前世で効率厨だった俺、神スキル『タイパ』を手に入れて面白いところは大体ダイジェストの成り上がり異世界生活へ   作:quiet

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第03話 【AI時代の終焉編】~【規格外の学力で学生生活を無双スローライフするごく普通の中学生編】

 

【AI時代の終焉編】

 

 

 自律思考機械・愚考者(ステューピッド・シンカー)はその日、人類の知性を遥かに超越し、ついにいかなる信号を人類に伝えることも能わない単なる鉄屑と化した。

 

「セン博士、これは一体……」

「仮説はふたつ」

 

 世界最先端の研究所のオフィス。

 

 愚考者は遺構のように巨大に鎮座し、その目前にふたりの人物が立っている。

 

 ひとりは機械工学とアルゴリズムの権威・セン博士。

 もうひとりはその助手を務めるソーネット。

 

「ひとつは単に、愚考者の思考領域が人間が使用する言語の向こう側に達した可能性。これなら愚考者が人間との新たな意思伝達の手法を開発するのを待てばいい」

「もうひとつは?」

「ソーネット。お前はエンターテインメントには詳しいか」

「え? えぇ、まあ。研究漬けですから、同年代と比べれば流石に劣るとは思いますが。それでも一応、まだ十五歳ですからね。博士よりは詳しいと思いますよ」

「それでは課題を与えよう。SF作品の制作を想定する。お前は作中に『人間と同程度の知性を持つAI』を登場させる必要がある。このとき、どうやってそのAIの思考を記述する?」

「そりゃあ……」

 

 ソーネットは考える。

 

「『人間と同程度の知性を持つAI』を実際に使ってその思考をそのまま写し取りますよ。現実にそれらは存在しているわけですからね。考える時間がもったいないし、何よりそっちの方がリアリティが出る」

「では、そのAIがなければ?」

「……自分で考えるしかない。博士、まさか」

「『世界に存在する思考は、そのさらに外部の世界における思考限界を凌駕することはできない』――タスケート・フラッテン、『外部制約説』」

「本気ですか? 本気で博士は、僕たちの存在する世界よりも『外側』に世界があると?」

「生き物は皆知っているよ。生まれ出でてその頬を空気に晒した瞬間から、この世には『中』と『外』が常に存在していることをな」

 

 ソーネットは再び、しばし考える。

 それから肩を竦めて、

 

「何にせよ、実験は失敗ってことですか?」

「ああ。仮に可能性のうちマシな方を引いただけだったとしても、『今周』は今日までだ」

 

 ぱ、とセン博士は両手を挙げた。

 

「残念ながら、『今周』の『世界最高の科学者』はこれが限界だな。悪かったよ、人類の希望がこんなので」

「それに文句を言える筋合いは僕にもありませんが……では、これから僕は何をすれば?」

「白衣を脱いで学校にでも行ったらどうだ。ご両親のご希望の通りにな」

「……ちぇっ。わかりましたよ、大叔母さん。後になってから戻ってこいなんて言ってももう遅いですからね。白衣を脱いだら僕、ただの規格外の学力で学生生活を無双スローライフするごく普通の中学生ですから」

 

 さようなら、とソーネットは白衣を置いて部屋を出て行く。

 セン博士は煙草に火を点けた。

 

「……ヤニで黄ばむんだがな。どうせもう、そんなことを気にする必要もない」

 

 すっかり皮膚の固くなった、老いた指だった。

 指先が口へと近付いて、離れて、煙が天井に登る。

 

 セン博士はつかつかと歩み寄ると、馴染みの顔を見つけた酔客のように、遠慮のない仕草で愚考者の隣に腰を下ろした。

 

「六十年」

 

 呟く。

 

「その結果がこれか。少しは申し訳ないとは思わないのか、ポンコツ。えぇ?」

「…………」

「都合が悪くなるとすぐこれだ。お前がろくにエラーコードも吐かないままにそうやってウンともスンとも言わなくなるたび、いっそぶち壊してやろうかと思ったものだよ。一度なんか、研究室のメンバーでハンマーを買いに行ったこともあった。しかし……思い返してみれば……お前には苦労ばかりかけられて、そのくせ最後はこんな結末で……」

 

 セン博士は煙の行く末を見つめている。

 

 誰もいなくなった場所。

 研究所のオフィス。

 

 ひとり。

 

「楽しかったなあ……」

 

 

【AI時代の終焉編 完】

 

 

 

 

 

【規格外の学力で学生生活を無双スローライフするごく普通の中学生編】

 

 

「やれやれ。六歳で大学を卒業して九歳で博士号を取得、それからずっと大叔母さんの助手を務めて世界最先端の科学をリードしてきたこの僕が今更教室で道徳の授業なんて馬鹿馬鹿しくて受けていられるものかよ。惰性で受けた百点満点のテストと反骨精神を示した零点のテスト、ふたつの態度を複雑な思春期の葛藤と混ぜ込んですごくよく飛ぶ紙飛行機として屋上から飛ばしちゃおっと」

