「トアル村のリンク。それがお前さんの名じゃな?」
老人は言った。リンクは背中に鳥肌が立つほど驚いた。
この老人はリンクが来るのを待っていたという。しかも名前も出身地も知っている。ミドナのように魔法を使うのだろうか?
リンクが言葉を失っているのを見て、老人は豪快な笑い声を上げた。
「わしはゴロンの四長老のひとり、ドン・シーゲルじゃ」
そう言うと、彼は杖で壁のほうを指した。
「わしがお前さんのことを知っていたから驚いたんじゃろう?何もわけはないことでの。ほれ、その壁についている、それじゃ」
リンクが目を向けると、壁には鉄でできた漏斗のような形をしたものが据え付けられている。そこからは、金属の管が伸びており、リンクが入ってきた扉の辺りで天井に吸い込まれていた。
「あれで向こうと話ができるというわけじゃ。わしらゴロンも随分とハイカラな暮らしじゃろ?」
そう言うとシーゲルはまた面白そうに笑った。
「お前さんのことはゴローネから聞いておる。ゴローネがなぜお前さんを鉱山に入れたかという話ものう」
シーゲルはそこまで話すと、金属でできた何かの部品のようなものをリンクに差し出した。
「これは何ですか?」
受け取りながらリンクが尋ねた。
「わしら長老たちはダルボスを閉じ込めた部屋の鍵を三つに分けたのじゃ」
老人は言った。
「残り二つの部品はあと二人の長老が持っておる。万が一にもダルボスがこの鉱山の中で解き放たれることがないようにのう」
そこまで話すと、彼は悲しげに顔を伏せた。
「今のダルボスは誰とも会話ができん。あれは文字通りの化け物に姿を変えてしもうた。それで、このことが起きてからわしらは鉱山を閉め、鍵を預かったわしら三長老は断食して祈り続けておったのじゃよ」
「断食‥‥」
「そうじゃ。わしらはどうせ老い先短い身じゃからの。そうしていたところへお前さんが来たという知らせがあったのじゃ」
シーゲルはリンクの顔を見上げた。
「お若いかた。どうかその力をわしらゴロン族のために貸してくだされ。どうか、どうかお頼み申す」
老人が頭を下げるので、リンクは恐縮してしまった。
「そうじゃ、それからそこにある箱にはこの鉱山の地図が入っておる。役立てて下され」
シーゲルに言われてリンクが老人の後ろにあった丈夫そうな木造りに金属の縁取りをした箱を開けると、果たして羊皮紙にインクで書いた地図が入っていた。これで鉱山の構造が分かりそうだ。
老人のもとを辞する前にリンクは気になっていたことを聞いてみた。
「あの‥‥申上げにくいんですが‥‥」
「なんじゃな?」
シーゲルが顔を上げた。
「その、こういう冒険をしていると、なんと言うかその‥‥いろいろとルピーがかかるものですから」
「なんじゃ、そんなことか」
老人は破顔一笑した。
「わしは大して持っておらんが、そこにある箱に少し入っておる。持っていきなされ。それに他の長老には持ってる者もおるでの。尋ねてみなさるとよかろう」
シーゲルは床より一段高い祭壇の隅に置かれた小さな金属の箱を指した。リンクは心底ほっとして礼を言った。長老が示した箱を開けてみると赤ルピーが入っている。これで二十ルピーだ。リンクは再び長老に礼を言って梯子を登った。
上の通路に入ると、隠れていたミドナが顔を出した。
「その調子だリンク。これからは長老に会うたびルビーをせびるようにしろ」
「でもこういうのってなんだか心がもやもやするなあ」
リンクは居心地悪そうに言った。
「ミドナ、君もルピー集め手伝ってくれないか?君ならどこにルピーがあるかわかりそうなもんだろ?」
「甘えるな。そんな下賎な仕事は私の担当ではない」
彼女は言下に否定した。会話しながら進んでいると、通路は円形の部屋の壁に沿ってぐるりと伸びており、その先にはちょうど入ってきた扉の上辺りに新たな扉があることがわかった。扉の手前あたりに壺がいくつも散らばっている。
「おい、こういう壺もおろそかにするな。ルピーが入ってるかも知れないぞ」
ミドナが言う。リンクはその指示に従い、かがみこんで手近にあった素焼きの壺に手を突っ込んでみた。
生き物の感触がする。リンクは慌てて手を引っ込めた。羽毛の手触りだ。大きさは鶏くらいだろうか?
