黄昏の姫と緑の勇者   作:nocomimi

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忘れられた里

レナードはリンクの肩に手を置いた。

 

「君にも手伝って欲しい。イリアの記憶が戻るかも知れないぞ」

 

リンクは一も二もなく頷いた。まさか自分とミドナが探している天空人の住処がイリアの記憶と関連しているとは。リンクは驚くと同時に胸に希望が広がっていくのを感じた。

 

「僕にできることがあれば何でも言ってください」

 

「そう言ってくれると思っていたよ。そこでなんだが」

 

レナードは懐から封された手紙を取り出した。

 

「この手紙をテルマさんに渡してほしいんだ。確かイリアは城下町でテルマさんの世話になっていたと聞く。彼女ならイリアが見つかったときの状況を誰よりも詳しく知っているはずだからね。そしてイリアが助けられるまで何を見聞きしたのかを遡って突き止めようというわけだ」

 

「わかりました。明朝出発して渡しに行きます」

 

「それと、これは余計な話なんだが」

 

ここまで話すとレナードは口ごもった。

 

「私はどうも彼女が苦手でね。君が間に入ってくれると助かるんだ」

 

「わかりました。任せてください」

 

リンクは手紙を受けとるとポーチにしまった。

 

「リンク。実はこれとは別に君に私からの個人的な頼みがあるんだ」

 

レナードはやや神妙な顔をして付け加えた。

 

「なんでしょう?」

 

リンクも不思議に思って祭司の顔を見上げた。

 

「実は最近、墓地に幽霊が出ると村人たちから苦情が来ていてね。人口が戻ることで墓参りに行く人も増えたんだが、墓の近くにいるときに目に見えない何者かに嫌がらせをされたという村民が多数出てきたんだ。本来こういうことは祭司である私の領分なのかもしれないが‥‥」

 

レナードは口惜しそうに首を振った。

 

「私がなにをやってもそいつを追い払うことができなかったんだ。だから単なる幽霊ではなくて魔物かもしれない。リンク、君の力でなんとかならないだろうか?」

 

「そんなことでしたか。大丈夫。僕が追い払ってみせますよ」

 

リンクは笑顔を浮かべて請け合った。二人のゴロンとレナードおよびルダに挨拶すると、イリアが傍らに近づいてきた。

 

「剣士さま」

 

「イリア、テルマさんに会って手掛かりを見つけて来るよ。期待して待っててくれ」

 

リンクは微笑んでイリアに言った。

 

「剣士さま。いつもいつもありがとうございます」

 

イリアは頭を下げて丁寧にお辞儀をしてきた。

 

「そんな風に他人行儀にする必要はないよ。僕らは同い年だろ?」

 

リンクは笑った。

 

「でも、お忙しい剣士さまに時間を割いていただくのは申し訳ないですわ。赤の他人の私のために‥‥」

 

リンクはその言葉を聞いた途端冷や水を浴びせられた気がした。赤の他人。少しの手掛かりが見つかったとしても、今も変わらずイリアにとってのリンクは赤の他人なのだ。

 

リンクはやや悄然として礼拝所を出た。目抜き通りに目をやると、日没までやや時間があるが、村人たちのうちの幾人かは仕事場から戻りはじめていた。

 

溜め息をつくと、リンクは礼拝所の裏から墓地の方に向かう小道に入った。坂道を登っていくと、いつもは昼間でも陰鬱な墓地にちょうど西日が射してきているところだった。

 

墓地に足を踏み入れて周囲を見回してみたが、特段怪しげな物は見当たらない。墓石と、枯れかかった木と、その上を飛ぶ烏の群れだけだ。

 

「おいリンク、幽霊はまだこんな時間帯には出てこないんじゃあないか?」

 

ミドナが姿を消したまま耳の中で囁いた。

 

「それもそうだったよ」

 

リンクは頭を掻いた。墓石の間を横切り、奥の石舞台の階段を登ると、突き当たりの岩の崖に背中を預けて地面に腰かけた。

 

西日に照らされながらリンクは物思いにふけった。イリアの記憶は本当に戻るのだろうか。いや、そもそも彼女自身、記憶を取り戻すことを本当に望んでいるのだろうか?

