「ガーナイルだって?」
リンクは剣を抜くと頭上の敵を見上げた。翼を広げて羽ばたき、空中に留まったそいつは、片手に円盾、片手に剣を持ち、頭に兜を被っていた。
「空を飛びながら剣術にも長けた竜族のエリート中のエリート兵だ。他の相手と同じと思うなよ!」
ミドナが警告した。リンクは背中から盾を下ろして構えた。ガーナイルはリンクを見据えながらしばらく空中に留まっていたが、やがて自分も盾を掲げ剣を体に引き付けながら急ピッチで羽ばたきはじめた。
来る。リンクは盾を握る手に力を込めた。ガーナイルが急降下して突進してくる。激しい衝撃が来た。盾で防ぎはしたが、ガーナイルの体重の乗った強烈な突きによってリンクは二メートルほど後退させられてしまった。
背後を見上げると、敵は既にこちらの手の届かない上空に飛び去っている。
リンクは向き直ってまた盾を構えた。だがこのスピードで飛んでこられたのでは、隙を見て剣で切りつけるのも難しそうだ。
ガーナイルは上空でまたホバリングしている。しばらくの間、こちらを嘲るかのように両手を下げたまま滞空していたが、また盾を構えた。盾の表面には金属の浮き彫りで紋章が刻まれている。
もしかして。リンクがそう気づいた瞬間、敵がまた突進してきた。盾を掲げ脚を踏ん張る。ガツンと衝撃が走った。飛びながらの突きは速度が早すぎて防ぐのがやっとだ。
「焦るなよ。奴が隙を見せるのを待て」
ミドナが言う。リンクは背後の上空に移動したガーナイルのほうを振り返りながら応じた。
「隙が無くたって作り出してやるよ」
リンクは剣を納め、腰に提げておいたクローショットを右手に嵌めた。ガーナイルが両手を下げて滞空した状態から盾を構えるまで待つ。
敵が羽ばたきの速度を上げて盾を構えた。今だ。リンクは敵の盾を狙ってクローショットを撃った。
狙い通りだ。鉤爪が飛んでいき、ガーナイルの盾の表面に引っ掛かると、リンクの体重によって相手は急速に地面に引き寄せられた。
敵が床に引きずり下ろされると同時に、リンクはクローショットを投げ捨てて剣を抜き、縦斬りに斬りつけた。
血が飛び散る。リンクは一気呵成に攻めた。横斬りで胴を払い、さらに左右に袈裟斬りを喰らわせた。
倒せる。そう思った瞬間に、敵が立ち直って盾を構えた。さらにリンクが放った突きが盾に弾き返された。逃すか。ジャンプ斬りを見舞おうとリンクが飛び上がると、相手はひらりと跳躍して後ろに下がった。リンクの剣は空を切った。
ガーナイルは足をしっかりと地面につけ、盾を掲げ剣を構えていた。リンクも同様に武器を構えて相手に近づいた。かなりの深手を与えた筈なのに、ガーナイルは少しも弱った様子を見せない。皮膚がもともと分厚いらしく、剣で払った胴部分の傷も、内臓どころか筋肉にも達していないようだ。
リンクは間合いを詰めると盾アタックを放った。だが読まれていた。敵は素早く後ろにホップすると、剣を大きく振り上げてきた。来る。盾を上げると、強い縦斬りが来た。凄まじい衝撃だ。負けじと突きを放ったが、やはり相手の盾で防がれた。
しばしの睨み合いの状態の後、ガーナイルが再び羽ばたいて飛びあがった。敵はホバリングしながらぴったりとこちらに目を付けている。やがて、こちらの裏に回ろうとガーナイルが横移動してきた。リンクは敵から目を離さず足を運んで常に正対した状態を保った。
羽ばたきが急ピッチになり、相手が攻撃の態勢を取った。リンクは盾を上げて足を踏ん張る。矢のように飛んで来たガーナイルの強烈な突きをなんとか盾で防ぐと、投げ捨てたクローショットを目で探した。相手が上空で滞空している間に、リンクは床に落ちたクローショットに駆け寄って拾い上げた。
「あいつの身体は蜥蜴の中でも最も原始的な種類なんだ」
ミドナは言った。
「負傷からの回復力がバカみたいに強いって聞いたことがある。それこそ腕を切り落としても生えてくるって話だ」
「だったら首を切り落としてやるさ」
リンクは盾を構えながら答えた。
「だがリンク、焦らずやれ。こちらから一撃を加えられたのは良かった。相手の攻撃を喰らわないよう用心深くやれよ」
ミドナが助言する。リンクは頷いた。クローショットを手に嵌めながら見上げると、またガーナイルが突進の用意を整えている。盾を上げて脚を踏ん張ると、敵が急降下して突きを放ってくるのを防いだ。リンクは後方に飛び去った相手のほうを目で追った。
「それからクローショットの回収は私に言え。いちいち床から拾ってたんじゃ効率が悪い」
「わかった。恩に着るよ」
リンクはそう言いながらクローショットを上空のガーナイルに向け、そいつが盾を構えるのを待った。
敵が盾を構えた。その瞬間クローショットを撃つ。鉤爪が敵の盾の紋章に引っ掛かり、ガーナイルはたちまち地面に引き下ろされた。
「ミドナ、頼む!」
リンクはクローショットを手放して剣を抜いた。縦斬り、横斬りを食らわせ、さらに突きを二度放った。手応えがあった。決まったか、と思った瞬間、敵はすぐ立ち直り盾を構えたかと思うと、急速に羽ばたいて上空に飛び上がった。
ガーナイルは速度を上げ、壁の上方に開いていた穴から外に飛び去った。
「逃げたのかな?」
リンクは剣を血払いして納めた。
「そんなわけないだろ。作戦を変えてくるだけだ」
ミドナが指を鳴らすとクローショットが出現してリンクの右手に嵌まった。
「私があいつだったら空を飛べる利点をフルに使うぞ。お前の死角から攻めてくる筈だ。リンク、奴の羽音を聞き逃すなよ」
リンクは頷いて上を見上げた。部屋の天井は高く、敵が飛び回るのに十分な空間がある。そのうえ、四つの壁のうち三方には大穴が空いているから、どこから奴が入ってくるかはその時になるまでわからない。
耳を澄ませると、どこからか羽ばたきの音が聞こえる。だが敵の姿が見えない。どこだ?顔を上げて、三方の壁の上方の穴を交互に見やる。まだ姿が見えない。
「リンク、あそこだ!」