「どうした?」
「いや、何か鳥みたいなものが‥‥」
見ていると、リンクが手を突っ込んだことで刺激されたのか、壺の中の生き物が動き始めたらしい。壺自体がガタガタと揺れ始めた。
もし鳥が入っているなら後々食料になるかもしれない。ここは火山だから調理用の火はすぐ起こせるはずだ。そう思ったリンクは中身を確かめることにした。剣を抜いて、中身を傷つけないよう慎重に壺を叩く。次第に壺にヒビが入る。
やがて壺が真っ二つに割れた。中からは、果たして鶏ほどの大きさの鳥が飛び出してきた。
だが、それをよく見た瞬間リンクは驚きのあまり剣を取り落としそうになった。
顔がどうみても人間なのだ。頭髪はなく頭はツルツルしており、また眉毛も睫もなく、目には瞳もない。それ以外の身体の部分はほとんどが鶏なのだが、胸の辺りには小さな乳房のようなものがついている。
魔物か?だがそのような雰囲気もない。しかし、次の瞬間、その生き物が流暢なハイリア語でしゃべり始めたのでリンクは余計に仰天した。
「ふう、助かったわ。お尻が詰まって出られなくなっちゃってたのよ。お兄ちゃんありがとねぇ」
リンクが呆然としたままその生き物を見つめていると、彼女(どうやら雌らしいとリンクには思えた)は気さくな語調で話しかけてきた。
「おばちゃんね、ここで探し物してたのよ。お兄ちゃんもそうなの?」
「は‥‥はい。そうですが」
相手の言葉遣いがあまりに自然なので、リンクは思わず返事をした。目を閉じていたら人間の婦人と会話しているのとまったく同じに思える。
「だったら、ねえ、おばちゃんと一緒に行動しない?おばちゃんね、お兄ちゃんを外にワープさせてあげられるの。それでそのあといつでも同じ場所に戻れるのよ。使える女でしょ?」
「ちょっと待て、一体どうやってそんなことをするんだ?」
ミドナがリンクの後ろから顔を出して言った。
「あらまあ、とっても可愛らしい妖精ちゃんを連れてるのね!」
おばちゃんと名乗る鳥が言った。
「私は妖精ではない。私のことはミドナ様と呼ぶがよい。この姿はこの世界での仮の姿でな」
ミドナは訂正するとまた尋ねた。
「今、鉱山の外にこいつをワープさせてから同じ場所に戻せると言ったな。どうやってやるんだ?」
聞かれた鳥はさも簡単なことのように答えた。
「あら、私の息子が出してくれるのよ。息子と手をつないでたら一緒にワープできるってわけ」
鳥が片方の羽を少し上げると、その下から小さな子供の顔が出てきた。だが、頭髪も眉毛も睫も瞳もないのは母親同様だ。
「それでね、この子、どこにいてもすぐに私のいるところに戻ってこれるのよ。凄いでしょ?」
「リユニオン系の魔法というわけか」
ミドナは納得したようだ。
「ミドナ、いったいなんなんだいそれは?」
「血縁関係など強い絆を持つ二者の間でのみ有効な魔法だ。両者が物理的に離れていても強く念じれば相手のいるところにワープできる」
説明すると、ミドナはリンクに向き直った。
「リンク、こいつらは使えるぞ。私の魔法ではこの鉱山から脱出することはできても、同じ場所に戻ることはできない。だからまた最初からやり直しになる。だがこいつらに頼めば途中で補給のために外に出たあと、また同じ場所から探索を再開できる」
「そうなのよ。ね?使えるでしょ?」
鳥も言う。
「しかしその歳で魔法が使えるとは大したものだな」
ミドナは母鳥の羽の下から出てきた子鳥に目をやった。彼女が誰かを誉めるとは珍しい。
「僕ちん生まれたときから魔法使えるでちよ」
小鳥が自慢げに言う。
「わかった。でも待ってほしい」
やっと頭の整理が追い付いてきたリンクが割って入った。
「連れていくといってもどうやって?これから先も溶岩の上とか水の中を通るだろうし、きっと魔物にも遭遇するだろ?僕のポーチに入れていくわけにもいかないし」
「なら特別に私の空間を使わせてやろう」
ミドナが提案した。
「リンク、これはえこひいきじゃないぞ。私たちの仕事を効率よく進めるためだ」
そう言うと、ミドナが指をパチンと鳴らした。その途端に母鳥と小鳥が姿を消した。リンクが呆気にとられて周囲を見渡していると、またしばらくしてミドナが指を鳴らす。再び鳥たちが現れた。
「お兄ちゃん、聞いて聞いて!ミドナちゃんのお部屋、静かでとっても素敵なのよ!綺麗なカーペットが敷かれててね‥‥」
「ペラペラしゃべり過ぎるのがお前の難点だな」
ミドナは溜め息をつく。再び指を鳴らすと、鳥たちはまたミドナの魔法空間に収納された。
リンクはその場にあった他の壺も漁ってみた。一ルピーが二つほど見つかった。少額だが貴重な軍資金だ。扉を開けて外に出る。
先ほどのプールの部屋に出た。壁の両側に青い金属が張られている。壁にはところどころ炎ナメクジが張り付いている。壁の先のほうには鉄製の張り出しが両側の壁にしつらえられていて、うまくジャンプすれば渡れそうだった。そしてその先、ちょうど正面向こう側に新たな扉がある。
もしかすると鉄のブーツを履けば壁を立って歩けるのだろうか。リンクは考えたが、故郷のトアル村ではよく川岸で遊ぶ際に岩壁を蹴ってジャンプし、先にある石に着地していたものだ。それを思い出したリンクは同じ方法で先に進むことにした。失敗しても水に落ちるだけだから安全だ。
左の壁で試すことにした。助走をつけ、ジャンプすると横の壁を蹴り、向こう岸の張り出しに飛び付く。成功した。そのまま前進し、扉を開ける。
