「コリンが‥‥コリンがさらわれちゃったんだ」
タロが言った。リンクは全身の毛が逆立つのを感じた。
いつ?誰に?矢継ぎ早にタロに質問したが、タロは全力でこちらに走ってきたばかりで、息を弾ませており要領を得た答えができないようだ。
そのとき、礼拝所のはす向かいの廃商店の扉が開いた。マロが戸口に立っている。
リンクが手を振って駆け寄ると、マロも戸口から降りる階段を下ってきた。
「リンク、まずいことになった」
膝を屈めたリンクにマロは珍しく深刻な表情で言った。
「つい十分ほど前だ。見たこともないような恐ろしく大きいブルブリンが猪に乗って現れたんだ。奴は最初ベスのことを付け狙って追いかけ回していた。だが‥‥」
そこまで言うとマロは言葉を継いだ。
「コリンが道の真ん中で転倒して追い詰められたベスを突き飛ばして、その鬼の前に立ちはだかったんだ。その隙に逃げたベスの代わりに、鬼はコリンを連れていった」
大きな鬼。リンクの目にはその姿が浮かんだ。ラトアーヌの泉で見た、巨大な猪にまたがった山のような体躯をした緑鬼だ。
「コリンのやつにあんな気骨があるとは僕も思わなかった。リンク、頼む。奴を助けてやってくれ。無茶な頼みとは分かっているがお前以外に頼める相手がいないんだ」
リンクは立ち上がった。言われるまでもない。マロと二人の子供たちに礼拝所にいるように指示し、泉に駆け出した。
エポナに跨がると、たちまち速度を上げて目抜き通りを北上する。あっと言う間にバーンズ爆弾工房が見えてきた。その先にあるゴロン鉱山への分岐路にレナードとルダが立っていた。ルダが声をあげて泣きじゃくっているのを、レナードが抱き抱えて慰めている。
「祭司様!」
リンクは馬を止めると声をかけた。
「私たちは無事だ。問題ない」
レナードはリンクのほうを向いて返事した。
「奴はコリンを連れて平原のほうに出ていった。急いでくれ!」
リンクは頷くと、再び手綱を鳴らしてエポナを発進させた。真っ直ぐに村の出口に向かう。
再び来たとき通った道と同じような、岸壁に挟まれた小道が続いたかと思うと、すぐに大きな門が前方に見えてきた。こちらも魔物たちが門で塞いだのだ。だがリンクとエポナを止められるものではない。
リンクはエポナの脇腹を蹴って速度を上げた。エポナは全て心得たといった風情で門の前に突進すると軽々とそれを飛び越えた。村を出たところの小道は砂利もなく砂だらけだった。最初東に向かっていた小路が岸壁ぞいにゆるやかに北にカーブしていく。
道を挟んだ岸壁はやがて切れ、右には底の見えない谷、左には険しい山道を擁した岩山が出てきた。岩山はすぐに低くなり、やがて看板のような形をして立っている平らな岩で終わった。目の前には平原が広がっている。
そこでリンクは馬を止めた。平原には猪に跨がったブルブリンたちの群れが散開していた。全部で二十騎ほどだろうか。一頭の猪につき二匹の鬼が跨がり、前の鬼が手綱をとり、後ろの鬼が弓矢を携えている。
完全に待ち構えていた様子だ。鬼どもはリンクの姿を認めると口々に耳障りなわめき声を上げ始めた。言葉はわからないが明らかに罵り侮蔑してきているようだ。
その隊列の真ん中、一番向こうにひときわ巨大な体躯を持つブルブリンがいた。これまた巨大な猪に跨がっている。猪の体色が、ほかのブリブリンたちの茶色い猪たちと違って真っ白だったのが余計に際立って見えた。
その巨大な猪に載せられた鞍からは一本のポールが立っている。そこには少年がロープで縛りつけられていた。
コリンだ。
リンクはそれを見た瞬間にエポナの脇腹を蹴ってダッシュさせた。真っ直ぐにブルブリンの親玉の所へ向かう。
それを合図にしたかのように、弓兵を後ろに乗せたブルブリンたちも猪を発進させた。彼我の距離が縮まる。リンクは背中に手を伸ばし剣を抜いた。
