黄昏の姫と緑の勇者   作:nocomimi

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背負いしもの

どこかで狼の吠え声がしてリンクは目を覚ました。近い。反射的に剣の柄に手を掛けて上半身を起こしたあと、リンクはすぐに気づいた。

 

あの剣士だ。次の奥義を学ぶべき時がきたのだ。

 

リンクは起き上がってあたりを見回した。いつのまにか薄い霧に包まれた平原に立っている。遠くにハイラル城のシルエットが見える。だが、本来あるべき城下町の濠を囲む壁は見当たらない。背後からもう一度狼の吠え声が聞こえリンクは振り返った。

 

骸骨騎士はそこに立っていた。以前のように左手に円盾、右手に剣を提げている。

 

リンクは剣を抜き、盾を構えた。どちらから言い出すともなく向き合って間合いを測りあう。

 

リンクはもう不注意に攻めることをしなかった。いま、相手が自分の何を確かめようとしているのかもわかっている。二人の用心深い足運びによる、ブーツと地面が擦れる音がわずかに響く。

 

二人の間合いが交錯したその瞬間をリンクは見逃さなかった。身を沈めるようにして踏み込み、左手の盾を相手に思い切り叩きつける。体重の乗った盾アタックに、骸骨剣士は一瞬よろめく。その刹那、リンクは横斬りを放ち、さらに裂帛の気合いを発してジャンプ斬りを繰り出した。凄まじい剣の一撃を正面から喰らった骸骨剣士は後ろにどうと倒れた。

 

「わが奥義盾アタック、確かにおのれのものとしたようだな」

 

骸骨剣士は立ち上がると低い声で言った。

 

「では次なる奥義を学ぶ準備はできておるか?」

 

問われたリンクは力強く頷いた。

 

「はい」

 

「よかろう」

 

骸骨剣士は言うと、改めて剣を構えた。

 

「盾だけでなく全身を厚い装甲で固めている敵には盾アタックさえも通用せぬことがある。これから教える技はそのようなときに相手の虚を突いて背後にまわり斬りつける技」

 

簡潔に説明すると、骸骨剣士は横にホップし、次いで前転してリンクの背後に回るとジャンプしながら剣を横に斬り払った。その体格の大きさからは想像もつかない俊敏な動きだ。骸骨剣士の剣先がリンクの後ろ首の数ミリ先をかすめる。

 

もし本気でやられていたら致命傷を負っていただろう。リンクは顔に冷や汗が浮かぶのを感じた。

 

「固く装甲した敵はときとして前面ばかりに注意が向くことで背後が疎かになる。そのときこの技でがら空きになった背を斬るのだ。やってみろ」

 

二人の剣士は互いの剣を打ち合わせた。リンクは動きを頭のなかで繰り返したあと実際にやってみた。横にホップし、前転する。だが前転から立ち上がるとき素早く剣を払うことができず苦労した。

 

「前転のあと脚の力を最大限使ってジャンプしながら剣を払ってみろ」

 

リンクは言われたとおり前転から立ち上がる瞬間思い切りジャンプしながら体ごと回転させ剣を振ってみた。どうやらうまくいきそうだ。改めて骸骨剣士に正対すると、サイドホップから前転し相手の背後で剣を横に払った。剣の刃が骸骨剣士の後ろ首の付け根に直撃し、相手はドウとうつ伏せに倒れた。

 

「うむ、良い動きだ」

 

立ち上がると骸骨剣士は言った。

 

「わが奥義『背面斬り』、確かに伝えた」

 

リンクは頷いた。一瞬にして相手の背後に回り込む技があるとは想像したこともなかった。体力を要求される技だが、初見の相手にぶつければ一気に形勢逆転もありうるだろう。

 

「そなたの働きによりハイラルにも活気が戻ってきたようだな。だが今後ますます多くの強敵に出会うと心せよ。決して慢心するでないぞ」

 

「はい」

 

リンクは答えた。そして顔を上げて言った。

 

「先生。あれ以来、本当の僕が何者か、ということをよく考えてきたんです」

 

