黄昏の姫と緑の勇者   作:nocomimi

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穴倉の住人

リンクが進んでいくと、すぐに洞窟の中には光が届かなくなった。洞窟はゆるやかに上にカーブしているようだ。リンクは真っ暗闇の中に進むのに一瞬だが躊躇いを覚えた。水中ではカンテラをつけるわけにもいかない。

 

意を決して慎重に前進してみる。すると、リンクに追随するように薄明りが移動し、おぼろげながらであるが周囲の様子が見てとれた。

 

なぜだろう?リンクはふと自分の体を見て驚いた。着ているゾーラの服から薄っすらと光が発散されている。ゾーラたちは勇者がこのような冒険をすることを想定してこの服を作ってくれたのだろうか。リンクは心強さを感じて前進の速度を上げた。

 

洞窟の底にはところどころ水草が生えている。前方に通路が上下に別れる箇所が現れた。だがすぐに合流しているようだ。ふと下のほうを見ると、一抱えもありそうな巨大な二枚貝が床に落ちている。

 

生きているのだろうか?リンクが何気なく近づくと、そいつはいきなり上の貝殻を開いたかと思うと、まるで猛獣のように突進してきた。不意を突かれたリンクは後ろに突き飛ばされ壁に叩きつけられた。

 

「おい!大丈夫か?」

 

ミドナが言う。リンクは手を振って問題ないと合図した。ゾーラの服についた鱗のような小板が衝撃を吸収してくれたようだ。リンクは盾を下ろして背中の剣を抜いた。だが、泳いでいる状態だと剣を振ることさえままならないことに気づくと、脚を剣の平で叩いてミドナに合図した。ブーツが鉄のブーツに入れ替わる。

 

しっかりと床に両脚をつくと、リンクは化け物ホタテに向かっていった。相手はまたリンクに一撃を喰らわせようと上の貝殻を開いた。まるで威嚇しているようだ。

 

化け物ホタテが突進してきた瞬間リンクは盾でそれを受け止めた。ガツンと衝撃が走る。間髪を入れず剣を突く。開いた貝殻の間の柔らかい肉に切っ先が深々と刺さった。水が血で濁る。リンクはさらに横斬りを叩きつけ、もう一度深い突きを放って止めを刺した。

 

「まったく始まって早々不注意だぞ」

 

ミドナが文句を言った。リンクは盾と剣を仕舞うとバツの悪い思いで頭を掻いた。地上とあまりにも環境が違うから動き方がわからない。怪しいものには武器を構えずには近づかないことを心に決め、ミドナにブーツを戻してもらうと再び前進を開始した。

 

二十メートルほど進むと、洞窟のカーブが急になってきた。ほぼ真上に昇っていくようだ。見上げると、上からぼんやりとした明りが見える。洞窟の出口が近いのだろうか。だが、水路の途中に、まるでランプの傘のような形をした直径一メートルくらいの生き物が二、三匹浮遊している。

 

「クラゲだ。あいつらは大体危険だと思ったほうがいい」

 

ミドナが言った。

 

「クラゲ?」

 

「お前は見たことがないだろう。猛毒を持っている種類がある。触手に針がついているんだ」

 

「まるでふわふわとした飾りものみたいな形なのに、そんなに厄介な奴なんだね」

 

「見かけに惑わされるなよ」

 

リンクは頷くと、慎重に通路を上に昇っていった。巨大クラゲのいる箇所に接近すると、壁際に進路をとって距離をとりながらすり抜ける。すれ違った瞬間、クラゲの身体を小さな稲妻のようなものが覆った。ジリジリという音が聞こえる。リンクは驚いて身を縮めた。

 

「毒どころじゃなかったな。電撃だ」

 

ミドナが言った。

 

「電撃?」

 

「高圧電流だ。喰らったらしばらく動けなくなるぞ」

 

リンクが今まで聞いたこともないような力を持つ化け物だ。これから入っていく場所は並大抵のものではないことを認識し始めていた。リンクはそっと上昇してその場を離れると、上方にもう一匹いたお化けクラゲの横をすり抜けて、水路の出口の明りに向かっていった。

 

やがてリンクは水面に出た。水中から顔を出すと、そこは岩をくりぬいて作られたような巨大な部屋だ。灰色の岩肌に精巧な彫りこみがなされており、天井の中心部分から明るい光が射し込んでいた。しかも部屋の奥の壁には燭台がしつらえられている。驚いたことに、その燭台には火が点されてこうこうと明りを発している。

 

リンクは水路の出口の縁に手をかけて床によじ登った。立ち上がり、驚異の念を持って改めて周囲を見回した。

 

「ここの空気は清浄だ。面甲を外しても大丈夫だ」

 

ミドナが言った。

 

「本当かい?」

 

リンクは半信半疑で面甲を外してみた。確かに問題なく呼吸ができる。

 

「大した技術だ。普通密閉された場所で火を燃やし続けたら酸素が枯渇するはずだ。お前の面甲についている人口鰓と同じような技術を使ったもっと大きな設備だな」

 

「この明かりはどこから来てるんだろう?」

 

リンクは天井を見上げた。

 

「こっちは火ではないな。可能性があるのは、深海に生息する発光生物の仕組みの応用だ」

 

「発光生物?そんな生き物がいるのかい?」

 

リンクは驚いて尋ねた。

 

「いるさ。世界の生物の種類はお前が知っているよりはるかに多くて多様だぞ」

 

「知らなかったよ」

 

リンクはただただ呟くしかなかった。

 

「おまけに空気圧が調整されて水が流入しないようになっている」

 

「どうやってこんなものを建てたんだろう?」

 

リンクは言った。

 

「途方もない資金と人員が動いたんだろうな。宗教というものはときとして桁外れの動員力を持つ。私は信心深いほうではないが、あながち侮れないものだ」

 

「魔物たちが入ってくるまでは素晴らしい場所だったんだろうね」

 

「皮肉なもんだな。それが今では魔物の巣窟だ。それに今までの経験から言えば...」

 

「奥のほうにはとんでもない大物が潜んでるってことかい?」

 

「その通りだ。用心して行けよ」

 

リンクは頷いた。さしあたりは部屋の中をざっと捜索することにした。

 