先頭にいた一騎の弓兵が矢を放ってくる。火矢だ。だが狙いが高い。炎が真っ直ぐこちらに向かってくるのを咄嗟に頭を下げてかわした。撃ってきたブルブリンたちに突進すると、リンクは横殴りに剣を払った。剣が騎手と弓手をもろともに切り裂いた。その瞬間、横からも矢が複数飛んできた。今度は至近距離のうえ狙いが低い。これでは身を低くしても当たる。
一本がリンクの左肩に食い込み、もう一本は背中に当たった。火矢の火がチュニックを焦がす。リンクは剣を持ったままの手で肩を探った。角度が浅かったのか、鎖帷子を貫くことなく落ちていったようだ。
前方にもう二、三騎がいる。リンクは再びエポナを加速させると剣を振り上げた。こちらに矢が放たれた瞬間に剣を払う。矢の軌道が剣先に逸らされる。先頭の騎手に思い切り剣を突き刺し、弓手とともに突き飛ばして落馬させた。剣を引いて更に横斬りを放つ。後続の騎兵たちの一人に剣が当たり、そいつもわめき声を上げて落馬した。
自分の背中を振り返ると、背負った木の盾に一本が刺さっている。だが、戦っているうちにコリンの居所を見失ってしまった。
馬の速度を落として周囲を見回す。ブルブリンの親玉はいつのまにか平原の反対側に回っている。彼は首から紐で吊るした角笛をとると吹きならした。不気味な音が響くとともに、ブルブリンの騎兵たちがまた隊列を整える。新手が到着したのか、さっきより数が増えていた。
「おいリンク、聞いているか」
「聞いてるよミドナ」
リンクは答えた。
「お前の気持ちはわかるが深入りはするなよ。私たちの本来の目的は影の結晶石だ。それを忘れるな」
「ミドナ」
リンクは剣を持ち直すと言った。
「僕の目的はイリアと子供たちを村に連れ帰ることだ。ここへ来てコリンを諦めるくらいなら最初から冒険なんかしていない」
リンクの決然とした物言いにミドナはやや面食らったようだが、ため息をつくと言った。
「まあそう来ると思ったよ。だがお前は目の前の戦いに夢中になりすぎる性質がある。だから奴らの策略にのせられるなよと言うんだ。わかるな?」
「わかってる」
リンクはそう答えると、すぐさまエポナをダッシュさせた。おそらくまた矢が飛んでくるはずだ。リンクはエポナの進路ををやや左に曲げた。ブルブリンたちもこちらに猪を突進させながら、たちまち矢を撃ちかけてくる。だが、斜めに動く目標に当てるのは難しいようだ。火のついた矢が次々と背後を通過する。リンクは高速で駆けながらもブルブリンの親玉から目を離さないようにした。キングブルブリンは、自らの猪の向きを変えると、悠然とした様子でリンクと逆の方向に動き始めた。
リンクはブルブリンたちの集団の外を回り込むようにして目標に向かった。雑兵たちの猪はエポナほど敏捷でもなければ小回りも効かない。リンクは背中の後ろを多数の矢が通過するのを感じつつも、方向を変えて真っ直ぐにキングブルブリンのほうへエポナを走らせた。雑兵の集団の最後尾にいた弓兵が、弓を棍棒に持ち変え、リンクとすれ違いざま殴りかかってくる。リンクは剣を払った。ブルブリンの腕が棍棒を持ったまま切断されて宙を舞う。
リンクはキングブルブリンを照準にとらえた。ようやく方向転換した雑兵どもが後ろから追いすがってくる。
何度もエポナの脇腹を蹴って加速の合図を送る。ブルブリンの親玉、そして彼に囚われたコリンまでの距離が縮まっていく。矢が背中のほうからまた飛んできた。一本が再び背中に背負った盾に刺さる。
「おいリンク!燃えてるぞ!」
ミドナの声がした。振り返ると、木の盾に刺さった火矢の火が燃え移ったようだ。炎が上がっている。リンクは反射的に盾を背中から外して投げ捨てた。キングブルブリンは絶対に逃がさない。