扉の向こうは、どうやらあの火ヤモリがいた部屋の出口にあたる四角いトンネルの上のようだ。狭い通路になっており、終端あたりに四角いスイッチがある。
スイッチの上に乗りミドナに合図して鉄のブーツを履いた。スイッチが押されると、またリンクの両足が強く天井に引っ張られ、身体ごと宙に持ち上げられたかと思うと、次の瞬間には逆さまになって足から天井に着地していた。
また上下あべこべだ。眼下には、先ほど越えてきた間欠泉のある溶岩だまりや、生き残りの大ヤモリがいる踊り場が見える。
溶岩の熱気がここまで届く。これなら濡れた服もほどなく乾きそうだ。目の前を見ると、青い金属でできた通路らしきものが伸びているが、うねうねと曲がっているらしく、このまま行けば次の場所に行けるのかは不明だった。
リンクは地図を取り出して眺めた。地図によるなら、今いる場所からは右手に出てから一旦逆戻りし、そこから部屋の外周を通る道を進み、二つに道がわかれたところで左手の岐路を進むべきということがわかった。
上下左右がごっちゃになりそうなのをどうにか整理し、地図をしまって歩を進めはじめた。行く手に何匹か炎ナメクジがいたのを剣で片付けた。
鉄のブーツを履いた状態での歩行は極めて遅い。ようやく向こう側に到着すると、ブーツを戻して降りたところに新たな扉があった。
扉を開けると、あの工業機械が林立する巨大な縦穴だ。目の前の通路は、電磁石を引っ提げた塔のある作業台に通じていた。だが目をこらすと塔の周囲にはブルブリンどもがいる。
「リンク、ここでひとつ外に出て装備を補給したらどうだ?さっき言ったように盾も調達したほうがいい」
ミドナがそう声をかける。そう言われたリンクも改めて気づいた。まだ探索を始めて数時間しか経っていないが、慣れない過酷な環境のせいか、疲労が溜まっていくのも早い。休憩も必要だ。
リンクはおばちゃんの息子にワープを頼んだ。だが、息子が母鳥の羽の下から出てきたときリンクはまたまた仰天させられてしまった。頭から直接羽が生えており、胴体がないのだ。
「じゃあ行きまちゅよ」
そうこうしているうちに息子鳥がそう言ってリンクの頭の周りをくるくると飛び始めた。
次の瞬間リンクの身体もくるくる回転し始める。身体がフワッと浮いたかと思うと、周囲が一旦暗くなり、すぐまた光が見えた。
気がつくと、リンクはデスマウンテン頂上の、相撲練習部屋の入り口の外にある踊り場に立っていた。太陽は高く上がっている。
リンクは踊り場の下を覗き込んで見た。見張りのゴロンがいる。もしゴローネから話が通っていなければまた戦うことになってしまう。思案しているとミドナが言った。
「リンク、部屋の中に入れ。そこから降りなくても部屋の中に下に降りる経路があるはずだ」
「本当に?どうしてわかる?」
リンクが聞き返す。
「とにかく部屋の中に戻れ」
ミドナが繰り返す。リンクは戸惑ったまま、入り口から中に入っていった。
最初に来たときと同じようにゴロンたちがたむろしている。リンクが入り口から入ってきたのを見ると皆がどよめいた。
「右手の壁に穴があるだろう。ゴロンか立ってる場所だ」
ミドナが姿を隠したまま言う。確かに、壁を掘った穴の前にゴロンの若者がひとり腕組みをして立っている。その向こうには中心に四角いスイッチがある鉄製の正方形の床があった。
「そこに下に降りる仕組みがあるはずだ」
ミドナが言う。リンクはそのゴロンの脇を通り過ぎた。その若者はジロリと一瞥をくれたが何も言わない。リンクが四角い床の中心にあるスイッチの上に立つと、ミドナがブーツを鉄のブーツに変えた。スイッチが入ると、重々しい音がして床全体が下に降りはじめた。
「いったいなんだいこれは?」
リンクは思わず呟いた。
「騒ぐなリンク。ただのエレベーターだ」
「エレベーター?」
ミドナが答えないうちに、床の動きが止まった。岩を掘ったままの十メートル四方ほどの部屋に着いたようだ。右手に小さな岩と、岩壁を掘った廊下がある。ミドナがブーツを戻してくれた。
「ここから下に行けるはずだ」
ミドナが言った。果たして、廊下を進んでみると、以前に見た浴場に繋がっているようだ。
「ミドナ、凄いな。いつ知ったんだ?」
「お前が相撲に夢中になっている間にな。お前が一見ている間に私は十見ている」
感心しながら浴場への廊下を歩いていると、左から大きな声で呼び掛けるものがあった。
「おい人間のあんちゃん、ここは初めてか?」
見ると、岩でできたカウンターの向こうにゴロンの中年男がいる。
「は‥‥はい」
リンクが答えると、男は浴場の使用方法を親切に教えてくれた。人間は浴場の端にある洗い場で服を脱いで身体を洗ってから浴槽に入るという決まりらしい。
礼を言うと、リンクは言われた通りに洗い場に行き服を脱いだ。おばちゃんの息子に声をかけたが、風呂は嫌いでちゅ、ということだったので、服を入れる籠の中で待ってもらうことにした。
身体をよく洗うと、リンクは浴槽の中に身を沈めた。熱い湯に肩まで入ると緊張の連続でこわばった神経が弛んでゆくのがわかった。
大きく溜め息をついて、浴槽にたっぷり張られた湯を肩にかける。こんなにリラックスしたのは久しぶりだ。
すると、ゴロンの話し声が近づいてきた。リンクが目を上げると、二人組が手拭いで前を隠しながらこちらに歩いてくる。
ひとりがリンクの姿を見ると言った。