ミドナが指差した。リンクの丁度後方の壁の穴の前辺りでガーナイルが滞空している。リンクは咄嗟にクローショットを向けた。敵が盾を構えた瞬間に放つ。盾に当たった鉤爪が敵の体を一気に引き寄せる。
リンクはクローショットを手離すと同時に剣を抜いて斬りかかった。深い袈裟斬りに相手の肩口から斬り下ろす。さらに縦斬り、横斬りに加えて突きを放った。
だがこの四回の斬撃でも致命傷ではなかった。敵は盾を上げるとリンクの追撃を弾き返した。それでも突きを放とうとした瞬間、ガーナイルが剣を振り上げた。敵がリンクの突きを盾で逸らしながら縦斬りを放つ。
咄嗟のことで避けきれず、ガーナイルの剣がリンクの左肩口を直撃した。痺れるほどの衝撃でリンクはがっくりと膝を床についた。さらに敵が突きを放つ。反射的に身体を捻って躱すと、リンクは床を転がって距離をとり、何とか立ち上がった。
盾を上げようとするが、左肩の痛みでうまく腕が動かない。剣を相手に向けながら距離を取る。少しの間のにらみ合いの後、ガーナイルはまた上空に飛び上がった。
「リンク、大丈夫か?」
ミドナが尋ねた。剣を納めて肩口を確認すると、ゾーラ服に付属していた肩当てがパックリと割れている。軽くても弾力性の強い素材でできていたらしく、これが割れたことである程度衝撃が吸収されたようだ。
「ちょっと左腕が動かしにくいけどまだ戦える。大丈夫だよ。クローショットを頼む」
リンクは盾を持ち直した。クローショットが右手に嵌められる。耳を澄ませると、羽音が部屋の外から聞こえてくる。用心深く三方の壁を見張りながら身構えていると、羽音が次第に近づいて来た。
「あいつ、穴からこっちを覗いて僕の見ていない死角から攻撃してくるんだね。頭のいい奴だよ」
リンクは言った。
「感心してる場合じゃないぞ。奴を床に引きずり下ろした後も油断せず戦えよ」
ミドナが応じる。リンクは耳に意識を集中した。羽音が部屋の内側に聞こえた瞬間にクローショットをそちらに向けた。奴がいた。気づかれたと知った瞬間に相手が盾を構える。リンクはクローショットを放った。
敵の盾の紋章に鉤爪が引っ掛かる。ガーナイルは地面に引き下ろされ、リンクはクローショットを手離して剣を抜いた。敵に突進すると左手に右手を添えて思い切り盾アタックを叩きつける。
ガーナイルが後ろによろめいた瞬間に、リンクは跳躍し空中前転の勢いで敵の頭に剣を叩き込んだ。相手の兜が真っ二つに割れた。敵の背後に着地するや否や、振り返ってジャンプ斬りをその背中に叩きつける。
だが、頭部に痛撃を受けた筈の相手は驚くべき早さで立ち直った。盾を上げてリンクの追撃を弾き返すと正確な突きを放ってきた。咄嗟に身体を半身にしたが、ゾーラ服に付属した鱗状の板が何枚も吹き飛んだ。
相手が立ち直った状態では効果的な打撃を与えるのは難しいと学習したリンクは、左肩の痛みで下がりそうになる盾を必死で持ち上げ防御に徹した。
やがてガーナイルは羽ばたいて上空に浮上し、壁の穴から外に飛び去った。リンクは剣を納めると、敵の突きが胴をかすめた際に負傷しなかったかを調べた。服が破れて胸の下から血が流れはじめている。傷は浅いようだが、蜥蜴ならぬ人間の自分は相手と同じようには戦えない。次で仕留めなければ、とリンクは決意した。
ミドナがクローショットをリンクの右手に嵌めた。羽音が遠くから聞こえる。目を閉じて集中すると、敵のいる方向がおぼろげにわかった。
リンクは方向を変え、穴の空いていない壁を背後にして立った。敵が来るのは残る三方向のいずれかだ。右か?正面か?左か?死角から襲われる恐怖感が湧き上がってくるのに惑わされず、リンクは集中した。
その刹那、羽音がしたほうを見上げた。右上だ。敵はちょうど壁の穴から部屋に入ってきたところだった。だがリンクに気づかれたことを知ると、敵は再び羽ばたきの速度を上げた。
「ゲイル、頼む!」
リンクはクローショットを左手に持ち変えると、ブーメランをベルトから抜き出して敵に投げつけた。ブーメランは高速回転しながらガーナイルに向かって飛んでいく。不意を突かれた敵は思わず盾を構えた。
その瞬間にリンクはクローショットを右手に嵌め敵の盾に向けて放った。鉤爪が相手の盾の紋章にかかり、ガーナイルは一気に床に引き摺り下ろされた。
リンクは剣を抜いて縦斬り、横斬り、袈裟斬りを叩きつけ、さらに突きを放った。だがこれでも不十分だとわかっていた。
相手が立ち直り盾を上げた瞬間を見計らって、自分の身体ごと盾アタックをぶちかます。ガーナイルが後ろによろめいたのを逃さず、一気呵成に四連突きを放った。三度の突きが蜥蜴の分厚い皮膚を貫き、臓腑に達したのか、敵は初めて苦痛の叫び声を上げた。
四つ目の突きは思い切り深く突き込んだ。剣の刃を鍔までめり込むほど敵の胴に深く沈ませる。そこから力ずくで刃をこじって回転させると、強引に相手の内臓をごっそりと引き斬りながら剣を引き抜いた。
ガーナイルは鋭い叫びを上げて剣を取り落とし、膝をついたかと思うと、再び立ち上がって剣を拾い上げた。
まだやるのか?リンクが武器を構え直すと、蜥蜴騎士はドウとうつ伏せに倒れた。ガーナイルは床の上でのたうち回っていたが、しばらくするとようやく静かになった。それでもその顎が細かく痙攣している。リンクは敵の断末魔を眺めながら荒い呼吸に肩を弾ませていた。自分も片膝をつく。ひどく打ち据えられた肩が今さらのように痛み始める。
目を上げると、敵は絶命したのかその身体が崩れ始めた。リンクは盾を投げ捨てると剣を地面に置いてしばらく座り込んだ。
「リンク、平気か?」
ミドナが心配そうに声をかける。
「全然大丈夫さ、と言いたいところだけどね」
リンクは答えた。胴の傷からも血が流れている。服を脱いで確認してみると、肩の負傷はひどいアザになって内出血しているが、骨は異常ないようだ。リンクはミドナに布を借りると、胸の下の傷の周囲にぐるぐるに巻き付けた。
しばらく待ったが呼吸がなかなか鎮まらない。リンクは不思議に思った。確かに強敵だったが、同じくらい強い相手と戦ったことは以前にもある。今回はどうしたのだろう?