 

リンクはまた、モイのことを考えた。折角フィローネの森の奥で見つけた神殿での冒険をやり遂げたのに、その結果も報告できずじまいだった。ラフレルのあの様子から考えると、自分が彼ら四人の仲間に加えてもらえることは決してないだろう。

 

胸のうちのやるせない思いに包まれながらも、暖かい夕日を浴びてリンクは夢うつつに落ちていった。いつの間にか墓地の石舞台の上ではなく白い霧の広がる平原にいる自分に気づいて、リンクは立ち上がった。

 

狼の遠吠えが聞こえる。リンクが背後を振り返ると、既にそこには骸骨剣士の姿があった。

 

胸に懐かしさが込み上げてきたが、相手が盾を構え剣を持ち上げたのを見て、リンクはすぐ気を引き締めた。お互い世間話をしに来たのではないのだ。

 

リンクは剣を抜かず、骸骨剣士のほうに歩み寄った。何度やっても冷や汗が出る。相手の剣の間合いに近づいていくと、それだけで身を切られそうな緊張感が走る。

 

全神経を五感に集中する。今だろうか。いや、まだだ。既にリンクは相手の攻撃範囲に入っていた。呼吸が浅くなりそうになるのを必死で抑える。リンクがさらに一歩を踏み出そうとした瞬間、頭の中で何かが鳴った。

 

リンクは身を沈めながら剣の柄に手を伸ばした。骸骨剣士は袈裟斬りに剣を振り下ろしてくる。体を中心軸から回転させたリンクの帽子を相手の切っ先がかすめる。

 

抜き放ったリンクの剣が骸骨剣士の盾の脇を削り取り、その胴体を肩から斬り下ろした。直撃だ。骸骨剣士は膝を突いて地面に崩れ落ちた。

 

「我が奥義『居合い斬り』確かにおのれのものとしたようだな」

 

骸骨剣士は立ち上がると頷いて言った。

 

「先生、ありがとうございます。僕はこの技を教えてもらったことで成長できたと思います」

 

リンクは剣を納めると言った。

 

「勇なき剣に力は宿らぬ。これが最初にそなたに教えたこと。そしてわが奥義は常にこの教えに戻ってくるようにできておる」

 

骸骨剣士はリンクの心を読んだかのように答えた。

 

「敵の刃を前にして抜かざるは最も勇を試される。そなたが多少なりともそれを経験したのならば、次なる我が奥義を会得することもできよう」

 

「先生、僕に教えてください。次の奥義を」

 

リンクは請うた。

 

「次なる技は使い方を誤ればそなた自身の身にも危険を及ぼす技だ。それでも身に付けたいと思うか?」

 

「はい」

 

問われてリンクは即答した。

 

「よかろう」

 

骸骨剣士は頷いた。

 

「ならば我が奥義『大ジャンプ斬り』をそなたに授けよう」

 

骸骨剣士は、剣の柄に左手を添えて上段に構え、やや両の脚を開き気味にして腰を落とすと、摺り足でリンクとの距離を詰めてきた。

 

次の瞬間、骸骨剣士が裂帛の気合いと共に剣を振り上げ、大きく跳躍するとリンクの目の前の地面に剣を叩きつけるように振り下ろした。衝撃波がぶつかってきて、リンクは思わずよろめいた。

 

「剣を構え、力を溜め、一気に爆発させる」

 

骸骨剣士は説明した。

 

「構えろ」

 

見たままに真似をして上段に剣を構えると、骸骨剣士はリンクの膝や腰に手を添えてその構えを修正した。重心を低くしつつ、上に向けて跳び出そうとする力をギリギリまで溜め込むのがコツと分かってきた。

 

「今だ」

 

師の合図でリンクは力を一気に爆発させた。気合いとともに飛び上がったあと地面に斬撃を叩きつける。衝撃波の風圧で周辺の霧が吹き飛んだ。

 

「実戦では敵の群れが近づいたときどれほど引き付けられるかが肝要だ。やってみろ」

 

次に骸骨剣士は自らのその姿を三人に増やした。横並びになった骸骨剣士の幻影が盾を持ち上げ剣を構えながらリンクに接近してくる。

 

リンクは再び構えた。両手を使った上段の構えでは自らを盾で防御することができず、また腰を落とした状態では左右や後ろにホップして敵の攻撃を回避することもできない。文字通りの読み合いと神経戦だ。

 

仮想敵となった骸骨剣士たちが近づく。間合いまであと少しだ。性急に斬りかかってしまいそうになるのをこらえる。

 

今だ。リンクは相手がこちらの間合いに入った瞬間に力を解放した。ジャンプし着地した際に斬撃を真ん中の骸骨剣士にぶつけた。

 

衝撃波が広がり、三人の骸骨剣士の幻影が薙ぎ倒された。成功だ。

 

すぐに分身の幻影が消え去り、また一人の姿に戻った骸骨剣士は立ち上がった。

 

「そなたに伝えるべき奥義も残るところあと一つとなった」

 

骸骨剣士は言った。

 

「そなたは、勇者に必要な力を十分に身に付けたようだ」

 

「本当でしょうか?」

 

リンクは師の意外な言葉に驚きを感じた。

 

「振り返ると僕はたくさんの敵を倒してきたように思います。でも僕は世間一般で思われているような勇者の姿と自分がなんだか違うような気がしているんです」

 

リンクは俯いた。

 

「僕はいつも誰かに助けてもらっていますし、勝つときだって大抵ギリギリなんです。自分に十分な力がついたなんてなんだか実感が湧きません」

 