「おい、なんで人間がいるゴロ?人間は確か立ち入り禁止のはずだゴロ」
しかし、その相棒は気にも止めない様子で応じる。
「ま、良いってことゴロ。どうせ俺たち下っ端には関係ないゴロ」
そう言うとそのゴロンの男はリンクに話しかけながら湯に入ってきた。
「人間のあんちゃん、ちょっと失礼するぜ」
ゴロンの二人の巨体が浴槽に勢いよく入ってくるとリンクは顔に湯を被ってしまった。ゴロンたちはいかにも気持ち良さそうに声をあげた。
「やっぱりこの温泉は最高ゴロ。まさに命の洗濯ってやつゴロ」
リンクの近くにいるほうのゴロンが、そう呟くとまた話しかけてきた。
「おいあんちゃん、知ってっか?あの麓の村にある旅館の温泉な、ありゃ偽物だぜ」
「おい、なんでそんなことわかるゴロ?俺は行ったことあるが普通の温泉だったゴロ。ここより狭いのが難点だったゴロが」
向こう側にいたひとりが尋ねる。
「俺は昔あの旅館に石炭を卸してたからわかるゴロ。カカリコ村に暖房なんか必要ないのにあの旅館ときたら年中やたらと石炭焚いてたゴロ。きっと水を沸かして温泉に見せかけてたに違いないゴロ」
「そうか、そう言われてみればあの温泉は効き目が薄いような気がしてたゴロ。ここの温泉は入ったあと肌がツルツルになるゴロが、あっちはあったまるだけで肌が綺麗にならなかったゴロ」
「だろゴロ?水を混ぜてるのは間違いないゴロ」
ゴロンたちが温泉談義に花を咲かせている間にリンクは風呂を上がり、手拭いで身体を拭いて服を着た。
そうすると、またカウンターの向こうにいたゴロンの中年男が声をかけてきた。
「おいあんちゃん、温泉上がりにミルクの一気飲みはどうだい?最高だぜ?」
言われてみると喉がカラカラに乾いている。二十ルピーだというので財布から取り出して払うと、リンクの手持ちのビンに並々と注いでくれた。ゴロンの一人分らしいが人間には二回分だ。流水で冷やしたのか、程よく冷えている。リンクは半分飲んで、あとは後程頂くことにした。
腹も減ってきた。人間に食べられるものはないかと聞くと、十ルピーのスナック菓子があるという。料金を払うと、紙に包まれた四角い板のようなものが出てきた。
パンだというので齧ってみたが、あまりにも硬く、とても噛めたものではない。聞くと、小麦粉で焼いたパンだが、ゴロン向けに岩のように硬く焼いてあるという。リンクは岩のカウンターの上にそれを置いて、剣の柄で叩き壊して欠片にしたものを口に入れた。
唾液でふやかすとどうやらパンの味がした。少しの分量しかないように見えたが、パン種を使っていないので腹には溜まりそうだ。
もうひとつ思いつき、リンクはカウンターの男に尋ねてみた。
「あの、つかぬことを聞きますが、盾とかってあります?」
「盾だって?」
男は何かを思い出すように頭を掻いていたが、やがてカウンターの奥に走っていった。しばらくすると、木の盾を抱えて戻ってきた。埃だらけなのを叩いて綺麗にしている。
「あんちゃん、運がよかったな。昔はよく人間の剣士がよくこの温泉に湯治に来てたもんでな。これが最後の一個だ。五十ルピーでどうだ?」
ほとんど全財産はたいてしまう額だったが、背に腹は代えられないので結局リンクは盾を買った。トアルの盾よりは薄いが十分な硬さがありそうだ。
「あんちゃん、矢も何束かあるけどいるかい?」
だがリンクは弓を持っていないので遠慮した。補給はこれで十分だ。リンクはポーチの中に収まっていたおばちゃんの息子を呼び出した。
「ママのところにもどるでちゅか?」
リンクが頼むと、息子鳥は頭の上をくるくると飛び始めた。たちまちリンクの身体も回転し始める。リンクは気がつくと以前いた鉱山の足場の上に着地していた。
「あら、お帰りなさい。さ、行きましょ」
待っていたおばちゃんが言う。すぐにおばちゃんと息子はミドナの魔法空間に吸い込まれた。
休憩のおかげで力がみなぎってきた。足場の先にある、電磁石を提げた塔のある作業台に剣を抜いて近づく。塔の周辺にはブルブリンが四匹見えた。
通路の手すりに身を隠し距離を詰める。手すりが切れる場所まで行き塔の横にいる一匹を観察した。そいつが向こうを向いた瞬間に飛び出し、背中にジャンプ斬りを浴びせ、さらに横斬りで胴を払う。
異常に気付いてもう一匹が塔の影から顔を出す。リンクはダッシュして突きを放った。刃の根本まで相手を貫くと、足で蹴って剣を抜き頭から縦斬りを浴びせた。
塔の裏側に出ると、鬼二匹が残っている。一匹がようやく事態を悟り、戦闘態勢をとって距離を詰めてきた。相手が間合いに入った瞬間に強烈な盾アタックをかまし、構えが崩れたところを左右袈裟斬りにし、最後に回転斬りを喰らわした。最後の一匹が怒りの喚き声を上げた。戦うか逃げるか少し迷ったようだが結局戦うことにしたようだ。
棍棒を振り下ろしてくるのを盾で逸らし、右から横斬りを叩きつける。さらに返す刀で左からの横斬り、最後に胸を一突きして勝負をつけた。
ブルブリンたちの遺骸が転がるなか、あの四角いスイッチが床に設置してあるのに気づいた。鉄のブーツを履いて乗ってみる。スイッチが押されると、作動音がして塔が回転しはじめた。頭上に吊り下がっている電磁石の円盤が移動している。目で追うと、業台の反対側に、短い通路から伸びた八角形の踊り場がある。塔の回転によりその上方に電磁石がくるようになったようだ。さらに目で追うと、塔がさらに回転していき、それに従い電磁石の円盤が今いる作業台から少し離れたところにある別の踊り場の上方に行くようだ。
