水の都のクラーケン   作:ミトコンドリアン

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フリーナ様がお労しすぎて書きました。
フリーナ様の側にいてあげられる存在を生やしたかった。
だけど単純な長生きだとつまらないので…リヴァイアサン、白鯨ときたら…ポピュラーなのがいますよね。


プロローグ『水神補佐官の一日』

 テイワット。

 七柱の神の統治するこの大陸には、神の数だけ国がある。

 

風神の領域たる、神の去った()()の国『モンド』

岩神の領域たる、神と共にある()()の国『璃月』

雷神の領域たる、神の統治する()()の国『稲妻』

草神の領域たる、神が死した()()の国『スメール』

炎神の領域たる、神が座す()()の国『ナタ』

氷神の領域たる、氷の女皇の支配する国『スネージナヤ』

 

 …そして、最後は僕のふるさと。

 水神フォカロルスの領域たる、神による栄華に浸る()()の国。

 神に溺れた地…『フォンテーヌ』。

 

 ここはいいところだ。

 自然そのままの、豊かな水をたたえた丘陵の景色は好きだった。が、道は整備され、マシナリーによる住み良い暮らしを手に入れた今の景色はもっと好きだ。

 これまでの彼女の努力が一番に感じられる景色だから。

 

 朝一番にこの景色が見られる贅沢が、僕に許されていいのだろうか。もう暫く風を浴びてから、窓とカーテンを閉めクローゼットを開ける。礼服を着て姿見の前に立ち、ネクタイの歪みと髪の毛のハネを見つけて直す。

 

 最後にぴしゃりと自分の頬を張り、まだ残る眠気を飛ばし気合いを入れた。

 

「…今日も、忙しい1日が始まる。」

 

ーーーーー

 

 まずは部屋を出て、一直線に別の扉へと向かう。

 ノックを二回、()()()()()ことを確認して扉を開き、つかつかと中にお邪魔する。豪華な部屋の真ん中、ベッドには毛布の膨らみがあった。

 

 それを引っ掴み…一息に引っ剥がす!

 

「ふあっ…キミ、毎回乱暴に引き剥がすなと言っているじゃないか!もっとこう…あるだろう、歌劇のようなロマンチックな起こし方が!」

 

「そんなもので起きてくださるなら五百年前からそうしております。…おはようございますフリーナ様。本日も六時三十分、きっかりの起床でございます」

 

「そりゃあキミが時間きっかりに起こしてくれるからね…!」

 

 ベッドの上でその双眸を眠そうに細め文句を言う、青白髪の可憐な少女。彼女はこの国では誰もが知る、水と正義の神『フォカロルス』その人である。

 

僕はもう一つの名前で『フリーナ』様と呼ばせてもらっている。

 

「さて…ではフリーナ様、本日は公務がありますので、お着替えとご朝食の後執務室に。その後は歌劇場での裁判の立ち会い後、謁見の予定と…」

 

「ああ、わかったわかった。予定は後で聞くから、まずは着替えさせてくれないか」

 

「大変失礼いたしました。お召し物はこちらにご用意しております。もちろんご朝食も、出来立てでお持ちしております」

 

「…毎回思うのだが…オクタヴィア、やはりキミはとんでもなく用意がいいな。よくもまあ五百年間これが続くよ」

 

「もったいない御言葉…私はこれほどの事でしか、貴方様のお役に立つことができませんゆえ…」

 

 深々とお辞儀をし、部屋から出て別の場所へ向かう。次の行き先は…フォンテーヌの外れ、模擬戦場として用いられる広場にある。

 

ーーーーー

 

 強い衝撃と共に、身体が宙を舞う。紫電が身体の制動を奪い、受け身も取れずそのまま地面へと身体を叩きつけられ、肺から空気が押し出された。

 

「大丈夫か?つい強くやりすぎたな…怪我は?」

「ええ、まあなんとか…」

 

 地面から天を仰ぐ僕の顔を覗き込む、黒髪に紫色の瞳が映える凛々しい顔立ちの女性。

 