「リンク、やはり休憩が必要みたいだな」
ミドナが言った。
「なんだろう、ここに来てから息が上がりやすいんだ。どうしたんだろう?」
リンクが呟くとミドナが答えた。
「高度が高く空気が薄い環境にお前の身体が慣れていないんだ。私としたことが気づかなかったな」
彼女はそう言うと提案した。
「リンク、一度ここを脱出してあの店に戻ろう。この棟はあらかた踏破済みなんだ。休んでからまだ探索していない建物に行けばいい」
「わかった。そうしよう」
リンクは答えた。服を着て装備をまとめている間、ミドナが穴の空いていない壁にかかった柵の向こうにある小部屋を調べた。戦闘が終わった後、遮断装置が解除されたのか、柵が開いたようだ。
「おいリンク、休憩する前にこれを見てみろ」
ミドナが小部屋のほうから声をかけてきた。
「なんだい?何か良いものが見つかったのかい?」
リンクが尋ねると、ミドナは小部屋の入り口の天井にある金属の紋章を指差した。
「早くクローショットで登ってこい。苦労して戦った甲斐があったってものだぞ」
リンクはクローショットを右手に嵌めるとミドナが指差した紋章を狙い撃った。鉤爪が紋章に引っ掛かってリンクはたちまち上に引き上げられた。
小部屋に降り立つと、中には木の立派な箱が置かれている。歩み寄って蓋を開いてみると、クローショットが入っていた。リンクが持っているものと寸分違わない造りだ。
「こいつは儲けものだな。何しろクローショットでどこかにしがみついたまま別の的をもう一つのクローショットで狙えるんだからな」
ミドナが言う。確かにその通りだ。行動の自由度が格段に上がることはリンクにも容易に想像できた。
「ダブルクローショットってわけだね」
リンクは試しに、小部屋の中からクローショットで狙えるものを探した。外の部屋の天井には金属の浮き彫りのある紋章がいくつかついている。両手にクローショットを嵌めて、まず手近にあるその紋章を狙って撃った。引き寄せられてそこからぶら下がると、左手のクローショットで別の紋章を狙い撃つ。鉤爪が目標に引っ掛かったと同時に右手の鉤爪を開くと、リンクはたちまち次の地点に引き寄せられて移動した。これは便利だ。
いまいる紋章の下から部屋の天井の中央の穴を見やると、その穴の断面にはびっしりと蔦の生えた箇所があった。試しにその蔦を狙って撃ちながらもう片方のクローショットの鉤爪を開くと、リンクはすぐに穴のほうに引き寄せられて、次の瞬間には蔦にしがみついていた。
蔦をよじ登って上の床に立つと、リンクは二つのクローショットをミドナに預けた。ミドナがおばちゃんに声をかけると、息子はちょうど起きたところだと言う。
「あらあら、お兄ちゃん、お外に出たいの?」
「はい、お願いします」
リンクが頼むとおばちゃんは息子を呼び出した。
「みんなでお外に出てもいいでちゅか?」
おばちゃんの息子が尋ねた。
「ああ、頼むよ」
リンクが言うとおばちゃんも賛同した。
「私もちょっとお店に寄りたいわ。みんなで行きましょう?」
おばちゃんの息子が皆の頭上で渦巻きを描くように飛ぶと、やがてリンクの身体も回転しながら中空に吸い込まれていった。
気がつくと、一同はここに来て最初に訪問した商店の中にいた。店主は特段驚いた様子もなく、現地語でおばちゃんと息子と会話を始めた。
ミドナは改めてリンクの服を脱がせて負傷箇所を確認した。切り傷は血が止まりかけていたが、彼女は念のため薬を塗ると清潔な布を当てて周囲を固く縛ってくれた。
食事をし、水を飲んだ上で、マロの店で買った薬を服用してみると再び力が漲ってきた。リンクたちは相談のうえ、正面から中央の部屋に入り直し、そこから右手の建物に向かうことにした。
「あれ?でもちょっと待ってくれ。右手の建物に通じる渡り廊下は竜に壊されちゃっただろ?どうやって行くんだ?」
リンクは尋ねた。
「リンク、気づかなかったのか?あの辺りにはプロペラの生えた植物の実がいくつも浮いていたぞ」
ミドナが答えた。プロペラの生えた実と聞いてリンクは思い出した。ゲルド砂漠で見かけたものだ。回転する葉の揚力で空中を浮遊しており、短時間ならクローショットでぶら下がることができた。
「気づかなかったよ。なにしろカーゴロックが何羽もうろうろしてたからそっちに気を取られてた」
リンクは苦笑いした。一同は商店から出ると、プールの際の通路を経由して北に向かい、正面扉から最初の部屋に入った。
そこからおばちゃんに手伝ってもらって床の間隙を飛び越えると、向かい側の扉から中央の円形の広間に入った。
そこには相変わらず大型兜付き蜥蜴がうろついている。前回この部屋を歩き回ったので、今はどの床が安全かをリンクは理解していた。剣を抜いてそいつに近づくと、こちらを見咎めて突進してきた瞬間に横っ飛びして回避し、後ろからジャンプ斬りを浴びせた。悲鳴を上げて怯んだところを、素早い足運びで後ろを取り続け、さらに追撃を加えて息の根を止めた。
化け物が倒れると、リンクは剣を血払いして納め、クローショットを手に嵌めた。東側の壁にある穴の空いた出窓の金網に向かってクローショットを撃ち、出窓に飛び移るとそこから外に出た。
次に、バルコニーから左手の間隙の向こう岸に生えた蔦を狙って撃った。向こう岸に引き寄せられて飛び付くと、床の上に這い上がって先に進んだ。
渡り廊下の入り口に立つと、確かにミドナの言った通りプロペラの生えた木の実がいくつも上空に浮かんでいる。
リンクは近くに浮遊していた一つに狙いをつけて撃った。クローショットの鉤爪が木の実の表面の凹凸に引っ掛かり、たちまち身体が引き上げられた。
ミドナがもう一つのクローショットをリンクの左手に嵌めた。そこから前方のプロペラの木の実を狙う。カーゴロックどもはリンクに気づいたようだが、プロペラの木の実の間を飛び移っていくスピードには着いてこれないようだった。
向こう岸の上空に浮いていた木の実まで到達すると、リンクはクローショットの鉤爪を開いて飛び降り、目の前の扉を開けた。部屋の奥まで進んで吹き抜けの下を覗き込む。
吹き抜けから見える下の階層には円柱が二列に並んでいる。円柱の中途には、互い違いに間を空けて、金属製の浮き彫りのある紋章が嵌め込まれている。今はクローショットが二つあるから、紋章の間を伝っていくことが可能だ。
リンクは下の様子がよく見えるように、左手の壁沿いにある間隙の先の狭い足場に飛び移った。
リンクは両手にクローショットを嵌めて下の状況をよく確認し、右から三列目の奥側の円柱の中途についた金属の紋章を狙い撃った。鉤爪が紋章に引っ掛かり、引き寄せられたリンクが円柱に取りついた瞬間、ガタリと音がした。
リンクが掴まっている紋章が円柱の表面ごと下にずり下がり始めた。紋章が嵌め込まれていた場所は円柱の外装材に過ぎなかったのだ。円柱は天井からぶら下がっているに過ぎず、足の下は完全な吹き抜けだ。
「リンク、まずいぞ。早く次に飛び移れ!」
