皆様のご支援いただけて嬉しい限りです。これからも精進いたします。
ですが今回は少し短めかも。みんな大好きファトゥスが出るよ!独自設定注意だけど!!
…諸君、私はおねショタが好きだ()
フォンテーヌ邸。水神フォカロルスの領域たるフォンテーヌの中心都市。このテイワット大陸においては最も工業が発展し、街中の至る所に機械人形やマシナリーが見られ、裁判の場である歌劇場、パレ・メルモニアにだって「諭示裁定カーディナル」というマシナリーが鎮座している。
そんな発展した街並みにだって、やはり日の当たらない所というものはある。僕は今、建物が乱立する中心、抜け地になった場所に建てられた公園のベンチに座っていた。この場所は個人的なお気に入りである。
フリーナ様の補佐官、そして付き人として数百年はこの仕事に勤めている僕は、自分で言うのも小っ恥ずかしいが民衆の間でもそこそこ有名だ。フリーナ様と仕事で街に出れば一緒に好奇の視線で見られるし、一人でいると新聞記者などはすぐに飛びついてくる。それを躱し続けるのは、やはり僕には疲れるのだ。
だが、日陰になった場所にある、ぽつりと小さな噴水とベンチがあるだけの簡易な公園には誰も来ない。目立たない場所にあるし、所謂
僕は午前の仕事を終え、ここで昼休憩を取っていた。フリーナ様を起こすのは僕の役目で、朝食も僕が用意しているが昼食は違う。屋敷の給仕さんに用意してもらっているので、僕とフリーナ様は昼食は別で食べることが多い。ちなみに、ディナーはフリーナ様の要望により、平日は二人でとることになっている。
朝に用意してきたサンドイッチの包みを膝の上に広げ、しばらく眺めてからかぶりつく。トマトの酸味と玉ねぎの香りに甘み、魚のフレーク*1の旨味とソースが見事に調和している…うむ、今日も完璧っ。
そう自画自賛しつつ、フォンテーヌの恵みに舌鼓を打っていると、カツカツと地面のタイルを叩く足音が聞こえてきた。すわ誰か来たか、と入り口の方へ振り返って思い出す。そういえば、
足音を響かせ公園に入ってきたのは、一人の女性。さらりとした短めの、前髪の一部に黒が混じった美しい銀髪。凛々しい雰囲気を纏い、白黒のコントラストを強調した服装に、頸の下辺りに光る神の目や赤い襟袖、ヒールは洗練された優美さを纏っている。
「…久しぶりだな、オクタヴィア殿」
「ええ、二ヶ月ぶりでしたね、院長さん」
彼女は…本名は知らないので暫定的に“院長さん”と呼ばせて頂いているが、ここフォンテーヌの孤児院「壁炉の家」の院長を務めている女性だ。彼女はフォンテーヌ人であるらしいが、かの氷の女皇が統治する国『スネージナヤ』における外交使節団「ファデュイ」のメンバーで、孤児院もその系列だとか。
外交圧力をかけたり、稲妻ではなにやらやらかして外交断絶になっていたり、悪行の噂が絶えないファデュイの構成員。フォンテーヌの水神フォカロルスの直属の部下である僕が一緒にいると、国民が不信感を抱きかねない。だからこそ、僕たちはある種の立場を捨てた“プライベート”で交友を持っている。この場所はそういうのにはうってつけだ。
「私がいない間、孤児院の子たちによくしてくれていたらしいな。毎度すまない。感謝する」
「いえ…孤児院運営は大変でしょうし、礼には及びませんよ。たとえファデュイの系列でも、あの子たちは関係ないでしょうし」
彼女がお礼を言うが、そこまでのことはしていない。彼女がいない間孤児院の食糧支援をしたり、たまに訪問したりしただけ。…でも、長い間離れていても孤児院の子供達を想っているのだったら、この人は悪評の重なるファデュイの構成員とは違うのだろう。僕の中で彼女は「格好良くて優しい人」、ただそれだけの評価である。