「力に裏打ちされた勇こそが勇者に必要なもの。だがそれは一朝一夕で身につくものではない。だからこそそなたは多くの戦いを通じてその勇を試されてきたのだ」

 

骸骨剣士は答えた。

 

「このまま進むがよい。そなたはいま真の勇者の道を歩いておる。迷う必要もなければ怯む必要もない」

 

リンクは、ゲイルが言ってくれた言葉を思い出した。いまリンクは「正しい方向」に進んでいると。ラフレルたちとの会話で落胆していた心が少しづつ晴れてきたような気がした。

 

「また会おう」

 

骸骨剣士はリンクに背を向けた。その後ろ姿に声をかけようとした瞬間、リンクは急速に目を覚ました。辺りはとっぷりと日の暮れた墓地だ。

 

「おい、お目覚めか?」

 

ミドナが姿を現した。

 

「ごめん、どれくらい時間が経ったんだろう?」

 

リンクは慌てて体を起こした。

 

「一時間と少しってところだ。おい、あれを見てみろよ」

 

ミドナが指差す先を見ると、墓地の中心に近い箇所にある土の盛り上がった箇所に立った墓石の上に幽霊のカンテラが浮かんでいた。

 

「幽霊狩りをやるっていうなら早いところ終わらせよう」

 

リンクは頷いた。服を脱ぐと、早速ミドナが狼の姿に変えてくれた。リンクは石舞台を飛び降りると、墓石の間を縫って幽霊に近づいていった。

 

感覚を研ぎ澄ませて目を凝らすと、大鎌を携えカンテラを足からぶら下げた幽霊だ。リンクは唸り声を上げて近づいた。相手もリンクに気づいたようで、乾いた不気味な笑い声を上げながらこちらに浮遊してきた。

 

リンクはやにわに突進すると敵が武器を構える前に跳躍して痛烈な一撃を与えた。グラリと体勢を崩した幽霊は慌てて武器を構え直すとこちらに向き直った。リンクは姿勢を低くして狙いを定めると、高くジャンプして相手の身体の真ん中に顎の一撃を加えた。

 

落下して地面に倒れた幽霊にのしかかると、リンクはその魂の塊を噛み千切った。それを脇の地面に吐き捨てると幽霊の身体がたちまち爆発するような音を立てて消え去った。

 

ミドナが幽霊の魂の塊を収納すると、リンクを人間の姿に戻した。リンクは服を着直すと墓地を横切って小道を下り、礼拝所へ戻った。

 

礼拝所に入ると、ゴロンたちは既に鉱山に戻ったのか姿が見えない。コリン、タロ、マロそしてベスが帰ってきており、イリアとルダを手伝って夕食の配膳をしていた。

 

マロを除く三人の子供たちは大喜びしてリンクの隣に座りたがった。やがてゴロンたちを見送っていたレナードも戻り、皆で夕食を囲んだ。

 

イリアは相変わらず他人行儀で、リンクは彼女と遠い距離を感じた。その態度に何の悪気もないということが余計にリンクの胸の苦しさを増すのだった。だが今は仕方がないのだ。リンクは子供たち三人と会話しながら夕食を楽しむよう努めた。

 

翌朝、リンクは夜が明けるよりだいぶ前に寝床を畳み礼拝所から出た。まず泉のほとりに行って、エポナの体を洗い、コリンが集めておいてくれた飼い葉をたっぷり彼女の目の前に置いた。そして物陰に入ってミドナに狼の姿に変えてもらうと、城下町の東門前のポータルにワープした。そこで服を着て装備を身に付けると、跳ね橋を渡って門をくぐり、東通りから中央噴水広場を経由して目抜き通りに折れた。

 

人気のない目抜き通りを南下して、酒場への道に折れる。広場を横切って酒場の扉を開くと、ちょうどテルマが店内を片付けているところだった。

 

「リンク、どうしたんだい、昨日の今日じゃあないか」

 

テルマはびっくりしつつもリンクを笑顔で迎えてくれた。客が皆帰ったのを見計らったのか、猫のルイーズもカウンターの上に出てきて寛いでいる。リンクは猫を撫でてやると、ポーチから手紙を取り出してテルマに渡した。

 

「実はレナード先生から手紙をことづかったんです」

 

テルマはレナードの名前を聞くとたちまち顔を輝かせた。リンクの手から手紙を受け取ると、慌ただしく封を切って読み始めた。だが、読み終わったころにはやや落胆気味の表情になって溜め息をついた。

 

「なんだ、私のことは何も書いてないじゃないか」

 

「仕事終わりの時間にすみません」

 

リンクは頭を下げた。

 

「でもテルマさん、イリアの記憶を取り戻すために手掛かりが必要なんです」

 

「なるほどね。それなら私も手伝わないわけにはいかないね」

 

テルマは腕を組んで少し考えていたが、何かを思い付いたように手を打った。

 

「リンク、ゾーラの王子を最初に診察したお医者を覚えてるだろ?」

 