ミドナが叫ぶ。リンクは周囲に目を走らせた。右手、すなわち西側の斜向かいの円柱の中途に同じような紋章がついている。リンクはもう片方のクローショットで狙いをつけてその紋章を撃ち、飛び移った。だがその紋章の嵌め込まれた箇所もリンクの体重がかかるとすぐに下にずり落ち始めた。
さらに西側の斜向かいを見ると、突き当たりの壁の近くに位置している円柱の中途にも紋章があった。そのすぐ下には辛うじて足場がある。リンクは再びクローショットで狙いをつけてその紋章を撃ち飛び移った。
移った先でもやはり紋章の嵌め込まれた外装材が下に下がり始めた。リンクは眼下を確かめると石の足場の上に降り立った。リンクの体重により下がりだした三つの円柱の外装材が次々と眼下の雲海に向かって落ちていった。
「まったく危ないところだったな」
ミドナが額の汗を拭った。リンクも安堵の溜め息をついた。今立っている場所から北側の壁に大穴が空いており、その向こうにある部屋の突き当たりの壁に金属の紋章がついている。
隣の部屋は完全に床が抜け落ちているから、クローショットで移動するしかなさそうだ。リンクはその紋章をクローショットで撃って飛び付いた。飛び付いた先から振り返ると、今度は南側の壁の上方に同じ紋章が見える。本来なら上の階なのだろうが、やはり床が抜けて吹き抜けになってしまっているのだ。
リンクはその紋章にクローショットの狙いをつけて撃ち、飛び移った。そこから東の方を見ると床がまだ抜けずに残っている箇所があり、その突き当たりの壁は壁材が剥がれて細かい鉄筋がむき出しになった穴があった。
リンクは壁の穴の鉄筋目掛けてクローショットを撃って飛び移り、ようやくしっかりとした床の上に降りた。
その壁の北側には人ひとり通れそうな大きさの丸い穴が空いていた。覗き込んでみると、床が抜けた間隙を挟んだ向こう側の壁に紋章がついている。その下から右手に向かっては床がまだ残存していた。
リンクは紋章をクローショットで撃って向こうに渡り、床に降り立った。その床を探索していると、天井から突然何者かが降りてきた。
湖底の神殿で見かけた、液体とも動物ともつかない奴だ。赤色をしたのが二匹ほどのたうち回っている。リンクは剣を抜くと素早くそいつらを叩き切って片付けた。
だが次にいくべき場所が見つからない。リンクは部屋を西側に移動し、床の抜けた場所を覗き込んでいた。
一つ下の階層の床が、西側のほうは半分ほど残存している。リンクは今いる床から跳躍すると、下の階の床に降り立った。
そこから眺めると、東側に向かっては床が抜けてしまっているが、奥の右手の壁には大きな柵が見え、左手の壁にはクリスタルスイッチがしつらえられていた。
しかも、さっきまで立っていた上の階層の床を下から眺めると、金属の紋章が丁度良い場所についていて、そこからぶら下がればクリスタルスイッチにクローショットが届きそうだ。
だが、よく見ると、紋章の回りには雑草が蔓延り、ヘビババが二匹ほどぶら下がっていた。
クローショットで狙いをつけてヘビババを撃つと、鉤爪がその茎を切断し、花弁が床の抜けた箇所から落下していった。そのようにして二匹とも駆除すると、リンクは改めて紋章に狙いをつけてクローショットを撃ち、その場所に飛び付いた。
そこから鎖を伸ばしてやや位置を下げると、リンクはクリスタルスイッチをクローショットで撃ってみた。果たしてスイッチが変色し、丁度反対側の壁にあった柵が両開きにスライドして開いた。
柵の向こう側にある部屋の突き当たりの壁に金属の紋章が嵌め込まれている。これで柵の向こう側に行けそうだ。
リンクはその紋章をクローショットで撃って飛び移ると、その部屋の中を見回した。
そこの床は完全に抜けてしまっている。上を見上げると、上層階の床も抜けているせいで、天井が東側半分ほど欠落して上の部屋と直結した吹き抜けになっていた。目を凝らすと、リンクがしがみついている場所から見える上層階の西側の壁は壁材が剥がれて鉄筋が露出している。
リンクはその鉄筋めがけてクローショットを撃ち、飛び付いた。そこから上を見上げると、北側の壁の上のほうに紋章がついている。
その紋章にクローショットで飛び移り、さらに上を見上げると南側の壁の中途にも鉄筋が露出した箇所がある。リンクはそこを目掛けてクローショットを撃ち、飛び移った。
そこから周囲を見ると、その階層の隣の部屋はこちらに向いた北側の壁がほとんどぶち抜かれたような状態になっている。だがそちらの部屋の床は健在のようで、その天井にはここから近い位置に紋章が嵌め込まれていた。リンクはその紋章をクローショットで撃って飛び付くと下の床に降り立った。
その部屋の突き当たり、南側の壁に扉がある。リンクは扉に近づいてそれを押し上げ、向こう側に出た。
そこは巨大な円形の吹き抜けの最下部のようだった。扉の前からは吹き抜けの中央に向かって通路が伸びている。その先には、直径三十メートルほどの円形の足場があった。
だが、通路も足場も雑草だらけで、しかも足場の中央には森の神殿で見かけたような巨大デクババと食人花弁植物の合体した奴が鎮座している。
リンクが盾を構え剣を抜いて近づくと、巨大デクババが頭をもたげてこちらを狙い始めた。そいつは頭を頷かせると、途端に上から叩きつけるように覆い被さってきた。
後ろに飛び退いて躱すと、リンクはそいつにジャンプ斬りを叩きつけた。手応えがあった。だが次の瞬間、敵の右脇からヘビババの花弁がいきなり飛び出してきた。
リンクは咄嗟に盾アタックをすると、ヘビババの花弁を回転斬りで切断し、次いで縦斬りを叩きつけた。
ヘビババが萎んでいったと同時に、巨大デクババが立ち直って攻撃を仕掛けてくる。今度は頭を下げて牛か山羊のように下から突き上げる構えを見せる。リンクはすんでのところで盾を構え、攻撃を受け止めた。だが衝撃で数メートル後退させられた。
なにくそ、と剣を握り直すと、リンクはデクババとの間合いを詰めた。再び上から頭を叩きつけようと相手が構えた瞬間、突きを放って体勢を崩し、次いでジャンプ斬りを食らわせた。
剣の刃が深く食い込み、さすがの巨大デクババも耐えきれずどうと床に倒れた。
残るは食人花弁だけだ。だが近寄らない限り安全なので、リンクは一旦剣を納めようとした。だが、巨大植物の背後まで歩いていくとまたヘビババが飛び出す。リンクはそいつも茎を切断すると剣でぶった斬って片付けた。
ようやく荒い息を鎮めると、リンクは剣を納め盾を背負った。上に移動する方法がないかと見上げると、東側の壁近くの天井からぶら下がった円柱の中途に金属の紋章がついているのが見えた。かなり高いが、クローショットなら届きそうだ。だが、今までの経験から紋章にぶら下がった途端にその部分がずり落ち始めることも計算に入れないとならないとわかっていた。
さらに上の方を目で探っていると、その紋章がある場所の左右には壁から張り出した足場があるのが見えた。左手の側の足場は円柱で貫かれている。その円柱自体は上下が崩れ果てているが、もし蔦が生えていたらそこに飛び移れる。
リンクは後ろに下がって足場の上の円柱の状態に目を凝らした。どうやら蔦が生えているようだ。意を決すると、リンクはまずクローショットで上から下がった円柱の中途についた紋章を撃った。鉤爪が引っ掛かるとたちまち身体が引き上げられた。
