黄昏の姫と緑の勇者   作:nocomimi

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暴虐の竜の都

「お前の今回の仕事は竜退治だな。抜かりはないな、リンク?」

 

ミドナは言った。竜退治。その言葉はいかにリンクといえども重く響いた。竜といえば魔物の中の最強のものだ。暴虐と炎と破壊の象徴。それが竜だ。

 

「ああ、やるよ。きっと倒してみせる」

 

リンクは答えた。

 

「おい、気負うなよ。お前ひとりでやるわけじゃないからな。私が参謀役だ。あいつらにも弱点は必ずある」

 

ミドナが付け加えた。リンクは少し心が軽くなった。自分はひとりではないのだ。それにミドナの並外れた賢さはもう経験で証明されている。

 

「まず着替えろ。水浸しじゃあ風邪を引くぞ」

 

ミドナに言われて気づいた。頭のてっぺんから足の先までずぶ濡れだ。ミドナがゾーラの服を出してくれたのでそれに着替えた。

 

店のカウンターを見ると、店主らしき鳥人間とおばちゃんはまだ話し込んでいた。だが、リンクが着替え終わり装備を身に付けると、店主がこちらを向いて高い声で話しかけてきた。

 

最初威嚇されているのかと思い驚いたリンクだったが、鳥人間は次にハイラル語でしゃべり始め、余計にリンクをびっくりさせた。

 

「お前、冒険者か。ここは店。色々良いものある。買っていけ」

 

「ハイラル語しゃべれるんですか?」

 

リンクは目を丸くして尋ねた。

 

「少ししゃべる。私は商人。色々仕入れてきた。薬もある。矢もある。仕入れたあと天空人誰も弓持ってない気づいた」

 

鳥人間店主は自分で言って自分で笑った。確かにカウンターの奥を見ると、鳥人間用のものと思われる見たこともないような道具や食べ物と思われる袋のほかリンクが見慣れた薬の瓶や矢束も並んでいる。

 

「今要らないならまた後で来い。大抵いつも開いてる。人間の客滅多に来ない。お前歓迎だ」

 

相手が友好的であることがわかってリンクはホッとした。おばちゃんに挨拶しようと近づくと彼女のほうから駆け寄ってきた。

 

「お兄ちゃんごめんねぇ、せっかく来てくれたのにこんなことになってて」

 

「いいえ、いいんですよ。僕もこれを何とかするために来たようなものですから」

 

リンクが答えるとおばちゃんは顔を上げて羽を羽ばたかせた。

 

「本当に?ありがとうお兄ちゃん!私もこの非常事態にじっとしてられないから連れてって!この店まではワープさせてあげられるから。ね?」

 

リンクたちは結局おばちゃん親子を連れていくことにした。ミドナが彼女たちを収納し、リンクは店主に挨拶して店を出た。扉の向こうに出た途端に強い風が吹き付けてきた。プールに至る廊下の転落防止の低い塀から外を見ると一面に雲しか見えない。自分達がいまどのくらいの高度にいるのか見当もつかなかった。

 

まずは廊下をプールまで戻り、それからプールの周りの通路を経由して北の方角の建物に向かうことにした。

 

建物に向かう廊下に入ると、そこも商店への通路と同じように床材が所々剥げ落ちて草むらになってしまっている。転落防止の塀も脱落箇所が目立った。

 

風が周期的に猛烈な強風になる。吹き飛ばされないようにリンクはミドナに鉄のブーツを出してもらった。身を低くして廊下を進んでいると、草むらから案の定ヘビババの巨大な花弁が顔を出してきた。

 

手早く茎を切断し花弁に剣を何度か叩きつけて黙らせる。進んでいくともう一ヶ所ヘビババが生えていたので同じように駆除し、ようやく廊下の終端近くにやってきた。

 

目の前には背の高い丸い屋根の建物がある。扉はついているが、頑丈そうな柵がかかっている。左右に目をやると、同じような建物が東西にも一つづつ浮いている。だが、違いに行き来するための連絡橋のようなものはついていないようだ。

 

建物の扉の上を見ると五メートルほどの高さにクリスタルスイッチが設置されていた。リンクはクローショットを腕に嵌めてスイッチを狙い撃ってみた。鉤爪が当たるとスイッチが変色し、扉を塞いでいた柵が開いた。

 

進み出て扉を押し上げ、先に進んだ。内部は幅が五十メートル奥行き百五十メートルほどで天井が高い建物だった。四角を描くような配置で四ヵ所に円柱が立てられている。往時には壮麗だったのであろう。だが今は、奥に向かって左手にある二本は途中で崩れ果てており、残り二本には蔦がびっしりと生えていた。それどころか、扉を出たところの少し先は床が丸々抜け落ちており、下に広がる雲海が顔を覗かせている。

 

右手の壁には金網の向こうに格納庫のようなものがあり、リンクたちが使った大砲と同様のものが仕舞ってあった。そして、壁や床のそこここに鳥人間たちが歩き回っている。

 

床の脱落した先の向こう岸を見ると、どうやら床が無事な箇所が部屋の真ん中あたりにある。だがそこから先の床もまた途中で抜け落ちている。そして部屋の向こう側まで行くとやっと無事な床があり、そこから段差を登って突き当たりの扉に行けるようになっていた。

 

リンクは目の前の床の縁にまで進んでみた。部屋の中ほどの床が残っているところには湖底の神殿で見かけたのと同じ、兜つきのずんぐりした南洋トカゲの化け物がうろついている。部屋の向こう岸の扉の前の段差の下にも同じ奴が二匹行き来していた。

 

どうやって床の脱落箇所を抜けたものだろう?リンクは考えていた。現在いる箇所から数メートルの差でこちらのほうが高いが、それでも二十メートルほどの間隙を越えなければならず、到底人力では不可能だ。

