扉の間から見えたのは、新しい大理石でできた美しい階段、ツルツルと光る床と、美しく壮麗な柱が立ち並んだ石造りの壁だった。
扉の向こうは遠く時を過去に遡った風景だったのだ。
リンクは覚えずして一歩前に出た。幻影などではない。扉の内部に足を踏み入れると、リンクのブーツが草原ではなく真新しい石の床に触れたのが感触でわかった。
内部は確かに室内だ。高い屋根があり、左右の壁には蔓草模様の格子が嵌まった大きな窓が並んでいる。リンクは扉から手を離した。
ところが、扉がひとりでに閉まってしまい、リンクは思わず後ろを振り返った。
「リンク、おそらく大丈夫だ」
ミドナが言った。
「ミドナ、どうしてわかるんだい?」
リンクは尋ねた。
「この施設を作った者たちはおそらく自分の時代の物を未来に残したかったんだろう。だとしたらお前をここに閉じ込めるのは本意ではないばずだ」
ミドナが言う。リンクはとりあえずミドナを信じることにした。
階段を降りて床に立つと、リンクは周囲を見回した。壁にしつらえられた大きな窓からは外の光がふんだんに入ってくる。後ろを振り返ると、階段の両脇の壁には梟を模した石像が壁に嵌め込まれていた。どこかで見た気がするが、思い出せない。
正面に向き直り前進した。ファサードの両側に立っている石像に近づいてみる。
リンクのいた時代の石像はところどころ苔むしていたが、いま目の前にある二体の石像は仕上げしたばかりと思われるほど表面が滑らかだった。その石像たちの守るファサードの両脇の壁には鮮明な文字が刻まれていた。だがリンクには読めなかった。
「あれはなんて書いてあるんだろう?」
リンクは何気なく言った。
「ちょっと待ってろ」
ミドナは言うと、刻印の前に浮き上がった。
「ミドナ、読めるのかい?」
リンクは驚いて尋ねた。
「読めるっちゃあ読めるがスラスラとは行かない。さすがの私でもな」
ミドナは眉根を寄せると、古代文字を読み始めた。
「一世紀‥‥大いなる剣‥‥石像‥‥支配する杖‥」
リンクは息を呑んで見守っていたが彼女はすぐ首を振った。
「だめだ、これ以上読めない。字体が古すぎる」
ミドナが呟いた。
「これはどういう意味なんだろう?」
「わからん。だが『支配する杖』っていうのが気になるな」
「支配する杖‥‥」
「王族が使うただの杓かも知れん。あるいは特別な力を持った何かの道具かも知れん。お前の剣のようにな」
リンクたちは石像の間を通って、聖剣の台座があった広間に向かった。階段を登ると、広間は極めて壮麗なものだった。
リンクのいた時代には荒れ果てて、屋根も落ち周囲には石垣しか残されていなかったのが、今目の前にあるのは真新しい石造りの柱と壁に囲まれた円形の広い部屋だ。壁には一面に美しいステンドグラスの嵌められた大きな窓がしつらえられていた。
だが、その部屋からどこかに通じる扉はどこにも見当たらない。
「行き止まりかな?」
リンクはひとりごちた。
「リンク、台座に剣を刺してみろ」
ミドナが言った。
「やっぱりこれが鍵ってことかな?」
リンクは剣を抜いて逆手に持ち、台座の中央の穴に刺し込んだ。
次の瞬間、リンクの目の前の床から正面のステンドグラスに向けて階段が現れた。だが、その階段は半透明の虹色だった。
本当に登れるのだろうか?リンクは剣を抜くと恐る恐る階段に向けて足を踏み出した。確かにブーツの底が触れている。
そのとき、後ろから何かが駆け寄ってくる音がしてリンクは反射的に振り向いた。たったいまリンクたちが入ってきた扉のほうから小型の動物がこちらに走ってくる。
危険なものではなさそうだ。だがリンクはその顔に気づくと思わず息を呑んだ。
あの鳥人間だ。頭部だけ人間で胴体が鳥のその生き物は、リンクの横をかすめると軽く羽ばたきながら一気に階段を駆け上がり、ステンドグラスの向こうに消えていった。
今のはいったい?もしかするとゴロン鉱山や雪山の館で出会ったあの「おばちゃん」なのだろうか?
「噂をすれば、あいつも現れやがったか」
ミドナが苦笑した。
「ミドナ、じゃああの人って‥‥」
リンクが尋ねた。
「ああ、あいつだ。というよりあいつ以外だれがいるんだ?」
ミドナが言う。
「故郷を探すためにあの人もこの神殿を調べようとしてたんだね」
リンクは言った。
「そうらしいな。だが好都合かもしれんぞ。あいつに聞けば天空のこともなにか分かるかもしれない」
ミドナが顎に手を当てた。リンクは一歩一歩階段を登っていった。だが、階段の上端は正面のステンドグラスで止まっている。あの鳥人間はどうやってここを通り抜けたのだろう?
