黄昏の姫と緑の勇者   作:nocomimi

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リンクの休日のこと

「リンク、もう朝だよ!」

 

子供が叫ぶ声が聞こえてリンクは目を覚ました。太陽はもうとっくに上っていたらしく、窓の格子から差し込む光が眩しい。昨夜は考えごとをして頭が興奮したせいか夜遅くまで寝つかれず、そのせいで珍しく寝坊をしたようだ。窓を開けて外を見ると、タロ、マロとベスがリンクの家の前の広場で遊んでいる。リンクは一階に降り、顔を洗ってパンと山羊の乳の朝食をとると外に出た。梯子を下りると、エポナを繋いである叢にコリンがいた。エポナの鼻面を撫でて何事か話しかけている。彼もリンクと遊びたいのだが、タロのグループに入るといじめられるのでリンクが休みの日にはいつもこうしてエポナに構うのであった。

 

「おはようコリン」

 

「おはようリンク。エポナも今日休みなんでしょ?草食べさせていい?」

 

リンクがいいよと言うとコリンは壁際の桶から飼葉を取り出してエポナの前に置いた。朝食をしたためるエポナを二人で見ているとタロが声をかけてきた。

 

「リンク、聞いてよ聞いてよ!すごいニュースだよ!」

 

リンクがタロたちのほうに向かうと、そのニュースというのはベスの母の雑貨屋にパチンコが入荷したということだった。ベスが陳列棚で見つけたのを何気なくタロに話したら、彼はすっかりのぼせあがってしまったわけである。しかも普段はクールな弟のマロさえもこの知らせには興奮しているらしかった。

 

「パチンコ欲しいな.....水車のある家よりパチンコのある家に生まれたかった」

 

「もう男子って本当にくだらないことに夢中になれるのね。呆れた」

 

ファッショニスタを自認するおませなベスは腕を組むと溜息をついた。田舎では目にすることの珍しい紫色の布地でできた腹帯を巻いている。

 

「そんなに欲しければ二人で小遣い貯めて買えばいいじゃない」

 

「三十ルピー.....そんなに持ってない。ベス、お前の家と僕の家交換できないか?」

 

マロが真顔で言うとベスは腰に手を当てて答えた。

 

「しつこい。そんなの無理に決まってるでしょ?」

 

リンクは笑いながら後でと子供たちに言い、中央集落に向かった。今日は休日とはいっても、リンクにとっては買い出しなど普段できない作業をする貴重な時間だ。それに明日の旅行の準備もしておく必要がある。岩壁に挟まれた下り坂をしばらく歩いていると頭上の木漏れ日が気持ちよかった。夏とはいっても、トアル村は湿度が低くカラっとしているから汗はかかなかった。中央集落の北ゲートをくぐると、雑貨屋のハンジョーがファドの家の近くで崖の上を見上げながら突っ立っていた。リンクが声をかけると、今日は仕入れだったのだが最近の品不足で行商人もろくなものを持っておらず、妻から蜂の子でも取ってくるよう言われたという。都会育ちのハンジョーには無理な相談というものだったが、かといって何もしないわけにも行かずこうして空しく蜂の巣を眺めていたのだ。

 

リンクがハンジョーと話していると、遠くからドラ声で呼びかける者があった。農夫頭のジャガーだ。雑貨屋の隣の背の高い岩の上にいて畑の様子を眺めていたようだ。リンクが岩に近づくと「リンク、ちょっとこっちに来いや」と言ってくる。リンクが岩にびっしりと生えた蔦を掴んで登っていくと、彼は別段大した用事があるわけでななくただ世間話がしたかっただけのようだ。

 

「いや、大したことじゃねえんだけどよ」

 

ジャガーは小柄だが筋骨たくましい精力的な男だ。真っ黒に日焼けした顔は年齢の割には老人のようにしわだらけだった。

 

「ほれ、俺の家の奥にある釣り場にセーラんとこの猫がいるだろ?さっきからずっとああやって川と睨めっこしてやがんだよ。釣りでもしようってのかな?まあ猫には釣りは無理だがな」

 

ジャガーはとても気の善い男だが、こうして捕まるといつまでも話し続けるところがあった。リンクが岩から降りようとすると、彼はこう引き留めた。

 

「ああそうだ、本当に言いたかったのはそれじゃなくってな、ほれ、あの岩の上にある草な。あれ、お前がこないだモイに吹き方を習ってたあの草と同じじゃねえのか?」

 

リンクが見ると、今いる岩の隣の岩の上に緑の長い葉を持つ草が何本か生えているのが見えた。

 

「お前ならあそこまで飛び移るのはわけねえことだろ?だから教えておいてやろうと思ってな」

 