 

「おいリンク、そこらの鳥人間につかまって行けばいいんじゃないか?」

 

ミドナが言った。

 

「それはできないよ。彼らは鶏じゃない。そんなことに利用するのは気が引けるよ」

 

リンクは答えた。現在立っている足場の右手の方にある、蔦に覆われた円柱の向こう側まで行ってみると、部屋の真ん中の岸の同じような箇所にある円柱までクローショットが届きそうな気がしてきた。

 

リンクはクローショットを手に嵌めて慎重に狙いをつけて放った。何度目かの挑戦で鉤爪が向こうの円柱を包む蔦に引っ掛かり、リンクは見事間隙を渡ることができた。

 

鍵爪を開いて下に降りる。円柱の周囲の床は周りに比べて高い。さらに間隙を一つ挟んだ先の、部屋の北端にある岸を見渡すと、そこへの距離は比較的短く、こちらからの高低差も大きい。

 

思いきり飛べば届くだろうか?リンクは考えた。だが、飛んだ先には兜付き蜥蜴の化け物がいる。無事着地してもあいつらに撥ね飛ばされたら危ない。

 

それでも行くしかない。リンクは大きく深呼吸すると、助走をつけて向こう岸に向かって飛び出した。高低差のお陰でかなりの距離を稼げた。間隙を眼下に見て、もう少しで向こう岸と思った時、距離が僅かに足りないと気づいたリンクは反射的に剣を抜いてジャンプ斬りを放った。

 

剣の重みを慣性力として使い、跳躍距離に不足があったのをどうにか補って向こう岸に降り立った。

 

だが、途端にガタリと音がして足元の床の一メートル半四方ほどの石材ブロックがゆっくりと落ち始めた。リンクは剣を納めると慌てて一つ先の床ブロックの上に這い上がった。

 

だがそのブロックもガタリと音を立てて下方にずれ始めた。まずい。しかも、兜付き蜥蜴の化け物がこちらに気づいて突進してくる。

 

リンクは咄嗟に横っ飛びに化け物の突進を回避し、それから前方にダッシュし、次のブロックの上に乗った。そのブロックはどうやら建物にしっかり固定されているようだ。化け物は落下してゆくブロックとともに見えなくなった。だがもう一匹の化け物がリンクを見咎めてこちらに向き直る。相手が豚のような声を上げてこちらに突進してきた瞬間リンクは横に転がった。

 

二匹目の化け物も、見境のない突進攻撃の習性が災いして床の間隙から落下していった。リンクは冷や汗を拭い、溜め息をつくと、段差を登って扉の前にたどり着いた。

 

「おい、お前の意地っ張りのせいで死ぬところだったじゃないか。利用できる物は何でも利用しろ。体面を気にしてる場合じゃないだろ?」

 

ミドナが腕を組んで苦情を言った。

 

「わかったよ。次からはそうする」

 

リンクは息を鎮めながら答えた。

 

「それにしてもここの住民も随分な厄介ごとに見舞われてるみたいだな」

 

ミドナが呟く。確かにそうだった。上空には竜が飛び回り、廊下はヘビババだらけ、さらに建物の中にも魔物がうろついているとなれば安心して暮らすことなどできない。

 

「鏡の破片を取り返せば元に戻るかな?」

 

リンクは尋ねた。

 

「間違いないだろう。ザントの奴どうやったか知らないがここまでやってきた上でどこかに鏡の破片を隠したんだ」

 

そこまで言うとミドナは何かに気づいたように息を呑んだ。

 

「そうか‥‥違うな。奴は両方まとめてやりやがったんだ」

 

「どういうことだい、ミドナ?」

 

「おそらく奴は陰りの鏡の破片をどこかで見つけてきた竜の卵と融合させたんだ」

 

「なんだって‥‥そんなことをしたら‥‥!」

 

リンクは声を上げた。

 

「あの竜は生まれて一月も経っていないはずだ。だがあのまま放置しておいたらどんどん成長してしまってとんでもないことになるぞ。まさに悪夢だ」

 

リンクは時を超えた神殿で見かけた蜘蛛を思い出した。鏡の破片の魔力で本来ならちっぽけなはずの蜘蛛が家よりも大きく肥大していたのだ。ならば竜を成長させることにその魔力を利用したら一体どうなってしまうだろうか?

 

「天空では私たちは孤立無援だ。だからザントは私たちが鏡の破片を追ってここまでくることを計算したうえであの竜をここに放ったんだな」

 

リンクは今回の自分の務めの真の重さを悟った。もしあの竜をいま倒さなければ、天空都市が大混乱に陥るだけではない。下手をしたら巨大に成長した竜が地上に降りて破壊と殺戮を繰り広げるかも知れない。

 

「ミドナ、あの竜は僕が絶対に倒す。何としてでも」

 

「無論だ」

 

ミドナも頷いた。

 

「奴が成長し切っていないうちにここにたどり着いたのは僥倖だったな。だがリンク、先走るなよ」

 

彼女はリンクに向き直って言葉を継いだ。

 

「小さくたって竜は竜だ。それなりの作戦がなければ倒せない」

 

「わかってる」

 

リンクは頷いた。二人は扉を抜けて次の部屋に入った。そこは直径二百メートルほどの巨大な円形の部屋だった。右手と左手に外に出る扉がある。正面、すなわち前方にも、短い階段で高くなった場所の先に扉がついていた。 部屋の高い天井を見上げると、その中心には大きな穴があり、そこに巨大なプロペラが設置されていて回転している。

 

リンクは先ほどの経験があるので慎重に前に進んだ。床に所々穴が開いているし、現存の床ブロックもいつどれが脱落するかわからない。

 

