水の都のクラーケン   作:ミトコンドリアン

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どーも、亀更新でお馴染みミトコンドリアンです。
お気に入り1000件突破、1007件ありがとうございます!ここまで来れるとは思ってもみませんでした。ほんと、感謝の極みでございます。

では、いつのまにか10000字超してた今回のお話をどうぞ。



蛸の計略/国際問題ウルトラC

 

 

 …気がつけば、僕は暗い海に浮かんでいた。いや、ここは本当に海なのだろうか。重力を感じられず、上も下もわからない。ただおそろしく冷たく光のない空間に浮かんでいた。

 

 怖くなって声を上げても、響きもせず暗闇に吸い込まれていく。もがいてももがいても、進んでいるのか戻っているのかも分からなかった。

 

 次第に状況が理解できてくる。僕はたしかフォンテーヌ廷に戻ってきた後、最近では珍しく添い寝はいいとフリーナ様に言われ、そのまま眠りについたはずだ。と、いうことは…これは夢なのだ。つまりじきに覚め、また新しい一日が始まる、ということ。そう考えれば、先程までの漠然とした恐怖は鳴りを潜めた。

 

 もがくのをやめると、不思議な浮遊感が感じられるようになってきた。せっかくならばこの感覚を楽しもうではないか、と、ぼんやりと暗闇の向こうを見つめていると…

 

『お前…随分と呑気だな。そんなのであの仕事が務まっているとは驚きだ』

 

 急に声が聴こえてきた。低くしわがれた男の声だった。いきなり罵倒されたことに少し腹を立て文句を口に出してみると、声の主はくつくつと笑い出す。

 

『ククク…元気が良いな。まあ、そうでないと俺の協力者は務まらん』

 

 協力者、という言葉に疑問を浮かべる。貴方のような人に協力をした覚えはないのだが。

 

『お前察しが悪いな…ホラ、いつも力を貸してやっているだろう。誰のお陰で元素力が扱えていると思っている』

 

 ずるり、と背中から音がした。肩越しに触腕が眼前に回り込み、蒼炎を噴き出しゆらゆらと揺れる。…もしや、僕の“力”の…意思?知能?みたいなものなのだろうか。

 

『まあその認識でいい。此度はお前の魂との癒合が進んできたから、このように接触まで至ったのだよ』

 

 触腕は僕の意志とは別に、勝手にゆらゆらと揺れて感情を示してくる。どうやらこいつは本当に僕の“力”そのものらしい。僕は感謝の意を示した。貴方のおかげで、僕は力を手に入れたということなのだから。

 

『お礼をしたいのはこっちの方だぞ?全く妙な縁よな…滅びるのみと諦観していた俺が、なんの因果か奴らの()()()なんぞに手を貸している。業腹モノだが…まあ、お前と俺の利害は一致している』

 

 一気に捲し立てられて困惑する。縁?諦観?奴らのしもべ…?それに、利害の一致とはどういうことか。

 

『お前はホラ…お前の主神か。水神の悩みを取り除いてやりたいのだろう?そして、例の“予言”についての対処も…。俺の計画の道筋にはそれも含まれているのでな。俺は計画を果たせて嬉しい、お前は水神の苦しみを除けて嬉しい。良いことづくめだろう?』

 

『しかしまあ…聞き手、いや、聞き手の“後継者”か…?あいつも立派になったものよ。南の引きこもりも、東の石ころとそよ風にニーベルンゲンも、これで浮かばれるというものよ。』

 

『だが…今のこの世界の秩序は気に入らん!!!!!!!!』

 

 声は意味のわからないことを呟いたかと思うと、いきなり怒鳴り始めた。背中の触腕がぐねぐねと動き回る。

 

『統治を放り投げた()()!疲れたからと神を止めた()()()()!ショックで引きこもった()()に、うっかり者の()()()()()()()()()()()…いや、今は()()()()()()()()か。そして全てを後進に投げ出すあの小娘も!我が友の同胞の力を我が物顔で乱暴に振るう、忌々しき俗物どもめ…!』

 

 怒気はどんどん強まって、やがて空間がびりびりと震えるほどになってきた。思わず耳を塞ぐと、声は申し訳なさそうに語りかけてくる。

 

『あ、ああすまない…取り乱してしまった。いかんな、激情とはかくも理性を飲み込むものか…まあいい。今回を機にお前も()()()()()()()を幾分か振るえるようになっただろう。存分に使うが良い』

 

 権能、とはどういったものなのだろうか。今までの元素力とはどう違うのだろうか。それに、僕自身の、とは?

