「俺は何も聞いてねえ」
巨漢ゴロンは腕を組んでリンクを見下ろしてきた。身長は四メートルほどもありそうだ。しかも、いま見た身のこなしからするとその身体能力は他のゴロンたちと比較にならないほど高い。
「宝が欲しけりゃ力づくでこい」
リンクは額に冷や汗が浮かぶのを感じた。ただでさえゴロンと戦うのは気が進まないのに、相手は体を鍛えに鍛え抜いた戦士と見えた。
「リンク、こりゃ一戦交えないとだめみたいだぞ」
ミドナが耳元で言う。だがあまり慌てた様子もなく、むしろこの展開を興味深く見守るつもりらしい。
「僕はリンク。トアル村のリンクだ」
リンクは相手に歩み寄りながら名乗った。
「俺はダンゴロス。族長ダルボスは俺の叔父だ」
相手は名乗った。戦う前に名乗りあうくらいの礼節はあるようだ。
「ダンゴロス、その前に聞いてくれ。僕は族長ダルボスがどうなったかをゴローネから聞いたんだ。僕は君の叔父さんを助けようと思って....」
リンクがそう言った瞬間、ゴロンは恐ろしい雄たけびを上げ、長い両腕を床に打ち下ろしたかと思うとファイティングポーズをとった。その目は怒りにらんらんと燃えている。
「てめえら人間にでけえ面はさせねえ。欲しいものがあるなら口先じゃなく腕を見せてみろ!」
やはり戦わなければならないのか。リンクは苦い溜息をつきながらも盾を構え、剣を抜いた。ダンゴロスは左手でリンクを差し招く。この場所で相手に跳ね飛ばされたら、ヘタをすると溶岩に落下してしまう。リンクは足をつかってじりじりと距離を詰めた。足場は溶岩の上に浮いているだけの円盤だ。ダンゴロスが動くたびに揺れ動くうえに、表面に張られたツルツルした金属のせいで滑りやすい。
ダンゴロスが右腕を振りかぶる。リンクは盾を上げ足を踏ん張る。来る。ゴロンの重い右拳が風を唸らせ飛んでくる。盾にガツンと衝撃があったかと思うと、リンクは体ごと後ろに吹き飛ばされて背中を打った。
慌てて立ち上がって構え直す。相手の打撃は重く、盾が意味をなさない。ダンゴロスは再び左手を上げてリンクを差し招く。ゴロンの弱点は腹だ。だが、ダンゴロスはその体格にふさわしく腕も長い。攻撃が届く距離に近づくということは相手にも捕まりやすくなる。
リンクは盾を構えたまま距離を詰めた。相手が再び右拳を振り下ろす。横にステップしてかわす。足場が悪いのですぐに攻撃に移れない。リンクは剣を振り回し牽制した。ゴロンは素早く腕を上げてガードする。しかも腕についた防具は堅牢な造りのようで、剣が火花を散らすだけで何のダメージもない。一歩踏み込み突きを放つ。だがゴロンは巧みにガードし切っ先を逸らした。間合いが深く、リンクの武器が相手の弱点に届かない。
リンクは覚悟を決めた。ゴロンが左拳を突き出す。咄嗟に頭を下げてかわすと、今度は右の拳が横から飛んできた。だがリンクは前転すると必殺の突きを放った。腹に打撃が加わりダンゴロスは一瞬うめき声を上げた。さらに横斬りを繰り出したが、相手が下にガードを集中させ防がれた。
身長差があり過ぎて上段には攻撃できない。リンクは瞬時に判断し盾アタックを叩きつけた。相手の腕がわずかに動く。その隙間に鋭い突きを突き込んだ。たまらずダンゴロスが体を丸めた。
だが、次の瞬間、岩の塊と化したダンゴロスが体を高速回転させ突進してきた。予測できなかった相手の動きに、リンクは横に避けようとしたが間に合わない。直撃は免れたがリンクは跳ね飛ばされ床に叩きつけられた。
頭を振って立ち上がると、ゴロンも回転をやめて立ち上がったところだった。
「リンク、苦戦してるみたいだな」
ミドナが面白そうな声で言う。
「だがそれにしても芸のない連中だな。殴るか回転するかの二つしかできないんだろ?」
それを聞いた途端リンクは閃いた。回転している間のゴロンは自らの方向を制御するのが難しい。その隙を突けば。
「ミドナ、僕が合図したら鉄のブーツを履かせてくれ」
リンクは言った。
「何をごちゃごちゃ言ってやがる。来い!」
ダンゴロスは叫ぶと再びファイティングポーズをとった。
リンクは構えを固めて相手に近づいた。揺れ動く床にも慣れてきたがそれでも普段通りとはいかない。間合いに入るとダンゴロスは右拳を振りかぶる。リンクは思い切ってジャンプ斬りを放った。相手の弱点に痛撃が入る。たまらずダンゴロスが体を丸めた瞬間、リンクは叫んだ。
「今だ!」
リンクの両足が一瞬浮き、ブーツが入れ替わる。次の瞬間ダンゴロスが高速回転で突進してきた。足を広げリンクは両手を突き出した。岩の塊となったゴロンが激突する。上半身が押されたが鉄のブーツは床材の青い金属にしっかりくっついている。リンクは呻き声を上げながらも、ゴロンの突進力を負けじと押し返し、そして横に逸らした。
ダンゴロスは闘技場の端に転がっていった。だが途中で軌道を修正し溶岩への落下は免れた。そこでダンゴロスは回転をやめて立ち上がった。
「それじゃだめだろ。溶岩の中にでも投げ落としてやらないとこいつらには効かないぞ」
ミドナがまた言う。リンクにとってゴロンを殺すのは本意ではない。だが、溶岩に落ちても死なないということなら、戦意を失わせる程度の痛みを与えるだけで済むかもしれない。
リンクはブーツを叩いてミドナに合図した。革のブーツに戻ると、再び闘技場の中央で相手と向き合った。だが、ミドナの作戦に従うなら、溶岩を背にした闘技場の端に位置取りしなければならない。自分にとっても危険な賭けだ。
