黄昏の姫と緑の勇者   作:nocomimi

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呪われし祭司

リンクとミドナが階段を登ると、その先は直径二十メートルほどの円形の部屋だった。

 

正面には明らかに色の違う壁がある。仕掛け壁と思われた。右手には、大きな蟻地獄状の穴の開いた砂地を挟んで向こう側に石の床があり、その上に黒い石のような材質でできた巨大な箱が置いてある。左手には短い廊下の突き当たりに扉があった。

 

壁にかけられた燭台の火に照らされた部屋の床の上にはいくつか頭蓋骨が転がっている。そのうちの一つから蝙蝠の翼が生えて飛び始めた。しかも炎を上げている。リンクは剣を抜くとそいつを叩き落し、地面に落ちたところに追い打ちをかけて破壊した。

 

剣を納めると、リンクは仕掛け壁を開ける装置がないか捜索し始めた。床の中央に奇妙な丸い穴が開いており、その周囲の床材の崩れた場所の下には巨大な歯車がいくつも覗いている。

 

丸い穴を確かめると、直径一メートルほどで、内側に向けて鉄製の歯車の歯のようなものがついていた。仕掛け壁を開けるにはこの穴に嵌る何らかの装置が必要なのだろうとリンクは見当をつけた。

 

右手に見える巨大な箱も気になる。リンクは部屋の床の切れた場所に立って砂地の広さを目測した。奥行十メートルほどで、真ん中に蟻地獄状の穴があるうえ、その左右にほとんど人が渡れるようなスペースはない。だが狼ならば別かも知れない。

 

「ミドナ、狼に変身すればこの砂地の端を渡って向こう側に行けるかも知れない。やってみてもいいかい?」

 

リンクは尋ねた。

 

「無理はやめておけ。万一穴に落ち込んだとき無事にお前を救い出せるかわからない」

 

ミドナは即答した。リンクは肩をすくめ、左手の廊下に進むことにした。突き当りの扉を押し開けて向こう側に出ると、目の前は直径十メートル余りの深い竪穴状になっていた。石造りで、いまいる場所から下を見下ろすと竪穴の壁ところどころに四角い横穴がしつらえてある。竪穴の中心には螺旋状の切れ込みが入った円柱が立っていた。

 

竪穴の中を観察していると、下のほうから炎を上げながら蝙蝠の羽で飛行する頭蓋骨の化け物が浮上してきた。リンクが剣を抜いて叩き落すと、そいつは竪穴の底に落下していった。おそらくまだ生きているだろうが今はこれで十分だ。

 

あらためて竪穴を見てみると、下方左手の横穴には内部の壁に嵌め込み式灯篭が設置してあるのが見える。リンクはミドナに頼んでクローショットを出してもらうと、その横穴の壁にある灯篭を狙い撃った。灯篭に鉤爪がかかり、すぐ身体が引き寄せられ、リンクは下方の横穴に到達した。

 

だが横穴は奥行き数メートルで終わっており、頭蓋骨が二つほど転がっているだけだ。リンクはさらに竪穴の下を覗き込んだ。もう数メートル下方左手にある横穴の壁に同様の灯篭が嵌っている。リンクは再びクローショットで狙いをつけるとその灯篭を撃った。

 

身体が引き寄せられリンクはその横穴に移動した。奥を見るとすぐ右手に曲がっていたが、進んでみても数メートルで行き止まっている。

 

リンクは再び竪穴に顔を向けた。さらに数メートル下方の左手に、灯篭の嵌った横穴が見える。リンクはクローショットでその灯篭を狙い撃って移動した。

 

行先についた途端、その床に転がっていた頭蓋骨から羽が生えて浮遊し始めた。リンクは素早く剣を抜いて化け物を叩き落し、切っ先を突き立てて破壊した。

 

その横穴も奥行は浅い。竪穴を覗き込むともはや底が近い。リンクは横穴から竪穴の底に飛び降りた。

 

床の円柱に近づくと、今までに何度か見たような四角いハンドルが円柱についている。リンクはそれに手をかけて押してみた。するとガチャリと作動音がして円柱が回る。それに伴い、床そのものが沈み込み始めた。

 

床は二メートルほど下がると止まった。すると床に隠されて今までに見えなかった横穴が現れた。南側だ。覗き込んでみると横穴は数メートル先で扉に行き当たっている。だが扉は鎖がかけられて錠前で閉じられていた。

 

リンクは諦めて円柱に戻った。改めて円柱についたハンドルを押してみた。だが床はそれ以上沈まない。リンクは思い付くと、今度はハンドルの裏に回って逆に押してみた。

 

床が今度は二メートルほどせりあがった。上方にまだ探索していない横穴があったが、そこまでには届かない。もう一度ハンドルを押すと、もう一段階床が上昇した。床が未踏査の横穴のひとつに届く高さに到達した。だが、その横穴はすぐ行き止まりになっていて中には何もない。

 

もう一度ハンドルを押して床を上昇させた。今度は、中に木製の大きな箱の置かれた横穴と同じ高さになった。

 

リンクは横穴に近づいた。だが、入ろうとした瞬間床から金属製の杭が飛び出してきて行く手を阻んだ。リンクは慌てて飛び退いた。

 

よく見てみると、その横穴は奥で左に曲がっている。冷や汗を拭きながら周囲を見回すと、左手の壁にも横穴がある。その横穴に入るとやはり右手に曲がっている。両者は繋がっていたのだ。奥に進むとやはり木製の宝箱の裏に出た。箱を開けると、金属製の小さな鍵が入っていた。リンクは鍵を取ると、もと来た道を辿って横穴から出た。

 

竪穴の床の中央の円柱に戻ると、今度はハンドルをまた逆に押した。一段階、二段階、そして三段階と床を下降させ、鍵のかかった扉に至る廊下を露出させた。

 

現れた廊下に入り、突き当たりの扉についた錠前に鍵を差し込んでみた。ぴったりと嵌まり、捻ると錠前が外れ鎖が落ちた。扉をを開けると、向こう側は短い廊下を経由して、その先は天井が低いが奥行きのある部屋だ。

 

リンクは扉をくぐり前進した。廊下の先の部屋は、幅二十メートルあまり、奥行き五十メートルほどはありそうだ。規則的な配列で数メートルおきに四角い石の柱が配置されているほか、柱を結ぶ直線上の床に四角い穴がいくつも開いている。

 

歩を進めていくとミドナが言った。

 

「リンク、足元に気を付けろ。どう考えても床の穴は危険なやつだぞ」

 

「四角い杭が飛び出してくるやつかな?」

 

リンクも言った。

 

「そうだ。罪人が逃げるのを防ぐ仕組みが解除されないまま放置されてるんだろうな」

 

リンクはより慎重に前進した。部屋の中央の前方の最初にある床の四角い穴にそろそろと近づく。だが何も起きない。おっかなびっくりでそこを越え、今度はその次の列の四角い穴に近づく。すると鉄製の杭が飛び出してきた。左に方向を転じてみた。そこは砂地だったが、慎重を期してゆっくりと前進した。だがたちまち杭が砂の中から飛び出してくる。

 

リンクは砂地を後退して元の場所に戻った。今度は右手に転じる。柱を結んで直線上、縦の配列にも四角い穴がある。そこにゆっくり近づいたが、杭は出てこない。だが、そこを過ぎて部屋の奥に向かうと、今度はその先の横配列の穴から出てきた杭に進路を阻まれた。

