Eternal Providence ~死と眠りの神々の異世界珍道中~ 作:とんこつラーメン
「「…………」」
学園生活最初のHRが終了し、タナトスとヒュプノスは姉妹揃って机に突っ伏していた。
「完全に油断してたわ…。まさか、これ程とは…」
「オレも…。急いで聴覚遮断をしたはいいけど、音の衝撃だけで肉体的ダメージを与えてくるとは思わなかった…。恐るべし現役JK…」
今は二人も立派な現役JKなのだが、ツッコむ余力が無いので黙っていた。
「あー…まだ頭がフラフラする…。タナトスー…大丈夫ー?」
「なんとかー…。一時間目までには回復すると思うー」
こめかみをグリグリと抑えながら頭を上げ、ヒュプノスは盛大な溜息を吐いた。
「入学早々からこれじゃ、今後が心配になってくるわ…。この調子で三年間も過ごせっての…?」
「流石に、こんなのは今だけだと思うよー? 時間が経てば学園生活にも慣れて落ち着いてくれる…と思う」
「確定じゃないのね…当然だけど」
そう簡単に未来の事が分かれば誰も苦労しない。
よく『神のみぞ知る』なんて言われているが、実際には神にだって分からないのだ。
「こんな事なら『キング・クリムゾン』のDISCでも挿入しておけばよかった…」
「『エピタフ』の未来予知? ま…気休め程度にはなるでしょうね…」
「だねー…。幾ら、未来が分かっても、それに対処するだけの実力が無いと意味無いしねー…」
双子の神々にそんな事を言われている『ボス』は、今日もまたこの青空の下で楽しく死に続けているのだろう。
「タナトス。分かってると思うけど授業の方は…」
「超楽勝。着いていくのは簡単だけど、だからと言って積極的に手を上げるような真似はしないさ。当てられたら普通に答えるけどね」
「よし。基本的にはそのスタンスで行きましょ。別に私達は、学園生活を満喫する為に入学したんじゃないんだから」
「りょーかい。っと、そろそろ一時間目が始まるんじゃない?」
「教科書を出しておかないとね。でも、どうして入学初日からガッチガチにスケジュールが組まれてるのかしら?」
「基本五教科や家庭科や芸術系の授業だけならまだしも、ここではIS関連の座学や実習も予定に含まれてるからね。それを普通の学校と同じ時間で全てやろうとすると、必然的に最初の最初からギュギュウに詰め込まないといけなくなるんだよ」
「ふーん…伊達に『IS学園』なんてストレートな名前をしてる訳じゃないってことね」
「そゆこと」
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一時間目、二時間目と順調に授業を終え、原作で最初のイベントが始まる切っ掛けとなった三時間目。
内容は『実戦で使用する装備の特製について』で、最初に二つは山田先生が授業をしたが、今回は千冬が教壇に立っていた。
千冬が教科書を手に授業を開始しようとした瞬間、そこで山田先生が待ったを掛けた。
「あの…織斑先生。今、思い出したんですけど…まだ一組の『クラス代表』を決めてませんでしたよね?」
「む…そうだったか。なら、今の内に決めてしまうか。少し授業が押してしまうが仕方あるまい」
原作ならば、唯一の男子と言う事で多くの女子達に一夏が推薦されてしまうが、ここに彼はいない。
その時点でクラス代表に関する事も大きく変化する。
「では、これより一年一組のクラス代表を決めようと思う。誰かいないか? 自薦でも他薦でも構わないぞ?」
当然だが、誰も手を上げようとはしない。
誰だって自分から面倒な役職に就きたいなんて思わない。
このまま時間だけが過ぎていくと思われたが、ある生徒が恐る恐る手を挙げた。
「あ…あのー…」
「どうした?」
「クラス代表って…なんですか?」
「む…そうだな。一応、説明をしておくか」
分かっていること前提で話を進めていたので、まさか説明の質問が出るとは思わなかった。
これが天才肌と凡人との考え方の違いか。
「クラス代表とは文字通りの意味だ。再来週行われる『クラス対抗戦』に代表選手として出場するほか、定期的に開かれる生徒会主催の会議や委員会への出席をやってもらう」
「つまり『学級委員長』ってことですか?」
「そういうことだ。私も分かりにくい呼称とは思うがな」
『クラス代表』なんて呼び名は何処か仰々しい。
せめて『クラス委員』とかだったら、まだマシだったかもしれない。
「因みに『クラス対抗戦』とは…」
念の為にクラス対抗戦の説明もしておく。
IS学園特有のイベントなので、言っておく必要があると判断したのだろう。
「…と言う訳だ。では改めてお前達に聞こう。クラス代表になりたい。もしくは推薦したいと思う者はいるか?」
「「「「…………」」」」
説明を受けてより一層やりたくなくなった。
誰でもいいから手を上げろよと言うのが彼女達の総意だった。
(タナトス…分かってるわね?)