間合いを保ちながらリンクはじりじりと後退した。相手はそれに誘われて前進してくる。リンクが足を止める。敵を捕らえたと判断したダンゴロスは右拳を高く振りかぶった。拳が飛んできた瞬間リンクは身を沈めながら前に足を踏み出した。ゴロンの岩のような拳がかすめるが、わずかに軌道がそれた。突進して懐に飛び込み、リンクが立て続けに四回突きを放つ。四回目の思い切り深い突きを受けゴロンは丸まった。ミドナに合図しブーツを履き替える。
回転するゴロンが迫ってくる。リンクは気合の声を発しながらそれを受け止めた。両脚を踏ん張り、ブーツの制動力を活かして相手の勢いに対抗する。
ますます相手が勢いをつけてきた。その瞬間、左に投げを打つ。ダンゴロスは自分の勢いで吹き飛び、闘技場の縁から飛び出すと、溶岩の上に落ちた。
リンクは思わず振り返りその様子を見た。「熱チッ!」という声が聞こえる。ダンゴロスは回転しながら溶岩の上を跳ねた。ゴロンにとっても溶岩は熱湯なみに熱いらしい。何度か溶岩の上を跳ねると、どうにか闘技場の上に戻ってきた。
ダンゴロスは荒い息をつくとリンクを睨んだ。その目には炎のような闘志が宿りはじめている。
リンクはそのままの場所に陣取った。自分の身を危険にさらさねばこの相手には勝てない。覚悟を固め剣と盾を構える。
ゴロン戦士も身構え、ジリジリと迫ってくる。距離が詰まると、相手は両腕を高く振り上げてきた。リンクは横にステップした。直後に巨大ハンマーのような両拳が振り下ろされ床をドシンと叩いた。リンクの位置どりに気づくとダンゴロスは左拳を振るってきた。バックステップして回避する。だが肩越しに振り返るとすぐ後ろはもう溶岩だ。リンクは足を踏ん張って相手に向き直った。
追い詰めたとみたのかダンゴロスはずいと前進して再び両腕を振り上げた。だがリンクは途端に相手に突進し、左右袈裟斬り、横斬り、さらにもう一度袈裟斬りを叩きつけた。
たまらずダンゴロスが体を丸める。リンクはミドナに叫んだ。ブーツが入れ替わる。回転しながら突進してくる相手を歯を食いしばって受け止め、横に投げた。ゴロンはたちまち溶岩に落ちていった。
ダンゴロスは身体を高速回転させ溶岩の上を跳ねながら沈むのを回避し、何度目かで闘技場に戻ってきた。
「くそ、やるじゃねえか」
その顔にわずかな笑みが浮かんでいる。かと思うと、気合を発しながら両手を打合せ、ファイティングポーズをとった。リンクも構える。相手もタフだ。リンクは長期戦を覚悟した。ブーツを叩いて合図すると、足元が革のブーツに入れ替わる。わずかに前進すると、次に備えて構えをとった。
間合いに入るとダンゴロスが左拳を突き出してきた。上体を横に逸らして躱し、踏み込んで剣を突き出す。当たったがわずかに浅い。相手が右拳を振り上げてきた。咄嗟に身を沈め横転斬りを放つ。切っ先が相手の腹に食い込む。だがダンゴロスは唸り声を上げて堪え、右拳を振るう。体勢を立て直す途中だったリンクは避けきれず、やむを得ず盾で受け止めた。盾が真っ二つに割れる。だがそれが衝撃を吸収した。リンクはよろめき数歩後じさりしながらも耐えた。
ダンゴロスがもう一撃加えようと拳を振り上げる。しかしリンクはここを先途と突進しジャンプ斬りを叩きつける。たまらずダンゴロスが丸まった。ミドナに合図すると鉄のブーツに履き替え待ち構える。
高速回転するゴロンを両手で受け止め、渾身の力で投げを打った。ゴロンは闘技場の外に吹っ飛んで溶岩の表面を跳ねた。これで三度目だ。リンクはその間にブーツを叩いて合図し、革のブーツに履き替えて次のラウンドに備えた。
ダンゴロスは何度も溶岩の表面を跳ねまわり、ようやく闘技場に戻ってきた。だがこれで勝負が決したようだ。ゴロン戦士は回転をやめ、荒い息をついて座り込み、ヘルメットを脱いで床に放り出した。
「ったく。人間のくせになんて奴だ」
そう言うとダンゴロスは顔を上げた。
「お前、確かリンクとか言ったな?叔父貴を助けるとか本気で言ってるのか?」
「ああ、本気だ」
リンクは答えた。ダンゴロスはしばらく肩で息をしていたが、やがてポツリと言った。
「叔父貴はもう俺の顔もわからねえんだ。昔は俺を息子同然に育ててくれたその叔父貴がだ」
俯いたダンゴロスの目に光るものがあった。リンクは思わず歩み寄ってその肩に手を置いた。
「ダンゴロス、僕がダルボスを正気に戻してみせる」
「ヘッ」
ダンゴロスは笑った。
「確かにお前は強いよ。だが叔父貴はもう化け物と同じなんだ。誰にも手がつけられねえ」
「わかってる。でも僕は行くつもりだよ。やってみないとわからないから」
ゴロン戦士は黙っていたがやがて顔を上げた。
「お前、変わった奴だな。どうしてそこまでするんだ?」
「それが僕のやるべきことだからさ」
リンクはそう言ったあと言葉を継いだ。
「僕は大事な人を魔物に奪われた。その人を助け出すために旅をしてきたんだ。だから君の苦しみもわかる。僕は強いといっても大して強いわけじゃない。ただ、他の人には無い変わった力を持ってるんだと思う。僕はその力をこういうことにこそ使うべきだと思ってるんだ」
ダンゴロスはしばらく目の前の宙を見つめていたがやがて立ち上がった。
「お前、口先だけの小賢しい奴かと思ってたらどうやら正真正銘のイカレ野郎みたいだな」
微笑んでそう言うと、彼は出口の扉を指し示した。
「この先の部屋に例のものがある。持ってけ」