案の定、体重がかかった途端に紋章の嵌まった円柱の外装材が下にずり落ち始めた。素早くもう一つのクローショットで左手の足場の上に突き出た円柱を狙う。鉤爪が放たれると、それは蔦にしっかりと引っ掛かった。リンクは一つ目のクローショットの鉤爪を開いて、もう一つの円柱のほうに飛び付いた。成功だ。
足場に降り立って冷や汗を拭き、一息をつくと、リンクは周囲を調べた。足場は西側に向かって伸びており、十メートルほど進むと段差があって少し高くなっている。
だが段差まで進むとリンクはそこで足を止めた。段差の上に登ったら、そこから先は幅二十センチほどしかない細長い足場しか残っていない。その細い足場を十メートルほど行くと一旦幅の広い足場に行き着くが、さらにその先も同じくらいの長さの細い足場となっていた。
いくら高所の得意なリンクといえどもこれは別次元だ。だが進むしかない。リンクは段差の上によじ登り、片手にクローショットを嵌めると、摺り足で慎重に前進し始めた。
ゆっくりと進み、どうにか途中の広い足場に到達した。その先を見ると、吸血蝙蝠が前方を飛んでいる他、細い足場が終わり再び足元が広くなった箇所にヘビババが顔を出している。
リンクはクローショットを前方に構えながら再び進んだ。ヘビババの方に狙いを定めると、一旦足を止めて撃った。鉤爪がヘビババの茎を切断し、解き放たれた花弁がのたうち回りながらリンクに向かって突進し始めた。だが所詮知能のない食人植物であるのが災いして、そいつは細い足場の上でバランスを保てず落下していった。
慎重さを崩さずさらに前進し、やっとのことで先ほどヘビババが生えていた足場にたどり着いた。吸血蝙蝠がこちらを見咎めてまとわりつき始めたのを素早くクローショットで撃ち落とすと、リンクはその足場の先の、床が少し低くなっている場所に降り立ち、さらに前方を睨んだ。
その床は西側に進むと数メートルで終わり、そこからは壁から二十センチほど張り出した足場の残骸しか残っていない。上を歩くのは不可能だ。しかし、そこをぶら下がって横移動すれば十メートルほどで次の足場に到達する。
リンクはクローショットを仕舞うと、覚悟を決めてその張り出した部分にぶら下がった。両手を動かし少しづつ横移動していく。足の下に何もないということはもちろん、無防備極まりない体勢に冷や汗が出た。
どうにか横に移動して渡り切り、向こう岸の足場に降り立つと、途端に二匹の吸血蝙蝠が出迎えてきた。咄嗟に頭を下げてその攻撃を躱すと、剣を振り回して叩き落とした。
だが、前方の天井からぶら下がって威嚇してくるものがあった。またヘビババだ。リンクはそいつに剣を叩きつけたが、花弁を茎から切り離さない限り倒せないということを思い出した。
剣を左手に持ち換えてクローショットを右手に嵌めると、化け物植物の茎を狙い撃って切断した。そいつが地面に落ちてきたところを思い切り回転斬りを叩きつけてやっと溜飲を下げた。
剣を納め、荒い息を鎮める。どうやら最も危険な場所は通過したらしい。
今立っている足場の西側に立派な造りの木箱があるのを見つけたリンクは歩み寄ってその蓋を開けてみた。
中にはハート型のガラス瓶の魔法薬が入っていた。見たところ廉価版ではあるが、ありがたい存在だ。
「ミドナ、もらってもいいだろうか?」
リンクは言ってみた。
「決まってるだろ」
ミドナは即答した。
「おそらくあの鳥人間どもも栄えていたころはこういう物を使っていたんだろうな。だが今は魔物に怯えるだけの暮らしじゃないか。お前がそれで力をつけて魔物を追い払ってやるならそれで十分だろ?」
リンクは頷いた。やはりミドナの言う通り、厳しい冒険を成し遂げるには体面を気にしていられない。リンクは魔法薬の瓶の蓋を開けて中身を飲み干した。辛い味だが、すぐに力が湧いてくるのがわかった。まだまだ頑張れそうだ。
そこから移動する経路を探して上を見上げながら足場の上をしばらく歩き回った。
どうやら、丁度上方の天井から二ヶ所、中途に紋章のついた円柱がぶら下がっている。さらに、それらの円柱の左手には、小さな足場を貫く崩れかけの円柱があった。蔦が生えていれば飛び付くことができる。
リンクは箱があった場所とは反対側の足場の縁に立つと、クローショットで真っ直ぐ上方に狙いをつけた。円柱の中途にある紋章に向けて放つと、鉤爪が引っ掛かってすぐに身体が持ち上げられた。
目標の紋章にぶら下がると、すぐに円柱の外装材がずり下がり始めた。素早くもう一つのクローショットを上げて、左隣の円柱の中途にある紋章を狙い撃つ。
同時に右手のクローショットの鉤爪を開くと、リンクは隣の円柱に飛び移った。だが、そこも紋章の嵌まった外装材がずり下がり始める。さらに左手の、足場を貫いた円柱を見ると、予想通り足場の上側は蔦がびっしり生えている。リンクは右手のクローショットで蔦に狙いをつけて撃った。
蔦に飛び移ると、その下にある足場に降りた。そこから上を見ると天井がだいぶ近くなってきている。天井の中央には例の紋章が設置されている。その真下には、今いる場所より少し高い位置にこの部屋で最初に見たのと同じような円形の足場が設置されており、そこから通路が伸びて壁に接していた。
リンクは天井の紋章をクローショットで狙い撃って飛び付くと、そこからぶら下がった。
鎖を伸ばして下に降りようとした瞬間、眼下の足場の上に全身を鎧で固め、円盾と戦斧で武装した竜男が立っているのに気づいた。
手強い相手だ。だが放置しておきたくはない。リンクは戦うことにした。クローショットの鉤爪を開き、高所から飛び降りていきなり敵の目の前に降り立つと、リンクは武器を抜かず相手の横に回り込んだ。
驚いた敵が盾を構え戦斧を上げる。リンクはいきなり反対側に回り込むと剣を抜いて袈裟斬りに斬りつけた。居合い斬りの応用だ。
予想外の打撃を受けた竜男は一旦倒れたが直ぐに立ち上がった。これからが本番だ。リンクは素早く盾を背中から下ろして構えた。竜男は両足でリズムを取りながらも油断なく円盾を上げてこちらの隙を伺っている。リンクは小手調べの横斬りを繰り出した。それを敵が縦でガードした瞬間に盾アタックを叩きつける。相手がよろめいた瞬間にリンクは跳躍して前転し剣を敵の頭部に叩き込んだ。
相手の背後に着地するが早いが、リンクはジャンプ斬りをその後頭部に叩きつけた。竜男はたまらず倒れ伏した。大打撃のはずだったが、相手はそれでも立ち上がり、驚異的な忍耐力を見せて再び武器を構えた。
リンクも盾を構えて相手を見据えた。ただ剣を振っても当てられない相手だ。摺り足で前進して間合いを詰める。再び相手を崩す機会を探す。敵が戦斧を振り下ろしてくるのを盾で防いだ。さらに相手が身体を沈めて尻尾に装着した斧の刃を振るおうとするのを見越してバックステップする。
斧の刃が目の前をかすめて通り過ぎる。リンクはその瞬間に前転して突きを放った。切っ先が敵の鎧の隙間に突き刺さる。立ち上がりざま、リンクは身を沈めて回転斬りを放った。
