世界のはざまを超えて
天空都市から大砲で撃ち出されたリンクたちがハイリア湖に戻ってきたときには日が傾き始めていた。リンクは無事に湖の水面に着水し、そこから泳いでトビーの小屋の前の木道に辿り着き、這い上がった。
トビーに挨拶し、老人が根掘り葉掘り冒険の顛末を聞きたがるのをどうにか誤魔化すと、リンクは木道の柵の陰で狼に変身しカカリコ村の泉にワープで飛んだ。
カカリコ村に着いたときにはとっぷり日が暮れていた。リンクは服を着て礼拝所に入った。イリアや子供たちは皆夕食を囲んでいた。自らも食卓につこうとしていたレナードはリンクが負傷していることにすぐ気づいた。
祭司はすぐさま若者をベンチに座らせ、その身体をあらためるとともにルダに治療用具を持ってこさせた。その間子供たちが食事そっちのけで集まり、口々に天空の様子を聞きたがった。だがリンクは竜を倒したことは黙っていた。大騒ぎになるし、自分ひとりの仕事ではなかったからだ。代りに、小さな魔物たちが沢山いたのを駆除してきたとのみ手短に答え、子供たちには食事に戻るように言った。
だが祭司はリンクが何か所にも負った切り傷を見て明らかに様子が今までと異なると思ったようだ。顔を上げて怪訝な表情をしたが、リンクが何も言わないようにと目で合図すると肩をすくめて治療に戻った。傷は浅かったが三つもあったので縫合に多少の時間がかかり、リンクが夕食にありついたのは皆が食べ終わった後だった。
リンクはその夜ぐっすりと寝て、翌日は皆と同じ時間に起きた。イリアの状態も比較的良好なようだったのを見て、リンクが朝食後畑に出ようとすると、レナードが声をかけてきて彼を隅に引き寄せた。
「リンク、君に話したいことがある」
「何でしょう?」
リンクは祭司の改まった口調に驚いて尋ねた。
「君は今回かなりの危険を冒したと見える。違うかね?」
戦闘には素人でも、レナードの医術師としての目はごまかせないと観念したリンクは、経験した戦闘行為のあらかたを包み隠さず述べた。それを聞いていた祭司は少し上を向いて黙っていたが、やがて口を開いた。
「リンク、君の務めは理解しているし応援もしている。だが同時にイリアや子供たちのことも考えてほしい。最近の君はまるで取り憑かれたように冒険を追い求めているように見えるんだ」
「先生に任せっきりにしてすみません」
リンクは言った。
「いや、私はそのことを言っているんじゃない。子供たちは私にもよくなついてくれている。だが彼らにはやはり同郷の君が兄がわりの存在として必要なんだよ。ましてやイリアはまだ回復の途上だ。彼女がどれほど君を心の拠り所にしているかは計り知れない」
レナードはそう応じた。リンクは言われたことの意味を考えてみた。自分にはミドナとの約束もあり、そして勇者として必要とされたらどこにでも赴くという決意もある。だが、自分が戦いを始めたそもそもの理由はイリアと子供たちであったことも事実だ。
彼らにあまりにも心配を与えてしまうのは酷だとレナードが言いたいのもリンクにはよくわかった。この世界に寄るべのないミドナを助けるため、陰りの鏡の破片すべてを取り返すための旅をほとんど休みなく続けてきたが、最後の冒険に出るに先だって彼らをよく安心させてやることはできないものか。リンクは考えた。
「お前の言うことももっともだ。休みをとれ」
物陰でミドナと相談すると彼女はそう答えた。
「今のお前は私の雇い人ではなく対等な相棒だ。それに怪我だって完全に治してから出発したほうがいいだろう」
「ありがとうミドナ」
リンクは言った。
「気にするな。私もザントの城に突入する前に計画を立てる時間が必要だ。お前は少し体力の回復に専念しろ」
相談がまとまると、リンクはコリンとタロを追って畑に出ることにした。礼拝所から出ると、目抜き通りでマロに行き会った。
「竜と戦ったらしいじゃないか。伝説を作ったな」
マロはいきなりそう声をかけてきた。
「誰から聞いたんだい?」
リンクは面食らった。
「商売人の武器は地獄耳だ。それよりお前、もう一つ伝説を作る気はないか?」
マロは涼しい顔で尋ねてきた。
「もう一つ伝説を作るって....どうやって?」
「城下町西橋の修復費用だ。募金が溜まってはきているんだがまだ必要額に達していない」
この小さな実業家は一度定めた志は絶対に曲げないようだ。早い話が金策か、とリンクは思ったが、マロは畳みかけるように続けた。
「リンク、この村の復興はあの橋の修復にかかっている。城下町からの高速便が再開したら交易が加速度的に増えていく。得られるのは経済効果なんてレベルじゃあない。まさに昔日の繁栄を取り戻すことになるんだ」
「なるほど、確かにそうだろうね」
リンクは言った。
「リンク、お前はともかくとして僕ら五人がレナードの世話になっていることの恩返しとして僕はどうしてもこのプロジェクトを成功させたい。トアル村の名誉を施すことにもなるんだ。協力してくれるな?」
リンクはマロの弁舌に感嘆するとともに、そこまで言われたら動かざるを得ないと納得させられた自分に気づいた。
「わかったよ。埋蔵ルピーがないかどうか探してみる」
「お前ならそう言ってくれると思ってた」
マロは言った。リンクは一旦礼拝所に戻り、薬の棚卸しをしていたレナードに相談した。
「マロの言うことももっともなんだ。確かに城下町との西回りの交易路が復活すれば村への利益は大きい。だが埋蔵ルピーというのは難しいな」
祭司は手を止めると頭を掻いた。
「君も知っての通り、高額ルピーの大半は鉱山にあるがそこはゴロンたちの領域だ。それ以外にルピーが埋まっている場所と言えば‥‥」
レナードは目を閉じて自分のこめかみに人差し指を押し当てて考えたあとリンクに向き直った。
「これはあくまでも噂みたいなものなんだがね」
「それでも構いません。教えて下さい」
リンクが頼むとレナードは礼拝所の天井を指差した。
「先代から聞いた話なんだが、この礼拝所の屋上の鐘を作った職人が中に高額ルピーを隠したって話なんだ。もう何十年も前に聞いた話だし、職人本人もとうに死んでしまったから確かめようがないんだがね」
リンクは礼を言い、装備を持って礼拝所から出た。物陰に隠れてミドナに相談すると彼女は笑って言った。
「おいリンク、お前みたいなのを貧乏性って言うんだぞ」
「なんだいそれは?」
「休めって言ったのに結局働いちまうんだからな」
ミドナは肩をすくめた。
「まあいい、それくらいなら手伝ってやる」
「助かるよ」