ダンゴロスは長い腕を伸ばして部屋の中心の天井から垂れ下がった鎖を引っ張った。すると、壁に開いていた穴から溶岩が流れ込み、闘技場の円盤そのものが浮上していった。
リンクたちがいる床が、入り口と出口にある通路と同じ高さになった。リンクはダンゴロスに別れの挨拶をすると、出口の扉に向かった。
「待て」
ダンゴロスが言った。リンクは足を止めると振り返った。
「リンク、叔父貴を頼む」
ゴロン青年の目には必死の願いが込められているように見えた。リンクは大きく頷くと、入ってきた扉とは反対側の通路を進み、突き当たりの扉を開けて向こう側に出た。
次の部屋は、入り口から縦に走る岩の通路が溶岩だまりを左右に隔てていた。通路の中頃はやや広い踊り場になっている。そこに木造りの立派な箱が置いてあった。また、その踊り場から右手にも細い通路があり、その先の壁際に設けられた岩の足場には物資用の簡素な箱が散らばっている。
リンクは立派な木造りの箱に近づいて蓋を開けた。中には頑丈そうな弓が入っていた。木製だが、持ち手の部分は金属で補強されている。簡素だがいかにも実用的な感じだ。その下には革製の丈夫な矢立てもあり、中には矢が三十本ほど入っていた。
「これは気の効いた武器だな。お前には勿体ない。私が使いたいくらいだ」
リンクが弓を曲げ片方の端につけられた弦をもう片方に掛けていると、ミドナが姿を現して言った。
「ミドナ、その腕で弓を引けるのかい?」
リンクが尋ねると彼女はやや気を悪くしたのか腰に手を当てて睨み付けてきた。
「馬鹿にするな。本来の姿の私を見たらお前など驚いて口も利けなくなるぞ」
リンクは矢立を背負ってストラップを締めてみた。身体にぴったりで動いても邪魔にならない。右手の岩の足場に炎を発する大ナメクジがいるのが目に入ったので試しに矢をつがえて狙ってみた。
弓は反発がかなり強い。引き絞って放つと、矢がぶち当たって大ナメクジは身体が真っ二つに裂けてしまった。剣で打つのと同じくらいの威力だ。
「こら、矢を無駄にするんじゃない」
ミドナが注意した。
「ひょっとしてミドナ、うらやましいのかい?」
リンクがからかうと彼女は溜め息をついて首を振った。
「お前のその発想そのものがガキっぽくて救いようがないな」
彼女は言った。
「いいかリンク、矢の一本にしても無料じゃあない。ルピーがかかるんだぞ。しかしまだルピー集めはほとんど進んでいないじゃないか。それともルピーが切れたらお前は村の旅館で下働きでもするつもりなのか?」
言われてみればまったくその通りだった。それに買ったばかりの盾も壊れてしまった。無駄遣いは禁物と理解したリンクは神妙な顔になると弓を背中に背負った。
大ナメクジがいた場所にあった箱を片端から剣で叩き壊してみた。ルピーも何も入っていない。諦めて進もうとすると上から新手の大ナメクジが落ちてくる始末だ。剣でそいつを片付けると、リンクは中央の通路に戻って部屋の出口に向かった。
部屋の出口は金属の跳ね橋で塞がれていた。しかも跳ね橋を上から吊るしているロープに手が届くような足場もない。リンクは矢を背中から下ろして弓をつがえた。難易度は高いがこれしか方法はない。
弓を引き絞りながら深く呼吸し、息を吐きながら止める。ロープの中頃を狙って放つ。矢は見事ロープを断ち切り、跳ね橋が騒々しい音を立てて降りてきた。
前進すると、短い廊下の先に円形の部屋がある。だが部屋入り口の左右に例の警備機械が一台づつ置いてある。まだリンクの存在を感知していないらしく動いていない。リンクはそのまま足を止めて地図を取り出した。
この部屋は八つの方角に窪みがあり、自分のいる入り口と、正反対にある出口、さらに左側に円形の部屋に通じる扉があるとわかった。左側にある円形の部屋の形を地図上で見て、おそらく長老のいる場所だとリンクにはピンときた。だが、警備機械が問題だ。よく目をこらして見てみると、近くの二台だけでなく、部屋の向こう側の出口の前や、その左右にある窪みにも同じ機械が設置されている。うかつに中に飛び込んだら不味いとすぐわかった。
打つ手を決めかねてうろうろとしていると、上からまた大ナメクジが落ちてくる。思わず飛びのいて剣を叩きつけていると、ミドナが現れた。
「おい、何を怖がってるんだ。早く行け。お前らしくもない」
「でもあの機械があんなに並んでるんだ。用心しないと」
リンクが部屋のほうを指さすとミドナは舌打ちした。
「ったくお前は魔物は平気でも機械はダメなんだな」
ミドナは自分の目を指さして言った。
「あの機械は目を潰してしまえば何の役にも立たない鉄くずになる。何のために弓矢があるんだ?遊びでナメクジを撃つためか?」
「目?あの赤い部分?」
「そうだ。あれは内部のプラズマ発生装置からレンズを通してレーザーを発するタイプだ。レンズはガラス製だから衝撃に弱い」
「ごめん、何を言ってるのかぜんぜんわからないよ」
リンクは首を振った。
「とにかく目を潰せ。そうすりゃあんなガラクタ怖くはないはずだ」
ミドナはそう言うと消えてしまった。リンクは弓を肩から下ろすと矢を一本つがえ、用心深い足取りで部屋に入った。見渡すと、真正面に廊下がありその奥に警備機械があるほかに、東西の方角と、北北東、北北西、および南南東と南南西にも一台づつ。入口の左右にあるものを含めると計九台だ。