部屋の奥には、次の部屋に繋がっていると思われる扉がある。そこはやや高い台になっていて、左右からゆるやかにカーブした階段で登れるようになっていた。ただし、扉は頑丈そうな門で塞がれている。その扉に向かって右手の隅に、金属の箱があった。リンクが近づいていくと、すぐ横の床に長さ二メートルほどの紫色のぶよぶよとした半透明のゼリー状のものが落ちている。

 

そのゼリーのようなものが突然動き始めた。リンクは反射的に剣を抜いた。お化けゼリーがまるで芋虫のように頭をもたげてくる。次の瞬間そいつが跳躍して飛び掛かってきた。リンクは咄嗟に横に転がって避けると、後ろから剣を叩きつけた。横斬りと縦斬りを何度も喰らわすと、敵は体の膜が破れて水分が飛び出してしまい動かなくなった。

 

「なんなんだこいつは?」

 

リンクは荒い息を鎮めながらまだ信じられない思いで呟いた。

 

「原始的なアメーバか粘菌だ。魔力で巨大化したんだろうな」

 

「水が襲ってきたのかと思って焦ったよ」

 

「お前にはいい薬になったな。とにかく周囲を注意して観察しろ」

 

溜息をついて剣を納めると、リンクは金属の箱を開けた。中には矢の束が入っていた。

 

「誰だろう?こんなところに矢を置いておくなんて」

 

「もらっておけ。どうせ持ち主は生きてはいまい」

 

リンクが矢束を手に取るとミドナが言った。

 

「僕の前にもここに入った人間がいるっていうことかな?」

 

ミドナが出してくれた矢立てに矢を仕舞って背負うとリンクは言った。

 

「おそらくな。そして二度と出て来なかった。それもあってゾーラどもは入口を岩で塞いだんだろう。財宝目当ての冒険者が無駄に命を落とすことがないように、とな」

 

リンクは再び部屋の捜索を始めた。扉と反対の方向にもう一つ金属の箱があり、そこには水中爆弾が十個あまり入っていた。リンクはそこからいくつかをとって腰につけた自分の爆弾袋に補充した。そして部屋の中を回って、そこらじゅうにいた巨大アメーバを片端から片付けていった。動きが単純なので、慣れてしまえば難敵ではない。

 

「もういいだろう。先に進め」

 

ミドナが言った。リンクは扉のある高い台に進む階段を登った。門は大きく、硬い素材で作られており無理に開けることは不可能に見える。扉の正面、高台の前に、巨大なハンドルが天井から下がっている。リンクは思い立って高台からそのハンドルに飛びついてぶら下がってみた。

 

思ったとおりだ。ハンドルが重々しい音を立てて下がった。その後扉を塞いだ門がガラガラと音を響かせて開いた。

 

リンクは床に飛び降りて再び階段を登ると、扉に手をかけて持ち上げ、向こう側に入った。

 

そこも同じくらいの大きさの部屋だったが若干構造が違う。目の前に伸びた狭い通路が下り坂になっている。その通路の左右は五メートルほども下がった低い床だ。よく見ると、いつかゴロン鉱山で見た巨大アメンボが何匹も群れている。

 

天井からは直径二メートルもありそうな巨大な鍾乳石が何本もぶら下がっている。巨大なのにその根元が細いため、いかにも不安定で脆い感じだ。

 

正面向こう側の壁には扉があるが、そこに行きつくまでには、下り坂の通路の終端から、高さ三メートルほどの高い段差を二つ越えなければならないようだ。通路の終端にある床と、一つ目の段差の上には鼠を超巨大にしたような形のずんぐりとした動物がのそのそ歩いている。

 

リンクが通路に足を踏み出すと、鍾乳石の一本の根元が折れたのか天井から音を立てて落下してきた。

 

「まったく物騒な場所だな。あの鍾乳石は予め落としておいたほうがよくないか?」

 

「確かにその通りだね」

 

リンクは水中爆弾を取り出した。ゲイルに頼んで点火した爆弾を鍾乳石にぶつけようかと考えたが、爆弾にはバーンズ社製のものと同様に底面にスリットがついている。リンクはミドナに弓を出してもらった。矢を一本とって矢尻を爆弾のスリットに差し込むと、導火線に点火し、弓につがえて鍾乳石の一本を狙う。矢を放つと、放物線を描いて飛んだ爆弾矢は鍾乳石にぶつかって爆発した。強い衝撃を受けた鍾乳石が落下した。リンクは同じ要領でさらに三つの鍾乳石を落とした。

 

弓を背負うと、リンクは通路を下っていった。終端にまで行き着くとその先の床にいたずんぐりした動物がこちらを見咎めて威嚇の声を上げた。近くで見るとトアル山羊くらいの大きさはある。体格は鼠に似ているが、体色は緑色でまるで南洋トカゲのなりそこないのような奇妙な顔をしている。リンクは盾を下ろし剣を抜くと床に飛び降りた。

 

相手は頭から背中にかけてを硬い金属の殻で覆っている。いきなり突進してきた。リンクは盾を上げるとその体当たりを受け止めた。重い一撃だったがどうにか踏みとどまる。剣を突き出したが相手の兜に当たって火花を散らしただけに終わった。

 

敵はまた体当たりをかましてくる。リンクは慌てて盾を上げて防いだ。だが、衝撃で一メートルほど後退させられてしまった。このまま防戦一方では、やがて化け物アメンボたちがたむろする床に落とされてしまう。

 

そのとき、リンクの脳裏に骸骨剣士の教えが電撃のように蘇ってきた。敵はまた体当たりをしようと正確にリンクに狙いをつけている。だが、その瞬間リンクはサイドホップし、次いで前転すると、敵の背後に回り込み剣を横に払った。

 

腰の辺りを斬られ、化け物が悲鳴を上げた。兜に覆われていない場所は剣が徹る。リンクは相手がこちらを向こうと方向を変えている隙に素早い足運びで背後をとり、再び斬りつけ、仕上げに突きを放って止めを刺した。

 

敵が断末魔の悲鳴とともに倒れると、みるみるうちにその体が黒くなって崩れていく。あとには金属でできた兜だけが残された。

 

「こいつは一体何者なんだろう?」

 

リンクはミドナに尋ねた。

 

「わからん。だが魔力の影響を受けてもとの姿とは変わってしまっているのは間違いない」

 