リンクはいったんミドナにブーツを戻してもらうと、まず作業台とつながった踊り場に移動して再び鉄のブーツを履いた。電磁石が頭上に来ると、途端にブーツが引き寄せられ、上下さかさまになって足から円盤にくっついた。何度やっても気持ちが悪い。塔の回転に従って円盤がもう一つの踊り場の上にかかった瞬間ミドナに合図し、ブーツを入れ替えて飛び降りる。
そこからは上り坂の通路で、その先にもう一つの踊り場があった。進んでいくとそこに緑鬼二人の影がある。しかも、身体に炎をまとった奇妙な蝙蝠がヒラヒラと辺りを飛び回っている。
距離が三メートルほどに近づいたときブルブリンたちが気づいた。リンクは右側のブルブリンに突進した。その顔に剣を振り下ろす。相手がバックホップしたところで前転して追いすがり腹に突きを喰らわせた。相手が激痛にのけ反っている間に剣をその身体から抜く。
しかし左側のブルブリンがこちらに走り寄ってくる。それを目の隅で捉えたリンクは裂帛の気合いとともに回転斬りを放った。目の前のボコブリンが胴をザックリ斬られ崩れるとともに、後ろから近づいてきた奴も深手を負ってよろめく。リンクは二匹目に向き直り、ジャンプ斬りで片をつけた。
そいつが倒れた瞬間、リンクは空中を飛んでいた蝙蝠がこちらに突進してきたのに気づいた。反射的に盾を上げる。バシンと音がして、盾にぶち当たった蝙蝠が羽ばたきながら体勢を立て直し上昇しようとする。だが、リンクは素早く剣を振るってそいつを真っ二つにした。
蝙蝠の死体が地面に叩きつけられた。歩み寄って観察すると、その体からはまだ火が出ている。こいつも魔物か。
嫌な予感がして左手の盾を見た。
炎が上がっている。リンクは慌てて剣を放り出し、盾を床に置いて何度も踏みつけた。やっとの思いで消火したが、表面がやや焦げてしまっている。買ったばかりなのに、このまま何度も盾を焦がしてしまったらやがて使えなくなってしまう。
「リンク、わかったろう。そういう安物を買うからいけないんだ。今後は装備にルピーをケチるなよ」
ミドナが姿を現して言った。
「でも全財産はたいてもこれが精一杯だったんだ。それに金属の盾なんてどこで売ってるかわからないよ」
「だから効率よく動けと言ってるだろう。それに資金が潤沢にあれば必要な物資は向こうから寄ってくるものだ」
リンクは肩をすくめると剣を血払いして鞘に納めた。面倒だが、今後は箱、壺、樽と対象を問わずルピーを探しまわったほうがよさそうだ。リンクは思い立ってブルブリンの遺骸を探ってみた。一人が一ルピーを持っていた。地道だが少しずつ集めるしかない。
踊り場の中央に、また四角いスイッチがある。リンクはその上に乗るとブーツを履き替えた。スイッチが押され、しばらくすると頭上に別の塔に吊り下げられた電磁石が回ってきた。途端に両足から上に引き寄せられ、上下さかさまに電磁石にぶら下がる。塔の回転によって電磁石は北側にある岩の床の上方に移動していった。そこを観察すると、ブルブリン二匹とあの蝙蝠がいる。電磁石が下に下がり始めると、リンクは素早く剣を抜き、ミドナに合図してブーツを戻して床に降り、足から着地した。
鬼どもはまさか上から人間が降りてくるとは思わなかったらしい。敵が臨戦態勢をとる前にリンクは手近にいた一匹にジャンプ斬りを叩きつけた。もう一匹が狼狽しているところへ突進し胴を深々と刺し貫いた。だが、まだ蝙蝠がいる。リンクはヒラヒラと飛ぶそいつの軌道を見極め、距離を詰めてから切っ先で叩き落した。
剣を血払いして納める。周囲を見ると箱や樽が床のそこここに散らばっている。片端から探ってみるとようやく五ルピーが手に入った。
目の前の岩壁に木の扉がある。それを開けて中に入ると、そこは縦横五十メートルほどの岩壁に囲まれた部屋だ。部屋を南北に隔てるようにプールがあり、その中にはいくつかの飛び石が設置され向こう岸に渡れるようになっていた。向こう岸には頑丈そうな金属の門がある。その左手には高い舞台がある。舞台の上には、高さ一メートルほどのクリスタルのような物が置いてあり、それがリンクの注意を引いた。右手を見ると、プールの一角が金網で仕切られている。だが金網は水中部分に穴が開いており、内側に行けるようになっていた。
「門を開ける仕掛けはどれだろう?」
リンクは呟いた。
「難しいものではないはずだぞ。それよりもリンク、向こうにおかしな連中がいるから気を付けろ」
ミドナにそう言われ、向こう岸を見てみると、確かに蟹とも虫ともつかない生き物が三、四匹群がっていた。大きさは胴体だけで五十センチ以上、それに長い脚が四本ついている。胴体も脚も棘だらけだ。その生き物たちは時折跳ねて移動していた。まるで巨大アメンボだ。
リンクはそいつらを刺激しないよう、入ってきた扉の近くから部屋をよく観察した。水中にスイッチがあるのだろうか?そう思ってプールの底をよく見てみると、左手の水中に丈夫そうな木造の箱がある。もしかすると鍵が入っているかも知れない。リンクは再び水に入るのを覚悟して岸に向かった。
岸から水に飛び込み、箱の上まで泳いでいくとミドナに合図し、鉄のブーツを履いた。身体がみるみる水に沈む。三メートルほどの水底に到達し、箱の蓋を開けるとやはり鍵が入っている。鍵を仕舞うと、すぐミドナがブーツを戻してくれた。