(もち。自分から目立ちにはいかないよ。それに、こうして黙っていればいずれは…)
タナトスがチラっと横目で『とある女子生徒』の席を見た瞬間、沈黙を破るように一人の生徒が勢い良く手を挙げた。
「はい。先生」
「オルコットか。どうした」
「クラス代表…このセシリア・オルコットが務めさせて貰いますわ」
「ほぅ…?」
クラス唯一の代表候補生。
ある意味、代表にするにはもってこいの人材だった。
「候補者はオルコットか。他にはいるか? このままでは無投票当選と言う事になるが」
「「「「…………」」」」
誰も何も言わないし、手も上げない。
それを見て、千冬は決定を下した。
「他に誰もいないと言う事で、一組のクラス代表はセシリア・オルコットに決定する。いいな?」
「「「「はい」」」」
「フフ…オルコット家に恥じぬ仕事をするとお約束しますわ」
別にこのクラスの生徒はオルコット家の事なんて全く知らないので、家の事を言われても反応がしにくい。
「では、授業を始める。教科書の32ページを開け」
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今日の授業が全て終わり、放課後になった。
IS学園で過ごす初めての放課後と言う事で、生徒達は各々に色んな事をしていた。
見学と称して学園内を歩き回ったり、早くも仲良しグループを作ったり、様々だ。
そんな中、タナトスとヒュプノスの双子姉妹は、そそくさと学生寮に割り当てられた自分達の部屋に向かっていた。
「全校生徒が学生寮通いとはね」
「生徒達を変な企業とかから守る為だってさ。その為だけの校則も存在するみたい」
「『IS学園の生徒』ってだけでも、このご時世の企業には喉から手が出るほどに欲しい人材でしょうしね」
ISの数は限られているのに、操縦者は世に溢れるほどに大勢いる。
なので、各種企業や国家は少しでも優秀な操縦者を手に入れようと日夜躍起になっているのだ。
「そういや、寮の部屋は二人一組みたいだけど、私達は…」
「勿論、ちゃんとオレ達だけの完全プライベートルームにしてあるよ。防音&防犯機能も完璧。部屋の中で大音量のライブをしても外部に音が漏れる事は無いよ」
「タナトスが改造したの?」
「少しね。最初からある程度の防音と防犯機能はあったみたいだけど、ちょっと心許なかったから」
「人間達がやってる事だもんね」
一度でもやると決めたら徹底的にやる。
それがこの双子の数少ない共通点だった。
「部屋に行ったら、今後について色々と話し合いたいしねー」
「そうね。ちゃんとこれからの方針とかも決めておかないとね」
それからは、年頃の女子高生らしい話をして周囲を誤魔化しながら、二人は学生寮へと入って行った。
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「「うーわー」」
寮の部屋に入っての第一声は驚きの声だった。
「なーにこれー。無駄に金使いまくってるんですけどー」
「どう考えても、学生寮の部屋のクオリティじゃないんだけど…」
どう見ても高級ホテルの一室。
最新式のシステムキッチンもあれば、これまた最新式のバスタブもあり、二つ用意されたベットはふかふか。
高校生には余りにも贅沢すぎる部屋だった。
「私達は別に気にしないけど…他の子達もこれから同じような部屋で三年間を過ごすのよね…。感覚、狂っちゃったりしないかしら…」
「実家の部屋がしょぼく見えちゃいそうだよねー」
「IS学園…金の使いどころを完全に間違ってるわよ…」
別に寮の部屋を貧乏くさくしろとまでは言わないが、だからと言って気合を入れ過ぎるのもどうかと思う。
何事も『過ぎたるは及ばざるが如し』だ。
「こっちとしちゃ好都合だからいいけどさ。それよりも、とっとと話し合いましょ」
「りょーかい」
後ろ手に扉を閉め、部屋のカーテンも閉めて視界も遮った。
これで少なくとも覗き見られたり、聞き耳を立てられたりする心配は無くなった。
お互いにベットの上に座ってから向き合う。
パッと見は本当に少女同士の楽しいお話だが、実際には全く違っていた。
「取り敢えず、基本的には私達は裏で原作にあるトラブルを解決していくって感じで良いのよね?」
「それでいいと思うよー。場合によっては人前でやる場合もあるかもだけど。VTシステムの一件とか」
「あれねー。認識阻害でー…って、あれだけ大勢の人間達の認識を同時に疎外とかしたら、それはそれでヤバい事になりそうよね」
「最悪、多少は目を付けられることは覚悟の上で堂々とぶっ飛ばすしかないかもだねー」
「本当に最後の手段だけどね。その時に備えての言い訳も考えておくべきかしら」
全ての事件を裏でどうにか出来れば御の字だが、場合によってはそうもいかなくなる時もある。
神としての権能を使えば楽勝だが、別世界の地上で、しかも義体を使っている状態では不死身の肉体と超級の身体能力、ちょっとした改変能力以外に使える力は少ない。