周囲を警戒しながら進んでいく。だが案に相違して警備機械は沈黙したままだった。思い切って、東側にある一台に触れられるほどの距離に近づいた。だがそれでも機械は動かない。故障しているのだろうか。リンクはそう思いやや安堵した。
だが、地図で見た土俵の部屋に進もうとしても警備機械が邪魔で扉に辿り着くことができない。仕方ないのでリンクは部屋を横切り、その奥、南側の廊下に進んでみることにした。
奥の廊下に入り、警備機械の前まで行ってみると、そこもやはり機械に塞がれていて出ることができない。だがリンクが思案していると突然機械から作動音がした。回転し始めるとともに天辺近くの赤い目が光る。リンクは慌てて弓を構えた。だが直観でわかった。間に合わない。リンクはその場を飛びのいて廊下を逆戻りした。さっきまでいた床を炎の線が焼いていく。
リンクが部屋に戻ると警備機械が次々と作動し始めた。どれも目が赤く光っており、近づけばすぐにでも炎が飛んできそうだ。リンクは全力でダッシュするともと来た入口のある廊下に飛び込んだ。荒い息をついているとミドナの楽し気な笑い声が聞こえた。
「まったく生まれて初めて自動掃除機を見た猫みたいだったぞ、今のお前」
「自動掃除機が何か知らないけど、あの機械よりは安全なんだろ?」
リンクは入ってきた扉のある壁に身を寄せながら答えた。
「ほら、せっかくの弓矢が泣くぞ。そろそろ真面目に働け」
言われっぱなしでは悔しい。リンクは改めて弓を構えると、一番向こう側、部屋の出口にある警備機械の目を狙った。距離が二十メートルくらいある上に、標的は回転している。心と呼吸を落ち着けて慎重に狙う。弓を引き絞りながらゆっくり息を吐き、止める。機械の目が正面に来る一瞬前に矢を放った。
矢は真っすぐ飛んだ。命中だ。ガラスが砕け散る音がして、機械の目の光が消えた。同時に煙が上がり、機械の回転も止まった。
リンクは完全に落ち着きを取り戻した。一台づつ慎重に狙い、警備機械の目を破壊していく。九台全てを破壊すると、部屋に静寂が戻った。入口のある廊下から部屋に再び足を踏み入れる。破壊された機械のうち手近の一台に近づいてみると、ミドナの言ったとおり完全に作動を止めていて、危険はないようだ。
リンクは弓をまた背負うと、東側にある警備機械に近づいた。おそらく、三人目の長老に会うにはこれを除ける必要がある。壊れた警備機械に近づくと、両腕で思い切り押してみた。だがビクともしない。しかし、地面をよく見てみると、重い物を引き摺ったような跡が部屋の内側に向かって伸びている。試しに警備機械の四角い台座の縁をつかんで引っ張ってみた。すると機械は少しづつ動く。一メートルほど動かすと、東側に穿たれた窪みに入れるようになった。
窪みに入り、壁にしつらえられた扉を開ける。中は、推理したとおり土俵のある部屋だった。土俵の上にはゴロンらしき老人があぐらをかいて座っている。眠っているのか、目を閉じていた。ゴロンにしては珍しく黒く長い頭髪を持っているが体は痩せさらばえていた。
リンクが近づいてみても老人は目を閉じたままだった。おずおずと声をかけてみるが反応がない。だが何度目かに声をかけると、老人は目覚めたかのように顔を上げた。
「はえ?」
「あ....あの。僕はリンクです。長老ドン・ゴローネの許可をもらって...」
「おお、お前さんか。待っておったぞ」
老人は背中を掻きながら立ち上がった。腰はやや曲がっているが背はそれなりに高い。
「わしはドン・レゲーヌじゃ。お前さんがここに来たのはあれじゃな。族長のことじゃろう?」
「そうです」
リンクは答えた。そうするとレゲーヌは金属でできた鍵の部品を差し出した。
「人間のお前さんに頼むのは心苦しいがの。族長をどうかよろしく頼み申す」
「ルピー!ルピーだぞ!」
ミドナが姿を消したままささやく。
「あの...申し上げにくいんですが。冒険にはいろいろと物入りなので...ルピーを頂けたらと」
リンクは勇気を出して尋ねた。
「はえ?なんじゃな?」
相手は耳が遠いことに気づいてもう一度リンクは大きな声で言った。
「あの..ルピーを頂けませんか?」
やっと理解できたらしく、レゲーヌは納得した顔で頷き、背後にある箱を指さした。
「ほんのわずかじゃがな。お前さんの苦労を思えば安いもんじゃ。持っていきなされ」
リンクは頭を下げ、箱に近づいて蓋を開けた。中には五十ルピーが入っていた。感激して長老に礼を言うとリンクはその場を辞した。部屋を出るとリンクはミドナに言った。
「なんだか申し訳ないなあ、こんなに貰って」
「まったくお前は底抜けのお人よしだな」
ミドナは呆れたように答える。
「仕事の内容に比べたら五十ルピーなんてはした金だぞ。それに武器やら装備やらでそのうち何百ルピーあっても足りないってことになるんだ、もっとガメつくなれ」
そう言われ、リンクは今いる部屋の中でルピーを徹底的に探すことにした。警備機械に塞がれていない手近の壁の窪みに入ると、そこにあった樽を片端から壊す。一つに十ルピーが入っていた。
その他の窪みを塞いでいる警備機械を次々に手で動かして除けた。一つの窪みに、木造りの立派な箱がある。それを開けると、中には円形の奇妙な道具が入っていた。木製の短い筒状のものにガラスがはめ込まれ、中には赤と白で塗られた細い針のようなものが取り付けられている。
「なんだろうこれ?」
リンクは言った。
「これは役立つかもな。磁力計だ」
「磁力計?」