そう言われてリンクは思い出した。ラネール地方の影の領域を晴らしてから最初にこの酒場に来たときすれ違った偏屈そうな眼鏡の老人だ。

 

「実はね、イリアを最初に診察したのもあの爺さんなのさ。腐っても医者は医者だから、きっと診察中にイリアから聞き取ったことをちゃんと記録してるはずだよ」

 

テルマはそう言うと、カウンターの後ろにあった戸棚から紙を一枚取り出してリンクに差し出した。

 

「なんですか、これは?」

 

リンクが尋ねるとテルマがウィンクした。

 

「頑固爺さんがよく喋るようになる魔法の紙さ」

 

よく見ると、紙にはツケ飲みの代金として途方もない額が記載されている。あの医師はどうやら大酒飲みで、なおかつ金払いにはケチなようだ。

 

リンクは礼を言って紙をしまうと、閉店作業をするテルマを手伝って皿を洗い、テーブルと床を清掃した。店の前でテルマに別れを告げると、今度は目抜き通りに戻り、そこから西通りへ抜ける貧民街の小道を辿った。たしかあの医師の診療所は西門の近くにあったはずだ。明け方の街に人通りは少ない。

 

診療所の前に出たが、まだ朝が早すぎる。リンクは診療所の前で時間を潰した。小一時間ほどして、建物の中で人が動く気配がしたのでリンクは診療所の扉をノックしてみた。

 

扉が開き、中から分厚い眼鏡をかけ白衣を着た老人が顔を出した。

 

「なんじゃ、急患か?」

 

老人はリンクを頭のてっぺんから爪先まで眺め回したが、やがて思い出したように言った。

 

「ふん、一文にもならんのにゾーラの子供を助けたあの剣士の兄ちゃんか。急患じゃないんなら朝九時まで待つんじゃな」

 

「すみません、ちょっとお聞きしたいことがあるんです」

 

リンクはそう言うと、テルマからもらった請求書を取り出した。

 

「後じゃ後じゃ。まだ診療時間は始まっとらんぞ」

 

そう言って扉を閉めかけた老人は、リンクが差し出した紙片を見ると途端に動きを止めた。

 

「先生、イリアという女の子のことでお聞きしたいことがあるんです」

 

「いや‥‥‥そのな。代金はそのうち払うつもりじゃったんじゃよ。でも事情ができてな」

 

老人は口ごもった。

 

「お金のことはテルマさんと相談してください。ちょっと先生にお聞きしたいんです」

 

リンクはそう言って扉の間に身体をねじ込むと診療所の中に入った。イリアのためにも、そう簡単には追い返されるわけにはいかない。

 

「ん?あの娘のことか?あの娘がわしのことを何か言っとったのか?」

 

老人は困り果てた様子で頭を掻きながら入り口に接した待合室を歩き回ったあと、うろたえた様子でリンクに訴えた。

 

「本当なんじゃ。信じてくれ。もうすぐ金が入る予定じゃったんじゃ」

 

「いえ、お聞きしたいのはお金のことじゃないんです。先生がイリアを診察したとき、何かお気づきのことはありませんでしたか?」

 

リンクは尋ねた。

 

「いや、あの娘が持っていた木彫りの像を売れば金が入るはずじゃったのじゃ。ところがうっかりしてその像に薬品をこぼしてしまっての。それで、二階に干しておいたら、誰かに盗まれてしまったんじゃ」

 

老人は答えた。請求書によほどショックを受けたのか、リンクの話をあまり聞いていないようだ。

 

「全くひどい話じゃろ?人のものを盗むなんて全く、油断も隙もないじゃないか」

 

老医師はそう同意を求めると、部屋の右手にあるカーテンに仕切られた診察室に引っ込んでしまった。

 

「さ、仕事仕事‥‥」

 

要領を得ない老人とのやり取りにリンクは戸惑いながらも、木彫りの像という言葉に何か引っ掛かるものを感じた。イリアは村にいたとき木彫りの像など持っていたことはない。

 

それは誘拐されてから後に彼女が手に入れたものだ。リンクはそう確信した。そして、これ以上老人から何かを聞き出そうとするよりも、その像を手に入れてイリアに見せるほうが先決だと結論した。

 

リンクは診察室の外側にあるスペースを見回した。左手は、待合室からはカーテンで区切られているものの、奥に伸びた廊下から入れる病室兼資材置場だった。覗いてみると、薬品の瓶や布などが山積みになっている。

 

リンクはそこに身を滑り込ませると、物音を立てないようにあたりを調べた。診療所の入り口から見て奥の突き当たりの壁際に木箱が置いてあり、その裏側の壁に染みができている。

 

木箱をゆっくりと押してどけると、壁の染みを調べてみた。水でよく洗ったのか、色はおおかた取れているが、薄い緑色であることが見て取れた。鼻を近づけると、僅かに臭いがする。

 

