Eternal Providence ~死と眠りの神々の異世界珍道中~ 作:とんこつラーメン
「それでは、今からISの基本的な飛行操縦を実際に披露して貰う。オルコット。前に出て試しに飛んでみせろ」
「了解しましたわ」
あれから、あっ…………と言う間に時は過ぎ、今は四月も下旬。
一組の生徒達はグラウンドにて千冬指導の下の授業に取り組んでいるのであった。
言われるがままに列の前に出たセシリアは、自身の専用機である『ブルー・ティアーズ』を一瞬で展開し、そのまま真っ直ぐに空へと飛んで行った。
始めて見る専用機に生徒達は好奇心に満ちた目を輝かせていたが、タナトスとヒュプノスは微塵も表情を崩さない。
(いやー…本当に時間が過ぎるのは早いもんだねぇ~。適当に過ごしている内にもう一ヶ月が過ぎようとしてるよ。画面の向こうはもうすぐ年の瀬だって言うのにさ)
(そりゃ、本来なら起きているであろう『クラス代表決定戦』が無かったんだもの。多少の騒がしさはあっても、基本的には静かなもんでしょ。っていうか、始まって早々に第四の壁をぶち抜いた発言はやめなさいっつーの!)
遠く空の向こうに小さくなっていくセシリアをジト目で眺めながら、今日も今日とて相変わらずヒュプノスとタナトスは念話での会話を楽しんでいた。
(そういや、IS学園って専用気持ちには宣告義務とか無かったっけ? 私達は大丈夫なの?)
(へーき、へーき。別にオレたちは正式な専用気持ちじゃないし。この世界のこの時代なら幾らでも隠蔽は可能でしょ?)
(そりゃ…ね。その気になれば楽勝だけど…その場合、使っている姿を見られないように気を付けないといけないわね)
(いざとなれば人避けの結界とか張ればいいんじゃね? 小宇宙や魔術の概念が無い世界だから、絶対にバレないし)
(そのなんでもかんでも力技で解決しようとする癖…どうにかならないの?)
(えー? ヒュプノスがそれ言っちゃうのー? 少しでもメルヘンが関われば、オレですらドン引きするレベルの力技を強行する癖にぃー)
(あれは別にいいの! 善意ある改変は『オカルト』で片付くから!)
(仮にもギリシアの神々として、それはどーなのかなー)
話している間にセシリアが急降下と完全停止をやってみせた。
勿論、目標通りに地表から10センチで。
(へー…意外とやるじゃない)
(そりゃ、一応は代表候補生だしねー。寧ろ、これぐらいの事はやって貰わないとって感じでしょ)
(それもそっか)
今度は千冬に言われて武装の展開をし始める。
長い砲身を持つライフルの時は意気揚々としていたが、近接用ショートブレードを呼び出す時は苦戦していて、結局は名前を呼ぶ形で取り出していた。
(あの子、どうして名前を呼んだやり方をして悔しそうにしてるのよ?)
(代表候補生として恥ずかしいからじゃない? 本来なら頭で思い浮かべるだけで取り出せるのに、それが上手く出来なかった上に、素人がよく使う『名前を呼ぶ』ってやり方を使わざる負えなかったんだから)
(そんなに悔しいのなら、普段からちゃんと練習をしておけばいいのに)
(近づく前に倒せば問題無しとか思ってるんじゃないのかなー)
(常に最悪の状況を想定するのは戦闘の基本中の基本でしょうに。馬鹿じゃないの?)