二人は相談をまとめた。リンクは服を脱ぐと狼姿に変えてもらい、人通りがなくなったときを見計らってミドナの先導で礼拝所の屋上に飛び上がった。
リンクは人間の姿に戻してもらったあと、櫓の上に立てられた鐘を見上げて考えた。巨大な鐘を下ろして調べるのはいかにリンクと言えども独力では不可能だ。だが、鐘の中を覗き込むと、その天辺の裏側近くに小さく盛り上がった箇所があった。
リンクはミドナに爆弾袋を出してもらうと爆弾を一つ取り出してその底面に矢尻を差し込んだ。弓を持つと、導火線に火をつけた爆弾矢をつがえてその箇所に向けて撃った。
爆発音とともに鐘が激しく鳴動し、何か光る小さなものが屋上の床を跳ね回るのが見えた。リンクはそれを追うとつかみ取った。
銀色ルピー。極めて高額だ。確か二百ルピー相当だ。リンクはそれを持って礼拝所の屋上から丸い半球形の壁を滑り降り、マロの店に向かった。
店の扉を開けて、ドン・エビーゾの募金箱にルピーを投げ入れた。突然の高額募金に呆気に取られた長老にウィンクするとリンクは店を出た。
他に埋蔵ルピーはないだろうか?リンクは泉の向かいにある崖を見やった。崖の下に岩で塞がれた洞窟がある。リンクはそこに近づくと、ミドナに爆弾袋を出してもらい導火線に点火した爆弾を岩の下に仕掛けて後退りした。
爆発音がして岩が割れ、亀裂だらけになった。岩の破片を取り除けて洞窟の中に入る。洞窟は円形の広い部屋になっており、天井が一部開いていて中は明るかった。奥のほうに木箱が散らばっていて、その先に狭い洞窟が続いている。また、どこからか入り込んだのか鶏が何羽かうろついて地面をつついていた。
リンクは鶏を見ていて思いついた。もしかすると、鶏を使ってカカリコ村の左右を挟む崖の今まで訪れていない場所に行けば埋蔵ルピーのある場所を見つけられるかも知れない。人口が戻りつつあるカカリコ村では人のいない廃墟は少なくなっていたが、誰のものでもない崖の上だったらルピー探しをしても問題はないはずだ。
リンクは鶏のうちの一羽を素早く捕まえてその両脚を掴むと、歩いて洞窟を出て、商店の裏手にある坂道を登った。登り切った先に続く山道の終端は、宿屋のバルコニーを望む崖になっている。リンクは鶏を持ったまま崖から飛び出し、バルコニーに飛び移ると、そこから始まっている階段を登って崖の上の温泉にまで出た。温泉にはゴロンの親子が浸かっていた。リンクはそこから向かい側の崖を見やった。
やや右手の斜向かいにバーンズ爆弾工房の建物が見える。その裏手の崖の上には、かつてリンクが影の領域を晴らす過程で蟲を探しているうちに吹き飛ばしてしまった物置小屋の跡地があった。それを思い出したリンクは、バーンズのためにも村の復興に力を尽くさなければ、と決心を新たにした。
物置小屋の跡からはジグザグに登る坂道があり、それを登り切った右手遠くには昔タロがよく立っていた見張り小屋がある。見張り小屋の右手を何気なく眺めていたら、人の入れない場所に大きな木箱が置いてあるのが見えた。
その箱を調べてみることに決めて、リンクはバーンズ工房の屋上に向けて飛び出した。慌てふためいて羽ばたく鶏の揚力を借りてゆっくりと落下しながら進んでいくと、どうにか目的地点に着地した。そこから階段を登り、物置小屋跡地を過ぎて左手に登る坂道に入る。坂道は右に曲がり、しばらく歩くと見張り小屋の前に出た。
見張り小屋の前の木のデッキから左を覗き込み、先ほど見えた木箱のほうを見ようとしたが、建物の陰になって見えない。これは飛び出してみるしかなさそうだ。リンクは意を決すると、鶏の脚を掴み直してデッキから跳躍した。
空中をふわりと進みながら向きを調整していく。見張り小屋の建物の裏手の崖を目指した。だが、視界に入ってきたのは飛び出した場所とほぼ同じ高さの崖だ。途中高度を失った分があるからこれでは向こう岸に移れない。そう思った瞬間、崖の斜面がこちらに向いて斜めに削れているのが見えた。ギリギリではあるが取り付くことができそうだ。
果たして、鶏の揚力でリンクは崖の斜面に降り立つことができた。斜面を登り右手にあった箱に近づく。鶏を一旦地面に置くと、箱の蓋を開いた。中身はオレンジルピーだ。
リンクは再び鶏に掴まると、ゆっくりと目抜き通りに降り立った。通行人の何人かが上からやってきたリンクに奇異の目を投げかけたが、リンクはそのまま鶏を解放し、走って礼拝所に戻った。
「見張り小屋は魔物たちが現れる前から持ち主不明だったんだよ」
リンクが報告するとレナードが教えてくれた。
「実を言うと私自身もその辺りの経緯は知らなくってね。私が生まれる前にはこの村の景気は想像もつかないほど良かったらしいんだ。そのころだったらそこいらにオレンジルピーが放ってあってもおかしくはないだろうね」
見つけたルピーを寄付金にあてても問題がないと確認したリンクは、すぐさまマロの店に行って募金箱にルピーを投げ入れた。次々の高額募金にエビーゾは目を白黒させながらも、甲高い声で礼を言うのを忘れなかった。
店を出ると、リンクは思案した。かなりの額を貢献できたが、まだ橋の再建には足りない。いっそのこと、ミドナに協力してもらってハイラル中の埋蔵ルピーを探してみようと思い立つと、リンクは物陰に行って彼女に相談した。
「お前がもっと早くからそれくらい真面目にルピー探しをしてくれていたら楽だったんだがな」
ミドナは苦笑いした。
「君に関係ないことで手間をかけて悪いと思ってるよ。だけどマロにああ言われたら断れなくってね」
彼女は協力すると請け合ってくれた。リンクは礼拝所で昼食をとると、改めて装備を整えた。それを見たイリアや子供たちは心配そうな顔をした。
「リンク、また行っちゃうの?」
コリンが聞いてくるのを、リンクはルピー探しに行くだけだと言って安心させた。するとタロが自分も行くと言い出した。畑仕事を頼むと言い聞かせ何とか思いとどまらせると、リンクは礼拝所を出て泉の近くの物陰に行った。やはり最初に探すべきはまずハイラル城周辺と思われた。服を脱いで狼姿になると、ミドナが城下町東のポータルへのワープを開始した。
目的のポータルの下に降り立つと、リンクは人間の姿に戻してもらい、服と装備を身に着けた。始めるにあたって、カカリコ村での成功体験を元に人が足を踏み入れにくい崖や隘路などを主に捜索することに心を決めた。
周囲を見回し、まずはハイリア湖に向かう街道の左右を挟む崖のほうに足を運んでみた。しばらく歩いて崖に近づくと、左手の崖の手前に岩棚があり、その下に蔦がびっしり生えていることに気づいた。