「ミドナ、狼に変身させてくれないか」

 

リンクは小さな声でミドナに囁いた。装備を外して服を脱ぐと、すぐにミドナが狼の姿に変えてくれた。鼻を壁に近づけると、薬品の強烈な臭いがした。

 

リンクはその臭いをよく覚えると、その痕跡がどこに向かっているかを探った。鼻を利かせると、どうやら臭いは左手の棚を登っていっていると分かった。

 

リンクは木箱に乗ると、そこから棚の上に飛び上がった。そこから壁際に沿って狭いロフトが伸びており、南側にある出口からバルコニーにつながっている。

 

臭いはバルコニーに出ている。リンクは臭いを追って外に出た。さらに痕跡を辿ると、薬品の臭いはバルコニーを東に横切ったあと、目の前の西通りに降りていっていると思われた。

 

リンクはバルコニーから通りに飛び降りた。その途端に周囲から悲鳴が上がった。まだ人通りは多くはないとはいえ、通りを歩く町民に見咎められたのだ。

 

リンクは一瞬焦ったが、ここで逃げても何にもならない。周囲に巻き起こった騒ぎに構わず、鼻を利かせて臭いの向かった方向を探した。臭いはどうやら貧民街に向かっている。

 

リンクは臭いを辿って歩き始めた。南東に向かう貧民街を進むと、朝の早い町民が何人か壁際に縮こまって頭を抱えて震えている。怖がらせないよう素早く側を走り抜け、猫の集会所を左手に通り過ぎた。

 

臭いを追っているうち、リンクはいつしか目抜き通りに入っていた。臭いの痕跡は南下している。開店準備を始めた露店商たちがぎょっとして固まるのを尻目にリンクは臭いを辿って、テルマの酒場に向かう裏通りに入った。

 

テルマの酒場に戻った?リンクは戸惑いながらも、酒場の前の人気のない広場に降り立った。臭いに従って広場を横切ると、猫のルイーズが酒場の扉の隙間から出てきてこちらにやってきた。

 

「まったくあんたって人はどこまでお祭り騒ぎが好きなんだい?表がまたえらいことになってるじゃないか」

 

ルイーズがリンクの顔を見ると言った。リンクは答えようとしたが言葉が出ない。

 

そのとき、ミドナがリンクの傍らに姿を現した。

 

「おや、あの時の病人かい?ずいぶん元気になったもんだね」

 

ミドナに顔を近づけるとルイーズは言った。

 

「その節は世話になったな」

 

ミドナは挨拶すると、切り出した。

 

「お前に聞きたいことがある。あの町医者の爺さんから木彫りの像を盗んだってのはもしかするとお前か?」

 

「盗んだだって?」

 

ルイーズは首を傾げたが、すぐに思い出したようだ。

 

「盗んだって言やあ人聞きが悪いね。取り返してやっただけさね。あのジジイがあんまり汚いことをするので意趣返ししてやろうと思ってね」

 

「汚いことだと?」

 

ミドナは尋ねた。

 

「私は見てたのさ。あの娘、イリアが町医者の治療を受けたあとテルマは正規の料金を払ったのさ。なのに、あのジジイときたらテルマが席を外した隙に料金が足りないとかなんとか言って丸め込んだあげく、イリアの持ち物を勝手に探って木彫りの像を取り上げたのさ」

 

ルイーズは吐き捨てるように言った。

 

「自分は酒場にとんでもない額のツケがあるくせに、とんだごうつく野郎さ。それで鼻をあかしてやろうと思ってあたしがあいつの家に忍び込んだのさ」

 

「取り返した像は今も持っているのか?」

 

ミドナが聞いた。

 

「それがね‥‥あたしもその後ドジ踏んじまってね」

 

ルイーズは口惜しそうに言った。

 

「見つからないように城壁の外を通って逃げたはいいけど、途中で魔物に取り囲まれちまってね。それで像を置いて命からがら逃げてきたってわけさ」

 

「それはどのあたりだ?」

 

「城下町南側の平原さ。あそこは夜になると骸骨犬の群れが出るってことをうっかり忘れててね」

 

ミドナに問われてルイーズは答えた。

 

「あいつら何でも食うから今頃像も腹の中だろうね。でも胃袋も何にもないから、片っ端から倒せばいつかは取り返せるんだろうけど‥‥」

 

ルイーズがそう言うと、ミドナは請け合った。

 

「よく話してくれた。礼を言うぞ。その像は私たちが取り返してイリアに渡すから安心しろ」

 

リンクも別れの挨拶がわりにルイーズの顔に軽く鼻をこすり付けると、踵を返して目抜き通りに戻った。

 

目抜き通りにまたパニックが沸き起こった。だが、温泉水売りのゴロンの少年だけは騒がずに狼姿のリンクを物珍しげに見つめている。リンクは温泉水の屋台を通り過ぎると、南門から城下町を出た。

 