ところが驚くべきことに、階段の上端に近づくにつれてステンドグラスの窓が次第に透明になってきた。幻影だったのだ。
窓があると見えた場所は通路だった。リンクは用心深く通路に足を踏み入れ前進した。突き当りには扉がある。
扉を押し上げて向こう側に行くと、そこは円形の広々とした部屋だった。直径は百メートル近くはある。正面には緩やかな階段の上に四角い大きな扉があり、その左右には台座がしつらえてあった。左側の台座には、入り口で見たものと形の異なる石像がある。まるで武者のように両肩が高く、兜を被り、両手で正面に大きな槌のようなものを携えていた。だが、右側の台座は空になっている。
また、部屋の中央あたりには巨大な鐘のようなものが据えられており、その上には天蓋が設置してある。リンクは鐘に近づいてそれを軽く拳で叩いてみた。固い金属でできているのは間違いない。錆びてもおらず、まるでつい最近鋳造されたばかりのように見える。
部屋の中に進んでいくと、部屋の東西から壁沿いに伸びた階段がちょうどリンクたちが入ってきた扉の真上に至っていることがわかった。
リンクはまず正面の扉から調べることにした。だが、硬い金属のような素材で造られたその扉はピタリと閉じられており、容易に開けられそうにない。
「気になるな」
ミドナが呟いた。
「どうしたんだい?」
リンクは尋ねた。
「石像が片方の台座にしかない。こういうのは普通左右両方に設置するものだろ?」
ミドナは、リンクが調べた扉の右側にある空の台座の前で浮遊していた。
「確かにそうだね....てことは」
リンクは推理した。
「その台座に入るべき石像を見つけることが先に進む鍵になるのかもね」
「私も同意見だ」
ミドナは頷いた。リンクは扉の前から振り返ると、部屋の東西から始まっている階段を見やった。だが、階段の始点は床からの高さが三メートル以上あり、普通の方法では登れそうにない。だが、目の前の緩やかな階段の手前にも台座が左右に設置されているのに気づいた。その左側にあるほうには中央に四角いスイッチがついている。ゴロン鉱山や雪山の館で見たものと似ているが、表面がツルツルした金属で仕上げられている。
リンクがそのスイッチに足を乗せてみると、部屋の東側の階段の始点となる段差の下に、高さ一メートル半ほどの足場が床からせり上がってきた。
だがリンクが足を離すとスイッチも解除されるらしく、足場が元に戻ってしまう。リンクは台座の上に放置してあった壺を一つとると、そのスイッチの上に乗せてみた。スイッチが入りっぱなしになったようで、足場はせり上がったあと戻らずに止まった。
リンクは緩やかな階段を降りると、新たに出てきた足場によじ登った。そこからさらに上の段に登ると、円形の部屋の壁に沿ってしつらえられた階段を登り始めた。
階段の横の壁には石に彫り込まれたレリーフが配されている。ローブを着た人物たちが列をなして移動するなか、女性と見える人物が先に冠のような装飾のついた杖を掲げている。
「『支配する杖』、か」
ミドナはレリーフを見ながら言った。
「おばちゃんに会ったらそのことも聞いてみようよ」
リンクは提案した。その瞬間目を上げると、目の前の通路に鳥人間が立っていた。傍らには、頭から直接羽の生えた小鳥もいる。
「あらお兄ちゃん!また会ったわね。ちょうどよかったわ」
リンクが驚いて固まっている間に相手は勢い込んで話しかけてきた。
「こないだミドナちゃんにも話したんだけど、私たち故郷に帰る方法を探してるのよ。それでこの神殿の話を聞いてね。なんでも私たちのご先祖の作ったものが沢山あるって話だったから」
おばちゃんはそう言うと一歩進み出てリンクの顔を見上げた。
「だからお兄ちゃん、私の探し物手伝ってくれない?ね?」
「は‥‥はい」
相手の勢いに圧倒されてリンクは思わず頷いた。
「おい、おばちゃん。ちょっと聞きたいことがある」
ミドナが近寄ってきておばちゃんに話しかけた。
「あらミドナちゃん、こないだはどうも!相変わらず可愛いのね」
「余計な話はいい」
ミドナは咳払いした。
「お前は故郷に帰りたいと言っていたな?お前の先祖というのはどこから来たんだ?」
ミドナにそう問われ、おばちゃんは困り顔をした。
「それがねえ、私たち長い間隠れるみたいにして暮らしてきたから、昔の本とか記録が全然残ってないのよ」
リンクとミドナは顔を見合わせた。
「でも私もね、決心したのよ。いつまでも本物の鳥みたいに森のなかでその日暮らししてたら、子供の教育にも悪いじゃない?」
おばちゃんはそう言うと傍らを飛ぶ息子のほうを向いて首を傾げた。
「だからとにかく空の上にあるっていう私たちの故郷に帰る方法を探すことにしたの。今分かってるのはそれだけ」
するとミドナは口を開いた。
「ではお前は『支配する杖』について何か聞いたことはないのか?」
「ああ、その話なら私自分のおばあちゃんから聞いたことはあるわ」
おばちゃんは答えた。
「それはどんな道具なんだ?」
「詳しくは知らないんだけど、なんでも天空の私たちの故郷に帰るのに必要なものって言ってたわ」
ミドナは腕を組んだ。
「ふむ」
「ミドナ、どうやらその杖を探すってことが僕らにとってもおばちゃんにとっても鍵になりそうだね」
「そうなのよそうなのよぉ」
リンクが言うとおばちゃんは嬉しそうに羽ばたいた。リンクとミドナはおばちゃん親子を連れていくことで合意し、鳥人間たちはミドナの魔法空間に収納された。
リンクはそこで軽く腹ごしらえをし、水筒の水を飲むと、先に進む方法を探して辺りをみまわした。階段を登り切った場所は、入ってきた入り口のちょうど上あたりになっており、そこから南方向に登る短い階段を経て扉に行き当たっていた。その扉の上にはハイラル王家の紋章がくっきりと刻まれている。扉には鎖がかけられ施錠されていた。
部屋の床を見渡す通路の際には燭台が二つ設置されており、煌々と光を放っている。リンクは扉に至る階段の前を通りすぎると、今度は部屋の西側の階段を下り始めた。階段の下端には、火の消えた燭台が二台置いてあった。
リンクは部屋の中をもっと明るくするために、カンテラを取り出してその二つの燭台に火をつけた。すると、燭台の間にまばゆい光が生じたかと思うと、その場所に木製の大きな箱が現れた。リンクがその蓋を開けてみると、中身は金属製の小さな鍵だった。
鍵を携えて階段を引き返し、施錠された扉に向かうと、リンクは鍵を錠前に差し込んでみた。鍵はピッタリと合致し、捻ると錠前が外れて鎖が落ちた。