「この神殿そのものにそういう力が宿っているんだね」

 

リンクは上の段差に登る方法を探した。丁度良いことに、先ほど落とした巨大な鍾乳石の残骸が踏み台のような形となって段差の前やや右手に積み重なっている。

 

リンクはその上によじ登ると、上の段差の縁に手を掛けた。だが、頭を上に出したところで、上にさっき倒したのと同じ種類の化け物がいるのに気づき、慌てて顔を引っ込めた。

 

そうっと顔を出し、敵が目の前を通り過ぎてこちらに背を向けたところを見計らい、音を立てずに段差を登った。敵の背後に忍び寄り、いきなりジャンプ斬りを浴びせ、さらに回転斬りを放った。だめ押しで突きを喰らわす。

 

息絶えた化け物の傍らでよく剣を血払いして鞘に納めると、リンクは盾を背中に戻した。もう一つ段差を越えなければならない。だがこちらも落下してきた鍾乳石が積み重なっているのを足場にできそうだ。

 

リンクは鍾乳石によじ登り、さらに上の段差に手を掛けて体を引き上げた。見ると、その上に一メートルほどの高さの通路がしつらえてあり、先の扉に至っている。

 

リンクは通路に登って扉に進んだ。手を掛けて扉を持ち上げ、先に進むと、そこは細長い廊下だ。

 

左右に高い柵がかけられており、その向こう、二十メートルほど下方には豊かな水が流れている。廊下の突き当たりには両開きの扉があり、その先には大きな部屋があるようだ。

 

だが廊下の向こう側に人影を見て、リンクは反射的に剣の柄に手をかけた。

 

そこにいたのは、人間ほどの背の高さをした何者かだが明らかに人間ではなかった。全身茶色い皮膚で、蜥蜴のような顔をしているが直立して手には武器らしきものを持っている。

 

リンクの存在に気づくと、そいつはこちらに駆け寄ってきた。距離は二十メートルほどだ。リンクは盾を下ろして剣を抜いた。だがその蜥蜴人間の動きは早く、あっと言う間に間合い入ってきた。

 

蜥蜴男が右手に持った短い半月刀を払う。リンクは盾を上げて防いだ。金属音が響くとともに火花が散る。リンクは右手の剣で突いた。だが敵がもう片方の手に持った小楯で切っ先を逸らした。次の瞬間敵がぐるりと体を一回転させた。何が来るのか?と思ったその刹那、蜥蜴男の尻尾の先に仕掛けられた斧の刃のようなものが半円軌道を描いてリンクの胴に横から向かってきた。辛うじて横に盾を向けて受け止める。

 

リンクはバックホップして距離をとった。ボコブリンやブルブリンとは比べ物にならない手練れだ。盾を油断なく構えて間合いを測る。相手は足を使ってリズミカルに体を上下させながら距離を詰めてくる。

 

怒りの呻きを上げた蜥蜴男はリンクの首筋目掛けて剣を跳ね上げた。上体を逸らして避ける。双方距離が近い。リンクは狙いすました盾アタックを叩きつけた。不意をつかれた敵は一瞬だが構えを崩した。その隙にリンクは左右袈裟斬りを叩きつけ、さらに裂帛の気合とともに回転斬りを放った。剣が敵の腹をバッサリと斬り払う。剣を逆手に持って跳躍し、崩れ落ちた敵の胸に止めを刺した。

 

リンクは立ち上がって相手の体から剣を抜くと、盾を背負い、剣を血払いして鞘に納めた。荒い息を鎮め、額の冷や汗を拭った。

 

「また面倒そうな種類の敵が現れたな」

 

ミドナが傍らで言った。

 

「そうだね。敏捷さも剣術もただの鬼どもより数段上だよ。どこから来たのか気になるね」

 

「ふむ」

 

リンクが言うのを聞いてミドナは顎に手を当てて少し考えていたが、やがて呟いた。

 

「竜族か。だが人間とのハイブリッドの可能性もある」

 

「ハイブリッド?なんだそれ?」

 

「種をかけあわせることさ」

 

ミドナが事も無げに答えたのを聞いて、リンクは怖気を振るった。異なる動物の種をかけあわせるとは、なんとおぞましいことを考えつくのだろう。

 

「ザントって奴はまったくロクでもないことばかり思いつくんだね」

 

「いや、必ずしもザントだけの仕事とは限らないぞ」

 

「どういうことなんだい?」

 

リンクは意外の念を感じて尋ねた。

 

「ものの本によればハイブリッド兵士という構想は魔法技術の黎明時代から存在したからな。歴史や伝統の確立した種族を思いのままに操るのは難しい。だが新たな種族を最初から創り出してしまえばその点は容易になる」

 

「じゃあザントが来る前からそんなことをする連中がいたってことかい?」

 

リンクは眉をひそめた。

 

「あくまでも可能性だ。確証はない」

 

ミドナはそう言うと前方の扉に顎をしゃくった。

 

「行こう、恐らくこれからが本番だぞ」

 

リンクは廊下の奥に進んだ。突き当たりの扉は今までの扉と違って両開きだ。用心深く開けてその奥を見渡した。

 

直径百メートルはありそうな巨大な円筒形の空間だった。目の前に下りの階段がある。リンクたちのいる階層はどうやら二階のようだ。巨大な部屋の中央は吹き抜けになっており、はるか下がプールになっているのが見える。その吹き抜けを囲うようにしてぐるりと通路がしつらえられているが、今いる階層の通路は右も左もすぐに柵が立てられ行き止まりになっていた。壁にはほうぼうに蔦性植物が生えている。

 

リンクは階段を降り始めた。よく見ると階段の始点と終点には最初の部屋で扉を塞いでいた門を開けるのに使ったのと同じような巨大なハンドルがぶら下がっていた。

 

リンクは下の階層に到達した。やはり吹き抜けのぐるりを通路が囲っている。リンクは左に進んでみたが、やはり柵で行き止まりだ。

 