ところが、水面に浮上したところであの巨大アメンボたちに気づかれたらしい。跳ねながらこちらに向かってくる。
まずい。リンクは慌てて手近の飛び石に向かって泳いだ。必死で這い上がると剣を抜く。巨大アメンボたちは水の上も歩けるらしい。リンクに近づいてくると、一匹がひときわ高く跳躍して襲い掛かってきた。盾を上げると、ガツンと衝撃がある。目の前に落ちたそいつに思い切り剣を振り下ろす。硬い殻が割れる音がした。だがまだ致命傷ではないと見えた。さらに顔の辺りに突きを喰らわし、仕上げにもう一度縦斬りを叩きつけた。
だが周囲に次々と巨大アメンボが群がってくる。距離を詰めて飛び掛かってきた。衝撃がかかる盾を支えながら、リンクは咄嗟に身を沈め回転斬りを放った。三匹ほどに当たり、波状攻撃が止む。だが身動きの取れない飛び石の上では不利だ。リンクは剣を構えたまま飛び石を向こう岸に渡った。岸に立って構え直すと敵も追いすがってくる。跳躍してきた一匹に縦斬りを叩きつけ、落下したところに深々と突きを喰らわす。続いて二匹が近寄ってきた。一匹に盾アタックを喰らわせて後ろに下がらせ、もう一匹の甲羅を上から叩き割った。仕上げにそれぞれに二発づつ突きを喰らわせた。
ようやくのことで敵を片付け一息つくと剣を血払いして納めた。ふとミドナに声をかけてみた。
「ミドナ、大丈夫か?虫たちはもういないよ」
「わ...私か?私は問題ない。それより早く門の仕掛けを探せ」
ミドナの声は上ずっていたが、辛うじて平静を保っているようだ。リンクは笑いながら周囲を見回した。舞台は高すぎてここからはよじ登れない。もしかするとプールの中の金網で仕切られた区画に何かがあるのかも知れない。
リンクは再びプールに飛び込むと、金網の手前まで泳いだ。ミドナに合図しブーツを履き替える。水底に到達すると、金網の穴には金属の箱が置かれて塞がれている。それを押してどうにか向こう側に除けると、リンクは金網を潜り抜け、ブーツを叩いてミドナに合図を送った。浮上し、奥へ泳ぐとそこにあった岸に登った。壁との間の巣スペースに樽がいくつか置いてあり、左手には少しの段差の上にあの四角いスイッチがあった。これだ。
リンクはスイッチの上に登るとミドナに合図して鉄のブーツを履いた。たちまち作動音が響く。どこかで電磁石が動き始めたと思われるがどこだろう?リンクはブーツを履いたまま段差を降りてみた。目を上げると、天井には青い金属が張ってあり、その一部に直径一メートルほどの丸い印がついている。その下まで歩くと、果たしてリンクは足から引き寄せられ、空中に浮かび上がり天井に着地した。
上下さかさまで天井を歩いていくと、どうやら最初は気づかなかった高い場所にもう一つの床が設置されていたようだ。その上まで歩いてからブーツを元に戻して降り立った。先のほうにまたスイッチがある。そこに乗ってまた鉄のブーツを履いた。スイッチが作動するが、やはり電磁石の場所は別にあるようだ。ちょうど向こう側にある壁に青い金属が貼ってある部分がある。そこにやはり丸い印がついている。リンクはその正面に行けば鉄のブーツが引き寄せられると理解できてきた。いまいる床の奥に鉄の枠と金網でできた張り出しがあり、そこから飛び降りればちょうど電磁石の磁力の範囲に入るはずだ。リンクはブーツを履いたまま張り出しに乗り、その端から手でぶら下がった。慎重に丸印の位置を見極めると思い切って手を離す。
予測したとおり落下途中でリンクは急激にその壁の丸印に引き寄せられ足から壁にくっついた。そこから壁を歩くと、最初部屋に入ったとき左手に見えた舞台の上までつながっている。鉄のブーツを履いた遅々とした歩行だったがようやく舞台にまで辿り着いた。ミドナにブーツを元に戻してもらうと、周辺を捜索した。金属の箱があり、中には二十ルピーが入っていた。
舞台の端には深い青色のクリスタルのようなものが設置してある。これが門を開く仕掛けだろうか?動かし方がわからない。
「ミドナ、これはどうやって動かすのかな?魔法の呪文を使うとか?」
「あのゴロンどもがそんな大層な仕掛けを使えるわけがないだろ。ここはもっと単純に考えろ」
ミドナが言う。リンクは試しにクリスタルを撫でてみた。だが何も起こらない。思い切って、剣を抜いて斬りつけてみる。するとクリスタルが黄色く変色し、作動音がしたかと思うと、部屋の北側の壁を塞いでいた金属の門が開いた。
リンクは舞台から飛び降りて床に降り立つと、門の向こうに向かった。だが次の部屋にブルブリンが二匹いるのを見て剣を構え直した。相手が喚き声を上げ近づいてきたところへ回転斬りを喰らわせ、よろめき倒れたところに一匹に逆手で剣を突き立てとどめを刺す。もう一匹が深手を負いながらも立ち上がる。リンクはすかさずジャンプ斬りを喰らわせ叩き伏せた。
入ってきた門がリンクの背後でガラガラと音を立てて閉まっていく。周囲を見回すと、正面には上り坂の短いスロープがあり、その上の通路の左右の端に見たこともない機械が一台づつ置いてある。四角く縦長で高さ二メートルほどだ。リンクが近づいてみるとその機械が突然回転し始めた。天辺ちかくにある赤く丸い宝石のような部分が光る。
本能的に危険を感じたリンクが飛び退る。すると、その赤い部分から炎のような線が真っすぐ飛び出してきて、リンクがさっきまでいた地面を焼いた。冷や汗を拭いながら、リンクはさらに下がって距離を置いた。
「自動警備機械か。思ったより進歩してるな」