だが、相手の猪はリンクが考えていたよりはるかに多くの余力を残していたらしい。急速に右にカーブを切ると、ぐんぐんと加速していく。後を追いつつも引き離されたリンクとエポナの左右に騎兵たちが迫ってきた。
リンクは右から至近距離で矢の狙いをつけてきた一騎との間合いを詰めると横斬りを放って斬り捨てた。左から飛んできた矢を首をすくめてかわすと、今度は左に寄って、相手が二の矢をつがえる前にその胴を突き刺した。
後続の連中が次々と矢を放ってきた。矢が風を切る音を聞いた瞬間、リンクはエポナの上にぴったり伏せた。多くの矢が頭上を通り過ぎる。再び矢が一本背中に当たった。鎖帷子に食い込んだのが分かる。だがやはり角度が浅く刺さってはいない。リンクは体を揺すって矢を落とすと、続けざまにエポナの脇腹を蹴って加速した。
雑兵たちを引き離すと同時にキングブルブリンとの距離が再び縮んでいく。平原には、昔作られた、北方からの侵攻を防ぐための逆さ杭がそこここに立てられている。
巨大緑鬼の猪がそれを飛び越えた。エポナも後を追って飛び越える。エポナ、頼む。無理をかけているのを承知でリンクはエポナの脇腹を再び蹴った。苦しげないななきをあげながらも、彼女は再び加速した。
距離が縮まる。リンクは剣を振り上げ相手に追いすがり、左から近寄ると思い切り払った。
手応えがある。キングブルブリンの腹に大きな切り傷ができた。だが、敵はリンクのほうにジロリと一瞥をくれると、角笛を鳴らしながら猪を左にカーブさせ加速していった。
なぜ?エポナの息があがったのか、やや速度が落ちてくる。あれほどの一撃を受けても巨大鬼には全く応えた様子がない。相手の体があまりにも太り過ぎていて、普通の剣の斬撃では刃が体の奥に届かないのだ。
「リンク、もう分かっているかと思うが、奴らの目的はお前を消耗させて嬲り殺しにすることだぞ」
ミドナがまた言った。
「このままあいつの後を追いかけても同じことの繰り返しだ。良い策が無いのにむやみに突っ込んでいくのはよせ」
先刻承知だ。だが確かにあの猪の足は予想以上に早く、追い詰めてもすぐ間合いから逃げられてしまう。
リンクの後方からまた雑兵どもの猪たちが迫ってきた。リンクが速度を落とし親玉から引き離されたことに気をよくしたのか、歓声のようなわめき声をあげている。
右手後方の一騎の後席にいる奴が矢をつがえたのが視界の端に映る。リンクは身を伏せ、回転斬りを放った。その瞬間放たれた矢が剣に当たり、明後日の方向に飛ぶ。すぐ前方を見てキングブルブリンの位置を確かめる。雑兵に気を逸らさせて逃げようとしても、そうはさせない。
目標を視界にとらえたまま、速度をやや落とす。左から追い上げてきた一騎に突き当たらんばかりに幅寄せし、横斬りで騎手を斬り倒す。制御を失った猪がコースを逸れ始める。右手後方の弓兵が次の矢をつがえる。今度はエポナを加速させ、右にコースをずらすとそいつの前の反対側に回り込む。相手も速度を上げてリンクの真横につけてくる。だが、弓兵が騎手越しにこちらを狙おうと弓を持ち直した瞬間にリンクは身を乗り出し、相手を騎手とともに一気に斬り捨てた。
まだキングブルブリンは前方にいる。リンクは少しずつエポナを加速した。矢が散発的に飛んでくる。頭上を二、三本の火矢がかすめた。
また矢が背中に当たった。今回は鎖帷子の上からでも肉に食い込んできた。だが痛みを感じてる暇はない。リンクは一気に追いすがりたくなるのをこらえながらキングブルブリンの後についた。追い上げたら必ず左右のどちらかにカーブを切るはずだ。それがチャンスだ。
後ろを見ると、猪どもにも疲れが出てきたのか、最初の一群れが次第に後方に引くとともに後ろから新手の群れが追い上げてきた。雑兵に邪魔されず仕掛けられる時間はあと少ししかない。
リンクは一度エポナの脇腹に蹴りをあてるとキングブルブリンの動きを注視した。右に行くか?左に行くか?