今度は逆方向に進んでみた。吹き抜けに面した部分に沿って転落防止の柵が設けられているが、ところどころが空いている。リンクが通路を進むと、ちょうど真東に面する箇所の壁に扉があった。だが、あの巨大アメンボがその前にうずくまっている。リンクが剣を抜くと相手もこちらに気づき、ジャンプしながら近づいてきた。大きく跳躍して襲い掛かってきたところをサイドステップしてかわし、逆に思い切りジャンプ斬りを叩きつけ、縦斬り、横斬り、そして突きを二回喰らわせて片付けた。

 

血払いして剣を納めると、リンクは扉を開けて向こう側に出てみた。十メートルほどの廊下だ。だがその終端にはまるで巨大水車のような仕掛けが設けられていて、その水車の板が廊下の出口を塞いでいる。リンクは終端に近づいて板に手をかけてみたが、金属製でひどく重いらしい。人の力では到底動きそうにない。先に行けないと判断し引き返そうとするとミドナが言った。

 

「水力で動く機構か。原始的だが面白いな。ここは湖の底だからいくらでも動力源は手に入るというわけだ」

 

「でも今は駄目みたいだね。他に扉がないか探してみるよ」

 

リンクは水車の板を拳で叩きながら言った。

 

「おいリンク。この神殿のどこかに水の流れを解放するスイッチがあるはずだ。それを探せ」

 

「それが見つかれば神殿の中を自由に移動できるってわけだね」

 

リンクは引き返して入ってきた扉を開けて中央の部屋に戻り、通路を捜索した。だが、扉を探すといっても、どうやらこの部屋は広大な割に扉は数えるほどしかないとわかってきた。リンクが最初に入ってきた二階南側の扉に加え、一階二階それぞれに真東、真西の位置にひとつづつ扉がしつらえられている。しかも通路の各所に柵が設けられているから、自由にそれらの扉にアクセスできないようになっているのだ。

 

リンクは、先ほど入った水車の板で行き止まりになっている廊下に通じる扉を通り過ぎ、さらに通路を進んでみた。最初に入った扉の真下あたりに来たが、そこから少し行くとやはり柵で行き止まりになっている。柵の前に金属の箱があったので開けてみると、矢束が入っていた。数本取って自分の矢立てを一杯にした。だが、先に進む手がかりがなかなか得られない。

 

ふと上を見ると、最初に入った扉の真下、部屋の真南の位置の吹き抜けに面した場所の柵が開いており、上から巨大なハンドルがぶら下がっているのが見えた。どこかに通じる道が開けるかと思い、リンクは思い切って飛びつき、そのハンドルにぶら下がってみた。

 

重々しい音がしてハンドルが下がったかと思うと、吹き抜けにかかっている巨大な階段がいきなり回転し始めた。驚く間もなく、リンクのぶら下がっている箇所に階段の下部分の終端がやってきて、そこで回転が止まった。

 

「驚いたな。階段が動くなんて」

 

リンクは目を丸くしたまま階段に飛び降りた。

 

「この階段を動かす動力はまだ生きているらしいな。見込みがあるぞ。捜索を続けろ」

 

ミドナが言う。リンクは階段を登って二階に行ってみた。これで、最初に入ったときには柵に阻まれて捜索できなかった箇所に行ける。二階の通路で、まず左側、すなわち西側に進んでみた。扉があるからだ。だが扉まで行くと鎖がかけられ錠で閉ざされているとわかった。どこかで鍵を探さないとならない。仕方ないので反対に東方向に進み、真東にあった扉を開けてみた。しかしそこを覗いてみると、一階の真東の扉と同様、十メートルほどの廊下の終端が巨大水車の板で塞がれている。

 

リンクは腕を組んで唸った。東側の扉の先にある廊下は、一階部分、二階部分両方とも神殿の動力を解放しなければ進めないようだ。そして西側の二階の扉は施錠されている。だとしたらあと見込みがあるのは一階の西側扉しかない。

 

ふと上を見ると、ここにも巨大ハンドルが吹き抜けに面した側にぶら下がっている。その周辺は柵が開いている。階段を動かす機構のスイッチだ。リンクがそこに飛びつくと、また階段が回転し、今度は階段の上端がリンクの真下にやってきたところで止まった。リンクは飛び降りて階段を下っていった。

 

階段を下った終端のすぐ前が扉だ。だが、リンクは何か役立つものがないかと左右を捜索することにした。左手に向かうとすぐに柵に阻まれているが、柵の前に壺が二つほど置いてある。中を探ると片方に五ルピーが入っていた。右手も同様に、すぐ柵が設置してある。だが柵の前に頑丈そうな木造りの箱が置いてあった。リンクは箱に近づいて蓋に手をかけて開けてみた。中には羊皮紙にインクで描いた図面のようなものが入っている。

 

「この神殿の地図だ。役に立つぞ」

 

ミドナが言った。リンクは地図を広げ仔細に眺めてみた。するとミドナが横から口を出した。

 

「東西に長く伸びた廊下の先にある部屋が気になるな」

 

「もしかすると、水の力を解放する仕掛けが?」

 

リンクが尋ねた。

 

「わからん。だが中央にはそれらしいものがないからな。私が設計者ならそうする。しかも動力源を二つ設置しておくのも理にかなっている」

 

「わかった。まず西側から攻めてみるよ」

 

リンクは地図を畳んで仕舞うと、扉の前に戻った。扉に手をかけて開け、中に入る。先は十メートルほどの廊下だった。だが先客がいる。ずんぐりとして兜をかぶった、南洋トカゲの出来損ないの顔をしたあの化け物だ。リンクは剣を抜いた。

 

化け物はリンクの姿を認めると豚のような叫び声を上げながら突進してきた。だがまだ距離がある。リンクは相手との間合いをよく見極め、サイドステップして攻撃を躱すと、敵の背後からジャンプ斬りを喰らわせた。立ち直る間も与えずに横に転がって相手の後ろに回ると、突きを繰り出して剣を深々と突き立てた。化け物は断末魔の悲鳴を上げて倒れた。

 

リンクは血払いして剣を仕舞い先に進んだ。廊下の終端にある扉を開いて先に進む。

 

扉を出たすぐの場所に空の浅い水路のようなものが掘られ、その先にある直径五十メートルくらいの円筒形の窪みに繋がっていた。窪みの中央に太い石の柱がある。その上に、円筒形と重なるように巨大な金属製の歯車のような形のものが鎮座している。その歯車のちょうど周囲を囲むようにして壁から張り出しが削り出されていて、天井が覆い隠されていた。その上が二階部分なのだろう。その巨大歯車からは直径二メートルほどの円盤がいくつか鎖でぶら下がっていた。