骸骨剣士は黙って聞いていた。リンクは言葉を継いだ。

 

「僕は自分が勇者なのかどうなのか、ずっと確信が持てませんでした。僕はただの田舎の若者で、たまたま事件に巻き込まれただけだと思ってましたから。でも今は違います」

 

リンクは少し間を空けて続けた。

 

「自分に自信が持てないのは相変わらずです。でも勇者というものがいったいどんな存在なのか、少し知ることができました。だからいま僕は勇者のように生きたいと思うようになりました。そういう者になりたいと」

 

骸骨剣士はリンクが言い終わると、少し沈黙していたがやがて口を開いた。

 

「進歩したとみえるな。だがまだまだだ」

 

相手の意外な言葉にリンクは困惑した。骸骨剣士は続けた。

 

「そなたには迷いがあろう。自分が救うべきハイラルの民たちは果たしておのれの命を賭けるに値する者たちなのだろうかと」

 

リンクは頭を殴られたような衝撃を受けた。なぜ彼は自分の心の中がわかったのだろう?

 

「そのような迷いが剣に迷いを生ませる。その迷いを捨てねば剣の道を極めることは叶わぬと知っておけ」

 

リンクは溜め息をつき首を振った。

 

「全部お見通しだったんですね」

 

「悪の迫っていることも知らず、少ない力でもそれを尽くして勇をなすこともなく、日々の享楽にのみにうつつを過ごすそのような民草のために命を賭して戦うは愚かと思うか?」

 

骸骨剣士は問うてきた。リンクは言葉に窮した。

 

「わかりません。でも疑問に思うことはあります。自分は正しいことをしているのだろうか、と」

 

リンクは辛うじて答えると、剣を納めて自分の手を見た。

 

「誰も僕のやっていることを知りません。だから僕が全ての冒険をやり遂げたとしても、城下町の人たちの日常は今とちっとも変わらないでしょう。それで戦う意味ってあるのかな?ってときどき思うんです」

 

骸骨剣士はしばらく黙っていた。リンクにはその表情は読み取れなかった。

 

「そなたは大きな思い違いをしている」

 

やがて骸骨剣士は言った。

 

「強く正しい民は勇者を必要とせぬ。勇者が必要となるのは、まさしく民が弱いゆえなのだ」

 

「弱いゆえ..」

 

「神に選ばれし勇者は名を上げ功を為すためにあるのではない。勇者とは勇をなさねば意味がない。勇をなすとはすなわち自らの命を賭すこと。さらに言えば他者のために命を賭すことだ」

 

厳しい言葉を噛みしめながらリンクは下を向いた。

 

「そこに迷いがあってはならぬ。もし勇者として生きるなら迷いを捨てよ」

 

迷いを捨てよ。その言葉が耳の中に何度もこだまし、リンクはやがて目を覚ました。体を起こすと、城下町を囲う城壁沿いにある見張り台の上だ。燃え尽きかかった焚火はくすぶっている。まだ夜は明けていない。

 

リンクは立ち上がり、装備をまとめて身に着けた。焚火を消すと、見張り台から飛び降りた。周囲はまだ暗い。ミドナは寝ているかも知れないと思い、起こさずに出発することにした。

 

東に向けて歩き始める。平原は静かで風もほとんど吹かない。東の空はごくわずかだが濃紺に色づき始めていた。しばらく歩くと夜明け前の空を背景に岩壁が浮かび上がってきた。その間を通ると、道が南にカーブしていく。

 

リンクは骸骨剣士との対話を思い出した。リンクはイリアや村の子供たちのためなら躊躇いなく命を賭けることができた。そして、善良で気高いゴロン族を救うため、あるいはルテラ女王の母としての切なる願いを叶えるため喜んで危険を冒した。だがリンクは城下町の人々の様子を知れば知るほど失望していた。それを骸骨剣士に悟られたのだ。だが、もし戦うなら迷いを捨てねばならない。それは言われなくとも明白だった。勇者として生きるということは自分が考えているよりもはるかに難しい道だったのだろうか。

 