ミドナは空中に姿を現すと、その道具を自分の手に取った。
「本来は方角を測る単純な道具だが魔法で増強されてるようだ。価値の高いものに反応するようになってるんだろうな」
彼女はその道具をリンクの手に戻した。
「これでせいぜい頑張ってルピーを探すことだな」
リンクはそれをポーチにしまった。喉が渇き、ガラス瓶に入ったミルクを飲み干す。鍵の部品が全て手に入った。あとは族長がいる部屋を探すだけだ。リンクは部屋の南側の出口のある廊下に向かった。そこを塞いでいる警備機械の残骸を動かして先に進み、扉を開けた。
その部屋は五十メートル四方ほどで、床のほとんどが溶岩だまりになっていた。入口に接した壁から右手に岩でできた細い通路が伸びているが、それは金網で行き止まりになっていた。その金網の先から、飛び石をつたって溶岩だまりを横切り、向こう側の壁にしつらえられた通路に到達すれば、そこをつたって向こう側の扉に辿り着けるようだ。
リンクは金網のほうまで進んでみた。手をかけてゆすってみると古いものらしい。突破できそうだ。ふと上を見ると炎をまとった蝙蝠が二匹ほど飛んでいる。リンクに目を付けたらしくすぐに下りて来た。リンクは剣を抜くと、そのうち一匹との距離を見極め、素早く進み出て縦斬りを放った。真っ二つになった蝙蝠が地面に叩きつけられる。だがもう一匹が視界から消えた。まずい。本能的に首をすくめると、蝙蝠が頭にバシンと当たった。一瞬だが炎が頭を舐めたのがわかった。一旦飛び去ったあとまた攻撃態勢をとった蝙蝠に、負けじとリンクはジャンプ斬りで応戦した。二匹目があえなく床に落下し断末魔の痙攣をする。
リンクは頭を左手で触って確認した。プールを泳いだせいで帽子の布地がまだ濡れていたので燃えにくくなっており、大事には至らなかったようだ。
改めて金網に手をかける。しばらくゆすってみたがそれでは壊せそうにない。リンクは剣を納めると思い切って金網に体当たりしてみた。するとそれは枠から丸ごと外れて派手な音を立てて倒れた。
先に進む。突き当りまでいくと、わずかな間隙を飛び越えて壁沿いに十メートルほど続く通路の終端まで言った。そこから直径三メートルほどの飛び石に移れるようになっている。だが飛び石の上にあの火を吐く大ヤモリが二匹ほどいる。狭い飛び石の上で二匹を相手にするのは上策ではないと判断し、リンクは弓矢を使うことにした。
弓に矢をつがえ、じりじりと岸の縁まで近づいていく。飛び石までの彼我の距離は一メートルと少しだ。幸いに相手は二匹とも向こうを向いている。狙いをつけ、近くにいる一匹の尻尾の付け根に向けて放った。命中した途端、その大ヤモリは痛みと怒りの吠え声を上げ、こちらに向き直った。口を大きく開ける。炎がその中にみるみる充満してきた。
リンクは咄嗟に二の矢をつがえると、相手の口の中に向け放った。矢が喉の奥まで突き刺さった大ヤモリは悶絶し始めたかと思うと、口から煙を吐いて痙攣し、動かなくなった。口の中も弱点だったのだ。リンクはもう一匹にも尻尾の付け根に矢を射かけ、こちらを向いた瞬間に口の中に二の矢を射込んで片付けた。
飛び石に飛び移る。次の飛び石はやや小さいが、飛び移れない距離ではない。だが助走を始めようとしたリンクは警戒本能が騒いだ。ふと天井を見上げると、前方にさらに二つある飛び石のそれぞれの上に炎を出す大ナメクジがびっしりとくっついている。
軽率に先に進んでいたら一斉に頭上から攻撃されるところだった。リンクは冷や汗を拭うと、慎重に狙って一匹づつ射落としていった。矢を十本ほど消費して飛び石の上方をクリアする。さらに先に目をやると、向こう岸の通路の上の天井にも大ナメクジどもが数匹いた。だが矢が残り少なくなってきたので、リンクは飛び石を伝って向こう岸に飛び移ると、慎重に進み、落ちてきた大ナメクジを剣で片付けながら通路の先の扉に向かった。だがようやくたどり着いた扉の前には頑丈な鉄の門がかかっている。左右を見渡すと、壁際右手の奥の床に四角いスイッチがある。リンクはそこに走り寄り、上に乗ってミドナに合図して鉄のブーツに履き替えた。スイッチが押されると、天井から発した電磁力に引き上げられ、リンクは足から天井に着地した。青い金属に沿って歩いていくと、門のちょうど上のあたりに窪みがありそこにクリスタルスイッチがあった。リンクは弓に矢をつがえそのスイッチを狙った。
「後ろを見ろ!」
ミドナの叫ぶ声がする。咄嗟に振り返ると、あの火を吐く大ヤモリが天井にぴったりと張り付いてこちらを向き、いまにもリンクに炎を吐きかけようとしていた。リンクは反射的にその口の中に矢を射込んだ。深く刺さった矢に喉と内臓をやられた化け物はたちまち悶絶して息絶えた。リンクはもう一本矢を弓につがえクリスタルスイッチを撃った。門が重々しい音を立てて開く。
ミドナに合図しブーツを履き替えて床に降り立つと、リンクは扉を開けた。すると、以前二度ほど通過した工業機械の林立する空間に出た。
「さっきは助かったよミドナ。ありがとう」
「そんなことはいい。それよりリンク、せっかく役立つ道具を手に入れたんだ。ルピーを探してみろ」
ミドナが言う。確かにこれほどの機材がある場所なら値打ちのある物も見つかりそうだ。磁力計を取り出すとその針の赤い先端が指す方向を見る。入ってきた入口からみて右手に針がふれる。そちらの方向を見ると、三十メートルほど通路が続いており、そこから間隙を飛び越えた先に四角い足場があった。足場の上に箱がいくつか置いてある。