リンクは扉を押し上げて向こう側に出た。そこは十メートル四方くらいの小さな部屋だった。部屋の中央には金属製の四角いスイッチがあり、向かい側には柵があって、柵の向こうに金属の箱が置いてある。
だが、リンクは床の上に大きな蜘蛛がいるのを見て反射的に剣の柄に手を掛けた。森の神殿で戦った髑髏模様の蜘蛛よりは小さいが、それでも脚の長さを合わせて一メートル半ほどはある。
リンクは剣を抜くと素早く歩み寄って蜘蛛に縦斬りを叩きつけた。ギシギシと歯を鳴らしながら苦痛に身をよじらせた蜘蛛に二、三度の追い討ちをかけると、蜘蛛は断末魔の痙攣を始め、やがてその死骸がボロボロに崩れ始めた。
「魔物だ」
ミドナが顔をしかめながら言った。
「じゃあここにザントが陰りの鏡の破片を隠した可能性は高いってことだね?」
リンクは尋ねた。
「その通りだ。だがそれと同時にどえらい大物にぶち当たる可能性も高いってことだぞ。覚悟しとけ」
ミドナが答える。左手を見ると、壁には小部屋がしつらえられており、その中に先ほどの部屋で見たのと同じような巨大な鐘が天井から吊り下げられていた。右手を見ると、そちらにも金属の柵がかけられており、その先には昇り階段が伸びている。リンクは部屋の南西の隅に壺がいくつか置いてあるのを見つけると、それを抱え上げて部屋の中央のスイッチに乗せてみた。するとスイッチが入り、部屋の南側と西側にあった金属の柵が左右に開いた。
リンクはまず南側の柵の向こう側に置いてあった金属の箱をあらためてみた。中身は矢束だ。リンクはそれで自分の矢立てを一杯にすると、西側の柵の向こう側に向かった。
「こんな場所にも冒険者が来ていたなんて驚きだね」
リンクは言った。階段を上っていると、途中にまたさっき倒したのと同じような蜘蛛がいる。リンクは剣で何度も刺して大人しくさせると、再び階段を登った。
「正規の入り口以外から入る方法は時間をかければ見つかるものだからな。だが内部の警備装置はきっと厳しいぞ。それも頭にいれておいたほうがいい」
ミドナが答える。リンクは階段を登りきった先でまた柵に行く手を塞がれた。だが、あのスイッチが鍵だと見当をつけ、弓に矢を一本つがえると、振り向いて先ほどの部屋の中央のスイッチの上に置いた壺を狙い撃った。矢が当たって壺が砕け散り、スイッチが解除されると、予想通りリンクの目の前の柵が左右に開いた。
階段を登り切ると、踊り場を経て通路は右に折れ、再び昇り階段が続いている。だが階段の上に人影があるのを見てリンクは反射的に剣を抜いた。
蜥蜴男だ。相手もリンクに気づいて階段を駆け降りてきた。リンクは素早く背中から盾を下ろすと、相手が斬り下ろしてきた半月刀の一撃を盾で受け止めた。
蜥蜴男が尻尾の先につけた斧で一撃を加えようと身を沈めた。リンクはその隙を逃さず突きを放った。刃が敵の胸に刺さる。体を半身に入れ換えるようにして今度は盾アタックを叩きつけると、リンクは跳躍して蜥蜴男の頭部を叩き割った。
「ますますザントの奴がここに来た線が濃厚だな」
床に倒れるなり崩れ始めた蜥蜴男の死骸を眺めながらミドナが言った。
「用心するよ」
リンクが答えた。念のため、盾と剣を構えたまま階段を上っていった。階段は突き当たると左に折れ、そこから短い昇り階段を経由して次の部屋に至っていた。だがその部屋にも二匹の蜥蜴男がいる。リンクの気配に気づいてこちらを向くと、敏捷な身のこなしで走り寄ってきた。
リンクは自分もダッシュして間合いを詰めると、いきなり身を沈め回転斬りを放って先制した。胴を薙ぎ払われた二匹の敵がよろめいて倒れた。リンクは剣を逆手に持つと、そのうち一匹の上に飛び上がってその胸に刃を突き立てた。たちまち絶命した蜥蜴男の身体から剣を抜くと、立ち上がったもう一匹に向き合った。深手を負いつつも剣を握り直した敵に向かって横斬りを放つ。半月刀を払おうとした敵の腕とリンクの腕が交錯する。リーチに勝るリンクの剣が敵の喉を切り裂いた。
力の抜けた蜥蜴男が膝から崩れ落ちる。リンクは血払いして剣を納めると、階段を上ってその先の部屋に進んだ。
「リンク!後ろだ!」
ミドナが叫んだ。右後ろに気配を感じたリンクはとっさに前転した。頭のすぐ上を半月刀の刃がかすめた。蜥蜴男がもう一匹壁際に隠れていたのだ。リンクは向き直って剣を抜くと横斬りを放って牽制した。こちらを追撃しようとした蜥蜴男が小盾を構えて立ち止まる。
蜥蜴男は軽い足取りで身体を上下させながら攻め入る隙を伺っていた。リンクは盾を下げて攻撃を誘うと、敵が剣を振り上げた瞬間に横っ飛びした。次いで前転し相手の後ろに回り込むと、跳躍しながら剣を払った。
背中を大きく切り裂かれた蜥蜴男がよろめく。リンクはダメ押しのジャンプ斬りを叩きつけて決着をつけた。
「おい、用心すると言ったろう」
ミドナが注意した。
「ごめんごめん、助かったよ」
リンクは剣を血払いして納めながら言った。部屋の中を見回すと、リンクたちが入ってきた入り口の正面には小部屋があり、例の巨大な鐘が床に据えられていた。その左手には髭を蓄えた戦士の顔を模したような石像がある。石像は頭から直接腕が生えたようなユーモラスな意匠で、片手には盾、もう片方の手には槌が握られている。
部屋はおおむね六角形に作られており、石像の左手には出窓があって、窓際に金属の箱が置かれていた。リンクは出窓に登って金属の箱の蓋を開けてみた。中は赤ルピーだ。ありがたく頂戴して財布に入れていると、頭上で蝙蝠の羽音がした。窓に嵌まっている蔓草模様の格子にとりついていたようだ。リンクは剣を抜くと、そいつがこちらに目を付けて空中で攻撃体勢をとったところで素早く叩き落とした。
金属の箱の左右には、まるで香炉のような形の黒くて丸い金属の像が置いてあった。さしあたり何に使うか分からないので出窓から降りようとしたとき、鐘の右手にある出口に金属の柵がかかっていることに気づいた。柵の手前左右には例の四角いスイッチが設置してある。
リンクは金属の黒い像を持ち上げてみた。かなりずっしりと重い。像を持って柵の前まで歩くと、それをスイッチの上に置いた。
もう一つの像も運ぼうと出窓に戻りかけたとき、リンクは戦士の石像が動き始めたことに気づいた。体表の各所にある模様が青く光っている。
「警備装置だぞ!」
ミドナが警告した。リンクは剣を抜いて構えた。だが魔物ではなく機械であるうえ、こんな硬そうな石でできていたのでは自分の剣は効かないかもしれない。リンクは盾を構えたまま用心深く石像と距離を置いた。
石像は遅い速度ではあったがリンクのほうに歩いて向かってくる。間合いが近づくと、片手に持った槌を振り下ろしてくる。リンクは慌てて後ろに飛び退いた。どこかに弱点はないのか?