その蔦をクローショットで狙い撃って飛び付くと、しがみついて岩棚に登ってみた。奥行き五メートル、左右は二十メートルほどの小さなスペースだったが、右手のほうに石が円形に並べてあるのに気づいた。何かあると直感したリンクはミドナに頼んで狼に変えてもらうことにした。
服を脱いで変身すると、よく感覚を集中しながら並べられた石の真ん中のあたりを前足で掘ってみた。すると土が脆い。開いた穴を埋め戻した跡だ。掘り進めていくと大きな穴が開いた。リンクはそのまま下に飛び降りた。
すると、内部は三十メートル四方ほどの地下スペースだった。地上からわずかな光が差し込み、草がそこここに生い茂っている。だがリンクはすぐに気づいた。魔物たちがいる。その瞬間横から豚のような鳴き声が聞こえ、リンクは突進を喰らって跳ね飛ばされた。素早く起き上がって顔を上げると、兜付きのずんぐりした南洋トカゲの化け物たちが何匹もうろついている。
再び別の化け物がこちらに突進をしかけてくるのを横っ飛びに躱すと、リンクは包囲されないよう一旦壁の方に身を寄せた。
「おいおい、大丈夫か?」
ミドナが声をかけてきた。目で訴えるとすぐに彼女が人間の姿に戻してくれた。さらに、服と装備が魔法の力でたちまちリンクの身体に装着された。
「まったく私もお人よしになったもんだ。お前の影響だな」
「恩に着るよ、ミドナ」
リンクは礼を言いながらクローショットを右手に嵌めた。新手の化け物が突進してくるのを横移動で回避すると、そいつにクローショットを撃って兜を剥ぎ取り、剣を抜いて二、三度斬りつけ大人しくさせた。そうして五、六匹の魔物どもを全滅させると、やっと洞窟の中が静かになった。
リンクが剣を納めていると、部屋のひと隅にあった平らな岩の上に光が走った。驚いてそれを見ていると、やがて岩の上に大きな木の箱が現れた。歩み寄って岩に登り蓋を開けると、オレンジルピーが入っている。ルピーを手に取ると、上に戻る方法を探して洞窟の中を歩き回った。さっき開けたばかりの穴から差す光が床を照らしている場所に平らな丸い岩がある。何気なくそこに乗って上を見てみると、不思議な事にリンクの身体はひとりでに上に持ち上げられていった。数秒もすると、リンクは岩棚の上にまでに上昇し、草の上に無事に降り立った。どうやら木の箱の出現と同様、ちょっとした魔法の仕組みが設置されていたようだ。
リンクは太陽の光を浴びながら水筒の水を飲み、パンを齧ってしばらく休憩した。
「お前も金運が向いてきたな」
ミドナが言う。
「驚いたよ。さっきは箱なんか見えなかったのに」
リンクはルピーを財布に仕舞った。
「リンク、レナードが言ってたことを覚えてるか?」
ミドナが尋ねた。
「昔は考えられないくらい景気が良かったって話かい?」
「そうだ。私はハイラルに来てからずっと気になってたんだ。各所に巨大な建造物が建っているのに、捨てられたり手入れが悪くて崩壊しかかっているものが多い。だいいち、そういったインフラに比して人口が少なすぎるんだ」
「それはそうかも知れないけど....何か推理したのかい?」
そう聞くとミドナが腕を組んで目を細めた。
「もしかするとハイラルは昔大繁栄を極めたあとに急激な衰退期に入ったのかも知れない」
「衰退期だって?」
リンクは目を丸くした。
「なにも驚くことはない。どんな巨大文明にも必ず衰退は訪れる。それに衰退した後別の形で復活することだってあるんだ。お前が悲観するような話じゃあないからな」
ミドナは断りを入れた。
「じゃあ、今僕たちが見ているのは最も栄えた時期のハイラルの痕跡に過ぎないってことなのかな...」
リンクが呟くと、ミドナが続けた。
「その可能性が高い。衰退の理由はわからんがな。疫病かも知れないし、もっと内部的な理由かも知れない」
「内部的って...?」
「発達しきった官僚機構による非効率な統治、狂信的な政治・宗教ドグマの押し付けによる生産性の低下、あるいは繁栄に慣れ切った人心の間に広がった刹那主義と怠惰とかな。考え得る原因は色々ある。まあいま詮索したってしょうがない話だがな」
リンクはそれを聞いて考え込んだ。以前ゲイルがリンクに語ったことを思い出した。勇者としての冒険全てを完遂したとしても、そこで戦いが終わるわけではない。ハイラルにはまだ問題が山積みなのだ。
「ま、こういう考察は私の趣味みたいなもんだ。本題に戻ろう」
ミドナはリンクのほうを向いた。
「本題?」
「おい、しっかりしてくれ。ルピーを探すんだろ?」
ミドナに肩をどやされてリンクは我に返った。
「いいかリンク、レナードの言ったことが仮に本当なら、高額な埋蔵ルピーはまだハイラル中に散らばってる可能性があるぞ」
ミドナはさっきまでリンクたちがいた地下を指さして言った。
「この洞窟だって、そのルピーの持ち主が仕組んだ遊びみたいなものとしか思えないだろ?ある条件を満たせば隠された宝箱が現れる。初歩的な魔法だが、ゲームとしてはよく出来てる。景気が良ければそんなことを思いつく奴も出てくるだろうさ。そしてそれが発見されず長い間眠ってたってわけだな」
言われてみれば確かにそうだった。昔、カカリコ村の墓場で紫ルピーを発見したときもそうだ。燭台の謎を解いた者にルピーを進呈する、というのも、考えてみればといかにも景気の良い遊びだ。やはりレナードの言う通りだったのかも知れない。
リンクとミドナは相談をまとめ、同様の隠し場所を探し続けることにした。ミドナに狼に変身させてもらい、その姿のまま岩棚から平原に飛び降りると、今度は城下町の北の平原に向かって走った。
北に向かう街道に出ると、狼の俊足を生かしてひたすら走った。途中ブルブリンに出会ったのを、体当たりで押し倒し首を食いちぎって片付ける。やがて崖に挟まれた小道に入り、そこから一時間も走ると城の北側の平原に出た。
ゾーラの里方面から流れてきてハイラル城の下をくぐる川にかかった石造りの橋が遠くに見える。よく目を凝らすと魔物どもが橋の周辺にうろついている。シルエットからすると半月刀で武装した蜥蜴男のようだ。差し当たりそいつらは後で相手をすることにして、リンクは手近の崖を捜索することにした。右手に折れて、崖沿いに進んでいく。すると、しばらく行くと前方崖際に柵のかかった一段高い道が東に延びているのが見えた。さらに、その手前に丸い巨岩が一つ転がっている。