刃が鎧の破れ目に食い込み、深手となった。よろめき倒れた竜男がすぐ立ち上がることを予期したリンクは、相手の背後に回った。敵が立ち上がったと同時に、背後から縦斬り、横斬り、左右袈裟斬り、さらには突きを放ってようやく勝負を決した。
敵が倒れると、リンクは剣を血払いして納め、足場から南に伸びた廊下を進んだ。突き当たりにある扉を開けるとそこは野外だった。
本来あったはずの天井は跡形もなく消え去っており、床にはそこらじゅうに草が生えていて、南側の壁はところどころ崩壊している。
東側の壁はほとんど消失しており、そのまま空が見える。西側には壁があるが、穴が空いて鉄筋が剥き出しになっていた。
上空に何か飛ぶものを見つけてリンクは顔を上げた。どうやら、例の葉の回転で空を浮遊する木の実のようだ。
目を凝らすと、南側の壁のやや左側の上空を飛んでおり、気流の関係なのか壁の向こうに行ったりこっちに戻ったりを繰り返している。
前方の左手の壁が少し崩れて低くなっていることから、その浮遊する木の実にクローショットでしがみつけば壁を越えて向こうにいけるようだ。
リンクはクローショットを右手に嵌めて前進した。ところが、壁の近くまで行くとヘビババが茂みから頭をもたげて来る。剣を抜いて茎を切断し刃を花弁に叩きつけて片付けると、壁の崩れた場所に近づくため少し左に移動した。
そこでもまたヘビババが飛び出してきた。剣で片付けるとようやく周囲が落ち着いた。クローショットを上空に向けて構えると、浮遊するプロペラの木の実が壁の向こうから姿を表した。リンクはクローショットの狙いをつけて撃った。たちまち身体が引き上げられ、リンクは壁の向こうを見渡した。
木の実にぶら下がりながら気流に流されて南のほうに移動していくと、次の部屋も同じような造りだということが見えてきた。東側の壁は抜けており、南側と西側には壁が残っている。前方を見ると、南側の壁の右手のほうが崩れて低くなっており、その上空を別のプロペラの木の実が浮遊しているのが見えた。その木の実も気流の影響で南北を行ったり来たりしているようだ。
リンクはミドナに頼んでもう一つのクローショットを左手に嵌めると、もう一つのプロペラの木の実を狙い撃った。
リンクはもう一つの木の実の下にぶら下がった。木の実が南に移動し、壁を越える。壁の向こうは今までよりやや南北の幅が狭い部屋だ。今度は、東側の壁が健在の代わりに西側の壁が抜けて向こうまで見渡せる。南側の壁も、右手の辺りがやや欠けており、その先にある高木の生えた中庭のようなものが見えた。
リンクは一旦クローショットの鉤爪を開いて飛び降りた。だが、落下しながらも真下にヘビババが顔を出していたのを見て背筋が寒くなった。
ヘビババの真横に着地すると、早速花弁が牙を剥いて噛みついてきた。咄嗟に横に転がって躱すと、剣を抜いて突きを放った。切っ先が食い込んで相手が怯んだ隙に体勢を整え、茎を切断し回転斬りを食らわせて駆除した。
「おい、行動するときは周囲をよく見ろと言ったろ」
ミドナが姿を現し、顔をしかめながら言った。
「ごめんごめん、油断するとすぐこれだね」
リンクは頭を掻いた。冷や汗を拭きながら周囲を探索する。西側の壁が抜けている先にある構造物を調べると、一階層下の部屋の床が真西にある。さらにその先には今立っているフロアと同じ高さの床が中途から残っていて、西側の突き当たりの壁まで続いている。そこには扉もあったが、ここからは到底アクセスできない。本来なら今のフロアと同じ高さの階層が存在していたのだろうが、年月が経って床がほとんど抜けてしまったのだと思われた。
真西に見える一階層下の部屋の北側には同じ階層の部屋がもう一つある。両者を南北で隔てる壁は一部分残っているものの、何ヵ所か穴が空いている上に、下のほうはあらかた崩れていて壁として機能していなかった。
そこから見渡す一階層下のフロアは、ここと同様荒れ果てて雑草が生え放題だったが、それに加えて柱が何本も倒れており、兜付き南洋蜥蜴の化け物が大型版も小型版もいてそこらをうろついている。
リンクは、その壁の上空を例のプロペラの木の実が浮遊しているのを見つけた。気流の影響なのか、壁のすぐ上をかすめるように南北を行ったり来たりしながら飛んでいる。その木の実の浮遊経路の下の壁には縦に長い亀裂が走っており、その下には大穴が空いていた。クローショットでぶらさがって鎖を伸ばせば、一階層下に降りずとも未踏破の部屋に進めそうだ。
リンクは今立っているフロアの西側の縁からクローショットを構えた。木の実が南側に浮遊してきたタイミングで狙い撃つ。鉤爪が引っ掛かって、リンクは木の実からぶら下がった。
リンクはすぐにクローショットの鎖を伸ばした。木の実が気流に流されて北に移動していくと、壁が目の前に近づいてくる。自分の身体が壁の穴と同じ高さに位置するようにクローショットの鎖の長さを調節した。
壁の穴を通り抜けると、木の実にぶらさがってそのまま北側に移動する。北側にもう一つの壁があり、その上空にもプロペラの木の実が浮遊している。もう一つの壁は比較的健在だったが、その木の実の浮遊コースの下には亀裂が入り、その先にやはり大穴が空いていた。
リンクは今ぶら下がっている木の実から、北側の壁の上空の木の実をクローショットで狙い撃った。木の実の間を飛び移ると、リンクは再びクローショットの鎖の長さを調節して、北側の壁の穴と同じ高さに自分の身体が位置するようにした。
木の実にぶら下がって壁の穴を通過する。眼下には今までと同じように一階層低いフロアが広がっていた。だが、その部屋の北の端には、最初この野外スペースに入ってきたときの扉と同じ高さのフロアが半分がた崩れながらも一部残っている。その床の西の端には先に進む扉があった。
リンクは、自分がぶら下がっているプロペラの木の実が北側に浮遊していくのをしばらく待った。だが、東側の壁を見ると、ちょうど高いほうのフロアが残存している部分に接した壁に鉄筋が剥き出しになった穴が空いている。リンクはクローショットで鉄筋を狙い撃つと、そこに飛び移ってフロアに降り立った。
フロアを西に横切り、扉を開ける。どうやらこの棟は踏破し終わったようだ。目の前には百メートルあまり西の方角に天空都市の中心の棟が見えていた。
また、今いる位置からだと中央の棟の北のほうにあるもう一つの棟もよく見えた。中央棟と北棟は繋がっているように見えたが、果たして人間が歩いて渡れるような構造なのかは判断しかねた。 二つの棟を結ぶごくごく細い連絡橋のようなものの下に、巨大な板が間隔を置いていくつもぶら下がっている。
今の棟と中央棟の間の空中には、プロペラの木の実が多数浮遊している。どうやらそれを辿っていけば、今まで訪れたことのない中央棟の上部階層に行くことができそうだ。
「さっきから竜の姿を見ないね」
リンクはミドナに言った。
「油断するなよ。ああいう生き物は悪事には知恵が働くからな」
ミドナが答えた。
「東西の棟は踏破したから、やはり重要なものは中央の棟か北の棟にあるんだね」