ありがとうと礼を言って、リンクがその岩まで飛び移ると、確かにそれは鷹草だった。モイが鷹を呼ぶときに使う草だ。モイは、放浪中に鷹の飼い慣らし方を教わってきたらしく、この村に戻ってきてから長い時間をかけてトアルの鷹を調教していた。そして、彼がこの草を吹くと上空を飛んでいた鷹が近くにやってきて、指し示された標的を攻撃するのである。モイはそれを使って兎を取りリンクにご馳走してくれたこともあった。

 

リンクは試しにその草を一本ちぎり、教わったとおりに唇に当てて吹いてみた。しばらく待つと、鷹が舞い降りてきてリンクの左腕に止まった。小手をつけていないのでその爪が皮膚に食い込んで痛かったが、鷹が自分の指示どおりに来てくれるのはやはり嬉しい。リンクはふと思い立つと、ハンジョーが見上げていたファドの家の裏手の崖にある蜂の巣を指さして鷹を放った。鷹は二、三度羽ばたいて真っすぐ標的に向かうと、蜂の巣に爪を引っ掛けて落とし、その後どこかに飛んでいってしまった。

 

「おお、やったなリンク」

 

ジャガーが歓声を上げる。

 

「俺は鷹なんてモイの暇つぶしか道楽だと思ってたが存外役に立つもんなんだな。もっと仕込めば落とし物やなんかも拾ってくれたりするんじゃねえのか?」

 

リンクはそう言われて、何か適当な標的物はないかと周囲を見回した。もしそんな芸当ができるなら役に立つ助手を手に入れたも同然だ。そんなことがすぐできるようになるとも思えなかったが、何でも試したがる性質のリンクはさっそくやってみることにした。

 

するとはるか川の下流のほうにある岩の上で何かが動くのがリンクの目に入った。目を凝らすと、猿がどこから拾ってきたのか大きな籠をつつき回している。

 

「おい、猿じゃねえかあれは」ジャガーも気づいたらしく、忌々しそうに呟いた。「おいリンク、鷹で追い払っちまえ。まったく作物は荒らすわ、物は盗むわで全くロクなことしねえ連中よ」

 

リンクは考えた。籠をあの岩から落としてしまったら流れていってしまい回収は難しくなる。鷹に対して、猿を攻撃することより籠を拾ってくることを優先させることはできないだろうか?リンクは鷹草をむしるともう一度吹いて鷹を呼び寄せた。そして猿がいる岩を指さして鷹に言い聞かせる。

 

「いいか、籠を拾ってこい。籠を拾ってきたらあとでご褒美をやろう。わかったか?」

 

放たれた鷹は真っすぐ猿の岩のほうに向かっていった。危険を察知した猿はキイッと鳴き声を上げて岸に飛び移り、叢の中に見えなくなった。鷹は岩の上に残された籠をちゃんと獲物と認識してくれたらしく、しっかりとその爪に捕らえるとリンクのところに戻ってきた。

 

「大したもんだ!」ジャガーが叫ぶ。「リンク、おめえって奴は何をやらせても手際がいいな。いっそ俺の養子になってカボチャ農家になったらどうだ?」

 

リンクは照れ笑いしながら籠をあらためた。普通の物入れ用の籠ではなく揺りかごのような形をしている。誰が落としたのかはわからなかったが、リンクの頭にはすぐウーリの顔が浮かんだ。もし落とし主がわからないままだったらウーリにあげるということにすれば喜んでくれるだろう。リンクはジャガーに暇を告げると、岩の上から雑貨屋の屋根に器用に飛び移り、そこから地面に飛び降りてモイの家に向かった。ウーリは釣り用の足場のところで日向ぼっこをしていた。モイは農作業に出ているようだ。

 

ゆり籠を見せるとウーリは驚いて目を見張った。どうもコリンが生まれたときに使っていた揺りかごを、そろそろ二番目が生まれるので消毒のため太陽の光で干そうと出しておいたのが無くなってしまい、それで探していたらしい。

 

「わざわざ探してくれたの?ありがとう」

 

ウーリは目を細めた。

 

「そうだわ、リンク。ちょっと渡したいものがあるからその籠を持って一緒に来てくれる?」

 

リンクはモイの家に通じる川沿いの坂道をウーリの歩調に合わせて極力ゆっくりと歩いた。お腹が重いらしくウーリは数十メートル歩くたび一息入れなければならなかった。家に着くと、彼女はそこで待っているようにとリンクに言い、中に入っていったが、やがて手に釣り竿を持って出てきた。

 

「はいどうぞ。コリンがあなたのためにって作ったの。ちょっと見た目は不格好かも知れないけどちゃんと釣れるはずよ」

 

リンクは釣り竿を受け取ると礼を言った。以前は自分の釣り竿を持っていたのだが折れてしまったのでしばらく釣りはしていなかったのだ。今日は買い出しなど他の用事もあるのだが、リンクはせっかく手に入れたこの玩具を試したくなってしまった。

 