部屋の中央には、兜付き蜥蜴の化け物が成長し切ったような巨大な奴がいた。まだ距離があるのでリンクには気づいていない。 そいつが歩き回っている場所の周囲には巨大な円柱が四つ、四角形を描くように配置されている。その一本は上の方が欠けていた。

 

部屋の壁の高所には、所々広い出窓がついている。窓にはガラスではなく金網がかかっていた。右手の壁の手前の出窓の金網に破れがあるのに気づいたリンクは、そちらに慎重に歩いて近づき、クローショットを手に嵌めて金網を狙った。

 

金網に鉤爪がかかり、リンクは出窓に引き寄せられて飛び移った。破れ目から外に出ると、壁に生えた蔦を伝って下のバルコニーに降りられるようになっていた。

 

出窓に立って眺めると、現在いる建物の東側に浮いている棟がよく見えた。丸い屋根がてっぺんに乗った構造物を複数組み合わせた形をしており、底部には巨大なプロペラがいくつも設置されていて回転していた。

 

バルコニーに降りると、右手はすぐ行き止まりになっていたが、左手は途中で床の脱落した間隙を挟んで先に続いている。どうやらバルコニーはこの建物の東側の扉の前まで続いているようだ。

 

リンクはバルコニーの右手の行き止まりの前にスピナーを嵌め込むための穴があることに気づいた。砂漠の処刑場で見かけたのと同じだ。

 

リンクはミドナにスピナーを出してもらうと、穴に嵌め込んで起動させた。足でステップを押し込んで回転を加速させると、重い物が動く音が足下から響いてきた。床下にある何らかの機械装置が作動し始めたらしい。

 

床の板が剥がれている箇所に露出している歯車が回転し始めた。巨大な何かが転がるような音とともに、建物の東側の扉の下あたりから渡り廊下がせり出してきた。

 

リンクは汗を拭きながら懸命にスピナーを回し続けた。三分ほども回し続けると、どうやら百メートルほどの渡り廊下が東側の棟まで伸びて到達したらしく、衝撃音がして全ての機械が止まった。

 

「橋ができたな」

 

ミドナが言った。

 

「なんで各建物の行き来ができないようにしてるんだろう?」

 

リンクは尋ねた。

 

「魔物が移動しないようにってことだろうな」

 

ミドナが答える。

 

「皆鍵を掛けて縮こまって暮らしてるんだね」

 

リンクは床の抜け落ちている場所まで移動すると、対岸を見渡した。脱落した部分の切り口に蔦がびっしりと生えているのでクローショットで渡れそうだ。

 

クローショットを撃つと蔦に鉤爪か引っ掛かりリンクは向こう岸に飛び移った。床に這い上がると、せり出してきたばかりの渡り廊下に入った。

 

頭上にはカーゴロックが何匹も飛んでいる。リンクは急ぎ足で渡り廊下を進み、渡った先の建物の扉を開けて中に入った。

 

内部は一転して静かな部屋だった。鳥人間も魔物どももおらず、二、三個の壺が右手の壁際に転がっているだけで特段資材も置かれていない。

 

幅二十メートル、奥行き五十メートルほどの大きさだ。天井が高い。蔦類は蔓延っていなかったが、それがかえって殺風景な印象を与えている。

 

奥の方に向かうと、突き当たりの右手には床が吹き抜けになっている箇所がある。その奥右手には狭い足場が壁の角にくっついていた。吹き抜けを覗き込んでみると、下方の階の構造物が垣間見えたが、その下には何もなくそのまま雲海が見えた。ここから安全に移動することは到底できないと思われた。

 

足場の上には大きな木の箱が置いてある。足場の周囲には柵がかかっているので飛び移るのは難しそうだ。だが、ちょうど足場の真上の天井にクローショットが引っ掛かる金属の浮き彫りの紋章がついている。

 

リンクは天井の紋章を狙ってクローショットを撃った。鉤爪が引っ掛かり、たちまち天井まで引き上げられた。鉤爪を放して足場に降りると、木の箱を開けてみた。中身は小さな金属の鍵だ。どこかで役に立つだろうと考えリンクはそれをポーチに仕舞っておいた。

 

次に、足場から元の床に戻る方法を探した。振り返ると、右手、すなわち北側の柵が切れていて、そこから部屋の北側の壁の壁材が剥がれ金網状の鉄筋が剥き出しになっている箇所が見える。その下も三方を間隙で囲まれた狭い足場だが、元の床との距離はそれほどでもなく、そこからは跳躍すれば戻れそうだ。

 

鉄筋をクローショットで狙ってみると果たして鉤爪が引っ掛かった。引き寄せられたリンクは鉤爪を開いて下に降り、跳躍して間隙を乗り越えると元の床に戻った。

 

リンクたちは一旦中央の広い部屋に戻ることにした。部屋に入ってきたとき使った扉から外に出ると、カーゴロックに目をつけられないよう吹きさらしの渡り廊下をダッシュして向こう岸まで渡った。

 

リンクが対岸にたどり着いた瞬間、巨大な獣の叫び声がした。

 

振り向くと、たった今出てきた建物の北側から竜が姿を現したところだった。竜は風を孕んだ翼を広げて悠々と滑空すると、急に高度を落とし、鉤爪の生えた両足で渡り廊下に一撃を加えた。

 

石造りとはいえ竜の一撃に耐えられるものではない。渡り廊下はひとたまりもなく中途で崩壊し、竜は悠々と反対側の空に飛び去っていった。

 

「どうやら私たちの存在に気づいたみたいだな」

 

ミドナが呟いた。

 

「僕らが建物の間を行き来しているのが気に入らないらしいね。竜は頭が良いって聞いたことがあるけど本当なんだろうか?」

 

リンクが言うと、ミドナが答えた。

 

「そこらへんの魔物なんかよりは余程賢いぞ。あいつなりに計算して行動しているのは間違いない」

 