 正義を誇る国フォンテーヌにおける、名誉と誇りをかけた決闘。その相手をすることになる、精鋭揃いの「決闘代理人」たち。その中でも最強の名を恣にする、常勝不敗の『クロリンデ』、その人である。

 

「…、何故そう毎度毎度、私に模擬戦を頼む?まあ、お前のために毎度時間を空けてはいるが…きみの身体がもたないだろう」

 

「前から言っているでしょう。私は強くならなければなりませんから」

 

 手を差し伸べる彼女に助け起こしてもらい、服の埃を払いながら言う。このやりとりもずいぶんと繰り返したものだ。彼女は怪訝な顔を浮かべ、僕の顔を覗き込んでいる。

 

「それが疑問なのだ…きみはもう、これ以上頑張らなくてもいいだろう。もう五百年はフリーナ様のお世話をしているのだろう?強くなくとも、今のままで十分力になれているはずだ」

 

「いいえ…それだけではやっていけません。ヌヴィレット様やリオセスリ様、かの魔術師兄妹も外敵へ対抗する力を持っています。他の国では、商人や配達員でさえ力を持つと。私も、フリーナ様の補佐官という大役を仰せつかっております故、いざと言う時には…」

 

 落ちていた木刀を握りなおし、クロリンデ様に向き直る。

 

「では、もう一戦お願いします、クロリンデさん」

「ダメだ。今日はもうやめておけ。再三言うが、身体が持たなくなる」

「………」

「安心しろ。神の目もないのに、きみは今までよくやっている。もっと自分を信用してやれ…なあ、オクタヴィア」

 

 クロリンデさんの手のひらが僕の頭に優しく置かれる。その手は僕の髪の毛を櫛で梳かすように撫で、そのうちに側頭部、耳から頬へ温もりが移動していく。

 

 僕は肩を強張らせた。…これは流石に恥ずかしい。いくら見た目が子供っぽくたって五百年と少し生きた身なのだから。

 

「あ、あの…クロリンデさん。私は一応、これでも子供ではないので…そう撫でられると緊張してしまうのですが…」

 

 そう訴えても、クロリンデさんは優しげで、でもどこか湿っぽい目で僕を撫で続ける。…前にもこんなことがあった。彼女は毎回、どこか熱を帯びた湿っぽい瞳で僕を見つめることがある。フリーナ様から頂いた久しぶりの休みの日に呑みに誘われた時などは顕著であった。

 

 あの日は二人して相当な疲れが溜まっており、それを解消するために結構な量を飲み…それでも足りないと訴える彼女の提案のもと、彼女の家で飲み直すことになった。家の中に入り、食材を借りてつまみを作って、彼女が秘蔵していたというワインのボトルを開けて…夜遅くまで飲み会は続いた。

 

 しばらくして、彼女が先に潰れてしまった。僕はボトルと食器を片付けて、朦朧としている様子の彼女を抱き起こしてベッドへと運んだ。そして上着を最低限脱がせてベッドに座らせ、横たわらせようとしたその時であった。

 

 彼女はあろうことか、僕を抱きすくめ、そのままベッドに倒れ込んだのだ。僕ははじめて感じた異性の体の柔らかさや酒精の混じった香りに狼狽えつつ、すぐさま抜け出そうとした。だが彼女は私の手首をしっかりと握り、脚まで絡めて僕を固定した。

 

 いつの間にか彼女は僕に覆い被さるように体勢を変えていた。そして彼女のよく手入れされた髪の毛のカーテンの中、今まで誰にも許したことのない互いの吐息が感じられるほどの距離で、熱を帯びた、吸い込まれるような紫の瞳でこちらをじっ…と見つめるのだ。

 

 …もし、あの時僕がなんとか抜け出すことができなかったらどうなってしまっていたのだろうか。僕は、その先を想像することが怖くてならない。

 

 小一時間撫で回され続けた後、僕は恥ずかしさが限界を迎え、逃げ出すように速足で次の仕事場へと向かった…。

 

ーーーーー

 