軒先に腰かけて休むウーリに手を振ると、リンクは早速ジャガーの水車小屋の裏手にある釣り場に向かうことにした。リンクの経験ではその周辺が一番水深が深いので魚がよく集まる。川沿いの道を下り、雑貨屋の手前で橋を渡り水車小屋の前の野外集会所を通り過ぎる。岩壁と水車小屋の間にある十メートルほどのスペースに組まれた釣り用の足場には、釣り人の先客はいなかった。ただし、岩の上から見えたセーラの猫がまだ陣取っていて、川の中を泳ぐ魚を睨んでいる。

 

「さあちょっとどいててくれ。良いのが釣れたらお前にも一匹やるからさ」

 

リンクは猫に話しかけながら支度をした。本当なら針に蜂の子をつければ完璧なのだが、トアルの川魚はキラキラ光る釣り針だけでも反応して喰いついてくることがある。今日のところは試し釣りなのでリンクはそのまま糸を垂らすことにした。

 

五分もしないうち、ビクビクと引きがあった。竿を引き上げて糸の先を見ると小ぶりなブルーギルがかかっている。大抵の場合は釣れるありふれた魚で、リンクは食べ飽きてもいたので解放してやることにした。魚を川面に投げ込むと、猫が恨めしそうな声で鳴く。

 

「なんだ、お前が目をつけてたのか?」

 

リンクは笑った。

 

「わかったよ、次に釣れたらそれはお前の朝飯にしよう」

 

再び糸を垂れる。最初のは運がよかっただけなのか、こんどは十分ほど経っても反応がない。やはり餌をつけないとダメかと諦めかけたとき、また引きが訪れた。今度は大きい。リンクが逃さないよう注意深く釣り竿を引くと、またブルーギルだったがサイズは大振りだ。リンクが魚を足場に上げてその口から針を外すと、猫は待ってましたとばかりにそれを咥えて走り去ってしまった。

 

やれやれ、とリンクが笑いながら見ていると、猫は野外集会所を横切って橋を渡り、まっすぐ雑貨屋に向かってその扉の右下に作りつけられた猫用出入り口から中に入ってしまった。

 

試し釣りも無事に終わりリンクは買い出しに戻ることにした。釣り竿は、モイの発案なのか意外にも画期的な構造で、竿がいくつかのパーツに分かれてコンパクトに収納できるようになっている。リンクはこれを分解してポケットに仕舞った。

 

セーラの店のドアを開けると、カウンターの上に猫が座って皿の上のミルクを飲んでいた。セーラはその背中を愛おしそうに撫でている。

 

「あらリンク、今日は休みかい?」

 

セーラは挨拶した。リンクも猫を撫でてやると彼女は自慢げに言った。

 

「この子ったらすごいのよ。さっき何してたと思う?自分で魚を取ってきたのよ!」

 

リンクはそれを聞いて吹き出しそうになったが、セーラの機嫌が頗る良いので何も言わずにおくことにした。彼女は愛猫が家に寄り着かないので最近までやや落ち込んでいたのだ。リンクは干し肉を沢山買っておくことにした。するとセーラが瓶に入れた山羊の乳をおまけでつけてくれた。半分しか入っていないが、それでも一回分には十分な量がある。瓶は返却しなくていいということなのでリンクはそれも有難くもらい受けることにした。ガラス瓶は田舎の村では貴重品だから、セーラはよほど気分が良いのだろう。リンクがふと陳列棚を見ると、タロの情報どおりパチンコが置いてあった。

 

「おやリンク、あんたパチンコなんか興味あるのかい」

 

セーラはリンクの視線に気づくと目を丸くした。

 

「まあ弾五十発ついてるけど三十ルピーだからねえ。どうだい、買っていくかい?」

 

リンクは迷った。最近思いがけない場所でルピーを見つけたので、少し余裕があったからだ。

 

この村では都会ほどルピーは流通しておらず(そもそも農村なのでほとんどの生活物資が物々交換で手に入ってしまう)、商売をやっていないリンクのような若者がルピーを得るのは岩の間や土の中から偶然掘り出す場合がほとんどだった。

 

ハイラル王国に足を踏み入れたことのない読者諸氏のために念のため説明すると、ルピーというのは細長い六角形をした輝石のことで、王国では広く通貨として使われている。これは人間が鋳造した硬貨ではなく、自然鉱石であり色によって価値が異なる(またその価値のつけ方も時代により変遷する)。ルピーはハイリア創造後からこのかた掘り尽くされるということがなく、いまだに岩や土、ときには木の中から発見されることがある。ただし、保存が悪いと風化して無価値になることもあるため、ルピーは入手したらすぐ専用の財布に入れなければならない。

 

リンクは先日、モイの家の雨漏りを修繕しているときに家の後ろの岩壁から崩れて屋根に転がっていた石の中に十ルピーがいくつか混じっているのを見つけたのだ。リンクがそのことを告げるとモイは言ったものだ。

 

「おい良かったなリンク、そりゃ見つけたモン勝ちだ。お前がとっておきな」

 