リンクはミドナに人間に戻してもらい、服と装備を身に着けると、爆弾袋から爆弾を一つ取り出してその岩の下に置いた。導火線に点火し、後ろに下がって待っていると、爆発が起きて岩が割れた。岩の破片を取り除けてみると、紫ルピーが落ちているのが見えた。儲けものだ。ルピーを仕舞うと、今度は柵のかかった道の入り口を探して歩いて西に進んだ。
しばらく行くと、地面が上り勾配になっていき、やがて目的の道の入り口が見えてきた。道に入ってから東に進んでいくと、先ほど岩を爆破した場所の少し先で道は両側を崖で挟まれており、すぐその先が岩で塞がれていた。
リンクはその岩も爆弾で吹き飛ばした。破片の中から黄色ルピーが三つ出てきた。これも貴重な資金として収納した。岩を取り除けて開かれた道は、どうやら南東に伸びているようだ。少し進むと、崖の両側がレンガ造りの壁になった。しかも、左手の崖にはスピナー用のレールがついており、それが斜めに登っていっている。
これは何かありそうだ。リンクはミドナにスピナーを出してもらうと、起動してそのレールに乗せた。たちまち高速移動が始まり、リンクはレンガの壁の上方へと昇っていった。前方を見ると、しかし、壁もレールも途中で切れている。そしてその代わり右手の崖に同じような壁とレールが短い距離ではあるがしつらえられている。
リンクはスピナーのステップを踏んで飛び出し、向こう岸に移った。どうやら左右互い違いに壁とレールが設置されているようだ。次々と壁の間を飛び移っていると、やがてレールが右手の崖から小道をまたぐ岩の庇の上を通って左手の崖に曲がって行った。その先には広い岩棚がある。岩棚の上でスピナーを降りると、北側の壁近くに木の箱が置いてある。近づいて蓋を開けるとオレンジルピーが入っていた。
これで三百ルピー近くを手にした。時刻は昼頃だったが、リンクは今日中には財布が一杯になるまでルピーが集められるかも知れないと意を強くした。岩棚の上から飛び降り、小道を北西に辿って戻ろうとすると、半月刀を提げた蜥蜴兵が向こうから近づいてくる。こちらも盾を下ろし剣を抜くと、相手は素早く走り寄ってきた。リンクは敵が近づくのを待つと、間合いを詰めて盾アタックをぶちかまし、回転斬りで胴をバッサリ払って片付けた。
小道を抜けて再び平原に出ると、今度は城下町の下を抜ける川のほうに歩いていった。以前ミドナが教えてくれたとおり、城の設備の中に高額ルピーが置かれている可能性もある。川の脇で勇者の服からゾーラの服に着替えて水に飛び込むと、城下町方面に流れ込む水門に向けて泳いでいった。
水門は見るからに立派な造りをしている。これは期待できそうだ、とリンクは直感した。水門の前まで行くと、川底に木の柵を厳重に立てた一角が見えた。ミドナに頼んて鉄のブーツを履かせてもらうと、リンクはその柵の内部に降りてみた。
立派な木の箱がある。開けてみると、中身はオレンジルピーだ。リンクは川岸に上がるとルピーを仕舞って勇者の服に着替えた。
「やっと宝探しのコツを掴んだみたいだな」
ミドナが笑う。
「だがザントを倒してしまったあとじゃあお前も金の使い道なんてそうそう思いつかないだろ?その歳からでもちゃんと学校に行って教育を受けたらどうだ?」
「またそれかい?」
リンクは顔をしかめた。
「とにかく城下町にだけは住みたくないよ。それに資金を必要としている人はマロ以外にも沢山いるはずさ」
「やれやれ、結局自分のためには使わんのだな」
ミドナは言った。二人は今度は城下町の南側に行ってみることにした。以前はルピーが見つからなかった場所でも、狼の状態でないと入れない穴があれば話は別だ。ミドナに狼姿に変えてもらうと、リンクは走って街道を南東に向かった。そこから崖に挟まれた小道に入り、しばらく走るとやがて城下町の壁が右手に見えてきた。
東門の前で人間の姿に戻って服を着ると、門をくぐって町に入った。まだ夕刻前の町は賑わっている。中央噴水広場から目抜き通りに折れ、真っすぐ南門に向かった。南門をくぐって外に出たリンクは階段を降りて平原に降りた。辺りを見回し、地形が周囲と異なる場所を探す。
すぐに目に入ったのは西の方にある細長い岩の柱だった。もしかすると、柱の上に岩かあるいは箱があるかも知れない。リンクは岩の柱に向かって歩いていった。遠くから目をやっただけでもその周囲に草が生い茂っているのがよく見えた。いかにも食人植物が出そうだ。
案の定、リンクが近づくとデクババとヘビババが勢いよく顔を出した。剣で散々に切り裂いて大人しくさせると、リンクは岩の柱を見上げた。高さ十五メートルほどもあるが、その南側の面には蔦がびっしりと生えている。だが、頭上に烏たちの群れが飛び回っていた。ゆっくりやっていたのでは目を付けられるかも知れない。
リンクはクローショットを右手に嵌めると、柱の頂上近くの蔦に狙いをつけて撃った。鉤爪がひっかかり、たちまち引き上げられて蔦にしがみつくと、リンクは素早く柱の頂上に這い登った。
案に相違して、頂上に目立ったものは何もない。だが、拳ほどの大きさの石が円形を描くように置いてある。直観で、何かがあると感じたリンクはミドナに狼に変えてもらい、感覚を集中しながらその石の円の中心を探った。
やはり穴がある。前足で地面を掘ると、埋め戻しただけの土がどんどん崩れていく。ほどなく大きな穴が開いた。そこに飛び込んでみると、今日最初に探検したのと同じような地下スペースだった。だが、フロアの真ん中には大きな沼があり、そこに巨大アメンボの化け物が何匹もたむろしていた。
「ひいっ....リンク、あとは頼んだぞ!」
ミドナは悲鳴を上げると、リンクの姿を人間に戻し乱暴に服と装備を着せかけて姿を消した。リンクは慌てて服のボタンを留め、装備のベルトを締めた。化け物アメンボどもがこちらを見咎めて次々と近づいてくる。一匹が飛び掛かってきた。リンクは剣を抜くと回転斬りで一刀のもとに斬り捨てた。次が襲ってくるのをバックステップして躱し、再び回転斬りで真っ二つにした。
次々とやってくる巨大昆虫どもをどうにか片付けると、リンクはミドナを呼んだ。だが返事がない。リンクは溜め息をつくと、洞窟の中を見回した。その時、対岸にあった足場の茂みの中から光が発せられ、しばらくすると大きな木の箱がそこに現れた。同じ仕掛けがあったのだ。
リンクは服のまま水に飛び込み、沼を泳いで渡ると、岸に這い上がって箱の蓋を開けた。中身はオレンジルピーだ。ルピーを財布に仕舞うと、再びミドナに呼びかけた。