そのとき、リンクは石像の背中に六角形に光る装置がついているのに気づいた。
「ミドナ、爆弾袋を頼む!」
リンクは盾を背負い剣を納めると、爆弾袋を腰につけそこから爆弾を取り出し矢尻をその底面に差し込んだ。導火線に点火すると矢を弓につがえ、摺り足で石像の横に回り込みながら背中の装置めがけて放った。
外す距離ではない。爆弾は過たず命中し爆発した。リンクは思わず顔を覆ったが、すぐに顔を上げると、石像から異様な作動音がして、痙攣するように動き回りながらでたらめに槌を振り回し始めた。
リンクは槌で叩かれないよう慌てて後ろに転がった。すると石像の内部から爆発音がしたかと思うとバラバラに分解してしまった。
冷や汗を吹きながら立ち上がると、リンクは弓を背負い、爆弾袋をミドナに収納してもらった。改めて出窓に登り、もう一つの黒い小さな像を持ち上げると柵の前に行き、もう一つのスイッチに乗せた。二つ目のスイッチが作動して金属の柵が開いた。
「おいリンク、何か出てきたぞ」
ミドナが言った。ミドナが指差すほうを見ると、戦士の石像が立っていた場所の背後にいつの間にか木製の大きな箱が現れている。近づいて蓋を開けてみると、羊皮紙にインクで描いた図面が入っていた。どうやらこの神殿の見取り図のようだ。
図を見てみると、この建物は多層型で八階まであることがわかった。いまリンクたちがいるのは三階だ。
リンクは柵の開いた場所から先に進んだ。短い昇り階段の先に踊り場がある。そこから通路は右に折れ、その先はやはり昇り階段があって、突き当たりに扉があった。
踊り場の窓に蝙蝠が止まっている。リンクはそこを足早に通りすぎると、階段を昇りきって扉を開いた。
その向こう側は短い廊下で、その先に数段の階段を下ってから広い部屋に出た。
直径百メートルほどの円形の広い部屋だ。部屋の中央部には円形の囲いがあり、その中には白い胴体をした蜘蛛がうじゃうじゃと群れていた。さっき戦った蜘蛛より小さく、色が白いが、それでも腹の部分が人間の頭部ほどの大きさだ。柵の一部は開いており、そこには柵の代わりなのか左右に稲妻のようなものが走っていた。蜘蛛たちがそこを乗り越えてくる心配は無さそうだが、気味悪いことには違いない。
「うエッ」
ミドナが呻き声を上げた。
「リンク、早くここを出よう。あんな蜘蛛どもにもし取り囲まれたらと思うと吐き気がする」
「わかったよ」
リンクは笑った。だが、部屋の反対側に蜥蜴男の姿を認めてすぐに顔を引き締めた。
蜥蜴男に気づかれないよう身を低くしながら部屋の内部を見回した。左手に少し行った場所の壁際には、直径一メートルほどの白い円柱が立っている。その頂上近くに見覚えのある赤い目のような部品が嵌まっているのを見て、リンクにはすぐにその正体がわかった。ゴロン鉱山で見た警備装置だ。
さらにその先左手には、金属の柵で隔てられた小部屋が壁にしつらえられており、その内部に例の大きな鐘が吊り下げられていた。そこからはしばらく壁が続いたあと、同様の金属の柵で隔てられた小部屋がもうひとつある。だが、金属の柵を開けるためのスイッチはどこにも見当たらない。
左手には警備装置があるので、リンクは右手に進むことにした。部屋の向かい側の、蜥蜴男の影を見つけた辺りから階段が壁沿いに設置してあり、右回りに昇るようになっている。
リンクは盾を持ち、剣を抜くと忍び足で階段のほうに歩いていった。だが距離が二十メートルほどに近づくと敵がこちらに気づいた。その蜥蜴男が何事か喚くと、階段の上から二匹ほどの新手が降りてきた。
リンクは最初の一匹に向かって突進し、いきなりジャンプ斬りを叩きつけた。不意を突かれた敵は頭をバックリと割られてよろめいた。二匹の新手が近づいた瞬間に、リンクは深手を負った一匹の身体を盾にするようにしながら距離が詰まるのを待つと、裂帛の気合いとともに回転斬りを放った。
目の前の一匹の胴がほとんど真っ二つになると同時に、新手の二匹も傷を負ってよろめいた。だがまだ致命傷ではない。リンクはすかさず右手の一匹に突進し、左右袈裟斬りから突きを立て続けに繰り出し息の根を止めた。
左手の一匹が立ち直って半月刀を振るって襲いかかってきた。リンクは盾を上げて辛うじてそれを逸らすと盾アタックを叩きつけた。相手がぐらついたところでほとんど勝手に身体が動き、リンクは跳躍して敵の頭部を剣で叩き割った。
三匹の敵を倒したが、死角からの奇襲を警戒したリンクは盾と剣を構えたまま階段を上り始めた。
やはり思った通りだ。階段の途中で蜥蜴男が待ち構えていた。リンクは盾を掲げながら足早に階段を昇ると、そいつが半月刀で切りつけてきたのを身を伏せてかわし、突きを食らわせた。よろめいたところを横斬りで胴を払い、さらに縦斬りと袈裟斬りで切り裂いて黙らせた。
さらに階段を上っていくと、それは途中で崩れていた。だが、昇り階段のあったであろう場所の壁際にレールのようなものが設置されているのを見てリンクは足を止めた。砂漠の処刑場で見たものだ。リンクは剣を納めると、ミドナにスピナーを出してもらった。スピナーを起動して回転させ、壁際のレールに寄せると、それはたちまちレールに嵌まって昇り始めた。
階段の崩壊した間隙を越えて向こう岸に渡ると、リンクはスピナーを降りた。ミドナがスピナーを収納すると、リンクは階段を登りきった。
少し進むと左側の壁が切れ、短い通路が左手に入っていくようになっている。その突き当たりは扉だ。だが扉には鎖がかけられ施錠されている。
その向かい側には短い下り階段を経て、部屋の中央部に向かう渡り廊下があった。最初に見た、蜘蛛だらけの囲いの上方にあたる場所に柵で囲まれた円形の舞台のようなものがあり、渡り廊下はそこに通じていた。さらに、円形の舞台の周囲を囲うように細い通路がしつらえられているが、そこには棘の生えた回転する独楽のような装置が二つ往き来していた。
円形の舞台は下の床の囲いから伸びている円柱に支えられており、舞台の上にはちょうど円柱の延長線上に軸のある巨大なハンドルスイッチが設置されていた。
先に進むには鍵を手に入れる必要がある。リンクは回転する棘つき独楽装置に引っかけられないよう注意しながら渡り廊下を渡ると、ハンドルスイッチを調べてみた。どうやらこれを操作して舞台を上下させるらしいと見当がついた。
そこから部屋の反対側を見てみると、向こう側にも渡り廊下が伸びている。その突き当たりの先にも扉があるが、渡り廊下から三メートルほどの高さの段差の上に位置しており、通常の方法では登ることはできなさそうだ。