モイの地所の中で発見されたのに、本当に良いのかと聞くとモイはこう答えた。

 

「まあ覚えとくといい。埋蔵ルピーってのは見つけた者の所有物ってのがハイラルの冒険者の間での暗黙の決まりなのさ」

 

リンクは結局パチンコを買った。あんたがパチンコ買うとはねえ、としきりに呟きながらもセーラは品物をリンクに渡してくれた。リンクが店を出ると、ハンジョーが力ない足取りで店のほうに戻ってきた。

 

「蜂の子...欲しいなあ」

 

蜂の巣が落ちた後もしばらくは蜂たちがその周りを飛び回っていることもあるので、彼はどうしても手を出す勇気がないのだ。本当なら、蜂に追いかけられたら思い切り走って川に飛び込んでしまえば蜂どもは追ってこない。リンクは何度もそうして蜂の子を手に入れてきたのだが、都会育ちのハンジョーにそんな芸当ができるはずもなかった。リンクはそんなハンジョーに手にしたパチンコを見せた。彼は自分の店でこの若者が余分に出費してくれたことを知って少し顔色を良くしたが、また暗い顔に戻って店に入っていった。

 

リンクはボウと一度話をしに行くことにした。リンク自身は地図こそ持っていたが城下町に着いたら誰に会い何を言うかについて詳しい打合せ無しには何一つ見当がつかないからだ。リンクが再び川沿いの道を上っていくと、ボウはいつものように家の戸口の前で腕組みをして村を見渡していた。

 

「おおリンク、来たか」

 

ボウは言いながら戸口から降りてきた。

 

「明日の旅行のことだな。モイからはどこまで聞いたんだ?」

 

差し当たり城下町に行って献上品を届けるということ以外は何も聞いていない旨を話すと、ボウは豪快に笑った。

 

「まったくあいつもいい加減なものだな。まあいい、今年の献上品はモイとジャガーが持っているんだがそれ以外に必要なものは全て俺が用意してやる。路銀も必要だろうから持っていけ」

 

結局、自分の着替え以外のものは食料もテントも何もかも全てボウが用意してくれるとわかり、リンクは拍子抜けしてしまった。あんなに意気込んで買い物する必要もなかったのだ。二人が話していると、牧場のほうからファドの叫び声が聞こえた。なんだろうとリンクが顔を向けると、坂道を山羊が一頭全力疾走で駆け下ってきている。リンクは咄嗟に山羊の前に立ちはだかろうとしたが、そいつは頭を低くすると思い切り頭突きをしてきた。リンクはひとたまりもなく跳ね飛ばされて尻餅をついてしまった。トアルヤギは大柄で気が荒いので、走っている個体を素手で止めるのはリンクのような慣れた者でも簡単ではない。

 

「リンク、大丈夫か」

 

ボウが慌てて走り寄ってきた。リンクは手のかすり傷を負っただけで大した怪我はないことがわかるとボウは安堵の溜息をつきながら愚痴をこぼした。

 

「山羊は暴れるわ、猿は出るわで最近ロクなことがないわい」

 

ふたりが山羊を目で追っていると、そいつは走り続けたまま中央集落のゲートを抜け、やがて視界から消えてしまった。

 

逃げ出した山羊はたいていの場合は戻ってくるのだが、稀に周囲の岩山に登ってしまい二度と戻ってこないという例もあった。ボウは寛大な雇い主で、滅多にファドの不手際に対し懲罰を与えることなどはしないのだが、それでも山羊一頭は村にとって大きな財産だ。

 

「まったくファドの奴、山羊がいなくなったら給料から差っ引いてやるところだわい」

 

「僕があとで探しに行くよ」ボウが呟くのを聞いてリンクは提案した。

 

「いいや、やめておけ。お前は今日は休みだし、あまり甘やかすとファドのためにもならない」

 

リンクの申し出をボウは即座に却下してしまった。ボウは時として厳しいことを言うのだが、それは本人が自分で自分の面倒を見られるようになるまで成長することを願ってのことだった。ボウとリンクは打合せを続けた。リンクは王城の貴人に献上品を届けるなど、田舎の若者である自分にいったいどうやってできるのだろうと不思議に思っていたが、それはただ単に城下町からハイラル城の正面出入口に行き、警備兵たちにその旨を告げればすぐ城内に通してもらうことができるので、そこで待っている係官に品物を手渡せばよい、という実に簡単な手続きだった。そもそも献上品を持参する年には同じような農民たちで城下町は溢れかえるから、ただその列に並んでいさえすれば自分の番が来る、と聞いてリンクは大いに安心した。

 