両側の岩壁が開け、ハイリア大橋の門が見えてくるころ夜が明け始めた。東の空が燃えるような朝焼けの赤紫色に染まっている。リンクは街道から外れ岩壁に寄って進んだ。やがてハイリア湖を見渡す崖柵が見えてくる。顔を出したばかりの太陽が湖面に反射していた。

 

リンクは柵沿いに進み、トリトリップ小屋の扉を開けた。中を覗いてみると、鶏は既に広い床を動き回り餌をついばみ始めている。あのけばけばしい化粧の道化師青年が奥のほうにいた。ちょうど鶏のエサを撒き終わったところらしい。リンクが声をかけると、餌籠を隅に置き終わった青年は歓迎の笑みを浮かべながこちらを振り返ったが、リンクに気づくと途端に露骨な落胆の色を顔に出した。

 

「あのときのお兄ちゃんね、いらっしゃい」

 

取って付けたような挨拶だった。

 

「トリトリップ、大人一人ぶんお願いします」

 

リンクはルピーを取り出して渡した。青年は溜息をつくと、好きな鶏を選べと言って自分はどこかに行ってしまった。

 

リンクは黒っぽいたくましい鶏にそっと近づくとその両脚を掴んだ。壁にしつらえられた出口を通り抜け張り出しの上に立つ。太陽が湖面いっぱいに光を照らしやや下が見づらいが、これが純粋な娯楽であったらそれはさぞ楽しいだろうとリンクには思えた。

 

「まったく気の毒なくらいの意気消沈ぶりだったな、あの男」

 

ミドナが現れて笑いながら言った。

 

「起きてたのか。早いね」

 

リンクが答える。

 

「一連の仕事もこれで仕上げだ。成功させるため私もそれなりに準備をしている」

 

「そうだね。僕もこれは成功させたいよ」

 

「そうすれば私とも縁が切れるからな。そうだろ?」

 

そう問われてリンクは答えに窮した。自分がこれから未知の神殿に向かい危険を冒すのは一体何のためなのだろう?リンクは張り出しの床を蹴って中空に飛び出した。今度も目安として宝島を目指すことにした。鶏の脚をしっかりつかみながら、方向だけを調節していく。二度目だから心にも余裕が生まれている。右手には巨大なハイリア大橋の構造が一望に見渡せる。正面奥には精霊の泉の入り口が見えた。

 

鶏の揚力によりリンクたちはゆるやかに下降していく。宝島の上空に差しかかった瞬間リンクはミドナに合図した。ブーツが鉄のブーツに入れ替わりたちまち高度が下がる。ゆっくり右に回転する宝島の頂点部分はすぐ下だ。ミドナに合図してブーツを戻し、リンクは小刻みに慎重に鶏の方向を調整すると、その脚を離し宝箱の真上を目指して飛び降りた。

 

どうにか宝島の頂上に降り立つと、リンクは宝箱を開けてみた。また百ルピーが入っている。

 

「良かったな。ありがたくとっとけ」

 

ミドナが言った。リンクは財布にルピーを仕舞ったあと、頂上部分の縁にぶら下がり慎重にタイミングを見計らって下の階層に降りた。だが残念なことに、四階から一階まで、残り全ての宝箱はリンクが開け放ったときの状態のままだ。あの青年は景品を調達することができなかったのだろう。リンクはますます気の毒になってきた。

 

「ちょっと気の毒だね」

 

宝島の土台部分にまで飛び降りると、リンクは言った。

 

「そんなこと言ってるからお前はダメなんだ。もっと冷酷にならないと大きなことはできないぞ」

 

「君みたいにかい?」

 

「私が冷酷だと思うか?」

 

ミドナが聞き返した。

 

「ん....まあ、そうだね。僕よりはそうだと思うよ」

 

「ふん、それは当然だ。私はお前とは背負っているものの重さが違い過ぎる」

 

「背負っているもの?なんだいそれ」

 

「リンク、まずは着替えろ」

 

ミドナは、ゾーラの女王から授けられた服を取り出してリンクの目の前に置いた。

 

