた10代半ばぐらいのボディ。これでオレたちもIS学園を受験しまーす」
「はぁ? なんでそんな面倒な過程を踏まないといけないのよ? 別に今からIS学園入学式の時間帯に直行すればいいじゃない」
「ズルはダメだよヒュプノス」
「ズルって…どう考えたって受験をする方が非効率でしょうが…」
「気持ちは分かるけど、この世界には無駄に勘が鋭い人間なんかもいるからね。念には念を入れておきたいのさ」
「無駄に勘がって…あー…そゆこと」
なんとなくだがタナトスの言いたい事が理解出来た。
確かに、今回の場合は念には念を入れておいた方が良いかもしれない。
「分かったんなら、ヒュプノスもとっとと女子中学生になるなる」
「変な言い方するなっつーの。ったく…」
先程のタナトスと同じように、その場で一回転をすると、そこにはタナトスと瓜二つの容姿を持つ金髪の女子中学生が立っていた。
「はいこれ。オレが予め用意しておいた受験票。その辺はこっちでなんとかしておいたから」
「妙な所で用意周到なのね…ん?」
受験番号1841番。
ヒュプノス・エリシオン。
「…何よ…この『エリシオン』ってファミリーネームは…」
「なんとなーく語呂で選んでみました。オレの名前は『タナトス・エリシオン』ね。因みに設定は『ギリシャ出身の双子姉妹で、日本暮らしが長いので日本語は達者だし、文化にも詳しい』的な感じにしておいた」
「もしも家庭訪問とかされそうになったらどうする気よ…」
「その時は、適当にその辺の家の人間を洗脳して…」
「そこら辺は行き当たりばったりなんかい!」
流石に今の状態でカッターはさせないので、思い切り頭を殴ることに。
中々に良い音が鳴ってくれた。
「いったー…。何も殴らなくても良いじゃーん…」
「こめかみにナイフを刺さないだけ有り難いと思いなさいよね」
「ハーイ…」
最近のヒュプノスならば本気でやりかねないので、ここら辺で大人しくするのが吉だとタナトスは学んだ。
「んじゃ、もうそろそろ行こうか」
「そうね」
「よーし! 姉妹で仲良く初受験と洒落込みますかー!」
「確かに『初受験』ではあるわね…」
こうしてテンションの高い姉と、疲れた顔をした妹の受験が始まったのであった。
結果は…言うまでも無いことだが。
「お…織斑先生! 大変です! 過去最高点数でペーパーテストを突破した子が二人もいます!」
「なんだとっ!?」
「しかもその子達、実技試験でも担当の教師を一方的にボコボコにしたらしいです!」
「い…一体何者なんだ…!?」