再びファドの叫び声がした。牧場に通じる坂道を見るとまた山羊が駆け下ってくる。リンクは今度はしっかりと腰を落として身構えた。山羊が自分の脇を通り過ぎようとするのを素早く横に移動して立ちはだかり、その両の角をしっかと握りしめて渾身の力で押さえつける。山羊の勢いでリンクは二メートルほど後退させられたが、やがて突進を停めることに成功した。そして昔ボウに習った相撲の要領で、なおも前進しようとする相手の力をいなすと掛け声もろとも山羊を引っくり返した。ドタンと音を立てて転がった山羊は、しばらくすると自力で起き上がったが、何かのきっかけで正気に戻ったかのように大人しくなってゆっくりと牧場に向かって歩き始めた。「手荒いことをして悪かったな」リンクは呟くとそいつの首筋をよく撫でてやった。

 

「やれやれ、休みだというのにまたお前に働かせてしまったな」

 

ボウは済まなそうな口調でリンクに言った。もともとリンクの休みはボウが決めたものだ。リンクがあまりにもこまごまとよく働くので、村人からなんでもかんでも頼まれるようになって疲労困憊するといけないと思って、月に一度はリンクの休業日とすることにしたのだ。だからこの日にはリンクに野良仕事を頼まないという決まりになっていた。ボウは旅程の詳しい経路も教えてくれた。モイが来る前はこの仕事はボウの役割だったということで、彼はどの道を通りどの宿屋に泊まるといったことまで事細かに知っていた。

 

必要な事項を全て話し合ってしまうと、リンクはボウのもとを辞して雑貨屋の横の岩の上に登った。ジャガーはもういなかった。リンクは鷹草を吹いて鷹を呼び寄せ干し肉を多めに振舞ってやると、岩を飛び降りて自分の家に向かった。中央集落の北ゲートから坂道を上ると、リンクの家の方面からモイが下ってくるところだった。リンクが明日の旅行についてボウと打ち合わせを済ませたことを告げると、モイは笑って言った。

 

「まったくお前はどんな仕事でも早く済ませちまう奴だな」

 

「モイ、献上品はモイが持ってるって聞いたんだけど、一体何なの?」

 

リンクが尋ねるとモイはその耳元に口を寄せて囁いた。

 

「剣だよ、それも飛び切り上等のな」

 

リンクの顔がみるみる輝いてくるのを見てモイは慌てて付け加えた。

 

「おい、あれはあくまでも献上品だからな。切れ味はハッキリ言って俺の剣と大して変わらねえんだが、装飾が上等なんだ。あとよほどの事がない限り使うなよ。まあ実は使っても問題無いと言えあ無いんだが、汚されると困る」

 

だが、リンクはしばらくの間とはいえそんな剣が自分の手元に置かれると思うとたちまち心が浮き立ってくるのを押さえきれなかった。

 

「ああそうだ、それからお前の木刀、手入れしておいたぜ。だいぶささくれてたからな」

 

リンクはモイに礼を言って別れた。自分の家の前まで行くと、まだタロたち三人が遊んでいる。コリンは馬の世話が終わってしまったらしく、仲間に入るでもなく所在なげに立っていた。

 

タロはリンクに気づくと声をかけてきた。リンクが近づくと、そのベルトにパチンコが挟まっているのを見て飛び上がって叫んだ。

 

「すっげえ、パチンコだぜ!パチンコだ!」

 

たちまちマロも寄ってくる。興味がないと言っていたはずなのにベスまでがこっちに来て、三人して撃ってみてくれとせがんできた。リンクはセーラの説明どおり、種の袋から弾を取り出し、スリングにつけて引っ張った。家の前に立っている剣術練習用の案山子の頭に狙いをつけて放つと、種は凄い勢いで飛んで標的の頭に当たった。バシッという音がして、中をくりぬいたトアルカボチャの硬い殻でできた案山子の頭にへこみができたのがわかった。

 

「すっげえすっげえ!」

 

タロもマロも何度も飛び上がって興奮している。ベスさえも手を叩いて歓声を上げた。リンクは次にタロにやらせてやろうとしたが、パチンコのスリングと枝部分は恐ろしく硬い作りになっており、タロがどんなに頑張っても引っ張ることができなかった。もしかすると子供用の玩具ではなく、小動物を狩るための本格的な武器として作られたのかも知れない。

 

しかし、タロは自分では撃てないとわかると、今度は木の板や壊れたバケツなどいろいろな標的を集めてきて並べ、片端から撃つようにリンクに言ってきた。リンクも面白くなり、次々と種をつがえては撃っていく。うまく当たると木の板が割れたり、バケツに穴が開く。ひとしきり撃ってしまうと、リンクはこのパチンコというものの思わぬ威力に感心し、今度の旅に携えていくことにした。

 

だが射的大会が終わってもタロはリンクを放してはくれなかった。

 

「なあなあ、さっきコリンの親父さんがリンクの家に何か置いていったの見たぜ。一体何だったのさ?」

 

「気になる。見せろ」

 