 

そのとき、リンクは身体中に異様な重さを感じた。足の運びが途端に重くなる。

 

「おいリンク、変な連中が来てるぞ!狼に変われ!」

 

ミドナが叫んだ。リンクの装備と衣服がたちまち取り去られ、身体が狼に変わった。獣の感覚で違和感の正体がわかった。鼠どもの幽霊が身体中に取り憑いている。リンクは身体を一回転させて鼠幽霊どもを振り払うと、辺りに見える残党を片端から噛み砕いた。

 

ようやく身体が自由になった。だが、部屋のそこここから鼠どもの鳴き声が聞こえる。リンクは次に取り憑かれたときに備え狼のままでいることにした。

 

リンクは今まで通った場所を頭の中で整理し、金属の杭が出てこない場所を探し始めた。一旦部屋の入り口まで下がると、今度は左手にある砂地に進む。その先の石の床板から、最初の柱の横にある四角い穴の列にそろそろと近づく。どうやら大丈夫のようだ。そのまま砂地を前進していくと、その次の柱の横にも杭の罠はないことがわかった。

 

だがその先に進み砂地から石の床に乗ると、次の柱の列の横から杭が飛び出してきた。リンクはその横列の手前で右に進路をとり慎重に進んだ。その柱から手前の柱を縦に結ぶ四角い穴の列には罠はない。その先の小さな砂地を渡り、次の縦列の穴も安全だと分かると、リンクは部屋の右端まで進んだ。

 

そこから奥にそろそろと向かう。砂地を渡りながら柱の横にまで到達したが、罠は仕掛けられていない。どうやら危険地帯は抜けたようだ。リンクは前進し、さらに二つの柱の列を通り過ぎた。前を見ると、出口は頑丈そうな石の板で塞がれているが、その右側から鎖が伸びて鉄製のハンドルに繋がっている。ハンドルのある場所まで到達するとリンクは一息ついた。その場所と出口の間は、最後の柱二本それぞれから扉の横まで伸びる鉄の柵に阻まれている。鎖を引っ張って石の板を動かしても、直接はアクセスできないようだ。

 

「リンク、こういうのは前に見たよな?」

 

ミドナが言う。リンクは頷いた。だがリンクはハンドルを咥えて引っ張ろうとした瞬間嫌な予感がした。

 

「どうしたリンク?」

 

ミドナが尋ねた。リンクはハンドルを放すと出口の周辺に顔を向けて軽く吠えた。

 

「前もって進路を確認したいのか?」

 

ミドナに聞かれリンクは頷いた。柵を過ぎて出口のほうに慎重に歩み寄ると、最後の柱から縦の直線上に配置された床の角穴から杭が飛び出てきた。ここは通れない。リンクはその次の柱まで来ると右に進路をとった。その柱の裏側は無事に通れる。さらにその横の柱の裏の砂地も安全だった。

 

部屋の左端まで来ると、鼠の幽霊どもが何匹か寄ってきた。身体を一回転させ弾き飛ばすと、今度は部屋の奥に向かった。柱の横の角穴を慎重に通り過ぎる。安全だ。だが前方を見ると、部屋の奥にギブドが横たわっているのが見えた。リンクの気配に気づいたのか、ゆっくりと立ち上がろうとしている。

 

リンクは踵を返し、来た経路を遡った。二本の柱の裏を通ってハンドルスイッチのあった場所に戻る。ギブドは歩く速度が遅い。奴が叫び声さえ上げなければ通り抜けて部屋から出られるはずだ。

 

リンクは経路をもう一度頭の中でおさらいすると、ハンドルスイッチを口に咥えて引いた。十回ほども引くとギリギリ一杯だ。リンクはハンドルを放すと全力でダッシュした。二つ目の柱を通り過ぎ右に曲がると、さらにもう一本の柱の横を回り込む。ギブドがゆっくりとこちらに歩いてくるのが見えた。さらに部屋の隅から鼠の幽霊が走り寄ってくる。リンクは敵にかまわず扉目指して走った。砂地の上に浮いていた床板を蹴ると、転がり込むように出口へ殺到した。石の扉は半分がた閉じかかっていたが、その横をどうにかすり抜けて部屋から脱出した。

 

ようやく安堵の息をつく。目の前は通路がすぐ左に折れていた。通路は砂地だらけだったが中央に石の床板が浮いている。左右の壁には鉄のレールがついており、尖った棘の突き出た円形の独楽のような装置が回転しながら行き来している。

 

リンクは通路に入り石の床板に乗った。途中で切れて砂地になっているところを越えてさらに前進していくと、前から木の葉くらいの大きさの黒い虫が群れをなしてやってくる。やがて数匹がリンクの足元から身体に這い登ってきた。身体を一回転させて虫たちを振り飛ばしたが、それでも次から次へとやってくる。何度か回転攻撃を繰り返しやっと追い散らすと、床が切れて再び砂地になっているところを進んだ。やがて廊下が左手に折れ突き当りに扉があるのが見えてきた。リンクは時折虫を追い散らしながら扉に至る石の床の上に辿り着いた。

 

前進し、ミドナに扉を開けてもらって向こう側に出る。短い廊下の先には直径十メートルほどの円形の部屋があった。部屋の中心に立った柱を軸に、鋭い棘のついた鉄の棒が回転している。棒は部屋一杯の長さで、素早く通り抜けなければ捕まってしまうと見えた。

 

「さっきから逃亡防止のトラップだらけだ。この周辺は罪人を捕えておく場所だったんだろうな」

 

ミドナが呟いた。リンクは廊下の端まで前進すると、円形の部屋の様子をよく観察した。リンクのいる箇所含め四方に窪みがある。そのうちの左手前方のものは先に進める通路に繋がっているようだ。鉄棒の回転速度は速いが、走っていけば間に合う。そう目算したリンクは、鉄棒の回転周期を見極めると前に飛び出し、急いで左側の窪みに飛び込んだ。

 

だが窪みに入ってみると、通路は頑丈そうな柵によって塞がれているとわかった。リンクは回転する鉄棒の合間を縫って再び円形の部屋に飛び込み、今度は入ってきた廊下の正面にある窪みに駆けこんだ。

 

そこは塞がれておらず、すぐに三十メートル四方ほどの広間に繋がっていた。広間の床は二メートルほど低く、その周囲は壁に囲まれている。リンクが降りてみると、そこらじゅうに骸骨が散らばっている。広間の中ほどまで入っていくと、左の奥、すなわち西側に窪んだスペースがあり、そこにも骸骨があった。しかもその横には黒い鉄でできた尖った杭が無造作に壁に立てかけられている。拷問具として使われていたのだろうか。リンクは広間そのものが発するおぞましい雰囲気に思わず身震いした。

 

その瞬間、骨が転がるカラカラという音がした。音のするほうを見ると、散らばっていた骨がひとりでに集まり始め、やがて二体の骸骨になった。骸骨どもは立ち上がると、それぞれ円盾と剣を構えてリンクに向かってきた。

 

リンクはミドナに顔を向けた。たちまちリンクの身体が人間に戻り、服と装備がつけられた。リンクは盾を構え剣を抜いた。二体の骸骨戦士たちが足早に迫ってくる。片方が剣を突き出してくるのを盾アタックで弾き返し、跳躍して頭に刃を叩きつけた。