ミドナが感心したように言う。
「一体全体何なんだこれは?」
リンクは血払いして剣を納めながら言った。リンクが離れてしまうと、その機械は火を発するのを止めてまた回転を続けた。
「侵入者を撃退するための装置さ。長老が使っていた伝声管といい、エレベーターといい、ここはハイラルの中ではかなり文明的な場所だぞ。私は気に入った。お前の田舎よりはよほどましだ」
「僕の故郷を悪く言わないでくれ。ミドナだっていちど村の牧場で搾りたての乳を飲んだら考えが変わるさ」
リンクは抗議した。警備機械の向こう側は次の部屋に通ずる通路があるようだったが今は跳ね橋のような金属の板で塞がれている。どうやら跳ね橋を上から吊るしているロープを切る必要があるようだ。そのロープに到達する方法を探して部屋の壁を左右見回すと、右側には例の青い金属が張られた場所があり、それが地面から続いている。その青い壁を登れれば、壁の高所にしつらえられた張り出しに行き着くことができそうだ。そこを伝っていけばロープを切れる。リンクはそこに近寄り、ミドナに合図して鉄のブーツに履き替えた。やはり青い金属にくっつくようだ。リンクは壁を登っていき、壁の張り出しまで到達すると、ブーツを戻して跳ね橋を吊るしたロープに近づいた。剣を振るってロープを断ち切ると、大きな音を立てて跳ね橋が落ちた。
跳ね橋の上に飛び降りてみると、やはりその向こうには扉がある。鎖と錠前で閉じられていたが、先ほど水中で回収した鍵を差し込んでみると合致した。錠前を解除し扉を開けると、向こう側は野外だった。
少し進むと地面が水面に接して終わっているが、そこから細い木道がしつらえられており、ジグザグに向こう側まで続いている。五十メートルほど先で左に別れる分岐があるが、その先は壁に突き当たって終わっている。しかし、さらにその先では木道が左右に分かれているようだ。左側に伸びるほうは、やはりジグザグに曲がってから岩壁に行き当たり、そこに扉があるようだ。右に伸びるほうは、鉄の柵がかけられた岩棚のような場所に至っている。その左右に伸びる木道の向こうには高い足場が組まれ、右側には電磁石の円盤を吊るした塔もある。
リンクが木道のほうに進み出た途端、足場の上にブルブリンが何匹か顔を出した。背に負っていた弓を構え、次々にこちらに火矢を放ってくる。
こちらからは反撃のしようがない。リンクは木道に置かれた障害物の陰を伝って前進することにした。まず木道の入り口にかけられていた簡易な木の柵を剣で叩き壊した。鬼どもの腕が悪いのか、それとも弓が弱いのか、まだこちらには矢が届いていない。リンクは真っすぐ前進し、突き当たりにある金網の囲いの内側に石を積み上げた小さな壁の裏に身を寄せた。陰から様子を伺う。左に走る木道がその途中から再び奥のほうに曲がっている。リンクは機をみて飛び出すと奥に進み、その突き当たりにある小さな壁に再び身を寄せた。その右から先に進む上り坂の通路があり、やがて左右に伸びる木道に至っているが、そこにはいくつかの箱くらい身を隠せるものがない。敵方の矢も周辺に着弾し始めていた。リンクは剣を納め盾を構えると、物陰から飛び出して通路を駆け上った。左右に伸びる木道に金属の箱が置いてある。その陰に隠れると、鬼どもが矢を集中してきた。矢が箱に当たり金属音が響く。西側の壁にある、木道のつきあたりの扉を見ると、鎖と錠前で閉じられている。
鍵を探さなければ。リンクは周囲を再び見回した。木道は東側では岩棚につながっている。見ると複数の箱や機械が置いてあったので、鍵の置き場もそこだと見当をつけた。盾を掲げながら木道を駆け岩棚にまで走り抜けた。
岩棚の北側は壁になっており、どうやらブルブリンたちのいる足場からは見えないようだ。やっとリンクが一息つくと、先ほど見た覚えのある奇妙な機械が岩棚の南側の壁ぞいに設置してあるのに気づいた。リンクの存在を感知したのか、作動音を発して回転し始める。まずい。リンクは岩棚の鉄柵沿いに走ると、機械の右側に積み上げてあった箱の陰に隠れた。
物陰に隠れるとこちらが見えなくなるらしく、警備機械は火を発射してこなかった。冷や汗を拭うと、目の前に木造りの頑丈な箱がある。もしやと思って開けると、やはり鍵だ。
リンクは鍵を握り締めると、目的の西側の岩壁の扉までの道のりを目視でもう一度確認した。今いる場所を飛び出すと、岩棚から木道に入って走り抜ける。また矢が降り注いでくる。リンクは全速力でジグザグの木道を駆け抜け、どうにか目的の扉まで辿り着いた。錠前を解除し扉を開ける。
今度は横三十メートル、縦五十メートルほどの部屋だ。目の前の通路の眼下五メートルほど、床のほとんどがプールになっている。通路のすぐ先に進行方向と平行の軸を中心に回転する巨大な板がある。リンクは板の周期を見極め板に飛び移り、通路の向こう岸に渡った。そこから通路は右に折れて、それからまた左に折れたあと、長さ二十メートルはあろうかという細長い回転板につながっている。その板の向こう岸には扉があった。
扉は一定の周期で回転しているので、このまま渡っていったらどんなに走っても下のプールに落ちてしまう。プールを覗き込むと巨大アメンボが何匹か群がっている。強敵ではないが群れで来られると面倒だ。リンクが細長い回転板を観察していると、その中央あたりに例の青い金属の板が二メートル四方ほどの面積で張られているのが見えた。板が回転する前にそこに行き着ければ鉄のブーツでぶら下がれるかも知れない。