だが、リンクはその段差の手前に四角い金属のスイッチが左右に設置されているのを見つけた。よく見ると段差の手前の床だけ模様のパターンが違う。
リンクはさらに周囲を見回した。右手を見ると、舞台を囲む円形の通路から小さな張り出しが突き出ていて、そこに小さな黒い丸い金属の像が置いてある。それがあとひとつあれば二つの床スイッチを動かせる。
だが目の前のハンドルスイッチは何のためにあるのだろう?リンクはそのハンドルを右回りに押してみた。すると作動音がして、いま立っている舞台が沈み込み始めた。
「おいリンク!何をするんだ!」
ミドナが慌てて言った。リンクも急いでハンドルを戻そうとしたが、すぐに戻すことができない仕組みのようだ。そうこうしているうちに、リンクたちのいた円形の舞台は階下の蜘蛛だらけの囲いと同じ高さまで下降してしまった。
「リンク!早く、早く舞台を上げろ!」
ミドナが悲鳴を上げる。金属の囲い越しではあったが、周囲の床には数知れない蜘蛛たちが蠢いている。
だが、周囲を見回したリンクは、舞台に至る渡り廊下が繋がっていた場所の先に、黒い小さな金属の像が置いてあるのを見つけた。リンクは急いで走り寄ってその像を持ち上げると、自分の足元に置いてハンドルスイッチを左回りに操作した。
舞台が元の高さへ上昇していき、リンクは冷や汗を拭いた。
「ミドナ、大丈夫かい?」
気の毒になってしまったリンクは尋ねた。だがミドナは怒ってしまったのか答えない。リンクは舌を出すと、金属の像を抱えて持ち上げた。円形の通路に出ると、回転独楽装置に引っ掛けられないよう注意しながら反対側に渡り、床スイッチのひとつに像を置いた。
さらにもう一度円形の通路に足を踏み入れると、張り出しの上にあった像も持ち上げて、床スイッチのほうに運び込んだ。段差の手前の、床のパターンが違う部分に立つと、空いているほうの床スイッチの上に像を置く。
果たして、リンクが立っていた場所がせり上がり、段差の上にまで到達して止まった。成功だ。
段差の上の扉に歩み寄ると、リンクはそれを押し上げて向こう側に出た。
そこは薄暗い部屋だった。三十メートル四方くらいの床の奥に戦士の石像が二体並んでいる。その奥には昇り階段があるが、壁で突き当たっており、階段の左右には柵で隔てられた狭い通路が見えた。部屋の左右の壁には空の小部屋がしつらえられている。
だが、リンクの背後で物音がした。扉の上に金属の格子が降りてきたのだ。
同時に、正面にいた戦士の石像たちの紋様に青い光が宿った。
「暴れてる連中を大人しくさせないと出してもらえないみたいだね」
リンクはミドナに話しかけた。
「リンク、私が蜘蛛を苦手なのは知ってただろう」
ミドナがまだ恨めしそうな声で言う。
「わかったわかった、謝るよ。だけど今は爆弾袋を出してくれないか?」
リンクは苦笑いして言った。リンクの足元に爆弾袋が放り出された。リンクは素早く爆弾を二つ取り出すと、手早くその底面に矢尻を差し込んで爆弾矢を二つ拵えた。
爆弾の導火線に点火すると弓につがえた。石像の横に回り込みながら背中の装置に向けて放つ。爆発が起き、一体がたちまち狂い始めた。
リンクは飛び退くと、もう一本の爆弾矢を拾い上げて残り一体の横に回り込み同じように撃った。
二体目もでたらめに動き始める。とうとう二体がバラバラに壊れ、部屋の中に静寂が戻った。
すると、リンクたちが入ってきた扉の格子が自動的に上がった。
「やれやれ、出してもらえそうだね」
リンクは弓を背負いながら出口に向かった。
「おい、鍵を探さなくていいのか?」
ミドナが指摘する。リンクは頭を掻きながら引き返した。部屋の中を探すと、さっきまでは空だった左手の小部屋に木製の大きな箱が現れていた。歩み寄って空けてみると、果たして中身は小さな金属の鍵だ。
鍵を拾い上げ、部屋の扉から外に出ると、リンクは段差を飛び降り、円形の通路を注意深く渡って部屋の反対側に出た。
階段を登って鍵のかかった扉に近づき、さっき手に入れた鍵を錠前に差し込んで捻ると、錠が開いて鎖が落ちた。扉を開けて向こう側に出ると、そこは左右に広い部屋だった。リンクたちがいるのはその左端だ。目の前左側にクリスタルスイッチがある。ゴロン鉱山で見たのと同じものだ。
その奥には白い円柱形の警備装置があった。右手には金属の柵がしつらえられているが、柵の真ん中には丸い穴が開いている。金属の柵ごしに見てみると、その向こうの区画に行くには警備装置の前を通る必要がありそうだが、ちょうど警備装置がある場所とその区画の間には頑丈そうな石造りの壁がある。
リンクは剣を抜いてクリスタルスイッチに歩み寄ると、それを剣で叩いてみた。クリスタルの色が変化し作動音がすると、警備装置の前あたりで何か重いものが横滑りして動く音がする。警備装置の場所と柵の向こうを隔ていた壁が動いたらしい。
リンクは弓を下ろすと、矢を一本つがえた。回転する警備装置の目玉を狙って放つ。命中すると、警備装置は煙を上げて故障し回転をやめた。
リンクは警備装置の前を通り、柵の向こう側に出た。そこには天井から巨大な鐘が吊り下げられている。また、奥のほうにはさらにもう一つの金属の柵があった。そこにも丸い穴が開いている。
部屋の北側の右手には、石造りの壁に隔てられた向こう側にもう一体の警備装置が回転していた。リンクのいる場所からは、西側の柵に開いた穴からクリスタルスイッチが見える。リンクは弓を持つと、矢をつがえてその穴からクリスタルスイッチに向けて放った。命中すると、作動音がして、もう一体のほうの警備装置の前にあった石造りの壁が左に動いた。
リンクはもう一本矢をつがえると、警備装置の目玉を狙って撃った。目玉を潰された警備装置は煙を上げ壊れた。
煙を上げる警備装置の前を通ると、二つ目の柵の向こう側に出た。そこからは、東側の壁の奥側から北東に伸びる廊下があるが、その手前も石造りの壁で塞がれている。
リンクが今いる区画を調べると、東側の壁にしつらえられた小部屋に木製の大きな箱があった。開いてみると、中にはいつかゴロン鉱山で見たのと同じようなコンパスがあった。これで値打ちのあるものを発見できるかも知れない。
リンクはコンパスを仕舞うと、弓に矢をつがえ、西側の柵に開いた穴からクリスタルスイッチを狙って撃った。命中すると、作動音がして先に進む廊下を塞いでいた石造りの壁が横に動いた。