「ミドナ、お陰で首尾よくルピーを見つけたよ。虫たちももういないから出てきてくれないか」
彼女は恐る恐るの様子で周囲を見回しながら姿を現した。
「リンク、いかにお前の頼みといえども虫だらけの穴に飛び込むのはお断りだからな。次からは一人でやってくれ」
リンクは重ね重ねミドナに謝ると、前回と同様天井に開いた穴の下にあった丸い平らな岩の上に乗った。思ったとおり、リンクの身体が持ち上げられ、岩柱の上にまで上昇した。無事に外に出ると、リンクは烏たちに絡まれる前に岩柱から飛び降りてその場を離れた。
日が傾き始めている。もうひと頑張りしたらカカリコ村に戻ることにした。周囲と地形の違う場所を目で探すと、今度は東側にある大きな穴に気づいた。おそらく下にはゾーラ川が流れていると思われる穴だ。
歩いて近づくにつれ、水流の音が聞こえてくる。縁から覗き込んでみるとかなりの深さだ。周囲を回ると一、二分ほどかかる巨大な穴だった。だが、南側から覗き込んでみると、壁の中腹に金属の浮き彫りを施した紋章が嵌め込まれているのが見えた。城の施設でもないのに不自然だ。
リンクはクローショットを両手に嵌めた。今見えている紋章に向けてクローショットを撃つと、鉤爪が紋章に引っ掛かりすぐに身体が引き寄せられた。そこから対岸を見ると、下のほうにもう一つ紋章がある。もう片方のクローショットを使ってそこに飛び移ると、対岸の下方に足場が見えた。足場の上には木の箱が置いてある。その上の壁にはまた紋章がついていた。
再びクローショットを撃って足場の上の壁の紋章に飛び移り、そこから足場に降り立った。箱の蓋を開けると、中にはオレンジルピーが入っていた。十分な収穫だ。
リンクはその場でミドナに狼に変身させてもらうと、カカリコ村の泉にワープした。既に日没だ。服を着てマロの店に行くと、ちょうど閉店間際でドン・エビーゾが募金箱を片付けようとしていた。リンクは装備の購入費用を少しだけとっておき、残りを全て募金箱に投げ入れた。礼を述べる長老の甲高い声を背中に礼拝所に戻ると、皆が夕食の食卓についたところだった。
レナードがすぐに立ち上がってリンクのためにシチューをよそってくれた。着替えて食卓についたリンクが今日一日の成果をかいつまんで話すと、ベスが目を輝かせた。
「すごい!リンクってそのうち超大金持ちになっちゃうんじゃない?」
「バカ、そうじゃなくってそのお金を橋を直すために全部マロに渡してるんだろ?」
タロが言った。
「まったくリンクもお人よしだよなあ。マロにいいように使われちゃってさあ」
タロは自分の幼い弟がカカリコ村復興のための崇高な志を抱いているということをいまだに理解できないらしい。
「そんなんじゃないよ。リンクはカカリコ村のためにやってくれてるんだ」
コリンが抗弁した。いつも通りのタロとコリンの言い争いが始まると、イリアが二人を叱って静かにさせた。彼女の状態も順調に回復しているのを見てリンクは安心した。その夜ぐっすりと寝ると、翌朝皆と朝食をとったあと出発した。
バーンズ爆弾工房を訪れ、眠い目をこするバーンズに詫びながら不足してきた爆弾を仕入れると、リンクは泉の傍の物陰に行って狼に変身し、ハイリア湖畔のポータルに飛んだ。すぐに人間の姿に戻り服を着ると、周囲と地形の特徴が異なる場所を探した。
まずは、ポータルの下の広場から南東の崖に向かう木道を渡り、その先にあった梯子を登った。その先の崖の上で狼に変身すると、感覚を研ぎ澄ませて周囲をよく探った。目の前の段差を一つ登り、その上の平地で円形に生えた草むらの中を探っていくと、埋め戻した穴があると感じられた。回数を重ねるうちに慣れてきたのだ。
前足で掘っていくと穴が大きく開いた。中に飛び込んでみると、昨日城下町南で探検したのと同様、中心に沼があり対岸に小さな足場のある地下スペースだった。だが、沼の中にはお世辞にも人畜無害とは言えないような生き物がたむろしていた。いつかゴロン鉱山で出会った、強烈な水鉄砲を吹きかけてくる、太った魚の化け物だ。
リンクはすぐにミドナに人間の姿に戻してもらうと、弓に矢をつがえた。水面から顔を出してこちらに水鉄砲を吹きかけてくる化け物を次々と射殺していく。だが、残り二匹ほどになったところで相手も学習したのか顔を出さなくなった。
リンクはゾーラの服に着替えると、沼を泳いで渡り向こう岸に行った。岸に這い上がった途端、隙ありと見たのかまた生き残りの化け物どもが水面から顔を出して攻撃体勢を取った。リンクは弓を構え両方をすばやく射殺した。
すると、足場の真ん中あたりから光が生じて、大きな木の箱がゆっくりと現れた。箱の蓋を開けると中身はオレンジルピーだ。ルピーを仕舞うと、リンクは泳いで元いた岸に戻り、天井から差す太陽光に照らされた丸い岩の上に立った。身体が自動的に持ち上げられ、リンクはほどなく元の湖畔の崖の上に戻った。
幸先のいいスタートだ。次にリンクは梯子を下りて木道を渡り、ラネールの精霊の泉の洞窟に向かった。参拝者の投げ入れたルピーを頂くのは良心が痛むのでできないが、昔の誰かが遊びで隠したルピーならば気が咎めることはない。
洞窟に入ると、内部の地形をよく見渡した。突き当り上方には、左手にある蔦の生えた崖から登っていけそうな段差がある。そこに近づくには、一旦泉に入って泳ぐ必要がある。ちょうどゾーラの服を着ているのでリンクが正面の張り出しから水に飛び込もうとすると、ミドナが声をかけた。
「おいリンク、ちょっと見て見ろ」
彼女が指さすほうに目を向けると、ちょうど頭上の入り口側の壁に金属の浮き彫りの紋章がついている。
「不自然だと思わないか?」
「まったくその通りだね」
リンクは同意した。両手にクローショットを嵌めながらよくよく周囲を観察すると、他の壁の高所にも天井にも同様の紋章がつけられている。リンクはまずクローショットで頭上の壁の紋章を撃ち、そこに飛び付いた。次に右手の壁の高所についている同じ紋章にクローショットで飛び付くと、天井から下がっている太い木の根についた紋章に届く位置まできた。
天井の紋章に飛び付き、泉の奥のほうの壁を見ると、入り口から見えていた岩棚よりさらにもう一段高い場所にも岩棚があることがわかった。奥に向かってやや右に垂れ下がっている巨大な根にも紋章がついているのを見て、リンクはそれを狙ってクローショットを撃ち飛び移った。新しく見つけた奥の岩棚に近い。そこから見える対岸の壁に紋章がついているのを見つけ、リンクはもう一度クローショットを撃って飛び付き、岩棚の上に降り立った。