なので、いざと言う時のゴリ押しも使い辛いのだ。
「それと、この世界で活動する上で絶対必須となるアイテムを渡しておくよ」
「何よそれ?」
「専用機」
「専用機?」
「そ。ISの二次創作と言えば、やっぱロボット作品系の機体をISに落とし込んで使うってのが一般的だからさー。いやー…どれにしようか本気で迷ったよー」
「アンタ…受験が終わって入学までの時間に姿が見えないと思ったら、専用機をどれにするか考えてたのね…」
「だって大事じゃーん。失敗は許されないんだよー?」
「この世界にある機体を魔改造して使うってのじゃダメな訳?」
「それじゃ面白くねーじゃん。折角、ISの世界に来たんだよー? バカ丸出しのハーレム系転生者オリ主みたいに、他作品のチート機体で無双とかやってみたいじゃん?」
「それはタナトスだけでしょうが! 私は無双プレイになんて興味ないから!」
「えー?」
実に予想通りの回答。
だからこそ、からかい甲斐があるのだが。
「因みに、どんな機体にしようと思ったのよ?」
「まず最初に候補に上がったのはねー…ストライクフリーダムとインフィニットジャスティス」
「最初からそれかい! よりにもよって核動力で動く機体とか!」
「頑張って何から何まで忠実に再現しようとしたらさー…SE無限とかいう面白いことになった」
「でしょうね! 理論上はエネルギー切れが発生しない機体だからね!」
「でもー…なーんか在り来たりだったから却下した。転生者の使う定番って気がして」
「核動力が定番って…」
転生者とか言う欲望の権化に呆れつつ話を進めた。
「ヒュプノスと一緒に使うことを前提にして『ペアで成り立ったり、二つで一つ』的な機体を選出していったんだよねー」
「アンタにしては割と絞ったわね。で、他には何が候補だったのよ?」
「アルトアイゼン&ヴァイスリッターとか」
「普通に妥当ね」
「ビルトビルガー&ビルトファルケンとか」
「超高機動…いいじゃない」
「∀ガンダムとターンXとか」
「アンタは世界を滅ぼす気か!?」
「エヴァ初号機&エヴァ弐号機とか」
「アンタと一緒にユニゾンキックとかゴメンよ」
「双子繋がりでガンダムヴァサーゴとガンダムアシュタロンとか」
「最終的にサテライトランチャー撃ちたいだけでしょうが」
「ガンダムバルバトスとガンダムグシオンとか」
「絶対に阿頼耶識のリミッターは外さないわよ」
「ユウブレンとヒメブレンとか」
「また懐かしいやつを…」
「マックス&ミリアのバルキリー一式とか」
「VF-1やVF-21とかならいいけど、YF-29辺りは勘弁よ」
「グリッドマンとグリッドナイトとか」
「もうそれロボットじゃないから!」
「マジンガーZとグレートマジンガー」
「んー…微妙にあり…かも…」
「ユニコーンとバンシィ」
「ある意味、史上最強に目立つやつ!」
「マイトガインとマイトカイザー」
「どっちかが確実にバラバラ死体になるわよ」
「ガイガイガーとガオファイガー」
「もうそれ兄弟機とかじゃ無くなってるわよ」
タナトスが挙げる候補に対して次々とツッコミを入れていくヒュプノス。
なんか途中で泣きたくなっていた。
「んで、そこまで候補を出してー…最後の最後に決めたのがー…これ。ほい」
「お…っと。ん? なにこれ?」
タナトスから唐突に投げ渡されたのは、紅い鬼の顔のような形をした飾りのついた首飾りだった。
これの事を尋ねようとすると、タナトスも似たような形状の蒼い首飾りを持っている事に気が付いた。
「オレ達は双子。なら機体の方も『双子』にしようと思いましたのです。だからこそ『コレ』にしたんだ。この…『双子の修羅神』にね」
「って事は…まさか…!」
「そ。そのまさか」
ヒュプノスの顔が一気に青ざめ、タナトスの顔は愉悦の笑みに染まる。
この顔を見る為に頑張って機体を選考してきたと言っても過言じゃなかった。
「ヒュプノスの専用機は『猛撃の修羅神』こと『ヤルダバオト』。そして、オレの専用機は『轟撃の修羅神』こと『ビレフォール』に決まりましたー! パチパチパチー!」
「よ…よりにもよって…あの超弩級のバグレベルチート機体を選ぶだなんて…」
「全てを圧倒出来る超性能と継戦能力、そして俺達の全力について来れる機体を考えた結果だって。これならどんな奴が来ても絶対に負けないでしょ」
「そ…それはそうだけど…」
幾らなんでも過剰戦力過ぎる。
その気になれば、たった二機で世界中のISと戦っても余裕で無双できてしまう。
この双子の修羅神は、それ程までの異次元の潜在能力を秘めているのだ。
「ちゃんと『神化』も出来るようにしてあるよー。ドラマチックな場面でやろうねー」
「もういい…疲れた…寝る…」
今回は少しはまじめに仕事をすると思っていたのに、やっぱりタナトスはタナトスだった。
結局、自分はこの破天荒な姉に振り回される運命なのだろうか。
運命は神が決める筈なのに、その神である自分が運命に翻弄されるとは、笑い話にもならない。
これからの事を考えて、盛大な溜息を吐くヒュプノスであった。