リンクはミドナにその考えを伝えたあと、板が地面と平行になった瞬間走り始めた。板の中途まで来たところでまた回転が始まる。ちょうど青い金属の上でブーツが入れ替える。鉄のブーツは、果たして磁力によって青い床にくっついた。
回転板が逆さまになり、しばらく静止すると再び回転し始めた。また地面と平行になった瞬間ミドナに合図する。リンクは普通のブーツに履き替えて再び走り、どうにか板の上を通過し向こう岸の通路に辿り着いた。
目の前の扉を開けると、シーゲルに会った場所と同じような土俵がある部屋だ。やはり向こう側に梯子があり、それが上にある通路に通じているようだ。
土俵の上には背のひどく曲がった老人がいた。ゴロンには珍しく長い頭髪が顔から垂れているが、すべて真っ白だ。手には煙管を持っている。リンクは近づいて頭を下げた。
「おうおう、こんなところまでよく無事にきなすったな」
老人は目を細めた。
「わしはゴロン族長老のひとりドン・エビーゾじゃ」
相手の自己紹介に応じてリンクは名と出身地を名乗った。
「僕はリンク。トアル村のリンクです。長老ゴローネの許可をもらってここに来ています」
「そうかそうか。ならもう詳しい話は必要ないようじゃの」
エビーゾはそう言うと、金属でできた細長い部品を差し出した。これもダルボスが閉じ込められている部屋の鍵の一部らしい。
「ありがとうございます。それから、あの....」
リンクはルピーのことを切り出そうとしたが、その前に老人が言った。
「そうじゃそうじゃ、思い出したわい。この先にのう、ゴロン族に昔から伝わる武器が仕舞ってあるんじゃ」
「武器ですか?」
「さよう。この事態じゃからお前さんに使うてもらうのがええじゃろ。武器の部屋の前には番人がおるでの。わしから番人に言っておくから持っていきなされ」
リンクは礼を言った。武器とは耳よりだ。だがルピーも忘れるわけにいかない。勇気を出して切り出してみると、祭壇の横にある箱に入っているとの返事だった。
礼を述べ、言われた場所を探すとやはり金属の箱があった。中は十ルピーだ。貴重な資金を財布に仕舞うと、リンクは梯子を登って上の通路に入った。そこから部屋の形に沿ってぐるりと通路が伸びており、入ってきた部屋のちょうど真上にあるもう一つの扉へ通じている。
リンクは扉を開けて外に出た。そこには小さな踊り場しかない。しかし、右手の壁を見ると青い金属が突き当たりの南側の壁に至る場所まで張られている。その突き当たりの壁沿いには床より数メートル高いところに細長い張り出しがあり、その奥に扉があった。
リンクはミドナに合図し鉄のブーツを履いた。そこから壁に足をつけ、ノロノロと歩き始めた。壁にブーツがくっつくので落ちることはないが、遅い速度でしか進めない。それでもどうにか南側の壁まで辿り着くと、リンクはミドナに合図してブーツを戻し張り出しに降り立った。
そこにも金属の箱がある。開けると十ルピーが入っていた。これも貴重な資金だ。財布に仕舞うと、奥の扉に向かった。
「あいつら武器をくれるとは気前がいいな。よほど困ってるんだろう」
ミドナが言う。リンクも応じた。
「そうだね。でもゴロン専用の武器だったら困るね。重さ百キロのハンマーとか」
「だったら私も運んでやるのはお断りだな」
会話しながら扉を開け、中に入った。先に進むと扉が自動的に閉まる。だがそれと同時に上から鉄格子が落ちてきて扉を塞いでしまった。
怪訝に思いながらリンクは部屋の中を見渡した。細い通路の先は青い金属を張った円形状の巨大な円盤が吊るされている。その下は溶岩だまりだ。円盤は分厚く、また直径三十メートルくらいで、まるでその上で戦士を闘わせる闘技場を思わせるような有様だ。反対側にも通路があったが、そこには巨漢のゴロンが座っていた。
嫌な予感がする。だがまず話してみないと始まらない。リンクは通路を進むと、円形の闘技場に足を踏み入れた。向こう側にいるゴロンに声をかける。
巨漢のゴロンがこちらの方を向いた。身体は驚くほど大きい。両肩から腕にかけ金属製のプロテクターのようなものをつけ、頭にはヘルメットを被っていた。
「人間か?」
ゴロンの巨漢は驚いたように言うと立ち上がった。
「人間がこんなところに何の用だ?宝狙いの泥棒か?」
「いや、違うんですよ。あの、長老のエビーゾさんから聞いてませんか?」
リンクは慌てて言った。だがゴロンは驚くほど素早い身のこなしで跳躍すると、闘技場に降り立った。その途端、円盤を吊るしていた四本の鎖が切れた。円盤はリンクたちを乗せたまま落下する。やがてバシャンと音を立てて溶岩の上に落ちた。溶岩の上に浮きながら揺れ動く円盤の上で、リンクは倒れないよう思わず足を踏ん張った。
「俺は何も聞いてねえ」
ゴロンが言いながら両腕を組んでリンクを見下ろす。身長は四メートルはあるだろう。しかも、今見せた敏捷さからするとその身体能力は他のゴロンたちとは比較にならないほど高いようだ。
「宝は渡さねえ。欲しけりゃ力づくでこい」
リンクの額に冷や汗が走った。ただでさえゴロンとは戦いたくないのに、どうやらこの男は体を鍛えに鍛え抜いた選り抜きの戦士のようだ。
「あのボケじいさん、こいつに話を通すのを忘れてたみたいだな」
ミドナが耳元で言った。
「リンク、こりゃ一戦交えないとダメみたいだぞ」