 

「何だろうこれは?」

 

リンクは巨大歯車と円盤を見上げた。

 

「これも水力で動く仕掛けだろう。見ろ」

 

ミドナは広大な部屋の壁を指さした。壁の中ほど二か所に、扉のしつらえられた張り出しがある。普通には辿りつけない高さだ。

 

「水力でこの歯車が動き、あの円盤に乗って扉の場所まで移動するというわけだ」

 

「なるほど。凝った仕組みだね」

 

リンクは窪みの際まで進むと部屋の中をよく観察した。窪みは五メートルほど下が底になっていて、巨大アメンボがたむろしている。一本の細い通路が中央の柱まで続いている。柱にはよく見ると、ほうぼうに蔦性植物が生えており、その下にも足場となる岩がいくつもある。さらに、部屋の北西部分には高い岩舞台があって、目を凝らすとその上に木製の大きな箱があるのが見えた。

 

だが、窪みの中にある細い通路は途中が欠けていて、そこから噴水のように大量の水が勢いよく噴き出している。

 

「わざわざ水の力がなければ移動もままならない構造にしてあるんだ。進歩的かつ原始的、矛盾に満ちた建物だな。ゾーラどもの思想の一端がわかろうというものだな」

 

「どういうことだい?」

 

「ゾーラどもは水を崇拝していたのだろう。ここにはゾーラ族以外の者も訪れたのかも知れないが、そいつらに水というものの偉大さを理解させようという狙いなのかもな」

 

「君の洞察力には本当に恐れ入るよ」

 

リンクは感心して言った。だが、いずれにせよ機構をもとに戻さなければ。リンクは天井を見上げてみた。巨大な鍾乳石が、ちょうど中央の窪みの中の通路の欠けた部分の上からぶら下がっている。リンクは水中爆弾を取り出すと、その底面に矢尻を差し込み、導火線を点火したあと弓につがえて狙った。爆弾矢を放つと、爆発とともに鍾乳石が崩れ落ち、ちょうど通路の欠けた部分に嵌り込んだ。これで通れるはずだ。

 

リンクは通路への道を探した。右手を見ると、人ひとりが通れるくらいの小さな洞窟がある。入ってみると、少し下り坂になったあと件の通路に繋がっているとわかった。リンクは通路を進み、中央の柱の足元にある岩舞台に到達した。中央の柱に生えていた蔦に取りつくと、横に移動して今度は柱の足元、西側のほうにある岩台に降り立つ。箱がある岩舞台はもうすぐだったが、窪みからの高度差が大きすぎて、普通にはその上に行くことはできないようだ。

 

リンクは再び天井を見上げた。巨大鍾乳石がもう一つぶら下がっている。その下にはまた噴水のように水が噴き出している箇所がある。

 

「鍾乳石が形成される過程で何度も石が落下して床に穴が開いたのかも知れないな」

 

ミドナが呟く。

 

「手入れをしていない建物っていうのは酷くなる一方なんだね」

 

リンクはそう言ってふと自分の家を思い出した。もう長いこと帰っていないし、ブルブリンどもに荒されたあとの状態のままだ。冒険を終えたら早く掃除しなければ、と思った。

 

「だが鍾乳石を落とせば足場ができるかも知れないぞ」

 

「わかった。やってみる」

 

リンクはまた爆弾と矢を取り出して爆弾矢を作り導火線に点火すると、弓につがえて鍾乳石を狙った。爆発で鍾乳石が崩れ落ちる。すると、鍾乳石の残骸がちょうど平らな円盤のような形に残り、床から噴き出した噴水の力で中空に浮き始めた。

 

リンクは自分がいる岩台と、浮いた鍾乳石の残骸との距離を測った。飛び移ることができそうだ。リンクは武装を背負い直すと、助走をつけて鍾乳石でできた円盤の上に飛び乗った。不安定だが、どうにかしがみつく。さらに、箱が置いてある岩舞台を見やる。可能な距離だと判断すると、リンクは立ち上がり思い切り跳躍した。どうにか岩舞台に飛び移ることができた。

 

大きな木製の箱に近づき蓋を開けると、そこには金属製の小さな鍵が入っていた。思ったとおりだ。リンクは鍵を仕舞うと、再び噴水に持ち上げられた鍾乳石の円盤の上を伝って、中央の柱の足元の岩台に戻った。そこから蔦を伝って東側の岩台に戻り、通路を通って入ってきた扉の前に戻った。

 

扉を開け、廊下を通り抜けると、中央の階段のある広大な部屋に戻った。階段を駆け上がり、二階に到達したところで左に向かい、今度は二階部分の西側の扉に向かう。

 

扉に辿り着くと、錠前に鍵を差し込んでみた。鍵は合致した。錠前が外れ、鎖が床に落ちる。扉を開けるとそこも十メートルほどの廊下だ。あの兜をかぶったずんぐりとした化け物もいる。リンクは素早く剣を抜くとそいつに近づいた。こちらに気づいて突進してきた瞬間に横跳びし次に前転して後ろに回り込み、跳躍しながら剣を払った。腰に手傷を負った敵が豚のような悲鳴を上げて怯む。リンクは細かくサイドステップして後ろに回り込むと、回転斬りを放って致命傷を負わせた。

 

血払いして剣を納めると、リンクは廊下を進んで突き当たりの扉を開けた。目の前の床から浅い水路のようなものが伸びて左に曲がっている。だがしばらくいくと頑丈そうな鉄格子の嵌った壁で塞がれていた。右手を見ると、やはり形は違うが鉄格子に行き当たっている。正面は壁だ。先ほど訪問した円筒形の空間が向こうあるらしく、ゆるやかに丸くカーブしている。

 

ふと見ると、巨大アメンボが一匹うずくまっている。リンクは剣を抜いてそいつに近づくと、動き出す前にジャンプ斬りを叩きつけ、突きを喰らわせて片付けた。

 