リンクは先に進んだ。上り階段が前方に伸びている。上から足音かして顔を上げると蜥蜴男が一体こちらに向かって降りてくる。双方同時に互いに気づいた。
リンクは盾を素早く構え剣を抜いた。敵は俊敏な動きで階段を駆け降りてきた。蜥蜴男が間合いを詰めて半月刀を払ってくる。リンクはそれを盾で受けると、回転斬りで敵の胴を深く切り裂き、倒れたところを剣を逆手に持って相手に飛び乗り、止めを刺した。
武器を構えたまま油断なく前進する。通路は途中で右に折れた。
用心深くその先を覗き込むと、今度は大きな牛の頭蓋骨を兜代わりに被った蜥蜴男が前方にいた。リンクは敵を引き付けることにした。剣で盾を叩いて音を立てると、敵はすぐこちらに気づいて駆け寄ってきた。
リンクはいきなりダッシュして間合いを詰めると、深い突きを相手に食らわせた。怯んだ蜥蜴男に左右袈裟斬り、横斬り、さらに縦斬りを叩きつけて勝負をつけた。
通路は階段が終わり、前方でさらに左に折れている。周囲に注意を払い、待ち伏せを警戒しながら進むと、左右に長い部屋の左端に出た。部屋は手前側と奥側とが金属の柵で隔てられている。奥側の区画の中央部あたりには、壁際の高い位置にクリスタルスイッチがしつらえられていた。
リンクがいまいる手前側の区画は、先に進もうとしても石造りの壁に阻まれている。リンクは矢を弓につがえ、柵の向こうにあるクリスタルスイッチを狙って撃った。
矢が命中し、作動音がすると石造りの壁が左に動いた。先に進める。だが、先の区画に蜥蜴男がいた。相手がこちらに気づく前に、リンクは反射的に矢をもう一本弓につがえて敵を狙い撃った。
肩口に矢を受けた蜥蜴男が苦痛の呻き声を上げた。リンクは弓を背負うと剣を抜いて相手に駆け寄りジャンプ斬りを叩きつけ、さらに回転斬りを放って息の根を止めた。
だが、物陰からもう一匹の敵が飛び出してきた。リンクはそいつの突進を前転してかわすと、素早く盾を下ろして構え向き直った。
そいつは全身を鉄の鎧で固めた小柄な竜のような外見をしていた。背の高さは人間と変わらないが、片手に円盾、もう片方の手には戦斧を持ち、尻尾にも斧の刃のような武器がつけていて、身軽に身体を上下させながらこちらを攻める機会を伺っていた。
リンクは距離を詰めた。だが相手もうかつには攻めてこない。蜥蜴男に比べると手練れのようだ。双方の息づかいと、靴が床を擦る音だけが響く。リンクたちがいる区画の奥側には、柵の代わりに稲妻のようなものが左右に走っているのが視界の隅に見えた。リンクはそちらに近づかないよう用心深く足を運んだ。
敵が身を沈めた。尾につけた刃での攻撃が横から来た。リンクは盾を支えて受けると前進して剣を振り下ろした。縦斬り、横斬りと連続して放つ。だが敵は巧みに円盾を操ってそれを防いだ。
その刹那、リンクは盾を突き出して強烈な盾アタックを叩きつけた。敵がぐらついた瞬間を見逃さず、跳躍すると前転しながらその頭部に刃を叩き込んだ。さらに、着地しざま回転斬りを放つ。
強い攻撃を続けざまに食らった敵が倒れたところを、リンクは剣を逆手に持って止めを刺そうとした。だが鎧竜男は素早く立ち上がると武器を構え直した。凄まじい闘志だ。
リンクの腹の底にも猛然たる闘志が湧いてきた。それならとことんまで付き合うまでだ。敵は頭部から夥しく血を流しながらも盾と戦斧を油断なく構えている。
今度はリンクが動いた。前にステップして中段に突きを繰り出す。敵が円盾を下げて防いだ。その瞬間に渾身のジャンプ斬りを叩きつけた。
刃が敵の頭に当たり、敵が再び倒れた。だが、驚異的回復力で立ち上がろうとしている。リンクはその後ろに回り込むと、立ち上がったところで背中に強烈な袈裟斬りをかました。さらに連続で突きを四度食らわし、鍔に至るまで剣の刀身を敵の鎧の間からその身体に食い込ませた。
ようやく勝負がつき、竜男は崩れ落ちてその身体がボロボロと崩壊し始めた。
リンクは弓を取ると、矢をつがえて奥側の区画のクリスタルスイッチを狙い撃った。さらに先のほうにあった石造りの壁が動いた。
リンクは弓を背負うと油断なく前進した。予想通りもう一匹の敵がいた。鎧竜男だ。
リンクは相手が駆け寄ってくるのと同時にこちらからもダッシュし、いきなり盾アタックを仕掛けた。奇襲によろめいたところを跳躍して前転し頭に剣を叩き込んだ。着地しざま背後から縦斬り、横斬りを叩きつけ、間髪を入れず回転斬りで打ち倒した。
それでも立ち上がろうとしている敵の後ろに回り込み、背中からジャンプ斬りを浴びせ、さらに左右袈裟斬りから突きを放った。ようやく敵が崩れ落ち、リンクは肩で息をしながら血払いして剣を納めた。
現在いる区画の奥側には巨体な鐘が鎮座している。リンクは弓を構えて矢をつがえ、左の奥側の区画にあるクリスタルスイッチを狙って撃った。
作動音がして、リンクがいる区画の先にあった石造りの壁が横に動いた。
その先に敵はいなかった。通路は右に折れて昇り階段になっている。階段を登ると、突き当たりは扉になっていた。
扉を押し上げて向こう側に出る。そこは最初に釣り鐘を見た部屋に似ていた。広い円形で、部屋の中央にしつらえられた天蓋の下に例の巨大な鐘がぶら下がっている。天蓋からこちら側の頭上の壁までは梁が伸びていた。
部屋の右手奥から階段が壁に沿って上っている。その階段はリンクたちが入ってきた入り口から見て丁度部屋の向かい側で巨大な天秤のような装置に至っていた。その天秤の左側から高い通路が左手に続いているようだ。
だが、部屋の奥のほうには例の蜘蛛たちがうじゃうじゃといた。大きいのも小さいのも両方だ。
「ミドナ、少し隠れて目をつぶっていてくれたほうがいいよ」
リンクは剣を抜くとミドナに声をかけた。
「言われなくてもそうさせてもらう。通り抜けたら声をかけてくれ」
ミドナはまだ不機嫌そうな声で言った。リンクは階段の方に向かって歩きながら剣を振り回した。白い蜘蛛どもを次々潰していきながらそこを素早く駆け抜け階段に到達した。
だが階段の途中には大蜘蛛がいる。リンクに気づくと頭の正面にある一つ目でギロリと睨んできた。リンクはなんども剣を振り下ろしてそいつを大人しくさせた。
剣を納め、階段を昇り切って天秤の手前まで来たところでミドナに声をかけた。
「ミドナ、もう出てきていいよ」
彼女は姿を表したが、階下の床にまだ多数の蜘蛛たちがいるのを見て怖気を振るった声で言った。
「おい、まだあんなにいるじゃないか」
「とにかく早くここを抜けたいと思ったんだ。大丈夫、もうあそこは通らないよ」
リンクは請け合うと、巨大天秤の方を見た。