リンクは差し当たり目の前の扉を開けて中央の円形の部屋に入った。

 

扉の前には床が残っているが、少し先では床ブロックがいくつも脱落している。リンクは用心深く前進し、クローショットを手に嵌めて部屋の中央部近くに残っている蔦だらけの円柱の一本を狙った。

 

クローショットを撃つと、鉤爪が蔦に引っ掛かった。リンクは円柱に引き寄せられ、蔦にしがみつくことに成功した。だが、下を見ると床がない。蔦を横移動していき、円柱の正反対にまで来ると、やっと下方に床があった。床ブロックが一列だけ西に向かって続いていて、中央部分の床に繋がっている。

 

中央部分の床では、巨大版兜付き南洋蜥蜴の化け物がうろつき回っているので、そこの床はしっかりしているものと見当をつけたリンクは、下に飛び降りると素早く床ブロックの列の上を移動した。

 

だが、化け物が案の定リンクを見咎めた。豚のような叫び声を上げてこちらに突っ掛かってくる。リンクはサイドステップして回避すると、振り返ってその化け物の兜目掛けてクローショットを撃った。だが体高だけでリンクの身長ほどもあり、巨大すぎて効き目がないようだ。

 

リンクはそいつが向き直ってこちらに再び攻撃を仕掛けてくる前に、西側の扉に向けて急ぐことにした。

 

リンクは万が一床ブロックが脆い場合に備え、少し助走をつけると目標地点までダッシュした。

 

予想通り、西の扉に近づくとリンクが乗った床ブロックがガタリと動き、ゆっくりと落ち始めた。次々と脱落していく床ブロックの上を懸命に走ってどうにか扉の前にたどり着くと、リンクは安堵の溜め息を漏らした。

 

扉を開けて向こう側に出ると、先ほど探索した東側のバルコニーと対称的な形でバルコニーが設置されていた。すなわち、本来なら渡り廊下があったと思われる位置で、西側に浮いている棟に向かって転落防止壁が開いており、そこから左手に向けてはバルコニーが建物沿いに延びている。リンクは東側のバルコニーで渡り廊下を出した方法を思い出した。どこかにスピナーで動かせる装置があるはずだ。左手に、すなわち南の方向にバルコニーを進んでいくと、床材が剥がれ茂みになっている場所からヘビババの頭が飛び出してきた。素早く茎を切り、剣の一撃を叩きつけ大人しくさせると、先に進んだ。

 

バルコニーの終端に円形の穴がある。だがそこにも雑草が蔓延っているうえ、いかにもヘビババが出そうな雰囲気がした。

 

リンクが近づくと案の定ヘビババが飛び出してきた。そいつも茎から切断し剣で叩き伏せたあと、リンクは円形の穴の周辺の雑草を引き抜いて綺麗にし、ミドナに頼んでスピナーを出してもらった。

 

スピナーを円形の穴に嵌め込み起動する。ステップを踏みながら回転を加速すると、足元から重々しい作動音と振動が生じ始めた。

 

床材の剥がれた箇所から覗いていた大きな歯車が回転し始めている。懸命にスピナーを回していると、やがて大きな構造物がスライドしているような振動音がして、今いる建物から西側に渡り廊下が伸び始めた。

 

ひとしきりスピナーに取り組んでようやく渡り廊下を伸ばし切ると、衝撃音がして向こう岸のバルコニーと繋がった。

 

リンクはミドナにスピナーを収納してもらうと、バルコニーを伝って今出てきた渡り廊下に入った。

 

上空を見上げると、まだカーゴロックたちには嗅ぎ付けられていないようだ。だが周期的に強くなる風がひどく吹き付ける。渡り廊下の転落防止用の壁は低く、所々抜けている。風に煽られて吹き飛ばされないよう、リンクは鉄のブーツを履いて風が収まるのを待ち、風が止まった途端にダッシュして渡り廊下を渡った。

 

突き当たりの扉には鎖がかかっており、錠前で閉じられている。リンクは東側の建物で手に入れた小さな金属の鍵を取り出して錠に差し込んでみた。果たして鍵が錠前と合致し、捻ると錠前が開いて鎖が落ちた。

 

扉を開けて建物の中に入ると、その部屋の中にも酷い強風が吹いていた。奥行き百メートルほどの細長い部屋だが、右側の壁に直径十メートルくらいの巨大なプロペラが二つもしつらえられていて、それが猛烈な勢いで回転して風を生じさせているのだ。

 

扉の前の床は、十メートル余り行ったあたりに南北に伸びる柵があり、その先を覗き込むと何もない吹き抜けだ。だが、その柵から右手と左手には幅の狭い通路が奥まで続いている。また、吹き抜けの向こう岸に円柱が四本四角形を描くような配置で立っていた。 だが、右手の通路を通るには強風を受けながら歩かなければならず、危険だと思われた。

 

リンクは柵の左手にある通路を覗き込んでみた。だがそこには兜付き南洋蜥蜴の化け物がうろついていた。小型の奴だったが体当たりが危険であることは間違いない。

 

リンクはクローショットを手に嵌めると慎重な足取りでそいつに近づいた。距離十五メートルほどでそいつがこちらを見咎めて向き直ってきたのと同時に、リンクは化け物の兜に向けてクローショットを放った。

 

鉤爪が引っ掛かり、そいつは兜を引き剥がされ一瞬戸惑ったような鳴き声を上げた。こちらに引き寄せられてきた兜を横に投げ捨てると、リンクは剣を抜いた。

 

気を取り直した化け物が突進してきたところに思い切り突きを放つ。顔面に切っ先を突き立てられた魔物が苦痛の余り立ち止まったところを回転斬りを叩きつけて絶命させた。

 