 

一匹の骸骨戦士が崩れ落ちる。だがもう一匹は素早く振り返り突きを放ってきた。リンクは身体を反らしてギリギリで躱すと、左右袈裟斬り、横斬り、さらに突きを放ち敵を粉砕した。

 

剣を納めると部屋の中を見回す。とにかく骸骨があちこちにあるから、どこから敵が現れるかわからない。リンクはミドナに頼んで爆弾袋を出してもらうと、爆弾を骸骨戦士たちの残骸の上に置いて点火し、後ろに下がった。数秒後に起きた爆発で骨の残骸が粉々になった。

 

だが、ここから先に進む経路がまだ見つからない。広間の壁の東側は越えられそうだが、その先はずっと砂地になっていて渡り切るのは難しそうだ。

 

「リンク、さっきの柵を開ける仕掛けがどこかにあるかも知れないぞ。探してみろ」

 

ミドナが言った。

 

「わかった」

 

そう答えつつもリンクは呟かずにいられなかった。

 

「それにしても酷い場所だね。ここは何に使われてたんだろう?」

 

「さあな。取り調べか拷問か。あるいは見物に値しないような小物の罪人をここで処刑したのかもな」

 

ミドナが事も無げに言う。リンクは広間の中を歩き回り骸骨をどけながら手がかりを探した。だが何も見つからない。広間の西側にある窪んだスペースに足を向けた。砂地を渡り、骸骨と鉄杭が無造作に置かれたその場所に辿り着くと、あたりをくまなく調べた。だが調べていると、カラカラと骨が鳴る音がした。再び骨の山から骸骨戦士が一体立ち上がった。リンクは素早く爆弾袋から爆弾を取り出し点火して床に置くと、姿勢を低くして盾をしっかり構えた。骸骨戦士が突きを繰り出してくるのを受け止めると、盾アタックを叩きつけ時間稼ぎした。

 

やがて爆弾が爆発し骸骨戦士が粉々になった。リンクは爆風を受けてよろめいたが、盾をかざしていたお陰でどうにか無事だ。安堵の溜め息をついて盾を背負い、剣を納める。すると、円形の部屋のほうから何か重い物が動く作動音がした。

 

リンクは広間を横切ると段差を乗り越え円形の部屋のほうに戻った。さっきまで西側の通路を塞いでいた柵が開いている。爆発で誤作動が起こったのかも知れない。リンクは鉄の棘棒の回転周期の合間を縫って円形の部屋を横切り、西側の通路に駆けこんだ。

 

そこからは通路が右に折れ、北に向けて伸びている。だが床は砂地だらけでところどころに床板が残っているだけだ。しかも床板は砂に浮いているだけでいかにも頼りなげだ。だが、左手の奥の壁の中途に嵌め込み式の灯篭が設置されているのが見えた。

 

リンクはミドナにクローショットを出してもらうと、灯篭を狙って撃った。鉤爪が灯篭に引っ掛かり、リンクの身体が引き寄せられた。鉤爪を開いて飛び降りると、足元は小さな床板が残っている。だがリンクの体重が乗ると床板が沈み始めた。さらに黒い虫たちの群れがリンクに向かって押し寄せてくる。リンクは剣を抜いて回転斬りを放ち、虫たちを追い散らすと急いで前転し向こう岸の床の上に移った。

 

前方は、先ほど探索した広間の窪んだスペースを挟んで向こう側に通路が続いている。リンクは助走をつけて跳躍すると、向こう岸の縁にしがみついた。這い上がって前進すると、右手に短い階段がある。階段を登ると、小さな広場の北側の突き当りに扉があった。

 

扉を押し上げて向こう側に出た。ほとんど明りのない、円形の広い部屋だ。

 

だが、背後でガシャンという音がしてリンクは振り返った。扉に格子が降りたのだ。

 

「おいリンク、ここは相当ヤバいぞ」

 

ミドナが囁いた。

 

「いよいよ幽霊の親玉かな?」

 

リンクも応じた。もはや引き返す道は断たれた。リンクは部屋の中を見回した。直径百メートルほどはありそうだ。ちょうど入り口から見て反対側にも通路があるようだが、今は柵で塞がれている。

 

よくよく見ると、部屋の中心には黒く輝く金属製の刀が突き立てられている。近づいてみると、剣の長さは人間の身長を遥かに超える。一体誰が使うのだろう?リンクは怪訝に思った。

 

しかも剣の柄からロープが四方八方に伸びて床に繋がれている。ロープには各所に札が貼られていた。

 

「一体全体何なんだろうこれは?」

 

リンクはロープに手を伸ばした。

 

「何かの封印だろうな」

 

ミドナもロープと札をためつすがめつ眺めた。

 

「間違いない。ザントの仕事だ」

 

「何が封印されているんだろう?」

 

「わからん。だがいずれにせよ大物だろう」

 

ミドナが言う。リンクは何気なく札の一枚を剥がしてみた。

 

「おい、不用意に触れるな!」

 

ミドナが注意した。その途端、不気味な声がどこからか聞こえてきた。多数の人間が呻き苦しむような音だ。その音は次第に大きくなってきた。

 

「まずかったかな?」

 

リンクは札を捨てると、剣に手をかけた。

 

「まあいい、いずれにしろそうするしかないからな」

 

ミドナは呟いた。

 

「何だって?」

 

リンクは聞き返した。

 

「ここを出るには封印を解除して魔物を倒すしかないってことだ」

 

ミドナが答える。リンクは剣を抜いて辺りを見回した。だが今のところ敵の姿は見えない。ますます声は大きくなる。

 

「リンク、このロープを切れ」

 

ミドナが言った。

 

「出たがっている奴を出してやるのかい?」

 

リンクが尋ねた。

 

「そうだ。それで私たちが成仏させてやろう」

 

「ミドナ、君は平気なのかい?」

 

「虫よりは幽霊のほうがよほどましさ」

 

リンクは剣を振り上げると手近のロープに斬りつけた。ロープが一本切れると、床に刺さった巨大な刀が揺れ動き、その刀身の文様が妖しい光を発した。かと思うと刀と繋がっていた他のロープが一瞬にして焼き切れ、刀がゆっくりと中空に浮き始めた。

 

「来るぞ。ザントの幽霊実験の集大成みたいな奴だ」

 

ミドナが言った。

 

刀はひとりでに振り上げられると、リンクの前の地面に刃を叩きつけるようにして落ちてきた。リンクは飛びのくと剣を前に向けた。だが誰が刀を操作しているのかが見えない。

 

「ミドナ、狼だ!」

 

リンクは叫んだ。たちまち衣服と装備が取り去られリンクの身体が狼に変わった。目の前に目を凝らすと、白い光の塊が見える。今までに見た幽霊よりはるかに背が高い。いや、その体高は三メートル以上もあり、形も人間とはいえない異形のものだった。

 

幽霊が再び刀を振り上げる。リンクは攻撃を引き付けるようにタイミングを待つと、いきなり横っ飛びした。

 

さっきまでいた床に刀が激突し火花を散らす。リンクは幽霊に向かって飛び掛かり、前足でしがみつきながら激しく牙を立てた。数回連続で顎の一撃を喰らわせると、幽霊が身体を激しく捩ってリンクを振り払った。着地しながら見上げると、幽霊の姿が感覚を研ぎ澄まさずとも次第に見えるようになってきた。完全に実体化したのだ。