マロまでもがそう言い張って聞かないので、リンクは家の中に入って居間の箱の中に置いてあった木刀を取り出した。樫の木を削った木刀で、リンクが最初に剣術を習い始めたときに持っていたものと違い、長さや重さは本物の剣と殆ど変わらない。木や案山子を撃つ稽古でささくれてしまっていたのを、モイが丹念にやすりをかけ釉を塗ってくれたのだ。

 

リンクが木刀を持って下に降りるとタロが興奮した様子で走り寄ってきた。

 

「すっげえ、木刀かあ。なんだか重くて本物の剣みたいだな」

 

リンクが手渡してやると、タロは目を見開いてためつすがめつそれを眺めた。マロも手を伸ばそうとするがタロは意地悪して木刀を持ち上げ渡さなかった。

 

「ねえ、リンク。しょうがないからこの子たちにも見せてあげてくれない?リンクの剣術」

 

ベスまでもがそう言いだしたので、タロもマロも意見が一致してしまい、リンクは断り切れず、結局剣術も披露することになってしまった。

 

「じゃあまず、斬りってやつやってみてくれよ」

 

タロが拾い上げた木の枝をブンブン振って動きを真似した。リンクがモイに最初に教わった技だ。横に薙ぎ払う斬りはとっさに防ぐことが難しい技で、モイは敵と最初の一太刀を交わすときに好んで使っていたのだそうだ。リンクは案山子の前に立って呼吸を整え、気合とともに斬りを繰り出す。木刀がバシンと当たって案山子は大きく左右に揺れた。

 

「おおっ!」タロが歓声を上げる。だがマロはそれほど感心はしていないようで、腕組みをしたまま首をかしげた。

 

「なんだか思ったより大したことないな。もっと凄い技はないのか?」

 

すると目を輝かせたベスが言った。「ねえ、あの刺しってやつをやってみてくれる?」

 

「それを言うなら『突き』だろ」

 

マロが冷たく言う。突きは難易度は高いが相手の胴を刺し貫く威力の高い技だ。リンクは案山子の胴巻きに見立てた樽に狙いをつけると、左手を剣の柄に添えて勢いよく突いた。さすがに木刀で一息に貫くことはできなかったが、樽の合わせ木が何枚かバリンと割れて留め金から外れた。

 

「すっげえ!」タロがまたも歓声を上げ、今度はマロも ほう、と声を上げる。

 

「リンク、あとさ、あのジャンプ斬りってのやってみてくれよ!」

 

タロは拳を握るとリンクにせがんだ。ジャンプ斬りは使いやすく高威力だが隙の多い技だから考えて使えとモイに教わった。思い切りジャンプしながら剣を振り上げ上から叩きつけるのだ。リンクは木刀を握り直し、再度呼吸を整えると、大きな気合を発して飛び上がり案山子の頭部に木刀を打ち下ろした。案山子の頭に見立てたカボチャの殻はバックリと二つに割れて地面に落ちた。

 

「わあ!こりゃすっげえや!」タロが両手で拳を作って飛び上がる。マロもようやくリンクの技術を認めてくれたようで、もっともらしい顔をして両手で優雅な拍手をした。

 

「ねえ、最後にあれやってくんない?あの、くるりって回るやつ。なんて言うんだっけ?」

 

すっかり顔を紅潮させたベスがせがんだ。「回転斬りだろ」とマロが小さな声で言うと「そうそう、それ!回転斬り!」と繰り返す。

 

回転斬りは比較的最近に習った技だ。文字通り体を回転させて薙ぎ払う技で、体重が乗る分だけ高威力で、なおかつ複数の敵に斬撃が当たる可能性のある大技だが、使用前後に大きな隙が生じるうえに連発ができないとモイに前置きされたことを思い出す。リンクは頭の中で手順をおさらいした。右足を踏み出しながら、剣を左上腕の後ろに隠すくらいのつもりで引き寄せて斬撃準備をする。相手に背を向けた瞬間体を落とし左足に軸を移しながら体を回転させ斬り払う。リンクは子供たちがじっと見ている中、しばらく黙って深呼吸して集中した。想像の中で敵の動きを描く。その敵が剣を振り上げたその瞬間、リンクは裂帛の気合を発して回転斬りを放った。木刀がぶち当たった案山子はその体を支える柱がポッキリと折れてしまい、哀れ案山子の上半身は二メートルほど吹っ飛んでリンクの家の玄関に通じる梯子に引っ掛かって止まった。

 

「うわあお!すげえ!すげえ!」タロはぴょんぴょんと跳ね飛び、ベスはうっとりとした表情でリンクを見つめた。これにはマロさえも感心したようで、この恐るべき天才児は右手の親指を上げてリンクに向かって突き出し「良い仕事だ」と賛辞を送ってきた。

 

「ありがとなリンク。でも今の技なんかわかったようなわかんないような...」タロはリンクに礼を言った。しかし当然のことではあるが今しがた見せられた本物の剣技というものを幼い頭の中で消化できてはいないようだった。もっとも、そんなことはこの熱意に燃えた豆剣士にとってはあまり重要ではないらしい。