「ヌヴィレット様、こちらが今回の裁判の資料でございます」

「ああ、ありがとうオクタヴィア。確認する」

 

 正義と司法の国、フォンテーヌが誇るエピクレシス歌劇場。

 その上階にある最高審判長の席に座る青年に、僕は手元の紙束を渡した。

 

 彼の名前は『ヌヴィレット』。僕がフリーナ様のお付きになって百年ほど経った頃、このフォンテーヌにおける神に次ぐ権力者、「最高審判長」に就任した青年だ。

 

 彼とは長い付き合いになる。一応フォンテーヌ歴は僕の方が長いと思うのだが、僕以上に長生きをしているであろう彼はやはり立場上規則には人一倍厳しい。無表情な上口調も事務的と、僕から見ても最初は冷酷無情な人物であるようだった。でもその内面は真摯で善良な人だ。自らの地位を鼻にかける様子がないのも好感が持てた。

 

「オクタヴィア、そういえば…前にも言った筈だろう、様付けで呼ぶのはそろそろやめてもいい」

 

「それはできかねます…私はフリーナ様の補佐官といえど、一介の執事に過ぎませぬ故…やはりヌヴィレット様よりは下の立場。貴方様のような力も、私は行使できません」

 

 そう。クロリンデ様に続き、ヌヴィレット様もたいそうお強い人である。一度だけ彼の戦いを見る機会があったが…瀑布怒涛と言うべきもの。激流*1にて敵を押し流す様は、やはり最高審判長にふさわしき強さと言えるだろう。

 

「まだ君は力に拘っているのか…。それはもう四百年は聞いている。君にそういう力は必要ないだろう」

 

「…ですが、私は「フリーナも必要ないと言う筈だ。彼女のそばに居てやれるのは君だけだ。それだけでどれほど彼女の力になれているか…君はもう少し理解した方がいい」

 

 言葉を遮られ、優しげな声でそう諭される。

 …だが。僕には力が必要なのだ。

 

「…失礼します、ヌヴィレット様」

「ああ。…オクタヴィア、今度、休みが取れたら食事へ行こう」

「…考えておきます」

 

 裁判の開始を告げる音を背に聞き、僕は歌劇場を後にした。

 

 

「…いつか、話してほしいものだ。どうしてそこまで力を求める?」

ーーーーー

 

 …長い一日が終わり、日が沈む。今日も忙しい日々を終えたフリーナ様に連れられ、彼女の寝室へと招かれる。

 

「…今日もいつものようにやってくれ」

「畏まりました、フリーナ様…」

 

 ベッドに横たわる彼女の手を優しく握り、手の甲を親指で優しく撫でる。彼女はどこか安心したように眼を閉じ…ゆっくりと、口を開いた。

 

「なあ、オクタヴィア…きみは、ずっと僕の側にいてくれるかい?たとえ予言が現実となり、フォンテーヌが海に沈んだとしても」

「…ええ。もう五百年も一緒なのですから。これからもずっと、このオクタヴィアは貴方のお側に…」

「そうか、それは嬉しいな。…歌を、聞かせてはくれないか」

 

 僕はその言葉にゆっくりと頷き、静かに子守り唄を歌う。

 …彼女が何か計り知れない責務を背負い続けているのは、ずっと一緒に過ごしていればわかること。

 彼女はこの五百年もの間、毎晩枕を濡らしているのだ。『終わりが見えない、一体いつまで…』そんな寝言を毎晩枕元で聞き続け、心苦しくならない訳がない。

 

 …だが、僕にはまだ、彼女を苦しめるものが何なのかわかっていない。五百年も一緒なのに、それすらわからない自分が情けない。それは予言の解決か、はたまた別のものか…何にせよ、僕は彼女の力になりたかったのだ。

 

 彼女の身の回りの世話をし、彼女の調べ物や執務の助言、フォローをして…ずっとそれを続けてきたが、彼女の涙が止まることはない。僕は情けなかった。ずうっと一番近くに居たのに、一番遠くに離れているような気がするのだ。

 