リンクが言う。
「そうだな。それにしてもこの都市の荒れようは酷いな。別にザントが竜を連れてこなくたって滅亡寸前って感じじゃないか」
ミドナがひとりごちた。
「建物の整備は力仕事だからね。鳥人間たちには向かなそうだ」
リンクが答えると、ミドナが向き直って尋ねた。
「リンク、お前まさかこの都市の復興を手伝ってやろうとか考えてないだろうな?」
「ミドナ、どうしてわかったんだい?」
リンクは驚いた。
「お前の頭なんてガラス張りみたいなもんだ」
彼女は溜め息をつくと続けた。
「まあザントを倒した後なら好きにすればいいさ。もう止めだてはしない。だが正直なところ私はお前のお気楽さがちょっと羨ましくなるな」
「君は王女だからね」
リンクは呟いた。
「確かに君は重い責任を負っている。だからあちこちに飛んでいって人を助けるわけにいかないってのはわかるよ。でも‥‥」
リンクは微笑むと言葉を継いだ。
「僕はただの田舎の少年だ。だからこそできるってことがきっとある。僕は僕で自分の精一杯をやろうと思ってる。それが世の中が上手く回るコツなんじゃないかな?」
「ふん、最近なんだか妙に賢くなってきたな、お前も」
ミドナは笑った。リンクは水を飲んで一息ついたあと、クローショットを両腕に嵌めて上空のプロペラの木の実を狙い撃った。たちまち身体が引き上げられ、木の実にぶら下がると、今度は西方向にあるプロペラの木の実に狙いをつける。一つづつプロペラの木の実を辿って、リンクは中央棟の上部に近づいた。
近づいていくと、最初にこの都市に来たときに引き出した渡り廊下の真上に位置する場所に半円形のバルコニーがあるのがわかった。そこには内部に入る扉もあった。
一番西側に位置するプロペラの木の実はちょうどバルコニーの上に浮いている。リンクはその木の実にまで移動すると、クローショットの鎖を伸ばし、バルコニーに降り立った。
扉を開けて向こう側に出ると、そこは円形の壁に囲まれた広い野外広場だった。中央にはずんぐりとした円筒形の塔のようなものが立っている。また、広場を囲む壁のところどころに接するように天辺の平らな円柱が立てられていた。
塔の中に入れないだろうかと考えながら、右手に向かって進み周囲を探索していると、前方に人影が見えた。リンクはすぐに塔の壁に身を寄せて身を隠した。
全身を鎧で固め円盾と戦斧で武装した竜男だ。この周辺の警備を命じられたのか、左右を見回しながら巡回している。リンクが正々堂々と戦うか奇襲するか迷っているとミドナが囁いた。
「リンク、戦わずにやり過ごすか背後から奇襲して短時間で倒せ。お前は後で本物の竜と戦わないといけないんだぞ。体力を温存しろ」
確かにミドナの言う通りだった。リンクは彼女に爆弾袋を出してもらうと、爆弾を取り出しその底面に矢尻を差し込んだ。弓に爆弾矢をつがえると、導火線に点火し、ゆっくりと立ち上がると竜男が向こうを向いている隙にその背中を狙った。
爆弾矢を放つ。放物線を描いて飛んでいった爆弾矢は敵の後頭部に命中し爆発を起こした。強烈な奇襲を受けた竜男はさすがのタフさも発揮できず、もろくも崩れ落ちた。
リンクは弓を背中に背負うと、ミドナに爆弾袋を収納してもらった。竜男が巡回していた辺りに行ってみると、塔の壁に扉があるのがわかった。また、その向かい側にある外周壁には蔦が生えている。その蔦を登った先には、壁から張り出した足場があった。その上からなら周囲の様子がよく見えそうだ。さらに、よく見るとその足場から中央塔の二階部分にある狭い張り出しに向けてロープが渡されている。
その時、中央塔の向こう側から威嚇するような声を上げながら別の竜男が姿を現した。リンクを見咎めると、円盾を持ち上げて用心深く近づいてくる。リンクは咄嗟にクローショットを右手に嵌めると壁に生えた蔦を狙い撃った。たちまち身体が引き上げられ、リンクは次の瞬間蔦にしがみついた。
蔦を登ると、リンクは足場の上に降り立って一息ついた。
「お前も効率的な行動が身についてきたな」
ミドナが珍しく褒めた。
「竜退治となったら楽にはいかないからね」
リンクがそう答えた瞬間、カーゴロックの鳴き声がした。ぎょっとして顔を上げると、今いる足場の北側の隣にある円柱の上に怪鳥が陣取っていて、今しもこちらに向かって飛び掛かろうとしている。
リンクは弓を下ろすと矢をつがえて怪鳥を狙い撃った。矢が命中し、カーゴロックは叫びながら円柱の上から転落していった。
周囲をよく見回すと、さらに北のほうの円柱の上にも怪鳥がいる。リンクはもう一本矢を弓につがえると慎重に狙い、そいつも射殺した。
弓を仕舞うと、今立っている足場から中央塔の二階部分まで伸びているロープを調べた。狼姿になれば渡れるかも知れない。それに加えて、向こう岸の張り出しを少し右に行った辺りから別のロープが伸びており、先ほど一匹目のカーゴロックが乗っていた円柱まで渡れるようになっていた。その円柱からは外壁沿いにもう一匹のカーゴロックが止まっていた円柱までロープが伸びている。
中央塔二階部分の張り出しは、ロープの出ている場所の少し先で切れている。だが、そこから数メートルの間隙を置いてからまた張り出しが再開していた。そこに何があるのかは今いる場所からは見えなかった。しかし、二匹目のカーゴロックがいた円柱からは、間隙の先の張り出し部分までロープが渡されている。
ロープをずっと辿っていけば今いる位置からは見えない中央塔の二階部分を探索できそうだ。リンクは装備を外して服を脱ぐとミドナに狼姿に変えてもらった。ロープを渡って向こう岸まで向かった。眼下では、先ほどやってきた竜男が悔しそうにこちらを見上げていたが、やがて諦めたのかどこかに行ってしまった。
向こう岸まで到達すると、狭い張り出しを右手に少し進んで、そこから渡されたロープを渡っていった。一匹目のカーゴロックがいた円柱に到達すると、今度はもう一つの円柱目指してロープを渡る。二匹目のカーゴロックの止まっていた円柱に行き着くと、そこから中央塔の二階部分を眺めてみた。扉がある。
リンクは円柱からまたロープを渡りをして向こう岸の張り出しに到達した。
リンクは張り出しの上で人間の姿に戻り、服を着て装備を身につけた。扉を開けて内部に入ると、室内は強風が吹いている。
床の中央には円形の金網が嵌め込まれている。どうやら風は下の部屋から吹いてきているようだ。円形の金網の周囲には床があった。どうやら金網の上では強風に吹かれてまともに歩けそうにない。また、部屋の天井の中心を軸として、巨大な板が床まで渡されていてゆっくりと回転している。
部屋の奥には兜付き南洋蜥蜴の大型版化け物が二匹も陣取っていた。だが部屋の奥に黒い石のような素材でできた巨大な箱があるのがリンクの目を引いた。
リンクは盾を背中から下ろすと剣を抜いた。だが大型の化け物二匹相手にこちらから突っ込んでいっても分が悪い。