リンクはそちらに進んでみた。足場の上に飛び移ると、箱の一つは木造りで金属の縁取りをした立派な外見だ。その蓋を開けると果たして五十ルピーが入っていた。
「すごいぞ、これで百五十ルピーだ」
リンクはルピーを仕舞いながら言った。だがミドナが戒めた。
「これくらいで満足するなよ。目標は三百ルピーか、どんなに少なくとも二百ルピーくらいは目指せ」
「そんなにあっても何に使えばいいかわからないよ」
「まったく田舎者はこれだから困る」
ミドナの溜息が聞こえる。
「盾、矢、その他消耗した装備を補給する。馬や徒歩で行けない場所の移動手段。その他もろもろ必要な場面なんていくらでもあるだろ。ルピーなんてどんなに稼いでも片端からなくなると思え」
「でも僕の財布は三百ルピーしか入らないよ」
「だったら大きい財布を手に入れろ」
「どうやって?」
「そんなの自分で考えろ」
リンクは肩をすくめた。大きい財布を手に入れるのもきっとルピーがかかるだろう。そう考えると億劫だった。だがミドナは性格はともかくその賢さはリンクも認めざるを得ない。さしあたりこの鉱山では磁力計を使って要所要所でルピーを探すことにした。
通路を戻って入ってきた入口の辺りに戻る。前方には進めないが、左手にはロープで吊られた鉄の跳ね橋があった。跳ね橋のロープを弓矢で慎重に狙って撃つ。跳ね橋は大きな音を立てて降りてきた。
そこを渡ると、廊下が四角い踊り場に通じていて、その真ん中に大きなスイッチがあった。リンクはその上に乗ってミドナに合図し、鉄のブーツに履き替えた。近くにあった塔が回転し始め、たちまち頭上に電磁石の円盤が回ってくる。リンクは足から引き寄せられて電磁石にくっついた。眼下を見ると、どうやら行先は以前通った南側の岩の足場のようだ。
目的地の上方まで来ると、リンクはミドナに合図して革のブーツに履き替えた。飛び降りて壁際の扉を開ける。その先もやはり以前訪れたプールのある部屋だ。
プールに近づくと、あの巨大アメンボがいなくなったからなのか、今度は人間大のサイズをした奇妙な魚がプールの中で泳ぎまわっていた。あまり良い印象を受けなかったのでリンクは弓に矢をつがえたままで慎重に飛び石に飛び移った。
予想どおり、その魚は水面から顔を出すと口をすぼめて攻撃するそぶりを見せた。リンクは急いで飛び石を伝って向こう岸に飛び移る。背後を大きな水鉄砲で発射されたような大量の水が通過する。
「そんな奴にかまうな。矢が勿体ないだろ!」
ミドナが言った。リンクは、その魚がまた水中に潜った隙に、咄嗟に門の左手にあるクリスタルスイッチを狙って矢を放った。スイッチが変色し、鉄の門が重々しい音を立てて開く。リンクはその中に飛び込んだ。
だが中にはブルブリンが二匹待ち構えていた。以前倒した連中の補充かも知れない。弓矢は間に合わない。咄嗟に判断したリンクは弓矢を手放し剣を抜いた。手近にいた一匹が棍棒を振り下ろしてくるのをバックステップで躱し、気合を発してジャンプ斬りを叩きつける。二匹目が殺到してくる。横に振り回した棍棒を身を沈めてかわすと回転斬りを放った。ジャンプ斬りを喰らわせた一匹目が崩れ落ちるとともに、二匹目も深手を負ってよろよろと後じさりし倒れる。リンクは剣を逆手に持って飛び上がり、切っ先を二匹目の鬼の胸に突き立ててとどめを刺した。
だがその瞬間、スロープの上に設置されていた警備機械のうちの右手の一台が炎を放った。リンクは背中に激しい熱を感じ、慌てて入口のほうに飛び退った。剣を放り出して地面に落ちた弓矢を拾う。狙いをつけて機械の目に矢を放つ。次いでもう一本の矢をつがえ隣の警備機械も撃って破壊した。
リンクは急いで矢立てと剣の鞘のストラップを外した。チュニックを脱ぐと、装備品が炎を受けとめてくれたお陰で炎上はしていなかった。だが鎖帷子が異様な熱を持っている。シャツも脱いで背中を探ってみると、何か所か火傷を負っているようだ。動くと痛みがあったが仕方がない。剣の鞘も矢立ても驚くほど頑丈な造りだったので、ほとんど傷んではいなかった。リンクは少し休んだあと再び服を着て準備を整えた。地図を見ると、まだ探索していない部屋はこの先にある。
スロープを登り、突き当たりにある扉を開ける。以前来た野外の空間だ。だがブルブリンの弓兵たちがいるはずだ。どうやってここを越えよう?地図によれば空間の右奥のほうに新たな部屋への入り口があるはずだ。だが矢はもう残り僅かしかない。
リンクが目の前の木道に近づくと、そこにも補充兵なのかブルブリンが一匹いた。リンクは剣を抜くと相手が身構える暇も与えず突進して突きを喰らわせ、それから袈裟斬りにして斬って捨てた。するとこちらの存在に気づいたブルブリンどもが向こう側の足場の上から火矢を放ってきた。
木道を少し進んだところにある小さな壁の陰に身を寄せる。まだ火矢は正確に着弾していないが、もっと距離が縮まれば別だ。
「矢がもうない」
リンクは壁の陰に再び隠れながら言った。
「頭を使え。そこら中にあるだろ」
ミドナが答えた。そこら中に?そう言われて怪訝に思ったリンクだったがすぐにその意味が分かった。その場から飛び出すと、身を低くして木道を走り、もう一つ先の小さな壁の陰に飛び込む。