先に進む方法を探して壁や天井を見回す。左手の水路の突き当たりまで歩くと、鉄格子の脇に金属の箱が置いてある。開けてみるとまた水中爆弾だ。リンクはそこから数個とって自分の爆弾袋に補充した。今度は右手に向かうと、正面奥の壁に蔦がびっしり生えている。鉄格子の嵌っている壁は天井近くで切れているので、その蔦に飛びつければ向こう側に行けるかも知れない。蔦の生えた壁の手前には天井から巨大鍾乳石が下がっている。リンクは少し離れ、爆弾と矢を取り出して爆弾矢を作り、導火線に点火して弓で鍾乳石を狙った。爆発で鍾乳石が落ち、岩の足場ができた。リンクは武装を仕舞うとその足場に登ってから壁の蔦に飛びつき、よじ登ったあと横移動して鉄格子の上の壁の上に立った。壁のすぐ前には上から巨大なハンドルがぶら下がっている。そこに飛びついてみると、ガシャンと音がして壁に嵌った鉄格子が下がった。これで自由に出入りができる。リンクはハンドルから手を離して飛び降りた。

 

廊下を先に進むと、先は岩で塞がれている。その手前、左手に扉があった。先ほど訪問した円筒形の部屋の二階部分に通じるのだろう。岩は後回しにすることにしてリンクは扉を開いてみた。案の定、あの円筒形の部屋だ。壁沿いに狭い張り出しが設けられており、中央は巨大歯車の上面で塞がれている。リンクは張り出しから巨大歯車の上に飛び移ってみた。

 

だが、向こうにあの蜥蜴男が立っているのに気づいて足を止めた。リンクは素早く盾を下ろし剣を抜いた。相手もこちらに気づいた。蜥蜴男が半月刀を手に素早くこちらに走り寄ってくる。リンクは剣を振り上げると、咄嗟にジャンプ斬りを放った。不意をつかれた蜥蜴男の鎖骨あたりから胸、腹までがバッサリ斬り払われる。怯んだところを突きを四度連続して喰らわせ、最後は鍔に至るまで刀身をその腹に沈ませて止めを刺した。

 

「まったく油断ならないな」

 

「本当だね。正面から来てくれて助かったよ」

 

リンクは入ってきた扉から見て正面にもう一つ扉があるのに気づいた。巨大歯車の上を渡って向こう岸に飛び移り、扉を開ける。出たところは左右に走る廊下だ。床に浅い空の水路のようなものがある。左手に進んでみると、例の巨大な水車の板で塞がれている。右手を見ると、すぐに三メートルほどの高い段差で行き止まっていた。段差の上には扉があるがとても登れそうにない。

 

リンクは左手に向かった。水車の下に壺や箱があったからだ。水車の足元まで行くと、吸血蝙蝠が中空を飛びまわっている。リンクは剣を抜いた。そいつがこちらに目をつけ、襲撃しようと一点に滞空したところを素早く叩き落した。

 

剣を納めると、壺を探ってみる。一つから五ルピーが見つかった。さらに木製のしっかりした箱もある。蓋を開けてみると小さな金属の鍵だ。リンクは鍵を仕舞うと、その箇所の捜索を打ち切った。あの岩を爆破して先に進むのが上策らしい。

 

入ってきた扉を開け、巨大歯車の上を渡り向こう岸の扉から反対側の廊下に戻った。左手にある岩の下に爆弾を置き、導火線に点火して後ろに下がる。数秒後爆発音がして、岩に多数の亀裂が走った。

 

リンクが岩の残骸を取り除けて向こうを覗くと、向こう側にあの兜をかぶったずんぐり南洋トカゲのお化けがいる。しかも二匹だ。

 

盾を下ろして剣を抜くと、リンクは岩の残骸の向こう側に躍り出た。化け物の一匹がこちらを向いて、豚のような叫びを上げながら突進してくる。サイドステップして回避すると、もう一匹もすかさず突っかかってくる。リンクは横に転がって躱した。二匹同時に来られるとやりづらい。

 

「おい、こいつらは後で片付けろ。今は神殿の動力を回復するのが先だ」

 

ミドナが言う。ゾーラとの約束があったが今は仕方ない。やむを得ず、リンクは剣を納め盾を背負うと廊下を走り抜けた。突き当りに扉がある。後ろで化け物たちが喚いていたが、リンクは扉を開けて向こう側に出た。

 

どうやら神殿の西の端が近いようだ。十メートルほど先に高い柵がしつらえられており、その左側に鎖がかけられ錠で閉じられた扉がある。左手の手前側からは浅い空の水路が先の真ん中の下を通り抜けていた。円筒形の部屋の向こう側の廊下から続いているのだろう。

 

だが、扉の前に奇妙なものがあるのを見てリンクは立ち止まった。

 

やや潰れた形の巨大な球体状の透明なゼリーのようなものが床に落ちている。その傍らには、小柄な人間ほどの大きさの生き物がいた。二足で立っているが、体格は甲虫に近い。だが、頭の部分には人間を思わせるような二つの目がぎょろりと光っている。

 

その生き物の異様な姿かたちにリンクはぎょっとした。その間に、その生き物は小刻みに飛び跳ねるとゼリー状のものの中に入っていってしまった。

 

リンクは剣を抜いた。危険なものかどうかは分からないが、今までの経験から油断はできないし、扉の前に陣取っているのでこのままでは先に行けない。

 

盾を下ろし慎重に近づく。ゼリー状のものを剣の先で軽く突いてみた。柔らかく弾力があり、剣の先が徹らない。

 

その瞬間、その生き物がゼリーの塊もろとも跳躍してリンクに飛び掛かってきた。リンクは押されて後ろに転がった。慌てて立ち上がると盾を構える。再び跳躍してきたのを受け止めると剣を縦に振るった。だがまったく歯が立たない。リンクは一計を案じて、盾を背負い剣を納めると、後ろに退いて相手の攻撃を誘った。相手が再び跳躍してきたところを、横に転がって躱した。

 

奥に走り寄って扉にかかった錠に鍵を差し込む。錠前は開いた。リンクは扉に手をかけて押し上げると、向こう側に滑り込んだ。

 

「わけのわからない生き物だらけだね、ここは」

 

「まったくだ。倒し方がわからない状態で闘って時間を無駄にしないのが上策だとお前もわかったろう」

 