 

敵は恐ろしく背が高く、祭司のような黒い寛衣をまとっていた。その両手は尖った長い爪を持つ骨で、その頭は巨大な水牛の骸骨だ。そいつは恐ろしい金切り声を上げながら立ち上がり、リンクをねめつけた。

 

「リンク!人間に戻すぞ!」

 

ミドナが言った。リンクの身体が人間に戻され、衣服と装備がたちまち身体に装着される。右手には剣が握られていた。

 

「ベリアントだ」

 

ミドナが呟いた。

 

「ベリアント?」

 

リンクが聞き返す。

 

「死霊を媒体動物に集めて実体化させた奴だ。だが今なら退魔の剣が通じるぞ」

 

リンクは頷いた。盾と剣を構えて敵との間合いをジリジリ詰める。だが、幽霊祭司はふわりと浮上するとリンクから距離をとるように後退し、左右にゆっくりと飛行し始めた。

 

すると、幽霊が刀を振り上げて振り下ろした。刀から黒い煙のような球形が飛び出しリンクのほうに真っすぐ飛んできた。

 

魔法弾だ。リンクは咄嗟に盾を突き出した。球が弾かれて明後日の方向に飛んでいく。幽霊は再び左右に浮遊し始める。

 

リンクは剣を納め盾を背負うと、弓を手にとった。矢をつがえて幽霊祭司を狙う。放った瞬間敵がゆらりと横に動き一の矢は外れた。リンクは二の矢をつぐと気を落ち着けて再び狙った。幽霊が空中で停止し、刀を振り上げる。チャンスだ。

 

矢を放つと、敵の胸に当たった。すると、幽霊は急に速度を上げて飛び始め、攪乱するようにリンクの周囲を回り始めた。

 

来る。リンクは確信した。弓を背負い剣を抜く。速度は速いが、風を切る飛行音は聞こえる。いつ斬りかかられるかわからない。だが斬りかかってきた時が最大のチャンスだ。リンクは呼吸を落ち着けて耳に感覚を集中した。

 

飛行音が急速に近づいたかと思うと止まった。その瞬間から、刀が唸りを上げて風を切る音が聞こえるまでの刹那にリンクはバネに弾かれたように前転した。背後の床に刀が激突する。リンクは振り返りざま跳躍し、敵にジャンプ斬りを叩きつけた。

 

幽霊祭司は金切り声を上げて膝から崩れた。効いている。リンクは着地しざま回転斬りを放ち、さらに左右袈裟斬り、横斬り、そして深い突きを放った。手応えがある。

 

だが幽霊は唸り声を上げると立ち上がり、再び空中に浮遊した。高く浮上するとリンクの手の届かない場所にまで後退した。

 

リンクはすぐに剣を納めて弓を手にした。矢をつがえて浮遊する敵を狙った。左右に不規則に移動するところを辛抱強く追尾する。まだだ。敵がこちらに魔法弾を撃とうとする瞬間だ。

 

幽霊が止まった。刀を振り上げる。その瞬間リンクは矢を放った。矢は過たず敵に命中した。呻きをあげたベリアントは速度を上げるとリンクの周囲を回り始める。

 

だが、もうリンクは恐れていなかった。弓を背負い剣を抜くと、自分の周囲を回る敵の飛行音に意識を凝らす。まだだ。まだだ。リンクは敵が来る瞬間を待った。

 

飛行音が止まった時、リンクには敵の気配が頭上に迫っているのがわかった。横飛びするリンクの身体のすぐ横を刀がかすめた。だがリンクは前転すると、跳躍して剣を払った。斬撃がベリアントの背中を直撃する。

 

ベリアントはよろめいた。リンクはここを先途と縦斬りと横斬りを放つと、さらに四連続で突きを喰らわせた。

 

幽霊は怒りの呻きを上げながら再び浮上する。リンクは剣を納めた。弓を持ち矢をつがえる。高く浮遊して距離をとったベリアントは空中で左右に動き始めた。弓を引き絞り狙いをつける。次でとどめを刺す。リンクは敵が魔法弾攻撃を始めるタイミングをひたすら待った。

 

右。左。左。右。ベリアントが不規則に横移動する。リンクは惑わされず追尾し続ける。ベリアントがとうとう空中停止し刀を振り上げた。矢を放つと、それが敵の胸を貫いた。ベリアントは唸り声を上げるとたちまち速度を上げて飛び始めた。

 

リンクは弓を背負い、両手をだらんと下げた。敵が攻撃してくる瞬間。それを待つのだ。高速の飛行音が周囲を回る。だがリンクはその時が来るまで抜かないことを決めていた。

 

飛行音が近づいてくる。だがまだ止まらない。前、左、後ろ、右。

 

リンクはまだ抜かなかった。極度に集中したリンクには見えずとも敵との間合いがわかった。

 

まだだ。まだだ。

 

その瞬間、リンクの頭の中で何かが鳴った。剣を抜き裂帛の気合とともに居合い斬りを放つ。刀を叩きつけようとリンクに迫ったベリアントの胴を聖剣の刃が袈裟斬りに払う。

 

完璧なカウンター攻撃だ。ベリアントがよろめく。だが敵が倒れる前にリンクはジャンプ斬りを放ち、着地するが早いが回転斬りを繰り出した。ガックリと床に膝をついた敵に、さらに縦斬りを三連続、次いで再びジャンプ斬りを叩きつける。

 

着地したリンクは、敵がもはや浮上する力を残していないことに気づいた。ベリアントは刀を放り出すと、身体を弓なりに反らせて苦し気に悶え始めた。金切り声を上げている。だが、それは威嚇の声ではなく苦悶の声だ。

 

ベリアントがひとしきり身を捩らせると、その身体が途端に崩壊し始めた。傍らに落ちた刀も爆発するように破裂すると消滅した。ベリアントの身体の残骸がスカラベのような虫となって、無数の群れを成して飛び去っていく。

 

「リンク、よくやった」

 

ミドナが傍らに浮遊してきた。

 

「なんとかね」

 

リンクは剣を納めると微笑んだ。キングブルブリンとの苦しい戦いを経て学んだことが生きたという手ごたえがあった。

 

「リンク、わかっただろう。退魔の剣はこういう奴のためにあるのさ」

 

ミドナが言った。

 

「幽霊ってことかい?」

 

リンクは尋ねた。

 

「まあ幽霊というより魔力によって身体を保っている奴さ。そういう奴は聖剣のダメージを受けると集合を保てなくなってバラバラになる」

 

ミドナが説明した。

 

「だけどあいつ何者だったんだろうね」

 

リンクはベリアントが倒れた場所に目をやった。もはや残骸も残っていない。

 

「祭司か、それとも処刑人か」

 

ミドナはそう言ってから続けた。

 

「いや、一人が両方を兼任してたのかもな」

 

「なんだいそれは?」

 

リンクはまたギョッとして尋ねた。

 

「あの刀は見るからに斬首用だろ?戦闘用にしちゃ重すぎる」

 

ミドナは顎に手をあてた。

 

「数知れない罪人の血を吸った刀..」

 

リンクは呟いた。

 