 

「よおし、俺、絶対に剣士になるぞぉ!」彼は叫ぶと、さっそく手にもった枝を縦横に振り回し始めた。

 

リンクは木刀を背中に回して帯に挟むと、エポナを停めた木の根元でひとり座っていて先刻から全く輪に加わることができていないコリンのほうに行こうとしたが、泉に通じる小道のほうから何かの視線を感じた。リンクが振り返ると、小道の入り口に猿が座っていて、こちらを興味深そうに眺めている。今朝鷹で追い払った奴が戻ってきたのかも知れない。

 

「ああっ猿だ。こいつめ、また悪戯しに来たな!」

 

タロも猿に気づくと、手にした木の枝を振り上げて近づき追い払おうとした。だが猿は少し逃げる素振りをしたものの、木の枝を持った子供くらいでは害はないと心得ているのか、数メートル後退したところでまた座り直してこちらを向いた。

 

「こいつ、待て!」タロは枝を振り回しながら猿のほうに走り寄る。猿がキッと声をあげようやく逃げ始めると、マロまでちょこちょこと走ってタロに続き追跡行に参加してしまった。

 

「ちょっと二人ともどこ行くの?」

 

ベスも慌てて追いすがる。

 

「おい、森のほうには行くなよ!」

 

リンクは大声で子供たちの行った方向に呼びかけたが、返事がない。子供たちは普段親たちから大人抜きで森には絶対に行かないよう厳しく言いつけられているから問題ないとは思ったが、念のため付き添っておこうと考えリンクはエポナのほうに向かった。

 

「みんな行っちゃったね」

 

コリンは立ち上がると、エポナに鞍を載せ轡を嵌めるのを手伝ってくれた。

 

「子供だけで森のほうに行っちゃダメなのにね。リンクも行くの?」

 

リンクはコリンに礼を言うとエポナを小道に入れて走らせた。ベスはすぐに見つかった。両手を膝の上にあてて座り込み、肩で息をしている。

 

「もうあの二人にはついて行けないわよ」

 

ベスに家のほうに戻っているよう言い、リンクがなおも馬を走らせると、トアルの泉の入り口の脇にマロが立っているのが見えた。

 

「マロ、大丈夫か?」

 

リンクが馬を停めてマロに走り寄ると、天才児は片手を振って問題ないという仕草をした。

 

「この先は子供は行ってはいけないのは知っている。僕は兄貴と違って規則は守るタイプだ。あとはお前に頼んだ」

 

マロはそう言うとすたすたと来た道を戻り始めた。リンクはやや安堵したが、これでタロが橋を渡って先に行ってしまったということがわかった。森の入り口あたりは最近リンクが行った限りでは魔物を見かけたことはなかったが、さらにその奥に行ってしまったらそこは未知の世界だ。リンクはエポナに跨がって橋を渡らせると、やや速度を上げて、両側を高い崖に挟まれた小道を進んでいった。

 

十分ほども進むと、両側の崖が消えて開けた場所に出た。フィローネの森だ。下草が生え太陽の光のよく当たる平地を囲むようにして岩壁が丸く囲んでおり、その上には背の高い針葉樹が沢山立っている。リンクはタロの名を大声で呼びながら並足でエポナを走らせて探し回った。だが一通り捜索しても何の痕跡もなかった。リンクの心臓が次第に早鐘を打ち始めた。リンクどころかモイでさえも普段はここから先には滅多に行かないのだ。もしもタロが戻ってこなかったら....手綱を握る両手に冷たい汗が浮かんできた。

 

リンクは意を決して平地をまっすぐ北に横切った。周囲を囲む岩壁が狭まっているところを抜けるともう一つの広場がある。その北端には岩壁の切れ目に高い柵がかかった出口があった。二つ目の広場も横切り、エポナに柵をを飛び越えさせると、その向こうには泉が見えた。リンクは泉の周辺を捜索した。トアル地方の名残のような険しいゴツゴツとした岩から清らかな水が流れ落ちてきている。だがここにもタロのいた形跡はなかった。

 

泉の背後は高い岩の壁で、泉の左には大きな洞窟が見えた。奥からすぐ光が見えているから、ごく短い洞窟のようだ。リンクはエポナを歩かせて洞窟を抜けた。するとまた突き当たりに高い岩の壁と洞窟がある。今度の洞窟は馬に乗ったままでは通れない小さなもので、入口には門がしつらえてあったが、門は大きく開いていた。その洞窟の左に向かって目をやると、岩壁沿いにまた低木と高木が植わった広場があり、その中央には小屋のようなものがあった。小屋の背後には、昔ここにあった集落の名残なのか高い柵が連なっており、その先には岩壁に挟まれた道が北に向かって続いているようだ。

 