双方の距離が五メートルほどに縮まる。もう一度エポナを加速させた。剣が届くまであと少しだ。
その瞬間、キングブルブリンが大きく猪を右にカーブさせた。リンクもすかさず後に続く。小回りの効きではエポナに若干の分があった。
直角近くに曲がった巨大白猪に対して、エポナは斜めに追いすがる。もう一度脇腹に蹴りをあてて加速すると、リンクは一気に距離を詰めて相手の左側に幅寄せした。
横斬りで払う。巨漢鬼の腹に大きな切り傷ができる。怒りの声を上げた鬼は猪を急加速させた。
だが逃がさない。リンクもエポナを加速させ追いかける。もう一撃を背中に浴びせる。だが距離が開き始めたせいで浅かった。
キングブルブリンとエポナが先頭となり、今や三十騎以上に増えた雑兵どもが十メートルほど離れて追いかける。高速の追跡戦を繰り広げる二騎に対し、狙いがつけにくいのか、それとも親玉を誤射するのを恐れてか、矢を射かけるものの数が減ってきた。
リンクは相手の動きを寸分たがわず真似するつもりでぴったりとついていった。
巨大鬼はリンクに一瞥をくれると角笛を吹き鳴らした。リンクの背後では雑兵どもの群れが膨らんでいっているものと思われたが、リンクはキングブルブリンから死んでも離れないことに心を決めていた。
エポナが消耗し切ることのないように鞭を控えつつ、キングブルブリンが加速すれば加速し、曲がれば同じ方向に曲がる。影のように追従して距離を詰める。
堪えに堪え、行けると直感が告げた瞬間にエポナの脇腹を蹴った。エポナはぐんと前に出た。右後ろからキングブルブリンに接近した。鬼の背中は触れられるほど近く、目の前だ。
覚悟しろ。リンクは渾身の思いを込めて突きを放った。剣が相手の横腹に深々と突き刺さる。
そのとたんに、キングブルブリンが人間の頭部ほどありそうな巨大な拳を横に振り回した。咄嗟に上体を反らせてリンクはかわしたが、大きくバランスを崩し、たまらずエポナのたてがみにしがみついた。
白猪が加速し、再び引き離されていく。あれほど深い突きをくれても、鬼の王にとってはまだ深手ではないようだ。皮下脂肪が厚過ぎて臓腑までに届いていない。
リンクが体勢を立て直す。後ろから追いすがってきた雑兵の増援たちが、一騎、二騎と追い付いてくる。左側から接近してきた一騎の後席から弓兵が狙ってきた。リンクは咄嗟に籠手をはめた左手で顔をガードした。次の瞬間火のついた矢が籠手の甲をかすめ、リンクの帽子に引っ掛かったあと落下していった。
だがその刹那、右脇腹に激痛を感じた。矢が刺さった。鎖帷子の継ぎ目から先端が入ったのだ。リンクは剣を持ったまま右手で矢を払い落とすと、今撃ってきた敵に馬を寄せていった。
だが、その途端に左から衝撃を感じ、またバランスを崩した。左側の敵が猪ごと体当たりしてきたのだ。エポナが悲鳴のようないななきをあげる。
リンクは落馬しそうになりながらもエポナの首にしがみついてこらえた。左右を見ると、ブルブリンの雑兵たちは、後席の弓兵たちが棍棒に持ち変えている。なかなか当たらず、また鎖帷子のせいで深手を与えにくい弓矢より、猪で体当たりして棍棒で叩き伏せる戦法に切り替えたようだ。
前方を見ると、キングブルブリンとの距離がかなり開いてしまった。しかも、不快そうに横腹をさすってはいるが、致命傷には程遠い様子だ。リンクはエポナに加速の合図を送る。だが来たばかりの増援の騎兵たちも追いすがってくる。
左側の一騎が再び幅寄せしてきた。リンクは咄嗟にエポナを寄せると、こちらからぴったりつけた。ブルブリンたちの醜い顔がすぐ近くにある。後席の鬼が棍棒を振り上げる。リンクは剣を背中につけるように振りかぶった。棍棒が剣の上から背中にガツンと当たる。次の瞬間、リンクは逆回転斬りを一閃させた。ブルブリンの腕が肘から切断される。