「今日はヒールなんですね。お似合いですよ」
「ああ、ありがとう…そういう貴方は、見ないうちにガラリと服を変えたのだな。よく似合っている」
彼女は不思議そうな顔をして僕を見つめている。そう、今の僕はいつもの執事服ではなく、クロリンデたち決闘代理人の服を仕立てている店に頼んで作ってもらった
「ええ。最近ちょっといいことがありまして…フリーナ様が記念にと仕立ててくださったんです」
「ほう。やはり、水神フォカロルスの部下ともなると威厳は必要だからな…今までの普通の召使いの服よりかは格が出るだろう」
彼女はそう言うと、僕の左隣に座る。そしてもくもくとサンドイッチを頬張る僕を何か話すでもなく、食べ終わるまでじっと眺めている。包みを畳んで鞄に入れ、ハンカチで口を拭き終わるまで沈黙の時間は続いていた。
彼女は僕が食べ終わったのを見届けると、懐から小さな箱を取り出した。その中には草が紙に巻かれた筒が入っていて…まあ、所謂煙草である。
「吸っても?」「ええ、おかまいなく」
僕の許可を得てから、彼女は煙草を咥え、指に神の目で火を灯してゆっくりと近づける…のを、僕は手で制した。彼女は怪訝な顔をしてこちらを見やる。
「そんな顔しないでください…今日は特別に、僕がつけてあげます」
「なんだ急に…ライターでも手に入れたのか?」
そんなことを言いながら、彼女は煙草を咥えこちらに先を向ける。僕はそれを確認して背中から触腕を一本伸ばした。
少し驚いた様子の館長さんを尻目に、金属装甲に覆われた触腕の先に蒼い火を灯し、彼女の煙草の先にゆっくりと近づける。煙草にちりちりと蒼い火が写り、辺りに香りが広がってゆく。
彼女は蒼い火の煙草をゆっくりと吸い込み…紫煙をゆっくりと吐き出した。
「驚いた。まさか貴方が神の目を手に入れていたとは…」
「いいこと、というのはこのことですよ」
触腕を見つめる館長さんの目の前で、触腕をゆらゆらと揺らしてみせる。彼女の目はそれを少しの間追い、まもなく僕の身体をちらりと一周する。
「だが、身につけてはいないようだな…隠しているのか」
「ええ。この
この触腕は隙間なく金属装甲に覆われていて、見た目は機械の触手である。さすがに生の蛸足を見せる訳にもいかないので、一部の人以外に対しては機械の腕として通している。
彼女はほほう、と納得したような表情になった後、ゆっくりと煙草を燻らせる。
「しかし、私と同じ炎元素かと思えば蒼色とは珍しい。奇遇なのか、そうでもないのか…理由はわかるか?」
「それは僕もわかりません。神の目を授かったのも本当につい先日ですし、コントロールもまだ上手くいかない状態なので」
そうか、と彼女はまた煙草を吸い、紫煙をふうと吐き出した。そして一息つくと、小箱から煙草を一本取り出しこちらに向ける。
「久しぶりの再会、そして貴方は炎元素の神の目を手に入れた…それを祝して一本どうだ?」
「ふむ…いいですね。ありがとうございます、いただきましょう」
僕はそれを受け取り、口に咥える。側から見れば少年に煙草を勧める成人女性というなかなか事案な絵面だが、僕は実際彼女より歳上である。煙草も普段は吸わないが、彼女と出会って話すようになって、三回目ぐらいに勧められたのを機に、数ヶ月おきの会話の折に三回に一回は勧められるようになった。その時以外は一本たりとも吸わないが、彼女に勧められたら吸うことにしていた。
僕は自分の手を見つめ、先程彼女がやっていたように指先に火を灯そうとするが…ぼむ、という音と共に強い炎が出てしまい慌ててもみ消す。指を擦り合わせてみたりしても、やはり強い炎しか出て来ず、彼女のように手に丁度いい火が出せなかった。