 ヌヴィレット…彼のような力があれば、もっと別の事でも彼女の支えになれたのかと思うと、僕の中で何か黒い感情が溢れ出てくるのを感じた。

 

 これは嫉妬なのだろう。自分にないものを持っている、僕よりも強い者たちへの妬みの感情。唾棄すべき感情を溢れさせる自分に対し、忸怩たる思いを募らせた。

 

 …しばらくして、規則的な寝息が聞こえてきた。僕は握った手を離し、ベッド横の椅子から立つ。手に残った彼女の温もりが、ゆっくりと消えてゆく。

 

「…では。おやすみなさい、フリーナ様…」

 

 僕はそう挨拶して、ゆっくりと寝室の扉を閉めた。

 

ーーーーー

 

 …月もすっかりと傾いた。

 ここはフォンテーヌ郊外、とある湖の岸辺。僕は短い草の生えた地面に座り、月明かりに照らされた湖面をじっと見つめ、趣味の夜釣りに興じていた。

 

 夜風が草木を揺らし、頬を撫でる。銀を焼き溶かし湛えるように光る湖面の浮きは動かず、竿に手応えも感じられず。…今日の釣果も芳しくないようだった。

 

 ふと、竿に手応えはないが、何かに釣り針が引っ掛かっているのに気がつく。すわ湖底のガラクタか海藻にでも引っ掛かったかと何度か竿を揺らしてみても、やはり引っ掛かりは取れない。

 仕方がない、と僕は竿を地面に置き、潜って直接引っ掛かりを解消することにした。

 

 岸辺に靴を脱ぎ揃え、靴下も脱いで置いておく。礼服のベストも畳み、ズボンとカッターシャツのみになってから、ざぶざぶと湖の中へ入ってゆく。脚のつかない深さまで辿り着けば、あとは顔を沈めるだけ。

 

 眼前には、まるで絵画のような美しい光景が広がっている。ゆらめく海藻や魚の群れは綺麗で、きらきらと光を跳ね返し輝いている。

 僕は釣り糸を辿り、湖底へと潜り始めた。

 

ーーーーー

「…?なんでこんな所に釣竿が…」

 

「…誰もいないし、暇だしな…少しくらいなら借りてもいいか」

ーーーーー

 

 あれからだいぶ深いところまで潜ってきてしまった。こんなに釣り糸が長いはずがないのに、気がつけばどんどんと湖底へと誘われる。

 

 ()()()のおかげか、僕は水の中でも息ができた。むしろ水の中での呼吸のほうが、地上で肺に空気を入れるよりも楽な気もした。神の目も持たずに湖底の水圧に耐えられるのも、産まれのおかげである。光が届かなくなってきた薄暗い湖底でも危険生物に襲われないのも、そのおかげ。

 

 だが、自分の種族に関しては未だ自覚がない。長寿であることは身をもって体験しているのだが、魔神のように神の目なしで元素力を扱える訳でもなく、目はいいがメリュジーヌのように見えないものが見える訳でもない。ただ泳げて長生きなだけの種族である。

 

 ()()に何か特徴があったのなら良かったが、あの人も見た目は普通の人だった。…そもそも、父が亡くなり、代替わりで水神のお付きになったのだから、もしかするとただ自分の世話をさせるために先代水神が創り出した眷属なのかもしれない。

 だとしたら、フリーナ様なら何か知っているのかも…今度聞いてみることにする。

 

 ぐるぐると思案するうちに、湖底に辿り着く。

 ピンと張った釣り糸の先には、湖底から突き出た大きな黒い岩…いや、()だろうか。青白い霞のようなものに包まれ、静かに佇んでいる。周りの生き物たちは軒並み怯えた様子で、謎の嘴に近寄ろうともしない。近づけば神経がひりつくような、身体が危険だと訴えかけているような感覚が襲う。

 

 …なにかおかしい。釣り針を取ったらフリーナ様やヌヴィレット様に報告しなければ。そう考えを纏め、嘴の内側にかかった釣り針に手をかけ…

 

 

 

 