剣を納め、安全になった通路を探索すると、案に相違してそれは部屋の奥まで到達せず途中で切れていた。

 

その縁まで行くと、この部屋の奥正面と奥左手にそれぞれ扉が一つづつあるのが見えた。だが、そこに到達するにはプロペラの強風が吹きまくる右手の通路を通らないとならないようだ。

 

だが、リンクは二つあるプロペラのうち奥のほうのプロペラのちょうど前にある円柱の基部にクリスタルスイッチが設置されていることに気づいた。この部屋に入ってきたとき立っていた位置からは見えなかったのだ。

 

リンクはクローショットを手に嵌めてクリスタルスイッチを撃ってみた。果たしてスイッチが変色し、二つのプロペラの回転が止んだ。

 

さらにその周辺をよく見ると、一つ奥にある円柱は周囲に蔦がびっしりと生えている。リンクは今立っている通路の縁ギリギリに移動し、その円柱をクローショットで狙って撃った。

 

果たして鉤爪が円柱を覆った蔦に引っ掛かり、リンクは一気に引き寄せられて蔦にしがみついた。

 

円柱の蔦の上を横移動し、真下に床があることを確認するとリンクは飛び降りた。

 

だが、近くにいた兜付き南洋蜥蜴が叫び声を上げてこちらに鼻先を向け、突進の準備をした。リンクは素早く走って相手の進路上から退避した。

 

化け物が明後日の方向に突進していき、北側の壁にぶち当たった。リンクは反射的に走り寄ると剣を抜いて敵の背中にジャンプ斬りを叩きつけた。魔物は断末魔の叫びを上げて倒れた。

 

剣を血払いして納めると、リンクはまず部屋の奥、西側の扉を試してみることにした。扉を開けて向こう側に出ると、回りを高い柵に囲まれた奥行き五メートルほどの横長の足場に出た。

 

柵の向こう側には、はるか下の方まで続く吹き抜けの構造物があるようだが、柵の造りが細かくてよく見えない。

 

左手に大きな木の箱が置いてあるのに気付き、それを開いてみると中には大きな紙が入っていた。広げると、どうやらこの天空都市の地図だ。子細に眺めてみるとどの棟にも複数の層があることがわかった。

 

地図を仕舞うと、反対のほうに鳥人間が一人立っていて、不思議そうな顔をしてこちらを見つめているのに気づいた。リンクは騒がれないうちにと思い、入ってきた扉から急いで元の部屋に戻った。

 

次に、南側の扉に向かうことにした。だが、そちらに向かって歩いていると、前方の途中から床の色が違うことに気づいた。

 

もしかして危険信号かもしれない。リンクは助走をつけると部屋の南側に向かって走った。

 

やはり足が触れ体重が乗った瞬間に色の違う床ブロックが落ち始める。リンクは脱落していく床の上を必死で走り、最後は前転してようやく南側の壁際まで到達し、弱った床の上から脱出した。

 

やっとの思いで扉を開けて向こう側に出た。だが、その部屋は今までにも増して床が穴だらけだった。

 

部屋は現在リンクが立っている場所から右手に五十メートルほど伸びた細長い形をしていたが、途中の床はあらかた抜け落ちていて下方の隙間から雲海が見えている。

 

そして、手前(北側)と奥(南側)の壁からそれぞれ串の歯のように三つほどの細長い足場が伸びていた。どうやらその足場の上を伝って移動する以外に道は無いようだ。

 

リンクはまず、扉の前から部屋の南側に向けて床の上を歩き探索した。幸い今いる場所に魔物はいなかったが、これから渡っていこうとしている細長い足場のほうを見ると、上空各所に蝙蝠が飛んでいる。

 

しかも、足場と足場の間には周期的に床下から強い上昇気流が吹いているとみられる箇所もあった。飛び移ろうとして風に巻き込まれたら危ない。

 

リンクはまず今いる床の南側から、西側にある隣の足場に飛び移った。さらにその隣の足場に飛び移ろうとしていると、下から強い風が吹いてくるのがわかった。覗き込むと細かい穴の空いた金属製の板が屋根のように組まれた装置が床の下にあり、そこから周期的に風が来ている。

 

風の周期を見極めつつ対岸を睨んでいると、前方に見える二つの床ブロックのうち左の一つは色が青く変色している。危険信号だ。

 

リンクは風が止んだ瞬間に変色していないほうの床ブロック目掛けて飛び、その縁にしがみつくと這い上がった。

 

その途端頭上で蝙蝠の羽音がした。目を上げると、吸血蝙蝠が今しもこちらに飛びかかろうと羽を羽ばたかせている。反射的に剣を抜いて叩き落とすと、リンクは剣を納めながら周囲を見渡した。

 

幸いなことに、今いる足場から西側の足場に向けて細長い床ブロックの列が伸びていた。その終端まで歩き、いざ飛び移ろうとするとリンクは奇妙な気配を感じた。

 

対岸の床ブロックの表面がわずかに浮いて、その間から光る目が覗いている。

 

ハジケラだ。気づかずに飛び移っていたら撥ね飛ばされ、眼下の雲海に真っ逆さまに落ちるところだった。

 

背筋が寒くなるのを感じながらリンクはブーメランを取り出した。

 

「ゲイル、あのハジケラを吹き飛ばしてくれないか?」

 

風の精霊に頼むと返事が返ってきた。

 

「お安いご用。最近お声が掛からないからお役御免かと心配していましたよ」

 

リンクがブーメランを投げると、ハジケラはギシギシと歯ぎしりのような音を立てながら床板ごと眼下に落下していった。

 

ようやく進路を確保した。だが床下から周期的に上昇気流が吹き出してくる。その間隙を縫ってリンクは向こう岸に飛び移ると、さらに前方を睨んだ。

 