 

『うーむ…まあ、習うより慣れろという言葉があるそうではないか。いつか勝手に使い方はわかる。それまではまあ…引き続き腕で頑張れ』

 

 そんな無責任な。

 

『うまく説明ができんのだ…。まあ、お前は素体としては極上だぞ?なにせ憎い彼奴らの力の器にもなりうるのみならず、お前の父親の()を辿ればニーベルンゲンが志向した力の行使すら可能だろう。まったく、俺も良い宿主を見つけたものだ』

 

『…さて、そろそろ限界だ。これ以上は話していられない』

 

 声がそう言い放つと、身体が一気に持ち上がる感覚がした。ぐんぐんと高速で浮上しているような、そんな感覚だった。

 

『また逢おうではないか、我が協力者よ。…次に逢う頃には、もっと詳しく話してやる』

 

 その言葉を最後に、僕の意識は闇に落ちていった…。

 

 

ーーーーー

 

 本日も裁判の時間がやってきた。

 

「…なんだってこうなるんです?」

「それはこっちが訊きたいかな」

 

 歌劇場、控室。今回訴えられたのは、ファデュイ執行官第十一位『タルタリヤ』さん。僕とは何かと縁のある人物であった。

 

「リネ兄妹といい、貴方といい…どうしてこうも100%ファデュイが悪いという世論は強いんでしょう」

「そりゃあ、俺らは結構悪いことしてるからね。でも今回は誓ってやってない」

「そう、だと良いんですけど…今回私は貴方を庇い立てするのは難しいですよ?」

 

 いくら命を文字通り“釣り上げた”恩人だからといって、リネ兄妹とはファデュイとの繋がりが違う。あちらはただの系列孤児院の孤児、こちらはファデュイの幹部である執行官…。彼を庇ってしまえば、国民の不信感を煽りかねない。それだけは避けねばならない。

 

「そりゃそうだよね…でも、こっちでは悪いことはしてないし、噂になってる“原始胎海の水”も関わったことはないから。どうせ証拠不十分で裁判には勝てるさ」

「でしょうけど…この国の裁判の都合上、“大衆の正義への信仰”が判決を下す材料の大半を占めます。もし何もやっていなくても、これまでの累積で懲役刑…なんてことになるやも」

「…、それは本当なのかい?」

「いえ、私共も貴方みたいな“悪行を重ねているであろう機関の幹部だが、今回の容疑に対する有効な証拠はあまりない”という案件を扱ったことがないので…」

 

 タルタリヤさんは一気に困惑した様子になる。まあそうだろう、誰だって刑務所には入りたくない。

 

「そんな…あ、でもさあ」

 

 何かを思いついたようにタルタリヤさんは柏手をした。そしてニコニコと笑いだす。いきなりのことに少しの不気味さを感じながら、僕はタルタリヤさんが何と続けるのかを待った。

 

「この国って“決闘”の制度があるだろ?ということは、戦って勝てば真実を勝ち取れる!そうだろ?」

 

 タルタリヤさんはなぜかとても嬉しそうに言った。…この人は一体全体、何を言っているんだ?

 

「あの…気を悪くしたら申し訳ないんですけれど、神の目はお持ちで?」

「あー…今は“相棒”に預けてるから邪眼しか…」

「邪眼持ってるのですら問題なんですが?」

 

 邪眼、といったらアレだ。使う度に命を削る粗悪品の神の目…これまでに何度も、それに関わる事件・裁判を見てきた。アレはれっきとした危険物であり、法により所持が禁じられている。

 

「ハアもう、それくらいは黙っててあげましょう。しかし!しかしですよ?…もし決闘の場で邪眼の使用が認められたら、それこそ貴方はメロピデ要塞行きです。絶対に使わないでください」