(お貴族サマだからねー。無駄にプライドだけは高い生き物なのさー)
(難儀なもんね…)
お嬢様故の癖ある性格に辟易しながら、授業は淡々と進んで行った。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
夜になり、IS学園は暗闇に支配される。
この時間帯に明かりがついているのは、基本的に職員室や食堂、後はこの時間までギリギリ開いているアリーナぐらいか。
そんな、本来ならば校則を無視する不良ぐらいしかいない筈の夜のIS学園正面ゲート前に一人の少女が立っていた。
小柄な体格で、長い髪をツインテールに纏め、その手には最低限の荷物が入る程度のボストンバッグ。
「幾ら国からの命令とはいえ、どーしてこの私がわざわざIS学園なんて場所に来なくちゃいけないのかしらねー。飛行機が遅れたせいですっかり暗くなっちゃったし…」
大きな溜息を吐きながらポケットの中に入っているクシャクシャになってしまっているメモ紙を取り出す。
そこには『到着次第、本校舎一階総合事務受付に行け』と中国語で書かれてあった。
「つーか、そもそも『本校舎一階総合事務受付』ってどこなんだっつー話よ。こちとらIS学園に初めて来てるんですけどー」
大人達の余りにも適当な対応に呆れつつ、同時に諦めの表情をする。
どーせ何を言っても『子供は黙ってろ』の一言で封殺されるのがオチだ。
だから彼女は大人が嫌いだ。
自分が大人になった時は、絶対にあんな風にはならないと心に誓っている。
「折角、こうして日本に戻って来れたんだから…休みの日とかには『アイツ』に会いに行きたいな…」
この場にはいない初恋の相手を思い浮かべて頬を少しだけ赤くする。
年頃の少女らしい反応だが、すぐに現実に戻ってから頭を振った。
「って、こんな所で妄想に耽ってる場合じゃないんだって。誰かに聞くとかして、事務受付って場所に行かなくちゃいけない…だけど…」
さっきも述べたが、今の時間帯は完全に夜。
常識的に考えても、生徒や教員が歩いてくる可能性は非常に低い。
『誰かに話しかけて道を尋ねる』という、最も簡単で最も確実な方法が出来ない状況。
冷静になったせいで完全に詰んでしまった。
「最悪の場合…適当に歩いて探すしかないかしらね…。不審者扱いされたら生徒手帳を見せてから事情を説明すれば大丈夫…だと信じたい…」
ちょっとだけ嫌な予感がして気落ちしかける。
だが、運命はそんな彼女を見捨てはしなかった。
「ん? なんか、どこからか話し声が聞こえてくるような気が…?」
耳を澄ませた後に、声がする方へと歩いていく。
そこには、二人の女子生徒が歩いていた。
「いやー! 偶には頭の中を空っぽにして思い切り体を動かすのも悪くは無いねー!」
「そうね。遠慮なくアンタの事をボッコボコに出来るしね」
「ハッハッハッー! オレってば愛されてるぅー!」
「今の言葉の、どこをどう解釈すれば、そんな結論が出るのよ」
「愛には色んな表現があるもんだよ? ツンデレとかヤンデレとか。中には『食人=愛』って言う素晴らしい理由も割と上位にランクインしてるけどね」
「それはもう愛じゃなくて完全に狂人でしょうが!」
「愛に狂う…いいんじゃな~い?」
「アンタのグッチャグチャに歪んだ価値観を一般論みたいに言うな!」
明らかに女子高生らしからぬ会話をしている二人組。
もう分かったかと思うが、この二人はタナトスとヒュプノスだ。
この双子、ちょっとしたズルを使って半ばアリーナを貸切状態にしてから、生身の状態で戦いまくっていた。
実際には主にヒュプノスのストレス発散だったが。
その際に破損したアリーナはすぐに修復して元通りにした。
元通りにし過ぎて新品同様にしてしまったが、それはまたご愛嬌。
「なんかヤバそうだけど…背に腹は代えられないわね…!」
このまま時間を無駄に浪費するぐらいならば、多少の変人であっても勇気を出して話しかけてみるべき。
そう判断した彼女は、勇気を振り絞って前に出た。
「ちょ…ちょっといいかしら! そこのお二人さん!」
「「ん?」」
いきなり話しかけられ思わずキョトンとなるが、すぐにその顔は驚きに変わる。
「いきなりで申し訳ないんだけど、少し尋ねたい事があるのよ」
「た…尋ねたい事?」
会話自体は至って普通だが、その心中は穏やかではなかった。
(ちょ…ちょっと! この子って原作ヒロインの一人の凰鈴音じゃない! どうしてヒロインが向こうから話しかけてくるのよ!?)
(あー…今日だったかー。この子が中国からやって来るの。正直、来るかどうか微妙だったから、地味に忘れかけてたわー)
(アンタって奴はぁぁぁぁぁぁっ!!)