岩棚は円形の洞窟の壁に沿って左右に伸びている。まず東のほうに歩いてみると、やや下り坂になった後切れていて、その縁に木の箱が置いてあった。蓋を開けると中はオレンジルピーだ。
「まさかこれって泉に奉納された物じゃないよね?」
リンクは言った。
「お前も迷信家だな。例えそうだとしても何が問題なんだ?」
ミドナは半ば呆れ顔で尋ねた。
「それに持ち主が誰にも触れさせないつもりだったのならわざわざクローショットで渡れるように紋章を残しておくわけはないだろ。お前はラネールを助けたこともあるんだし、そのお前が皆のためにそのルピーを使うんだったら誰も損しないと私は思うがな」
リンクは結局ルピーを財布に仕舞った。念のため、岩棚の反対側にも歩いて行ってみると、同様の木箱が置いてある。蓋を開けるとやはりオレンジルピーが入っていた。これで三百ルピーだ。
リンクは泉に飛び込んで、正面脇にある低くなった岸に這い上がると、洞窟の外に出た。木道を渡ってポータルの下の広場に戻る。そこでトリトリップのことを思い出した。ラッカからルピーをせしめるのも、ミドナの力を借りている自分はズルをしているようでやや気が咎めるが、それでも正当な収入と言えば言えないこともない。
リンクはすぐにトビーの小屋に向かうと、老人に頼んでトリトリップ小屋に打ち上げてもらった。小屋の中に入り、青年に挨拶すると、相手はすっかり元気を取り戻していた。大げさな身振りで挨拶を返してくると、リンクが差し出した二十ルピーを喜んで受け取った。
強そうな鶏を選んで飛び出し台の上に立ち、眼下にある宝島を見据えると、ミドナが耳の中で囁いていた。
「おい、今回は目標を変えよう。ラネールの泉の前にある蛇の像が見えるだろ?」
言われたとおり視線を上げて、遠く対岸の壁に見える泉の洞窟の上を見ると、確かに蛇を模した像がそこから突き出ていた。
「あの上に箱がある。探ってみる価値はあるぞ」
リンクは頷くと、台を蹴って空中に飛び出した。鶏の羽ばたきの揚力で、リンクはゆっくりと下降しながら進んでいった。明るい陽ざしの中空中散歩をするのは気分がいい。近くを涼しい風が通り過ぎていく。湖を半分以上も渡ったところで、リンクが目標を見やると、やや高度が高すぎることがわかった。ミドナに頼んで鉄のブーツを履き、そしてまたすぐ戻すことを繰り返して高度を調節し、やがて向こう岸に近づいてくると、蛇の彫像の上で鶏を手離し、その頭の上に降り立った。
ミドナの言うとおり、大きな木の箱がある。蓋を開けるとオレンジルピーが入っていた。
「言ったとおりだろ?」
「ミドナ、凄いよ。よくわかったね」
「お前が何かに夢中になってる間も私は周囲を観察してるからな」
彼女は言うと、目の前の崖を指さした。
「ほれ、あそこにも紋章があるぞ」
目をやると、少し上のほうの壁に例の紋章がついており、その少し下に小さな足場が突き出ている。クローショットを手に嵌めて紋章を狙い撃ち、飛び移って足場に降りてみると、その足場には何もなかったが、今まで立っていた蛇の彫像のちょうど真東に対になるような彫像がもう一つあり、その上に金属の箱が乗っているのが見えた。しかも、彫像の頭の上にも紋章がついている。
リンクは足場の上から蛇の頭の上の紋章をクローショットで狙って飛び移った。金属の箱の蓋を開けると、紫ルピーが入っている。これも儲けものだ。
リンクは蛇の像から崖の壁を伝って泉の前の地面にまで滑り降りると、そこで食事休憩してからトビーの小屋に行った。もう一度トリトリップ小屋に打ち上げてもらい、青年に料金を払って今度は普通に宝島を目指した。鉄のブーツの脱ぎ履きで高さを調節して宝島の頂上に降り立ち、箱からオレンジルピーをせしめると、その位置から周囲をよく見渡してみた。
リンクはトリトリップ小屋の下の崖に半円形の足場があるのを見つけた。目を凝らすと、円形に草が生えていてそこに鶏がうろついている。もしかすると可能性があるかも知れない。リンクは宝島から降りて浮橋を渡ると、トビーの小屋から打ち上げてもらった。
トリトリップ小屋で青年に料金を支払う。何度も続けての利用に青年も上機嫌だった。あるいはリンクがまた百ルピーを獲得したことに気づいていないのかも知れない。鶏を選んで飛び出し台の上に立つと、リンクは空中に飛び出してすぐに右手に向きを変えた。
下降しながら旋回して、すぐ下の崖を目指した。トリトリップ小屋はハイリア湖に向けて張り出したような岩場の上にある。その岩場が庇のように覆ったその下に目的の足場はあった。鶏の力を借りてそこに辿り着くと、リンクはミドナに狼に変えてもらい、円形に生えた草の中心を探った。やはり土が脆くなっていることに気づくと、前足で掘ってみた。ほどなく大きな穴が開いて、リンクはその下の空間に降り立った。
例によって、中は三十メートル四方ほどの地下スペースで中央に沼があった。対岸には狭い足場がある。地上から見える場所に魔物はいない。だが、沼の水面の下に何かうごめくものがいた。
リンクは人間に戻してもらうと、今度はゾーラの服を着て水の中に入ってみた。水中にいたのは巨大二枚貝の化け物が三匹ほどだった。リンクは突進を喰らわないよう急いで泳ぎ、距離を取ると、ミドナに合図して鉄のブーツを履いて水底に降り立った。
盾を構え剣を抜いて、慎重に化け物どもとの間合いを詰めた。一匹が突進してきたのを盾で受け止め、口のように開いた二枚の貝殻の間に鋭い突きをぶち込んだ。だが残り二匹もこちらに殺到してくる。用心深く盾を掲げ、相手が次々と体当たりを仕掛けてくるのを防ぐと、隙を見て脆弱な貝柱の部分に斬りつけた。やがて損傷を負った化け物たちが力尽きて倒れると、リンクは武装を納めてブーツを履き替え、水面に浮上した。
対岸を見ると、既にそこには立派な木の箱が現れていた。岸に這い登って箱の蓋を開けるとオレンジルピーが入っていた。今日の収穫としては充分だ。リンクは丸い岩の上に立って洞窟の外に出ると、そこから狼に変身してカカリコ村の泉にワープした。
泉の草むらで人間に戻り服を着ると足早にマロの店に向かい、扉を開けるとエビーゾの募金箱に財布の中の全額を投げ入れた。
面喰らって言葉を失ったエビーゾに聞いてみると、必要額はあと少しだという。リンクは今日一日もう少し頑張ってルピーを探してくることにした。だが店を出て通りに戻ると、タロ、コリン、ベスとイリアがこちらに歩いてきているのが見えた。どうしたのか声をかけると、皆知らぬ振りで脇を通り過ぎていく。不思議に思って見ていると、四人が揃って店の中に入っていった。