門前の回廊に出ると、ミドナが人間の姿に戻してくれた。服を着て装備を着けると、リンクはミドナに礼を言った。

 

「ありがとう、ルイーズと話してくれて。お陰で手掛かりが手に入りそうだね」

 

「ああいう頭の利く奴と話すのは私も嫌いではないからな。それに像が手に入れば天空への行き方も分かるかも知れないだろ?」

 

ミドナが答えた。

 

「そうだね。でも骸骨犬の群れなんて初めて聞いたよ。どのあたりで出るんだろう?」

 

「わからんが夜まで待つしかないだろう。それまでルピー探しでもしたらどうだ?」

 

ミドナに言われてリンクは周囲を見回した。だが、以前探索した結果では、この先の平原には目ぼしいルピー探しスポットはない。そこでリンクは金色の虫を探すことを思い立った。

 

階段を下りて、左側の植え込みをよく探してみると、木の幹にてんとう虫が止まっている。ピカピカ黄色く光っているから、もしかするとアゲハが探していたタイプかも知れない。リンクはそうっとその虫を捕まえると逃げられないようにポーチに閉じ込めた。これで五十ルピー相当なのだから掘り出し物だ。

 

だが、ルピーを探すとなるとこのあたりは難しい。リンクは以前のように城壁に近い見張り用の施設を探索することにした。前回ルピーを見つけた見張り塔の手前に、東西でペアになったもう一組の見張り塔がある。その西側の塔に近づくと、その天辺の見張り台の下に埋め込み式の灯籠がついていた。

 

リンクはミドナにクローショットを出してもらうと、その灯籠を狙って撃った。鉤爪が飛び出して灯籠に引っ掛かり、リンクはたちまち引き上げられた。灯籠につかまりながら見張り台の上を覗き込んだが、古びた壺散らばっているだけだ。灯籠の下には狭い足場がある。リンクはそこに飛び降りると辺りを見回した。

 

いま立っている場所の反対側にある見張り塔との間にはレールが渡されている。だが、もう一つの見張り塔の上にはこれと言って値打ちのあるものは無さそうだ。

 

だが、そこから南の方を見渡すと、眼下にある花壇の内側にしつらえられた噴水の真ん中に高い台があって、その上に大きな木の箱が置いてあるのが見えた。

 

その台の後ろには石造りの高い壁に囲まれた半円形の空堀かあった。スピナーでレールの上を走り加速してから飛び出せばそこに到達できそうだ。

 

リンクはミドナにスピナーを出してもらい、起動するとレールのほうに体重移動した。たちまちスピナーの歯車がレールに嵌まり、リンクは高速で移動し始めた。だが、飛び出すタイミングを見計らうのが難しい。スピナーはレールの終端にたどり着くと逆回転する仕組みになっていた。何度かレールの上を左右に往復したうえで、リンクは思い切って飛び出した。うまく空堀の中に飛び込むと、スピナーを降りて壁をよじ登り、木の箱が置いてある台に登ることができた。

 

木の箱を開けてみると、オレンジルピーが入っている。これは儲けものだ。リンクはルピーを財布にしまうと、台の下の噴水に降り、そこから回廊に戻った。

 

ルピー探しを終えてしまうと、昼時になったのでリンクは階段に座って食事をした。平原のほうを眺めると、はるか遠くにあるその南の終端の岩壁のあたりで何かが動いている。身体の色やシルエットを見ると大柄なゴロンの男のようだ。

 

九月の陽気の下、リンクはごろりと横になった。イリアの記憶は木彫りの像を見れば甦るだろうか。天空への手掛かりを見つければそれが記憶の糸につながるのだろうか。リンクは、今でもイリアのために戦うことには何の躊躇いも感じなかった。あのよそよそしくなってしまったイリアが元の彼女に戻ってくれるなら、骸骨犬の群れと戦うことなど少しも怖くない。

 

だが、リンクはもう一つの可能性に思い至って心が重くなった。もしかするとイリアが記憶を失くしたのは、誘拐された後あまりにも非道い目に遭ったからではないか?リンクは昔、モイから軍隊時代に戦場での過酷な経験がもとで記憶を失くした僚友がいたという話を聞かされたことがあった。

 

美しい妙齢の女を捕虜として手に入れた魔物どもが、彼女に指一本触れず紳士的な扱いをするなどとは考えにくい。筆舌に尽くしがたい辱しめを受けたイリアの心が、それに耐えきれずその記憶を昔の思い出もろとろも消し去ってしまったという可能性はないだろうか?

 

だとすれば、彼女の記憶を取り戻そうというこの試みそのものが、イリアの精神に耐え難い痛みをもたらすかもしれない。リンクは逡巡を感じた。自分のやっていることは本当に彼女の幸せのためになるのだろうか。記憶を失くしたままの、新しいイリアとしてこれからもずっとカカリコ村でレナードやルダに支えられながら生きるほうが幸せなのではないか?