そこからもう一つは西側に行ければ、部屋の終端だ。そこには床があり、南側に向いた新たな扉もあった。だが、今いる場所からその前の床へ飛び移るのは距離が遠く難しそうだ。

 

だが、北側の壁についている足場から、細長い床ブロックの列が一つ、こちらに向かって伸びている。

 

リンクは助走をつけると、その床ブロックの列の上に飛び乗った。先に進もうとした瞬間に、列の付け根の部分からわずかにハジケラの目が覗いていたのを見つけたリンクは再びブーメランを投げた。ハジケラはたまらず吹き飛ばされて落下していった。

 

だが、吸血蝙蝠が近くに寄ってきた。リンクは剣を抜いてそいつを叩き斬ると、武器を仕舞って次の経路を探した。今いる場所からは西側の足場に向かってブロックが一列伸びているので、まずその足場に移るのが上策のようだ。

 

リンクが西側に進んでいくと、また対岸の床ブロックの表板が動いた。しかも間隙の間を上昇気流が吹き荒れている。だが、リンクはブーメランでハジケラを難なく片付けると、気流が止まった瞬間に向こう岸に飛び付いた。なんとか腕でしがみついて這い登る。

 

もう少しだ。リンクは飛び付いた先の足場の奥まで移動して西の壁際に到達すると、そこから南側の壁にある新たな扉までの経路を確認した。

 

今の足場から南に飛ぶと、青く変色した床ブロック一つだけからなる足場に行き当たることになる。それを越えれば、扉の前に至る床に到達できる。

 

弱い床ブロックが落ちていく速度を計算すれば、行けないこともない。リンクは覚悟を決めると、足場の上で軽く助走して跳躍した。青い床ブロックはその上に乗った瞬間にガタリと落ち始めた。だが間髪を入れずさらに跳躍して対岸に着地すると、リンクは前に転がった。

 

成功だ。青いブロックははるか眼下の雲海の中に落下して消えていった。

 

荒い息を鎮めると、リンクは立ち上がって扉に近づいた。扉を開けて次の部屋に入ると、背後で機械の作動音がした。振り向くと、扉の上に鉄格子がかけられてしまっていた。

 

あたりを見回すと、三十メートル四方ほどの面積がありそうだが、著しく天井が高い部屋だ。前方を見ると、途中に間隙を挟んで四角い床が向こう側の壁に接している。

 

四角い床の左右には同じくらいの幅の間隙を挟んで壁に付いた足場がそれぞれ一つづつあり、その上に見覚えのある魔物が一匹づつ立っていた。

 

全身を金属の鎧で固め、円盾と戦斧で武装した竜男たちだ。体格は人間と大差ないが、装甲が厚いうえに練度が高く、厄介な相手だ。

 

二匹に挟み撃ちされると不味い。リンクは盾を背中から下ろし剣を抜くと、ジリジリと前進した。敵たちもこちらに気づいたようで身構えたが、まだこちらには向かってこない。誘き寄せてから一気に挟み撃ちにする相手方の意図が透けて見えた。

 

リンクは咄嗟の判断でダッシュし、間隙を飛び越えて向こう側の足場に立つと、身を沈めていきなり回転斬りを放った。

 

作戦が当たった。挟み撃ちを狙って間隙を飛び越えてきた竜男どもは、空中にいる間にリンクの体重の乗った斬撃に弾かれた。バランスを崩した竜男どもは後ろにのけ反ると、叫び声を上げながら間隙の間に転落していった。

 

リンクは額から冷や汗を拭いた。どうやらこの部屋での危険は去ったようだ。先ほどの鉄格子も、閉鎖装置が安全と判断したのか、ガラガラと音を立てて上げられた。

 

それに加えて、頭上でも音がした。見上げると、前方の頭上十五メートルほどの壁の中途にかかっていた巨大な柵が左右にスライドして開き始めていた。

 

その柵のすぐ下の壁には濃い蔦が絡み付いている。リンクはクローショットを手に嵌めるとその蔦に狙いをつけて撃ってみた。鉤爪が蔦に引っ掛かりリンクは一気に引き上げられた。蔦にしがみついて上によじ登ると、柵の開いた先には小部屋があった。何人もの鳥人間たちがうろうろ歩いている。どうやら魔物たちから避難していたらしい。

 

竜男どもを倒した旨知らせてやりたいが言葉が通じないのでどうしようもない。ふと天井を見ると、直径一メートルあまりの丸い鳥かごのような形をした薄い金属の細工物がぶら下がっている。

 

「これは一体なんだろう?誰かを入れておく籠かな?」

 

リンクは言った。

 

「こいつは鳥かごじゃあない。スイッチだろう。鳥かごなら出入口があるはずだからな」

 

ミドナが答える。

 

「それもそうだね」

 

リンクはクローショットを手に嵌めてそのスイッチを狙い撃った。果たして、鉤爪がかかってリンクが飛び付きぶら下がると、ガチャリと作動音がした。

 

飛び降りて部屋の中を見回すと、床に空いている間隙から強い上昇気流が吹き始めている。どうやら気流を生じさせるスイッチのようだ。

 

一体何を意図した装置なんだろう?リンクがそう思って向こう側の壁を見ると、今いる小部屋と丁度同じ高さに足場と扉が見える。

 

どうやらこの気流は二階部分を空中移動しようとするときに使うらしい。だがリンクには翼はない。思案しているとミドナが言った。

 

「おい、そこいらにいる鳥人間を捕まえればいいだろ。いつも鶏でやっていたじゃないか」

 

「やっぱり気が引けるなあ」

 

リンクは躊躇った。

 

「頼むならおばちゃんに頼みたいよ。やっぱり言葉も通じない相手をいきなり捕まえるなんて‥‥」

 

「やれやれ」

 

ミドナは引っ込んでいったが、すぐに戻ってきた。

 