首を傾げながら礼拝所に戻り、ルダが用意してくれた昼食を頂いていると、マロが礼拝所に入ってきた。走ってきたのか、珍しく息を切らせている。
「リンク、十分な資金が集まったぞ。伝説を作ったな」
マロが声をかけてきた。
「もしかして、さっき皆が店に行ったのは寄付のためだったのかい?」
リンクは手を止めて尋ねた。
「そいつはご想像にお任せするよ。だがお前の貢献が決定打だったのは事実だ。これでこの村も救われるぞ」
マロは答えた。
「お役に立てて何よりだよ。橋の開通工事はいつ始めるんだい?」
「実は工事はもう発注してあるんだ」
リンクが聞くとマロは言った。
「ちょっと待ってくれ。資金はやっと集まったところだろ?」
リンクは驚いた。
「手付けは業者に払った。工事費総額が集まるかは確証がなかったが、もし首尾良くいかなければ僕が店のオーナーから譲り受けた株を担保にして借金するか、あるいは店の命名権を売り出そうかと思ってたんだ」
「マロ、それって‥‥そんなことをしたら」
「ああ、ただじゃ済まなかっただろう。オーナーの怒りを買うかも知れないし、僕もいち店員に降格か、悪くすればクビだ」
淡々と話すマロを見てリンクは意外の念に打たれた。橋を開通するために冷静なマロがそこまでの覚悟を決めていたとは。
「僕には商売しかできない。だが目標のためには僕の能力の範囲内でリスクを取る。それだけさ」
マロは事も無げに言うと、こう続けた。
「リンク、さっきも言ったようにお前は筆頭寄贈者だ。橋の目立つ場所にお前の名を刻んだプレートを貼ることにするよ」
「そんなことはしなくていいよ」
リンクは笑って手を振り打ち消した。マロは店に戻り、リンクは食事を終えると昼寝をした。目を覚ますと、イリアと子供たちが車座になって何事か話し合っていたが、リンクが起き上がるとすぐに黙り込んだ。
「どうしたんだい?」
リンクが尋ねると、タロが弾んだ声で言った。
「今皆で考えてたのさ。橋につけるプレートに何て書くかをさ。それでリンクの.....」
「待ってよ。サプライズにするって話だったのに!」
コリンがその口を押さえつけた。それを見ていたイリアが笑って言った。
「あなたのことをどう書こうかって考えてたのよ。マロが任せてくれるって言ってくれたから」
「僕のことなんて.....」
リンクは困惑した。
「何も書かなくていいのに。ただルピーを集めてきただけさ」
「リンク、どんだけ集めたか自分でも気づいてないだろ。マロが言ってたけど二千ルピー近いってよ!」
そうタロに言われてリンクは気づいた。天空に行く前に幾ばくか高額ルピーを交えて寄付したが、昨日と今日の分も合わせると確かにかなりの額だ。
「トアル村より出でし勇者リンク、ハイラル全土を駆け巡りその冒険により得たルピーを橋の修復のため寄付す。それを記念しこの橋を........」
コリンが紙に書いたものを読み上げると、タロが反対した。
「ダメダメ、そんな古臭いの。もっとわかりやすくしなきゃ。『勇者リンクの建てたリンク橋。みんなも渡って勇者になろう!』」
「そんな子供っぽいのって、ちょっとらしくなくない?」
ベスが口を出し、三人の話し合いは大騒ぎになった。
「ありがとうリンク。でも大変だったでしょ?」
イリアはリンクの傍らに腰かけると微笑みかけてその肩に手を置いた。
「マロに乗せられちゃってね、ついつい」
リンクは苦笑いして頭を掻いた。昨日魔物に体当たりされた脇腹の打撲が今更のように痛み始めた。
「結局限界まで頑張っちゃうのがあなたなのね」
イリアがリンクの背中をさする。リンクはおどけて応えた。
「どうも世間では貧乏性って言うらしいよ、僕みたいなのって」
「でも、これから先もずっとあなたの冒険がいつもこれくらいで済んでくれたら、私も安心だわ」
イリアがそう言うのを聞いてリンクは激しく胸が痛んだ。自分はいずれ影の世界に向けて出発しなければならない。最後にして最大の敵、ザントを倒すために。
「イリア、聞いてほしいんだ」
リンクは彼女に向き直ると口を開いた。
「僕はもう一度だけ冒険に出なきゃならない。今度はもっと遠い場所に」
イリアはそれを聞いてリンクの背をさする手を止めた。
「それがどこかは言えない。うまく言葉にできないんだ。だけど一つ約束できるのは....それは本当に最後の戦いだってことなんだ」
イリアは目を伏せると少し黙っていた。
「あなたが本当にあの勇者だってことの意味、最近は私もよく考えるようになったわ。それはつまり....」
彼女は言葉を探しながらリンクを見た。
「それはつまり、あなたはもう私だけのものでも、トアル村の皆だけのものでもないってこと。それは私もよく理解してるつもりよ。でも...でも」
イリアの両目からみるみるうちに涙が溢れ出てきた。
「怖くて怖くて仕方がないの。もしも...もしもあなたを失うことになったらって」
彼女は嗚咽し言葉を詰まらせながらも言った。
「私の心がどれだけあなたを頼りにしてきたか、今さらながら気づいたわ。本当はあなたを応援して支えてあげなきゃならないのに」
「いいんだよイリア」
リンクはイリアの肩を抱き寄せた。
「君がそこにいてくれるだけで僕には支えになるんだ。たとえ何もしていなくても」
「本当に?」
イリアは泣きぬれた目でリンクを見上げた。
「本当さ」
リンクは力強く答えた。そして、それは本当だった。リンクは固く決心した。イリアのためにも、最後の戦いに勝ち、そして生きて彼女のもとに戻ってくる。リンクの心に恐れや迷いはもはやなかった。
その夜皆で夕食を囲もうとしているとき、雰囲気を察したのか子供たちも言葉少なだった。レナードも何かを感じ取ったようだ。祭司は食事の前の祈りでリンクの無事と武運を祈る長い祈りをした。普段なら、食事の前の祈りの最中は今か今かと薄目を開けて目の前の食卓を見てしまうタロさえも、真剣に祈っていた。
イリアはリンクの前で泣くことでかえって心が落ち着いたようだ。穏やかな表情で子供たちに給仕したりルダと談笑している様子を見て、リンクもほっと安堵した。その夜、子供たちの枕元で童話がわりに今までの冒険での経験談をいくつか話してやった。なかなか寝付かなかったタロとコリンがやっと寝ると、リンクは自分も横になった。いよいよ明日は出発する。天空以上の危険になると思われたが、心は澄み切っていた。