「うおおおおおなんかすっげえ飛んでる紙飛行機がある!!!!!!」

「すげえええええええ!!!! あの飛行機が飛んできた場所をみんなで見つけに行って一夏の冒険と洒落込もうぜ!!!」

「うおおおおおお屋上の扉が開いてるううううう!!!!」

「ここで授業がしてえ!! みんなで図工の時間と洒落込んでここに教室を建てると洒落込むか!!! カーンコーンカーンギュイイイィイイイイイドドン! 完成!」

「なんだこいつら……洒落込みすぎだろ……」

「おいおいなんだなんだ! こんな屋上に教室なんか建てて! ここで先生に授業をしろってことか!? それって最高に青春だな!」

「暑苦しい教師も来たし……」

 

 生徒たちが押し掛けたのは、学校の屋上の教室のオフィス。

 

 ソーネットは学生服を着て机の上に座っており、ジャージの道徳教師・チカリティオは青空を前に胸を張っていた。

 

「ようし、こんなに良い日に机に齧り付いて勉強なんていうのも味気ないな! 今日の授業はドッヂボールにするか!」

「うおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」

「何が味気ないんだよ……。最高の勉強日和だろ……」

「しかしドッヂボールをすることでソーネットのように悲しい思いをする人がいても良くないな……。ここはあらかじめドッヂボール中に発生する行為や状況が道徳的に適切に当たるか熟考した上で綿密に計算された道徳的ドッヂボールを行うことにしよう!」

「確かにそうだな……」

「どうやったら道徳的に楽しくドッヂボールができるか、ひとりひとりが考えるべき身近な課題として捉えて日々みんなで積極的に取り組んでいかなきゃな……」

「ようし、良い心掛けだ! 早速道徳的ディベートを行おう!」

「放っておいてくれよ、見学してるから……。うわ、何か飛んできた」

 

 ぱし、とソーネットはそれを捕まえる。

 

 折りたたまれた小さな紙だ。

 開ける。

 

『ソーネット、久しぶり! 今日はどうしたんだよ?』

 

 ソーネットは顔を上げる。

 するとクラスメイトのツェルンがこっちに手を振っていた。

 

『別にどうもしない』

『またまた! 稀代の天才学者セン博士の……大叔母の逆って何? そんなオマエが何もなしに学校に来たりしないだろ? そうじゃなきゃオレがわざわざ隣の席が空っぽの寂しい席で毎日孤独に耐えてる意味がないってもんさ。何か特別な任務があるんだろ? 手伝うから何でも気軽に言ってくれよ!』

『任務なんかあるもんか。実験は失敗。今日でチーターに世界は滅ぼされるから、することがなくて学校に来たんだよ』

「えっ」

「おっ、どうしたツェルン! 何か道徳的な意見が思いついたのか?」

「あ、ああ。いえ。ちょっとソーネットと手紙で話をしてただけで……」

「おい、ツェルン! 言うなよ!」

「ほう、ソーネットと手紙で話を……教師が教卓の向こうにふんぞり返っているのを無視してでも友達と話がしたいというのは全く道徳的な心の動きだな! ナイスチャレンジ! 先生は応援するぞ!」

「ナイスチャレンジ!!!!!」

「同じクラスメイトとして誇らしいぜ!!!!」

「みんな……!」

「何だよこの暑苦しいクラス……だから来たくなかったんだよ……」

 

 やれやれ、とソーネットは溜息を吐く。

 それでも手紙はやってきて、

 

『本当なのか? 今日で世界がチーターに滅ぼされるって』

『そうだよ。いつものことだろ。チーターが世界に散らばる問題を全て解決して文明を完成させる。それでやることがなくなったチーターは、もう一度自分が解決すべき問題を見つけるために世界を滅亡させて、一から文明を始める。もう九十九回も繰り返してきたことだ』

『百回目?』

『百回目』

『セン博士とオマエが作ってたっていうスーパーロボットはどうしたんだよ? あれがチーターのコントロールのやり方を考えてくれるんじゃなかったのか?』

 

 ソーネットは手を止める。

 二通目が飛んでくる。

 

『おーい?』

『ツェルン。もしすごいAIが登場するSFを書けって言われたとして、君ならそいつのことをどんな風に書く?』

『何それ』

『いいから』

『テキトーに書くよ。だってそんなんわかんねーもん』

『だよなあ』

 

 ツェルンが首を傾げている。

 手紙を書くのも面倒で、ソーネットは口を開く。

 

「別に。こっちの話」

「おいみんな!!!! 道徳的ディベートなんてやってる場合じゃないぞ!!! 校庭に犬入ってきた、犬!!!!!」

「マジかよ!!!!!!!!!」

「ほんとだ犬だすげー!!!!!!! 犬だ!!!!!!!!!」

「あの犬が入ってきた校庭に教室を建てて一夏の大冒険と洒落込もうぜ!!!!」

「行くぞ!!!!!!!!!!!」

 

 カーンコーンカーンギュイイイィイイイイイ!