ミドナが言う。リンクは周囲を見回した。やや小さめの円筒形の部屋で、天井がきわめて高い。中央に深い円形の窪みがあり、その中心に太い石の柱が立っている。その頂上には、リンクたちがいる場所と同じ高さにアーチ状の構造物があって、そこに巨大なハンドルがぶら下がっていた。

 

左手は窪みを半周ほど囲むようにリンクがいる場所から足場が伸びて、壁で行き止まっている。右手は足場が切れていて五メートルほどの間隙の向こうに再び足場があり、そこから螺旋状の上り坂が部屋の壁沿いにしつらえられていた。足場が切れた箇所から下を覗くと、壁には蔦がびっしり生えている。飛び降りても向こう岸に這い登ることができそうだ。

 

リンクは間隙に飛び降りて着地すると、向こう岸の下の壁の蔦を掴んで登り始めた。どうにか上に辿り着くと、螺旋通路を登っていった。

 

「リンク、どうやら動力装置が近いぞ」

 

「それはつまり.....」

 

リンクは歩きながら思案した。

 

「水は高いところから低いところに流れる。つまり、この坂道の上に湖から引いた水を流し入れるための弁みたいなものがあるってことだね?」

 

「やっとお前も物の道理がわかってきたみたいだな」

 

ミドナが笑った。

 

「リンク、お前は学校に行くべきだ。田舎村で農作業だけをしていたのでは学べないことが沢山ある」

 

「だけど城下町に住むのだけは絶対ごめんだね」

 

リンクはにべもなく答えた。

 

「見聞を広めるためには時に我慢も必要だぞ」

 

ミドナは譲らない。そのとき、坂道に巨大アメンボがうずくまっているのに差し掛かった。リンクは素早く剣を抜いて駆け寄ると、相手がこちらを向いた瞬間縦斬りを叩きつけた。次いで左右袈裟斬り、さらには横斬りを喰らわせて大人しくさせた。

 

「城下町みたいな場所に住むより僕はこういう廃墟を冒険するほうが性に合ってるよ」

 

リンクはおどけて言う。

 

「おいおい、大丈夫か。そんな調子では将来それこそ社会不適合者になるのが関の山だぞ。考え直せ」

 

螺旋通路は長い。ミドナと会話しながら登っていると途中また巨大アメンボに二度ほど出くわしたので切り刻んで片付けた。しばらくかかってようやく終端まで辿り着く。そこは東西に延びた短い廊下で終わっていた。突き当りには高台の上に柵が設けられ、そこに立派な箱があったが、今は手が届かないようだ。廊下の真ん中を四角い門のようなものが跨いでいる。その柱に梯子がしつらえてあった。

 

リンクは梯子を上って門の上に出てみた。ちょうど手が届きそうなところに巨大ハンドルがぶら下がっている。リンクは飛びついてハンドルにぶら下がってみた。重々しい作動音がしてハンドルが下がると、箱が置いてある高台の上にあった張り出しの奥にある壁が水門のように上がっていた。開いた箇所から水が勢いよく流れ落ちてくる。

 

「これが動力のスイッチだったね」

 

「よし、おそらく同じものが東側にもあるはずだ。捜索を続けよう」

 

リンクは頷くと床に飛び降りた。水門から流れ落ちてくる水は、廊下に刻まれた浅い水路を通り、螺旋通路に流入していっている。リンクは螺旋通路まで戻り歩いて下り始めた。だが水の勢いが強く、歩くのが容易ではない。思い立ってリンクは体を後ろに倒して滑ってみた。すると、水に押されてリンクはどんどん螺旋通路を流されていった。ちょっとした遊びだ。歓声を上げながらリンクは通路を滑り降りた。一番下まで降りてしまうと、通路の間隙の部分に落ちて止まった。間隙の部分にはいまや豊かに水が溜まっている。右手をみると、溜まった水のおかげで円形の窪みの中央部分にある柱の上端まで泳いでいけそうだ。

 

リンクは泳ぎ、アーチのしつらえられた柱の上端の平らな部分によじ登った。その上にさらに少しの高さの段差があって、上から下がったハンドルにそこから飛び移れそうだ。リンクはハンドルに飛びついてぶら下がった。作動音がして、入ってきたとき通った扉の横にある柵の真ん中が水門のような形で上に上げられた。

 

中央の窪みから溢れ出んばかりに溜まった水が、今度はその水門を通ってその先の部屋の水路に流れ込んでいっているようだ。リンクは泳いで部屋の隅の足場によじ登ると、入ってきた扉を通り抜けた。

 

奇妙な虫のような人のような生物がまだゼリーの中に陣取っている。リンクは慌ててその脇を走り抜けると、床に刻まれた水路沿いに今度は右側に進路をとって突き当りの扉を開いて先に進んだ。

 

水路は目の前少し先まで伸びたあと、三メートルほどの落差で下に下がっている。リンクが段差から飛び降りると、突如として頭上から細長い巨大ゼリーの化け物が三、四匹ほど落下してきた。リンクは反射的に剣を抜くと、身を沈め回転斬りを放った。二匹ほどが体を切り裂かれ、水分が抜けて腑抜けのように動かなくなる。残った連中にも素早く剣を突き立てて大人しくさせた。

 

剣を納めると先に進んだ。左手に扉を通り過ぎ、巨大水車の板に塞がれた廊下の突き当たりまで行く。果たして、水車は水圧によりゆっくりと動いていた。リンクは、板と床の間に体を挟まれないよう注意しながら、水車の下を通り抜けて先に進んでみた。だが残念ながら、その廊下は十メートルほど行くと鉄格子で行き止まりになっていた。リンクは踵を返すと、もう一度水車の下を通り抜け、もと来たところに戻った。

 

今度は、右手の扉から円筒形の部屋に入った。見ると、あの巨大歯車がゆっくりと回転し始めている。

 

「この神殿の半分は蘇ったみたいだね」

 

リンクが言った。

 

「あと半分もおそらく同じ方法だろう。リンク、一階に下ってさっき行けなかった扉を探索したらどうだ?」

 

ミドナが言う。リンクも賛成だった。リンクは回転する巨大歯車の上を渡って向こう岸に行くと、扉を開けて廊下に出た。右に進路をとり、鉄格子の下がった出口を抜け、その先の分岐を左に行った。突き当りの扉に手をかけると、そこの足元の通路にも水が勢いよく流れている。