天井から下がった板が回転する周期を見極めながら、リンクは相手のうち右側の一匹の視界にわざと自分を晒すような位置に移動した。化け物がこちらに気づき、たちまち突進してくる。金網の上を渡ってきた化け物を左にステップして躱すと、相手は壁にぶち当たって止まり、向きを変えてきた。敵が突進を開始するギリギリまで待ち再び身を躱す。
相手が自分の脇を通り過ぎて行ったのをダッシュで追いかけ、そいつが壁で止まったところに思い切りジャンプ斬りを叩きつけた。致命傷を食らった化け物が断末魔の叫びを上げる。
もう一匹もリンクに気づいた。豚のような鳴き声を上げながらリンクの横から突進してくる。後ろに飛び退くと、壁に当たって止まった化け物の背後をとってそいつもジャンプ斬りで片付けた。
リンクは剣を納めるとミドナに頼んで鉄のブーツを履かせてもらった。金網の上を横切ると、巨大な黒い箱に近寄ってその蓋を開けた。内部には黒い金属でできた大きな鍵があった。リンクがそれをポーチに仕舞っているとミドナが声をかけてきた。
「おい、上を見ろ」
天井を見上げると、大型の鳥かご形スイッチがぶら下がっている。リンクはクローショットでそれを撃って飛び付いた。ちょうど鉄のブーツの重さが加わり、スイッチが作動すると、部屋に吹きまくっていた強風が止み、回転していた板も止まった。
「止めちゃいけないものを止めたわけじゃないよね?」
リンクはクローショットの鉤爪を開いて飛び降りながら言った。
「さあな。だがこのスイッチを止めるのは下の階層に移動するのに必須みたいだぞ。見ろ」
ミドナはリンクのブーツを元に戻しながら金網の下を指差した。
金網越しに覗き込むと、下の部屋は、床の中央に巨大な円形の穴が空いている。そこに設置されていたプロペラが作動を止め、徐々に回転速度を落としているところだった。
「そうか、ここは中央の部屋の天井の真上なんだね」
リンクが言うとミドナが答えた。
「今ごろ気づいたか。まあいい。あとは北の棟にどうやって行くかだな」
「建物は繋がってるように見えたよね?」
リンクは東棟から見た記憶を思い返した。
「おそらくそのままでは行けないだろう。渡り廊下にしては連絡橋が細すぎる」
ミドナが言う。
「まあ鳥人間用の建物だからね」
リンクも同意した。周囲を調べると、壁に向かって巨大な箱の右手のほうに四角い穴があり、そこから下の部屋に降りられるようになっている。
リンクはそこから下を覗き込んだ。兜付き南洋蜥蜴の小型版化け物がうろついている。しかも、床のほとんどを中央の穴が占めており、その周囲の通路は狭く戦いにくい。
リンクはクローショットを両手に嵌めてから穴に飛び込み、下のフロアに降り立った。化け物がこちらを見とがめて威嚇の声を上げた瞬間、リンクはクローショットを天井の金網に向けて撃った。たちまち身体が引き上げられ、リンクは金網からぶら下がった。
プロペラが完全に停止するのを待つと、リンクはそこから鎖を少しづつ伸ばしていった。やがて床の穴を通り抜け、中央広間の天井辺りにまで降りていった。
「リンク、待て」
リンクが下のフロアに飛び降りようとするとミドナが言った。
「なんだいミドナ?」
リンクが尋ねるとミドナは今現在ぶら下がっている位置の少し北側の天井を指差した。
「あそこにスイッチがあるだろう。あれが北側の棟に行く鍵って気がするな」
「入れた途端に天空都市が崩壊するとかじゃないよね?」
リンクが冗談めかして言うとミドナが鼻を鳴らした。
「そんなわけないだろ。第一そんなスイッチをこんな誰の目にも触れる場所に設置する奴がどこにいる?」
リンクは舌を出すと、もう一つのクローショットをミドナが指差したスイッチに向けて撃った。鉤爪がスイッチに引っ掛かり、リンクはそちらに飛び付いた。だが体重が足りないのかスイッチが作動しない。ミドナに鉄のブーツを履かせてもらうとようやくスイッチが動いた。
重々しい作動音が響く。何かがゆっくりと動き始めたような音だ。
リンクはクローショットの鎖を伸ばし切ると、床に降り立った。ちょうど目の前にあった短い階段を登る。突き当たりにある壁の上のほうには円形の巨大な金網が嵌め込まれていて、その内部にしつらえられたプロペラが高速で回転して外部に風を送り出していた。どうやら今のスイッチで起動されたものの一環らしい。
北側の壁の扉を開けて外に出ると、百メートルほど北に未踏破の棟が見える。連絡橋と見えたものはやはり移動用ではなかったようだ。今いるバルコニーのはるか上方から北棟に向けて渡されていて、その下にぶら下がっている巨大な板がゆっくりと回転している。東棟から見た時には板は動いていなかったからさっきのスイッチで作動し始めたのだろう。
板には全面に金網が張られているから、クローショットを使えば一つ一つ伝っていって北棟まで移動できそうだ。
リンクはまずバルコニーのほぼ真上に位置する回転金網板を狙ってクローショットを撃ち、そこに飛び付いた。そこから一つ北に位置する回転板を狙ってクローショットを撃ち、さらに飛び移る。三つ目の金網を狙おうとクローショットを向けると、その板には片面しか金網が張られていない。リンクはその板が回転して金網の面がこちらに向くのを待った。
「おいリンク、周囲をよく見ろ」
ミドナが言った。辺りを見回すとカーゴロックが何匹も飛び回っている。
「こりゃまずい。のんびりやってるわけにいかないね」
リンクは今か今かと三つ目の板が回転するのを待った。金網の面がこちらを向くと、クローショットを撃って飛び移る。
どうやら四つ目の金網が最後だ。だがその時、不気味な鳴き声がしてリンクは周囲を見回した。カーゴロックがリンクを発見し、ホバリングしながらこちらに飛び掛かろうとしている。リンクは咄嗟にクローショットを向けて撃った。鉤爪が頭部に命中し、カーゴロックはふらついて高度を落とした。だが致命傷には程遠い。
リンクは焦りで額から冷や汗を垂らしながら自分がしがみついている金網の回転を待った。カーゴロックはすぐに立ち直り、羽ばたきながら高度を取り戻している。すぐにまた襲撃してくるだろう。金網が裏返ると、リンクはすぐに四つ目の金網を狙ってクローショットを撃ち、飛び移った。
一瞬だがカーゴロックの追跡を遅らせられたようだ。北棟の壁はもうすぐだ。半円形のバルコニーには扉もあった。扉の上方の壁には巨大な円形の金網がついている。
リンクは四つ目の金網が回転すると、その円形の金網めがけてクローショットを撃ち、飛び付いた。
鉤爪を開いて飛び降りる。そこは金網の裏にしつらえられた巨大なプロペラの力で風を送る吹き出し口のようだ。リンクが降り立ったのは吹き出し口の縁だった。そこからバルコニーに飛び降りると、リンクは扉を開けて向こう側に出た。
危険な移動を成功裏に終えて安堵の溜め息をついた直後、リンクは聞き覚えのある羽音に気づいた。
目を上げると、そこは直径百メートルほどの巨大な円筒形の部屋だった。上空には以前戦ったあいつがいる。
ガーナイルだ。原始的な蜥蜴の顔をして、兜を被り剣と円盾で武装した空飛ぶ剣士。
しかも二匹いた。蜥蜴騎士たちはリンクの十メートルほど上方で背中から生えた羽を羽ばたかせながら、感情のない目でこちらを見据えていた。