「おばちゃんは今はダメだ。息子の昼寝タイムらしい」

 

リンクは溜め息をついた。気が進まないがやるしかない。リンクは手近にいた鳥人間を掬い上げるようにして捕らえるとその両脚をしっかりと掴んだ。

 

捕まえられた鳥人間はパニックを起こしたらしい。喚き散らしながら必死で羽ばたいている。申し訳なさを感じながらも、リンクは小部屋の縁まで進んで対岸の扉までの距離の見当をつけた。

 

床からは周期的に強い上昇気流が吹き上がってきている。その間隔を見極めると、リンクは風が吹き始めた瞬間に床を蹴って飛び出した。

 

鳥人間の羽ばたきの揚力でリンクはゆっくりと落下しながら進んでいった。やはり頭が重い分、鳥人間の揚力は鶏より弱い。

 

落下してしまうか?そう思った瞬間にリンクたちは強い上昇気流に捉えられ、一気に高度を上げた。再び進みながらゆっくりと落下していくが、十分に上昇したお陰で対岸の扉の前の足場に余裕を持って到達できた。

 

リンクは鳥人間を手を放して詫びを述べたが、当然ながら相手からは何も反応がない。仕方ないのでリンクは目の前の扉を開けて先に進んだ。

 

次の部屋は東西に伸びる細長い部屋だ。リンクが立っている場所から右手に伸びている。目の前の床から少し東へ行くと、床が数メートル低くなっており、それからまたその向こう岸が今いる場所と同じ高さになっている。 さらにその先もまた床が低くなり、その向こう側には壁際に床の高い場所がしつらえられていた。

 

低くなった床の中央にはたくさんの穴の空いた丸い金属板が嵌め込まれており、そこからも周期的に上昇気流が吹き出していた。 また、その先にある、ここと同じ高さの床にも同様の装置があった。二つの吹き出し口からは互い違いのタイミングで風が吹き出していた。

 

近くの北側の壁を見ると一ヶ所大穴が空いて鉄筋が剥き出しになっている。さらに、ちょうど床が中途で高くなっている箇所の北側の壁に至っては天井からVの字型を描くように崩れ落ちており、その先の部屋と繋がってしまっていた。

 

リンクがいる床の上にも鳥人間が一人立っている。もうどうにでもなれと腹を決めたリンクはその鳥人間を捕まえると、両脚を掴んで頭上に掲げた。 鳥人間はやはり必死で羽をバタつかせ始めた。

 

上昇気流の周期を見極め、床を蹴って飛び出す。最初ゆるやかに落下していたリンクたちは、金属板から吹き出す風に捉えられるや否や高く上昇した。

 

そこから体を揺すって左に方向を変え、リンクたちは壁の亀裂の向こう側の部屋に出た。

 

行った先もかなり似通った部屋だった。東西に長く伸びている。壁の亀裂部分を飛び越えると、眼下はちょうど床が低くなった場所だ。リンクは部屋の右の終端に床の高くなった場所があるのを見て咄嗟にそちらに方向を変えた。ゆるやかに落下しながら飛んでいき、目標としていた床に降り立つと、リンクは鳥人間を一旦手離した。

 

今いる場所の周辺には他の部屋に出られそうな出入口はない。だが、ちょうど真向かいにあたる西側の壁の上方に大穴が空いていて、そこまで到達できれば先に進めそうだった。だが、その下方の床はここと同じように高くなってはいるものの、それでも穴に至るまでは十メートル以上の高低差がある。

 

リンクは、その穴の下の床に例の大きな円形金属板の風吹き出し口が嵌め込まれているのを見た。さらに周囲を見回すと、今いる場所の頭上から鳥かご状のスイッチが下がっている。

 

クローショットでスイッチを撃ち鉤爪を引っ掛けてぶら下がると、ガチャリと作動音がして、真向かいの壁の穴の下の床にある吹き出し口から風が吹き出してきた。

 

リンクは傍らにいた鳥人間を顧みた。どういうわけか、酷い目に遭ったにも関わらずリンクから離れず近くにいる。よほど警戒心が薄いらしい。リンクはそいつをまた捕まえた。折角解放されたと思い寛いでいた鳥人間はまたパニックになって羽ばたき始めた。

 

鳥人間を頭上に掲げながら前方の様子をよく観察した。すぐ前にある床の低くなった箇所の中心にも、風の吹き出し口がある。二つの吹き出し口から気流が出てくるタイミングはやはり互い違いだ。

 

まず手前の吹き出し口の気流に乗ってから、部屋の西の終端にある吹き出し口からの風を受けなければならない。リンクは慎重にタイミングを見計らうと床を蹴って跳躍した。ゆるやかに落下しながら進むと、まず床の低くなった場所から吹き上げる気流に捉えられて上昇した。眼下を見ると、兜付き南洋蜥蜴の化け物がうろうろと歩き回っている。

 

高度を稼いでからさらに進むと、やがて西の終端の、床が高くなった場所の上に到達した。その頃には高度を失いつつあったが、丁度折よく二つ目の吹き出し口から風が吹き始め、リンクたちは再び高く上昇した。

 

突き当たりの壁の上方に空いた穴を抜けると、その先も同様の部屋だ。リンクはそのままゆっくりと下降した上で鳥人間を手離して床に飛び降りた。

 

「いきなり捕まえてすみませんでした」

 

リンクは相手に頭を下げた。だが、鳥人間は今あったことを忘れたかのようにキョトンとした顔をしていたかと思うと、羽を繕い始めた。

 

一体彼らがどういう人種なのかますますわからなくなったが、リンクはとりあえず先に進むことにした。

 

部屋の右手には扉がある。リンクは扉に歩み寄ってそれを押し上げ、向こう側に出た。

 