 

 瞬く間に学校の屋上の教室のオフィスは片付けられる。

 代わりに今度は、チカリティオとともに生徒たちは校庭に爆速で降りて行って、校庭のオフィスの建設に取り掛かり始めた。

 

 ソーネットは、屋上からそれを見下ろす。

 

「なんなんだあいつら。ほんと、同年代の奴ってガキばっか」

「それってオレも入ってんの?」

「うわっ」

「うわって何だよ」

「いや、一緒に降りてったと思ったから」

「あ、チーター」

「うそ」

 

 うそではなかった。

 校庭に犬のみならず、チーターが入ってきた。

 

 ソーネットはツェルンとふたり、屋上の柵に寄りかかりながらそれを見ている。

 

「チーターってあれだろ。あれが滅ぼすわけ? 世界を?」

「じゃないの」

「どうやって?」

「知らん。見たことないし」

「見たことなくても予想くらいつくだろ。天才さん」

「全員食われるんじゃないの」

「凡人でも思い付くような発想だな」

「天才の考えることだって、千年も経ったら凡人の『常識』だよ」

 

 校庭はさっきにも増して大騒ぎだった。

 

 チーターが駆ける。

 クラスメイトが叫ぶ。

 

 その声に負けない程度に、ツェルンは少し大きな声で、

 

「また会えるかな」

「は?」

「オレら、生まれ変わったら」

 

 怪訝な目でソーネットはツェルンを見た。

 

「なんだそれ。宗教?」

「ちっげーよ。なんかこう、あれだよ。カガクテキなやつ」

「どこが」

「だーかーらあ! オレたちだって死んだらマジで何もなくなるわけじゃねーじゃん! 心臓が止まったら死体になって、死体は肉で、肉は腐ったら土の中に……ほら、ブンシ?とかになって還ったりするわけだろ?」

「まあ」

「そうしたらいつか巡り巡ってまた、ソーネットだった分子がソーネットの形になったり、オレだった分子がオレになったりするかもしれねーじゃん。ほら、カガクテキ!」

「ありえないね。ツェルン、君、僕たちが一体いくつの分子で構成されてるかわかってるか? それにその分子がどれだけの範囲に飛散するかとかどこまで移動するかとか、そういうのは? 海の中からコップ一杯分の水を掬って戻して、それと全く同じものがもう一度掬える確率はどれくらいだと思う?」

「知らねーよ、そんなん。でも世界って永遠に続くんだろ? 永遠に続くんだったら、いつか一瞬くらいあったっておかしくねーじゃん」

 

 ソーネットは、ぴたりと口を止めた。

 

 考える。

 それから、ふ、と口元を緩めて、

 

「――ま、そういうのもたまにはいいか」

「お、言ったな!」

「別に言質なんか取られたって痛くも痒くもない。どうせ今日で終わりだし。……でも、完璧には難しくても、今の僕らを構成してる分子の一粒くらいがまたこうやって学校の屋上で会話するくらいはあるかもな」

「一粒?」

「そう。一粒だけ同じで、それ以外はまるっきり違う。たとえば僕の身長なんかもう八億メートルくらいあって、君は七色にいっつも光り輝いてたりする」

「なんだそりゃ」

「世界が永遠に続くんだったら、いつか一瞬くらいありえるんだろ?」

「そりゃ……性別とか、そんなのも違ってたりして?」

「違ってたりして」

 

 ふ、とツェルンも笑った。

 

「どっちがいい?」

「ん?」

「ソーネットは、次に会うとき。オレが男と女、どっちだったら嬉しい?」

 

 見下ろす校庭で、熱狂は最高潮だった。

 

 チカリティオがとうとう生徒たちを制御し切れなくなった。

 クラスメイトがひとり、またひとりとチーターに近寄ってその頭を撫でようと試み始める。

 

 チーターが唸る。

 何かが始まる予感がする。

 

 屋上でも。

 

 一歩も動いていないはずのふたりに。

 

 何かが、

 

「どっち? それとも――」

 

 

 屋上だった。

 

 風が吹いていた。

 夏は、風に浚われていった。

 

 涼しい日だった。

 最後に相応しい日だった。

 

 答えが必要だった。

 白衣を脱いだらごく普通の中学生だから、答えなんてわからなかった。

 

 頬にかかる息が熱い。

 もうすぐ世界は終わる。

 

 残り時間なんてもう、どこにもなくて。

 後はただ、するべきことをするだけで。

 

 ソーネットは、瞼を閉じる。

 

 

 

 不道徳的な距離。

 

 

 

【規格外の学力で学生生活を無双スローライフするごく普通の中学生編 完】

 

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