リンクは服を脱いで下着一丁になると、ゾーラの服を着ていった。胴着と短いズボンが一体となっており体にぴったりと密着する。その上に魚の鱗を模した板がつづり込まれ上体を保護するようになっており、腰には草摺もついていた。ひざ下までのブーツの足先には大きな魚のヒレのようなものがついている。さらに、兜と面甲を被ってみると驚くほど軽い素材で、しかも面甲が口と鼻をぴったりと包むようになっていた。仕上げに青い帽子を被った。

 

剣と盾と籠手を除くすべての装備はミドナの魔法空間に回収された。リンクは泳ぐのに備えて少し腕や脚を曲げ伸ばしした。

 

「湖底の神殿か。どうやって探そうか?」

 

リンクはミドナに尋ねた。

 

「もう見当はついている。捜索範囲は極めて限定されるな」

 

「どうしてわかるのかい?」

 

リンクは驚いて質問した。

 

「覚えていないのかリンク?最初ここを訪れたときは湖の水は枯渇しかかっていて、露出した湖底は中央に窪みがついた皿のような形だった。だがあのとき建造物らしきものは露出した湖底には見当たらなかっただろう?」

 

ミドナは言った。

 

「ということは神殿があるのは、あのとき湖の残滓があった中央の深い部分だ。直径はせいぜい一キロくらいだ。見つけるのに半日もかからんだろう」

 

「すごい」

 

リンクは思わず呟いた。

 

「ミドナ、君みたいな頭のいい人に会ったことがないよ」

 

そう言ったあとリンクは付け加えた。

 

「僕みたいな奴に褒められても嬉しくはないかも知れないけど」

 

「言ったはずだ。お前と私では背負っているものの重さが違う」

 

ミドナは直接は答えず、腕を組むと遠くの方を見た。

 

「私はどんなことをしてでもザントを倒す。それができれば自分の命だって喜んで捧げる」

 

「なんだって?」

 

意外な言葉にリンクは思わず聞き返した。

 

「ザントを倒さなければ未来はない。私にも、私の民たちにもな」

 

命を捧げる?私の民?リンクは、今まで自分が抱いていた彼女の印象からは想像もつかないような言葉に驚いた。

 

ならばミドナは、彼女の世界の住人のために戦っているのだろうか?リンクは、彼女がどこから来て、何のために戦うのかを知りたくなったが、以前尋ねたときと同じ答えしか返ってこないだろうとわかっていた。本人が話す気になるまで待つしかないとリンクは諦めた。

 

リンクは水に飛び込んだ。湖面の上をしばらく泳ぎ回ったあと、息を大きく吸って潜水してみる。

 

高くなってきた太陽から光が差し込み、澄み切った水を通して湖底の様子がおぼろげに見える。宝島から西に泳ぐと急に深くなる中央部分があるようだ。リンクは浮上すると息を整えた。

 

「おいリンク、その面甲を付けていれば水中でも呼吸ができるはずだ。やってみろ」

 

ミドナが言った。

 

「水中でも?そんなことってあるのか?」

 

「その面甲の両側面に水から酸素を取り出す装置がついている。いわば人工鰓だ。深い水中で自由に泳ぎ回る力、とゾーラの女王が言っていただろう」

 

リンクが尋ねるとミドナが答えた。試しに、そのまま呼吸をしながら泳いで少しづつ水深を下げていった。驚いたことに、まったく妨げられることなく呼吸が続けられる。しかも、露出した上腕や膝まわりは水の冷たさを感じるが、服を着ている部分は暖かいままだ。

 

リンクは泳ぐ手を早め、水深くに潜っていった。遠くに見える深い湖底中央部分を目指し泳ぎ続ける。足先についたヒレのお陰でぐんぐんとスピードが出る。やがて眼下に、丸くくりぬかれたような形の湖底中央部が見えてきた。

 

目を凝らすと、その湖底部分の右手奥には、巨大な柱状のものが複数湖底から突き出している。左手にも人工物と思しき岩の柱が立っているが、壮麗さや規模から、右手のものが神殿の入り口を装飾するものらしく思えた。

 