そこは円形の巨大な吹き抜け空間だった。先ほど地図を手に入れた場所の柵から見えたのはどうやらここらしい。

 

直径は百メートルほどはあるだろうか。今いる場所から数階層にわたって壁に囲まれた吹き抜けだ。一番下には床も何もなくぽっかり口を開けている。その壁にもあちこちに大穴が空いていた。

 

「リンク、さっきの地図を見せろ」

 

ミドナが言った。地図を差し出すと彼女は大きな円形の部屋を指差した。

 

「この吹き抜けの最下層に次の場所への扉があるぞ」

 

地図によれば、今いる左右十メートルほどの足場からやや左方向に飛び出した上でほぼ真下に最下層まで降りれば、その扉に行き着けるようだ。

 

だが下を覗き込むと、下端までは二百メートルほどはありそうだ。しかも始末の悪いことに、今いる足場の丁度真下から周期的に横殴りの強風が吹き出してきている。鳥人間に捕まって飛ぶにせよ、風に運ばれて建物の外に吹き飛ばされかねない。

 

「ミドナ、合図したら鉄のブーツを出してくれないか」

 

リンクは近くにいた別の鳥人間に忍び寄りながら言った。

 

「風の影響を受けず下降しようってわけか」

 

ミドナが答えた。

 

「だが賭けだぞ。下降しすぎたら上に昇る手段がない」

 

「わかってる。二度目の合図でブーツを戻してくれ」

 

リンクは鳥人間にそうっと近寄って掬い上げるように捕まえると、その両脚をしっかり掴んだ。

 

パニックになった鳥人間がしゃにむに羽ばたく。リンクは深呼吸しながら、頭の中で地図にあった次の扉の位置を思い浮かべ何度も確認した。

 

覚悟を決め、リンクは床を蹴って飛び出した。

 

鳥人間の揚力により、二十メートルほど進みつつもゆっくりと落下する。すぐに横殴りの強風が吹く高度だ。

 

「ミドナ!ブーツを!」

 

リンクが叫ぶとたちまち両足に鉄のブーツが履かされた。その途端リンクは一気に落下し始めた。内臓がでんぐり返りそうな早さだ。縦長の吹き抜けの壁にしつらえられている金属の紋章や壊れかけた円柱があっという間に上に向かって通り過ぎていく。

 

「今だ!」

 

リンクがもう一度合図すると、ブーツが元に戻った。もう吹き抜けの下端まで数メートルもない。鳥人間の羽ばたきによってかろうじて前に進みつつも、リンクは下降し続けていた。目の前に壁から張り出した小さな足場がある。リンクは鳥人間の最後の力のお陰でその上に降り立った。

 

「どうやら死なずに済んだな」

 

ミドナが言った。

 

「鳥さんのお陰だね」

 

リンクは鳥人間を解放してやった。そいつはバタバタとむやみに羽ばたきながらしばらく辺りを飛び回ったあげくどこかに行ってしまった。

 

周囲を見渡すと、壁に向かって左方向に足場の上を進んだ所に、二メートルほどの間隙があり、その先に広い床が見える。地図によればそこに先の部屋への扉があるはずだ。

 

間隙を覗き込むと、すぐ下は雲海だ。見ないようにしながら助走をつけて間隙を飛び越え、その先の床を進むと通路が右手の壁の中に窪んでおり、その先が扉だった。

 

扉を開けて中に入ると、そこは直径三十メートルほどの円形の部屋で、真ん中に直径十メートルほどの穴が空いており、その中で巨大なプロペラが回転して風を起こしていた。

 

だが、次の瞬間背後で作動音がしてリンクは振り返った。扉に鉄格子がかかったのだ。

 

良くない兆候だが、進むしかない。

 

プロペラの真上には、ひときわ大きな鳥かご型スイッチが下がっている。今までのものの四倍くらいはありそうだ。

 

リンクはクローショットを手に嵌めると、スイッチを狙って撃った。鉤爪が引っ掛かり、リンクはたちまちスイッチにぶら下がった。だが、重みが足りないのかスイッチが作動しない。ミドナに頼んで鉄のブーツを履かせてもらうと、やっとスイッチが動いた。

 

すると、足の下のプロペラの回転が次第に遅くなり、最終的に止まった。穴を通して下を見ると大きな部屋があるようだ。

 

リンクは、ミドナに言ってブーツを戻してもらうと、クローショットの鎖を伸ばしてみた。位置が下がり、リンクは床の穴から下に抜けた。下は五十メートル四方ほどの四角い部屋で天井も高いようだ。

 

鎖が伸び切ったところでリンクは鉤爪を開いて下に飛び降りた。

 

部屋の三方の壁には、高い所に大穴が空いていて、野外に繋がっている。残りの一方の壁には穴は空いておらず、その代わり頑丈そうな大きな柵のかかった小部屋があった。

 

その瞬間、リンクは何かが高速で頭の上を通り過ぎるのを感じて思わず首をすくめた。

 

今度は反対側からもう一度だ。人間ほどの大きさの茶色い生き物が、翼を羽ばたかせながら頭上をかすめていった。いったい何者だ?

 

リンクが顔を上げると、羽音が近くに戻ってきた。上空に、背中から翼が生えなおかつ二本づつの腕と脚を備えた見たこともない奴が留まっていた。

 

外見は蜥蜴男に似ているが、もっと原始的な顔をしている。片手に円盾、片手に剣を持っていて、兜も被っている。そいつはリンクに向かって威嚇するような叫び声を上げた。

 

「リンク、気をつけろ!」

 

ミドナが叫んだ。

 

「こいつはガーナイルだ」

 

「なんだって?」

 

リンクは剣を抜きながら聞き返した。

 

「空を飛び剣術にも長けた竜族のエリート中のエリート兵だ。今までの相手と同じと思うなよ!」

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