「なんだか頓知を試されそうな仕掛けだね」
「とにかく早く解いてくれ。私はあんな蜘蛛どもと同じ部屋にいるのも嫌だ」
ミドナは顔を覆うと隠れてしまった。リンクはやれやれと溜め息をつくと、天秤の上に足を踏み出して乗った。
すると今乗っている天秤が落ち、もう片方が上がった。見ると、両方の天秤にあの小さな黒い金属の像が一つづつ乗っている。
リンクは自分のいる天秤に乗っている像を持ち上げると、もう一つの天秤に投げ上げた。すると、両方の天秤が平行になった。どうやらあの像は二つでちょうどリンクと同じ重さのようだ。
だが、このまま先に進んだら向こうの天秤が大きく沈んでしまう。リンクは周囲を見回した。ふと上を見ると、天井の真ん中に金属の浮き彫りの紋章がついている。その下は丁度鐘を覆う天蓋の真上だ。
あの紋章にクローショットで届くかも知れない。リンクは腰にかけたクローショットを右手に嵌めると、天秤の縁ギリギリに立ってみた。紋章を狙って撃つと、飛んで行った鉤爪が紋章に引っ掛かり、リンクはたちまち引き上げられた。
鉤爪を開いて天蓋の上に飛び降りると、梁の上を歩いてみた。梁は入ってきた入り口の真上の壁に突き当たって終わっている。
その壁にはレールが設置され左右に伸びていた。ただし、右手のほうは途中で壁に穴が開いており断ち切られていた。リンクはミドナに頼んでスピナーを出してもらうと、すれを起動しレールの左手に向かって体重移動した。
スピナーがレールに嵌まり、高速で左手に移動し始めた。壁沿いに走ると、天秤の上側にあるバルコニーに到達した。
リンクはスピナーから降りた。バルコニーを進むと、中程には壁側に扉がある。リンクは扉を開けて向こうに出た。
その中は薄暗い部屋だった。縦横三十メートル四方ほどで、正面奥には戦士の石像が立っていた。その他にも、湖底の神殿で装具した巨大な兜を被ったずんぐりした蜥蜴がのような動物が二匹いた。石像の背後には金属の柵で隔てられた小部屋がある。奥には高い舞台がしつらえてあった。
リンクは腰にかけたクローショットを右手に嵌めると、用心深くずんぐり蜥蜴に近寄った。右手の個体に狙いを定めると、クローショットを撃った。鉤爪が兜を引き剥がして引き寄せた。リンクはもう一匹にも狙いをつけて撃ち、兜を引き剥がすと、剣を抜いた。
一匹のずんぐり蜥蜴がこちらに気づいて突進してきた。横っ飛びにかわすと、背後からジャンプ斬りを叩きつけて倒した。もう一匹に歩み寄って攻撃を誘う。突進してきたところに突きを食らわせた、縦斬りを二度と叩きつけて息の根を止めた。
だが、その頃には石像がこちらに反応し始めていた。身体の紋様に青い光が宿り、こちらに歩きながら槌を振りかざす。
リンクは後退すると、剣を納めてミドナに爆弾袋を出してもらった。爆弾を一つ取り出してその底面に矢を刺し込むと、導火線に点火し、弓につがえた。
石像の横に回り込み、その背面の装置に爆弾矢を放った。爆発で石像が狂い、でたらめに動いた末バラバラに壊れた。
リンクはミドナに爆弾袋を仕舞ってもらうと、奥の突き当たりの柵を調べた。柵の向こうには黒い石のような材質の大きな箱がある。だが、柵は固く閉ざされており、開けるスイッチらしきものは見えるところには無いようだ。
リンクは部屋の中央に戻ると上を見上げた。奥の高い舞台の上の天井に、金属の浮き彫りが施された紋章がある。リンクはクローショットでその紋章を狙って撃った。たちまち引き上げられたリンクは舞台の上に降り立った。
舞台の上には、四角い金属のスイッチが四つ、広い間隔を開けて配置されていた。舞台の左右の隅に小さな黒い像が置いてあり、奥には金属の箱がある。箱に歩み寄り蓋を開けると赤ルピーが入っていた。
財布にルピーを仕舞うと、リンクは二つの像を一つづつ運ぶと、スイッチの上に置いた。だが、あと二つのスイッチがある。リンクは何か乗せる物を探そうとしていて、下の床にずんぐり蜥蜴の兜があることに気づいた。
舞台の縁に立つと、クローショットで床に落ちた兜を狙い撃ち、手元に引き寄せた。それをスイッチの上に乗せると、もう一つの兜も同じように引き寄せ、空いたスイッチの上に置いた。
四つのスイッチが押し下げられると作動音がした。リンクが舞台の縁から覗き込むと、金属の柵が開いている。舞台から飛び降り、黒い箱に近づくと蓋を開けた。中には黒い金属でできた大きな鍵が入っていた。
鍵をポーチに仕舞うと、リンクは入ってきた扉から部屋の外に出た。バルコニーは右手に伸びており、下を覗くと天秤の先にある通路だ。リンクは下に飛び降に降りた。
右手には壁の中途に小部屋があり、巨大な鐘がぶら下がったいる。通路の南の端まで進むと扉があった。扉を開けると、短い廊下の先に円形の部屋があった。
部屋の中央には警備装置がある。さらに、棘付き独楽が何個か、警備装置を中心にして部屋じゅうを走り回っている。
部屋の正面向こう側には出窓があり、そこには巨大な鐘がぶら下がっている。右手、すなわち西側には先に進む通路がある。だが、独楽装置の群れは右回りに回っている。リンクはまず、左から回り込んで出窓を目指すことにした。
独楽装置の走行速度を見極め部屋の中に飛び出すと、ダッシュで出窓に走り寄った。どうにか無事に出窓にたどり着いてよじ登ると、独楽装置の動きをよく見てから西側にある通路めがけて走った。
ようやく無事に部屋を抜けられた。通路は昇り階段になっており、その先には新しい部屋があるようだ。階段を登っていくと、終端のあたりに蜥蜴男が立っている。リンクは背中から盾を下ろすと剣を抜いた。
階段を登っていくと敵がこちらに気づいた。剣を構え駆け寄ってくるのを待ち構え、盾アタックで怯ませると跳躍して敵の頭を断ち割った。
その蜥蜴男が崩れ落ちた物音に気づいたのか、部屋の中にいた新手の二匹がこちらに顔を出した。リンクは盾を油断なく構えて階段を登った。部屋の中に足を踏み入れる手前に陣取ると、二匹の蜥蜴男が戦闘態勢で出迎えた。
相手が間合いを詰めてくる。リンクは右手の一匹にいきなり突きを食らわせて先制した。左手の一匹が身を沈める。尻尾攻撃だ。リンクはバックホップした。
目の前を、蜥蜴男の尻尾に付いた斧の刃がかすめる。リンクはすかさずジャンプ斬りを放ち、左手の一匹に叩きつけた。着地と同時に回転斬りを繰り出す。目の前の一匹が腹に深手を負って崩れ落ちる。
背後の一匹にも回転斬りが当たった感触があった。だがまだ致命傷ではない。肩越しに見ると、よろめいたもののまた立ち直った。リンクは向き直ると盾を上げてそいつの刀の一撃を逸らし、左右袈裟斬りに斬り捨てた。