そこに至ると、火矢が周囲の床に着弾し始めた。リンクは着弾の隙を見て、物陰から身を乗り出して床に刺さった矢を抜いた。燃える火をはたき消して自分の弓につがえる。物陰の反対側から身を出し、向こうの足場の上にいる悪鬼を狙い撃つ。相手は崩れ落ちて足場から落下した。
リンクは物陰から完全に出て相手の攻撃を誘った。たちまち生き残りが矢を射かけてくる。再び物陰に入ると、手を伸ばして近くの床に着弾した矢をとって弓につがえ悪鬼の一匹を狙い撃ちして射落とした。
さらに矢を二、三本拾って火を消し、それを握って物陰から飛び出すと、木道を駆け上って右手の岩棚のほうに走った。足場の上には弓兵一匹しかいない。だが、敵も増援を入れたのか岩棚の左手にある岩壁の上の奥にも弓兵たちがいた。リンクは岩棚に走り込んだ。だがそこで気づいた。あの警備機械だ。リンクは弓に矢を一本つがえると警備機械の目に撃ち込んで破壊した。
岩棚の奥に進み入る。さしあたりそこには敵の矢は届かないようだ。だが地図にあった場所への進路がわからない。リンクは思い立って警備機械の後ろ側を探してみた。何も手がかりはない。リンクは拾った矢を矢立てに仕舞い、弓を背負うと、警備機械の台座の縁に手をかけて引っ張ってみた。一メートルほど引っ張ると、突然その背後の壁が機械仕掛けのように降りて通路が現れた。
リンクはその通路を進んだ。上り坂になり右に曲がると、二メートルほど上にあった柵のかかった通路に続いている。その通路を右手に進むと、二十メートルほど先の段差の上にブルブリン弓兵が二匹いるのが見えた。一匹がこちらに気づき火矢を射掛ける。その矢が両者の中間ほどに置いてあった大きな樽に当たると、とたんにそれが爆発した。リンクが身を低くすると頭上を樽の破片が飛んでいく。リンクは弓に矢をつがえ、爆煙越しに二匹のブルブリンを狙い立て続けに撃ち殺した。二匹とも膝から崩れ落ちて落下してくる。
リンクは通路を突き当たりまで進んだ。変色し始めた悪鬼たちの体を見ると、それぞれ十本ほど矢の入った矢立てを持っていた。それを奪って自分の矢立てに入れると、リンクは通路の突き当たりを道なりに左に進んでみた。まだ生き残っているブルブリンが足場の上から矢を射掛けてくる。リンクは通路の壁の陰から慎重に体を出して応射し、射殺した。
物陰から進み出ると、右手に四角いスイッチがあった。リンクはミドナに合図して鉄のブーツに履き替えると、スイッチを作動させた。するとブルブリンたちがいた足場の奥にあった塔が回転し始めた。吊るされた電磁石も作動したようだ。
眼下を見ると、さっき岩棚に来るときに走った木道から小さな通路が部屋の奥側に伸びており、その先に四角い足場があった。電磁石はその足場の上方に廻ってきた。その行先にどうやら進路があるようだ。
リンクは距離を見計らうと、足場のほうに飛び降りて着地した。だが思い出した。ルピーを探していない。磁力計を取り出してみると、どうしたわけかブルブリンたちの足場の下あたりの水中を指しているようだ。
リンクは足場から木道に戻るとよく方角を確認しながらあたりを探した。よく見ると木道の下方にも木でできた足場が組まれている。そこに降りると、磁力計は向かって左の水中を指しているとわかった。リンクは思い切って水中に飛び込み、示された方向に泳いだ。水に顔をつけて見てみると、西側の際にある木組みの足場の下に大きな箱がある。泳いでそこに近づいたリンクはミドナに頼んで鉄のブーツに履き替えると水底を歩いて近づいた。木組みの土台の骨組みの間にかかった木の柵を剣で叩き壊し、内部に置かれた箱に近づいて蓋を開ける。
中身は五十ルピーだった。リンクはミドナに合図して革ブーツに履き替え浮上すると、すぐに水面近くの足場に上がってルピーを仕舞った。
「これで目標達成だよ」
リンクは手ぬぐいを絞って自分の頭と顔を拭いながら言った。
「まあいいだろう。だが言っておくぞ。その二百ルピーはあっと言う間に無くなる。これからもルピー集めに手を抜くなよ」
ミドナは答えた。リンクは近くにあった梯子を登って木道に戻った。そこから四角い足場に進み、ミドナに合図して鉄のブーツに履き替えた。頭上にやってきた電磁石にたちまち引き寄せられリンクは逆さにくっついた。行先に目をやると、東の奥の岩壁の際に鉄の跳ね橋が吊るされている。リンクは弓に矢をつがえその吊るし綱を射た。跳ね橋が大きな音を立てて降りてくる。その間に一度電磁石が四角い足場に戻った。リンクはそれからもう一度それが降りて来た跳ね橋の上にかかるまで待つと、ミドナに合図してブーツを履き替え、飛び降りて先に進んだ。
地図の上では、もう未知の部屋はわずかしかない。扉を開けると、溶岩だまりから発する熱気が途端に顔を打った。目の前は下り坂の通路が壁伝いに降りており、そこからぐるりと曲がって右手の奥の壁に吊るされた跳ね橋の前に行けるようになっている。だが、跳ね橋の両側にある足場にはそれぞれブルブリン弓兵がいるうえに、その足元の通路にも鬼どもが何匹か控えていた。
リンクが部屋に足を踏み入れると、途端に弓兵どもが矢を射掛けてきた。真っすぐ向かってくる火矢を見てリンクは慌ててその場を飛びのき、通路の縁の柱の陰に隠れた。今までの悪鬼どもとは腕が段違いだ。リンクは柱の陰からそっと顔を出した。途端に矢が飛んできて、慌てて顔を引っ込めた。
身を低くして物陰から飛び出し、十五メートルほど先のもう一つの柱の陰に飛び込む。さっきいた空間を矢がビュンビュン通過する。