リンクがエポナから降りて洞窟の入り口に近づくと、地面に見慣れない植物が生えている。数十センチの細長い葉っぱが地を這うように広がっており、その中心には球形を真っ二つに割ったような形の花弁が長い茎の上に乗っている。その植物の姿を見たリンクはぎょっとして足を止めた。デクババだ。そいつはもっぱら食人植物と呼ばれている(植物かどうかは議論があるが、ハイラルの植物学では確かに植物と分類されている)。小動物や鳥などが近づくと、その花弁がまるで捕食動物の口のように開いてバクリと食べてしまうのだ。さすがに人間が丸ごと喰われてしまうことなどはなかったが、運が悪いと大人でもかなりの怪我をさせられてしまうし、子供が嚙まれたら命に係わるのは間違いない。

 

いくらわんぱくなタロでも、こんな見るからに危険な奴が鎮座した入口を通って洞窟を探検する気など起こさないはずだ。リンクはそう判断し、小屋のある広場を探索することにした。リンクがエポナに乗って近づくと小屋はいかにもみすぼらしく、ほとんどあばら屋と言っていいほどのお粗末な出来だったが、その前には焚火があり煙が上っている。人がいるのだ。さらに目をこらすと、焚火の後ろに男が座っているのがわかった。火を鍋にかけて何かをぐつぐつ煮ている。リンクはエポナを駆け足で近寄せると下馬し、男に挨拶した。

 

「あれ?おたくトアルの人っすよね?」

 

男は言った。浅黒い肌に縮れた髪の若い男だ。明らかにこの辺りの出身ではない。イントネーションからはラネール地方の訛りのように思えた。リンクは男の子が通らなかったかを尋ねたが、男は全く見ていないという。リンクは諦めて礼を言いその場を離れようとしたが、男が呼び止めた。

 

「兄さん、昼だからってカンテラも持たないでここを歩き回るのは危ないっすよ。なんたってフィローネは暗い場所がたくさんありますからね。そこでお勧めなのがこれっす」

 

男は足元に置いてあったカンテラを持ち上げた。

 

「これがあれば暗い道も安心ってやつでね。よかったら兄さんに差し上げますよ」

 

カンテラを受け取ったリンクは驚いて男の顔を見た。お代はと聞くと要らないと答える。リンクはモイから村の外の人間がタダで物をくれると言ったら注意しろと教えられていた。だが一方で、もしタロがこの広場に来ていないとするならば、あとはあの洞窟を捜索するしかない。そうすると明りなしでは困難を極めるだろう。松明をとりに村に戻っていたら日が暮れてしまう。リンクはそこまでの考えが頭に浮かぶと、ありがたくこのプレゼントを頂戴することにした。

 

「へへっ。まあいいってことですよ。オレ実はここで油屋をやってましてね」

 

男は上機嫌に言った。

 

「兄さんもじゃんじゃんカンテラ使って、それでオレから油を買ってほしいんですよ。だからこれはほんのお近づきの品ってことでね。ほら、これめっちゃ便利でワンタッチで火つくんですよ」

 

男に教えられたとおり操作すると、仕込まれた火打石で火種に点火し油壷から伸びている芯に着火するという画期的な構造であることがわかった。村で使う、油を入れた皿に芯を浸しただけの素朴な灯りとは段違いの進歩だ。

 

リンクは男に重ねて礼を言うと、エポナに跨って洞窟の入り口に戻った。リンクの心はいよいよ本格的に騒ぎ始めた。タロは本当にこんな洞窟に一人で入るという無茶をしたのだろうか?それを思うと、考えるだけで最悪の、ある別の可能性も認めざるを得ないと気づき始め、リンクは自分の表情が一段と険しくなるのが感じられた。彼は馬を降り、デクババを刺激しないよう注意深くその脇をすり抜けて洞窟入口の門を通り抜け中に入った。洞窟は長くくねくねした構造らしく、奥に目を凝らしても全く光は見えない。男に教わった操作でカンテラに火をつけると、ボウっとした光ではあるが数メートル先までなら照らしてくれるとわかった。やはりあの男の言っていたとおり明りなしでは行動できないようだ。リンクが歩を進めようとすると、何かが自分の足に当たったのが分かった。足元を見ると、木の枝が落ちている。何気なく拾い上げた瞬間、リンクは自分の背中の毛が逆立つのを感じた。

 

タロが持っていた枝だ。

 

リンクの頭の中には、絶対に認めたくなかった一つの可能性がはっきりと像を結び始めていた。タロは自分からこの気味の悪い洞窟に入っていったのではない。あの入口のデクババといい、いくらタロとはいえ自分から進んでこんな場所に来るわけがないのだ。だとすれば可能性は一つしかない。何者かに連れていかれたのだ。

 

リンクは自分の心臓がいよいよ早鐘を打っているのが分かった。彼は左手にカンテラを掲げ、背中に差しておいた木刀を右手に握ると、注意深い足取りで洞窟の中を前進しはじめた。

 

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