東方夢幻鏡   作:fuu

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無縁塚~再思の道

手に入れた瞬間に死ぬ破壊的な美。私はそれを兼ねてからずっと求めていた

 

あぁ人形よ。意思もなければ眠る必要もない、嫋やかな姿を見せるだけの儚き物よ

 

どうかその花輪を引き裂いて、無機質な胸を砕いて、永遠に私の物だと証を残させてくれ

 

それが叶わぬなら…

 

 

 

***

 

入り組んだ小路の中に積み上げられた墓石があった。縁もゆかりもないそれは無縁墓だというのに大きく墨の字で名前が書いてあり、男はこれを自分の名前にしようと考えた

 

その名は「半蔵(はんぞう)」。男の短く儚い人生はこの堆く積まれた石から始まったのだ

 

彼は男というよりも少年というべき佇まいと年齢で、顔立ちは少女と見まごうばかりの女顔だった。しかし、整ってはいるが死人のように白い肌と鳩血色の眼からどことなく不吉な印象を受ける

 

男に記憶はない。ただ花々が彩を咲かせる初夏のころに、気が付けばこの墓地でただ一人立っていた

 

当然不思議に思う、なぜ自分がここにいるのかと、わからない。わからないからとりあえずあたりを散策することにした。夜空には満月が煌々と輝いている

 

ひと通り見回るとここが墓地にしてはかなり広大な、しかも管理が杜撰な場所だということに気づく。あちこちに無縁墓とそれを供養するための積み石があり、足の踏み場がない

 

無粋に刺された施餓鬼法要(せがきほうよう)卒塔婆(そとば)が夥しく配置され、集合墓地にしては奇怪で、また不気味な場所である

 

極めつけはそこら中に物が落ちていることであり、ゴミではないにしても起動しないノートパソコンや椅子などがまるで当然のようにそこらかしこに転がっているところを見るに、まるで行き場を失ったものが最後にたどり着く防波堤のようだ

 

自分もそうなのかと半蔵は考えた。記憶がないのは普通の人間ではどう考えてもありえない。現代日本の知識はあれど、まるで本の世界のように客観的で実体がないものだ

 

ここは夢なのだろうか、そんなことを考えるも今ある意識や感覚は紛れもない真実である。現実逃避はやめて、ひとまずここを出ることを目的としてみた

 

参詣道は狭く、墓地は広かったものの境界は見えている。ひたすらそこに向かって進んだ

 

道中は疲れたものの、彼岸花が咲きほこり、松の樹などの樹木。見たこともない植物をはじめ、野鳥やイタチなどの動物や、蜻蛉(とんぼ)やセミなどの風景が道のりを飽きさせないものにしてくれた

 

そしてここはどこなのか、疑問は深まるばかりだった。植生や奇怪な物体といい墓があるわりに日本ではないのか?自分はなぜ記憶がない状態でここにいる

 

思考は止まらず気が付けば広大な墓地を抜けて、彼岸花だけが広がる道を歩いていた。半蔵はまず周りに目が行く

 

先ほどから妙に誰かに観測されているというか、何者かに見られている感触があった。一度先ほどの無縁墓に戻って武器や自衛に使えるものを探した方がいいだろうか

 

だが退路は霧に包まれ先ほどの墓所には二度と入れないような雰囲気に包まれている。異常事態ではあるが無味乾燥じみた、さも当然のように起きた事態に半蔵は事象の意味不明さに気が付くことができなかった

 

瞬間、背中に凍土のような悪寒を感じて、半蔵は振り返る

 

髭のような触角が伸びる大きな口と、四方に伸びた八つの脚。警戒色である黄と常闇のような黒が入り混じった模様をしている巨大なジョロウグモが今にも襲い掛かってきそうな勢いであった

 

「!!!!」

 

わき目も振らずに逃げようとする半蔵だったが正面にも背面にも退路はない。彼岸花を踏み荒らしてでも逃げようとしたが思うように足が動かない

 

半蔵は今自分が虚弱体質であることを理解した。小さな体は運動にはあまりにも不向きで、それがたとえ生死のかかった状況であっても全力で走ると身が軋み、脚がもたなくなる。絶体絶命だった

 

眼前に迫る脅威の前に半蔵はただ縮こまって、顔を恐怖に歪ませるほかなかった。それが大蜘蛛の嗜虐心をくすぐったようで巨大な影はゆっくりと自らが生きたまま捕食されるさまを対象に見せつけるようにゆっくりと半蔵に近づいて行った

 

時間の加速がスローになり、周囲の情報すべてが目から入ってくる。どうやらここは大蜘蛛の狩場であったらしい

 

その巨躯では巣を作ることはできないのかどうやら外で定期的に人間を狩っていたようだ。気が付かなかっただけで彼岸花の畑には灰色に変色した食い残しの死体があちらこちらに散らばっていた

 

走馬灯のようだがないものは蘇らない、ここまでかと目を閉じる。生まれては死ぬ蜉蝣のようにあまりにも儚い人生だったと無念を残す

 