「『邪眼を使わず決闘に勝て』ってことかい?」

「『決闘せずきちんと法廷で争え』と言ってるんですよ!!!!!」

 

 何なんだこの人!さっきから目がぎらついててめちゃくちゃ怖い!どんだけ戦いたいんだ…こんなに面倒な人だなんて思わなかったッ…。

 

「うーん、そっかあ…家族に会えなくなるのも辛いし、決闘で勝って無実を証明するのがいいと思うけどな…それこそ、なんで僕の決闘を止めるんだい?」

「…貴方はファデュイ執行官。決闘相手には相応の相手…おそらくクロリンデさんが出てくるでしょう。そうなったら、神の目がない貴方では勝t「本当かい!?」えっ、何が…?」

 

 タルタリヤさんはいきなり立ち上がる。そして僕の肩をわっしと掴んで大きな声で質問をしてくる。

 

「だから、本当にクロリンデが出てきてくれるのかい!?」

「え、ええ。貴方の実力に合わせれば、多分そうなります…」

「そっかそっか…実はこないだ個人的に決闘してもらった時、本気を出してくれなかったんだよ。やっと本気でやり合えるのか…!!」

 

 キラキラとした目で、待ちきれない様子のタルタリヤさんは両手を広げて喜びを露わにした。まずい、失言だったか…。こうなったら、なんとしてでも真面目に法廷で争わせなければ。

 

「じゃあ貴方の邪眼所有をバラしましょう。邪眼を取り上げられ、邪眼所持の罪で起訴された後は…決闘でも、大人しくメロピデに行くのも…好きにすればいいです。もし決闘するなら、クロリンデは神の目を使います。手加減もしませんよ」

「…俺にハンデを負わせる気かい?」

「だって貴方が決闘したいしたいと言うから…きちんと法廷で争うなら、バラしませんしメロピデ要塞に行かなくて済みますよ」

「なるほど…君もなかなか意地が悪いね」「まあ伊達に500年生きてませんから」

 

 タルタリヤさんは少し考えた後、がっくりと肩を落としてため息をついた。

 

「分かったよ。…ちえっ、折角本気でやり合えたのに」

「まあまあ、それはまた今度法廷の外でやればいいではないですか」

「でもまた手を抜くんだろ?はぁ、一体どうすれば本気を出してくれるのかな…」

「私から話を付けておくくらいはしますよ」

 

 タルタリヤさんは不満げに頭の後ろに手を組み、部屋の片隅にある置き時計を一瞥すると立ち上がる。

 

「ん、そろそろ時間だな。君も早めに水神サマの元へ向かうといいよ」

「そうしますね。…では、また後で」

 

 僕は控え室を出て、我が主神の下へと向かった。 

 

 

 

 

 

 

「…そういえば、彼もたしか神の目を………」

 

ーーーーー

 

 …今回の法廷は、急展開の中判決が下された。タルタリヤさんの裁判に、棘薔薇の会現会長ナヴィア嬢が現れ真犯人を…マーセル氏を訴えた。タルタリヤさんに出かけていた判決は下されることなく其方に議題が移り、ナヴィア嬢は理論立ててマーセルを追い詰めた。

 

 途中まで余裕を保っていたマーセル氏は、『ヴァシェ』という言葉にそれを崩され…決定的な証拠を旅人たちがやってきて提示。マーセル氏が“原始胎海の水”を使った違法薬物売買、及び“連続少女失踪事件”の犯人であることが明らかになった。

 

「お前たちは…!お前たちは、私の苦しみを理解できるのか!最愛の人が目の前で溶けてゆく光景を!指を咥えて見ているだけだった…っ!!!」

 

 マーセル氏は激情を露わにし、大声で叫び始めた。大事な人を失った気持ちもわかるが…それはそれとして、こいつも沢山同じような人間を生み出したのだ。いくら気持ちを訴えようとも、この法廷は動かない。

 

「説明をしても誰にも信じてもらえなかった!人が水に溶けるなど、あり得ないことだと!」

 

 …フリーナ様の纏う雰囲気がどんどんと憂いを帯びてゆく。外の雨音が一層激しくなった。

 