   嘴が勢いよく閉じる。

 

「…!!」

 

 まずい。そう思い急いで手を引こうとするもすでに手遅れで、右腕が完全に挟まれてしまっていた。わずかに血が滲む。が、切断されていないだけ幸運だろう。息が続かない訳ではないし、地道に嘴を削っていけば出られる。

 

 だが、そう甘く行くはずもなく、更なる事態が襲う。

 

 青白いもやが腕の傷口へと集まり吸い込まれていくのだ。それを知覚した瞬間、僕の身体は引き裂かれるような痛みを訴え始める。

 

「………!……!!!」

 

 苦しみに喘ぐも、水がそれをかき消す。心拍数が上がり、喉が渇き声が出なくなる。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのような感覚に襲われる。

 

 痛い、苦しい。自分はここで死んでしまうのか、という焦燥に駆られて、暴れもがくが嘴は離してはくれなかった。

 

 

 いやだいやだ僕はまだ何もできていないどうして力がないと彼女のために生き残れない立派にならないといけなかったどうして助けて助けてヌヴィレットクロリンデ…フリーナ…!!

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()と共に、意識は暗転する。

 

ーーーーー

 

 声が聴こえる。

 

『おい…おいオクタヴィア…返事をしておくれよ…!』

 

『落ち着いてくれフリーナ殿…。シグウィン殿、経過は?』『一応命に別状はないけれど…意識が戻らないわ。それに、この背中のものは…』

 

『おい…起きろよ…起きて…頼む…起きてくれ!

 

「…あれ?」

 

 頭に響く声に目を覚ますと、そこには見慣れない天井。鼻につく薬品の香りで、ここは医務室なのだと分かった。身じろぎをして顔を横に向けると、フリーナ様が悲壮感の漂う表情でこちらを見つめていた。

 

「…起きたのか…よかった…!!」

 

 フリーナ様と目が合うと、彼女は勢いよく僕を抱きしめる。彼女の温もりが何故だか冷えていた身体に染み渡っていくのを感じながら、フリーナ様の肩越しに周りの様子を確認する。

 

 どこか安心した表情を浮かべるヌヴィレット、腰に手を当ててこちらを睨んでいる、子供ほどの背丈とツノ?触角?を持つ、フリルやリボンのついた服を着た女の子…メロピデ要塞の看護婦長、『シグウィン』様…そして赤いスカーフと髪飾りをつけた、見覚えのない茶髪の男性がいた。

 

「…えっと、これってどういう状況なんでしょうか…」

 

 なんだかえらいことになってしまったような気がする。僕がまだ完全に状況が理解できずそう問うと、シグウィン様が説明してくれる。

 

「実は、こちらのお兄さんが岸辺に放置された釣り竿であなたを()()()()()そうなの。あなた、ぐったりしていたから病院に担ぎ込まれたのよ」

「どうも。俺のことは…そうだな、別に偽名は名乗らなくてよさそうだし…『タルタリヤ』。そう呼んでくれ」

 

 にこやかな笑みを浮かべて、茶髪の男性…タルタリヤさんはこちらに手を振る。それにしても、釣り竿で釣り上げた…?

 

「実は、暇してこの辺りを探索してたときに釣り竿を見つけてね…誰もいないし、ちょっと興味が沸いて握ってみたら手応えを感じて、リールを巻いたら君が釣れた、ってとこだよ」

 

 ああ、そういうことだったのか、と勝手に納得した。水底でもがいた時に服に釣り針が引っかかったのだろう。兎に角、この人は僕の恩人ということなのだろう。

 

 お礼を言うと同時に、僕はフリーナ様に要望を伝えることにした。

 

「あ、ありがとうございます、タルタリヤさん…あの、フリーナ様、そろそろ離してもらっても…」

「嫌だ!!!!!離すもんか!!!!!」

 

 フリーナ様はそう言って、僕を抱く力を強めてしまう。あ、少し痛くなってきた、え、なんでこんなことになってるの…?