翌朝起きると、リンクは朝食後イリアとルダが用意してくれた食料を受け取り礼拝所から出た。レナードが肩に手を置いて祈ると、リンクは皆に見送られながら平原に抜ける道に出て、そこで狼に変身した。すぐにミドナがワープを開始した。
行き先は処刑場の鏡の間だ。鏡の間のポータルの下に降り立つと、ミドナが人間の姿に戻してくれた。服と装備を身に着けていると、彼女は既に鏡の修復に取り掛かっていた。
リンクが見ていると、ミドナの魔法の力で三つの鏡の破片がしばらく鏡の台座の上で宙に浮いていたが、やがて一つひとつがあるべき場所に嵌っていった。四つの部分が集まると、不足している部分は全く無いようだ。割れ目こそ残っているが、集めてきた破片は真円形の鏡をぴったりと構成した。その鏡は歳を経たものではあったが、黒く光り輝いており、妖しい美しさが漂っていた。
鏡が完成すると、それは途端に不思議な光線を発し始めた。外壁沿いに立つ背の高い円柱から伸びる鎖でちょうど向かい側に吊るされた巨大な岩盤にその光線が当たると、太い鎖がまるで氷が溶けるかのように消滅し、岩盤が砂地に落ちて突き刺さった。
鎖がなくなると、鏡から発した光線が岩盤に直接照射され、幾重にも重なった円形の文様がその黒い表面に浮かび上がってきた。その文様は一層づつが互い違いに回転している。覗き込むと、目の錯覚なのか、岩盤に穴が開いていてその奥に吸い込まれるような気がしてきた。
「驚いたな。鏡の中に入るのかと思ってたけど実際は違ったんだね」
リンクは鏡からの光線を受けて輝く岩盤を見上げながら言った。
「鏡そのものは投射装置さ。鏡から発生した光線が岩盤で止まり両者の間に転送場を作り出しているんだ」
ミドナが答えた。
「行先は分かってるのかい?」
リンクは尋ねた。
「おそらく抜けた先は王宮だ。王宮は太古の昔から位置が変わっていない」
「そこにザントがいるんだね」
リンクが言うとミドナは前を向いて呟いた。
「奴は我が父王の居城をそのまま占拠したんだ。我が父を処刑したうえでな」
それを聞いてリンクは言葉が出なかった。しばらくの沈黙の跡、ミドナは突然尋ねた。
「リンク、影の世界ってどんなところだと思う?」
ミドナは鏡の破片の合わせ目に手を当てている。
「さあ...わからないよ。想像もつかない」
リンクが答えるとミドナは言った。
「あの世なんて言う奴もいたが、本当はこの世界の黄昏時みたいに綺麗な場所なんだ」
彼女は下を向くと続けた。
「その場所でほとんどの人間は長い間穏やかな心で暮らしてきたんだ。だがあいつの邪悪な力で全てが変わってしまった」
「全ては我らの過ちなり」
後ろから声がして、リンクとミドナは驚いて振り向いた。
そこには以前も現れた五人の賢者の幻影があった。今は柱の上ではなく、リンクたちの背後の砂地に立っていた。
「賢者としての力を過信し邪悪なる魔力を処断せし我らの浅はかさを悔いるものなり」
賢者たちは揃って頭を下げた。
「黄昏の姫よ、どうか我らの謝罪を受けられたし」
賢者の一人が頭を上げてそう呼びかけた。だがミドナは下を向いたまま呟いた。
「本来私にそう呼ばれる資格はないんだ。民を統べる身でありながら逃げ出したんだから」
「逃げ出したって....」
リンクは口を挟んだ。
「ミドナ、それは仕方のないことだったんじゃないのか?残っていたら君は殺されていたかも知れない」
「リンク、あいつが反乱して王宮を乗っ取った後何が起こったか知りたいか?」
ミドナは聞いてきた。
「奴に反対していた議員が何十人も殺された。その他の大勢は洗脳され奴の手駒になった。ところが奴は私には手をかけなかったんだ」
彼女は顔を歪めて首を振った。
「私を自らの妻にするつもりだったからだ。私は全力で拒否した。それで奴は私に呪いをかけ、このふためと見られないような醜い姿に変えたんだ」
リンクも目を伏せた。自分自身がどれほど苦しい試練を通ってきたとしても、ミドナのこの苦しみには到底及ばないと思えた。
「奴は私に呪いをかけるだけで殺しはしなかった。奴は今も私が心を変えて奴になびくかも知れないと思って待っているんだ。それを思うと私は吐き気がして眠れないほどさ」
ミドナは溜め息をつくと続けた。
「私は耐えられなかったんだ。この敗北と屈辱に。だから着の身着のままこっちの世界に逃げて来た。そしてお前に会ったというわけだ」
頭の中の記憶を手繰るためか、彼女は少し黙っていたが、やがて口を開いた。
「私の世界では王国の危機を救う者は神獣の姿をとってやってくると言い伝えられていた。だからお前を見たとき私は国を取り戻すためどうにかお前を利用してやろうと思った。いや、私は実際お前を利用したんだ」
「利用したなんて」
リンクは首を振った。
「僕は君の助けがなければ到底子供たちやイリアを見つけられなかっただろう。だからお互い様じゃないか。それに何というか....」
少し言葉を探したあとリンクは言った。
「僕は君に不満を持ったとしても最初だけだった。すぐに分かったよ。君はとても公平なひとだって。だからこれほど君を信頼することができたんだ」
「私をそういうふうに変えたのはお前やゼルダ姫だよ」
ミドナは少し微笑んだ。
「お前もゼルダも、自分のことより他人のことばかりいつも考えているだろ?だから私も今は本気で思ってる。私の民も、お前たちの民も両方救いたいって」
「だとしたら...それが本当の君なんだよ、きっと」
リンクも微笑んだ。
「まったくわかった風なことを」
ミドナは少し苦笑いすると、顔を上げて岩盤に映された文様を見ながらしばらく黙っていた。
「よし、そろそろ行こうか」
やがて彼女が言うと、リンクも頷いた。二人は岩盤のほうに進み出た。不思議なことに、鏡の台座からはいつの間にか半透明の階段が岩盤のほうに向かって伸びている。その上に登ると、やはり半透明で円形の足場がそこにできている。リンクが足場に乗ると、周囲の音が遮断され静かになった。その直後に、その場に静止していながら高速で進んでいるような風の音が聞こえ始めた。
リンクは自分の身体がバラバラになっていくような錯覚を覚えた。ミドナのワープで慣れているとはいえやはり妙な気分だ。ワープ用のポータルに吸い込まれるように、岩盤に映された模様に吸い込まれていっているのだ。
何秒かすると、自分が完全にそこに吸収されていったのがわかった。これから影の世界に移されるのだ。