Eternal Providence ~死と眠りの神々の異世界珍道中~ 作:とんこつラーメン
セシリアと鈴を激励し、仲良く並んで観客席に座るタナトスとヒュプノス。
その手にはジュースとポップコーンが握られていて、完全に楽しむ気満々である。
「いや~…偶には、こんな風に試合観戦をするってのも悪くはないやね~」
「そう?」
「そーだよー。相変わらず、ヒュプノスはクールで達観してるねー」
「別に達観なんてしてないわよ。単純に、そこまで強い興味が持てないってだけ。まぁ…知り合いとして最低限の応援ぐらいはするけどね。あむ」
ジト目をしながらヒュプノスは手元にあるポップコーンを口へと放り込む。
「ん? これ…なんか甘くて美味しい? なにこれ?」
「キャラメル味のポップコーン。美味しそうだったから買って来ちゃった」
「ふーん…こんなのもあるのねー」
「他にも、チョコ味とかもあったよー」
「ポップコーンにも色んな味が付く時代になったのね…」
「いや…こーゆーの自体はかなり前からあったよ? ヒュプノスが知らないだけ」
「え…マジで?」
「マジで」
人間の食文化になんて特に興味を示してこなかった事が、まさかこんな形でタナトスにマウントを取らせる結果になるとは。
今後は、ちゃんと必要無さそうな事にも細かく目を配らせようと決める。
「もうすぐ試合が始まるわね」
「そだねー。ま、一組の楽勝で終わるだろうけど」
「でしょうね。まだまだ未熟極まりないとはいえ、それでも代表候補生だし。専用機の性能とも相まって、普通に勝つでしょ」
「ここからどう成長するかは本人次第だけどねー。んー…」
「どうしたのよ?」
「…チョコ味も買ってくれば良かった。普通に興味が湧いた」
「後で買ってくればいいじゃない。購買部はどこにも逃げないわよ」
「購買部は逃げないけど、商品が売り切れる可能性はあるよ?」
「確かに…そうだったわね…」
ヒュプノス、まさかのタナトスに二連続で口で負ける。
やっぱり妹は姉には勝てないのか。
「そーいや、このIS学園には『全校生徒の部活所属義務』があるらしいよ?」
「…なにそれ? いや、マジで何それ?」
「簡単に言うと、全部の生徒は何らかの部活に入りなさい…ってこと」
「…何故に?」
「さぁ? それに関しては普通に謎。皆に青春を謳歌させてあげたい的な事なんじゃないの?」
「それ…余計なお和世話じゃない? 帰宅部を貫き通したいって生徒も一定数はいるでしょうに」
部活と言われても何にも思いつかない。
何故なら、神である彼女達は、やろうと思えば本当に何でも出来てしまうから。
「お。ステージに入って来たわね」
「あの青いISが『ブルー・ティアーズ』だね」
「ビット兵器を使用することを前提にした機体…ね。今までにも同じような開発コンセプトの機体は幾つも見て来たけど…」
「はいストップ。それ以上はセシリアが可哀想だよ」
「…そうね。宇宙最強レベルのニュータイプパイロットたちと代表候補生で学生な彼女とを比べるのは流石に酷過ぎる…か」
「そーゆーこと」
神である彼女達からしても『神業』としか言いようがない絶技をさも当たり前のように披露する戦士たちを知っている双子からすれば、彼女達の試合は児戯に等しいことではあるが、だからと言って見下しはしないし馬鹿にもしない。
これまでに様々な人間達と接してきたことで、神であるにも拘らず、人間に対して一定以上の評価をしていた。
「さて…と。ここからはのんびりとして……ん?」
背凭れに思い切り体を預けた瞬間、タナトスの眉間がピクッと反応する。
「どうしたの?」
「マジか…」
急に神妙な顔になり、タナトスが急に自分の頭をトントンと指で叩く。
これは『今からは念話で話そう』という合図である。
(…何があったの?)
(篠ノ之束謹製の無人機ことゴーレムが動いてる)
(はぁ? なんでよ? IS学園には織斑一夏がいないのよ? あの女がゴーレムを動かす理由が無いじゃない)
(いや…それが、ゴーレムが向かってるのはどうやらIS学園じゃ無いっぽいんだわ)
(じゃあ、一体どこに向かわせてるってのよ?)
(…藍越学園)
(はぁっ!? 何がどうしたら、そうなるってのよッ!?)
(これはあくまでオレの予想だけど…恐らく、藍越学園にいる彼にISを触らせて…)
(今から無理矢理にでも原作の流れに持って行こうってこと…?)
(多分ね。そうしたら、まず間違いなく彼の人生は原作以上に滅茶苦茶になる。それだけは例え何があっても絶対に阻止しなくちゃ)
(…どうする気?)
(あの女が、ここまで強引な手を打ってくるとは思ってなかった。こうなった以上、こっちも実力行使で止めるしかないと思う)
(…出るのね)
(うん。流石に二人同時にいなくなるのはヤバいと思うし。こっちの事はお願いしてもいい?)
(任せておきなさい。でも、出来るだけ早く戻って来るのよ?)