「こんなっ、こんな見栄を張るためだけの審判で、貴様らは人間の苦痛に茶番を求めて…っ。いつもいつも傍から見ているだけで、人を弄んで!!!!!」

 

 数百年この職務に就いていたが…こいつは、我々が『正義』『最大多数の最大幸福』以外の目的でこの国を統治してきたと思っているのだろうか。それがそうだとするのなら、瞳を閉じて神妙な面持ちを浮かべるヌヴィレットは…拳を震わせている我が主神は、一体何を考え、何を思っているというのだろう。

 

「私は…私はフォンテーヌ人じゃない。だから、だから溶けないんだよ…なら、どんな事をしてまでも、取り戻すしかないじゃあないか…」

 

 マーセル氏は力無く膝をつき、へたり込んでしまった。ヌヴィレットはその様子を見て、これ以上の発言はしなさそうだと取ったのか、裁判の締め括りに入った。事件の真相を纏め、紡ぎ…最後には、カーディナルに判定を委ねる。

 

 神の作りたもうた天秤は、水元素力の光を集めてゆらめく光を放ち始める。…()()()()()()()輝きの中、ヌヴィレットはカーディナルの判決を受け取り…それを一瞥すると、顔を上げ法廷に向き直った。

 

「被告人ヴァシェは…有罪とする」

 

 正義の神による判決が下され、水底の辺獄への片道切符が渡された。恐らくは当分出られることはないだろう。…沢山殺したんだ、そうなりもするだろう。

 

 観客席では、ナヴィア嬢と旅人が使命を成し遂げたような、凛々しい表情で佇んでいた。…そうか。これで、彼の汚名も雪がれるのか…。

 

「…今度、墓参りにでも行くとしますかね」

 

 やっと終わったよ、カーレスくん。

 

ーーーーー

 

「さて…。連続少女失踪事件の真犯人に判決が下ったことにより、タルタリヤ殿への告発は無効となる。タルタリヤ殿には、一応の判決をカーディナルに任せることになるが…恐らく無罪だろう。しばし時間をいただきたい」

 

「別にいいとも。俺はもう気にしてないしね…。でも、残念だね。復讐の相手もいないってのはさ…」

 

 彼はそんな事を言いながら証言台への階段を登っていく。彼はファデュイ執行官という肩書きに抜きにすれば、とても家族思いの優しい青年であろう。…先程見せた“戦いたがり”には目を瞑るとして。

 

 余韻に浸り、被害者達に思いを馳せていた観客達も、ゆっくりと法廷を後にしてゆく。タルタリヤさんが登ってきた頃には、数も半分ほどに減っていた。先程の様にカーディナルに光が集まり、ヌヴィレットに判決を伝える。

 

「…ふむ」

 

 …あれ?

 

「諭示裁定カーディナルの審判結果により、タルタリヤ殿は…」

 

 なんだか、とても嫌な予感が…。

 

 

 

 

「有罪とする」

 

 …まずい。最悪の事態が起きてしまった。あんの、あんのポンコツ天秤め…!!!!

 

「な、なんだってえ!?」

「おいおい…そんな冗談笑えないんだけど?」

 

 パイモンさんの声が、タルタリヤさんの呆れた様な声が。静まり返った法廷でははっきりと聞き取れた。

 

『そんな…最高審判官と別の判決を出すなんて初めてなんじゃ…』『でも、これまでの悪事を累積で裁いてるんじゃ…』『いや、今は失踪事件の審判なんだから…』

 

 あ、ああまずいまずいまずいまずい!はっきりとした罪状でならまだしも、証拠も何もない裁判で執行官を有罪なんて国際問題だ、外交問題だっ、国の統治が揺らぐ…!なんとか、なんとかリカバリーしなければ、でもどうやって…そうだヌヴィレット!

 

 ヌヴィレットに向かって手でバッテンを作り必死にアピールする。必死に飛び跳ねて、彼の確実に視界に入るように。彼はそんな僕を一瞥し、表情を変えぬまま向きなおる。

 

「諭示裁定カーディナルの判決結果に準じて、有罪とする」

「なんでだよ…っ!」「ひえっ」

 

 思わず手すりに拳を叩きつけてしまう。隣でびくりと肩を跳ねさせたフリーナ様に謝罪し、タルタリヤさんの様子を伺う。…タルタリヤさん?なんで笑みを浮かべて肩を回しているんですか?