リンクは柱が立った場所を目指してさらに深度を下げながら泳ぎ続けた。近づくにつれ、推測は確信に変わった。深緑や青色の柱が立ち並ぶ湖底の奥の切り立った岸壁の中途に、岩で塞がれた洞窟の入り口らしきものがあったからだ。

 

湖底中央部分の奥に到達すると、リンクは速度を落としながら深度を下げてその洞窟の入り口を調べることにした。口を塞いでいる岩は大きく、何らかの大きな力を加えなければ取り除けそうにない。

 

リンクはバーンズから来た手紙の内容を思い出した。水中で使える爆弾がある、とのことだった。カカリコ村に行ったときに調達しておけばよかった、と悔やまれたが仕方がない。

 

ふと、背後に気配を感じてリンクは振り返った。槍を持ち兜を被ったゾーラ兵が一人、こちらを向いて立ち泳ぎしている。

 

「これは驚きです。あなたが着ている衣...」

 

ゾーラ兵の声が聞こえた。水中でも通常のようにしゃべることができるようだ。

 

リンクは面甲越しの詰まった声ながら挨拶をして名を名乗り、ゾーラの服を手に入れた経緯を話した。

 

「なんと、ラルス王子が無事でおられると!」

 

ゾーラ兵が大きな声で叫んだ。リンクは、ラルス王子の治療にあたっているカカリコ村の祭司レナードは信頼に足る医術師であり、その他複数の村人たちも共同で看護にあたっているため、回復については心配ない旨も伝えた。

 

「それで納得しました。ゾーラ一族に伝わる勇者のための衣、それがあなたに授けられたのですね。あなたは我が一族の恩人です。このことは必ず末代に至るまで語り伝えましょう」

 

「僕は行きがかり上ラルス王子をお守りしただけですよ。そんなに大げさなことをしなくとも」

 

リンクが謙遜するとゾーラ兵は真剣な語調で言った。

 

「ルテラ女王を亡くしたことの悲しみは計り知れません。ですから、王子が無事で、医術師のもと療養していると知れば、私たちの士気もあがろうというものです」

 

そこまで言うと、ゾーラ兵は尋ねてきた。

 

「ところで、ここは我々ゾーラ族が古来から礼拝の地としてきたゾーラ神殿の入り口です。ここで何かをお探しなのですか?」

 

「やはりそうだったんですね。内部はどうなっているのですか?」

 

尋ねてみると、相手はかぶりを振った。

 

「今は魔物が入り込み溢れかえっていますよ」

 

悲しそうにゾーラ兵は続けた。

 

「魔物?」

 

「そうです。テクタイト、ヒップループ、その他諸々のおぞましい生き物たちです。我々の力では入口を岩で塞ぎ奴らを中に閉じ込めることしかできませんでした」

 

「中に入る方法はありますか?」

 

リンクが聞くと相手は驚いて声を上げた。

 

「中に?‥‥正気ですか?」

 

「僕が魔物どもを片付けます」

 

リンクの言葉を聞いてゾーラ兵は絶句してしまった。

 

「中に入らせて欲しいんです。あなたたちに迷惑はかけませんから」

 

「‥‥で‥‥ですが‥」

 

「僕に任せてください。奴らを一掃します」

 

ゾーラ兵はしばらく黙っていたがやがて口を開いた。

 

「この岩を人手で取り除くことはできません。方法があるとしたら水中爆弾くらいでしょう」

 

ゾーラ兵はそう言うと続けた。

 

「しかし、内部にどれほどの危険があるのかは‥‥」

 

「わかってます。でもこれが僕のやるべきことなんです」

 

「なるほど‥‥ご覚悟のほど承知しました」

 

ゾーラ兵は言った。

 

「一族で水中爆弾職人をしている者がおります。その者が持っているか尋ねてみましょう」

 

ゾーラ兵はそう言うと泳いでリンクのもとを離れたが、しばらくすると、もう一人のゾーラ兵を連れて戻ってきた。

 

「リンク殿、こちらが水中爆弾職人をしている者です」

 

紹介を受けたリンクは経緯を話し、神殿に入るため水中爆弾を必要としている旨を話した。すると職人は十五個で九十ルピーだと言ってきた。

 