 

リンクは溜め息をついた。胸のうちの痛みと戦いながら物思いに耽っていると、やがて日が傾き始めた。リンクはこのまま日没を迎え、骸骨犬どもが出てくるのを待ち受けることに決めた。

 

一時間ほどそのまま待っていると、太陽が西に沈み始め、空が夕焼け色に染まった。平原の南の終端にいたゴロンらしき男の影は変わらず同じ場所にいる。何かの作業をしているのかも知れないが、動作は緩慢だった。嫌々ながら気の向かない仕事をさせられているようだ。

 

太陽がすっかり沈んでしまうと、リンクは立ち上がった。

 

階段を下り切って平原に降り立つと、辺りを見回した。骸骨犬を見たことはないが、今まで骸骨系の魔物どもと戦った経験からすると、おそらく地面から這い出てくるかたちで出現するのだろう。

 

リンクは南に真っ直ぐ伸びる街道の上に立つと、盾を背中から下ろして左手に持ち、剣の柄に手を掛けながら待った。すっかり日が暮れて辺りは真っ暗だ。風にそよぐ草の音が僅かに聞こえる。時折、平原の西にある岩の柱の上の辺りを飛んでいる烏どもが鳴く声が響いてくる。

 

その時、平原のあちこちからゴソゴソという物音が聞こえてきた。四方八方からだ。目を凝らすと、草の間の土から動物のようなものが這い出てきている。いや、かつては動物だった者たちだ。一匹、また一匹と地表に姿を現すと、ゆっくりとリンクに近づいてきた。

 

骸骨犬どもは、文字通りの姿だった。全身が骨だけで出来ている。月明かりに目を凝らすと、肋骨の間に昨夜食べられたらしい小動物の死体が引っ掛かっている奴もいた。リンクは剣を抜くと、盾を用心深く構えた。

 

二匹ほどが間合いに入ると、リンクは続けざまに縦斬りを繰り出してその頭に叩きつけた。魔物どもはよろめいたがまだ倒れない。続けて横斬りで薙ぎ払う。ようやく力尽きた骸骨犬どもが崩れ落ちた。

 

だが、振り返ると後ろからも新手がヒタヒタと迫ってきている。リンクは引き付けてから回転斬りを繰り出した。斬撃を喰らった三匹ほどがよろめく。向き直って小刻みに突きを繰り出して全員大人しくさせた。

 

周囲を見回すとまだ大勢いる。一匹一匹はそれほど強くはないとはいえ、全方位から囲まれると不味い。リンクは移動しながらこちらから仕掛けることにした。

 

盾を掲げながら、手近にいた一匹に足早に近づく。相手がこちらに噛み付こうと体を低くした瞬間に隙を見て突きを放ち、次いで袈裟斬りに斬り捨てた。横から新手が一匹飛び付いてくるのを盾で弾き、縦斬りと横斬りで絶命させた。

 

後ろからも何匹もが押し寄せてくる。リンクは敵陣を切り崩したところから前方に進み出た。左右の土中からも新手が這い出してくる。向き直って数歩下がると、リンクは剣を両腕で上段に構え、腰を落とした。

 

骸骨犬どもが十匹近い群れとなってじわじわと近づいてくる。リンクは摺り足のまま後ろに下がると、相手が間合いに入るのを待った。

 

今だ。リンクは裂帛の気合いとともに飛び上がった。大ジャンプ斬りだ。力を思い切り解放し、斬撃を敵の群れの只中に放った。

 

先頭にいた骸骨犬が二匹ほどバラバラに崩壊し、周囲の何匹かが衝撃波にあおられて倒れた。リンクは着地するが早いが回転斬りを繰り出して周囲の生き残りを薙ぎ倒し、それでも立ち上がってくる骸骨犬どもを縦斬り、横斬り、さらには突きで次々と撃破していった。

 

戦闘が終わり、周囲に静けさが戻った。もはや動いている骸骨犬はいないようだ。リンクは盾を背負い、剣を納めた。足元に散らばる魔物どもの残骸は崩れ始めている。だが、戦った場所をよく捜索すると骸骨犬どもがいままで食べた物の未消化物がそこらじゅうに転がっているのがわかった。

 

月明かりに目を凝らして地面を探す。小動物の死体から人間の持ち物だったと思われる衣服まで雑多なものが散らばっている。その中で、リンクは十五センチほどの長さの木細工を見つけた。よく見ると精巧な彫りがなされており、芸術品としてはそれなりの値が付きそうだ。

 

リンクはそれを医者の言っていた木彫りの像だと見当をつけ、手拭いでよく拭いたうえでポーチに仕舞った。

 

「お待たせ、ミドナ。行こう」

 

リンクは声をかけた。装備を外して服を脱ぐと、ミドナに狼に変えてもらった。すぐに彼女がワープを開始し、二人の身体が中空に吸い込まれる。数秒後には、カカリコ村の泉の前に降り立っていた。

 