右手後方からの一騎も追いすがってくる。リンクが剣を構え直す前に、後席が棍棒を振り回して襲ってきた。リンクはエポナの上で体を伏せてかわす。頭の数センチ上を棍棒がかすめたあと、素早く体を起こし相手の前席の騎手の前腕に剣を振り下ろした。さらに足で猪の目の辺りを思い切り蹴る。騎手の片手が手綱を握ったまま切断されてぶら下がる。斬られたブルブリンがわめき声をあげると同時に、猪が制御を失い右のほうに逸れていった。
キングブルブリンの位置を確認し、体を低くしてエポナを駆る。やがて前方に平原の端が見えてきた。峡谷が左右に広がっている。そこに行きつく前に鬼の王はどちらかにカーブを切るはずだ。
リンクは再びエポナに加速の合図を送った。次の攻撃で仕留められなければエポナは持たないかもしれない。頼む、あと少しだ。リンクは念じながらエポナの脇腹を蹴った。
全神経をキングブルブリンの一挙手一投足に集中する。後方の雑兵どもが、再び弓矢に切り替えたのか、また火矢が散発的に飛んできた。
だが刺さるなら刺さればいい。リンクはそう決めて、一切を無視してキングブルブリンを追った。
距離が少し縮み、かと思うとまた開く。リンクはキングブルブリンの白猪の上に立てられたポールに縛り付けられたコリンを見た。助ける。必ず助け出す。
とうとうキングブルブリンが左にカーブを切った。リンクも追いすがる。カーブした直後の加速はエポナに分がある。リンクはエポナの脇腹を蹴りスピードを上げていった。
今度こそ逃がすものか。リンクは左後ろから追い上げて迫る。追いすがりざま背中に一太刀浴びせた。振り向いてリンクをにらみつけたキングブルブリンは手綱を鳴らし猪を加速させた。
エポナのあとわずかの余力にリンクは賭けた。脇腹にかかとを当てる。離れそうになった距離がまた詰まった。真横に寄せ思い切り剣を左腕の後ろまで引き付けたあと回転斬りを放つ。キングブルブリンの横腹にバックリと傷が開く。
鬼の王は怒りと苦痛の咆哮を上げた。手綱を操り猪を右にカーブさせる。いつしか足元の草原が石畳になった。かつて建てられた砦の崩れ果てた壁が前方に迫る。人の背の高さほどだ。キングブルブリンの猪がそれを飛び越えた。
リンクもエポナを駆り立てて続いた。障害物を飛び越えたエポナが降り立ってその蹄が石畳を打つ音が響く。
後続の騎兵どもはついてこれていなかった。すぐに石畳が切れる。はるか先には石造りの構造物があった。大きな橋だ。
もう逃がさない。リンクはエポナを少しずつ加速させて相手との距離を離されないようにした。キングブルブリンは真っ直ぐ橋に向かっているように見えた。橋の入り口にある堅牢な石積みの門に向けてひた走っている。
このまま逃げるつもりだろうか?リンクは一瞬不審を感じた。鬼の王がリンクとの直接対決を恐れて逃げ出すというのは不自然だ。
その瞬間、ミドナが叫んだ。
「リンク、行くな!これは罠だ!」
キングブルブリンは猪を橋に向かって突進させる。リンクとの距離は馬二頭分ほどだ。橋は堅牢そうな石造りで百メートルほどの長さだ。その先にも敵が潜んでいるのだろうか?だが、もはやリンクは相手に止めを刺してコリンを奪還する以外の選択肢は見えなかった。
「リンク、聞こえないのか。これは罠だ!一度橋の中に入ったら二度と出られなくなるぞ!」
キングブルブリンとリンクの二騎が相次いで橋に入る。柔らかい土を打つ蹄の音が石畳を打つ乾いた音に変化した。
リンクが橋の門を抜け十メートルほど進むと、背後でガラガラと何かが落下する物音がした。馬を走らせながら振り返ると、短く切られた丸太が橋の出口に山のように落とされ積み重なっている。弓矢を携えたブルブリンたちが門の上に顔を出し、一人が火矢をつがえて丸太の山に向けて撃ち込む。丸太はあらかじめ油でも染ませてあったのかたちまちメラメラと炎を発し、すぐに轟々と音を立てて燃え始めた。
リンクは馬を減速して止めた。キングブルブリンもまた橋の反対側の終端まで行くと、猪を止めてこちらに方向転換していた。
リンクの背後では炎の高さが三メートルほどにもなった。エポナでもとても越えられそうにない。
リンクたちは完全に閉じ込められたのだ。