 

「…フォンテーヌ人の誇る審判が、こうもひどいものだとは…っ!」

 

 彼は手すりを乗り越えて飛び降り、舞台上に着地する。タルタリヤさんの逃げ道を遮るように警備ロボ達が立ち塞がるが…。ちょっとタルタリヤさん?なんで今拳を握らなきゃいけないんですか〜?

 

「これがそっちの規則なら…俺も自分の規則で行こう‼︎

「…うそだと言ってよバァニィ…!」「だ、誰だいその人…?」

 

 仮面をつけ、紫色の雷元素エネルギーを撒き散らしながら、タルタリヤさんは次々と警備ロボをなます斬りにしていく。…ああ、法廷での暴力行為、公務執行妨害、邪眼使用、うっうっうっ国際問題イイイイ…。

 

 僕はフリーナ様を見る。怯えた様子で舞台の方を見ているフリーナ様を庇う様に立ち、僕は決意をした…。これはもう、僕が介入しに行こう。

 

「フリーナ様、奥に護衛を待機させてありますので、危なくなったら逃げてください。私は…少し行ってきます」

「な、何を言っているんだい!?相手はファデュイ執行官だ!君の勝てる相手じゃないよ!」

「あくまで話し合いです!…それに、もし手を出されても暴行罪での検挙ができます。ハア、彼は一応恩人なんですけどね…!」

「ま、待って、僕をひとりにしないで…っ、あーっ!」

 

 背中から触腕を伸ばし、手すりを掴んで勢いよく身体を引っ張り…飛べっ!

 

「待ったあっっっ!」

 

 身体を回転させ背を地面に、触腕で受け身を取って片膝と拳で着地…!少し痛いが、これくらいはね…!

 

 警備ロボを片付けたタルタリヤさんは、飛んできた僕を見て動きを止めた。僕は両手を広げ、説得に入る。

 

「いけませんタルタリヤ氏。貴方はこれ以上罪を重ねるべきではない。今回の判決は…カーディナルの不調という線もあります。なんせ五百年動きっぱなしなんです。そろそろメンテも必要でしょう」

「へえ…でも、俺は結局メロピデに送られるんだろ?だったら…」

 

 彼は剣を握る手の力を強めたのか、手袋がぎちりと音を立てた。…まだだ。まだリカバリーは効く…。

 

「いいえ。今回は失踪事件についての審判ですので、あの判決は不適当です。ヌヴィレットのお墨付きでもあります。…まあ、一時的に拘留されるかもしれませんが、きちんと無実は証明できます」

「へえ…君、僕を庇ってくれるのかい?」

 

 彼がそう言うと、観客がざわざわと騒ぎ始める。…紛らわしい言い方をしてっ、これじゃファデュイと繋がってるみたいじゃないか…!

 

「何を勘違いしているんです?私はただ、“絶対的に公正な正義”を守る為に貴方の暴挙を止めに出ています。貴方がファデュイでなくともこうしています」

「そう、冷たいねえ…その“絶対的に公正な正義”ってのは、今すぐ適用するのは無理なのかい?」

「無理です。ですがきちんと裏を取れば、一週間もすれば出られます。我慢しなさい…!」

 

 声をかけ続けるが、彼は納得いかない様子で肩をすくめたかと思うと、何かを閃いたように目をきらめかせた。

 

 

「あっ、もしかしてこの状況…

 

 

 

 

 

 

君と戦れるいい機会なんじゃないか?

 

 

 反射的に触腕を伸ばし、飛んできた矢を弾く。あーっ、国際問題は避けられなかった!!!