「そしてあの祭服は高位の祭司に特有のものさ。滑稽なくらいの長さだったろう。それが権威を示すと思われていた時代があったんだな」

 

ミドナはそう言ってリンクの方を見た。

 

「リンク、この建物のおおよその中身はもうわかったろう。王侯貴族を招いて処刑ショーを開催する。容疑者を取り調べ拷問する。そして祭司の役割は....」

 

ミドナは目を細めた。

 

「罪人に対して神の呪いを宣言する。そんなところだろう」

 

「神の呪い?」

 

リンクは尋ねた。

 

「実際にはそんなものが本当にあるかどうかなんてどうでもいいことだがな。要は罪状に異議を申し立てられないようにするための口実だ。何しろ神が呪うならその罪人には赦免はありえないからな」

 

ミドナは空中を浮遊すると部屋の中を指し示した。

 

「この部屋はおそらく裁判所のような役割を果たしたんだろう。すべてがショーだったのさ。被疑者を裁判にかけ、罪状を言い渡し、最後に首を刎ねる」

 

「そこに正義はあったはずじゃないのか?」

 

言いかけてリンクは言い直した。

 

「いや、そういうことは正義をもって行われるべきだ。そう思うだろ、ミドナ?」

 

「正義?」

 

ミドナは少し片方の眉を上げてリンクを見た。

 

「ああ、そうか。お前がそう思うのも当然だ」

 

ミドナはまた前を向いた。

 

「そういう例も少しはあったかもな。だがこれほどの死霊が漂ってるんだ。まるで吹き溜まりだ。相当の恨みや思い残しがなければこんなことにはならないさ」

 

彼女は手で周囲を指し示すとリンクの顔を見た。

 

「そもそもだ。民に知られたくない後ろ暗い理由がなければこんな遠隔地の砂漠に施設を作るわけがない。わざわざ金をかけて罪人をここまで運んでくる理由もない。そうだろ?」

 

リンクは沈黙した。ミドナの言う通りだ。この処刑場があった時代のハイラル王家はどれほど腐敗していたのだろう。それを思うと暗澹たる気持ちになってきた。

 

「いや、リンク。こんなことはお前が考えるべき話じゃあないな。第一お前はハイラル王家には何の関係もない人間だ」

 

ミドナは首を振った。

 

「リンク、お前はこの冒険が終わったら農業と牧畜に専念しろ。政治に首を突っ込んだってロクなことにならんからな」

 

「ミドナ、僕はもう知ってしまったんだ。知らない振りなんてもうできないよ」

 

リンクは顔を上げた。

 

「だがだからといってどうする?」

 

ミドナは尋ねた。

 

「わからない。だけど過去にあったことから学ぶことはできる。同じことが起きないようにね」

 

リンクは答えた。

 

「リンク、ならお前はいよいよ学校に行くべきだな」

 

ミドナは微笑んだ。

 

「学校?」

 

リンクは聞き返した。

 

「そうだ。過去を学んで未来に生かす。それが学問だ」

 

ミドナの答えを聞いてリンクは戸惑った。

 

「それはそうかも知れないけど....」

 

「ま、ゆっくり考えておけ。お前の人生先はまだまだ長いからな」

 

ミドナはそれだけ言うと、部屋の内部を捜索し始めた。入ってきた入口から見てちょうど向こう側に、奥に行く通路がある。どうやらベリアントを倒した後柵が開いたようだ。ミドナはそこに入っていくと、すぐにリンクを呼んだ。

 

「どうしたんだい?」

 

リンクは駆け寄って通路に入っていった。下りの階段があり、そこからまたすぐに登りの階段となって、登り切った突き当たりに木製の大きな箱が置いてある。

 

「開けてみろ」

 

ミドナが言う。

 

「ルピーかな?」

 

リンクは箱の前まで行くと蓋に手をかけた。

 

「いずれにせよ廃棄された施設なんだ。何であろうと貰っても問題は...」

 

ミドナが途中まで言うと息を呑んだ。

 

蓋を開けると、中身は直径一メートルほどの円形の機械装置だった。金属製で、大きな独楽に歯車をつけたような形だ。上面には足を乗せるための板が二枚つけられている。

 

「スピナーだ」

 

ミドナが言った。

 

「スピナー?」

 

リンクは尋ねた。

 

「そうだ。ステップ部分と独楽部分が独立して設計されている。足踏みにより独楽部分の回転に加速を与えるんだ」

 

ミドナは珍しそうに箱の中を覗き込んだ。

 

「何に使うんだい?」

 

リンクは聞いた。

 

「私は理論上の話しか聞いたことないから詳しくは知らん。だがレール上の高速移動が主用途だと聞いた」

 

リンクは手を伸ばしてスピナーを持ち上げてみた。ずっしりと重い。箱から取り出すと地面に置き、ステップ部分に足を乗せて踏んでみた。するとガシャンと音がして独楽が回転し始める。リンクが乗るとスピナーは自立したままゆっくりと走り始めた。リンクが飛び降りるとスピナーは自動で止まって床に転がった。

 

「リンク、この建物の中に壁にレールが組み込まれた箇所がいくつもあったろう?」

 

ミドナが聞いてきた。

 

「そうだったかい?よく覚えてるね」

 

リンクが言うとミドナは溜め息をついた。

 

「やれやれ、やっぱり見てなかったか」

 

彼女はいまリンクたちがいる床から少し端に寄った部屋の壁を指さした。

 

「ほら、そこにあるだろ」

 

確かに金属製のレールのようなものが壁に嵌っている。リンクは同じものをだいぶ前に見た気がしたが、詳細は思い出せなかった。

 

リンクはスピナーを抱えてレールが嵌った個所に歩いていった。機械を床に置き、上に乗ると足でステップを踏んで起動させる。体重移動してレールのほうにスピナーを傾けて近づく。

 

するとたちまちスピナーの歯車と壁のレールが合致し、リンクは高速で壁を移動し始めた。

 

「ほら、やっぱり言った通りだろ!」

 

ミドナが傍らを浮遊しながら嬉しそうに言う。リンクは木箱のあった部屋の壁伝いに、今通ってきた入口の上を通り抜けて、たった今ベリアントと戦った部屋に入っていった。その壁にもレールがぐるりと設置されており、リンクはあっという間にその部屋の入り口の扉の上まで到達した。

 

リンクがスピナーから飛び降りるとそれは自動的に停止し床に転がった。極めて便利ではあるがやや重い。リンクがミドナのほうを見ると、彼女は心を読んだように言った。

 

「私にそれを運んでほしいのか?」

 

「お願いします、ミドナ様」

 

リンクはふざけてうやうやしく答えた。ミドナは笑うと、右手の指をパチンと鳴らした。スピナーはたちまち魔法空間に収納された。

 

リンクは扉を押し上げて向こう側に出た。扉の前の広場の左手の壁にもレールが嵌っている。リンクはミドナに頼んでスピナーを出してもらうと、起動させて乗り、そのレールに近づいた。たちまちスピナーがレールに嵌り、高速で動き始める。レールは壁沿いに急に左にカーブした。

 

三匹の骸骨戦士と戦った広間が右下方に見える。リンクはそのまま進み、広間の東側の砂地の続く空間に出た。だが百メートルも行かないうちに前方に段差が見え、壁沿いのレールも切れていることがわかった。だが向かい側の壁を見るとそこにもレールがあり、そのレールは上昇して段差の上にある扉の手前まで続いていた。