草むらの陰で再び服を着て装備を身に付けると、すぐに礼拝所に向かった。

 

礼拝所の扉を開けると、中では子供たちが台所でイリアとルダを手伝って夕食の後片付けをしていたところだった。リンクはイリアに声をかけた。

 

「剣士さま、もうお戻りなの?」

 

振り向いたイリアは驚きで目を見張った。リンクはルダにレナードを呼ぶように頼むと、イリアを後ろのベンチに座らせた。

 

レナードは書斎にいたらしく、すぐにやってきた。

 

「リンク、もう城下町に行ってきたのか?」

 

レナードも驚いて言った。

 

「祭司さま、手掛かりになりそうなものを見つけてきたんです」

 

リンクは言うと、ポーチから木彫りの像を取り出してイリアに手渡した。

 

リンクとレナードが固唾を飲んで見守るなか、イリアは像を手に取った。彼女は最初呆然とそれを見つめるだけだった。だが、何秒かすると、イリアは突然苦し気に頭を抱えて呻き始めた。レナードがすぐにイリアの隣に座り、彼女の背中をさするとともに、ルダを呼んで鎮静用の薬草茶を持ってくるよういいつけた。

 

「大丈夫だ。イリア、無理して思い出す必要はない。深呼吸して力を抜くんだ」

 

祭司は繰り返し話しかけながらイリアを落ち着かせ、ルダが持ってきた薬草茶を少しづつ飲ませた。子供たちも集まってきて心配そうに見守っていた。やがてイリアは気分が多少は良くなったのか、目を開けて皆に微笑みかけた。

 

「ごめんなさい、心配かけて。もう平気です」

 

リンクは心に罪悪感を感じた。やはり記憶を取り戻そうとする行為そのものが彼女には苦痛を呼び起こすのだ。リンクはレナードを見た。祭司はリンクの思いを悟ったのか、イリアの傍らから立ち上がるとリンクの手を引いて部屋の隅に引き寄せた。

 

「リンク、心配することはない。近頃、彼女の発作は軽く済むようになってきているんだ」

 

レナードはリンクの肩を抱いたままイリアのほうを見た。タロが濡らした手拭いを絞って持ってきたのを使って、コリンがイリアの額を拭っている。ベスは祭司に代わってその背中をさすっていた。

 

「おそらく彼女はこれから少しづつ何かを思い出すはずだよ」

 

その夜、リンクは皆の夕食の残りを頂いた後、子供たちと枕を並べて就寝した。不安感でなかなか寝付けなかった。そして、リンクの頭に浮かんだ最悪の推理はますます真実らしく思われてきた。やはり、イリアの心は誘拐されていた時の記憶を思い出すことを拒否しているのではないか?

 

翌朝の朝食後、レナードはイリアに仕事をさせずゆっくりと休ませると、人をやってゴロン長老のゴローネを呼んだ。リンクはコリンとタロとともに畑に出た。昼時に礼拝所に戻ってくると、ゴローネと族長のダルボスが既に来ていた。リンクはゴロンの二人に挨拶すると、イリアと向かい合わせに座ったレナードが対話療法をするのを後ろから見守った。

 

「私、思い出したんです」

 

ベンチに座ったイリアが小さな声で呟いた。

 

「私、どこかに監禁されていたんです。でもそこで私を助けてくれた人がいた。あの像はその人がくれたものなんです」

 

イリアはそこまで言うと、少し顔を歪めて頭に手をやった。

 

「でも、その場所がどこだったのか、思い出せない‥‥」

 

「わかった、イリア。今はそれで十分だ。無理をしなくていい」

 

レナードがイリアに言うと、彼女は目に涙を浮かべながら祭司を見上げた。

 

「ごめんなさい。皆さんがこんなに私のために頑張ってくれてるのに‥‥」

 

「思い出したぞ!」

 

そのとき唐突にドン・ゴローネが大声で叫んだ。その手にはイリアの木彫りの像が握られていた。皆がびっくりして長老を見た。

 

「祭司さんよ、この像はなあ、そんじょそこらで手に入るようなもんじゃあねえぞ」

 

ゴローネは立ち上がってレナードに歩み寄ると言った。

 

「長老、像に見覚えがあるのかね?」

 

祭司も驚いて尋ねた。

 

「俺の記憶が間違ってなけりゃ‥‥」

 

長老は眉をひそめて上を見上げた。

 

「この像は旧カカリコ村に住んでいたといわれるシーカー族のものさ。この装飾と紋様はそうそう他にあるもんじゃあねえ」

 

「旧カカリコ村?それはどこなんですか?」

 

リンクは長老に聞いた。

 

「ここからオルディン大橋を渡ってさらに北上したラネール地方との境目あたりさ」

 

長老は北の方角を指差すと言った。

 

「いわゆる『忘れられた里』だ。今じゃあ誰も住んじゃあいねえ‥‥少なくとも表向きはな」

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