仕方がない、とぼくが背中に力を込めると、突然彼女が僕の肩を叩く。何かと思いそちらを見れば、彼女は咥えていた煙草を外し…僕の口に咥えさせてくる。
いきなりの行為に僕が動揺しているうちに、彼女は僕が咥えていた火のついていない煙草を奪い、咥える。そして唐突に、僕の後頭部に手を回した。
ぎょっとする僕の様子を無視し、彼女の顔がどんどんと近づいて…煙草の先と先が触れ合った。彼女は赤いバツ印の浮かぶ瞳でこちらに目を合わせてくる。
緊張のあまりゆっくりと息を吸うと、ちりちりと彼女の煙草に火が移ってゆく。顔が離れた頃には、彼女の煙草にも蒼い火が付いていた。スウ、と吸って紫煙を口のなかに留め、煙草を外して少し肺に煙を落とし…フウ、と吐き出した。ほんのりとした甘さの奥に苦味を感じる…銘柄は昔から変えていないようだ。
彼女は微笑み、少ししっとりとした視線で僕を見つめている。対して僕は…恐らく、側から見れば茹で蛸のように真っ赤だろう。耳がとても熱くなっているのを感じる。
「い、いきなりなんてこと…!」
「手こずっているようだったからな…それに、貴方の可愛らしい顔が見れた。煙草と煙草で、というのを一度はやってみたくてな…」
ふふふと含み笑いをしながら、ひそかに愉快そうに笑みをたたえて彼女は言った。だ、だからって一度咥えたものを交換しなくたって…!
まだ熱の残る額を片手で抑えながら羞恥心に耐える。その様子を見て、彼女はいっそう笑みを深めた。
「こういうことは…その、男性にあまり軽々しくしない方が良いかと…」
「下心のある様な人にこのようなことはしないさ。貴方は反応が良いから揶揄いがいがあるのだ」
彼女は手袋を外し、僕の頬にゆっくりと手を伸ばし、優しく撫でる。彼女のすべすべとした手の感触は心地よい…が、やはり恥ずかしさが勝った。クロリンデ様といい、どうしてこのようなことを…。
「肌もすべすべとして、髪の毛は少し乾燥しているが柔らかい…うちの小さい子供達を撫でている様な気持ちになれる」
彼女は時々紫煙を吐き出しながら、たまに僕を優しく撫でる。僕が膝に置いていた左手にも彼女の手が重なり、薬指の辺りを指で弄りながら撫でている。…ああ、もう耐えられない。このままだと名実ともに茹で蛸だ!
僕は勢いよくベンチから立ち上がると、煙草をひとくち吸ってから外し、院長さんに向き直る。
「そっ、それでは僕はまだ仕事があるので!」
「…ああ、忙しいところ申し訳ない。煙草は私が処理しておこう。久しぶりに話せてよかった」
「ええ、それは僕も…。では、院長さんも頑張ってください」
吸いかけの煙草を彼女に渡し、手を振ってからそそくさとその場を後にした。
紫煙が抜けた後のフォンテーヌの空気は、どことなく乾いた味がした。
ーーーーー
「…行ってしまったか」
彼がこの場を離れたあと、私はそう独り言つ。少し揶揄いすぎてしまったかと反省する。が、やはり彼がそうさせるのが悪いのだと感じてしまう。
彼に近づくことができれば、自ずと
しかし、彼は神の側近としての自覚はあるのだろうか。たとえこの場ではファデュイの立場を捨てて話している体でも、腹の内でもそうであるとは断言できないであろうに。まったく、あれはいつか身を滅ぼすな。
彼が行った後も少し考え事をしながら煙草を燻らせていると、石畳を踏む足音が聞こえてくる。公園の入り口に目を向けると、そこには馴染みのある人物が立っている。
「お父さま、こんな所にいたんですか…ヒューゴが呼んでいましたよ」
リネ。壁炉の家の孤児の一人であり、私の忠実な部下。フォンテーヌでは有名な手品師でもある彼は、少し息を切らしながらこちらを見据えている。
「ああ、すまない。すこしオクタヴィア殿と会っていてな。話し込んでしまった」
