人になりたかった魔族   作:フリーレンにハマった人

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本編
人になりたかった魔族


ある村、北側諸国の山中に存在したある集落の話。

その日は寒く、雪も激しかった。

そんな日に集落の入り口に人影があった。

性別はわからず、しかしその頭には二本の大きな角がある魔族だった。

 

「…これを駄賃に、少しの間だけ匿ってはくれないか?」

 

よく見れば、その服は所々破れてボロボロで血が滲んでいた。

そんな魔族が差し出したのは巨大な野生動物の死骸。

猛吹雪で外に狩りにも出られない集落の住人にとって、それは相手が魔族であるという事実よりも優先すべきものだった。

住人たちは話し合い、少し前に死んだ男が住んでいた廃屋に魔族を案内した。

その魔族がボロボロのローブを脱ぎ捨てた時になって初めてその魔族が女だと集落の全員が知った。

魔族の女は驚いた顔も何もかも何処吹く風といった様子で

 

「ここなら雪や風を凌げる。ありがとう、この恩は忘れないよ」

 

そう言って、それから数日間は廃屋から出てこなかった。

そんなある日。まだ傷も癒えていない体で魔族は廃屋から出て、集落の外へと向かった。

 

「もう少し長くここに居ることになりそうだからね。これからは定期的に狩りをしてくるよ」

 

そう言って魔族の女が差し出したのは新鮮で大きい獣の死骸だった。

魔族の女はその名をシュネーと名乗った。

シュネーはそこからニ十年以上をその集落で過ごした。

集落の人たちは何度かシュネーに

〝なぜ俺(私)達を喰わないのか?〟

と質問をしたが、シュネーは自分でも不思議そうに

 

「なんでだろうね?そんな気分にならないんだよ」

 

と返して曖昧に笑った。

そんな日々が続いたある日のこと、一人の少年がシュネーの足元で言った。

 

「シュネー!ぼくとけっこんして!」

 

シュネーは驚きに目を見開く。

助けを求めるように周りの人を見るが、周囲の人達は

 

「長い間この集落を助けてくれたあなたなら反対はしない」

 

と言葉にしたり態度に示したりで、止めようとはしない。

シュネーは困ったような表情をして数秒の間考え込み、

集落の使われていない空き地へと向かうと、魔法でその空き地一面に

薔薇を咲かせてみせた。

 

「君の夢は戦士だっただろう?だから立派な戦士になって、その時にまだ気持ちが変わらなかったなら、ここから一本の薔薇を持ってボクの下へおいで。」

 

シュネーは一呼吸おいて、さらに言う

 

「君とボクの寿命は違う。きっとボクは君を見送ることになる。それも考えて、まだ思いが変わらなかったならその時は……このボクが君の最期を看取ろう。」

 

そう言って少年の頭を撫でた。

少年は

 

「それなら鍛錬をしなくちゃ」

 

と言って駆けていった。

そこからさらに十五年が経った。

集落の人はシュネーを怖がることもなくなり、シュネーを魔族の中の例外だとして集落の仲間として受け入れていた。

少年は立派な戦士となり、シュネーに次ぐ村を守る人として様々な人に頼られるようになっていた。

そんなある日のことだった。

シュネーがいつも通りに山へと入り、獣を狩って山から降りると

集落は火に包まれていた。

集落の広場のあたりから鉄と鉄がぶつかり合う音がした。

シュネーは広場へと走った。

そこでは桃色の髪色の魔族と戦士となった少年が打ち合っていた。

 

「ここは、あの人が帰ってくる場所なんだ……!」

 

そう言って一歩も退こうとしなかった少年は、次の瞬間には魔族の斧で腹を裂かれた。

桃色髪の魔族は少年を興味なさげに蹴り飛ばす。

蹴り飛ばされた少年はシュネーの足元へと転がった。

 

「ごめんなさい、シュネー。僕は、君の帰る場所を……守れなかった。……立派な戦士になれなかった」

 

シュネーは少年の隣に膝をつく。

 

「いや、君は立派に戦った。……素晴らしい、戦士だったよ。」

 

そう言って少年の頬を撫でる。

すると少年は嬉しそうに笑う。

 

「なら、これを渡せる。」

 

そう言って懐から一輪の薔薇を取り出す。

 

「シュネー、雪のように美しいひと……僕は、貴女を愛して……」

 

そう言って、少年は力尽きた。

桃色髪の魔族がシュネーに問う。

 

「お前、魔族でしょ?何で、涙なんて流しているの?」

 

涙、そう言われてシュネーは自らの頬に伝う涙に気がついた。

シュネーはその時初めて自分がこの集落、そしてたった今命を散らした少年を愛していたことを自覚した。

 

「愛していたからだよ。たったそれだけだ。」

 

シュネーは桃色髪の魔族を睨みつける。

 

「お前、名前は?」

「リーニエ。」

「そうか、じゃあリーニエ。十秒だけ待つ。」

 

瞬間、シュネーは制限していた魔力を放出する。

周囲の空気にその衝撃が伝わり、凄まじい風圧に雪が吹き飛ぶ。

 

「ボクの前から、消えてくれ。」

 

リーニエと名乗った魔族は不利を悟ってその場から撤退した。

そうして一人になったシュネーは崩れた集落の跡から全員の死体を見つけると、その全てを丁寧に埋葬し始めた。

三日ほどの時が過ぎ去り、ちょうど残り二人ほどに差し掛かったその時、シュネーの首筋に剣が突きつけられる。

 

「この村の惨状を作ったのはお前か?」

 

聞き覚えのない声に振り返れば、そこにあったのは風に揺れる青い髪。

それは魔王を打倒した音に聞こえし勇者だった。

 

「その問いの答えは否だよ、勇者ヒンメル。あと二人でこの集落の全員の埋葬が終わるんだ。ボクを討伐するのはそれまで待っていてくれないかい?」

 

ヒンメルやハイターとアイゼン、そしてフリーレンすらも目を見開く。

 

「……埋葬?なぜ魔族が人間の埋葬を?」

 

ヒンメルが剣を鞘に納めて問う。

 

「ただ、ボクに良くしてくれた人たちの死を悼んでいるだけだよ。人間と同じ理由だ。」

「そんなはずはないよ。お前たちは言葉を喋るだけの猛獣だ。」

 

フリーレンの言葉にシュネーは悲しげに目を伏せる。

 

「酷い言われようだ。確かにそうかもしれない、けどボクはこの場所が滅んで初めて、悲しみというものを経験したんだ。……獣だって、長く触れ合えば愛着や愛情くらいは湧くものだろう?」

 

問いかけるように言うシュネーに魔法を放とうとするフリーレンをヒンメルが制する。

 

「君はこれからどうするつもりなんだい?」

「そうだな、もう少しして埋葬が終わったなら、この角を折って人に紛れて暮らそうと思うよ。人に愛着が湧いたんだ。」

 

そう言いながら、悲しそうに空を見上げたその女を

──少年の墓を見つめて涙を流した女を魔族だと断じて殺せる者は、この場には居なかった。




読了いただきありがとうございました。
思いつきから書いているので続きが出るのか出ないのかすらわかりませんが、楽しんでいただけたのなら幸いです。
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