「おい、この方は我が一族の恩人だぞ。ルピーを取るなど恥ずかしい真似をするのか?」

 

最初のゾーラ兵が言った。だがリンクは手を上げて制した。

 

「そもそもこれは僕が言い出したことです。だからあなたたちに負担はかけたくありません」

 

リンクはそう言って手に入れたばかりの百ルピーを渡し、職人から水中爆弾を受けとると礼を言った。

 

リンクはミドナに頼み、エポナの腰から外してきた爆弾袋を出してもらってそれに水中爆弾を納めると、改めて神殿の入り口に嵌め込まれた岩を調べた。岩の大きさは直径二メートル弱といったところだ。だが問題は、水中爆弾を仕掛けられる窪みや引っ掛かりがないことだった。

 

爆弾を点火して岩の前の水中に放ってみても、当然ながら同じ箇所に留まってはくれないだろう。リンクはなにか方法がないかと周辺を調べてまわった。

 

秒数を見計らって上から爆弾を落としてはどうだろう?そう考えながら入り口の周辺を泳ぎ回っていると、下から気泡が上がってくるのが見えた。見下ろすと、湖底にある穴から泡が漏れ出てきている。下に降りていって確かめると、壁のすぐ前の湖底に直径一メートルほどの穴があった。そこに小さな岩が多数詰め込まれて塞がれている。その岩の間から出てくる泡が、真上にある神殿の入り口をかすめて浮上しているのだ。

 

リンクはミドナに頼んで鉄のブーツを履かせてもらった。湖底に立って湖底の穴を子細に調べる。この穴から出る気泡を増やせればそれを利用して爆弾を浮かせることができるかもしれない。

 

リンクは水中爆弾を一つ取り出し、湖底の穴の上に置いて導火線のキャップをひねると急いで数メートル後ろに下がった。水中ながら、導火線が燃えていく音がする。

 

鈍い爆音がして、湖底の穴に詰め込まれていた岩が吹き飛んだ。途端に穴から気泡が大量に吹き出てきた。

 

「換気装置かなにかだろう。この泡を使って爆弾を浮かせられるかもな」

 

ミドナが姿を消したまま言った。

 

「ミドナ、これはわかってくれ。僕は君と縁を切りたいからこの神殿を探検する訳じゃないよ」

 

「ほう?」

 

ミドナが聞き返した。

 

「僕はゾーラの人たちのために戦う。聖なる場所を魔物たちに奪われた彼らのために。それが僕の理由だ」

 

リンクは言った。爆弾をもう一つ取り出すと、導火線のキャップをひねって気泡を吹き出す穴の上に放った。

 

爆弾は気泡に押し上げられみるみる浮上した。それが神殿の入り口を塞いだ岩の前まで来ると、再び水中に爆音が響きわたった。目を上げると、岩に大きな亀裂が何本も走っていた。

 

リンクはミドナに合図してブーツを元に戻すと、少し浮上して神殿入り口に近づいた。入り口を塞ぐ岩の亀裂に手を掛けると、割れた断片はリンクの力でどうにか取り除けられそうな大きさになっているとわかった。

 

「君がたくさんの人たちの運命を背負っているということはわかった。僕が背負うものはそれに比べたらとても小さなものかも知れない」

 

リンクは岩の残骸を取り除きながら言った。

 

「だけど君が他人のために命を賭けるというならそれは僕も同じだ」

 

「よかろう」

 

ミドナは答えた。

 

「お前の動機が何であるかは私にはどうでもいい。ゾーラのために戦うのもいいだろう」

 

割れた岩をどけていくと、人ひとりやっと通れるくらいの空間ができた。リンクは念のためもう少し岩をどけて入り口を確保した。

 

「だかくれぐれも無謀な真似はするなよ」

 

「わかってる」

 

リンクは答えた。今や岩はあらかた取り除かれ、目の前に直径二メートルぼどの狭い洞窟がぽっかりと空いている。

 

リンクは覚悟を決めると、暗い洞窟の奥に向かって泳ぎ始めた。

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