「ここまで腕が良い兵を配置しているってことはこの先に結晶石があることは間違いないな」
ミドナが言う。だが弓兵と戦うリンクとしてはそれどころではない。リンクは手近に樽が転がっているのを見つけ、それを剣で叩き壊した。その破片を拾うと、下り坂になりながらカーブしている通路の先のほうに投げつけた。破片が金属製の通路に当たって派手な音がした。射撃が一瞬止んだ。リンクは弓に矢をつがえ、柱の反対側から飛び出し、向かって左側の足場の上にいた弓兵を狙った。物音のしたほうに気を取られた相手が慌てて矢を向けてきた。リンクが一瞬早く矢を放つ。矢は真っすぐ飛んで弓兵の胸を貫いた。だがもう一人の弓兵の放った矢が真っすぐ飛んでくる。リンクは横っ飛びに転がってギリギリで躱した。
再び柱の陰に隠れ、もう一本矢を弓につがえて機会をうかがう。これで一対一の腕比べだ。リンクはほんの少し物陰から顔を出した。矢が飛んでくる。首をすくめ柱の陰に引っ込んでやり過ごすと、今度はそこから飛び出して相手を狙った。
相手もほぼ同時に矢を放った。両者の矢が空中で衝突し炎が散る。リンクは二の矢を継いだ。相手もほぼ同時だ。だが放ったのはリンクが一瞬早かった。ブルブリン弓兵が矢を放った直後、リンクの矢がその胸を貫く。だが相手が放った矢も真っすぐリンクに向かってきた。もう避けられない。思わず身を低くし両手の籠手で顔をガードする。矢が籠手をかすめて逸れ、背後の壁に当たって床に落ちた。
冷や汗を拭うと、リンクは再び矢を弓につがえて通路を道なりに曲がっていき、弓兵のいた足場の足元にある金網製の床に進んでいった。棍棒を持った三人のブルブリンたちに射掛け次々に射殺する。
道を進み、跳ね橋の前に出る。吊っているロープを撃って切り落とすと、跳ね橋が大きな音を立てて降りてきた。
だが、その先にはブルブリンの一小隊が控えていた。棍棒を振りかざして突進してくる。距離は十メートルほどしかない。リンクは弓に矢をつがえつるべ撃ちにした。一人。二人。三人。残り三人でリンクは弓を手放し剣を抜いた。こちらからダッシュして先頭の一人にジャンプ斬りを叩きつけた。崩れ落ちつつあったその体の陰から強引に切っ先を突き出し二人目に突きを喰らわす。足で蹴って剣を相手の体から抜くと、回転斬りを放って二人の敵を吹き飛ばす。だが三人目が棍棒を振り下ろしてくる。辛うじて剣先で跳ね上げて逸らした。すると相手も素早く横殴りに棍棒を振るう。リンクは剣で受け止め距離を詰めると左から横斬りを放つ。息もつかせず右左と袈裟斬りを叩きつけ、最後にもう一度胴を横に薙ぎ払った。
最後のブルブリンが倒れると、リンクは剣を血払いして鞘に納め、弓を拾い上げた。金網の下にある溶岩だまりからの熱気で、濡れた服が次第に乾いていく。跳ね橋を渡ると、そこは物々しい大きな扉に通じる回廊で、通路の左右には何本も太い柱が立っている。柱の陰を見ると樽がいくつか転がっている。叩き壊してみると矢がぎっしりと入っていた。どうやらブルブリンたちの補給用だったようだ。そこから矢をとって自分の矢立てに詰められるだけ詰めると、リンクは正面にある大きな扉に近づいた。扉には太い鎖がかけられており、中央にゴツイ錠前がついている。
「リンク、例の奴はこの先だ。準備はできているか?」
「ああ。大丈夫だ」
リンクは床に座り、長老たちからもらった鍵の部品を取り出して並べながら言った。形をよく見比べて組み立てていく。相手は火を噴く大男という話だから、おそらくまた木の盾を買ってもすぐ壊れてしまうだろう。リンクはこのまま突入する覚悟を決めていた。
「リンク、一つ忠告しておくぞ」」
ミドナが空中に姿を現した。
「ダルボスを生きたまま正気に返すことにこだわり過ぎるな」
「どういう意味だい?」
リンクは鍵を組み立てながら顔を上げた。
「奴の魂が結晶石と一体化してしまっていたら、もはや打つ手はない。お前には不本意だろうが、そうなったら奴の命を絶つ以外には結晶石を手にいれる方法はないんだ。わかったか?」
組み上がった鍵を手に立ち上がると、リンクはしばらく考えてから口を開いた。
「わかった。でもギリギリまで僕の思うようにやらせてほしい。いいだろミドナ?」
「あいつと約束したからか?」
ミドナに問われてリンクは言葉を継いだ。
「それもある。だけど僕は思うんだ。もし族長に戦士の魂が残っていたなら、きっと彼は戻ってくるって」
「戦士の魂だと?」
ミドナは腕を組んで首を傾げた。
「魔力っていうものの恐ろしさは僕にも何となくわかる。でもダンゴロスや長老たちと会ってわかったんだ。ゴロンという人たちはとても強い人たちだよ。戦いという意味では確かに君の言うとおりそれほど強くはないかも知れない。だけど彼らは人間より誘惑に陥りにくい。人間のように貪欲でも残酷でもない。彼らが望んでいるのは誇り、それだけなんだ」
リンクはミドナを見た。
「だから僕は族長が戻ってくるほうに賭けたい。そのほうが大変な道かも知れないけど、そうしたいんだ」
ミドナは鼻から軽く息を吐くと、肩をすくめた。
「いいだろう。どうせ苦労するのはお前だ。結晶石さえ手に入るなら私は口出しはしない」
リンクは扉の前に進み出ると錠前に鍵を差し込んだ。ガチャリと音がして錠前が落ち、鎖がほどけた。重い扉に手をかけて押すと、それはゆっくりと転がった。
リンクは息を大きく吸い込むと扉の向こうの暗い部屋の中に足を踏み出した。