 

リンクは足元のステップを踏んでみた。するとたちまちスピナーがレールから飛び出し、壁の向かい側に飛んで行くと、そちらのレールにぴったりと嵌って移動し始めた。思ったとおりだ。リンクはレール沿いに段差の上に到達するとスピナーから飛び降りた。

 

ミドナにスピナーを仕舞ってもらい、突き当たりに進んで扉を開ける。するとその先は目の前から石造りの低い堤が二本、途切れながらも奥まで伸びていて、その先がかなり広大な空間に繋がっているらしく、二百メートルほど奥の突き当たりの壁に巨大な偶像が掘られ、その手前にも曲がりながら左に上昇していくレールが見えた。左手の上方の高い壁の上にもなにやら機械装置が動いているのが見える。

 

再び目の前の堤に目を転じると、左側の堤には内側にレールが付いている。左右の堤は途切れ途切れで続いていたが、百メートルほど行ったところで堤の間に円形の台があり、その周りについたレールの上を棘のついた独楽のような装置が高速移動しているのが見えた。

 

だが、前進して最初に堤の切れた場所まで行くと、その先は砂地だらけだ。リンクは前方をよく観察した。どうやら、十メートルほど先の、堤が再開している場所の左手壁際には床が残っている。

 

そこに至るまでの砂地は狼の体なら渡れるかも知れない。リンクはミドナのほうを見た。だが彼女は言った。

 

「また変身か?」

 

「うん。お願いできるかい?」

 

「やれやれ」

 

ミドナは溜め息をついた。

 

「魔法による自動着せ替えも結構な労力を使うんだぞ。緊急を要するんならやってもかまわんが」

 

するとリンクの足元にスピナーが現れた。

 

「それよりリンク、せっかくスピナーを手に入れたんだ。平坦な砂地はスピナーを使ってみたらどうだ?」

 

「スピナーで?」

 

リンクは聞いた。

 

「高速回転の揚力で砂の上でもある程度は移動できるはずだ」

 

理屈はわからなかったが、リンクは言われた通りやってみることにした。スピナーを起動し、加速しながら前に体重移動する。

 

リンクは石の床から砂地に飛び出した。だがレールがなくとも砂地の上を移動していく。次第に速度が落ちていくが、歩くよりよほど早い。リンクはスピナーが失速し切ってしまう前に砂地を渡ることができた。堤の左側の壁際の床まで到達すると、スピナーを飛び降りた。

 

石の床の上には金属の箱があった。開けてみると爆弾が十個ほど入っていた。リンクはミドナに爆弾袋を出してもらうと爆弾を補充した。

 

奥のほうは再び砂地になっていて、やはり十メートルほど先で石の床が再開している。リンクは再びスピナーを起動すると、足踏みして加速させながら進んだ。砂地を渡り切ってスピナーを降りると、また金属の箱がある。開けてみると今度は赤ルピーだ。ルピーを財布に仕舞うと、さらなる進路を探して周囲を見回した。

 

ちょうど右手にある堤の裏側では、円形の台についたレールの上を棘付きの独楽のような装置が高速移動している。さらにその先では堤が途切れ、今度はややその右からレール付きの堤が始まっている。それがしばらく奥に向かって伸びたあと、急に左手上方にカーブしている。

 

リンクは周囲がよく見えるよう堤の上に登ってみた。右手奥には柵で区切られた空間があり、その壁からもレールが手前側に伸び、部屋の中央に向かって曲がったあと途切れている。

 

また、その区切られた空間のやや左手上方にも、左から伸びてきて途中で途切れたレールがあった。

 

だが、リンクにはそれらの立体構造がどう繋がっているのか見当がつかない。さしあたり、左上方に伸びているレールに乗ることにした。

 

リンクは堤から降りると、スピナーを堤に乗せた。再び堤に登り、スピナーを起動させて堤から砂地に飛び降りレールのほうに進んだ。

 

レールにスピナーが嵌まると、リンクはたちまち高速移動し始めた。レールは奥に進むと急に左上にカーブする。

 

そこからさらに手前側にカーブすると、レールはUターンを描くようにして伸びていた。リンクが部屋に入ってきたとき左手上に見えていた高台のほうに行くのだ。そこにはやや高低差のある斜面のついた細長い楕円形の区画があった。

 

だが、レールは広間の上方で切れており、その先では床に立てられた円柱を軸にして棘のついた鉄製の長い棒が回転していた。リンクはレールの切れ目から飛び出すと、落下しつつ咄嗟に体重移動して外側に軌道をずらした。すぐ背後に棘棒が迫る。首をすくめながら着地すると、楕円形の区画の奥へと進んでいった。

 

そこから先は登り斜面だった。リンクはスピナーから降りると、それを抱えて斜面を登った。斜面の終端は平らな広場になっており、大きな木の箱が置かれ、周囲に骸骨が散らばっているのが見えた。骸骨を見たリンクは嫌な予感がした。

 

案の定、骨が転がる音がして骸骨が集合し始めた。リンクはすぐにスピナーを起動するとステップを踏み回転させた。骸骨戦士が立ち上がり近づいてくる。リンクは咄嗟に敵のほうに体重移動しスピナーをぶち当てた。回転する歯車の歯が当たった骸骨戦士はよろめいた。リンクはもう一度スピナーを回転させると、今度は向かって左側の壁に近づいた。スピナーがレールに嵌ると、たちまち高速で移動し始める。先ほどの骸骨戦士に加えてもう一匹の骸骨戦士も立ち上がってきたが、既にリンクは広場の壁を回り込み、あっという間に北側の壁を進み始めた。

 

目の前にまた回転棘棒が迫ってくる。棘には人骨がいくつも絡まっているのが見えた。リンクはその回転軌道を注視しながらもスピナーを進ませた。進行方向と回転方向が同じだ。リンクはどうにか棘棒の間を縫ってそこを通り抜けた。

 

やがて前方を見るとレールが浅く右側に折れ、そこからまた左に折れてから切れているのが見えた。狭い間隔でその向かい側にもレールがある。さらに前方に目をやると、そのレールも切れているが、少し進んだところの向かい側、すなわち左側にレールが再開している。そのレールが右にカーブして中空で切れているようだ。

 

リンクはレールが右に折れたところでステップを踏み、向かい側のレールに飛び移った。さらに間髪を入れずもう一度ステップを踏んでその向かい側のレールに移る。

 

レールが急激に右上に曲がり少し進むと切れた。リンクは落下していき、先ほど見た柵に囲まれた区画に降り立った。砂地だらけだが、その中心には直径二メートルほどの丸い岩の足場がある。

 

スピナーから降りると、リンクはそれを抱えて丸い岩の足場によじ登った。周囲を見回すと、区画のぐるりをレールが囲んでいるが、右回りに進むとやがてレールが西方向に上昇し、そこからまた右に曲がってしばらく進んだところで切れているようだ。

 

リンクは再びスピナーを起動した。左から右へレールを進むようにスピナーを壁に近づける。スピナーは砂地を横切って壁のレールに嵌り、たちまち高速移動を始めた。

 

リンクはぐるりと壁を回ると、レール沿いに上昇した。そのまま高く昇ると、今度は右にカーブする。レールは先ほど通った楕円形の区画の上を通り過ぎていく。そしてレールが切れたところで、リンクはそのさらに北側にある新たな区画に降り立った。