だが以外にも予想していた激しいものは身には来なかった。メキメキと何かが切り裂かれるような音がして、小さい悲鳴が聞こえたと思ったら眼を開けると眼前の恐怖は真っ二つに切り裂かれていた

 

裂かれた蜘蛛の体から輝く日光の下に照らされた赤髪の少女が見えた。農業用のものとは思えない大鎌を持ち、それには黄色い体液がこびりついている。それで蜘蛛を裂いたのだとわかった

 

「大丈夫かい、はぐれ幽霊。まったくもう死んでいるのに妖怪に食われそうになるなんて難儀な奴だねぇ」

 

その大きな獲物を携えた赤髪の少女は呆れたような表情で半蔵に話しかける。半蔵は恐怖で身がすくんでしまったためかしばらく声がでなかったが、どうやら助かったようだ

 

「ん?あんたよく見たら人間じゃないか、魂が脆弱すぎる上に白い服着てるせいでまた彼岸花に憑りつこうとしてる霊かと思ったよ」

 

半蔵はなにがなんだかわからなかったが、目の前の人物が只者ではないことはわかった。今の状況を説明して助けてもらえるかもしれない

 

「あぁー言わなくてもわかるよ。外来人なんだろ、あんた。この辺じゃよくあることなんだ、身寄りもなく孤独だったものが何かの拍子で無縁塚に迷い込んでしまう」

 

馬鹿にされたような気がしたが話が早い。妖怪とやらの存在からここが異界なのは理解できた。外から来たとのことなら、ここはなにかしろの箱庭のようなものだろう。なら帰る手段があるはずだ

 

「ん?どうやって外に戻るのかって?あるにはあるけどここからじゃすごく遠いね。巫女がいたら楽だったんだけどこっから神社まで行くとなると相当かかる。あんたを載せて飛んでもいいんだが、あたいにも仕事があるからな…」

 

どうやら今すぐ出るとなると時間がかかるようだった。だが帰る手段が見つかったのは大きい。半蔵はそのもとの世界に戻る巫術を行使できる巫女がいる神社の場所にはどうやって行くのかと彼女に尋ねた

 

「貴女、じゃなくて小町でいいよ。小野塚小町。そうだねぇ、神社の場所はこっから丘と森と河童の沢を抜けて何十里…あんたみたいな子供には少し難しいね。よし、ちょっとくらいならさぼっても問題ないだろうしこんな冥界の程近くに放置するのも気分が悪い。あるところまでは送って行ってやろう」

 

どうやらこれで一安心のようだ。記憶のない不可解な現状や河童など不穏な単語はあれど彼女についていけば身の安全は保たれるだろう、半蔵はそっと胸をなでおろした。その様子を不思議そうな顔で見る小町

 

「なんかどこかでお前さんの顔を見た気がするよ。偉い美少女だし一度見たら覚えてないはずがないんだがねぇ」

 

そういわれて、半蔵は自分は男だと説明する。無縁墓地の鏡でも見たがこんな華奢な成りで女顔でもれっきとした男性であると

 

「えぇ、お前さん。男だったのかい、道理で尻が丸みを帯びてないと思ったよ。そう考えるとえらく渡したい為人をしているね」

 

なぜ尻を観察したのかはわからなかったが、どうやら例の神社へはひたすら東へと向かえば何回か獣道を避ける必要があれど到着できるらしい。それを聞いて安心した半蔵はこの異界がどういった場所なのか、自分はなぜここにいるのか小町に尋ねてみた

 

「ここは幻想郷だよ。あったことはないがどうやらここの管理者は『すべてを受け入れる場所』だと言っていたらしい。本当かどうかはわからんが実際人妖、悪魔、幽霊、神仏や神霊の類まで蔓延るところさ」

 

それを聞いた半蔵は小町の種族について恐る恐る聞いてみた。あの怪物を一撃で大鎌を以て屠る膂力。間違いなく人間ではない

 

「ん?あたいは死神だよ。お前みたいな美しくてか弱い魂を冥府へ案内するのが役目さね」

 

咄嗟に身構える半蔵

 

「嘘嘘、冗談だよ。本当は神も何もないただの渡し人さ。多少の力量はあるけどね」

 

そう語る彼女の姿には確かにどこか神聖さがあり、自身が冥界の使者としてこのうえのない自信があるのが伺えた。その割に仕事をさぼるのはどうかと思うが、半蔵にとってはありがたいことこの上ない。彼女に改めて感謝すると照れくさそうに頭をかいてはにかんだ

 

だがつかぬ間の安息も長くは続かなかった。半蔵の運命が悪い方向へ向かうのが宿命づけられているようにこの男の生まれた凶星の下では仮初の平和すら許されぬ

 

夥しい数の死霊が、紫の桜の下から、彼岸花咲く大地から沸き出で、二人へと向かってきていた

 

それに気付いた小町はすぐに半蔵を庇う体制に入るがはたしてこれだけの数を相手に守りながら戦えるかどうか

 

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