 

「何やってんです!散々ぱら忠告させといてそれとは!!!」

「だってえ、感じるんだよ。君の奥の奥から…とても強い力の気配をさあ!!!」

 

 彼は一気に踏み込み、こちらに肉薄する。大剣を取り出しなんとかそれを受け止め、炎元素を放出して近接を拒否すれば、彼は軽く後ろに下がって避けた。

 

「やっとやる気になった?嬉しいよ、君とも戦れるなんてさ…!」

「法廷の規則も守らず何を言う!!」

「言ったでしょ?自分の規則でいく、って!」

 

 荒れ狂う雷元素。自分の方に迸る雷撃は腕ではじける…けど、このままでは観客も巻き込まれてしまいそうだ。

 

「旅人さん達!観客の避難誘導をお願いします!とにかく下がらせて!」

「えっ!?でも…お前一人で相手する気か!?」

「伊達に神の補佐官やってません!さあ、早く!」

「うぅぅ…旅人、言う通りにしよう!おーい!みんなついてこーい!」

 

 よし、これで大丈夫。あとはこの人を黙らせるだけだ。僕は元素力を練り、触腕に溜め込み…放出!

 

「うおっ…!面白いね、まるで花火みたいだ!」

 

 触腕から元素エネルギーを勢いよく放出することで、まるで放たれた一条の矢のように突貫する。慣性と体重を思い切り乗せて大剣を振り抜き、彼の双剣とぶつかり合う。過負荷反応の爆発があちこちで連鎖し、ステージに焦げ跡を作っていく。

 

「想像以上だ…!体幹のブレがないし体重も乗ってる!それに…!」

 

 鈍い音を立て、大剣と双剣がぶつかり合う。彼の防御が一瞬崩れ、明確な隙が生まれた。

 

「なんて馬鹿力…!」

「せえやあっ!!!!!!」

 

 彼の脇腹を大剣の峰で打つ。切傷はできないだろうが、肋を何本か行くつもりで思い切り打ち込む。すこし痛い目を見てもらおう…!

 

 彼は横に吹き飛び、壁に激突した。だがすぐに体勢を戻して着地、こちらに凶悪な笑みを向ける。…なんで起き上がれるの!?

 

「イテテ…まともに撃ち合ったのがよくなかったかな」

「イテテで済みますか!?痛覚狂ってんですか!?」

「戦ってるとね…。さて、そろそろ本気を出そうか」

 

 タルタリヤさんはそのままこちらを睨みつけ…腕を身体の前で交差させる。その直後、劇場に雷鳴が轟いた。

 

『ああっ…!』『あれはまさか…!』

 

 旅人達によって避難させられていた市民達が声を上げた。タルタリヤさんは浮かび上がり、身体に禍々しい鎧を纏ってゆく。そして腕が振り払われ…大きな一つ目のついた仮面が顕になった。…あの姿には見覚えがある。あの新聞で見た、“司法の敵か、それとも味方か”…!

 

『かっ、仮面闘士だっ!』『やっぱりファデュイだったのか!?』『あの人が仮面闘士なら、なんで有罪に…!?』

「お、おいなんだよ仮面闘士って…!」

“…まさか、また公子は何かやったの?”

 

 あの人…何者かから僕を助けた、世間では“仮面闘士”と呼ばれる存在が、僕の目の前で禍々しい雷元素を撒き散らしながら浮かんでいる。こんな状況で知りたくはなかった…!

 

「さあ…第二ラウンドと行k「ちょっと待ってください」…何?」

 

 彼は不機嫌そうに首を傾げる。

 

「…貴方が私を助けてくれた人だったのですね。ありがとうございました」

「ああ、礼には及ばないさ。俺が勝手に助けただけだから」

「そうですか。…もうやめましょう、こんな事。貴方が私の恩人だと分かった以上、これを使ってお咎めなしに済ませることもできるかもしれません。どうか、どうかこれ以上暴れるのは…」

 

 彼にもう一度説得を試みた。これ以上ない、立場が揺らぎかねない最大限の譲渡。これで引いてくれなければ、僕は恩を仇で返すことになる。タルタリヤさんは腕を組み、暫く考えてから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌だ…ねっ!!!!」

 

 閃光が走る。眼前で迫り来る濃密な雷元素の矢が弾け、視界は過負荷反応の煙と爆炎で埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

「…ッ、オクタヴィアッ!!!!!」

 

 ステージの上から大きな声が聴こえた。そちらを見れば、最高審判官の席の手すりを掴み下を見やるヌヴィレット。その表情は依然として厳かなものだが、先程の声からは焦りが見て取れた。

 

「ぬ、ヌヴィレットってあんな声出せるのか!?」

「いいや…あたしも聴いたことないよ、あんな声」

 

 パイモンの問いにナヴィアが返す。どうやら相当に珍しいようで、彼女も…先程合流したクロリンデも驚いている様子だ。だが、今重要なのはそこではない。

 

“オクタヴィアは…!?”