 

「え…あの、心配させてしまったのなら謝りますが、何故そうもずっとハグを…?もう充分なのでは…」

「何をふざけたことを…僕が、僕が君から目を離した隙に…()()()()なんて考える君が悪いんじゃないか!!!!!!!!

 

「…ど、どういうことだってばよ」

 

 フリーナ様が僕の肩を掴みながら言い放った言葉がより一層僕を混乱させる。よく見れば、ヌヴィレットやシグウィン様、タルタリヤさんもうんうんと頷いている。

 

 …何か、深刻な誤解が起こっているッ!!!!!

 

「ち、違いますフリーナ様!私が自殺など考える訳が「僕は知っているぞ!君は最近力が欲しい欲しいと思い悩んでいるそうじゃないか!しかも僕を寝かしつける時の顔も深刻そうだっただろう!!!!」フリーナ様たぶん気づいてませんけどだいぶ恥ずかしいこと暴露してますよ!?!?!?」

「…靴と上着が岸辺に揃えて置いてあったそうだ。そんな状況証拠があれば入水自殺を考えたということは容易に察することができる。…なぜ、そんなになるまで相談してくれなかったんだ?」

 

 ヌヴィレット様まで心配そうな表情でそう諭してくる。違うんです!誤解なんです!

 

「だから誤解なんです!僕はただ引っかかった釣り針を外しに行っただけ!!!」

 

 フリーナ様を押し除け、ベッドから飛び降りる。その時に気がついたが、患者服が上だけ着せられておらず、上裸の状態であった。

 

「…あの、こんな時になんですが上の服貰えます?ちょっと寒いんですけど…」

「ウチもそうしたいのはやまやまなんだけれど無理なのよ、()()が邪魔で」

 

 要望を伝えるとシグウィン様が不本意そうな表情で拒否の意を示した。…()()

 

 僕は恐る恐る、ベッドが並ぶ病室の突き当たりにある姿見で、鏡に映った自分を見た。性別の割に少し低いと言わざるを得ない身長に、ほっそりとした肉のついていない体格。少し草臥れた様子の顔に少しぱさついた長めの髪の毛。そして…背中から生えた四本の蛸足。

 

 …目を擦る。うん、もやしっ子体型で低い上背、くたびれフェイスにパサパサヘアー…背中から生えたぶっとい蛸足

 

「…なんじゃあこりゃァァァァァ!!!?!?!?!?!?!?!!」

 

 まるで歌劇の刑事が撃たれた場面のように、僕はそう叫んだ。

 

【To Be Continued…】

*1
例のドロポンである




オクタヴィア:本作主人公、水神の補佐官をやっている少年。五百歳以上の合法ショタ。フリーナ様を守る為の力を欲している。

フリーナ:フォンテーヌを統治する水神。信頼している部下が入水自殺未遂をしたと聞いて飛び起きてきた。オクタヴィアだけは絶対に失いたくない大切な人。

ヌヴィレット:フォンテーヌの最高審判長、二番目の権力者。元来の友人が自殺未遂をしたと聞いて執務室を飛び出してきた。オクタヴィアのことは良き友人だと思っているが敬語を外してもらえない。今日もフォンテーヌに雨が降る。

クロリンデ:最強の決闘代理人。オクタヴィアを自宅に連れ込んだ前科()あり。野放しにしておくとたいへん危険である。

シグウィン:フリーナ様の補佐官が自殺未遂を起こし、経過を見るためにヌヴィレットに呼ばれた。たまにリオセスリとオクタヴィアの会話に混ざる為、仲は良好。

タルタリヤ:一般通過執行官。決闘代理人と粗方勝負をつけた後、闘争を求めてぶらついている時に釣り竿を発見、みごとオクタヴィアを釣り上げた。



主人公の詳しい描写は次回になります。
もしよかったら感想・高評価・改善のご意見よろしくお願い致します。

水の都のクラーケンif〜夜の深境螺旋〜 見たい?

  • 稚拙でもいいから見たいでござる。
  • 稚拙なら書かなくてもいいぞ。
  • エッチなのはダメ!岩喰いの刑!!!
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