 

スピナーを止めて辺りを見回す。何本もの太い支柱に支えられて頭上には東西にレールが走っている。西方向を見渡すと百メートルほどで行き止まりになっている。近づいてみると、終端には木の箱が置かれ、その周囲に骨が散らばっているのが見えた。

 

どうやって先に進めばいいのだろう?リンクは東のほうを見てみた。終端近くで区画は登り斜面となっている。リンクはスピナーを起動して北側の壁に近づき、壁に設置されたレールに沿って東へ移動して斜面を登った。登り切って終端に着いたリンクはスピナーを止めて改めて西側の方面を振り返ってみた。

 

終端は二本のレールと同じ高さだ。レールをよく観察すると、棘付きの独楽のような装置がいくつもレールの上を行き来している。だが、レールの先のはるか向こうにある壁の突き当たりを見ると扉があるのが見えた。

 

「リンク、地図を見せろ」

 

ミドナが唐突に言った。リンクはポーチから地図を出して見せた。

 

「間違いないぞリンク。あの扉まで行けば最初に見えた巨大な箱に辿り着くぞ」

 

「そこに重要な場所への鍵が入ってるってわけだね」

 

リンクは言ったが、あることを思い出して付け足した。

 

「だけどミドナ、そこから先は砂地で渡れないはずだったよね?」

 

「あそこにも壁にレールがついていたはずだ」

 

ミドナがリンクを見た。

 

「凄い。よく覚えてるね」

 

リンクは改めて驚いた。

 

「やれやれ、剣術だけじゃなく観察力も少しは訓練して欲しいもんだな」

 

ミドナが溜め息をつく。リンクは前方のレールを観察した。棘付き独楽は左のレールに三つ、右のレールに二つあり、一定の周期で移動している。左側のレールについた棘付き独楽のうち最も手前にあるものと、その奥にあるものとはほぼ反対の動きをしており、間隔が開いたり狭まったりしている。

 

右側のレールについた二つの装置も、その位置はやや奥に寄ってはいるが同様の動きをしている。周期もほぼ同じだ。リンクは頭の中で経路を何度も練習した。左側の手前二つの装置が互いに近づく動きをしているうちに左側のレールを進み、次いで右側のレールに移ってから左側二つの間隔が開き始めたら左側に飛び、右側のレールの手前の独楽が手前に移動しているうちに右側に飛ぶ。その後はギリギリまで前進してから、左側の最後の独楽に引っ掛からないよう飛び移るタイミングを判断し、もし危険となったら一旦スピナーから飛び降りることに決めた。

 

リンクは深呼吸すると、スピナーを起動して上に乗った。体重移動して左のレールに近づく。レールにスピナーが嵌り、一気に加速し前進した。

 

前方を見ると、左側手前の棘付き独楽はまだ向こう側に動いている。一つ奥の装置は逆にこちら側に近づいてきている。右手のレールの二つの装置も同様の動きをしているが位置はやや奥にある。

 

リンクは左側手前にある装置が減速する瞬間を待つと、ステップを踏み込んで飛び出し、右側のレールに飛び移った。こちら側は前方に二十メートルほどの猶予がある。両方のレールに目をやりながら前進すると、左側のレールの独楽が減速し切り、次いで逆回転し始めた。左側二つの独楽の距離が開き始める。

 

リンクの前方では、手前側にある独楽がこちらに近づきつつあった。リンクは再びステップを踏み込んで飛び出し、左側のレールに飛び移った。

 

前方にある、二つ目の独楽はまだ向こう側に動いている。リンクの右手、右側のレールにある一つ目の棘付き独楽がこちらの方向に加速し通り過ぎていった。それを見届けるとリンクはまたステップを踏んで飛び出し右側に飛び移った。

 

だが、リンクは左手に移るタイミングを一瞬迷った。左側のレールにはまだ一つの独楽がある。それはかなり奥の方にあったが、既にこちら側に移動し始めている。一方、右側のレールの二つ目の独楽は前方二十メートルほどで減速し始めたところだった。

 

今慌てて左に飛んだら、左手の最後の棘付き独楽を避けるために飛んだところでちょうど右側に二つ目の独楽が来てしまうかも知れない。リンクは今は飛ばずに左手の最後の独楽が通り過ぎるのを待つことにした。

 

左側の独楽が加速していく。右側の独楽も逆回転を始めた。こちらに動き始めるころだ。リンク自身も高速で前進しているので、独楽がみるみる近づいてくる。タイミングを間違えたらぶち当たってしまう。冷や汗が額に浮かび始めた。

 

左側の独楽が右側の独楽と並んだ。もう目の前の右側の独楽との距離は数メートルしかない。左側の独楽がリンクの横を通り過ぎる。右側の目の前の独楽とぶつかる寸前でリンクはステップを踏み込んだ。スピナーがレールから飛び出し左側のレールに飛び移る。間一髪だ。

 

リンクはスピナーをレールの最後まで走らせると、突き当たりの扉の前にある踊り場に飛び降りた。スピナーは自動停止して転がった。

 

安堵の溜め息をついて冷や汗を拭くと、リンクはミドナに頼んでスピナーを仕舞ってもらい、扉を押し上げた。やはりミドナの言ったとおり、黒い巨大な箱が置いてある部屋だ。リンクは箱に近づいて蓋を開けた。中には黒い金属でできた大きな鍵が入っていた。

 

「間違いなく重要な部屋の鍵だね」

 

リンクは言った。

 

「おそらくな」

 

ミドナが答える。

 

「リンク、これはほかにも処刑のための部屋があるってことだぞ」

 

ミドナはそう言うとリンクの顔を見た。

 

「ほかにもって?」

 

リンクは尋ねかけてその意味するところをすぐ悟った。おそらくこれから行くのはもっとおぞましい処刑が行われていた場所なのだ。

 

「リンク、十六の歳でこんなものばかり見るのはお前の心の発達に良くなかったかも知れないな」

 

ミドナは呟いた。

 

「何を言ってるんだよミドナ。そういう君はいくつなんだい?」

 

リンクは笑って尋ねた。

 

「レディの歳をずけずけと聞くのは礼儀正しいとは言えないぞ」

 

ミドナは腰に手をあてた。リンクは苦笑いして謝ると鍵を仕舞った。ミドナに頼んでまたスピナーを出してもらうと、壁に刻まれたレールを渡って砂地の向こう側に移動して床に飛び降りた。

 

とうとう最初の部屋に戻ったのだ。地図によれば仕掛け壁の向こう側には円形の広大な部屋がある。リンクは円形の床の中央にある仕掛け穴にスピナーを持っていくと、その穴に嵌めた。予想したとおり、スピナーの歯車と穴の内側の歯車がぴったり合致した。

 

スピナーの上に乗ってステップを踏み、回転を開始した。穴に仕掛けられた歯車が回転すると同時に、床板の欠けた場所の下に見える種々の装置も回転を始めたのがわかった。やがて重々しい作動音がして、正面にある仕掛け壁がゆっくりと横に動き始めた。

 

リンクたちの見ている前で仕掛け壁が開き、その向こうにある部屋が見えた。壁が完全に開いて固定されると、リンクはスピナーを降りてそれを穴から外した。

 