リンクは部屋の中に出た。そこは幅十五メートル余りの四半円形の広間で、目の前には左右に伸びる金属の柵があり、その向こうにある廊下は右手の方へ向かい別の部屋につながっているようだ。
左手には、大きな窓のある区画があり、そこには木製の大きな箱が置いてある。だがそこに至るまでには障害物があった。途中、幅三メートル、奥行き十メートルほどの縦に走る短い廊下があり、その場所を棘つきの鉄製の棒が床を自動で転がりながら行き来している。さらには、窓の区画の手前には巨大な斧の刃のようなものが天井から吊り下げられて左右に揺れている。
リンクはまず棘つき棒の移動周期を見極め、縦の廊下を素早く横切ると、巨大斧の刃の手前で立ち止まった。次にその刃をかわして先に行くと、窓際の床に置いてあった木製の大きな箱に近づいてその蓋を開けた。中身は小さな金属の鍵だ。
鍵を仕舞うと、今度は振り返って先の部屋に進む経路を確認した。
だが思ったより難しいことがわかった。巨大斧の刃の先にある、棘つき棒が転がる廊下の左手奥がもう一つの同じような廊下につながっていて、そこにも棘つき棒が自動で行き来していた。その右手の奥は先に進む廊下につながっているが、右手の手前側が柵で隔てられているので、ここからは直接アクセスできなくなっている。
さらによく見ると、先に行く廊下の途中が、両の壁から走る稲妻の柵で塞がれていた。その手前の床に四角い金属のスイッチがあるところを見ると、像か壺を運んでその上に置く必要がありそうだ。
廊下の左手には、柵で隔てられ、壺や小さな金属の像が置いてある行き止まりの区画がある。
リンクはタイミングを見計らい、巨大斧の刃をかいくぐると、棘つき棒が転がる廊下を二つ横切り、行き止まりの区画に飛び込んだ。そこで小さな金属の像を抱えると、棘つき棒が転がっているもう一つの廊下を素早く走り抜け、なんとか先に行く廊下にたどり着いた。
四角い金属のスイッチの上に像を置くと、果たして稲妻の柵が消えた。先に進むと、短い階段の先に縦長の部屋がある。
部屋の床はやや低い。奥の突き当たりの壁際には戦士の石像が二体あり、右手には少し高い段差の上に金属の柵がある。見取り図を見ると、その先が建物の最上部のようだ。
だが、床の上にはそこらじゅうを白い蜘蛛が這いまわっていた。リンクは考えた。床に足を踏み入れたら、蜘蛛と戦っている間に戦士の石像どもが動き始めるだろう。蜘蛛の大群に加え石像も二体いるから面倒だ。
だが、石像は壁とほぼ接しているから、爆弾矢をその後ろの壁に正確に当てれば間接的に爆風が石像の背中にも当たるはずだ。
リンクはミドナに爆弾袋を出してもらい、そこから爆弾を二つ取り出すと、爆弾矢を二つ拵えた。弓を持ち、爆弾の導火線に点火すると、矢につがえて左手の石像のすぐ後ろの壁を狙った。放つと爆弾は狙ったところで爆弾した。成功だ。石像は狂ったように歩き回りながら槌を振りかざし、最後にはバラバラに壊れてしまった。
リンクはもう一つの石像も同じように始末すると、ミドナに爆弾袋を収納してもらった。
石像が二つとも壊れると、部屋の右手にあった柵が開いた。だが、蜘蛛が床に大量にいる。リンクは思い切って床に飛び降りると、金属の柵が開いて箇所に向かって走った。急いで段差をよじ登ると、どうやら蜘蛛どもはそこまでは追って来ないようだ。
段差の上は短い廊下が伸びていて、ど真ん中に巨大な鐘が据えてある。その先は扉だ。
扉に歩み寄って押し上げると、リンクは向こう側に出た。途端に背後の扉の上から金属の格子が降りてきた。
閉じ込められたらしい。
「ミドナ、聞こえるか?」
リンクは話しかけた。
「リンク、蜘蛛たちはもういないんだな?」
ミドナが尋ねてきた。
「ああ、もういない。安心していいよ」
リンクが答えると彼女は姿を現した。
「冗談も大概にしてほしいもんだな。こんなに蜘蛛だらけじゃあ建物ごと火をつけてやらなきゃダメなんじゃないか?」
「まあ抑えてくれよ。ここが最後の部屋だよ」
リンクは言った。周囲は薄暗い。短い廊下の終端近く、すぐ目の前の天井から巨大な鐘がぶら下がっている。
その先はべらぼうに広い部屋だった。直径百メートルはあろうかという大きさで、円形の壁にはステンドグラスが施され、天井は立派な丸屋根だ。
「まだ一階の部屋の正面の扉を開けていないぞ」
ミドナが言った。
「そうだったね。あれを開けるにはやっぱり石像が‥‥」
リンクはそう言いかけて気づいた。部屋の正面の壁の高所にしつらえられた台座に石像がある。兜、怒らせた肩、両手で捧げ持った槌。間違いない。
だが、視線を落とすと、リンクはその下に人影が立っていることに気づいた。
魔物か?リンクは盾を背中から下ろし、剣の柄に手を掛けた。
目を凝らすと、その人影は兜を被り全身を装甲で固めた鎧武者だった。顔までが鉄でできた面甲に覆われている。その足元に巨大な盾が置かれ、その両手は床に立てられた剣の柄頭に置かれている。だが、剣と言ってもその長さはリンクの身長より長く、幅もその胴体ほどはありそうだ。
よく見てみると、その武者の身長も明らかに尋常ではなかった。二メートル半ほどもあり、肩幅も異様に広い。
「何者だ」
リンクは誰何した。鎧武者は低い笑い声を漏らすと言葉を発した。
「勇者と聞いてどれほど屈強な偉丈夫かと思っておったがほんの子供ではないか」
古めかしい言葉遣いだが間違いない。ハイラル語だ。魔物が言葉をしゃべった?リンクは混乱した。
「お前は魔物か?それとも人間か?どっちなんだ」
リンクは続けて問うた。だが鎧武者は鼻で笑うと、片手で足元の盾を持ち上げた。
「愚問というものよ。余は人でも魔物でもない。それらよりはるかに優れておる。貴様はすぐ知ることとなろう」
「人でも魔物でもないだと?」
ミドナが尋ねた。
「幾多の手術に耐えたこの身体、膂力で余に勝る男などおりはしない。若き頃から磨いた余の剣に魔物の力を加うれば貴様のごとき小わっぱなど赤子同然。張り合いもないわ」
鎧武者は剣を軽々と片手で持つと、凄まじい風鳴りの音を立ててそれを振った。
「さあ小わっぱめ、かかって来い。貴様でも黄泉から目を覚ました余の無聊を晴らすくらいの役には立とう」
リンクは剣を抜くと盾を構え、用心深い足取りで鎧武者に近づいた。相手は見上げるほどの背の高さだ。
「ハイブリッド兵士‥‥」
ミドナが呟いた。
「‥‥こいつが完成形だったんだ!」