「そうでしたか。…確か、彼に近づくことも任務の一環でしたね。いかがです?調子のほどは」
「順調だ。まあ、あと数ヶ月あれば彼を手に入れることができるだろう」
リネが「流石ですお父様」と言うのを尻目に、自分の煙草も灰皿に押し付け、火をもみ消す。じり、と音がする…が。
「…おや?」
もう一度、じりと押し付けるが、煙草についた蒼の火は消えない。思い切って手袋越しの親指で押し潰してみても、やはり燻っている。…
「ますます、彼が欲しくなった」
「…お父様、やはり…」
リネが少し硬い表情でそう言った。私はそれにこう返す。
「ああ。彼の事務処理能力や補佐官としての手腕には目を見張るものがあるからな。ぜひ彼を引き抜いて…
リネはその言葉を噛み砕く様に間を置くと、続けた。
「それは…ファデュイの執行官として、ですね?」
「いいや、一人の女としてもさ」
取り出した手帳に『十二号』と記し、そう呟いた。
ーーーーー
今日の仕事を終え、フリーナ様の就寝時刻となった。彼女の部屋へと赴き、今日も子守唄を歌う…予定だったのだが。
「今日は子守唄はいい。だが、添い寝を所望するよ」
「いきなり飛ばしすぎではありませんか!?」
フリーナ様のとんでもない要求によってその予定は崩壊した。そ、添い寝…!?子供じゃないんだから…!!
「…君が何を考えているのかは長年の付き合いだ、当然わかる。だが言っておくぞ。これは子供が母親に要求するようなものとはちがう。
フリーナ様はベッドの上で足を組みながら講釈を垂れているが、僕は精一杯抵抗する。
「フリーナ様、私が溺れないの知ってるでしょう」
「ギクッ…い、いや〜、でもその様な行為を働いたのだから、上司として監視の義務が…」
「それにフリーナ様、前にも同じ様なこと頼みましたよね。その時は『今日は少し肌寒いから暖めてくれ』とか…」
「それは470年前くらいの話だろう!?いいから一緒に寝るんだ!これは水神の命令だぞぅ!!」
「職権濫用で訴えれば勝てそうです…」
駄々をこねるフリーナ様と暫く口論を続けた。最終的に僕が根負けして添い寝をすることになった。まあ、寝付いたら離れれば良いだろう。
フリーナ様のベッドに仰向けで横たわる。彼女はそんな僕の手を握り、同じく仰向けになっている。…手を握られていては抜け出せないかもしれない。
「…なあ、オクタヴィア。僕に何かできることはあるかい?」
「なんです藪から棒に」
「君は最近力を手に入れて…その、持て余していたりはしないか?心の変化とか、そういうのはないか?」
「いえ、特には…」
「そうか。それならいいんだ。…うん。それでいい」
彼女は僕の手を握る力を強め、悲痛な声色でこう続けた。
「…終幕まで、僕の側を離れないようにね」
「はい。私はいつでも貴方様の為に」
未だ彼女の苦しみを知らぬ僕は、そう返すことしかできないのだ。
力を手に入れたからと言って、苦しみを分かち合うことはできないのだ、と気がついた。
オクタヴィア:警戒心がまるでない。いつか食われることが確定している。
“院長さん”:ファデュイ執行官、ファトゥス第四位『召使』。壁炉の家(ハウスオブハース)という孤児院の経営もしている。作者がこれやりたかった為だけに喫煙者となる。
フリーナ:水神。一日の終わりに、部下がかすかに煙草の香りを纏っていることに気がつく。給仕のボブと一緒に訝しんだ。
吸いつけ煙草:一度咥えて火をつけた煙草を相手に渡す行為のこと。女性が男性に示す情愛の表現。
十二号:内径16.7mm、内周52.4mm。召使女史が指の感触から割り出した概算。指輪のサイズを示す言葉である。
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