(仕方ないじゃーん。原作じゃ、この子が来た理由は『織斑一夏に会う為』なんだよ? でも、この世界線じゃ彼はISを動かしてないから、当然だけどIS学園にはいない。だから、来る可能性は低いと考えてたんだけどー…)
(実際には、こうして来てしまったっと…なんでこんな事に?)
(多分だけど、中国政府からの命令とか、そんな感じじゃないのかなー)
(そういや、代表候補生だったっけ…)
(候補生と言っても、実際には国家の犬だから国の命令には逆らえないんだけどねー)
(そう聞くと、国家代表や代表候補生ってのも中々に難儀な立場なのね…)
想定外の事ではあったが、だからと言ってここで狼狽えてはいけない。
神として、ここは冷静沈着に対処しよう。
「ちょっと…どうしたのよ? 急に黙り込んで…」
「え? あぁ…何でもないわ。ごめんなさいね」
「で? 何が聞きたいのかな?」
「『本校舎一階総合事務受付』ってどこにあるのか分かる?」
「事務受付?」
「そ。実はあたし、さっき来たばかりの転入生なんだけど、まずはそこに行って色々と手続きをしないといけないみたいなの」
「「あぁー…」」
別に彼女は何か思惑があって話しかけた訳じゃない。
単純に道を尋ねただけだった。
「それなら知ってるわ。案内してあげましょうか? 口頭で説明するよりは確実でしょ?」
「いいの? 助かるわー…」
ヒュプノスにしては珍しく自分から面倒な事をしているが、本当は適当に説明をした結果、後で何かを言われる事を避けるためだ。
「ところで、アンタ等って顔が瓜二つよね。双子?」
「そーだよー」
「しかも、髪の色が金と銀って…凄いわね」
「ここじゃ分かりにくいかもだけど、実は目の色も髪と同じだったしして」
「マジで? うわー…それって超激レアなんじゃない?」
「多分ねー」
金髪と銀髪だけならば、そこまで珍しくは無いだろうが、そこに金眼と銀眼という要素が加われば一気に希少価値が上がってくる。
本人達は全く気にしていないが。
「そういや名前はなんて言うの? アタシは凰鈴音。呼びにくいでしょうから鈴でいいわ。中国から来たの」
「タナトス・エシリオン。ギリシャから来たんだよー」
「ヒュプノス・エリシオンよ」
「へー…ギリシャかー…」
一般的なイメージとして、ギリシャと言えば神話の国と言う印象が強い。
鈴もその例に漏れず、二人がギリシャ出身だと聞いてすぐに双子に対する印象を改めた。
(言われてみれば確かに…この二人って神秘的な感じがするわね…。ギリシャの女の子って、皆こんな風なのかしら…)
この二人が特別なだけであって、基準にしてはいけない。
性格にこそ大いに難ありだが、その容姿は間違いなく最上級レベルの美少女になっているから。
「ほら…あそこよ。明かりがついてるでしょ」
「ほんとだ。ここまで来れば流石に分かるわ」
まだ辛うじて事務受付は開いているようで、中には作業をしている事務員の女性がいた。
「二人とも、本当にありがとね。このお礼は必ずするわ」
「「期待しないで待ってまーす」」
「そこは期待しときなさいよ! それじゃあね! また明日!」
「「また明日ー」」
大きく手を振りながら鈴は事務受付へと走って行った。
それを見送ってから、双子は大きな溜息を吐きながら帰路に付く。
「はぁ~…完全に油断してたわー…。同じクラスにいながらも、篠ノ之箒やセシリア・オルコットとは接触を避けられてきたけど…」
「まさかここで、別クラスになる予定の凰鈴音と接触してしまうとはねー。でも、一人ぐらいだったら大丈夫なんじゃない?」
「一人で済めばいいけどね…。なんか嫌な予感がしてならないのよね…」
「やめてよねー。こーゆー時のヒュプノスの『嫌な予感』の的中率は90%を超えてるんだからさー」
「この予感が杞憂で済む事を祈るだけね…」
「誰に?」
「ハーデス様」
「ですよねー」
この時にヒュプノスが感じた『嫌な予感』。
これがまさか大当たりすることになろうとは、この時の双子は想像もしていなかった。