(分かってるよ。んじゃ、ちょっと行ってくる)
念話での作戦会議を終え、タナトスは徐に立ち上がる。
「あー…ジュースの飲み過ぎかなー。ちょっとトイレに行ってくるねー」
「そこはせめて『お花摘みに行く』って表現しなさいよ。女でしょうが」
「んじゃ『3番行ってくる』ね」
「アンタはどこのフリーターよ! とっとと行ってきなさい!」
「はーい」
後ろ手に適当に手を振りながら、タナトスはアリーナ内の廊下にある女子トイレへと向かって行く。
その途中、その女子トイレから出て来たと思われる、ハンカチで手を拭きながら歩いてきた篠ノ之箒とすれ違った。
「「………」」
別にお互いに見知った仲でもないので、二人は普通にスルーをしてすれ違う。
通り過ぎる瞬間、タナトスは不意に心の中で微笑を浮かべてしまった。
(…皮肉なもんだな)
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
とある町の上空。
異形の姿をした漆黒のISが、とある普通の高校へと向かって高速で飛んでいる。
通常ならばほぼ確実にレーダーなどに引っかかって、自衛隊やらの防衛部隊が出撃しても不思議ではないが、そこは流石と言うべきか。
高度なステルス装置によって、ありとあらゆるレーダーを潜り抜けて、誰にも邪魔されずに目的地へと急ぐ。
だが…世の中はそんなに甘くはなかった。
特に『この世界』では。
「残念。これ以上は行かせないよ」
次の瞬間、何者かに攻撃によりゴーレムの片腕が肩から破壊された。
強固な装甲とシールドエネルギーを持つゴーレムを一撃で破損させる。
一体何者かと、一旦止まってから周囲を見渡すと…『ソレ』はいた。
「いやー…マジでさ。ふざけんなって感じだよね。こっちの都合も考えないでさ」
全身が蒼く染まった全身装甲のIS。
その両腕部には手甲を着け、その両足には獣のような爪を持つ。
頭部からは白銀に輝く長髪を靡かせ、足場が無い筈の空中を静かに歩いてくる。
「それにしても、まさかこの『ビレフォール』の初陣がこんな形になるとはね。世の中、何がどうなるか分からないもんだね」
何を言っているのか分からない。
こいつは誰なのか。
どうして邪魔をするのか。
分かっている事は、この目の前のISの名称が『ビレフォール』であると言うことぐらいだ。
「つー訳だから…覚悟しろよ? 聞いてるんだろ? 神の仕事の邪魔をする馬鹿で愚かな人間風情が。他の世界線はいざ知らず、この世界線でお前の『計画』が成就するなんて事は天地がひっくり返っても絶対に有り得ないから。んじゃまずは…」
突如としてビレフォールの全身から青白いオーラが発現する。
装着者の怒りを表すかのように。
「そのガラクタをスクラップにするか」
気が付いた時にはもう、ビレフォールが懐に潜り込んでいた。
ISのハイパーセンサーを以てしても感知できない程の速度。
「せーの…ふん!」
オーラを纏った拳がガードをする暇もなく胴体部に直撃し吹き飛び、様々な部品が空中に飛び散る。
「まだまだ行くよ~?」
膝打ち。肘打ち。正拳。裏拳。
抵抗する暇も無い程のラッシュの嵐によって、あっという間に見るも無残な姿へと変わっていく。
両腕はとうの昔に木端微塵になり、両足も引きちぎれ、頭部は辛うじて数本のコードによって辛うじて体を繋がっていてブランブランと揺れている。
「これで~…トドメ!」
渾身の膝蹴りにて空高くぶっ飛ばされ、それを追撃するようにビレフォールも飛び蹴りの構えで向かっていく。
「これが必殺の機神拳! その名も…」
攻撃の瞬間、右足を全力で伸ばしながら蹴り貫く!
「機神轟撃拳!!」
その蹴りにて漆黒のIS…ゴーレムはその全てを粉々にされ、青い空に巨大な爆発という名の汚い花火を散らした。
「汚い花火だゼ…ってか?」
口で言った。
一瞬でカッコ良さが台無しになった。
「おっと。地面に落ちる前にゴーレムのパーツは消しとかないとね」
ビレフォールが指をパチンと弾くと、落下している全てのパーツが最初から無かったかのように消失した。
勿論、コアも。
「本当は即座に消せれば一番なんだけど、色々と『制約』があるからなぁ~。こればかりは仕方がないか。それよりも…」
空の向こうを眺めながら、ビレフォールは何かを見つめる。
「このまま放置しておいたら、また何か碌でもない事をやりかねないよなぁー。原作世界でなら普通に無視一択なんだけど、この世界じゃそうもいかない。今後も仕事の邪魔をされたら面倒くさいことこの上ない。これからの為にも今の内に…」
腰を曲げ、今から飛び出しそうな体勢になる。
目的地は当然、あそこだった。
「厄災の芽は早い内に刈り取っておかないとね。多分、ヒュプノスがこの場にいても同じことを言ってただろうし。善は急げ。鉄は熱いうちに打て…ってね。んじゃ、行きますか」
ビレフォールが勢いよく飛行し、まずは詳しい場所を特定し始める。
その装甲の内側で、銀色に光る瞳がキョロキョロと動いていた。
「…見つけた。そんな所にいたのか」
ビレフォールの眼前にワームホールが出現し、その中に迷わず突っ込んでいく。
「とっとと行って、とっとと終わらせますか。じゃないと、セシリアの試合が見れなくなっちゃう。流石に決着の瞬間ぐらいはヒュプノスと一緒に見てあげたいしね。んじゃ、ワープ!」
ワームホールの中に入った瞬間、穴は跡形もなく消えた。