「そっ、そうだったぞ!タルタリヤ、な、なんてことを…!!」

 

 あのタルタリヤが、交渉をしようとしたオクタヴィアにむけて攻撃を放った。未だ爆炎に包まれており彼の安否は確認できないが、確実に無事では済まされない。私が介入してでも…タルタリヤを止めなければ!

 

 私が剣を取り出すと、ナヴィアも大剣を、クロリンデも武器を取り出し構えた。

 

「あーあ。咄嗟の反応もしてくれなかったなんて…残念だ。もう少し強ければもっと楽しめたのに…」

 

 魔王武装を纏ったタルタリヤはゆっくりとこちらを向く。彼はこのまま法廷を戦場に変えるつもりか…!?

 

「さあて、次はどいつがかかってくる?旅人?それとも金髪のお嬢ちゃんか、クロリンデか…それとも、最高審判官サマかな!?」

 

 彼は私たちに、そしてヌヴィレットに刃の切先を向け、今にも突貫してきそうだ。私たちは構え、ヌヴィレットも水元素力を集め始めている…さあ、誰からだ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝手に殺さないでくれますか?」

 

 底冷えするような声が法廷に響き渡る。まるで私達の頭の中に直接響くような、極めて冷たい声がする。だがこの声は…オクタヴィアのもの。

 

「全く…貴方がそんなにも欲望に忠実だとは…所詮()()()()()()()()()()人間ということですか」

「へえ…生きてたならそう言ってよ、オクタヴィア君」

 

 タルタリヤは非常に愉快そうに、薄れてきた爆炎の方を見た。…その奥には、青い光。オクタヴィアの青い元素力の光だ。

 

「貴方はしでかした事の重大さを理解できていないようですね。では、そんな貴方に説明してあげましょう」

 

 青い光の傍に、もう一つ()()()()()()が灯る。

 

「連行に従わず、警備ロボを破壊し、法廷を荒らした」

 

 ふたつ、みっつとその青い灯は増えてゆく。その光は、彼の腕からのものと思われる炎の光とは違い、どことなく…()()()()()()()()にも似ていた。

 

「説得に応じず私と戦い…彼女の、水神の眼前での数々の狼藉を働いた」

 

 煙が晴れてゆく。その奥には、オクタヴィアが大剣を片手に携え、幾つもの“水元素力の玉”を浮かべて立っている。オクタヴィアは掌を見つめた後、腕を勢いよく払った。

 

「“水神”の補佐官の名において…貴方をここで断罪します!!!

 

 水元素力の玉の表面は大きく波打ち…タルタリヤに向け、()()()()()()()()()()を放つ。

 

 この法廷で、戦いの第二幕が幕を開けた。

 

 

 

【To Be Continued…】

 

 

 

 

 

 

 




オクタヴィア:前半の戦い方は某型月の騎士王魔力ロケットのイメージ。

謎の声:どうやら何かの目的のためオクタヴィアの中にいるらしい。

ヌヴィレット:本来なら変身中の攻撃でタルタリヤを鎮圧するが、“仮面闘士”=タルタリヤという事実の整理に一瞬気を取られ、介入が遅れた。

フリーナ:特等席のうしろで震えて見ている。

ーーーーー
読了ありがとうございます。いかがでしたか?
突如目覚めたオクタヴィアの新たなる力…一体何由来なんだっ()
よろしければ感想・評価よろしくお願いします。すごく励みになります。

水の都のクラーケンif〜夜の深境螺旋〜 見たい?

  • 稚拙でもいいから見たいでござる。
  • 稚拙なら書かなくてもいいぞ。
  • エッチなのはダメ!岩喰いの刑!!!
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