 

扉の向こう側の廊下を進み、突き当たりの扉を開けて中央の階段のある部屋に出た。リンクの足元から伸びる浅い水路を通って、中央の吹き抜け部分に勢いよく水が流れ落ちていっている。通路の端まで行き覗き込むと、吹き抜けの底にあるプールの水位が明らかに上がっているようだ。

 

リンクは左手に進路をとり、吹き抜けをぐるりと囲む通路をちょうど反対側、東側まで進んだ。そこで扉の正面の柵の隙間から、天井から下がっている巨大ハンドルに飛びついた。作動音とともに、中央階段が回転し、リンクの真下に上の終端が来たところで止まった。飛び降りて階段を駆け下りる。突き当りの扉を開け廊下を抜けた。

 

廊下の終端の扉を開けると、部屋中央の巨大歯車がゆっくりと左回転に回転している。歯車から下がった円盤もそれにつれて移動していた。リンクは前に進み出ると、足場の終端に立って、近くに来た円盤に飛び乗った。やや揺れたが思ったより安定している。

 

円盤に乗って運ばれていくと、すぐに北側にある扉に通じる張り出しが近づいてきた。タイミングを見計らって飛び移り、扉を開けて向こうに出ると、そこはやや薄暗い廊下だ。左手にも通路が伸びているが途中で行き止まっている。だが正面の十メートルほど先、突き当たったところに扉がある。歩み寄って開けてみたが、そこは短い廊下で突き当りが頑丈な門で塞がれていた。そこは諦め、今度は入ってきた扉の右手に伸びた通路を捜索することにした。

 

通路の突き当たりに頑丈そうな木製の大きな箱がある。箱に近づくと、天井からまた細長いゼリーの化け物が落下してきたので剣を抜いて片端から切り刻んだ。リンクは剣を納めると箱を開けた。金属の小さな鍵が入っている。

 

鍵を仕舞うと、この場所の捜索は打ち切りにして入ってきた扉から外に出た。足元の張り出しの終端に立ち、円盤がこちらに回ってくるのを待つ。タイミングを見て飛び移ると、しばらく待って今度は西側の扉に通じる張り出しに飛び移った。

 

扉を開けると、そこも薄暗い通路だ。十メートルほどいくと扉が壁にしつらえられている。鎖がかけられ鍵がかかっている。リンクが扉に向かって歩いていると、ふと気配を感じた。右側に伸びた通路の暗がりに兜をかぶったずんぐり南洋トカゲのお化けがいる。リンクを見るとたちまち突進してきた。横に転がって避けると、急停止して方向をこちらに向けてくる。リンクは剣を抜くと右手の壁際に身を寄せた。相手が再び突進してきたところをサイドホップしてかわす。化け物は壁に激突して派手な音を立てた。その隙を見逃さず、リンクはジャンプ斬りを放って化け物の腰を切り裂いた。悲鳴を上げつつも、化け物がこちらに方向を変えようとする。リンクは再び横にステップして相手の後ろに回り、突きを喰らわした。さすがの敵も断末魔の悲鳴を上げて倒れた。

 

剣を血払いして鞘に納めると、鍵を取り出して奥の扉の錠に差し込んだ。錠前が開き鎖が落ちる。扉を押し上げて向こう側に出ると、通路が下り坂になって、やがて全体が深い水たまりになっていた。

 

リンクは通路を下ると、面甲を被り水に入って泳ぎ始めた。だが、すぐ先に巨大クラゲが二、三匹浮遊している。リンクはミドナに合図して鉄のブーツに変えてもらった。

 

クラゲに近づかないように注意しながら、水の底を歩いていく、二十メートルほど進むと、天然の珊瑚のような粗い造りの柵で行き止まりになっているようだ。だが岩がその柵の真ん中に食い込んでいる。

 

リンクは水中爆弾を取り出し、導火線のキャップをひねって点火すると岩の下に転がした。次いでミドナに合図してブーツを戻すと、浮上して距離をとった。

 

鈍い爆発音とともに、岩がいくつかの断片に割れた。手をかけると動かせる大きさになったようだ。岩の破片を取り除くと、人が通れる隙間ができた。

 

前方を覗き込んでみると、細く真っ暗な水路だ。だがリンクは、自分のゾーラ服がわずかながら発光していることを思い出し、泳いで前進しはじめた。

 

水路の中はところどころ水草が生えている。リンクの服から発する明りでぼんやりと照らされた中、水草の間に巨大ホタテ貝が潜んでいるのが見えた。リンクは盾を下ろし素早く剣を抜くと、ミドナに合図して鉄のブーツを履いた。床にしっかりと足を着いて盾を構え接近する。二枚貝の化け物は上の貝殻を上げて威嚇すると、こちらに突進してきた。盾で受け止め、すかさず横切りを放ち、連続突きで止めを刺した。

 

盾を背負い剣を仕舞うと、ミドナに合図してブーツを戻した。再び前進を開始すると、水路は上にカーブし始めた。

 

見上げると上から明りが差し込んでいる。この先水路には敵はいないようだ。リンクは泳いで上昇すると、水面に顔を出した。直径五十メートルはあろうかという広く丸い部屋だ。リンクは水路の縁に手をかけてよじ登ると周囲を見回した。

 

床の上には数センチほどだが水が張っている。明りらしい明りがないのに、部屋の中の様子はよく見える。よく見ると壁や床そのものから薄っすらと光が発せられているようだ。ミドナが言っていた発光する生き物の力なのかも知れない。

 

静かで音一つしない。だがリンクは不快感を覚えた。嗅いだこともないようなひどい臭いがする。どこから漂っているのだろう?

 

周囲を見回しても部屋の中には生き物どころか草一本生えていない。なら一体どこから?その瞬間リンクは物音を聞いて振り返った。背後の床に、奇妙な生き物が二匹ほど落ちてきてのたうちまわっている。オタマジャクシのような形だが、人の頭に尻尾がついたといったほどの大きさの特大サイズだ。リンクはふと上を見上げ、そこにあったものを認識した瞬間体が凍り付いた気がした。

 

臭気のもとは天井だ。

 

天井に、家ほどもあろうかという凄まじく巨大な蛙が逆さになって張り付いていた。

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