向こう側の部屋は、直径百メートル以上の円筒状で天井は恐ろしく高い。床は砂地だらけで中央に太い柱がある。柱の上には大きな台座がある。

 

また、円筒状の壁の内側には幅の広い螺旋階段がついているが、その階段はところどころが欠けていたため、歩いて上まで登るのは不可能に見えた。だが幸いなことに階段に沿ってスピナーのレールが敷かれている。

 

リンクはスピナーを起動させてステップを踏み、回転させながら部屋の中の砂地に進んでいった。砂地を横切ると、螺旋階段の始点にあるレールに近づく。スピナーがレールに嵌るとスピナーが一気に加速して高速移動を始めた。

 

リンクたちはみるみるうちに螺旋階段に沿って上昇していった。やがて部屋中央の円柱の上にある台座と同じ高さにまで達すると、台座の上の様子が見えてきた。直径二十メートルほどの円形の三方に張り出しがついたような形だ。

 

上方を見ると、螺旋階段はしばらく上昇した後に高い柵のかかった見晴台の上で止まっている。このままどこかに進むわけではなさそうだ。

 

リンクは再び台座の上に目をやった。台座の中央部分に、先ほどスピナーで操作したのと同じような穴が開いている。鍵を握るのはあの穴だ。そう確信したリンクはスピナーの上で高速で移動しつつ、台座の上から張り出している場所が眼下に廻ってくるのを見計らうと、ステップを押してレールから飛び出した。

 

スピナーは足元に残った螺旋階段の上でワンバウンドすると、中央の柱の上の台座の張り出しに着地した。リンクは台座の中央まで移動すると、スピナーに乗ったまま床に開いた丸い穴に当てはめた。

 

やはりぴったりだ。リンクはスピナーの回転を加速させた。スピナーの歯車が穴に仕掛けられた歯車を起動する。巨大な装置が動き始める作動音がしたかと思うと、仕掛け穴の左右についた小さな穴に炎が点された。

 

すると、軽い地響きがして、部屋の床の砂地から何かがせり上がってきた。

 

スピナーを操作しながら下を見やると、リンクたちがいる台座を囲むような形で螺旋状のレールが上昇してくる。汗を拭きながら何度もスピナーのステップを踏むと、レールはリンクたちのはるか上に至るまで上昇していった。

 

やがて再び地響きがした。巨大な仕掛けは停止したらしい。スピナーから降りて改めて状況を調べると、レールはリンクたちのいる台座の足元から始まり、台座をかすめるように伸びていき、数十メートルほど上にある天井近くに開いた大きな通路にまで至っているようだ。

 

リンクはスピナーを穴から外すと改めて起動し、その上に乗って新たに出現したレールに向かって移動した。レールにスピナーの歯車が嵌り、たちまちリンクは高速でレール沿いに上昇し始めた。ほどなくレールの終端が見えてきた。壁に開いた巨大な回廊だ。突き当りには大きな扉がある。

 

レールが切れたところでリンクは飛び降り、回廊の床に降り立った。自動停止したスピナーをミドナが仕舞う。突き当りの扉には太い鎖がかけられ、大きな錠前で閉じられていた。

 

リンクは先ほど手に入れた鍵を取り出すと錠前に差し込んだ。果たして寸分たがわず合致した。ひねると錠前が外れて鎖が落ちる。リンクは扉を押し上げると、向こう側に出た。

 

「ようやく最終地点だ。陰りの鏡を探そう」

 

ミドナが呟いた。

 

「そうだね」

 

リンクが相槌を打つ。だが、見回すとその部屋は想像していたよりはるかに巨大だった。

 

薄暗い中目を凝らしてみると、直径は五百メートルはあるとわかった。円形で、壁は堅牢そうな石造りだ。足元ぐるりを幅五メートルほどの通路が囲んでおり、その内側は中心に向かって窪んだ広大な砂地になっている。こんな場所で陰りの鏡を探すのは苦労しそうだ。

 

「一体全体ここは何なんだろう?」

 

リンクは言った。

 

「闘技場だな」

 

ミドナは答えた。

 

「闘技場?なんのために?」

 

リンクは尋ねた。

 

「何のためにって、そりゃ処刑のためさ」

 

ミドナは当然のように言うと続けた。

 

「そうか。お前は知らないんだったな。闘技を処刑の方法として公衆の娯楽に提供した例も歴史上は存在する」

 

それを聞いてリンクはまた言葉を失った。この廃墟の探索を始めてから、おぞましい話には十分に慣れたと思ったが、まだまだだったようだ。

 

「勝ったほうを無罪放免というご褒美を餌に、罪人同士殺し合いをさせる。あるいは、飢えた野生動物を連れてきて罪人と戦わせる。それも勝てば無罪放免ってことでな」

 

そう言ったあとミドナは肩をすくめた。

 

「まああくまでもそれは建前であって、実際は罪人を猛獣に喰わせるだけの残酷ショーだったみたいだがな」

 

リンクは顔をしかめて首を振った。既に閉鎖されたにせよ、いま自分はハイラル王家の暗い歴史を目の当たりにしているのだ。

 

「リンク、陰りの鏡を見つけたら休憩しよう。腹も減ったろう」

 

ミドナは気遣いを見せた。だが食欲など湧いてこない。リンクは溜め息をついて歩を進め、砂地の中を覗き込んだ。目の前に崩れ果て黒く変色した石の斜面が砂地の中央まで続いている。

 

だがリンクはその斜面の先にあった物を見て息を呑んだ。

 

恐ろしく巨大な動物の骨だ。頭蓋骨の部分だけで小さな家くらいの大きさはありそうだ。頭からは左右二本づつの角が生えており、太い背骨が後頭部から伸びている。肩甲骨と肋骨、さらには上腕と前腕、および頭と同じくらい巨大な手の骨も左右揃って残されていた。

 

背骨の先は砂地の中に埋まっている。もし全身を現したら途方もないほどの巨大さだ。リンクは驚きに我が目を疑いながら斜面を降りていった。骨でなかったらさぞかし危険な獣だったに違いない。

 

ミドナも骨に気づき、リンクの傍らに浮遊しながら寄ってきた。

 

「ミドナ、あの骨は処刑に使われた野獣だろうか?」

 

リンクは聞いてみた。

 

「そりゃないだろう。あんな生き物は有史以来存在を聞いたことがない」

 

ミドナは即答した。

 

「おそらく有史以前の....」

 

そこまで言うとミドナは息を呑み、声を低くして続けた。

 

「リンク、気を付けろ。奴が来ているかも知れない」

 

「何だって?」

 

リンクはそう言いながら剣の柄に手をかけた。足を止めて巨大獣の骨を観察する。だが、そこにあるのはあくまでも生気の消え果てた骨だけだ。リンクたちは注意深い足取りで斜面を降りていき骨に近づいた。

 

「用心しろ。あんなものが自然にここに置かれるわけがないんだ。きっと奴が....」

 

ミドナがそう言った瞬間、獣の頭蓋骨の上に人影が現れた。

 

リンクとミドナは身構えた。人影は黒く長い寛衣を着ており、頭には奇妙な形の兜を被っていた。兜に付属した黒い面甲には、精巧な金属細工で南洋トカゲのような丸く出っ張った目と口から飛び出て丸まった舌が形作られている。

 

それはザントだった。

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